東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~ 作:ディーン・グローリー
《1》
「――――」
無残に砕かれ、引き裂かれた大地。最早それは大地と言っていいかすら分からないくらい、破壊の限りを尽くされた戦場――。
周囲の木々は力の波に跡形もなく消滅し、天に浮かぶ雲さえも消し去っている。
場に爛れる並外れた二つの霊力が、互いを倒さんと動き回る。休むこともなく、逡巡すら一切ない戦慄を覚える攻防。力と力がぶつかり合うごとに拮抗した衝撃波を生み、空間が大きく揺らぐ。
たった二人が起こした力の余波だけで世界の一部が崩壊しようとしていた。
――瞬間、一際大きい轟音と爆風が周囲を震撼させる。
爆風で破壊尽くされた大地が吹っ飛び、粉塵が否応なく舞う。
そんな状況の中、渦中の中心である一人の男が、粉塵を吹き飛ばし現れる。
「……どうした。こんなもんじゃねぇだろ。……出てこいよ!」
漆黒の衣を身に纏い、右手には同じく漆黒の刀が形成された武具を携えて、余裕の態度で、弱みなど見せることなく吠えた。
平面だった大地は、もはや様々な形状変形している。
そんな荒れ果てた大地が蔓延る中、凄まじい轟音が轟いた。
放たれたのは、赤い閃光。
破壊された大地を尚抉りながら、破壊の光が迫る。この閃光は、例え山だろうが何だろうが問題なく破壊し尽くす威力を有しているだろう。
並みの者が挑めるものではない。
しかし黒衣の男は――
右腕に有している刀を構え、そこに高速で霊力を込め編み出す。
神の御業と思わせる力を手に、破壊の閃光を切り裂いた。
赤い閃光は容赦なく散布し、そのまま綺麗に儚く消えていく。黒衣の男の前に、“この程度の力では倒せない”。
しかし、それを常識の範囲で、至極当然の域で理解していたもう一人の男は、黒衣の男を前に全く慄きを感じていなかった。
吹き飛ばされ、岩のようにそびえ立つ大地に足を置き、こちらを見下ろす男は、何の痛痒も受けていない。
常人、いや並みの妖怪ですら場に流れる圧力だけで魂が覆滅しかねない中、口元を弦月の形に歪めている。
笑っている。嘲笑っているのだ。
その程度かと、お前の力はそんなものかよと、享楽を味わっているかのように……。
“幾星霜を経ての、再度行われた大きな戦い”に、彼らは彼らなりに全力を出し、尚且つ心のどこかで戦いを楽しんでいる。
どちらが先に倒れてもおかしくない、一歩のミスが全てを傾かせるような緊張極まった中、黒衣の男は呟く。
「そうか、お前はお前なりの努力をしたって訳かよ」
自身の今までの研鑽が無駄に終わり、全てが振り出しに戻っても男は諦めなかった。
黒衣の男はまるで最低限の敬意を評すように、霊力を一気に解放し、構える。
対する男も帯刀している刀を引き抜き、切っ先を黒衣の男に向けた。
この戦いは、ある女の遊戯感覚のつもりで起こった、過去の因縁による戦い。互は互いに戦わなければいけない理由と矜持、そして約束がある。
なぜなら、それは……――
「■■■■■ ■■■■■■■■!」
轟音と共に両者が最後の激突を果たす。
弾幕、剣戟、スペル、霊圧、体術と、あらゆる攻撃手段と防御手段、反撃手段を瞬時に演算し練りこんだ卓越した闘争。共に奥義を尽くし、幻想郷が二人の力で侵食していく、誰も介入できない域で絡み合いながら喰らい合う。
音速を遥かに超え、世界の理すらも半分無視した異質かつ凄惨な戰。
刀と刀が軋るだけで、幻想郷に衝撃が走り抜ける。大空が二つに割れ、烈火怒涛の攻防が巻き起こっている。
その光景を危険と承知して間近で見ている、一人の少女。
彼女も彼女で並外れた力を持つが、流石の少女もこの光景には呆然とするしかなかった。呆然とし、無責任にとる。
そん中で彼女は、絞り出すかのように呟いた。
「……これが、あいつの正真な本気。なら――勝ちなさいよ。負けることは許さないから」
一点の信念を胸に、彼女は言ったのだった。
*
時は春――
紅霧異変から、既に半年以上の時間が過ぎ去っていた。
特に大きな異変もあれ以降なく(小規模な異変はあった)、勿論のこと博麗大結界に及ぼされている異変も解決の糸口はたっていない。
その間、一護は弾幕やスペルの練度のみを上げ一際強くたくましくなっていた。
春と言えば暖かく、桜の花びらが舞う美しい季節だろう。
寒い寒い冬を乗り越えた、みんなへのご褒美のような季節感だ。
故にそんな季節に心躍るはずだった……
