東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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第20斬【いざ白玉楼へ】

《1》

 

 西行妖――ことの発端は全て、この桜の木にある。

 今回の異変はとある女性が、その西行妖の桜を満開にし、そこに眠る何かを復活させるために引き起こした。何故ならこの桜の木は、春になっても満開にはならないからだ。

 理由は不明。何かが他の桜の木と違う。

 西行妖に封印されている何かが拒むように、満開にさせないようにしている。

 そのことに対し、とある女性は一つの手段に出た。

 それは幻想郷にも訪れる春。その春を全て西行妖に捧げ、満開にさせること。そして封印されている何かを解放すること。

 これが、とある女性の目論見なのだ。

 

   *

 

「さてと、そろそろこの異変も佳境ね」

 

 博麗霊夢は、自分たちの行く手を遮るプリズムリバー三姉妹を撃墜し、彼女たちが守っていた門の前にいる。

 同じく霧雨魔理沙、十六夜咲夜もだ。

 このままとっとと先に進めば良いのだが、優しくも三人は黒崎一護を待っている。

 

「終わりが近いってわけか。今回の異変は早く解決しそうだぜ」

「そう思っていますと、後々から裏ボス(ルリミアなど)が鬱陶しくもしゃしゃり出てくる可能性があるので、あまり楽観的にならないことをオススメします」

 

 魔理沙の発言に対し、即座に咲夜が半余計なことを言った。

 

「そうだな。確かにこの前の異変で言うとレミリアがラスボスで、フランが隠しボスみたいな位置だよな。その後の刹蘭って野郎とか絶対にいらなかったと思うぜ」

「あの者の次のルリミアは、もう完全に引き伸ばし特有な――」

「何言ってるのよ、あんたたち。物語と現実が一体化してない?」

 

 よく分からない二人の会話に霊夢が呆れていると……

 

「おーい、お前らー」

 

 手を軽く振りながら、遂に一護が三人の前にやってきた。

 

「ようやくのご到着ですね」

「随分と遅かったじゃねぇか一護」

 

 魔理沙が笑みを浮かべて言う。

 その笑顔とは対照的に、一護の顔は少し怒っているように見える。

 

「お前のせいで遅くなったんだ。なに他人事みたいに言ってるんだよ」

 

 そのセリフを聞いた魔理沙は、数秒これまでのことを思い出し、察したのか一言謝った。

 

「で、今まで何してたの?」

「ん、何かマヨヒガってとこに迷い込んで、その後アリスと弾幕ごっこをしてだな」

 

 霊夢の質問に一護は大間かに答える。

 

「そう。やっぱり彼女ともしたのね。だったら今までの遅れた時間を取り戻すために、とっとと行くわよ一護」

「いや、お前らが余計なこと言わなかったらもっと早く着いてたんだけどな」

「しかし淑女のお誘いを断るのはよくありませんよ黒崎さん」

「出会い頭に弾幕勝負を挑んでくるやつを淑女とは呼ばねえよ」

「あら、ひどい物言いですね。メイドとして矯正したくなりますわ」

「ナイフをチラつかせながら言うんじゃねえよ」

 

 何で自分の周りには、まともな感性を持つ人がいないのだろうと思う。

 

「……そういえば一人だけいたな」

 

 妖夢が唯一、まともな淑女だったなと、一護は思い出した。

 そして、遂に霊夢たちは門の向こうに飛び、異変解決のカウントダウンが始まる。

 

 

 

「一体いつまで続くんだよ、この階段?」

 

 一護は現在、糞が付くほど長い桜並木に挟まれた階段を数十分ほど登り続けている。

 門の向こうに到着したら、即黒幕の登場だと思っていた一護たちは超糞長い階段を見て愕然とした。

 そう、門の向こうには階段と桜の木しかなかったのだ。

 神社や寺などでよくある石造りの階段で、なぜか普通の階段より上るのが疲れる。

 ここは幻想郷から消え去っていた筈の春で満ち溢れており、桜の木も満開になっていた。ゆるりと散る桜の花びらがとても風情あふれる。

 

「逆に疲れちまうよ」

 

 なぜ、一護が飛んでいかないかというと、一護の霊力の回復の為である。

 一護は此処に来るまでにチルノ、橙、アリスと戦っている。自分では気付いていないだけで、結構霊力を消費しているのだ。

 

「文句言わないでさっさと黙って登る」

 

 と、霊夢が言う。

 その言っている本人は悠々自適に空中に浮いて、一護のペースで飛んでいる。とても楽そうだ。

 

「ファイトだぜ、一護」

「頑張って下さいね、黒崎さん」

 

 魔理沙と咲夜が労ってくれる。

 だが、魔理沙も咲夜も酷いことに、楽に空中に飛んでいる。

 

「くそ、人が頑張って登ってるってのに」

 

 一護の額から汗が流れる。

 此処は地上と違って春のポカポカとした気温だ。お陰で汗がどんどん出てくる。

 ちなみに服の上から着ていた、防寒のための青いダウンジャケットは此処に来た瞬間、門の前に置いてきた。

 と、一護は何かを感じたのか足を止めた。

 

(この霊力は……)

 

 霊夢達も一護と同じ力を感知したのか、進む飛行を止める。

 

「…………」

 

