東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~ 作:ディーン・グローリー
とりあえず長いです。
《1》
「幻獄七夢卿の一人――フレデリック・グレアム」
「……幻獄七夢卿……だと!?」
突如、黒崎一護の夢の中に現れた〝闇夜の男〟が現実の世界に現れたかと思うと、己の正体を明かした。
――幻獄七夢卿。
非常に危険な思想を持った七人の集団。
一護は一年程前に刹蘭、そして元幻獄七夢卿のルリミアと戦っている。二戦とも、桁違いに苦戦した末、仲間達がかなりボロボロになった。とてもじゃないが、勝てたと言える戦ではなかったのだ。
その七人の内の一人が、唐突に一護の前に現れた。不吉、憎悪を携えて……。
「ああ。やはり貴様は幻獄七夢卿の事を知っていたか。刹蘭あたりから聞いたのかな?」
「……そんなことはどうでもいいだろ。それより俺は、テメェらと会ったら聞きたかったんだ。幻獄七夢卿……テメェらの目的はなんだ? 博麗大結界を消すことか」
「目的? 何故それを貴様に話さなければならない。博麗大結界など俺にとっては心底どうでもいい……。確かに俺の目的の一貫には、それを成さなければならないが。今の俺は――」
瞬間、悪寒が一護の全身を駆け巡る。
フレデリックと名乗った男から、異常なまでの殺意を感じ取ったのだ。
「貴様を殺しに来たんだぞ」
「ッ! 黒符『月霊幻幕』!」
フレデリックの圧倒的な殺意と、それを具現した言葉を聞いた瞬間に一護は、躊躇いなくスペルを発動した。
漆黒の三日月状弾幕が、フレデリックに吸い込まれるようにして殺到する。
「…………」
フレデリックは特に警戒するでもなく、まるで稚児を相手取るかのように柔らかくも不気味な笑みを浮かべる。
そして一護の弾幕は完全に敵を捉え、轟音を上げながら爆発、爆風の破壊音を上げた。
「――随分と荒っぽいな、黒崎一護」
だが、爆煙は直ぐに掻き消え、服装の乱れすらない魔人が姿を現す。
元より、この程度で傷を負わせられるほど楽観もしていないので、一護は何の驚きもせずに次の戦略を思考する。
「博麗の人間に敗れ、幾星霜を経て、ようやく貴様らに復讐できる」
フレデリックは相手を覆滅せしめん力を顕にした。
「貴様らは弾幕……スペル方式を使って戦うんだったな。なら俺も弾幕ごっこルールを使わしてもらおう。ただし、ごっこという甘い遊びではない。れっきとした、殺し合いでだ」
そして〝己の使う御技をスペルに変換して〟唱える。
「怒符『ヘルクラッド』」
フレデリックがスペルを唱えると、ドス黒い槍状の弾幕が幾つも顕現した。
そして、死を迸らせながら狂風の如く槍状の弾幕が一護めがけて襲いかかる。
一護はそれに対し、下手にスペルで挑むのではなく躱すのに専念した。地面の魂を引き出して反発力の補助をさせ高く跳ぶ。
それで何発かの弾幕は一護に被弾せず、地面に衝突した。そして予想通り、今の弾幕は破壊力ではなく貫通力に優れているのが理解できた。槍状の弾幕は、地面に当たるなり、そのまま地球の裏側にまで行ったのではないかと思うほどの穴を残して消えた。
浅はかに弾幕で挑んでいれば、恐らく月牙天衝であっても貫通し、かき消されていたかもしれない。
一護はそのまま空中に立ちながら、まだまだ飛んでくる漆黒の槍を避け続ける。
「逃げるのは巧いようだな。だが、逃げてばかりでは、俺の弾幕は止まないぞ」
フレデリックは憎悪を漲らせ、新たなスペルを唱えた。
「怒りに燃え上がれ。獄炎『パジェリマ』」
スペルを唱えると一護を覆い尽くす程の巨大な火の鳥が現れた。とても幻想的な姿だが、猛々しく燃える炎は、まるで小さな太陽を思わせる。
