東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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第28斬【悪夢からの目覚め】

「イッテェ!」

 

 鋭い痛みと共に、少年――黒崎一護は目を覚ます。

 誰かに平手打ちされたようなジンジンとした痛みが額を焼き、普段なら重たい瞳がとても軽く開いた。

 そこには普段通り巫女姿の博麗霊夢がいた。

 

「いつまで寝てるつもり一護。もう朝食済ませちゃったわよ」

「ああ、悪ぃ。今起きる」

 

 どうやら霊夢が起こしに来てくれたらしい。

 よく見ると、太陽の位置がいつも起床した時よりも傾き加減が違う。恐らく昼前辺りだろう。

 霊夢は「とっとと起きて、顔でも洗ってきたら」と言い残し部屋を出ていった。

 

「…………」

 

 ――夢の内容は覚えている。

 とても鮮明に。へばりついたガムのように、不快感までも残して覚えているのだ。

 不快で不快で凄く嫌な夢。自分が何度も何度も殺される夢。家族や友達が殺される夢。まるで現実だったかのような現実感があった夢。痛みも悲しみも苦しみも、現実のそれと全く変わらないほどの夢。

 一瞬吐気を催した。

 

「一体、何だったんだ? あの夢は」

 

 思い出すだけで不快になる夢。

 こんな夢は生まれて初めてだ。

 一護は布団から起きようと立ち上がろうとする。

 その時……

 

「う……ッ!?」

 

 視界が歪む。

 胸に焼けた鉛が注がれるような激痛が走った。

 

「ぐ……はっ!」

 

 一護は胸を掴む。

 血管という血管が裂け、神経という神経が千切れそうな痛み。

 細胞がバラバラになりそうな苦痛。

 痛みが一護の意識を、軟泥のような闇へと引きずり込もうとする。

 気を失いそうになる。

 だが失う訳にもいかず、肉体と精神を引き裂かんばかりの激痛を、封じ込めるように身体を丸めながら、一護はじっと耐えた。

 

「…………」

 

 突くような痛みが、徐々にではあるが引いていくのが分かる。

 

「……がはっ!」

 

 痛みに耐えるために、止めていた息を一気に吐き出す。

 痛みの痕跡が神経に残り、吐き気と痺れたような感覚が押し寄せてきた。

 けれど、何とか気絶せずに済んだ。

 

「そういや、夢でもこんな事が」

 

 夢でも、殺されて起きた次の日は何らかの不快な痛みに襲われた事があった。

 

「ただの、夢じゃねぇのか……?」

 

 一護はゆっくりと布団から起き上がる。

 いくら、ただの夢でなくても起きてしまえばどうする事も出来ない。

 だが――三つほど不可解な事がある。

 1.空座町で起きた事件について。

 2.“闇夜の男”の正体。

 3.黒崎真咲の事。

“闇夜の男”の正体は一度仮面を取り見た。

 正体は黒崎真咲だった。

 だが黒崎真咲は最後に一護を闇夜の男から護ってくれたのだ。

 恐らく闇夜の男の正体は別にある。

 真咲が二人もいるはずがないのだから。

 

 一護は布団を畳み、私服に着替える。

 着替えたのと同じくらいに、ドタドタと足音が聞こえてきた。

 

「誰だ? うるせぇな」

 

 精神的疲労がある一護にとって、寝起きから雑音を立てられると、一言で言ってうざい。

 そして、その足音の主が自分の部屋の襖を強く開けて入ってきた。

 

「本物の黒崎一護! 今度こそ私と尋常に勝負しろぉおお!!」

 

 朝の少女からの第一声。

 いきなり勝負を挑まれた。

 勝負を挑んできたのは勿論……伊吹萃香だ。

 

「何だよ突然。何で俺がお前と勝負しねぇといけねぇんだよ?」

「当たり前じゃん! 昨日この私を騙しといて、よく言えたな!」

「昨日……」

(そういえば、すげぇ長い夢を見てたせいで、昨日の事をすっかり忘れてたな。つうか、昨日っていう実感が無い)