 一護は前方を見据える。

 コツ、コツ、と上から誰かがゆっくりと降りてくる音がする。桜が咲き誇り、花びらが散る風景すら目に入らず――一人の少女が現れた。

 予想通りであり、既に知っている人物だが驚かずにはいられない一護。

 だって、その少女は……

 

「妖夢!」

 

 そう、そこには魂魄妖夢がいたのだ。

 いつも通りの服装に二本の刀、そして常に妖夢と一緒にいる半霊。よく人里で会って、他愛の無い会話をしたり、一緒に何かを食べたり、時々二人で研鑽を積んだりした友という間柄の少女が。

 だから、ちょっとした妖夢の素性なら一護は知っている。

 

「驚きました。まさか黒崎さんが侵入してくるとは、本当に。いえ、予測はしておりました。異変解決専門の博麗の巫女と一緒にいるのですから、簡単に予想は出来ておりました」

 

 動揺を見せずに、冷静に言葉を紡ぐ妖夢。しかしどこか悲しみを孕んでいるのは、否定できない声音でもある。

 

「お前が従者をしているってのは聞いてたが、ここの従者だったなんてな」

「黒崎さん、ここまで来てもらい申し訳ないのですが、今すぐここから退いてはくれませんか?」

「悪ぃが、できねぇ相談だな」

 

 それを聞いた妖夢は少し残念そうな表情になり、ゆっくりと長刀の楼観剣を抜いた。

 

「そうですか。なら、私は今から黒崎さんを敵として排除しなければいけません」

「そうかよ。霊夢、ここは俺に任せて先に行っててくれ」

 

 忘れ去られていた三人は何も言わずに先へ進んだ。

 妖夢はその三人を引き止めようともせず、一護の姿を見据える。

 

「あいつらを止めねぇのかよ?」

「私一人では四人全員を相手にするのは不可能です。ですから私は一人、一番厄介な人物、黒崎さんだけでもここで阻止します」

 

 その目は、もはや友に向けるものではない。

 己の敵に向けるもの。敵とみなし、これから相手を斬るものの目だ。油断、軽視などは一切捨て、全霊をもって討つと決めたものの瞳をしている。

 

「成程な。じゃあ、久しぶりにやるか。今度は手加減無しだ」

 

 対する一護も構える。

 今の妖夢に手加減など不可能。一緒に剣を交えた際も、あくまで修練。これは本気の戦い。そんな中、手を抜いてしまえば容易に狩られるだろう。

 故に初手から真剣。

 そして今ここに、一護VS妖夢の弾幕勝負が再び始まった。

 

 

「先手は貰います。獄炎剣『業風閃影陣』!」

 

 手始めに放ったのは妖夢のスペル。

 妖夢の妖力が凝縮され、それらが複数の大弾となり一気に放つ。

 

(ただの大弾の弾幕か……)

 

 一護がそう思考した瞬間、妖夢が自分で放った複数の大弾を刀で横一閃に大きく斬った。その光景に瞠目したが、次の瞬間に大弾が小さい弾幕へと無数に分裂した。

 一護はそれに驚き直ぐ様、左上斜めに高く跳躍し上空に飛ぶ。

 しかし妖夢は手を一切止めず、己で放った大弾を再度連続して滅多切りにしていった。同時に呼応するよう、無数の弾幕が辺りを埋め尽くして放たれ続ける。

 これは単純に回避するのは困難を極める。

 

「くそ、黒符『月霊幻幕』!」

 

 故に即座にスペルを唱える。

 一護から三日月状の弾幕が展開され、それを向かってくる妖夢の弾幕に当て相殺させていく。しかし弾幕の数が多いだけに、相殺するのに時間もかかり視界も弾幕のせいで悪い。だが下手に手を緩めれば妖夢の弾幕が容赦なく襲いかかってくるのだ。

 そしてそれは、大いに一護の隙を誕生させてくれた。

 

「弾幕に気を取られすぎです」

 

 一護が弾幕を相殺している間に、妖夢が一護の後方に移動していた。

 

「ッ!」

 

 弾幕のことすら忘れ、一気に振り向こうとするも――

 

「遅い! 人符『現世斬』!」

 

 完全に遅かった。

 妖夢がスペルを唱えたかと思うと、瞬間的速度で一護の左肩を切り裂いた。問答無用に、情け容赦なく。

 弾けるように、左肩から鮮血が噴出すると同時に、焼けるような激痛が襲う。

 これは妖夢が本当に真剣になっている証拠なのだ。

 妖夢は周囲を飛び交う己の弾幕を消し、鋭い瞳で鋭利な刃を向けながら口を開く。

 

「この戦法は、黒崎さんから習ったんですよ」

「俺から……」

 

 急な発言に困惑するも、一護は直ぐに思い出した。

 初めて妖夢と戦った時、両者が最後の激突をした際に、妖夢が一護の月牙天衝に気を取られ、防いでいる間に一護が妖夢の背後を取り勝利した。

 恐らく、あれを模倣したのだろう。

 

「黒崎さんからは色々と学ばせて頂きました。だから私は、あの時より強いですよ」

「そうかよ。けど、俺も、あの時より強くなってるぜ。それに、まだ、お前には見せた事の無えスペルもある。例えばこれだ。黒符『天幻月牙』」

 

 一護がスペルを唱えた瞬間、妖夢の周りの空間から三日月状の弾幕が現れた。

 妖夢はそのスペルに一瞬だけ驚いたが、冷静に対処する。

 

「天神剣『三魂七魄』!」

 

