東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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第18斬【冬の妖怪】

《1》

 

 ――現在、幻想郷では春なのに雪が降り続ける異常気象……否、異変が発生している。

 勿論、気温も春の暖かい気温ではなく、冬の冷えた気温である。大地も真っ白な雪に染められ、空も同様に白い雲で覆われている。

 冬眠から覚める動物たちも、春に向けての畑仕事も全てが遅滞停滞してしまう。迷惑も甚だしいとは、このことだ。

 紅霧異変並の大異変に部類されるだろう。

 黒崎一護、博麗霊夢、霧雨魔理沙、十六夜咲夜は、その大異変を解決すべく、この雪が降る寒いなか調査解決に向かっているのだ。

 

 四人は取りあえず霊夢の勘を頼り――と言うより、花びらが飛んでくる方向――に進んでいると、桜の花びらがちらほらと見え出した。

 このような冬が続く季節に、桜の花びらが雪と一緒に舞っているのは確実におかしい。故に何らかの異変が関与しているとは、言うまでもない事実だ。

 

「本当に桜の花びらが雪と混じってやがる」

 

 少し半信半疑だった一護は、改めて桜の花びらを見て信用する。模造品でも何でもない、正真正銘の桜の花びらだ。

 

「この異変を起こしている黒幕を見つけ出すには、この桜の花びらを辿るのが一番の近道かもしれませんね」

 

 咲夜が言う。

 分かりきっていると言えば、分かりきっていることだが、もしかしたら特殊な場所で育った桜が風に揺れ、花びらを雪と共に撒き散らしているだけかもしれない。

 ここは幻想郷。冬に咲く桜があっても不思議ではない。

 

「言うまでもないわよ。それに若干、暖かくもなってきてるわ」

 

 霊夢が咲夜の言葉に答える。

 前述のとおり、ただ桜の花びらが舞っているだけなら、幻想郷特有の常識の通じない桜だけで済むが、しかし気温まで上がっているとなると、ただ事ではないだろう。

 

「早くこの異変を解決して、花見で一杯やりたいぜ」

 

 魔理沙が急におっさんみたいな事を言い出した。

 でもまぁ、桜の木の下で食べる弁当は美味しいなと思う一護。お酒は飲めないが、みんなで桜を肴に盛り上がる、悪くはない。

 だから早く、こんな異変を解決したいと思う一同。

 

「その時は私達も是非お誘いください。きっとお嬢様達も喜びます」

「ああ、良いぜ。多い方が盛り上がるからな」

 

 そんな話をしている時だった。

 

「氷の妖怪チルノの登場だー!」

 

 予想外の妖精が、一護たちの目の前に現れた。

 何の前兆も、タイミングすら無視した、酷く呆気にとられる瞬間である。

 

「チルノか」

「よぉチルノ。この冬の季節はよく会うな。やっぱ雪が好きかー?」

 

 急な登場にも魔理沙は気兼ねなく挨拶する。

 対する霊夢は平静を装い、

 

「……それで、何しに来たのかしら? 私たちはあなたと違って暇じゃないのよ」

 

 霊夢が睨みつけて聞く。

 この二人、正直あまり仲良くない。

 ていうか、霊夢が一方的に嫌っているだけで、チルノは別に霊夢のことを嫌っている訳ではない。よって空気を読めないチルノは躊躇いなく、

 

「一護と弾幕ごっこをしに来たの! 今度こそ一護に勝って私が幻想郷最強の称号を取り戻すのよ!」

「またかよ」

 

 一護がため息混じりに呟く。

 冬の間も、よくこういう口実でチルノと弾幕ごっこをするはめになった。まるで負けず嫌いの子供を相手にするかのように。

 弾幕ごっこの結果は全て一護の全勝。清々しいくらいの負けなし。

 もう、やり飽きたくらいのレベルだ。

 

「一護、こんな奴無視してとっとと行くわよ」

 

 霊夢がそう促す。

 そうしたいのは山々だが、生憎と簡単に逃げれる相手ではない。そのことを理解している一護は仕方なしに、

 

「悪い霊夢。先に行っててくれ。俺はチルノと弾幕ごっこをしてから行く」

「はぁ? 何言ってるのよ、今は異変の解決中なのよ。こんなとこで寄り道してる暇あると思ってんの?」

 

 霊夢が反論する。

 確かに、異変の解決中に遊びで弾幕ごっこをするのは、あまり良くない。

 