その火の鳥が、音速を軽く超える域で一護に迫った。
「しま――ッ!」
高速で向かってくる火の鳥に、一護は逃げ切れず、火の鳥に包まれ呑み込まれた。
殺意に満ちた熱が、一護を覆い尽くす。
人間であろうが、並の妖怪であろうが肉体はもちろん、骨も魂すらも一瞬で灰塵と化すであろう灼熱地獄だ。
火の鳥は一護を飲み込んだ後、そこに佇む。
「終わりか……随分と呆気ないな」
フレデリックは嘆息しながら呟く。
火の鳥に飲まれた一護が、何の反応も示さないのだ。
「……ん?」
その時、火の鳥の様子がおかしくなった。
それに気付いたフレデリックが、火の鳥を凝視する。
その瞬間、火の鳥から黒い霊圧が現れ、逆に火に鳥を包み返してしまった。
「何だ、あれは?」
フレデリックが言い終わると同時に、黒い霊圧と火の鳥を払いのける様に、一人の黒衣の男が現れた。
そう、黒崎一護が漆黒の衣を纏った死神の姿になったのだ。
「ほう、それが貴様の切り札か? 黒崎一護」
フレデリックが今の一護の姿に、少し興味を示す。己の火の鳥を消し飛ばすなど、並々ならぬ力では不可能だ。
「――ああ」
一護は一言そう答えると、一瞬でフレデリックの背後に移動する。並の者なら目視できない程の速さで……
「!? ――なに」
フレデリックは対応できずに、一歩遅れて一護に気づくも――
「遅ぇよ」
一護は右腕の漆黒の霊圧を刀状に形成し、躊躇いなくフレデリックの身体を袈裟斬りの要領で引き裂く。
「――――」
しかし、そこは流石、幻獄七夢卿と言ったところだろう。
あくまで斬れたのは右肩を少し程度で、他は衣服含めて無傷だ。
だが、斬れた……そのことに一護は少し違和感を覚える。
「怒符『ヘルクラッド』!」
フレデリックは一護との間合いを取る為に、スペルを唱え、槍状の弾幕を放つ。
「黒符『月霊幻幕』!」
対する一護もスペルで対抗する。
先程は貫通力のある弾幕には挑むのではなく、躱して対策を取っていたが、今は違う。
死神の姿になった一護の霊力は、先とは比較できないほどに高い。故に収斂された一護の弾幕は、槍衾となった弾幕を尽くかき消していく。
だが、フレデリックの計算通り、一護が弾幕を相殺している間に、間合いは充分に取れていた。
「素晴らしいな。まさか、その姿になるだけで、そこまで基本性能が強化されるとは」
「…………」
一護は無言でフレデリックを見据える。
「……何を黙り込んでいるのだ?」
「あんたはいつになったら、本気を出してくれるんだ?」
「何?」
「幻獄七夢卿の実力はこんなもんじゃねぇはずだろ? 刹蘭もルリミアも、この程度の力は簡単に対応してた。あんたみたいに、肩を簡単に斬られるような奴等じゃなかったぜ」
刹蘭やルリミアはまさに次元が、そもそも比較しても良い対象ではないくらいに歴然な実力差があった。
あの時、最初に感じ取ったのは無限の宇宙が人の形を成しているような、圧倒的圧力。攻撃は、この幻想郷どころか全宇宙にまで轟いたのではないかと思うほどの、桁違いな強さ。いや、比喩表現ではなく、本当に宇宙をどうにでもしてしまえる力を持つであろう。
しかしフレデリックからは、そういった神的な力を感じれない。そもそも肩を斬れた時点で、自分でも目を疑った程だ。
フレデリックはその質問に対し、一瞬眉間に皺を寄せたが、直ぐに超然とし答える。
「そうだな。まぁそう思うのも仕方ない。しかし俺を〝こうしたのは、お前ら一族だ〟」
「? どいうことだよ」
「今は話さん。そうだな、気が向いたら教えてやる。けど、確かにそうだ。今の俺は弱い。弱いが……〝今出せる、俺の真の力を見せてやる〟」
途端に、場の空気が変わる。
「私はこう見えても魔術師でね。魔力という物が力の源なんだよ」
魔術師……いわゆる魔法使いだ。