 妖夢から七色の弾幕と大弾がばら撒かれる。

 一拍の遅れもなかったが故に、一護の弾幕は容易にかき消されていった。

 

「簡単に対処しやがった!」

「まだです。六道剣『一念無量劫』!」

 

 妖夢は新たなスペルを唱える。

 瞬間、空間に剣閃が迸り、三次元空間を切り裂いていく。そして裂かれた空間から、無数の弾幕が飛び出してきた。

 

「あめぇ!」

 

 しかし、この程度の弾幕なら簡単に対処は可能だ。

 故に一護は軽々とその弾幕を躱し、反撃の時を伺う。だが、そう簡単にはやってこないのが現実だ。

 

「こちらです!」

 

 弾幕と共に、妖夢も動いた。

 そして連続する剣閃の瀑布。散りゆく桜の花びらは両断され、その刃が鋭く、速く、精妙に、己の敵を討つがために鏖殺の軌跡を描く。

 走る剣風が一護の頬を、足を、腕を、腹部を徐々に掠めていった。

 速い――しかし一護でも反応できないほどの速度ではない。並の者なら閃光にしか見えないだろうが、あくまで万に一人か二人は辿り着ける領域である。しかし本当に恐ろしいのはそこではない。

 妖夢の妖気を纏った剣戟は、桜がゆらゆらと舞い落ちるように意が読めない。すなわち剣戟の鋭利さを纏う妖気だけが、不確かに放たれている。有り体に言えば木を隠すなら森である。

 どこから、どのタイミングで放たれているかは、妖夢自身にも分かっていない。

 分かるのは剣を振るった時に、どこかに放たれているということだけ。故に達人になればなるほど重要視される刀の読み合いなどが、全くもって通用しない。

 

「くッ――」

 

 徐々にではあるが、一護の足を指を、脇を切り裂いていっている。

 スペルを放つ隙すらない。

 

「はぁぁあああ!!」

 

 そして熱を帯びた声を上げる妖夢。

 大気を突き破る轟風と共に、繰り出されたのは渾身の刺突。単純な貫通力なら必殺は愚問だろう。

 

「黒斬『月牙天衝』!」

 

 刺突が来るということは、すなわち繰り出されていた剣閃が止んだのだ。だからその一瞬の間隙を突くように、一護は自分の最強のスペルを放った。

 瞬時に代行証を取り出し、放った月牙は風車のように回転して妖夢を襲う。

 しかし軽々と、一護の月牙は引き裂かれた。

 都合三十――妖夢は刺突から移転し剣閃の乱舞へ。奔る刃は疾風となり、月牙を微塵と化すまで断絶した。今まで全てを引き裂いてきた月牙が斬殺された瞬間である。

 そして妖夢は動きを止めない。

 この手で、黒崎一護を沈めるまでは――

 

「人鬼『未来永劫斬』!」

 

 残像すら残らない異常な速度で、一護の懐へと入る妖夢。

 一護が驚くよりも、反射するよりも、感知するよりも速く刀で強く一護を斬り上げた。次いで二撃、三撃、走る銀光が清流の滑らかさで、しかし瀑布の勢いで連続する。

 故に一護は地面に落下するまでに、超光速の連撃で打ちのめされる。一撃と視える剣戟でも、繰り返される刃の数は十、二十の域だ。

 

「ガァッ、ァァ、アアアアアア!!」

 

 苦悶という名の叫喚を上げ、妖夢の攻撃が終わる頃にはそのまま階段へと無様に落下していく。

 しかし一護は諦めない。

 

「黒符、『月霊幻幕』!」

 

 落下していく中で、せめてこれでもと言わんばかりに一護が弾幕を唱えた。

 漆黒の弾幕が妖夢を襲う。

 

「蒙昧です」

 

 無意味なことだと呟く妖夢の声に、妖気を帯びた斬撃が飛翔し弾幕を掻き消しながら、そのまま一護の周囲を切り裂いていく。

 

「く…そ…ッ!」

 

 身体はもはや傷だらけ。満身創痍とまではいかないが、それに近しいレベルではある。

 一護は気合で体を起こし、再度、戦闘態勢に入った。

 

「まだ立ちますか。流石です。ですが黒崎さん、もう終わりにしましょう」

 

 妖夢は一護の方を見下ろしながら言うと、新たなスペルを唱える。

 

「断迷剣『迷津慈航斬』」

 

 妖夢の刀の刀身に青い大量の妖力がつぎ込まれ、巨大な刀身が作り出された。

 これは、あの時一護の月牙天衝をも打ち砕いた最強のスペルだ。

 

「これで、終わりです!」

 

 妖夢は刀を構え、一気に一護へと振り下ろした。

 凄まじい激突音と砂煙が舞う。

 これを受ければ一護でも、もう立ってはいられないだろう。

 なのに妖夢は怪訝な表情をしている。そう、斬ったという感覚がないのだ。

 それどころか、何かに受け止められている感覚がする。

 

「一体、何が……?」

 

 有り得ない、あの体でこの攻撃を回避ならともかく、受け止めることなど断じて不可能だろう。

 そして、徐々に砂煙が晴れてきた。

 同時に、妖夢は驚愕の表情へと変わった。

 一護の姿が、黒くなっており、自分の刀を一護の右腕の黒い霊圧に受け止められていたのだ。それも易易と、表情には力強く受け止めている歪みすら一切感じられずに。

 