「別に良いんじゃないのか。一護の言うとおりにさせて」

 

 魔理沙が言う。

 

「だってよ、どうせ無視してもず~と付いてくるぜ。だったら一護と弾幕ごっこをさせた方が良いだろ。もしこの異変を起こしてる主犯と戦ってる最中に、あいつに割り込まれたら、もっと最悪だぜ」

「私も同感ですわ」

 

 咲夜も魔理沙の意見には理に適っていると思い、賛同してくれた。

 3対1。ぐうの音も出ない霊夢。

 そして呆れたかのように言葉を吐き捨てる。

 

「早く終わらせて来るのよ一護」

「ああ」

 

 そして霊夢たちは一護を残し、先へと進んだ。

 

   *

 

「それにしても早く敵さんに登場してもらいたいぜ」

 

 一護と別れて数分後。

 一向に敵の影もなにも現れないため、魔理沙が退屈そうにボヤいた。

 

「そんな簡単に現れたら、異変の解決なんて何も苦労しないわよ。面倒だけど、時間をかけて解決するしかないの」

 

 霊夢が答える。

 今まで数々の異変を対処してきた霊夢だからこそ言えることである。

 

「お嬢様の起こした異変を解決した博麗の巫女です。期待していますよ、その手腕に。まずは異変を起こした黒幕を見つけ出し、そして退治するまでが仕事ですもんね。言うのは簡単ですが、成すのは相当に困難かと思います。是非ともお近くで拝見できればと願っております」

「心配しなくても解決してあげるわよ」

 

 咲夜の物言いに、霊夢は毅然と答えた。

 

「黒幕を炙り出して、私の手でとっとと解決に導いてあげるわ。まぁ見つけるのに多少時間はかかると思うけどね。敵方も馬鹿じゃないと思うから」

 

 霊夢が言った途端だった。

 

「くろまく~」

 

 三人の前にとんでもない発言と共に一人の女性が現れた。

 女性は薄紫のショートボブに白いターバンのようなものを頭に巻いている。

 左胸あたりに首から腰までの白いラインが走っており、そこに氷をかたどったようなアクセサリーをつけている。

 下はロングスカートにエプロンらしきものを着用。首には白いマフラーを巻いている。

 見た目は雪が大好きそうな女性である。

 

「……あなた、今なんて言ったの?」

「え、黒幕だけど」

 

 平然と答える女性。

 それを聞いた魔理沙が横にいる咲夜に言う。

 

「黒幕がこんな簡単に出てきて良いと思うか?」

「ダメですね。黒幕がこんなに早く出てきては。小説や漫画だったら一瞬で完結してしまいますよ。いえそれよりも、先の博麗の巫女のお言葉に誤りがあることになります」

「私は別に構わないし、早く黒幕が現れるほうが好みだわ。だから一瞬で終わらせるわね」

 

 霊夢がお札を両手に持ち、臨戦態勢に入る。

 

「ちょっと待って! 私は黒幕だけど普通よ」

 

 女性が焦りながら、よく分からない事を言う。

 確かに通りすがり様に攻撃されるのなど、たまったものじゃない。

 

「普通の黒幕ね。だったら普通に退治させてもらうわ」

 

 普通の黒幕を普通に退治する事となった。まぁ霊夢の仕事はあくまで妖怪退治専門だ。しかし何も特に悪さをしていない妖怪を退治して良いものだろうか。

 そして霊夢が攻撃を仕掛けようとする。

 だが、それを咲夜が霊夢の前に立ち、攻撃を遮った。

 

「ちょっと、何のつもり?」

「いえ、ただこの妖怪の相手は私が行いたいと思いまして」

「あら、どうして?」

「最近、メイド業以外で体を動かしていないものでして。本当の黒幕と相対する前に、戦いの準備運動がしたく思います。ご納得いただけますか?」

 

 たしかに咲夜は紅魔館で従者の仕事をしているだけで、戦いなどと言った行為はあまり行わない。

 攻めてくる敵がいないからだ。例えいたとしても美鈴が基本的に片付ける。

 だから、肩慣らしに戦いたいのだ。

 

「分かったわ。その代わり早く終わらせてね」

「ええ。承知致しました」

 

 咲夜はそういうと、ゆっくり女性に近づく。

 そして、咲夜は手品のように右手の指の間から三本のナイフを出し、構える。

 

