東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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ほぼ昔のコピペなので、更新を早くして、早く終わらせます。




第25斬【壱の絶望と弐の絶望】

≪1.1≫

 

 ――長い夢を……見ていたような気がする…………

 とても長い……幻想的な夢を………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

「グッモーニンッ! イッチゴーッ!!」

 

 深い微睡みを打ち消すように、父親の一心の大声と足音が聞こえてくる。

 その音が一護の鼓膜を叩き、一気に目を覚ます。

 

「……うるせぇ」

 

 ベットから起き上がり、部屋の扉を開け入ってくる一心を、顔面に蹴りを入れ撃退する。とても父親に対する行為ではないが、二人の間にこの程度のスキンシップは日常茶飯事なのだ。

 

「毎朝毎朝うるせぇんだよ」

 

 一護は倒れた一心を一瞥し、部屋から出て行った。

 下の階から妹の遊子と夏梨の声が聞こえてくる。二人共、既に朝の支度を終えているのだろう。朝の面ではしっかりものの黒崎家である。

 一護は階段を下りリビングに向かう。

 

 リビングに入ると遊子と夏梨に朝の挨拶をし、テーブルに着く。既に遊子は朝食を作り終えており、主婦顔負けの腕前である。本当、父親に似なくて良かったと常常思う一護であった。

 対する夏梨は行儀がよく、とても小学生には見えな落ち着きがある。

 

「……時々、思うんだけどよ。遊子も夏梨も母親似だよな、どっちかっつうと」

 

 一護がテーブルに付きながら、ふと思ったことを口にした。

 

「いきなりなんだよ一兄。まぁ、アレと似ているとは思いたくないけどさ」

 

 夏梨が味噌汁をすすりながら、父親のことをアレと呼ぶ。とても酷い言い方だが、これも黒崎家では別段、叱責する点ではない。

 

「そういえば、お父さんに似ているのって、多分お兄ちゃんだけなんじゃない?」

「俺かよ!?」

 

 遊子の言葉に少し凹む一護。確かに外見も髪の色を除けば、どちらかと言うと父親似であり、性格も母親とは程遠いだろう。

 

「あ~、うん、遊子の意見にあたしも賛同だね。あたしと遊子より一兄の方が髭達磨に似てるかも」

 

 次はアレから髭達磨に少し昇華された。しかし一護の心は下落した。

 

「ふるんじゃなかった」

 

 落ち込む一護の前に一心が話を盗み聞きしていたのか……

 

「我が息子よ、この俺と似ているのがそんなに嫌なのか!?」

 

 と、飛び蹴りと同時に言い放ってきた。

 一護はブチッ、眉間に青筋を立たせ、

 

「お前ェの、そういう態度が嫌いだつってんだよ!」

 

 軽く一心の飛来してくる両足を受け止め、そのまま廊下の方まで放り投げたのだった。

 そんな中でいつも通り朝食をとり、一護は部屋に戻り制服に着替える。

 そして、遊子たちとは一足先に家から出た。

 

 これが、いつものの朝の日常だ。

 

   *

 

 少し早めに家を出すぎた一護は、少し遠回りをして学校に向かう事にした。

 一護は公園へと足を踏み入れる。

 視界一杯に桜の木が目に映る。

 もう少しで春。桜の木はまだ蕾もなっていないが春になると沢山の桜を咲かせる。

 そこに色んな人々が花見をしにやってくるのだ。

 一護はここを気分転換も兼ねて歩きながら、朝の騒がしい時間をどうにか落ち着かせる。

 

 この公園は学校の通学路から大きく跨るように位置する公園。

 学校に行くのに、この公園の中を通るのは遠回りになる。

 だから学生でこの公園を通る者は滅多にいない。いるとすれば、学校を意図的に遅刻しようとしているものか、この公園でサボる生徒くらいであろう。

 一護はゆっくりと足を動かす。

 舗装された公園の道を歩き、もう直ぐ公園の出口が現れる所まで来た。

 一護は普通に公園から抜けるはずだった。

 ――そう、普通に抜けるはずだったのだ。

 

「ッ!!」

 

 一護の目の前に、いつもの景色を遮るように、いつもの景色を切り取るように、突如一護の前に現れた。

 

「何だよ……これ……!?」

 

 何かは分かる。

 だが、何で〝こんなものがここにあるのか〟は理解できない。

 黄色いテープで囲われた物。

 その囲われた中にある青いシート。

 その青いシートがテントのようになっている。まるで、その青いシートの中を見えないようにする為に。

 一護の心が真空になったかのように、周りの音が全て遠のく。

 

「……ッ!」

 

 一護の視線が自然とその青いシートの下にいく。

 そこには引きずったような……這ったような……真紅の色。

 その真紅の生々しい紅は紛れもない血。その血の筋先に青いシート。そのシートに隠されているものは…見てはいけないモノ……?

 一護は、直感的にシートの中に何が有るのかが分かった気がした。

 

「ちょっと、そこの少年!」

 

 突然後ろから声を掛けられた。

 一護が後ろを振り返ると、そこにはひと目で警察と分かる人がいた。

 

「この公園は現在立ち入り禁止になっている。何処から入った?」

 

 警察の人が困ったような表情で聞いてくる。

 

「は、立ち入り禁止……? いや、普通に入れたぜ」

「何?」

「あっちのの出入り口から入れた。立ち入り禁止とか、そんなもん全然してなかったぜ」

「チェック漏れがあったのか……?」

 

 どうやら警官の不注意だったようだ。

 

「…………」

 

 一護は黄色いテープの周りをよく見る。

 気付かなかったのか、何人か警察官がいた。この現場の異様さに圧倒され気付かなかったみたいだ。

 さっきの警官が他の警官に出入り口のチェック漏れの事を伝えている。警官なのか、周りの警官とは少し服装が違う。多分、刑事とかいう人だろう。

 この公園は空座町で一番広い公園なので、出入り口も沢山ある。

 ちょうど一護が入って来た所だけチェックから漏れていたんだろう。

 

「あの、すいません。そろそろ学校に行かねぇといけないんすけど」

 

 この公園での事で時間を忘れていた一護は近くにあった時計台の時間を見て言った。

 そろそろ行かないと結構やばい時間に差し掛かっていたのだ。

 警官が一護の方を向き口を開く。

 

「……君は空座一校の生徒か?」

「はい、そうですけど」

「そうか、ちょっといいかな」

 

 警官が一護の学年や住所などを聞いてきた。

 それに一護は答える。

 これで、この場は通してもらえるらしい。

 本来なら事情聴取をしなければいけないんだが、今回は見逃してくれた。

 一護は異様な空間から逃げ出すように公園を出た。

 