「妖夢、すまねぇが、もう手加減はなしだ」

 

 一護は呟くように言うと、妖夢の刀を弾き返す。

 そして妖夢と同じ上空へと跳躍し、霊子で足場を形成した。その姿に、あの時の傷の痛みなどの苦悶も一切感じられない。

 

「そんな、まだ、黒崎さんはそのような力を隠していたのですね……!」

 

 悔しさすら孕んだ表情に彩られながら、妖夢は再度、一気に一護に斬りかかる。

 妖気を刀に纏わせ、刺突の構えで空間すら引き裂く剣戟を放った。

 

「……悪いな。この程度じゃあ、今の俺には勝てねえよ」

「――なッ!?」

 

 命中はした。

 しかし左手で、一護は妖夢の必殺にも等しい刺突を受け止めていたのだ。これには驚かずにはいられない妖夢。

 全く後退せず、踏ん張るでもなく、当たり前のように妖夢の刀を受け止めている。事実として妖夢の手応えは不動の大木に激突したかと思えるほど重厚に、堅牢に感じ取れた。

 

「次は、俺の番だ」

 

 一護は力など一切込めていない。

 誰が見てもそう言うだろうゆったりとした動作で、もう片方の右腕――霊圧が込められている方を軽く振るった。

 それだけで妖夢は後方に吹っ飛ばされた。

 もはやパワーの面でも完全に一護が圧倒している。妖夢は子供に等しい扱いだ。

 

「私が、こんな簡単に押されるなんて……! そんなはずない!」

 

 自分の今までの努力が、一気に覆されるなんて信じたくな。

 それ故に、妖夢はスペルを唱え駄目押しへと掛かった。

 

「六道剣『一念無量劫』!」

 

 再度、先と同じスペルを唱える。

 そして斬る場所は一護の上――頭上の空間を滅多矢鱈に剣閃を走らせ、空間を引き裂いていく。

 そこから雨のように弾幕が飛び出し、一護へと降り注いだ。それに、これだけではもちろん、終わらない。

 

「獄炎剣『業風閃影陣』!」

 

 これも先と同じスペル。

 大弾を複数放ち、それを自らの刀で斬り、分散させていく。横合い、上空からの二重攻撃だ。

 

「…………」

 

 しかし、連続するそれらの弾幕の中、一護は一発すら掠っていなかった。密度的には回避不可能な絨毯爆撃になっても、悉く躱し続けている。

 瞬間移動や空間移動のようでもあるが、だがそうだと断言できない遅さが付随している。ゆるやかに、舞う桜のように。

 言うなれば何かの歩法。回避という意味概念すら操作しているような。

 

「嘘……そんな、はず……」

 

 その光景に戦意すら失いかける妖夢。

 だが踏ん張り、刀を握る力を緩めずに、一護を見据える。

 どこかに、きっと何か弱点となるものがあるはずだ。ないわけがない……と、観察するも、妖夢の洞察力ではそれを見極めることはできなかった。

 なら、もう手は一つしかない。

 

「私の全身全霊、至極の一閃を与えるまで」

 

 妖夢は構えの態勢に入り、そして最後のスペルを唱える。

 

「奥義『西行春風斬』!」

 

 妖夢がスペルを唱えた瞬間、一護目掛けて走りこみ、桜色の斬撃を帯びながら、放ちながら突っ込んできた。

 どうやら、このスペルが妖夢の今出せる最強のスペルだろう。

 一護は何の動揺もせず、ゆっくりと右腕を上げスペルを唱える。

 

「黒斬『月牙天衝』」

 

 一護はスペルを唱えると、月牙を放つように右腕を振り下ろした。

 それにより月牙が放たれ、一瞬で妖夢の斬撃と共に妖夢を撃ち落した。妖夢はあまりにも月牙の速さに反応できずに撃ち落されたのだ。

 

「また、私の……負け……ですか。申し訳ございません、幽々子様。私、負けてしまいました……ッ!」

 

 妖夢は落下しながら薄い意識の中、誰かに謝罪している。

 そして、ほどなくして地面に激突した。

 だが、痛みは無い。

 誰かに受け止められたのだ。

 

 だけど、妖夢にそれを確認する程の意識は残っておらず、意識を失った。

 

 

《2》

 

 魂魄妖夢の相手を黒崎一護に任せた博麗霊夢、霧雨魔理沙、十六夜咲夜は既に長い階段を上がりきり、どこかの庭園にいた。

 そこには立派な日本屋敷があり、綺麗な桜の木がいくつも並んでいる。庭園はしっかり手入れが行き届いているのか、無駄な雑草などがほとんどない。

 

「ここはどこなんだ? またすごい風情のある場所だな」

「多分、ここは冥界ね」

 

 魔理沙の質問に霊夢が平然と答えた。

 冥界、普通は聞いたら驚くはずだが、二人とも特に驚いている様子は微塵もない。

 

「冥界ですか。初めて来ました。いえ、そもそも生きた人間が冥界に来ても良いのかしら」

 

 咲夜が尤もなことを言う。

 文字通りの冥界なら、死者の魂が帰り着く場所である。当然ながら生者が来るところではない。

 

「ええ、駄目に決まっているでしょ。だから早々にお引取り願おうかしら?」

「……誰あんた?」

 