外は白い吹雪が休むことなく吹雪いている。
外に出て数分突っ立ていたら間違いなく、人間雪だるまが完成してしまえるほどの吹雪だ。吹雪の中の吹雪、猛吹雪レベル。
黒崎一護はそんな光景を、縁側から眺めていた。
冷風が一護の肌を刺すような痛みで襲い、体温を急激に下げていく。普通に、とんでもなく寒い凄まじい異常気象。
一護の背後の居間では、博麗霊夢が炬燵に入り暖まっている。
「……なぁ、もう春だろ? いくら何でもおかしくねぇか」
吹雪く外を見ながら、一護が言った。
おかしいなんてレベルではなく、これは最早異変ととっても良いレベルだ。
今の季節は春。
この吹雪は季節外れにしては長続きすぎる。冬から春真っ盛りになってまで雪が降り続いているものなのだろうか。
「知らないわよ。それより、早くそこ閉めてよ、寒いじゃない」
霊夢が縁側と部屋の間の襖を指差す。
本当、霊夢は寒いのが苦手みたいだ。
冬に魔理沙達と雪合戦した時やチルノたちとかまくらを作った時も、霊夢だけ参加しなかった。寒いのが嫌いどころか畏怖すらしている。いや、そこまではしていないか。
一護は部屋に戻り、襖を閉める。
「これって異変じゃねぇのか霊夢?」
「多分ね。こんな異常気象は今までになかったから」
それに対し、さも当然の様に言い切る霊夢。半分ほど他人事に近い対応だ。
「だったら、異変の解決をしないといけねぇんじゃねぇのか?」
「そうね~、そうよね~」
霊夢のやる気が全く出ない。炬燵という魔性のアイテムを出した途端、この様である。
一護はため息をつき、
「ったく、こうなったら俺一人で……」
もしこれが異変なら、紅霧異変レベルの大異変だろう。放っておくわけにはいかない。
故に一護は一人でも行動に出ようと思った。
一護が襖を開け、異変解決に一人で向かおうとした瞬間だった。
――まるで狙ったようなタイミングで魔理沙が現れたのだ。
「よぉ一護。霊夢いるか?」
「あ、ああ」
魔理沙が服や帽子に積もらせた雪を落としながら部屋に入って行った。
お陰で部屋なんかにも落とされた。
誰が後始末すると思ってんだ、と思う一護。
「ちょっと魔理沙。部屋に雪落とさないでくれる」
「おっと悪いな。それより霊夢、私が言えた義理じゃないけど、炬燵を出してからずっと入りっぱなしじゃないか?」
「しょうがないじゃない。炬燵が私をここから出してくれないんだもの」
「炬燵じゃなくて、霊夢がだろ? そんなことより霊夢。これを見てくれ!」
魔理沙がテーブルの上に何かをバンッ! と叩きつけた。
一護と霊夢は魔理沙の叩きつけた物を見る。
「……桜の花びら?」
一護がそれを見て言った。
そこには一枚のピンク色の桜の花びらがあった。
「これが何よ?」
霊夢が桜の花びらを摘みながら聞いた。
「鈍いな霊夢。こんな雪が降り続いている中、どうして桜の花があるんだ?」
「……あ、そういうことね」
春になっても冬の季節と全く変わらないのに、春に咲く桜の花びらが存在する訳がない。
一護もそれを物珍しそうに見ながら口を開く。
「どこで見つけたんだ、それ?」
「数十分前に魔法の森の上空で見つけたんだ。これだけじゃないぜ。他にも沢山の桜の花びらが、雪と一緒に吹かれてたんだ」
「どういう事だよ? 何で桜の花びらが」
「そこまでは分からないから、霊夢に相談に来たんだぜ」
と、霊夢が炬燵から遂に出て、立ち上がった。
「仕方ないわね。それじゃあ、この異変の解決に行こうかしら」
ようやく霊夢がやる気になってくれた。
恐らくあるはずもない桜の花びらを見たことによって、完全に異変という確証を得たからだろう。つまり確証を得るまで動く気がなかったと言うことである。炬燵は恐ろしい。
「ああ。その言葉を待ってたぜ霊夢」
「私も行くぜ。この寒さには迷惑してるからな」
こうして三人で異変解決に向かうことになった。
*
三人は止むことなく吹雪く外に出た。
冷たい風が顔を刺激する。
霊夢と魔理沙の服装はあまり変わらない(マフラーを付けている程度)が、一護は服の上に青いダウンジャケット(香霖堂で購入)を着ている。
「私の勘で行くわよ。良いわね?」
霊夢の勘……
あまりそういうのを頼りに任せたくないが、紅霧異変の際の貢献があるので渋々承知した。
いやそもそも、霊夢の勘でいかずとも桜がどこから舞っているかを探し出せば良いのではないだろうかと一護は思った。
しかしいちいち言わない。言わずとも把握していると思ったからだ。
