東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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まず一言……投稿が遅くなって申し訳ございませんでした!

仕事などがとても忙しくて、書く時間がほとんどありませんでした。
それ故に、今回の話はほぼ全部昔の“コピペ”のようになっています。

とりあえず長くなった今章は完結し、次回からは新章です。


第30斬【決着と最後の思い】

《1》

 

 世界がドロドロに崩れ落ち、新たに現れた世界は血の色の天を宿す、重力、磁場、大気の組成までも全く違う異界。

 先程までそこにあった博麗神社も、緑の山も、青空も既にそこにはない。

 別次元……フレデリック・グレアムの世界なのだ。

 

「成程、ここまで矮小になっているか」

 

 一護、パチュリー、萃香の三人と対峙する異界の神は悠然と言葉を放つ。

 こうしている今も、この無限に続く異界に三人の魂が蝕まわれている。

 そも、この世界の王たる“最盛期のフレデリック”の力を持ってすれば、この異界に閉じ込めた時点で一護たちの魂など欠片も残さず蝕まれる。

 しかし過去の戰により、フレデリックの力はそれほど残っていないのが、唯一の救いであり希望なのだ。

 

「そうだな、ここまで生き延びた褒美に、攻略法だけでも教えてやろうか」

 

 絶対的上位存在からの気まぐれの言葉。

 瞬間、フレデリックの手に一冊の本が虚空より現れた。

 

「お前も魔術師なら、この書物くらいは知っているだろう」

 

 パチュリーに示すよう、薄気味悪い本を向ける。

 その本を見たパチュリーは、瞬時に理解し戦いた。

 

「その本、まさか……!?」

「そうだ。禁断の魔道書――〝死霊秘法〟の写本の一冊。死を司る禁呪ばかりを加えて再編された暗黒の魔書だ。暗黒魔術の使い手としては、これ以上の魔具はない」

「なぁなぁ、パチュリー。あれは何なんだ?」

 

 一護が聞きたかった事を、先に萃香が聞いた。

 

「あれは〝死霊秘法(ネクロノミコン)〟という魔道書の写本の一冊……〝邪劫ノ法(サモンブラッド)〟。簡単に言えば、暗黒の魔導書と呼ばれるに相応しい本よ。それに……」

 

 パチュリーが付け足しのように説明する。

 

「人間の顔の皮で装丁されているのは一見して分かるでしょ?」

 

 確かに、あの本は顔らしき不気味な装丁をしてある。

 

「さらに、全てのページが生きたまま剥いで、なめされた魔術師の皮膚で出来ているの。羊皮紙ならぬ、人皮紙で作られた書物なの。数百人分の魔術師の魂を編み込んだあの本なら、無詠唱でこんな力を使ったのも頷けるわ」

「うぇ、気持ち悪ぅ~」

 

 萃香が口に手を当てる。

 たしかに萃香の言う通り、吐き気がする本だ。

 

「その本を一体何処で? いえ幻想郷にいる私が言えたことでないけど、既に行方は誰も知らないはず」

 

 説明し終わったパチュリーは、再びフレデリックに問いかける。

 

「一体何処で……か。良いだろう。場所だけは教えておいてやろう。外の世界にある、空座癲狂院というドイツの療養院を模倣して作られた石造りの施設で手に入れた」

「空座癲狂院……だと!?」

 

 一護が夢の世界で、華断という女子から聞いた話を思い出した。

 空座癲狂院。精神病院の一つで、十数年前に取り壊された建物である。

 なぜ、その施設の名前がここで……?