 その当たり前の質問に答える声があった。

 いつの間にか、知らない女性が前方に佇んでいた。

 女性は綺麗な桜色の髪をしており、薄紫のナイトキャップを被っている。そのナイトキャップには白布の、おばけが付けるような三角頭巾が付けられている。着物を着ており、柄は桜で全体的に水色の着物だ。腰回りの帯は太く、腰の横辺りで蝶々結びされている。

 見た目は美しい和服美人だが、生きている人間の生気を全く感じられない。

 

「私は幽冥楼閣の亡霊少女 西行寺幽々子。て、あれ、こういう時って普通自分達から名乗るのが礼儀なんじゃないの?」

「そんな礼儀は知らないわ」

 

 キッパリと言う霊夢。

 

「あなた巫女よね。神職の人って礼儀を重んじるものじゃないの?」

 

 霊夢の言葉に少しだけ呆れる幽々子。

 

「これは申し訳ございませんでした。私は紅魔館のメイド 十六夜咲夜です」

「私は奇妙な魔法使い 霧雨魔理沙だぜ。よろしくな」

 

 咲夜と魔理沙は霊夢のやり取りが無かったかのように自己紹介をする。

 

「ほら、あなたのお仲間はちゃんと名乗ったわよ。早くあなたも名乗りなさいよぉ」

「何かムカつくわね」

 

 幽々子のセリフに少しイラッと来る霊夢。まるで出来ない妹を優しく叱る姉のような口調だ。

 

「私は永遠の巫女 博麗霊夢よ」

「よく出来ました」

 

 幽々子のセリフに、更にイラッとする霊夢はとっとと用件を済ます事にする。

 

「あんたの集めてる春を返しにもらいに来たわ。さぁ、とっとと大人しく素直に返しなさい。地上はそのせいでずっと冬真っ盛りなのよ」

 

 犯人かどうかも聞かないで、決定事項のように言う霊夢。

 その言葉に幽々子は特に反論も、嘯くこともせず、笑みを浮かべながら言った。

 

「嫌です……って言ったら?」

「フルボッコよ」

 

 霊力を纏いながら一切逡巡せず――

 

「霊符『夢想封印 集』!」

 

 スペルを唱えた。

 霊夢から複数の光弾が、幽々子に集まるように放たれた。

 

「あらあら、いきなりスペルを唱えるなんて本当に礼儀がなっていないわね」

 

 幽々子は何の動揺もせず、同じくスペルを唱える。

 

「けど元気なのは嫌いじゃないわ。亡舞『生者必滅の理』」

 

 螺旋状に弾幕が飛び散り同時に複数の大弾が現れ、それにより霊夢の放った複数の光弾が掻き消されていく。

 

「面倒ね。夢符『封魔陣』!」

 

 霊夢がスペルを唱え結界を張り、飛んでくる弾幕を防いだ。

 

「あら、礼儀知らずの割に少しはやるようね」

「あんたもね。その余裕な態度、見かけ倒しでなくて良かったわ。けど、何か忘れてない?」

 

 霊夢がそう言うと同時に、幽々子の後方から魔理沙と咲夜が現れた。

 

「私たち二人を忘れてるぜ。魔符『ミルキーウェイ』!」

「幻符『殺人ドール』!」

 

 二人はスペルを唱え、幽々子に星型の弾幕と無数のナイフが放たれた。

 霊夢も前方からさっきと同じスペル、霊符『夢想封印 集』を発動する。

 これにより幽々子は前方からも後方からも弾幕に襲われることになった。並の妖怪でなくとも、この三重攻撃を防ぐのは困難を極める。

 

「あら、三対一なの。困ったわねぇ~」

 

 困ったと言うものの、平然な態度は全く崩さない幽々子はスペルを唱える。

 

「けど、私の方が上ですよ。亡郷『亡我郷』」

 

 幽々子を中心に全方位に、無数の弾幕とレーザーが回転しながら発射された。

 それにより、霊夢たちの弾幕が相殺されていく。

 

「すげー、マジで強いぜ。何者なんだあの幽霊」

「はい、認めたくはありませんが実力はかなり高位です」

 

 魔理沙と咲夜が焦りにも似た感心をする。

 

「フフフ、私の本気はこれからよ。華霊『バタフライディルージョン』」

 

  *

 

(!! ……この霊力は!?)

 

 一護は急いで階段を駆け上がっていた。

 その最中、一護は霊夢たちの霊力と共に、もう一つ強力な霊力を感じ取っていたのだ。

 

(霊夢たちと接戦してやがる! こいつはただ者じゃねぇな!)

 

 恐らく妖夢が守っている主だ。実力言うなら、吸血鬼のレミリアやフラン以上といっても過言でない猛者だろう。霊力だけで分かる。

 一護は右腕に霊圧を込めながら急いだ。

 

  *

 

「……この亡霊女。中々弾幕が当たらないわね」

 

 霊夢が悔しそうに呟く。

 三人が放つ弾幕が悉く攻略されて言っているのだ。悔しくて仕方ないのも無理はない。同時にそれによる心理的な疲労と、体力的な疲労が体を蝕んでいる。

 

「流石に三人相手じゃ私でも結構きついわね。自分で言うのも憚られるけど、そこそこ強いと思ってるんだけど。自信なくしちゃうわね~」

 

 幽々子も弾幕が全く当たっていない訳では無い。

 だが、三人相手に引けを取っていない。それだけで実力を推し量るのは容易だろう。異変の解決を生業とする博麗の巫女、弾幕勝負を得意とする魔法使い、時間と止める紅魔館のメイド長、この三人を相手に対等以上に渡り合えているのだ。