   *

 

 公園で多少のタイムロスがあったが、予鈴が鳴るまでには間に合った。

 学校に着いた一護は上靴に履き替え、教室に向かう。

 その途中で、友人でありクラスメイトの小島水色に出会った。

 

「おはよ一護」

「おーす、水色」

 

 二人共、挨拶を交わす。

 と、廊下の奥の方から一人の男が走ってくる。

 

「い~~~ち~~~ご~~~~!!」

 

 その男は大きい声で一護の名を叫んでいる。

 そいつの名は同じく友人でありクラスメイトの浅野啓吾。

 いつも朝、一護にハイテンションで駆け寄って来る男。テンションのレベルなら一心とタメを張れるであろう。

 

「お~す」

 

 一護はそう言った人間の対処法を熟知している。それ故に腕を啓吾の顔面に当て、動きを止める。さながら一心の時と同じように。

 啓吾はその衝撃で廊下に倒れた。

 一護はその状態の啓吾を無視し、教室に向かった。

 

「全く、毎度毎度しょうがねぇな」

 

 一護はそう言い、教室に入る。

 教室に入ると井上織姫が「おはよう、黒崎くん!」と挨拶をして来る。

 啓吾とまではいかないが、井上も中々朝からテンションが高い。

 他にも幼馴染の有沢竜貴や茶渡泰虎も一護に挨拶を交わす。

 

 一護は一応頑張って公園での事を忘れようとしていた。

 そして、朝のホームルームが始まる。

 担任の越智美諭は、教卓に立つと珍しく真面目な表情で口を開く。

 

「本来だったら、体育館で全校生徒の前で伝えるべきだったんだが、教室で伝える事になった」

 

 先生のセリフに教室内がざわめく。

 

「ほら、静かにしろー」

 

 なぜか一護は内心嫌な予感がしていた。

 あの公園での映像が頭に過ぎる。

 

「今日の明朝、すぐそこの公園で殺人事件が起きた。警察が言うには通り魔の犯行の線が強いらしい。登下校の際はなるべく一人ではなく複数で帰るように。先生たちもPTAの方々と協力して見回りは強化するから安心しろ」

 

 ――通り魔。

 一護はどうしてか、ただの直感だが、通り魔が犯人では無い気がしていた。

 

 そんな公園での事のせいで授業は殆ど上の空。

 そして、放課後。

 井上がそんな一護を心配して歩み寄ってきた。

 

「黒崎くん。大丈夫?」

「ん、何がだ井上?」

「今日ずっと元気無かったから」

「何だ、そんな事かよ。心配すんな。いつも通りだ」

 

 そこで一護はふと、あの事件の事が聞きたくなった。

 

「井上は、朝の殺人事件の事について何か知らねぇか?」

「え、どうして?」

「いや、知らねぇんだったらいいや。悪い、忘れてくれ」

 

 一護はそういい帰り支度をし、教室から出ようとした。

 

「待って、黒崎くん!」

 

 教室から出る直後に井上に呼び止められた。

 

「少しだけなら、噂くらいの事なら知ってるよ」

「本当か」

「うん。女の子って基本的にそういう話が好きな子が多いから」

 

 確かに、女性は世間話や噂話が好きな子が多い。

 それにコンビニ等の女性誌コーナーはホラー関連の漫画や雑誌をよく見かける。

 そういうのに精通している子が沢山いても何ら可笑しくない。

 

「だから、色々と変な噂は聞いたんだ」

「例えば……」

「例えば、今回の殺人犯は郊外の精神病院から脱走した人なんじゃないかって……」

「精神病院か……」

 

 空座町の郊外には、かなり古くからある少し大きな精神病院がある。

 その精神病院から脱走……。

 

「あと、精神鑑定で罪に問われなかった人が、脱走したって噂が…」

 

 TV等で騒がれるような凶悪犯罪や少年犯罪を見ていると、二言目には精神鑑定だ。

 犯罪が凶悪で常軌を逸していればいるほど、精神鑑定で無罪になってしまう気がしない事はない。

 確かに、郊外の精神病院にそういう人間が入院していても可笑しくは無い。

 でも、そんな事が起きているなら、噂だけで済むとは思えない。警察が直ぐに嗅ぎつける。

 

「それから、これは結構良く聞く話なんだけど…」

 

 井上が言うか言わないか悩んでいる。

 此処まで聞いたら最後まで聞きたい。

 

「言ってくれ」

「うん。上から下まで真っ黒な服を着た人が、建物の影から、じっとこっちを見てるって話……」

「あ~、何かそんな話を聞いたことはある。たしか〝闇夜の男〟だっけ」

 

 一護自身、そういう霊関係以外の事はあくまで噂や都市伝説程度の事だと思っている。

 

「ずっと前から噂はあったけど、最近になってその〝闇夜の男〟を見たって人が多くなってるんだって」

「!?……」

 

 一護はその事に少し驚く。

 

「背が高くて、全身黒くて、不気味な仮面を付けてるみたいなの」

 

 噂話にしては具体的すぎる。

 精神病院の噂もあるし、どこかで繋がっているのだろうか?

 

「他には何かねぇのか?」

「うん。これだけ。何で、黒崎くんがそんなに今日の事件の事を気にしてるの?」

「いや、ただの興味本位……かもな。近くで人が殺されたら気になるだろ」

 

 一護はそういうと「じゃあな井上」と言い、教室から出た。

 啓吾に一緒に帰ろうと言われたが、今日はそんな気になれなかった。

 

   *

 

 自然に足が公園の方に行ってしまった。

 警察による現場検証が済んだようだ。

 公園全体に対する立ち入り禁止の措置は、既に解除されていた。

 あの場所に行くと、変わらずテープで囲われ、警察が立っていたが、朝の雰囲気とは違っていた。

 野次馬が沢山いるのだ。

 まぁ、居ても仕方ない。

 朝と全く同じ状態なのに、朝の緊迫感が殆どない。

 

 あの青いシートの向こう側に人の死体……もとい、その遺体はもう無いだろう。

 いつまでも野晒してはおけないだろう。

 シートの奥を詳しく調べてみたいが殺人事件があった当日に、その現場で怪しい行動をとる訳にはいかない。

 そんな怪しげな行動を取ったら、犯人に間違えられても弁明のしようがない。

 それに調べる理由なんて一護にはない。

 こういう状況に直面していると、小説や漫画で出てくる探偵っていう人は本当に特殊な存在だと分かる。

 犯行現場に踏み入って、勝手な事を抜かしまくっても、全然怪しまれないからだ。

 