「完全で瀟洒な従者 十六夜咲夜です。強引で申し訳ありませんが、弾幕ごっこを申し込むわ」

「受けて立つわ。暇だったしね。私は冬の忘れ物 レティ・ホワイトロックよ」

 

 二人は名乗り、そして弾幕ごっこが始まった。

 その頃、一護もチルノと弾幕ごっこの相手をしていたのであった。

 

 

《2》

 

「霜符『フロストコラムス』!」

 

 氷の妖怪、チルノがスペルを唱える。

 ゆるく遅い弾幕と、鋭く速い弾幕が混合になりながら四方八方に放たれた。遅い弾幕と速い弾幕を連射することで、相手の避けるタイミングや弾幕との距離感を朦朧とさせる。

 だが、こんなものは知り尽くしたと言わんばかりに一護は弾幕で対応するでもなく避け続ける。

 

「もぉ~、何で全然当たらないのよ!?」

 

 チルノが悔しそうに叫ぶ。

 冬の間によくチルノと弾幕ごっこをしたのだ。

 チルノのスペルはもう全て見飽きた上、嫌でも簡単に避けられるようになった。だから当たることなど皆無に等しい。

 

「当たるかよバカ。何回見てると思ってんだよ」

 

 チルノに聞こえないように呟く一護。

 チルノの攻撃よりもどちらかと言うと、この吹雪による寒さの方が自分の体力を減らしていっている。

 

「なぁそろそろ終わりにしねぇかチルノ?」

「まだまだよ! 本番はこれからなんだから!!」

 

 当分終わりそうにない。

 一護は溜め息をつく。

 チルノはスペルカードを取り出しスペルを唱えた。

 

「凍符『パーフェクトフリーズ』!」

 

 チルノから無数の弾幕が放たれる。

 弾幕全てが速く、そして一護の周囲全体を覆うかのように凍てついた。これは相手の行動範囲を制限するスペルだ。

 

「このパターンも飽きたな」

 

 一護が呆れ半分でいる中、チルノは千載一遇のチャンスとでも言いたげな瞳でスペルを大仰に唱えた。

 

「氷符『アイシクルマシンガン』!」

 

 チルノから身動きがとれない一護に向けて、さながら機関銃を発射するかのように連続して氷柱が襲いかかる。

 一護は冷静に、スペルを唱える。

 

「黒符『月霊幻幕』」

 

 一護の周りに三日月状の弾幕が展開される。

 その弾幕が周囲を囲うチルノの弾幕をかき消していき、迫る氷柱への回避ポイントを作り出す。

 よって一護は簡単にチルノの弾幕を避け切った。

 

「この程度かよ、チルノ」

「そんな訳ないでしょ! こっからが、あたいの本気よ!」

「そのセリフも、もう聞き飽きたな」

 

   *

 

 その頃、咲夜も弾幕ごっこをしていた。

 相手もチルノと同じ氷の妖怪、レティ。しかしチルノより強いのは明白だ。宿っている妖力も、そしてスペルも別格である。

 

「寒符『リンガリングコールド』!」

 

 レティがスペルを唱える。

 その瞬間、レティから大量の弾幕がばら撒かれ、咲夜狙いの中弾が発射された。大量の弾幕が撹乱し、目当ての中型の弾幕で射止める、よくあるスペルだ。

 咲夜もスペルで応戦する。

 

「幻符『インディスクリミネイト』」

 

 咲夜から無数のナイフがばら撒かれた。

 無作法に飛び交うナイフは、レティの放った弾幕を相殺していく。

 

「ほぉほぉ、やるわねぇ」

「お褒めに預かり光栄です。あなたも悪くない弾幕です。では次は私から参ります。幻符『殺人ドール』」

 

 咲夜が新たなスペルを唱える。

 無数のナイフが回転しながら、レティに襲い掛かった。

 

「白符『アンデュレイションレイ』!」

 

 それを見たレティは透かさずスペルを唱える。

 レティから無数の弾幕と共に細いレーザーが放たれた。

 その弾幕とレーザーが咲夜のナイフを撃ち落としていく。そのままレーザーが咲夜を一直線に狙う。

 

「流石は黒幕ですね。この程度では倒せませんか」

 

 だが一直線のレーザーなど避けるのは容易い。

 軽く身を翻して躱すと同時に言った。

 

「そうよ。黒幕を舐めないでね」

 