 恐ろしいまでの実力を持った幽霊である。

 しかし、やはり三人を相手にすると、どうしても疲労が滲み出る。

 

「ここ最近、弾幕ごっこなんてしてなかったからね。少しだけ疲れちゃったわ」

「へぇ、幽霊って疲れるんだな。初めて知ったぜ」

「幽霊も霊力を使うと疲れるものよ。お腹、すいちゃったわ」

「ならこんな異変やめて、一緒に飯でも食おうぜ」

「いい提案だけど、ごめんね。それは飲めないわ」

 

 魔理沙の提案に幽々子は首を横に振る。

 

「見識を広めることができましたわ。幽霊でも、お腹はすくものなのですね」

「そうよ。それはもう、食べるのが唯一の楽しみってくらいだわ。幽霊になっても美味しい物を食べれる幸福に感謝しているくらいだもの。だから……」

 

 幽々子が発する霊力を底上げし、

 

「そろそろ終わらそうかしら」

 

 幽々子が小さくそう呟く。

 瞬間、凄まじい霊力が幽々子から溢れ出た。

 それを直接感じ取った三人に、冷や汗が流れる。

 

「さぁ、いくわよ」

「させるかぁ!!」

 

 その瞬間――突然、一護の声が聞こえてきた。

 幽々子はスペルを唱えるのを止め、声のした後ろを反射的に視線を投げる。

 そこには黒い霊圧が溢れ出しており、天を衝くほど立ち上っていた。

 幽々子はその光景に目を丸くする。

 

「黒斬『月牙天衝』!」

 

 幽々子に向かって月牙が放たれた。

 

「しま――ッ!」

 

 幽々子は咄嗟のことに対応しきれず月牙に飲み込まれた。

 

 

《3》

 

 霊夢、魔理沙、咲夜対幽々子の弾幕勝負は一護の月牙天衝により、一時停止する。

 幽々子はその月牙天衝に飲み込まれた。

 ……と、三人は思っていた。

 しかし月牙天衝は幽々子のギリギリ横を通り抜けていっただけで、幽々子は無傷だったのだ。

 

「あなたは何者?」

 

 幽々子が一護に向かって聞く。

 

「黒崎一護。霊夢たちの仲間だ」

「黒崎一護……」

 

 幽々子は腕を組み思案する。

 

「……あ、思い出したわ。妖夢の言っていた子ね。後、新聞に載ってた子」

 

 幽々子は一護という人を思い出すと同時に、妖夢が一護に敗れたということを悟った。

 

「ふ~ん、あなたが噂の……。会えて嬉しいわ。ねぇ一護ちゃん」

(ちゃん付け……?)

「私と一対一で弾幕勝負してくれない?」

 

 突然の幽々子の申し込みに一護だけではなく、霊夢たちも驚く。

 

「ちょっ、あんたは今私たちと弾幕勝負しているのよ! 勝手なこと言わないで!」

 

 霊夢が幽々子に怒鳴り声を上げた。

 

「あら、別にいいじゃない。あなた達はもうボロボロなんですから、一護ちゃんに代わってもらうってことで。ほらほら、そこに座って休んでなさいな」

「あなたも表面上はピンピンしていますけど、内面の方はどうでしょうね?」

 

 咲夜のセリフに幽々子は少し顔を引きつる。

 やはりというか、三人を相手にしているため幽々子も相当な霊力を消費している。見た目はピンピンしているものの、それはあくまで取り繕ったものである。

 

「……だったら、ハンデをちょうだい」

 

 幽々子の素っ頓狂なセリフに一同唖然とする。

 

「ふ、ふざけたこと言ってんじゃないわよ!」

 

 霊夢が咆哮のような怒鳴り声を上げる。

 一護たちはしっかり手で耳を塞いだ。

 

「あんた今の状況分かってるの!? ここで四人で掛かれば一瞬であんたの負け! この現状でよくそんな舐めたことが言えたわね! いいこと、私たちが――」

 

 霊夢が一人怒鳴っている間、一護は幽々子と会話を再開していた。

 

「あんたの名前、まだ聞いてなかったな」

「私は西行寺幽々子。よろしくね一護ちゃん」

「その、ちゃん付け止めてもらえませんか?」

「え~いいじゃない。可愛いでしょ?」

「そういう問題じゃなくて」

「そこの二人! 何和気藹々と話込んでるのよ!?」

 

 霊夢は自分を無視して、二人が普通に話しているのを見て再び怒鳴り上げた。

 

「あら、まだ了承してくれないの?」

「する訳ないでしょ!」

 

 即答する霊夢。

 幽々子は一つ溜息をつき、

 

「仕方無いわね。じゃあ、こうしましょ。私が負けたら春を返した上、ここでの花見を許可するわ」

 

 と、提案する。

 

「お生憎様。花見は家でも出来るのよ」

「でも、ここの桜はそこら辺とは訳が違うわよ」

「そんな提案を呑む訳ない――」

「いいじゃねぇかよ霊夢」

 

 霊夢は最後まで言い切る前に、一護の言葉に遮られた。

 

「いいわけないでしょうが。何勝手に決めているのよ」

「俺は幽々子さんと一度戦ってみたくなった。妖夢が命がけで守ろうとしている人に興味があるんだよ。悪いが、俺のわがままだが聞いてくれ。それに、俺は負けねえよ」

「……何で、いつもあんたは勝手に」

 