だが、魔法使いなら魔理沙、パチュリー、アリスと、既に三人と出会っている。魔法使いは一護や霊夢が霊力を使い、妖怪は妖力を使うなら、魔法使いは魔力を使う。
あまり変わらないが、根本は同じなのだ。
「それがどうした?」
「もし――その私の魔力が無尽蔵だったら、どうする?」
「!?」
魔力が無尽蔵。
それは、どれだけ魔力による力を使おうと、疲弊や衰えは一切無い上、魔力による力に限界が無くなる。
即ち、無敵と言っても過言ではない状態だ。
「さぁ、少し本気を出してやろうか」
フレデリックがそう言うと、スペルを唱える。
「怒符『スロウトハンド』」
フレデリックの目に前の空間に、直径4m程の黒い異次元の穴が口を開き、その中からいくつもの黒い不気味な腕が現れ、一護に襲い掛かる。
黒い腕の、爪は鋭く尖っており、一度掴まれば肉に喰い込み絶対に離さないであろう。
一護は己の霊圧を更に高濃度にし、右腕に宿る刀に注ぎ込む。そして隙など一切見せずに、剣戟が烈風と化して黒い腕を切り裂いていった。
だが……
「くそッ、切りがねぇ!」
まるで地獄から這い出てくる罪人のように、無数に湧いてくる黒い腕。その光景は、地獄から助けを求めるような、いや一護をこちらに引きずり込もうとしているように感じられる。
切っても切っても黒い蒸気が上がり消滅するだけで、ねずみ式に増えて出てくる。まさに無尽蔵だ。
「だったら……」
一護は新たにスペルを唱える。
「黒斬『月牙天衝』!」
一護が右腕を振るうと、霊圧による斬撃が飛ばされた。
天を衝く黒い牙が、出てくる黒い腕を一網打尽にしていく。しかし異次元を消滅させるまでには至らなく、そのまま消滅した。
しかし自分が随意に動ける余裕は出来たのだ。
一護は瞬歩の要領で動き、再びフレデリックの背後を捉える。
(もらった!)
今度こそ完全に隙を突いた。
しかし、今のフレデリックは本気を出しているが故、この程度の動きなど簡単に見切れる。
「こんな見え透いた動きが、私に通じると思うなよ」
フレデリックは避けると同時に、一護の腹を蹴り飛ばした。
魔力を込めた蹴り。
さながらミサイルを叩き込まれた衝撃が、全身に数カ所襲いかかる。一発見えた蹴りは、実は推定16発決められていたのだ。
一護は口から血を吐き、後方に勢いよく吹っ飛ばされる。
「くくくくく、どうだ、私の蹴りは? 魔力を込めた蹴りは、今までに喰らった事の無いくらいに、痛かっただろう?」
一護は今の蹴りで、森の方まで吹き飛ばされ木々を何本も薙倒している。
「さぁ、早くこちらに戻ってきてくれ。それとも、今の一撃でノックダウンか?」
「――まだだ!」
激痛に悶え苦しむ様など見せず、一護は直ぐに立ち上がりフレデリックの方に疾風のように駆ける。
「いい気概だ。そうでなくてはな。怒符『ヘルクラッド』」
向かってくる一護に、フレデリックはスペルを唱えた。
再び、一護に槍状の弾幕が放たれる。
「黒符『月霊幻幕』!」
一護もスペルを唱え、三日月状の弾幕が展開されると槍状の弾幕と拮抗し合うように激突し合う。
その瞬間、一護は高速移動で、フレデリックの上空に移動した。
「黒斬『月牙天衝』!」
そして黒い牙を下方にいるフレデリックに向けて放つ。フレデリックはまだそれに気づいていない。
直撃した……と思ったのも束の間。
「何処に向かって撃っているんだ?」
刹那、一護の更に上空から嘲笑混じりの声が聞こえた。
一護は上を見る。
そこにはフレデリックが空中にいた。
「く――ッ!」
構えようとするも、数瞬フレデリックの方が早かった。
「遅い。獄炎『パジェリマ』」
フレデリックが先程のスペルを唱えた。
火の鳥が現れ、一護に襲い掛かる。
(ヤベェ!)