 

 昨日、伊吹萃香が黒崎一護に弾幕勝負を挑みに来たが、何を間違ったのか一護と魔理沙を勘違いし、その流れのまま魔理沙と萃香が弾幕勝負をした。

 最終的に萃香は魔理沙が一護では無い事に気付き、そのまま弾幕勝負は終わった。

 だから、正真正銘の黒崎一護に弾幕勝負を挑みに来たのだろう。

 

「それは悪い」

 

 一護は昨日騙した事を軽く詫びる。

 

「けど明日にしてくれ。今日は疲れてて、どうにも弾幕勝負をする気にはなれねぇんだ

「寝たのに何で疲れてるの? 普通は寝たら疲れって取れるんじゃないの?」

「変な夢を見たから精神的にしんどいんだよ」

 

 一護は適当に答えた。

 

「むぅ~……だったら明日で良いや。本調子じゃないと、やっても詰まんないし」

 

 萃香は諦めてくれた。

 けど、弾幕勝負をするのは変わらなかった。

 

「……とっとと朝飯食うか」

 

   *

 

 朝食を食べ終えた一護は、縁側に座りながら空を仰ぎ見た。

 魔理沙は昨日の萃香との弾幕勝負で、身体中がボロボロになり、立てずに寝込んでいる。

 萃香も同じくらいボロボロになったはずなのにピンピンしている。流石は鬼である。

 

「…………」

 

 一護は夢の事を思い出していた。

 思い出したくも無いが、気になるし妙に胸騒ぎが起きるからだ。

 ……おふくろが護ってくれた。

 夢で一番新しい記憶。

 夢なのだが、闇夜の男から一護を護ってくれた。

 

(また、護られたな)

 

 夢だが、夢じゃなかったような気がする。

 何故か、そんな気がする。

 でも正常に考えれば、ただの不快な夢だ。

 万人に一人が見るか見ないかくらいの、ただの夢。それだけなのだ。

 

「一護、私ちょっと人里に行って来るから、留守番していてね」

 

 不意に霊夢が背後に現れ、人里に行くと告げた。

 

「買い物か?」

「ええ、そうよ。お昼の食材が無いから、買い足しに行くの」

 

 食材が尽きたのか。

 そして霊夢はそのまま飛んで人里に向かった。

 

「…………忘れて行きやがった」

 

 縁側から居間を見ると、テーブルの上には霊夢の財布が置いてあった。

 どうやら財布を忘れていったようだ。

 財布を持って追いかけようと思ったが、身体がだるくて動く気がしなかった。

 

「……駄目だよな。こんなんじゃ」

 

 一護は自分の堕落している姿が嫌になり立ち上がる。

 一度背伸びをし、気分を入れ替えた。

 

(掃き掃除でもするか)

 

 一護は神社前の掃除をしようと思った。

 参拝客は全く来ないが、一応掃除をしておかないと廃神社になりかねない。

 まぁ、成る事は無いだろうが。

 

「それじゃあ、私も出掛けよっと」

 

 すると、萃香も縁側に来て言った。

 

「何処に行くんだ?」

 

 別に興味は無いが、何となく聞いてみる。

 

「ん、地底だよ」

「? 地底って地底世界の事か」

 

 誰かから地底の事は聞いたが、まだ行った事は無い。

 

「そうだよ。けっこう前だけど地底にも面白い外来人が現れてねぇ。人間でも妖怪でもないんでけど、そいつが凄く強くて、時折弾幕勝負をしてもらってんのさ」

「人間でも妖怪でも無い外来人?」

「そうだよ。いつもは面倒臭えとか言って全力では戦ってくれないけど、愉しいんだ。その外来人と弾幕勝負してると」

「そうか。随分といい奴なんだな」

「そうねぇ。多分いい奴。殺気とかそういうのは一切感じないから」

 

 萃香はそう言うと、地底という場所に向けて行ってしまった。

 この幻想郷には一護やグリムジョー以外にも沢山の外来人がいるようだ。

 

「さてと……掃除でもするか」

 

 一護が箒を手にした瞬間、凄まじく不気味な、嫌な気配がした。

 一護は手にした箒を無意識に手放す。

 カタン、と箒が地に落ちた。

 

(何だ……この感覚!? まさか……っ!?)

