東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~ 作:ディーン・グローリー
「一護、私はあなたの味方よ。どんな事があっても、私が絶対に助けてあげるから、安心しなさい」
優しく微笑む女性は――黒崎一護の記憶の一欠片。
無数に存在する記憶、つまり思い出……その中で大切な人の言葉が蘇る。
忘れてはいけない、忘れてはならない思い出。絶対的な安心を齎してくれる、一護にとってかけがえのない方の言葉だが――その人はもういない。
自分の心の支えになってくれた人が、自分のために死んだ。
死んだ、死んだのだ。
それにより、一護の心には無意識下で断罪、贖い、罪、罰などと言ったものが支配してしまった。
「……おふくろ」
一護は己の闇を葬るように、いや逃げ出すように覚醒した――
*
「――ん、ここは……?」
一護はゆっくりと目を覚ます。
最初に目に映り出された光景は、どこにでもある板式の天井。
ああ、博麗神社の自分の部屋かと思ったが、木目などが妙に違う。それになにより、雰囲気や布団の質、そしてその部屋の独特の臭い。その他もろもろほとんどが違うのだ。
「ん~……」
寝ぼけ眼で一護は数秒ほど頭を空白にし、どうにか寝る前のことを思い出そうとする。
だが、それよりも先にとある人が声をかけてきた。
「ようやく目を覚ましたようね」
とても透き通るような声。霊夢のような半暴力的な声ではなく、どこか儚さの中に強さを持った声が、ここが博麗神社でないことを如実に語ってくれた。
まぁ、この思いが霊夢に聞かれればボコボコにされるが。
一護は半分寝ている頭で、声の主に瞳を向ける。
「あんたは……八雲紫さん」
そこには綺麗なドレスのような服を身にまとった、金髪の美しい女性――八雲紫がいた。
「おはよう、一護君」
一護が横になっている布団の傍らに座りながら、どこか計略に満ちた瞳で見ている。
「何で、俺はこんな所で寝てたんだ?」
「あなたはグリムジョーとの弾幕勝負で最後の激突の時に、グリムジョーの刃があなたを貫いて気絶したのよ」
殺し合いなら死んでいたね、と微笑みながら言われた。
一護は少しゾッとしたが、それより何より負けたという事実が、とても悔しかった。しかしそれより――
「落ち込むことはないわよ。グリムジョーの方が先に幻想郷に来て、弾幕ごっこを覚えたんだから、グリムジョーが勝っても不思議じゃなかったのよ」
「別に、落ち込んじゃいねぇよ。確かに負けたのは悔しいけど、また鍛えて強くなって、次に勝てばいいだけの話だ」
「じゃあ、どうしてそんな暗い顔してたの?」
「いや、何でもねぇよ」
一護は言わなかった。言ったところで意味がないから。
自分の見た夢に自分の母親が現れた事なんて。
「それにしても一護君、あなたは素晴らしい才能の持ち主よ。この私が言うんだから、自分の将来に期待していいわ。こう見えて私、けっこう長生きしてるのよ」
「あ、何かそんな感じがしました。こっちの世界の人って外見と年齢が一致しないんで。ちなみにおいくつなんすか?」
「女性に、年齢を聞いてはいけないよ」
「は、はい。そうですね」
何だろうこの人、卯ノ花さんにどこか雰囲気が似ている。なるべく逆らわないようにしようと、直感的に思った。
「さてと、今みんなが来たところだし、そろそろ行こうかしら」
「みんな?」
「そうよ。来たら分かるわ。もう、立てる?」
紫がそう言うと一護は「ああ」と言い立ち上がった。
それを見た紫も立ち上がり、居間の方に向かったのだった。
*
一護はその後、紫にここが迷い家の八雲家だと聞かされた。
中は純和風の日本屋敷で、現在は紫と、式神の八雲藍、その式神の橙、そして居候のグリムジョーの四人暮らしのようだ。
とても四人にしては広い内装をしている。
そして一護と紫が、この家の居間に行くと確かにみんながいた。
霊夢、魔理沙、幽々子、妖夢の四人だ。藍と橙、グリムジョーはどこかに出掛けているらしい。
霊夢には勝手に行ったことを怒られ、魔理沙には負けたことに対し笑われ、幽々子には楽しそうに励まされ、妖夢にはちゃんとした励ましの言葉を頂いたが少し怒られた。
そんなやり取りをした後、六人はテーブルを囲むようにして座る。
「……で、私達はそろそろ此処からお暇したいんだけど」
霊夢が少しイライラしながら口を開いた。
「別にいいじゃない。ゆっくりして行こうよ。ここのお菓子、とても美味しいわよ」
「あんたはなに出されたお菓子を余すことなく食べてるのよ」
「あら、ごめんなさい。紫、おかわりある?」
「元はといえば、あんたが勝手に了解しなければ、こんな事にはならなかったのよ」
睨みつけるように言う霊夢に、幽々子は「怖い目しないでよ~」と微笑みながら言った。ピリピリした雰囲気と、ホワホワした雰囲気が入り混じった空気が居間を支配している状態だ。
そんな中、空気を読まない魔理沙が横から言う。
「まぁまぁ、ゆっくりしようぜ霊夢。帰ったってする事ねぇだろう。どうせ1日中、暇してんだからさ」
「何ですって」
魔理沙がいちいち癇に障ることを言う。
これでまた霊夢が怒り出した。
一護は溜息をつき、妖夢が霊夢を宥める。
その姿を見た紫は微笑み、霊夢に声を掛けた。
「あなたが今の博麗の巫女なのね」