避ける選択肢は無かった。
火の鳥が凄まじく速いからだ。
一護はほぼ強引に霊力の膜を張り、全身防御体制を取る。
――そんな窮地なる瞬間だった。
「水符『プリンセスウンディネ』」
「萃鬼『天手力男投げ』」
その時、聞き覚えのある二つの声が聞こえてきたのだ。
目の前に迫ってきていた火の鳥が、二つのスペルにより掻き消された。
「……誰だ?」
フレデリックも予想外だったらしく、少し驚いている。
一護はゆっくりと、声のした方を見た。
「誰ですって? まず、自分から名乗りなさい……と、言いたいところだけど、特別に先に名乗ってあげるわ」
一護が見た二つの声の主は、予想通りの人物だった。
「動かない大図書館 パチュリー・ノーレッジよ」
「萃まる夢、幻、そして百鬼夜行 伊吹萃香だ!」
そこには、パチュリーと萃香がいたのだった。
《2》
「パチュリー、萃香……何で、お前らが?」
一護が地に足をつき、二人の方を見て、驚きの声を静かに上げて言う。
パチュリーと萃香が一護を助けに来たのだ。
――だが、どうして?
パチュリーは紅魔館から滅多に出ないし、萃香は地底に行くと言って出て行った。
此処にいるのは、少しおかしい二人だ。
「説明は後よ。幻獄七夢卿を前にして、そんな暇あると思うの?」
たしかにそうだ。
幻獄七夢卿の戦いは、一瞬の隙で生死が決まる。
今、そんな事を聞いている場合ではない。
「……魔術師と鬼か、成程。なかなか悪くない助っ人ではないか、黒崎一護」
フレデリックが二人を確認して言う。
確かに助っ人としては、かなり頼りになる。
だが、フレデリックは全く危険視をしていない。そもフレデリックからすれば払い除けるゴミが増えたほどでしかないだろう。
居ても居なくても、全く変わらないと言うことだ。
「……あなたが、あの有名な魔術師――フレデリック・グレアムね。会えてほんの少しだけ光栄だわ」
パチュリーが一護の方に移動しながら、フレデリックに言う。
「ほぅ、この私の事を知っているのか。魔導の医学の道ではそこそこ有名だと自負しているからね。けど、君の場合はどちらかと言うと、アレの所持者という点でだろうか?」
「ええ、そうよ」
パチュリーが一息いれると、言う。
「あなたは初代魔術師、ダルク・マグスの残した魔導具の一つ――〝
「そうか、やはりな。魔術師達は、そんなにこれを欲するか」
「本当に
フレデリックは手の平に収まるほどの、小さな黄色の宝石を見せてきた。
それを見たパチュリーは驚きの余り、身体を一瞬振るわせる。最初は半信半疑だったが、本物を見るとやはり疑いの余地はない。
「どうだ、美しいか? これが聖無石だ」
その聖無石が黄色く輝いている。
「……なぁ、パチュリー。あれは一体何なんだよ?」
魔術師では無い一護にとっては、専門外で全く分からない。
パチュリーは分かりやすく答える。
「あれは、聖無石と言って、魔術師なら誰もが知っている人物、ダルク・マグスが作った魔具なの」
「魔具……魔理沙が持ってるミニ八卦炉みてぇなやつか?」
「ミニ八卦炉……みたいなやつね。そうだったら、どれほど楽観できたことかしら」
「そんなにヤバイのか?」
「ええ、あれは……あいつに無限の魔力を供給する魔具よ」
「!! 無限だと……!?」
一護は数分前の事を思い出す。
あの時フレデリックは「もし、その私の魔力が無尽蔵だったら、どうする?」と言っていたが、あれは半分冗談で聞いていた。
だからそれが確信に変わると、驚かずにはいられない。
「そうよ。だから、あいつに勝つには早めに決着をつけなくちゃいけない。そうしないと、私達が先に力尽きるわ」
時間が掛かれば掛かるほど、一護たちが不利になるのは必然。相手の魔力が無尽蔵だが、こちらには限界があるのだから。
フレデリックは聖無石を体内に取り入れた。
その瞬間……
「だらっしゃぁぁああああ!!」
考えるより先に動け。