 

 一護はこの感覚を知っていた。

 夢でいつも、アイツが現れた時の不快な感覚。

 不快で最悪な気配を放っている方を見る。

 見たくは無かった。

 けど、見なくては確証を持てなかった。

 

「――な、何で、お前が……ここに!?」

 

 一護の見た方向には一人の男が立っていた。

 黒い黒衣を身に纏い、能面の泥眼のような不気味な面を付けている。

 

 そう、そいつは紛れも無い、夢の世界で見た〝闇夜の男〟だった。

 

 夢で見たそれと全く同じ佇まい。同じ邪悪な雰囲気。

 身の毛のよだつ不気味さを醸し出している仮面の奥から眼光を走らせていた。

 

「黒崎一護。自分の母親に感謝するんだな」

 

 この下卑たような声。

 間違いない。

 ――〝闇夜の男〟だ。

 

「もう少しで、貴様の魂魄を深淵なる闇の底へ消し去れるはずだったのだが、予想外の邪魔が入った」

 

 男は淡々と喋り続ける。

 

「何でお前が此処にいるんだよ!?」

 

 一護は男の話に聞く耳持たず、怒鳴りつけるように問いかける。

 

「お前は俺の見ていた夢なんじゃねえのか!?」

「……くっ、はは。黒崎一護、あの夢の正体を知りたいか?」

 

 不快な笑みを混じえながら、男が一護に問いかける。

 

「夢の正体だと……!?」

「そうだ。夢の世界の正体だ」

 

 一護は少し冷静になる。

 此処は幻想郷。

 不思議な事が起こっても可笑しくない。

 

「……まさか」

「察しが良いな。そう、貴様に見せていた長い悪夢の正体は俺の能力だ」

「……ッ!?」

「〝悪夢を操る程度の能力〟……とでも言っておこうか。おっと、勘違いするなよ。ただ悪夢を見せるだけじゃない。俺は相手に永久に覚める事の無い悪夢を見せる事が出来る」

「永久……だと?」

「そう、といっても永久では無い。悪夢を見ている者の魂魄……即ち精神が破壊されれば、悪夢から覚める事が出来る。だが、その代償として、その者は永眠することになるがな」

「何だと……!?」

「相手がその悪夢に現実感を持てば持つほど、魂魄の破壊は早まる。魂魄が破壊される予兆として身体が消えかけていただろう?」

 

 夢を思い出す。

 自分が殺された次の日は、眩暈などがし、身体の一部が一瞬消えた事があった。

 

「貴様を五回殺した後、もう後一回殺していれば、間違いなく完全な死へと追い遣れた。だが邪魔が入ったせいで殺すことが出来ず、その上貴様を悪夢から強引的に覚まさせた」

 

 邪魔……。

 恐らく黒崎真咲の事だろう。

 

「まぁ、それも良い。この俺が直々に貴様を死へと葬ってやろう」

 

 男は仮面のようなマスクを取る。

 マスクから闇夜の男の本当の顔が現れた。

 獅子を思わせる程に猛々しく逆立った銀の髪。隙の無い眼光を常に湛えている蒼い瞳。衣服が赤黒いドイツの軍服を模した服装へと変わる。

 

「まだ名乗っていなかったな」

 

 男は手に持ったマスクを捨て言う。

 

「幻獄七夢卿の一人。夢の殺し屋 フレデリック・グレアム。さぁ今度こそ、貴様に死を与えてやる黒崎一護」

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