 レティは休まず、終わらないスペルの嵐を吹かせる。

 

「冬符『フラワーウィザラウェイ』」

 

 吹雪と似たような弾幕が無数に放たれる。

 そのせいかどれが雪でどれが弾幕なのか判然としなくなった。

 

「奇術『エターナルミーク』」

 

 しかし冷静に、咲夜はスペルを唱え、周囲の吹雪と共に弾幕もろとも打ち消していく。

 今のところは拮抗した戦いを繰り広げている。

 お互いまだ一発も被弾していない。いや、両者まだまだ本気など出してなどいない。故に戦いはこれからだ。

 

「素晴らしい力です。是非とも紅魔館の警備として雇いたいレベルでございますね。しかしながら、今はそのような場面ではありません」

 

 咲夜がナイフを構えつつ、

 

「……そろそろ終わりに致しましょう。このまま戦っていても同じパターンが続くだけでございますので」

 

 咲夜は少し呆れた風に言う。同じ展開を何度も続けるなど面白くもなんともないし、本格的な戰の準備運動にもならない。

 故にとっとと決着を付けたいと、咲夜は思う。

 

「私は面白いけど。いいわ、じゃあどう決着をつけるつもり?」

「あなたの全妖力を次に出すスペルに込めてください。それを私のスペルで踏破してみせましょう」

「……あなたの罠ってことは?」

「ご心配ありません。メイドである私は、そんな卑怯な真似をしませんから。それにアドバンテージはあなたにあるんですよ。もう少し余裕を持って頂きたく思います」

 

 この猛吹雪は冬の妖怪からすれば、完全にレティが有利だ。

 スペルは勿論のこと、あらゆる面で自分が優位な方向へ働くだろう。しかし咲夜はその逆。この吹雪は体温を非常に下げていく。故に体力の一方的な衰えは隠せない。

 

「分かったわ。あなたの案を飲みましょう」

 

 そしてレティは、咲夜の提案を受け入れた。

 もし、例え罠だろうとレティはその罠を打ち破る自信がどこからか出てきたのだ。

 恐らくこの吹雪がそうさせるのだろう。

 相手は冬の妖怪。前述の通り、今のこの天気はレティからしたら最高の局面。自分の力を100%発揮できる。

 

「それじゃあ、いくわよ」

 

 レティは、自分の妖力を全解放しスペルを唱える。

 その妖力は凄まじいもので、流石の咲夜も少しばかり驚いた。

 そして――

 

「怪符『テーブルターニング』!」

 

 レティを中心に全方位に無数に弾幕が放たれた。

 全方位より放たれた弾幕は、この吹雪すらも己が力とするため吸収し、天井知らずに力が膨れ上がる。

 咲夜はそれに対し、なお冷静に……スペルを唱えた。

 

「時符『パーフェクトスクウェア』」

 

 刹那、空間全体の時間が停止した。

 例え弾幕の力が膨大であろうとも、この世の時間さえ止めてしまえば無力に等しい。

 そしてその停止した世界で、咲夜は別のスペルを唱えた。

 

「奇術『エターナルミーク』」

 

 無数の弾幕が放たれ、レティに当たる直前で、全世界の時が動き出した。

 

「――え」

 

 レティが意識した刹那、咲夜の弾幕による無慈悲な鉄槌が下される。

 意識を途絶えさせ、そのまま森へと落下した。

 

「悪くない黒幕でした」

 

 咲夜は落ちてったレティを見て呟いた。

 そもそもこのような弾幕ごっこ、咲夜が少しでも本気を出していれば一瞬で決まっていたのは目に見えている。

 ならば何故、このように永らく弾幕ごっこを勤しんだのか。

 答えは簡単だ。当初の目的――弾幕ごっこの勘を取り戻すため及び、準備運動。だから咲夜は無駄に拮抗した戦いを行い、身を動かしていたのだ。

 

「たく、もっと早く終わらせてよ。こっちは体を動かさないから寒いのよ」

 

 と、身を震わせながら霊夢が言った。

 

「それは、失礼致しました」

 

 軽く謝罪する咲夜。

 そこに――

 

「よぉ、やっと追いついたぜ」

 

 一護がやって来た。

 様子を見るにチルノとの弾幕ごっこを終えてきたようだ。ナイスタイミングである。

 

「一護、遅かったな」

 