「まぁ、俺が何かしたところで重要な証拠が見つかる訳ねぇし」

 

 警察が見落としてしまうような証拠が有ったとしても素人の一護に見つけれる訳が無い。

 一護はそのまま家に帰った。

 

 

≪1.2≫

 

 遊子と夏梨も学校で殺人事件の事を聞かされていた。

 夜のTVニュース番組は火災や交通事故など、あまり興味の引かないものが流れた。

 当事者にとってみれば大惨事なんだろうけど、TVのこっち側の人間にとっては等しくニュースになって消費されてしまう。

 今日の殺人事件もこういう視点で見てしまえば、ありきたりなニュースの一つになってしまう。

 いくつかのニュースを見ていると、公園での殺人事件のニュースが流れた。

 他の事件ニュースと殆ど相変わらず流れる。

 殺されたのは女性だったようだ。

 一護にとっては衝撃の出来事だったが、TVの放送を見る限り、それ程大きく報道されていない。

 

 この日、一護は精神的疲労が高かったのか早めに就寝した。

 

   *

 

 そして、次の日の学校にて。

 一護は事件の事を忘れられなく、石田から少し情報が有ると思い話しかける。

 

「石田、昨日の殺人事件のことで何か知らないか?」

「生憎と僕にそっち関係の事を聞いても、キミの期待している答えは返ってこないよ」

 

 そっち関係……多分、人間関係の事と霊関係の事のことだろう。

 石田は滅却師、霊関係の事には精通しているが、人間による事件はあまり詳しく知らないようだ。

 

「それじゃ、殺された人の魂魄から情報を得る事はできねぇか? 殺されたんならきっと未練が残ってて、この辺に居るかもしれねぇだろ」

 

 一護は死神の力を失ってから、霊などを見ることは不可能となってしまっている。それ故に、こういったことは霊感の強い、もとい精通している人間に聞くのが一番だ。

「すまないが、僕もその程度のことはとっくにを試みた。だが、殺された人の魂魄は見つけ出すことはできなかった」

「何!?」

「理由は知らないが、成仏したんだと思うよ」

 

 唯一情報を得られると思った一護の期待は綺麗に潰された。

 一護は諦め、そのまま去ろうとしたが石田に声を掛けられる。

 

「黒崎、キミはなぜそんなに今回の殺人事件に首を突っ込もうとするんだ? 昨日、井上さんにも事件の事を聞いたらしいじゃないか」

「さぁな、俺にもよく分かんねぇんだ」

 

 首を突っ込む理由は自分でも本当によく分からない。

 事件現場に偶然居合わせたからなのか、それとも自分に今回の何かが降り掛かろうとしているのではないかと予感しているのか。

 

「まぁいい。キミに丁度良い情報を与えよう」

 

 石田の台詞に一護は少し期待する。

 

「パソコンのとあるネットワークのサイトに、報道されていない事件の詳しい情報を得る事の出来るサイトが有るんだ。そのサイトならより詳しく事件の事を知る事が出来ると思うよ」

 

 ネットによる情報。

 本当か否かは分からないが、見て損は無いだろう。

 

「そのサイト名は?」

「たしか――廃絶の理」

 

 

 サイト名を聞いた一護は早速、放課後に学校にある情報室のパソコンを使い調べる事にした。

 勿論、先生の許可を得た上で。

 一護は情報室に入ると、パソコンを立ち上げた。

 ホームにいくと、石田に教えて貰った廃絶の理のURLで検索し、ページに飛ぶ。

 廃絶の理とはニュースサイトで報道関係者でもない一般の人が、様々なホームページを毎回巡回し情報を収集して、自分のアンテナに引っ掛かったニュースを簡単なコメントと共に紹介しているものらしい。

 その中で廃絶の理とは結構有名なニュースサイトとして多くの人に知られているようだ。

「断華」という、本名なのかハンドルネームなのか、よく分からない名前の人が作っている。

 ズラッと並んだニュースへのリンク。

 リンク先のページを読むだけで、最近ネットで話題なものはチェックできる。

 よくこれだけの更新を毎日できるものだと感心する。

 こんなものを毎日更新できるなんて一護からしたら超人か、超暇人のどっちかだ。

 

 この廃絶の理は数あるニュースサイトの中でも、群を抜いて収集するニュースの数が多いみたいだ。

 単純に多くのニュースに眼を通したいのなら、新聞社のサイトとここを見れば充分だ。

 時事的なニュースをチェックし、今度は今回の公園での殺人事件に関する情報がないか、探してみた。

 …………探していた事件の記事を見つけた。

 そこには発見された時刻や死亡推定時刻、被害者の詳細、事件が起きた地区の事などが事細かに書かれている。

 しかも絶対に報道されない――〝死体の写真〟まで掲載されていた。

 一護はそれを見て気分が悪くなった。

 こんなものを掲載してなぜ消されない。

 

(このサイトはアングラかよ……?)

 

 アングラとはアンダーグランドの略。

 つまり地下だ。

 アングラのニュースサイトは突っ込んでいかないようなところまで、情報を集めてくる事で有名だ。

 毎日見ていると気が滅入るようなサイトである。

 だから、たまに見るのが丁度良い。

 もしかしたら、このサイトはアングラに近いサイトなのかもしれない。

 取り敢えず、一護は死体の写真を見ないように写真の横に書いてある記事を読む。

 内容は昨日見た報道より詳しい事が書いている。

 殺された人は鋭利な刃物で切り刻まれ、殺されたようだ。

 腹を真一文字に深く切られ内臓が飛び出し、それから眼球を抉られ、喉の奥を抉られ、性器を抉られ、脳を抉られ、内臓を抉られていたようだ。

 こんな殺し方は、あまりにも非道だ。

 本当に殺人犯が人間なのか疑いたくなる。

 一護は読んでいるだけで吐きそうな位、気分が悪くなった。

 そして、同じような事件が〝数十年前にも空座町で起きた〟らしい。

 あの時の犯人は未だに捕まっていない。

 一護は過去のその事件を調べるのは止めた。

 もう精神的にきついからである。

 

「石田の野郎、何でこんなサイト知ってんだよ?」

 

 今さらだが、そんな疑問が頭に浮かんだ。

 一護はブラウザを閉じ、システムを終了させモニターの電源を落とす。

 そして鞄を持ち、時計を見る。

 夕方の6時過ぎ。

 もう最終下校時刻前だ。

 一護は情報室を後にし、鍵を職員室に渡し、帰路についた。

   

   *

 