 霊夢は言葉に迷ってしまった。

 

「ん~と、仕方ない! じゃあ、もう一つ私からダメ押し!」

 

 と、幽々子が何かを切り出す。

 

「私が負けたらタダ酒に妖夢お手製のお弁当をお腹一杯になるまでご馳走するわ」

「ならいいわよ」

 

 幽々子の提案に霊夢は即OKを出した。

 

「いいのかよ」

 

 一護はそんな霊夢を見て小声でつっ込む。

 

「良かったね一護ちゃん。これで弾幕勝負ができるよ。それじゃあ、ハンデをもらうわね」

「ああ」

「私は三発、弾幕を被弾したら負け。一護ちゃんは一発でも被弾したら負け。いいわね?」

「あ、ああ。構わないぜ」

 

 少し無茶だが一護はOKした。

 

「それじゃ、スタート!」

 

 

 幽々子が開始の合図をすると同時に一護はスペルを唱えた。

 

「黒符『月霊幻幕』!」

 

 三日月状の弾幕が展開され、幽々子目掛けて発射する。

 

「あらあら、先手必勝ってわけ。速いわね」

 

 幽々子も対抗するためスペルを唱える。

 

「桜符『完全なる墨染の桜』」

 

 幽々子から大量の大弾が放たれた。

 その大弾により、一護の放った弾幕が掻き消されていく。

 そして更に米粒状の弾幕が数多に降り注いできた。

 一護は直ぐ様それを避ける。

 

(すげぇ弾幕だ。これで霊力が消耗している状態なのかよ。だとしてらレミリアやフランよりも強ェぞ)

 

 一護が弾幕を避け続ける隙を狙い、幽々子は新たなスペルを唱える。

 

「さて当ててあげるわよ一護ちゃん。死符『ギャストリドリーム』」

 

 次は、幽々子を中心に大量の蝶の形をした弾幕を、円状に撃ち出された。

 

「やべぇ!」

 

 一護は直ぐにスペルを唱える。

 

「黒斬『月牙天衝』!」

 

 一護の右腕の黒い霊圧から月牙が放たれた。

 その月牙が全ての弾幕を掻き消していく。

 

(くそ、こんなに早く月牙天衝を使っちまった!)

 

 一護は少し情けない気持ちになった。まさか、こんなに早く自分の切り札である、月牙を使うことになるとは思わなかったのだ。

 

(つうか、これで霊力が殆ど残ってねぇのか。ピンピンしてるようにしか見えねぇぜ)

 

 一護は少し焦っている。

 咲夜が幽々子の霊力はもう殆ど残っていないと言っていたが、一護からしたら余裕なくらいある。

 これで殆ど無かったら、もし始めの全快の状態で戦っていたらと思うと、少し恐怖を覚える。

 

「それがさっきのスペルね。見たところ、一護ちゃんの一番最強のスペルなんじゃない?」

 

 綺麗に当てられた。

 

「ああ、そうだ」

「凄いわね。私の弾幕を全て潰すんですもの。やっぱり弾幕勝負はハラハラドキドキしないとね。幽霊にもなって長年こうしていると、ドキドキすることって少ないのよ。だから強い人との弾幕ごっこって、久しぶりにすると楽しいわね」

 

 余裕綽々という感じだ。

 

「そうかよ。だったら、あんたのお望み通り、もっとそうさせてやるよ! 黒斬『月牙天衝』!」

 

 一護は幽々子に向かって月牙を放つ。

 だが、月牙は当たらなければ怖くないし、真正面から堂々と放たれても簡単に避けられる。

 ゆえに、幽々子はその月牙を軽く横に移動し避けた。しかし一護は、その移動する一瞬の隙を狙っていたのだ。

 

「逃がさねえ、黒符『天幻月牙』!」

 

 一護がスペルを唱えると同時に幽々子の周りの空間から三日月状の弾幕が現れ、幽々子目掛けて一斉に放たれた。

 だが、幽々子は予想していたかのように対応する。

 

「わ~お、びっくりなスペルね。けど無駄よ。幽曲『リポジトリ・オブ・ヒロカワ』」

 

 幽々子から円形状に広がる弾幕が現れ、それが一護の弾幕を相殺していく。

 

「チッ、やっぱ駄目か。じゃあ、こいつでいくぜ」

 

 一護は新たなスペルを唱える。

 

「――黒符『天雨月閃』」

 

 一護がスペルを唱えた瞬間、三日月状の弾幕が展開され、全て上空へと飛んでいった。

 

「上空に弾幕?」

「ああ、次は逃げれると思うなよ。降り注ぐ月牙の雨から」

 

 一護はそう言うと、弾幕を幽々子に向かって軽く放つ。

 

「何言っているの? あんなもの、この場に居なければいいだけじゃない」

 

 幽々子はそう言って、一護の放った弾幕を避ける。

 たしかに上空に放った一護の弾幕は、恐らく相手が居た場所に降り注ぐ弾幕。だが、幽々子は一護がスペルを発動してから放った普通の弾幕により、既にその場には居ない。それ故に、上空に放った弾幕は無意味なところに落下すると思われた。

 しかし――幽々子の避ける方向を予測していたかのように、月牙の雨が幽々子に高速で降り注いだ。

 咄嗟の事に幽々子は避けるのに遅れ、一護の弾幕を二発被弾してしまう。

 