 魔理沙が言う。

 チルノとの弾幕ごっこは直ぐに終わって追いついて来ると思ったが、予想より完全に遅かった。

 

「で、勝ったのか?」

 

 聞くまでもないが、一応聞いてみる魔理沙。

 愚問だろう……と霊夢と咲夜が思ったが――

 

「……それが、負けたんだ」

『は?』

 

 ある意味、空前絶後な空気が流れた。

 最初は冗談かと思ったが、一護の表情を伺うにそれは有り得ないだろう。

 

「ちょ、ちょっと嘘でしょ?」

 

 あの博麗の巫女が内心あたふたしながら聞く。

 一護は頭を掻きながら、どことなく言いづらそうに言った。

 

「いや、負けたというより、負けてやった……って言った方が正しいかな」

「え、どういうこと?」

「いやよ、勝っちまったら、また弾幕ごっこを挑まれるだろ。だから、今回の弾幕ごっこで負けて、もう挑まれずに済むようにしたんだ」

「……成程ね」

 

 まぁ恐らく一定の間限定だろうけど。

 

「でもよ、チルノに負けたって、文の奴に知れたら大変だぜ」

 

 魔理沙が少し心配そうに言う。

 たしかに、文に知れたらまた変なことを書かれそうだ。それより、バカで有名な妖精に、紅霧異変解決に貢献した男が負かされたなんて書かれた日には、色々とヤバい。

 主に紅霧異変を起こした吸血鬼にとっては。

 しかし一護は悠然と、

 

「心配ねぇって。こんな吹雪の中でバレる訳ねぇだろ」

 

 そう言った。

 

「それより、咲夜。お前誰かと戦ってたのか?」

 

 一護は咲夜の方を見て聞く。

 どうやら二つの力のぶつかり合いを感じ取っていたらしい。

 

「ええ。ですが、この異変とは全く無関係な妖怪ですわ」

「そうか。じゃあ、とっとと先に進むか」

 

 こうして一行は先へ進んで行った。

 

 しかし一護はとんでもない失態を犯したと、後に後悔するのであった。

 

 

《3》

 

「ここは……どこだ?」

 

 オレンジ色の髪に、高校生の少年――黒崎一護は迷子になっていた。

 いい年して迷子と笑う者もいるかもしれないが、この場合は笑えるのだろうか。いや、笑う前に恐怖するのかもしれない。

 何の前兆も、何の違和感も感じさせずに、自然に当たり前のように、目の前の世界が急に変貌したのだ。

 先まで、肌を突き刺すほどの痛みを与える吹雪が猛威を振るい、それにより雪が完膚なきまでに積もり、緑から白い山へと姿を変えた白一色の世界を飛んでいたのだが……いつのまにか雪が全く見当たらない場所にいた。

 いいや、雪だけではない。気温も春のように暖かく、全く寒気がない。

 まるで別世界。幻想郷から、別の世界へと迷い込んでしまったような感覚を覚える。

 

「それに、みんなは?」

 

 一護はあたりを見渡す。

 さっきまで一緒にいた博麗霊夢、霧雨魔理沙、十六夜咲夜の姿が影も形も見えない。これではまるで、一護だけが不運にも、別世界に迷い込んでしまったかのようだ。

 いや、事実そうだのだろう。ここに一護しかいないと言うことが、如実にそれを語っている。

 

「くそ……っ、一体ここはどこなんだよ?」

 

 見慣れない住居が建ち並ぶ一つの集落。

 しかし人影はなく、とても村として機能しているとは思えない。

 言うなら廃村。その言葉がきっちりと当てはまる場所だ。

 一瞬、人里と見間違いそうになったが、人里も今は吹雪で切羽詰っており、尚且つ村の景観が違う。そもそも人影が一つも見当たらないのなんて有り得ない。

 

「誰でもいいから出てきてくれよ……」

 

 そんなことを呟いた瞬間だった。

 

「呼ばれて飛び出てにゃんにゃかにゃん!」

 

 一護の前に、颯爽と一人の少女が現れた。

 茶色のショートボブに猫耳が生えている少女。緑色のナイトキャップを被っており、白いシャツに赤いベストおよびスカートを着用している。首元には、チャームポイントなのか黄色のリボンを付けている。

 とても幼い少女……例えるなら自分の妹と同い年くらいだろうか。

 しかし猫耳と、そして二本の愛らしい猫のような尻尾が生えている。明らか人間と違う、妖怪だろう。故に見た目と年齢とでは齟齬を起こす。

 