 家に帰る途中、迷子の男の子を見つけた。

 泣いている。

 どうやら、親と逸れたようだ。

 一護はその子を連れ、交番に届けた。

 そんな事で時間を費やし、見れば夜の7時になっていた。

 夜の7時までに家に帰らないと父親の一心が煩い。

 黒崎家の夕食は毎晩7時と決まっている。7時を過ぎると一心の血の制裁を喰らう事になる。最近は喰らっていないが。

 一護は早足で暗くなった夜道を歩きながら家に帰る。

 

 そして、一護は異変に気付く。

 家の明かりが全く点いていないのだ。

 普通なら電気が点いていて当然の時間。

 一護は不審に思いながらも家の玄関を開け、中に入る。

 物音一つしない。

 その静けさが少し恐怖心を抱かせる。

 廊下が暗くてよく見えない。

 だから電気を点けようと、スイッチを入れるが電気が点かない。

 ブレーカーでも落ちているのかと思うが、何かおかしい。

 一護は靴を脱ぎ、リビングに向かう。

 何処かに出掛けているのだろうか。

 

「ッ!!」

 

 リビングに向かう途中、一護は急に異様な感覚に襲われた。

 この感覚はあの時の、昨日の公園での殺人現場で圧迫されたような感覚。

 一護の頭に一瞬、昨日の殺人現場の光景が鮮明に蘇った。

 その時、一護はまさかかと思った。

 そのまさかは外れて欲しい。

 一護は早足で歩き、リビングの扉を開ける。

 

 開けてしまった事を……一護は後悔してしまった。

 暗闇に眼が既に慣れていた一護の眼に最初に映ったのは、赤い紅い液体。

 例え、暗闇に眼が慣れていなくても月明かりがリビングの窓ガラスから侵入していて、よく見える。

 その液体が部屋中に飛び散っている。

 ソファやテーブル、テレビ、窓ガラス、壁、カーテン……彼方此方にだ。

 一護の視線が下の方に移る。

 下の方に視線を絶対に向けたくは無かった。

 けど、見ないと何も言えないし、何も考えられない。

 床には赤い水溜り。

 その水溜りの先に一つの影があった。

 それを確認し、それが何なのかを理解した一護は声にもならない悲鳴を上げた。

 そう、その影は紛れもない遊子だった。

 遊子が床の赤い水溜りに浸かる様に倒れている。

 一護は遊子に駆け寄ろうとする。

 だが、一歩足を動かした途端、足で何かを蹴ってしまった。

 柔らかくて、少し重い物。

 一護はゆっくりと蹴った物を見る。

 それは血だらけの黒崎夏梨だったものだった。

 

「うわぁぁああアアアアアアアアアッ!!!」

 

 一護は叫んだ。

 妹が二人共死んでいる。

 それを理解してしまった一護の胃が跳ね上がる。

 苦くて酸い液体が食道を上がってきた。

「げえぇ…ッ!」

 一護は胃の中の物を吐いてしまった。

 あまりの事に足が竦む。

 手や足が痺れたかのように力が入らない。

 一護は深い悲しみより、恐怖感の方が強かった。

 そのお陰か、一護は前からする微かな物音に気付けた。

 

 一護は音のした方を見る。

 そこには異様な物が立っていた。

 それが人だと分かった時には全てが遅かった。

 全身黒ずくめの男が動いたかと思うと、一護の視界が完全なる闇へと堕ちる。

 

「テ……」

 

 テメェと叫ぶつもりが、その刹那より前に一護は声を失った。

 真なる闇に銀の一閃。

 何かが一護の喉に当たった。

 黒衣の男は一護の喉に手を伸ばしている。何かが喉にめり込んでいる?

 男は一護の喉をついたそれを半回転させる。

 ゴリッという音と共に喉に液体が溢れた。

 それは刺さっていた。

 

「げ……はっ!」

 

 液体と共に強烈な不快感と焼けるような熱さが湧く。

 

「う……ぁ、げはぁっ……げぇ……」

 

 男は一護の腹を蹴り、廊下に出す。

 焼ける液体が喉と鼻に溢れる。

 一護は足が無くなったかのように、そのまま膝を折り倒れた。

 

(これは……血だ……!)

 

 一護はそれが何なのかを理解した。

 

「げ……うぅ……!」

 

 ごぼごぼと泡立った血を吐き出す粘液と赤黒い血液が混じり合う大量の血。

 喉に残る違和感、痛みでは感じない焼けるような感覚と強烈な不快感に残る。

 これはナイフ? メス? 意識した瞬間、ようやく遅れた激痛がやってきた。

 

「うげぇ……げ、げはっ!!」

 

 突っ伏したまま大量の血を吐き捨てる。

 言葉にならない激痛。神経が寸断されるかのような感覚。だが、痛みが戻ったお陰で一護の意識が少しだけ鮮明になる。

 目の前に黒衣の男が立っていた。

 

(クソ! 畜生! クソクソクソクソォッ!!)

 

 一護は男を睨みつける。

 出血が多過ぎるせいか眼が霞んでよく見えない。

 だから男の姿が詳しく分からない。

 男は一護を見据えている。

 そんな男の姿を見ている一護の憎悪が激しく高まる。

 

(許さねぇ! 許さねぇ! 許さねぇ! こいつは殺す!! 絶対に殺してやる!!!)

 

 一護の憎悪の念が更に強くなる。

 ここまで相手に対して殺意を覚えたのは、人生上一回もなかった。

 頭の中がジンジンと熱く感じる。

 まるで脳が赤熱化した鉄に変わったようだ。

 怒りと殺意のみが一護の生を実感させている。

 男は一護の喉に刺さった物を抜き取る。

 一護は一瞬苦悶の声を上げた。

 そして、男は抜いた物を一護の脳天目掛けて振り下ろした。

 一護が最後に聞いた音は自分の脳に何かが刺さった音。

 今までの痛みが嘘だったかのように消えた。

 

 

 ……全てが闇に堕ちる。

 

 ――一護の世界が消えた。

 

 

≪2.1≫

 

 ――長い夢を……見ていたような気がする…………

 とても長い……嫌悪感に満ちた夢を………………………………

 

 

 ――…………!!!!