その事を言われた霊夢は怒りを抑え、紫の方を見て頷く。
「そう。とても面影があるわ」
「……あんた、私の母様を知っているの?}
「ええ、とてもね。あ、当然だけど父親の事も知っているわよ」
「……何が言いたいわけ?」
紫のセリフから、あまり主旨が見えてこない。
確かに自分の母と父を知っていたことには驚きを隠せなかったが、紫の言い方を聞くにどうにも他の何かを言いたがっている。
故に主旨を問うた。
紫は言いづらそうにしたが、直接的な固有名詞を出して言った。
「――
その単語に霊夢、一護、魔理沙が目を見開く。
幻獄七夢卿は紅霧異変の時に現れた、危険極まりない連中だ。
刹蘭、そして元幻獄七夢卿のルリミア。
この二人はレミリア達と共闘しても敵わなかった相手であり、文字通り次元が違う敵であった。
「その反応を見るに、どうやらご存知のようね」
「あんた、あいつ等の事を知っているの?」
霊夢がさっきとは打って変わって真面目な表情になり聞く。
「ええ、少しだけね。知りたい?」
「……聞かせてもらおうかしら」
どうして紫がこの話を切り出したのかは分からないし、なぜ知っているのかは分からないが、先ずは奴等のことを聞きたい三人は追求しない。
そして、紫は口を開き話し始める。
「幻獄七夢卿とは、たった七人で構成された幻想郷の裏組織よ。この七人に上下関係は一切無くて、仲間意識も無い、当然組織力も無いわ。だけど、一人一人の実力は恐ろしく高い」
幻獄七夢卿の力は片鱗程に過ぎなかったが、身をもって味わっている。
「この七人が一体何の目的でこの組織に在籍しているかは分からないわ。ただ、少しだけならメンバーの事について知っている。聞きたい?」
「さっさと言って」
「……幻獄七夢卿は非常に危険な思想を持った連中だから、聞いたことのある人がいるかもね。まずは刹蘭という男は知っている?」
紫が聞いてくる。
その男……刹蘭は三人共、嫌でも記憶に残っている。
「あの男はあくまで私の予想だけど幻獄七夢卿に進んで入って一番活発に動いている、と思うわ。何せ刹蘭は過去に幻想郷の博麗大結界を消滅させようとした人物だからね」
「!……そんな事をしたら幻想郷が大変な事になるわよ」
霊夢が反応した。
「そうね。けど奴の作戦は失敗に終わったわ。あなたの母親と父親のお陰でね」
「っ! 母様と父様が……!?」
「ええ。現時点、刹蘭がなぜ博麗大結界を消滅させようとしたかは分からないけど、これについては今は保留ね。絶対的な確証がない限りは」
紫は、話を続ける。
「そして他の幻獄七夢卿のメンバーだけど、私の知る限りになるけど、刹蘭はもちろんの事……ブギーヴァルトという男は大量の人間と妖怪を殺した殺人鬼。
続いてリフィトオールと言う男は禁忌に必ず入るような術を数多に創り行使した天才術師と聞くわね。
そしてもう一人知っているのは、断霧鏡帥。噂に聞くと彼は幻想郷には存在せず、今は外の世界の裏社会を牛耳っていると聞くわね。
私の知っている奴はこの四人だけよ。残りの三人は全く情報が入ってこないわ」
ちなみに、ルリミアの穴埋めは既にされているらしい。
「聞いた四人だけでも、かなり危険だぜ。リフィトオールって男は、私でも知ってるくらいだからな。悪逆な情報が多いって聞くぜ」
魔理沙が少し震え上がる。
「ああ、かなりヤバい奴等だな」
「そうね。幻想郷からは即刻退場してほしい連中ね本当」
二人も魔理沙と同じ反応をする。
幻獄七夢卿を知らなかった妖夢も、その事を聞いてとても驚いていた。対する幽々子は既に認知していたのか、それ程までに驚きはしないものの景気の良い表情はしていない。
「因みに、さっき言った断霧鏡帥は幻獄七夢卿から脱退したらしいわ」
紫が付け加えるように言った。
「で、なぜ私がこの事をあなた達に話したかというと、幻獄七夢卿の刹蘭が再び活発に動き始めているからよ」
その発言に対し、神妙な面持ちとなる一護と霊夢。
「また、あいつが来るのか」
「まだ時間はあるわ。あの男だって二度目の失敗は絶対にしないはずよ。二度目の失敗をしないという事は、それなりに時間も掛かると思うわ。年単位でね」
「何でそんな事が分かるんだよ?」
「昔、失敗した際は百年間の準備を整えてきていたの。今回はもっと掛かるはずよ。だって――今の方が昔より状況的には刹蘭にとって最悪だからね」
最後の方は誰にも聞き取れない域で、小さく呟いた。
「……俺の出番無くなるんじゃねぇの?」
百年以上、という事は一護はおろか霊夢の寿命も尽きているだろう。
「油断は禁物よ。もしかしたら、十年後になるかもしれないし、明日になるかもしれない」
刹蘭の動きは、例え預言者であっても分からないだろう。そもそもあいつは、そういう存在だ。
「――まぁ、そう考えてみたけど、やっぱ俺は刹蘭と戦うと思う。嫌でもな」
「どうして?」
紫がキョトンとした顔で聞く。
「あいつは俺を頂きに来るって言ってた。だから俺はあいつと嫌でも戦うことになる……と思う」
たしかに紅霧異変の時、刹蘭は黒崎一護を頂くと言った。
即ち、一護は刹蘭と戦う確立が高い。
「……何故、あなたを頂くの?」
「さぁな、俺もよくわからねぇんだ。けど、次に会ったら俺があいつを、絶対に倒す」
最後の誓を終え、これにて春雪異変の幕は全て降りたのだった。