「……え~と、誰?」

 

 一護はとても印象深い登場シーンを繰り広げた少女に対し、半分呆然としながら尋ねる。

 

「凶兆の黒猫 橙だよ! 君は何ていう名前かな?」

 

 元気よく自己紹介をしてくれた。

 精神年齢、いや、元気さで言うとチルノやルーミア、フランとどっこいどっこいだろうか。

 

「俺は、黒崎一護。早速で悪いんだけど、質問させてくれねか」

「何だね? この橙先生が答えてあげるよ」

 

 まるで出来の悪い生徒を可愛いがるような態度で、橙と言う少女は猫耳をピンと張る。

 

「ここは、どこなんだ? 幻想郷とは違うとこっぽいけど」

「え、ここ? ここはマヨヒガっていうところだよ」

「マヨヒガ……」

 

 ふと、一護の頭の中にある書籍を思い出す。

 

(確か、前に読んだ本にマヨヒガっていう奇談があったような)

 

 その書物と、ここのマヨヒガっていうところが一致しているのか、再度質問してみることにする。

 

「マヨヒガって迷い家の事か?」

「そうだよ。よく知ってるね」

「まぁな。確か、旅人が山奥で迷うと辿り着くっていわれてる無人の屋敷だよな。そして、その屋敷の物を持ち帰ると幸運が訪れるっていう」

「そうよ。君は運良く此処に迷い込んだんだよ」

「そうか……」

 

 確かにそれは不運より遥かに幸運の出来事だろう。

 迷い家に迷い込んで莫大な富を得たという譚もあるくらいだ。故にここを興味本位で調査、探索をしてみたいとなるのが必然。

 

「橙はここで暮らしてるのか?」

「うんそうだよ。紫様と藍様、あとグリムちゃんも四人で暮らしてるよ」

「そうか。この迷い家で暮らしている人がいるのか」

 

 人というより妖怪だろうが。

 

「じゃあ橙は、ここから出る方法って知ってるのか?」

 

 今すぐにでもこのマヨヒガから出て、霊夢たちのもとに戻らないといけない。

 現在は異変の解決中であり、こんなところで油を売っている暇などないのだ。

 

「知ってるよ。教えてあげようか」

 

 橙の言葉に、一護は内心ホッとする。

 でも、こんな小さい子に助けられるのはどこか少し面映かった。

 

「けど、一つ条件があるよ」

「…………」

 

 まぁ、だいだいは予想できた。

 幻想郷に来て以来、事がスムーズに進んだためしがない。

 一護は渋々と言葉を吐く。

 

「その条件ってのは?」

「私と弾幕ごっこをしてもらうよ!」

 

 予想的中。

 幻想郷では相手が条件などをつけてきた時は、ほとんど弾幕ごっこになる。

 

「ああ、いいぜ」

 

 そんなことをしている暇は、本当にないのだが、弾幕ごっこをしないと恐らく先に進まない。と言うより、ここから出られないだろう。

 故に了承した。

 橙は簡単に、勝敗を決めるルールを説明した。

 ルールは簡単。

 お互いスペルカードは五枚まで使用可能で、一発でも被弾したら終了。

 もちろん、弾幕に被弾した方の負け。

 

「それじゃあ、弾幕ごっこスタート!」

 

 橙の合図により弾幕ごっこが始まった。

 

   *

 

 その頃、霊夢たちは一護が消えたにも関わらず、歩みを止めず先へ先へと進んでいた。

 何の脈絡もなく一護がいなくなったことには驚き、心配はしたものの「一護なら大丈夫だろう」と言う三人の共通意識により、探すことなく事なきを得てしまった。

 敵の仕業……かもしれない。自分たちの起こした異変を解決しに来た輩がいると知れば、何らかの形で動き出すのは必須だ。しかも博麗の巫女と分かれば、より一層際どい動きを見せるだろう。何たって、あの異変解決のスペシャリストなのだから。

 しかし、それでもなお、一護なら大丈夫だろうと踏んでいる。

 出せる根拠は少ないが、あの吸血鬼であられるレミリア・スカーレットと互角以上に戦える人間だ。相応の敵かそれ以上でない限り心配する必要もないし、元より探し出すだけでも時間を喰う。あの霊夢ですら一護の霊気を感知できていないのだから。