 

 朝・黒崎家――

 一護が目を大きく開け、目を覚ます。

 

(……夢を、見ていた……ような気がする。とても……嫌な夢を……)

 

 その証拠に起きたばかりの一護の身体は、汗でびっしょりと濡れていた。

 今の季節は冬。

 こんなに寝汗をかくほど、暑い夜ではない。

 起きたばかりなのに、どっと疲れた感じがする。

 

(どんな夢だったっけ……。思い出そうにも、全く思い出せない)

 

 とても嫌だった、という余韻しか残っていない。

 ふと、顔に触れると、頬が涙で濡れていた。

 

「……ふぅ」

 

 朝から夢で落ち込んでいても仕方ない。

 服の裾で顔を擦る。

 一護は深呼吸をして気分を入れ替えた。

 時計を見る。

 少し早めに起きたようだ。

 一護は制服に着替え、下の階に向かう。

 

 一階に行きリビングの扉を開ける。

 

「あ、おにいちゃん! おはよう!」

「おはよう、一兄」

 

 妹の遊子と夏梨が一護に挨拶する。

 いつもの二人の声。

 毎日聞いている遊子と夏梨の声だ。

 

「おう、おはよう」

 

 分かっていた。

 毎日必ずする挨拶なのだ。

 今更驚く事など何も無いはずだ。

 

(なのに……何だ……この違和感は)

「……どうしたの、一兄?」

 

 夏梨が一護の様子がおかしい事に気付いたようだ。

 

「いや、何でもねぇよ。顔洗ってくる」

 

 一護はそういい、風呂場の洗面台に向かった。

 洗面台の前に立ち蛇口を捻る。

 胸にわだかまるもやもやを消し去る為に、勢い良く冷水で顔を洗った。

 寝汗をかいていたせいか、洗顔がいつもよりも気持ちよく感じた。

 

(それにしても、あの違和感は一体何だったんだ……? 昨日の出来事で思い当たる事はない。やっぱ夢が原因か……)

 

 一護は夢を思い出そうとする。

 そして、夢を思い出そうとした瞬間、胸の奥がグッと苦しくなるような感覚に襲われた。

 

「く……ッ」

 

 形容し難い不快感が身体の奥をゆっくりと蠢く。

 不吉な予感が実体を持とうとしているような、曖昧かつ濃厚な気持ち悪さ。

 一護はもう一度冷水で顔を洗い、落ち着きを取り戻そうとする。

 

(これは……精神的なものだ)

 

 病気や怪我といった具体的な害ではない。

 一護はタオルで顔を拭く。

 その時には不快感は消え、若干の精神的な疲労だけが残った。

 

 一護がリビングに戻ると、既に朝食が出来ており食卓に着いた。

 いつも通り朝食をとり、遊子たちとは一足先に家から出て、学校に向かった。

 

 家から出ると、太陽が一護を照らし出し、ゆっくりと空を仰ぎ見た。

 今日も快晴。

 突き抜けるような青。

 空を高く広く感じる冬。

 いつもと変わらない冬の空……それなのに。

 

(どうしてこんなに、空虚に感じるんだ)

 

 それに目の前にいた遊子と夏梨もあのまま霧散してしまいそうな程、儚い存在に感じた。

 あの時、なぜか涙が出そうになった。

 

(一体どうしちまったんだろうな、俺は)

 

 一護は足早に学校に向かった。

 

   *

 

 少し早めに家を出すぎた一護は少し遠回りをして学校に向かう事にした。

 ついでに気分転換もかねて。

 公園に足を踏み入れると視界一杯に桜の木が目に映る。

 

(…………!)

 

 強烈な違和感が一護の中を走り抜ける。

 見慣れた道が、まるで異界に通じる禍々しい通路のように感じた。

 朝日が道を照らし、まだあまり木に葉が生っていないが、見る人が見れば綺麗な公園だ。

 だが、その綺麗な公園の皮を剥げば、底知れぬ闇が溢れ返ってくる。

 そんな印象を一護は受けた。

 

(一体……どうしてそんな印象を受ける……!?)

 

 一護の足が止まる。

 この先に行っては駄目だ。

 一護の何かがそう叫んでいる。

 

 でも、どうして……?

 ……理由などは無かった。

 でも、此処を通らないと学校には行けない。

 行けるには行けるが遅れてしまう。

 一護は自分の不自然な考えに戸惑いが隠せない。

 

「ったく、訳分かんねぇ」

 

 一護はまとわりつく暗い澱みから逃げ出すように、足早に歩き出した。

 理由も定かで無い妙な感覚に振り回されるのが不快で仕方なかったのだ。

 

「…………っ!?」

 

 目の前に広がる異様な光景。

 黄色い立ち入り禁止のテープに囲われた空間。

 青いシートに隠された死体。

 俺は、これを――

 

(知っている……?)

 

 なぜ、知っているのだ?

 

「ちょっと、そこの少年!」

 

 突然後ろから声を掛けられた。

 一護が後ろを振り返ると、警察の人がいた。

 

「この公園は現在立ち入り禁止になっている。何処から入った?」

 

 警察の人が困ったような表情で聞いてくる。

 …………?

 

(……こんな事が、前にも何処かで……あったような……)

 

 記憶に検索をかけてみても、全く憶えていなかった。

 

(……気のせいなのか……?)

 

 じゃあ、この強烈な感覚は一体……。

 

「立ち入り禁止? いや、普通に入れたぜ」

「何?」

 

 いつまでも黙っていると不審に思われるので、一護はそう答えた。

 

「あっちの南の出入り口から入れた。立ち入り禁止とか、そんなもん全然してなかったぜ」

「……チェック漏れがあったのか?」

 

 どうやら警官の不注意だったようだ。

 

「…………」

 

 黄色いテープで囲われた犯行現場の周りに立つ警官たち。

 ドラマなどで見た光景と変わらないそれは、何だか現実感が無くて、少しだけ滑稽な感じがした。

 本物っぽい、いや、本物だからこそ、嘘臭い感じが際立ってしまう気がした。

 

「あの、すいません。そろそろ学校に行かねぇといけないんすけど」

 

 この公園での事で時間を忘れていた一護は近くにあった時計台の時間を見て言った。

 そろそろ行かないと結構やばい時間に差し掛かっていたのだ。

 警官が一護の方を向き口を開く。

 

「……君は空座一校の生徒か?」

「はい、そうですけど」

「そうか、ちょっといいかな」

 

 警官が一護の学年や住所などを聞いてきた。

 それに一護は答える。

 これで、この場は通してもらえるらしい。

 本来なら事情聴取をしなければいけないんだが、今回は見逃してくれた。

 一護は異様な空間から逃げ出すように公園を出た。

 

   *

 

 ――学校での朝のホームルームが始まった。

 学校に着くと、いつも通りの友達みんなと挨拶を交わし、心を少し落ち着かせたが、ホームルームの時間になると再び違和感が少し襲った。。

 担任の越智美諭は教卓に立つと珍しく真面目な表情になっていた。

 

(何だ……? 先生が何を言うかが分かるような気がする)

 

 一護の心が平然としている。

 あの現場を見ていたから……?