「っ、ど、どうして私の所に!?」

 

 流石の幽々子も今のには驚いたようだ。

 

「予測しておいたんだよ。俺があの時月牙を放って、あんたがどう避けるかをチェックし、あんたの動きを予測した。そして次にさっきのスペルを発動し、予め予測しておいた場所に月牙が降り注ぐようにする」

「簡単に言うと、こう攻撃を仕掛ければ、こう躱すだろう。さっきの普通の弾幕がその役割をしたわけね」

「そういうことだ。半分は賭けだったけどな」

 

 避ける方向と場所を予測して、放った天雨月閃が当たり成功して少し満足気になる一護。

 

「う~ん、これは一気に私が不利になったわね。でも、さっきの手はもう通じないわよ」

「分かってるさ。同じ手が二度通じる相手とは思えねぇし」

 

 幽々子は二発被弾したせいで、後一発でも被弾したら負け。

 これで、お互い一発でも当たったら負けとなる。

 

「それじゃあ、続きといくぜ……。ッ!」

 

 その瞬間、〝一護は右手に変な違和感〟を感じた。何か胸の奥底から右腕にかけて霊圧が不自然に流れ込んできたかのような感覚だ。

 だが、一護は特に気にせず、幽々子の方に向かう。

 

「黒符『月霊幻幕』!」

 

 一護は自分の周りに三日月状の弾幕を展開させながら幽々子の方に行く駆ける。

 

「無闇に放つのは止めたようね」

 

 幽々子は一護から逃げるように、後ろに高く飛んだ。

 そして、周りの桜の木より数段大きい木を背景に、一護と向かい合った。

 

「ん、何だ、その木……?」

 

 一護はその桜の木から不思議な力を感じた。

 自分では理解できない力を。

 

「これは西行妖っていう妖怪桜よ。こんなに桜が開花しているのに、これでも満開じゃないのよ。見てみたくない? この桜の満開を」

「……まさか、あんたが春を奪っていた理由って」

 

 一護は幽々子のセリフから春を奪っていた理由が分かった。

 

「そうよ。私はこの西行妖を満開にしてみたかったの。その為に幻想郷中の春を集めていた。それだけの理由よ」

「……どうしてだろうな、その桜は満開にしない方がいいと思うぜ」

 

 一護はその桜の木から、根拠も何も分からないが危険を感じていた。

 

「そうね。たしかに満開にさせたら封印が解けて、何者かが復活するって聞いたわね」

「封印してんなら解いたら駄目なんじゃねぇの」

 

 尤もな意見を言う一護。

 

「いいじゃない。私は気になるの。ここに封印されている何かが。だから解きたい。駄目って言われてもね。これは私の手前勝手な欲よ」

「なら俺が勝って阻止してやるよ!」

 

 ここでいちいち、桜の満開の問答口論をしている場合ではない。弾幕ごっこに則れば、一番簡単に解決できる。

 一護は再び幽々子の方に向かって飛んだ。

 

「行くわよ一護ちゃん、これで最後よ。『反魂蝶 -一分咲-』!」

 

 幽々子からレーザーと弾幕がばら撒かれた。

 

「この程度で当てれると思うなよ」

 

 一護は全てのレーザーと弾幕を避けながら進む。

 

「まだまだ、次よ。『反魂蝶 -参分咲-』!」

 

 幽々子から再び同じようなスペルが唱えられる。

 さっきのスペルと似ているが、弾幕の数と放たれるレーザーの数が一段とアップしていた。

 

「面倒臭ぇ! 同じような攻撃が当たるわけねえだろ!」

 

 一護は展開しておいた弾幕で、幽々子から放たれる弾幕を相殺していく。

 

「まだ、やるのね。『反魂蝶 -伍分咲-』!」

 

 再び同じようなスペルが唱えられた。

 同じように弾幕の数とレーザーの数が増えている。更に大弾まで加えられており、込められている霊力が天井知らずに上がっていく。

 

「くそ、何なんだよこのスペル!?」

 

 一護は残っている弾幕を全て放つ。

 それでも当て損なった弾幕は紙一重で避けていった。

 

「まだ当たらないのね。だったら、これで本当の最後よ。――『反魂蝶 -八分咲-』!」

「こっちも最後だ!」

 

 幽々子がスペルを唱えると同時に、一護は動きを止める。

 幽々子からは無数の弾幕とレーザーが放たれてくる。

 それを見た一護はスペルを唱えた。

 

「ありったけをくれてやるよ! 黒斬『月牙天衝』!」

 

 一護からほぼ自身の全ての霊圧を込めた、今までとは桁外れの月牙天衝が放たれた。

 その月牙が幽々子の弾幕を掻き消していく。

 

「もう少しなのよ……」

 

 幽々子は月牙に消されていく己の弾幕を見ながら言う。

 

「もう少しで……西行妖が満開になるのよ!」

 

 幽々子が激昂すると同時に弾幕の威力が強くなった。

 しかしその感情の変動は、自身の霊力に揺らぎを発生させてしまい弾幕にも圧倒的なまでに強弱を生んでしまった。

 それゆえに月牙天衝の斬撃が幽々子の弾幕を容易に消し飛ばしていってしまう。

 

 ――そして月牙は、そのまま弾幕と共に幽々子を貫いたのだった。

 

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