 ――だが、前述の予感は全て的を外している。

 一護は迷い家なる場所に、幸運か不運か分からないが、迷い込んでしまったのだ。

 言うなら単なる迷子。神隠しと似た道理だ。

 

「――それにしても、全く敵と言う敵が現れませんね。早く、次の敵さんに登場願いたいものです」

 

 咲夜が言う。

 敵ではないが、レティ以降、一向に戦いという戦いが起こっていないのだ。紅霧異変の時はルーミアからチルノへと、まぁ直ぐに現れたものだったが。

 

「平和でいいじゃねえか」

 

 魔理沙が微笑みながら答える。

 そんなこととは裏腹に、魔理沙もどこか早く弾幕ごっこをしたいと望んでいる。それは一種の性なのかもしれない。

 

「こんな状況のどこが平和な訳?」

 

 そんな二人を睥睨するように、霊夢が力なき言葉で吐く。

 春なのに、寒風吹き荒れ、相応の雪群が空より降り注いでいる。しかも何なのか、全くこの光景には見合わない桜の花びらが風に乗って舞っていた。これを平和というべきかどうか。異常現象を平和という人は少ないだろうから、一般論としては平和ではない。

 

「私が平和だと思ったら平和なんだよ」

「何それ?」

 

 そんな一般論すら撥ね退け、魔理沙は言う。

 そもそもこんな能天気な少女にとっては、この程度など平和の範疇らしい。

 と、そんな時だった。

 

「また、変なこと言ってるのね魔理沙は」

 

 三人の目の前に、一人の少女が現れた。

 髪は魔理沙と同じ金髪で頭にヘアバンドのように赤いリボンが巻かれている。青のワンピースのようなノースリーブを着用し、スカートはロング。その肩にはケープのようなものを羽織っている。

 見た目は魔理沙や霊夢と同い年くらいの少女だろう。まるでフランス人形のような可愛さを感じる。

 

「お、アリス。久しぶりだな」

 

 どうやら魔理沙と知り合いの間柄らしい。

 しかし霊夢は知らないらしく、

 

「誰なの魔理沙?」

「ん、こいつはアリス・マーガトロイドっていって、同じ魔法の森に住む魔法使いだぜ」

「よろしく」

 

 アリスは丁寧に頭を下げる。

 対する霊夢はぶっきらぼうに、咲夜は慇懃に名乗る。育ちの良さが出るというか何というかだ。

 

「で、何しに来たんだアリス?」

「黒崎一護……って人に会いに来たんだけど」

「あぁ、残念だったな。一護は今、行方不明中だぜ」

 

   *

 

「仙符『鳳凰卵』!」

 

 放たれたのは小規模な弾幕。

 しかしそこから、まるで卵から孵るかのように無数の弾幕がサークル状に四方八方へと拡散した。

 橙が放った一枚目のスペルカードだ。今ここに橙と一護の弾幕ごっこが繰り広げられている。

 

「…………」

 

 一護は無作法に飛んでくる弾幕を、一瞬にして見極め、次いで軽くまるで優雅さすら感じるような躱し方で、かすりもせずに避けきる。

 そもそもこのような無造作に放つ弾幕など、チルノとの弾幕ごっこで嫌というほど見てきている。全てが無造作に放たれる弾幕は一定の法則性はないが、動体視力とそれに類する反射神経とアクションに入るときの身体力さえあれば軽く突破できる。

 

「そんなスペルじゃ、俺に弾幕を当てるのは無理だぜ」

「む~だったら、これにゃんてどうにゃ!」

 

 橙は悔しそうになりながらも、攻撃の手を止めることなく二枚目のスペルを唱える。

 

「式符『飛翔晴明』!」

 

 瞬間、橙の身体を光が覆った。

 そして猫のように体を丸めると、そのまま回転を始める。

 一護が少し驚いた時には、橙は既に動きの手に入っていた。

 さながら五芒星を描くように、回転しながら小さい体は高速で動き始める。しかも五芒星の五つの頂点を描くと、そこから弾幕が大量に発射された。

 弾幕は先と変わらないが、橙の速さが異常だ。流石は猫といったところか。

 

「黒符『月霊幻幕』」

 

 一護はそのスペルに対抗するべく、冷静に一枚目のスペルを唱える。

 漆黒の三日月状の弾幕が展開され、例外一つもなく一護に向かってくる橙の弾幕は相殺されていった。同時にそのまま、激しく動き回る橙に向けて三日月状の弾幕を一点放射させる。