 

(いや、これは今朝の違和感の延長……)

 

 いつもと変わらない朝に戸惑いを感じて、異常な光景には平然としている。

 一護の中の日常と非日常が逆転してしまったのか?。

 それが違和感と冷静さの原因か。

 あの光景を知っていた、という感覚。

 直感的にそう思ったけれど、どう頭を捻ろうとも、そんな記憶はない。

 見た事の無い場所を、いつか見たように感じる。

 

(こういうのを既視感って言うんだっけ?)

 

 そんな事を考えている内に先生が口を開いた。

 

「本当だったら体育館で全校生徒の前で伝えるべきだったんだが、教室で伝える事になった」

 

 先生のセリフに教室内がざわめく。

 

「ほら、静かにしろー」

 

 先生が出席簿で教卓を叩き、生徒のざわめきを止める。

 

「今日の明朝、すぐそこの公園で殺人事件が起きた。警察が言うには通り魔の犯行の線が強いらしい。登下校の際はなるべく一人ではなく複数で帰るように」

 

 一護はこのセリフを何処かで聞いた感じがした。

 いや、それ以前に人が死んだっていうのに、今の自分の異常なまでの冷静さに混乱してしまう。

 平穏なはずの日常に違和感を抱き、人が死んだという事実に冷静でいる自分。そんな感覚を、まともに受け止められるわけがない。

 ――通り魔の事件。

 海外の事件の話でも聞くかのように、まるでリアリティを感じる事が出来ない。

 自分の冷淡さに気分が滅入った。

 

 そんな事のせいで授業は殆ど上の空。

 そして、そのまま昼休みになり、未だに教室では事件の話で持ちきりだ。

 井上が一護を心配そうに歩み寄ってきた。

 

「黒崎くん。大丈夫?」

「ん、何がだ井上?」

「今日ずっと元気無かったから」

「何だ、そんな事かよ。心配すんな。いつも通りだ」

 

 そこで一護はふと、あの事件の事が聞きたくなった。

 

「井上は、何かあの殺人事件の事知らねぇか?」

「!?え……?」

 

 突然、一護にそんな話題を振られ少し驚いたようだ。

 女の子の持っている情報ネットワークは野郎の噂話の比ではないから、その情報源を無視する訳にはいかない。

 そういう情報ネットワークで訓練を積んで、やがて少女達はオバさんとなり、さらに情報伝達の速度を上げていく。

 局所の情報収集能力に関しては、各国諜報機関も真っ青に違いない。

 つまり、女の子の情報はバカに出来ないという話だ。

 

「こんなお話は聞いたよ。今回の殺人犯は郊外の精神病院から脱走した人なんじゃないかって……」

「精神病院か……」

「信用していい話かどうか分からないけど、精神鑑定で罪に問われなかった人が、脱走したんじゃないかって噂だった」

 

 憲法何条か忘れたけど、精神病などで責任能力がないと判断された場合、罪が問われないっていう話だ。

 でも、そんな脱走があったら、もっと騒ぎになっている。

 

「それから、これは結構良く聞く話なんだけど……。夜遅くに道を歩いていると、全身真っ黒な服を着た人が、じっとこっちを見てるっていう……」

 

 暗闇に現れる〝闇夜の男〟ってやつか。

 一護もそれは聞いた事がある。

 

「ずっと前から、そういう噂はあったよね。でも、最近になってその〝闇夜の男〟を見たって人が多くなってるの」

「……!?」

「背が高くて、全身黒くて……それから、不気味な仮面を付けてるみたいなの……」

 

 背が高くて、全身黒い……一護に悪寒が走る。

 何だか、とても嫌なものを思い出しかけた……そんな感じがした。

 井上も嫌な話をし過ぎたせいか、ひどく疲れたような顔をしている。

 

「ごめん、井上。嫌な話させちまったな」

「あ、大丈夫だよ。私、役に立てたかな?」

「ああ、ありがとな」

 

 一護は一言礼を言う。

 その会話で昼休みは過ぎ、チャイムが鳴った。

 

 それから放課後、一護は帰り支度をした。

 そこに啓吾と水色がやってきた。

 

「一護、これからゲーセン行かね。久し振りにさ」

 

 ゲーセン……そういや、最近行って無いな。

 

「ああ、構わねぇけど」

 

 これといって別に用事は無い。

 それに羽を伸ばして遊べば、変な違和感を忘れる事が出来ると思ったのだ。

 

 一護達はゲーセンに向かった。

 

   *

 

 ――夕方6時。

 一護たちはゲーセンから外に出た。

 

「いやぁ~、今日は楽しかったぜ!」

 

 ゲーセンを出た啓吾は背伸びをすると共に笑顔で言った。

 

「啓吾は万年楽しそうにしてるじゃない。悩み事とか今まで無かったでしょ?」

「酷ぇな! 俺にだって悩み事の一つや二つ……」

 

 啓吾の言葉が途切れた。

 どうやら啓吾に悩み事が無いようだ。

 

「無いんだね。羨ましいよ啓吾が」

 

 皮肉のように言う水色。

 

「ちょっとちょっと! 何で急にそんな話になるのさ! 人が楽しい気分になってたのに!」

「あ、ごめんね。つい言ってみたくなって」

 

 一護は二人の言い合いを適当に耳を傾けていた。

 と、一護が二人の話を聞いている中、一護の興味を引く話が耳に流れ込んできた。

 

「ねぇねぇ知ってる? 今日公園で起きた猟奇殺人事件って、昔にもこの町で似たような事件が合ったらしいよ」

「へーそうなんだ。昔ってどのくらい?」

「え~とね……じゅ――」

 

 二人の女性が事件の事を話しながら一護たちの前を通って行った。

 一護はその話の詳しい内容が気になった。

 

「なぁ、二人共」

 

 一護の言葉に啓吾と水色は話を止め一護を見る。

 

「何だよ一護?」

「空座町で昔、今日みたいな殺人事件ってあったのか?」

「あったよ。たしか18年前だったっけ? 知り合いから聞いた話だから詳しくは知らないけど」

 

 水色が答えてくれたが、あまり知らないようだ。

 

「俺は姉貴から聞いたんだけど、18年前に空座町で連続殺人事件と集団失踪事件があったって話を聞いたぜ。あの事件は結局解決されずに終わったみたいだけど」

「連続殺人事件と集団失踪事件か……」

 

 啓吾が中々良い情報をくれた。

 