「桜に雪、か。なぁなぁ、これってよく考えたらある意味、乙じゃないか。どこか花見とは一風違った感じがしていいと思うぜ」
「あら、確かにそうね。せっかくだし一杯やってから行こうかしらね」
「いやいや、なに考えてんだよ。二次会みたいなノリで異変解決しようとしてんじゃねえ」
一護が二人を制止する。
「一護は酒を飲まないから知らないと思うけど、飲むと体が温まるんだぜ」
「熱燗がちょうどいいわね」
「知らねえよ。霊夢まで魔理沙に合わせようとしてんじゃねえ」
「一護も飲んでみろよ。外の世界の常識を、幻想郷に持ち込んだらいけないぜ」
「……構わねえが、それは異変を解決してからだ」
「構わないのね」
などと言うやり取りをしつつ、出発しようとした時だった。
「私も御一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
不意に上空から声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声音に、三人はそちらを見るより先に主が誰なのかを瞬時に理解する。
「……咲夜」
一護が言った。
そこには紅魔館のメイド長――十六夜 咲夜がいた。
服装はいつものメイド服で変わらないが、首元にはマフラーを巻いてる。
咲夜はゆっくりと一護の前に着地する。その際、角度を的確に調節したのか、スカートの中は全く見えないようにされていた。
「あら、お金持ち館のメイド様が何しに来たの?」
「言ったでしょ。私も御一緒させて頂くと。構わないでしょうか皆様?」
それを聞いて霊夢がちょっと悩んだ末に、
「足手まといにならなければいいわよ。ただし足手まといになると決めたら、途中帰還、もしくは邪魔者と言うことで敵とみなすかもしれないから、そこらへんよろしくね」
「構いません。それに足手まといになど、なりませんので」
何とも危険性がたっぷりと孕んだ条件で同行を許可した。
「でも何で咲夜が?」
「このしつこく長続きする冬のせいで色々困っているのよ。結果、お嬢様の命により参ったということです」
「けどレミリアは、太陽が出ていないから嬉しそうにしそうだけどな」
「お嬢様も最初は太陽の光が出ていないから喜んでいたのだけど、ここまで冬が続けば流石のお嬢様も堪忍袋の緒が切れまして。この雪景色と寒さには飽きました、てね。そこでそろそろ博麗が動き出すと思うから、手伝って上げなさいとお嬢様の命で参った次第です」
「また随分な理由で繰り出されたな」
一護の疑問に答えてくれた咲夜は続ける。
「実際、この雪と寒さが続けば屋敷を管理するものとして大変なのよ。配管が凍結したり、凍害による痛みなんかね。他にもメイドたちが体調を崩したり怪我をしたりなんかも。全くもう、私一人では対応しきれません」
と愚痴がこぼれ始めた。
そこは一護もどこか同情していた。この冬、霊夢に色々とお願いという名の強制雪かきや清掃をさせられたものである。
「失礼、少し口が過ぎましたね。忘れていただけると幸いです」
「はは、忘れられないぜ。今の咲夜、少し本音が垣間見えたぜ。色々と腹に溜まってそうだな。景気づけに一杯やろうぜ」
「おい魔理沙、お前は誰彼構わず飲ませようとするんじゃねえぞ」
「ホットワインを頂きたいわね」
「あんたも飲もうとしてんじゃねえよ。あと、うちにそんな洒落たものはねえ。あっても安い清酒くらいだ」
「ちょっと一護、あんたも余計なこと言わないで」
一護はふとここで考えを出す。
――やはり、みんな困っているようだ。いや当たり前か。困っていないものなんて、冬好きの人間か、冬真っ盛りに活発性を帯びる妖怪くらいだろう。
だったら自然に犯人の構図が出来てくる。
恐らく、根拠が微妙な確信になるが、犯人は冬の妖怪。
しかしそれだと、なぜ桜の花びらがこんな冬の季節――現在は春のはずだが――に吹雪と共に舞っているのかが気になる。まさに文字通りな桜吹雪だ。
そこらへんを鑑みると、冬の妖怪と言う線が薄れてくる。
故に今回の異変は、中々大きい異変になるだろう。
ただの予感になるが。
「今回の異変も一筋縄じゃいかないわね」
と、霊夢が呟くように言った。
やはり、いやこの際、一筋縄でいかないことは明白だ。
この幻想郷中を轟かすような異変は、紅霧異変ぶりだから。
しかし、こういう時のために、この春まで一護はまた強くなった。
紅霧異変の時みたいに仲間を傷つけさせない為に。
「行くわよ、みんな」
霊夢がそういうと、四人は異変解決に向かった。