 

「うにゃっ!」

 

 橙は自分に向かってくる弾幕を確認し、即座に新たなスペルを唱えた。

 

「翔符『飛翔韋駄天』!」

 

 先のスペルの上位互換だろうか。

 速さが更に増し、そこから放たれる弾幕の密度と量も愕然と凌駕した。

 故に一護の放った弾幕は軽く避けられ、その上反撃の祝詞まで上がる。

 

「ッ!」

 

 ――この弾幕ごっこのルールは至って簡単。スペルの使用は五回までであり、例え微力でも弾幕に一発でも被弾した方の負け。

 だから一護にとって全く損傷なく被弾しても負けになってしまう。

 一護は弾幕を避けつつ、橙に反撃の隙を伺うもそんなものは見当たらない。高速で動いているため狙いが定まらないのだ。

 

「ちっ、黒符『月霊幻幕』!」

 

 一護は弾幕を避けつつ、二枚目の――再度同じスペルを唱える。

 自分の周りに三日月状の弾幕を展開し、飛んでくる弾幕を掻き消していく。同時に並外れた動体視力を駆使し、集中し見切る。見極める。動きの先読みを行うのだ。

 

「――そこだ!」

 

 そして見極めた一護は躊躇いなく、橙に向けて弾幕を放った。

 

「にゃッ!」

 

 橙は驚きつつも、どうにかして避ける。

 そう、一護からしたらレミリアやフランの方が圧倒的に速かったので、橙くらいの動きなら見切るのにそう難しくない。

 

「うにゃ~、ここまで強いなんて……」

 

 橙は動きを止め、悔しそうに頭を抱える。

 ここまで自分のスペルを看破されたら、悲しくもなるもの。

 しかしスペルを唱えることだけは逡巡せず――

 

「う~、こうなったらこれにゃ! 鬼符『鬼門金神』!」

 

 四枚目のスペルを唱えた。

 橙から赤と青の無数の弾幕が放たれる。

 

「黒符『月霊幻幕』」

 

 一護は特に警戒もせず三枚目も同じスペルを発動し、三日月状の弾幕で橙の弾幕を相殺していく。

 確かに一発一発の質量も、速さも先の橙のスペルとは比べ物にならないが、やはりその程度。一護の敵ではない。

 

「にゃんでぇぇえええー!」

 

 橙が悲痛な叫びを上げる。

 

「お前の出せるスペルは後一枚だぜ、橙」

 

 そんな中、一護はどこか苦笑いを浮かべながら告げた。

 一護は三枚スペルを発動し、橙は四枚スペルを発動した。確実に一護の方が有利である。

 

「……まだ、一枚つかえる! 鬼符『青鬼赤鬼』!」

 

 悲痛な叫びはどこへやら、橙は最後のスペルを唱えた。

 橙から赤い大弾と青い大弾が幾つか発射され、その大弾の弾道から大量の弾幕が一護に飛んでくる。

 

「まだ、そんなスペルが残ってたのかよ」

 

 一護が飛んでくる大弾と普通の弾幕を見て呟いた。

 確かに、今までの橙の出したスペルとは迫力感が全く違って凄い。恐らく、これが橙の全身全霊を振り絞った弾幕だ。

 

「だったら、こっちも少し本気でいくぜ」

 

 一護は代行証を取り出し、いつも通り代行証を中心に黒い霊圧が卍型の形になった。

 そして四枚目の、一護が持つ最強のスペルを言い放つ。

 

「黒斬『月牙天衝』!」

 

 放たれるは卍型に回転する黒い月牙。

 橙の最強の弾幕も、この月牙を前にすれば意味を成さない。無情に無慈悲に情け容赦なく、全ての弾幕が掻き消されていく。

 

「にゃにー!?」

 

 その光景を見て驚きの声を上げる橙の隙を突き、

 

「黒符『天幻月牙』」

 

 一護も最後のスペルを唱えた。

 橙の周りの空間から三日月状の弾幕が現れる。

 

「にゃ?」

 

 橙がそれに気付くのと同時に、三日月状の弾幕が橙を襲った。

 

「にゃぁぁあああああ!!」

 

 全ての弾幕が橙に被弾した。

 一発どころか数十発も当ててしまった。

 

 故に、一護の完全勝利で、この弾幕ごっこは終わった。

 

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