「もっと詳しく知らねぇか?」

「え~と、たしか……姉貴が言うには……」

 

 啓吾が少し間を置き本題を話す。

 

「空座町で連続殺人が起こって、町が恐慌状態に陥ったみたいで、空座町で立て続けに起こった殺人事件は、死体をバラバラに刻む猟奇的なものだったらしいぜ。死体を隠す意味すら無いように、間隔を空けずに次から次へと人が殺されたって話しだ。まぁ、その事件も空座町に住む人々の集団失踪を境にぷっつり途切れたみたいだけど。因みに、当時その二つの事件は全国規模のニュースにまでなったらしいぜ」

 

 その大きい事件が何の手掛かりも無しのまま現在に至っている。

 

「つうか一護、何で急にそんな話しを聞いたんだ?」

「いや、何となく。ちょっと小耳に挟んだから気になっただけだ。そろそろ、帰ろうぜ」

 

 三人はゲーセンを後にし、無事、家路に着いた。

 

 

≪2.2≫

 

 次の日の朝。

 一護はすっと目が覚めた。

 昨日の不快な目覚めと比べて、かなり清々しい。

 

「い~~ち~~ごぉぉおお~~~~!!」

 

 清々しいのに、それを踏み潰すような声と足音が聞こえてくる。

 一護はベットから立ち上がり、部屋の扉を見る。

 瞬間、扉が強く開けられ一心が飛び掛かってきた。

 

「うっせぇぇぇ!!」

 

 一護は強く一心の顔面に蹴りを入れる。

 顔面に綺麗にヒットしたせいで一心の鼻から鼻血が噴出する。

 一心はそのまま床に倒れた。

 

「朝っぱらからうるせぇんだよ」

 

 倒れた一心を一瞥して言う。

 そんな言葉を聞いた一心は鼻で笑った。

 

「何だよ、元気じゃねぇか一護」

 

 一心は鼻血を垂らしながら言う。

 声柄と今の状態が全く合っていない低い声だ。

 

「は、何でだよ?」

 

 一心が何を言っているか分からない。

 

「いや、昨日お前、全く元気が無かったじゃねぇか。遊子と夏梨が心配してたぞ」

 

 成程。

 たしかに昨日の一護は妙な違和感や不安に駆り立てられていた。

 それに遊子と夏梨が気付いたらしい。

 まぁ、家族なんだから気付くのも当然か。

 

「悪ぃ」

 

 一護は一言一心に謝った。

 

「何俺に謝ってんだよ。謝るんなら遊子と夏梨に言え。俺は全く心配してなかったからよ」

「そうかよ。謝って損したぜ」

 

 何て親だ。

 一護はそう思いながら部屋を後にしようとすると、再び一心が口を開く。

 

「待てよ一護」

「何だよ? まだ何かあんのか?」

「何か、有ったのか?」

 

 有ったのか?

 一心の質問に一護は答えられない。

 昨日は変な違和感が有ったのと犯行現場に偶然居合わせただけ。

 それだけなのだ。

 一護にとって答えられる要素が無い。

 

「何も無ぇよ。少し疲れていただけだ」

 

一護はそれだけ答えた。

 

   *

 

 学校にて。

 今日は昨日とは違い授業にも身が入り集中できた。

 妙な違和感などが消えたお陰だ。

 そして放課後になり啓吾が一護に話しかける。

 

「なぁ、一護。今日もゲーセン行かね?」

 

 一護たちが行くゲームセンターは商店街にある。

 正式名称は空座レジャーワールド。

 全国に支店があり、通信対戦系のカードゲームや格ゲー、音ゲーに力を入れている感じだ。

 今、啓吾や水色、一護たちがハマっているのはダークリング~HUNTER DIE TWICE~という2D対戦格闘ゲームだ。

 キャラが特徴的なのと、ゲーム全体のバランスが秀逸で飽きない上、人気が高い。

 ネットワーク対戦機能もあるので、それを利用して一年に一度は全国大会が開催されている。

 

 そのダークリング~HUNTER DIE TWICE~に啓吾が群を抜いてハマっている。

 実の所、一番ハマっている啓吾が一番下手で、水色が群を抜いて上手い。

 井上もたつきも時々プレイしている。

 たつきは格ゲーが好きなのか水色の次くらいに上手い。

 

「ああ、そうだな」

 

 こうして昨日と同じ三人でゲーセンに向かった。

 

   *

 

 三人はゲーセンの中に入ると早速啓吾がダークリングをプレイする。

 対戦直前に自分のキャラの特性を6種類のパターンの中から選択するので、対戦が始まってみないと完全には相性の善し悪しが判明しない。

 このシステムのお陰で、簡単に絶対的な強者が生まれにくい。

 その他に、自分の位置から直線的に敵を攻撃できる追撃機能、それを途中で解除できる追撃キャンセル等、使える機能が豊富にある。

 こういった多様な機能が仇となって、初心者には向かずマニア同士の技の磨き合いになってしまっているのが現状。

 

 一護は今回は積極的にプレイせず、周りの人達のプレイを後ろから観戦している。

 なぜか何のゲームをやらせても上手い水色のプレイを観戦していると、色々と勉強になる。

 

「よっしゃー! 狩人の連勝だぜ!!」

 

 ダークリング~HUNTER DIE TWICE~をプレイしていた啓吾がガッツポーズをしながら叫ぶ。

 啓吾のプレイ画面を見ると、五人抜きを達成した結果が表示されていた。

 啓吾の言った狩人というのは、ダークリング~HUNTER DIE TWICE~のキャラクターの一人。

 どんな相手にもカウンターを取りやすい万能型ではあるが、操作が難しく自分からの攻撃には特色の少ないキャラである。

 

「いつの間にそんな腕上げたんだよ啓吾」

 

 昨日は啓吾と対戦せず他の人達のしていたので啓吾の現在の腕前は知らない。

 今回はダークリング~HUNTER DIE TWICE~の全国大会前って事でかなりの凄腕が集まっている。

 その中で五人抜きをするという事は、お世辞抜きに腕を上げている。

 啓吾の使っている狩人はあまりにもクセが強いキャラなので本格的に使っている人は少ない。

 メインに使い込むには不向きなキャラを、よくもここまでと思う一護。

 

「はっはっはっは! 格ゲーに大事なのは訓練だからな。どれだけ時間と金を投資したことか……」

 

 その情熱を他のものに活かせれば、一廉の人物になれるだろうに……。

 

「水色に常々フルボッコにされてたからな、今度こそはリベンジしてやんよーっ!」

 