萃香が戦いを待ち切れずになり、真っ先にフレデリックに向かった。
「ちょっと、萃香! 考え無しに突っ込まない!」
「考えるより動けだぁ!」
パチュリーの制止の声も聞く耳なし。
仕方なく、一護もパチュリーも萃香から、少し遅れて動き出す。
「全員で来るか。なら、怒符『スロウトハンド』」
先程から空いていた異空間の穴から、不気味な黒い腕が再度、蛇のように大量に出てきた。
萃香は向かってくる黒い腕を、難なく素手で殴り飛ばして行く。一護では到底真似の出来ない荒業だ。
だが、流石に腕の数が多過ぎるのか、萃香一人では対応できなくなった。
「後方で援護するわよ一護」
「ああ、分かってる」
萃香の後ろを走る二人は、一人で黒い腕に対応している萃香に援護する。
「金符『シルバードラゴン』!」
「黒符『月霊幻幕』!」
パチュリーの銀の弾幕と、一護の黒の弾幕が前方に放たれる。
萃香に当たらないよう、二色の弾幕が黒い腕だけを狙う。
「その穴……邪魔だぁ! 符の壱『投擲の天岩戸』!」
萃香がスペルを唱えると能力を使い、手に自分の五倍はあるであろう大岩を持ち、それを穴の前に目掛けて投げる。
黒い腕が一護とパチュリーのお陰で消えていっていたお陰で、難無く穴の前に大岩を放り投げ、穴を大岩で封じた。
これで少しの間だが、黒い腕は出て来れないだろう。
「符の弐『坤軸の大鬼』!」
萃香は続けてスペルを唱える。
スペルを唱えた事により、少女とは全く思えないほどの、巨大な身体になった。まるで怪獣映画で出てくるような大きさは、見ただけで圧倒される。
そして、一気に拳をフレデリックに目掛けて突き出す。さながら隕石を思わせる拳である。
「魔術師は物理を使ってあまり戦わないのだが、まぁいい」
フレデリックは軽く拳を構え……
「私の唯一の物理スペルだ。怒符『邪聖一点』」
スペルを唱える。
その瞬間、フレデリックの拳から黒い邪悪に満ちた魔力が集中した。そして、萃香が突き出してくる拳に向かって、フレデリックは自分の拳を突き出す。
小さい拳と巨大な拳が激突する。
凄まじい衝突音と共に、大地が砕ける。
「まさか……」
拮抗した激突中に萃香が驚きの声を上げた。
言い終わると同時に、両者の拳が弾き合ったのだ。
――互角。
フレデリックとはいえ、相手は鬼。
力では負けないと思っていた萃香が、勝ったのではなく互角だった。
「やるねぇ!」
萃香は直ぐ様、フレデリックに向かって再び拳を突き出す。
互角だった事に一切悔しがらずに、逆に闘志を燃やした。
萃香はこういう奴なのだ。
「またか。もうその拳には挑みたくないな」
フレデリックは隕石のようなその拳を軽く後方に跳び、避ける。
「魔術師は基本接近戦をしないんだよ。怒符『ヘルクラッド』」
フレデリックがスペルを唱えた。
無数の槍状の弾幕が、萃香を襲う。
「符の参『追儺返しブラックホール』」
そう来ると思っていた萃香は、即座にスペルを唱えた。
瞬間、黒い闇……宇宙空間にしか存在しないはずの暗黒天体ブラックホールが空間に現れ、フレデリックの放った弾幕を全て常世の闇に吸い込んだ。
そして弾幕を全て吸い込むと、ブラックホールが消えた。
「ほぉ、やるな」
フレデリックが少し感心する。
「まだだ! 出てこいお前ら!」
萃香が叫び、能力を応用で使用すると、百体以上はいるであろう危険な妖怪が現れた。
蛆が出てきた。百足が出てきた。蛇が、蜘蛛が、白骨が、小鬼が……その他正体不明の臓物めいたモノたちが、身を震わせて暴れながら出てきた。
ひたすら不浄で、人間種には害しか及ばさない異形の群れ。霊力や妖力も高く、並の人間なら致命的なのは間違いない。例えフレデリックほどの男でも、これだけの異形を相手取れば危険という二字が明滅するだろう。
「なるほど、百鬼夜行か」
萃香の能力により萃められ、這い出てくる妖の大軍勢――自分以外を食い殺したい邪悪な百鬼夜行だ。その不浄さと怨念以外にも、一見して何の類似もない百鬼夜行だが、実のところ共通している点が一つだけある。
皆、狂気めいた暴れ方をしている。そう、萃香は狂気に悦楽・暴走している妖怪のみを選別して萃めたのだ。
最初に大百足が大突進を仕掛けてきたが、フレデリックは腕を振り払って弾き飛ばした。
そして大百足の次は大蛇、次は腐乱した山犬、白骨した馬が嘶き、首のない武将が吼え、目が爛々とした鬼、際限なく連続する怒涛の嵐がフレデリックに襲いかかる。
どんな大津波や火砕流、大地震よりこの百鬼夜行は危険だろう。狂気に狂った魔物たちが脇目もふらずに押し寄せてくるのだ。
「これは、悪趣味だな。狂喜乱舞した自制のきかない有象無象の妖怪。なら、俺なりに覆滅してやるまでだ」
フレデリックは手を前に突き出す。
「少し過激だが、直ぐに葬ってやろう。怒符『テレキ・オブ・キューブ』」
そしてスペルを唱えると、ぐしゃりと百鬼夜行が圧縮され捻り潰されていく。
血が滴り落ちる。
捻り潰された百を越える妖怪たちが極限にまで圧縮され――もはや玩具のキューブ程度の大きさでしかなかった。
一瞬で百を越える妖怪が、文字通り覆滅されたのだ。
「……嘘、そんなに強いの?」
萃香が冷や汗を流しながら言葉を吐く。
それは理不尽な暴力などという甘い言葉では片付けられない。ただただ一方的かつ刹那の速度で行われた大虐殺(ジェノサイド)だった。
だが時間ができた。
「何処を見てやがる」
刹那、一護がフレデリックの後方にいた。
対するパチュリーはフレデリックの上空にいる。
「――――」
気付くのに遅れたフレデリック。
萃香の対応をしている時に、二人共移動していたのだ。
「いくぞ、萃香!」
一護が叫ぶと同時に三人がスペルを唱える。
「黒斬『月牙天衝』!」
「土&金符『エメラルドメガリス』!」
「鬼火『超高密度燐禍術』!」
一護は月牙天衝を放ち、パチュリーは大弾と小弾を複数放ち、萃香は拳で地面を叩きつけ、そこから溶岩弾を噴出させた。
それら全てが、フレデリックに向かって出されたスペルだ。
並外れの相手でも、このスペルを一度に一気に叩き込まれれば無事では済まない。
三人の攻撃が、フレデリックに殺到する。
「ふはははは、小賢しいっ! 怨……」
フレデリックの身体から黒い光が放たれた。
その瞬間、まるで埃でも払うかのように、三人の多面攻撃が吹き飛ばされ、霧散してしまう。
フレデリックの身体を中心にして、ドス黒いオーラが空間を塗り潰していく。
「な、何だ……これは……?」
「結界?」
周囲の空気全体が、胎動する臓腑のように波打った。
空間が腐った果実のように、グニャリと溶け落ちる。
溶けた世界の裏側から表れる血の色の空。
天地の感覚が混乱する。
重力、磁場、大気の組成まで変わってしまったかのような、その異常な空間の中で、三人は瞬時に体勢を整える。
さっきまであった、博麗神社も空も山も、既にそこには無かった。
「どうやら、精神はしっかりと保っているようだな」
フレデリックが余裕な態度で三人に対峙する。
「何をしやがった……フレデリック!?」
「これ以上小賢しい真似が出来ないように、私の世界へと招待してやったまでだ」
フレデリックがそう言うと、パチュリーが周りを見渡す。
「……こんな濃密な結界を一瞬で出したの? 詠唱も供儀も無しで、こんな大規模な結界を張れるとは思えないわ」
「結界だと? 違うな。ここは私の異界だ。簡単に言うと、私が支配する別次元の宇宙といったほうがいいか」
不気味な笑みを浮かべながら言う。
「ここは私の宇宙だ。すなわち私の腹の中といってもいい」
信じられない言葉だが、過去に似た例があるため信用せざるを得ない。
「この異界の源泉は私だ」
つまりこの宇宙において、フレデリックは唯一神。隔絶された王に他ならない。
「さぁ始めようか――第二幕の開始だ」
そして絶望の中で、一護たちの戦いが始まるのだった。