 と宣言する啓吾。

 啓吾と水色は同じゲームで競い合う事が多い。

 だけど、同じくらいの時間をゲームに当てていても十中八九、水色の方が上手くなる。

 

「それじゃあ対戦しようよ啓吾」

 

 リベンジの雄叫びを聞きつけたのか、水色が啓吾の元にやってきた。

 

「よっしゃー! 今日こそは勝ってやるぜぇ!」

 

 自信満々の啓吾。

 

「へぇ、五人抜きなんて凄いじゃない啓吾」

「お前に褒められても嬉しくねぇよ! さっさとやろうぜ!」

 

 今までの積年の屈辱をこの場で雪ごうと意気込んでいるようだ。

 

「一護、次やる?」

 

 水色が聞いてくる。

 全く啓吾を見ていないような感じだ。

 

「いや、俺はいいよ。昨日久し振りにゲーセンに来て全然駄目だったから、やるなら勘を取り戻してからにするよ」

 

 今は恐らく啓吾にも完敗してしまう程のレベルだろう。

 

「それじゃあ、始めようか啓吾」

 

 画面にNew Challengerと表示される。

 水色と啓吾の戦いの火蓋が切られた。

 

 水色の使うキャラはパッチというキャラだ。

 ダークリング~HUNTER DIE TWICE~の中でも最も弱い部類に入るキャラなのだが、水色はこのキャラだけを限界まで極めている感がある。

 通信対戦が可能なゲームなので、空座店のパッチ使いとして全国でも知る人ぞ知る存在である。

 

「ほらほら、どうしたの啓吾」

「くっ! ……フフフ、中々やるな水色。まぁ最初は小手調べってやつだぜ」

 

 一戦目は水色の勝ち。

 プレイを客観的に見ていると、最初は互角だったが一戦の間に水色が啓吾のパターンを読み切っていくのが分かった。

 そして二戦目。

 

「オラオラオラオラァッ! いくぜっ必殺・内臓抉り出し!」

「あまいよ啓吾」

「おいィ!? 更にカウンター取れんのかよ!? それじゃ、これで、どうだッ!?」

「へぇ、そうきたか。んー、成程」

「おっしゃーー!! へっへっへ、最後の二択からのコンボは読めなかったみたいだな水色!」

「でも、もう読んだよ」

 

 水色が自分の読みが正しいのかを確かめるようにプレイするのが分かり、それに比べると啓吾はただ必死に戦っている状態。

 仏心を見せたのか、それとも、三戦目でいたぶるためか、水色はギリギリのところで負けた。

 ……これは第三戦の結果を見るよりも明らかだった。

 一護はいたたまれなくなって、そっとその場を離れた。

 

 数分後、啓吾が涙を流し、水色が笑顔で一護の元にやってきた。

 結果は聞くまでもない。

 

「一護、そろそろ帰ろう、もう暗くなってきたし」

 

 水色が言う。

 外を見てみると、商店街なのでまだ賑わっていたが、時間はもう7時前だ。

 

「ああ、そうだな」

 

 三人はゲーセンを後にした。

 

   *

 

 一護は啓吾と水色と別れ、一人暗くなった線路沿いの夜道を歩く。

 人気も無く、物音一つしない。

 

 ――そこにあいつが現れた。

 

 闇の中から湧き出るように。

 影の中から浮き上がるようにして現れた。

 

「……ッ!?」

 

 一護は驚きのあまり目を見開く。

 闇よりもなお暗い黒衣。

 不気味な仮面。

 そしてギラリと輝く……。

 

「くっ!」

 

 一護がそれを理解すると同時に、禍々しく光る刃が一護の目の前を通り過ぎていく。瞬間的過ぎる刃を転がり避けた。

 そして咄嗟に立ち上がり身構える。

 男はゆっくりと一歩一歩近づいてくる。

 ……ヤバイ……こいつはヤバイ。

 とにかくヤバイ。

 頭の中がチカチカとスパークする。

 警報が大音響で鳴り響く。

 逃げろ! 逃げろ! と、どこからともなく声が聞こえてくる。

 男が手に持った巨大なナイフを構えもせず、無造作に横に薙いだ。

 

「チッ!」

 

 びゅんっと言う風を切り裂く音。

 身をよじらせて、それを何とか避ける。

 再び空を裂くナイフ。

 横に転がりながら避けた。

 ガシャンと線路沿いのフェンスに背中がぶつかる。

 

(しまった……!)

 

 この状況で退路を無くしてしまったら、万事休すだ。

 一護は周りを見ると、自分の横の方に何かがあった。

 それは鉄パイプだ。フェンスの根元に鉄パイプが転がっているのを見つけた。

 一護はスライディングをするかのように鉄パイプの落ちてる方に移動する。

 そして、地面の土もろともパイプを拾い上げた。

 

 男は一護と対峙する。

 相手は肉を裂き骨を断つ刃物。

 一護の獲物はただの鉄のパイプ。

 だが、さっきと比べれば勝算は感動的なほどに確率を増した。

 

「うぉぉぉおおおお!!」

 

 一護は先手必勝とばかりに、鉄パイプを握って突進する。

 振れば隙を突かれる。

 狙いは男の手。

 突きで男の手からナイフを落とさせるつもりだ。

 

 ……だが、男はナイフを構えようともせず、片手を一護に突き出した。

 

「死ね……虫けら」

 

 黒煙にも似た濃厚な気体が浴びせかけられる。

 

(ガス……!?)

 

 鼻を突く刺激臭で目も開けられなければ、息をする事もままならない一護。

 

(このままじゃ、殺される!)

 

 逃げ出そうと体を捻った時……

 

 世界が爆発した。

 

「!?」

 

 違う……爆発したのは一護の周りの空気。

 全身が一瞬で炎に包まれた。

 

「あ……」

 

 火だと認識したのは一瞬の事。

 そこから先はただの地獄だった。

 

「ぐぁあああああああああああっ!!!」

 

 衣服が瞬時に液状化し、肉に張り付き焼き焦がす。

 炎が耳に轟音として届き、脳が攪拌かくはんされるような痛みが走る。

 眼球が煮え爆ぜ、皮膚が爛れ縮み、器官に灼熱が流れ、肺を焼く。

 

 もう悲鳴すら上げる事が出来ない。

 数秒後、一護は炭化しつつある皮膚を崩しながら、アスファルトに倒れ込んだ。

 

 何なんだ、これは……?

 ガス……炎……?

 自分の死の理由すら分からないまま、全身を走り抜ける炎の激痛で、一護はショックのあまり心停止した。

 

 

 ……全てが闇に堕ちる。

 

 ――一護の世界が消えた。

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