 

「話はこれまでだ。そろそろ続きを始めよう」

 

 邪劫の法が黒く輝き出した瞬間、フレデリックの体内に入っていった。

「さぁ、掛かって来い、黒崎一護、パチュリー・ノーレッジ、伊吹萃香。この私を愉しませてくれ」

 

 フレデリックのセリフを元に火蓋を切る。

 相手は二つの最強の魔具を持っている男。

 勝てる確立は極めて低い。

 だが、三人は諦めずに、フレデリックに立ち向かう。

 

「怨霊『妖怨霊属』」

 

 フレデリックが向かってくる三人に向かってスペルを唱える。

 濃厚な瘴気が渦巻き、そこから獣とも人ともつかない顔が溢れ出した。

 その怨霊のような物が、三人に襲い掛かってくる。

 

「走り続けろ! パチュリー、萃香!」

 

 一護が二人に叫ぶと、己はスペルを唱える。

 

「黒斬『月牙天衝』!」

 

 一護は向かってくる怨霊を、月牙天衝で一掃する。

 そのせいで、黒い霊圧が舞い、フレデリックは三人の姿を目視で確認できなくなった。 

 

「流石は黒崎一護だな」

 

 自分のスペルを破られたのに、全く危機感が無いフレデリック。そもそも、この世界はフレデリックの体内も同義。故に目指できなくとも、誰がどこにいるか感知可能だ。

 すると真っ先に飛来してきたのは、萃香の巨大な拳である。遍く全てを粉砕する最強の鬼の拳を前に、冷静に対処する。

 

「またそれか。私には通じないと分からないのか?」

 

 フレデリックは前と同じように、軽く後方に跳び避ける。

 

「けど、避け方は同じのようね。月符『サイレントセレナ』」

 

 刹那、フレデリックの上空にパチュリーがいた。

 黒い霊圧に紛れて、フレデリックの上空に移動していたようだ。

 そして、パチュリーはスペルを唱えた。

 青い米粒弾が降り注ぎ、パチュリーから放射状に水色の米粒弾が放たれる。

 

「降り注ぐ青い雨と言ったところか。見世物としては悪くないな」

 

 だが……と付け加え、軽い笑みを零す。

 

「そんな単純な戦法が効くと思うなよ。獄炎『パジェリマ』」

 

 フレデリックはスペルを唱えると、火の鳥が現れ、降り注ぐ全ての弾幕を、火の鳥が喰らい尽くす。

 そして、火の鳥はそのままパチュリーに向かって飛翔した。

 

「吐き気が出るほどの邪悪な魔力ね! 土水符『ノエキアンデリュージュ』!?」

 

 向かってくる火の鳥に対し、即座にスペルを唱えるパチュリー。

 そこから圧縮した水が放出され、火の鳥を掻き消す。

 

「ほぉ、私のスペルを破るとは、流石は幻想郷の魔法使い。やるではないか」

「くっ! ツゥ……」

 

 今の火の鳥を消すのに、結構の魔力を使ってしまった。

 しかも世界観が違うせいか、魔力の現象も違う。

 やはり別法則の働く宇宙だとパチュリーは理解した。ここでの長期戦は圧倒的に不利だ。

 

「気づいたか。ここでは貴様らの世界とは少し違うぞ」

「そうみたいね。けど、そんな余裕かましてる暇なんてないんじゃない」

「……そのようだ」

 

 その瞬間、フレデリックの周りの空間から三日月状の弾幕が現れ、一斉にフレデリックに向かって放たれた。

 これは一護のスペル……黒符『天幻月牙』だ。

 三日月状の弾幕がフレデリックに全て被弾し、凄まじい爆発が起こる。

 

「私にこのような稚拙な攻撃が効くと思うなよ」

 

 爆炎の中から無傷でフレデリックが飛び出してきた。

 そしてそのままパチュリーの方に向かう。

 

「先に貴様から葬ってやろう」

 

 フレデリックは邪悪な魔力を凝縮させ――

 

「怨霊『妖怨……っ!?」

 

 瞬間、ほんの一瞬だけフレデリックが揺らいだ。

 何かに吸い込まれそうになり、バランスが崩れたのだ。

 その方角を見ると、そこには萃香が出したブラックホールが有った。

 符の参『追儺返しブラックホール』だ。

 いくらここがフレデリックの世界でも、頭が一瞬何かに集中すれば、そこいらに空白の隙が生じてしまう。そこを突かれてしまった。

 

「隙ありよ。火&土符『ラーヴァクロムレク』!」

 

 パチュリーがスペルを唱える。

 赤色と黄色い弾幕が、パチュリーを中心に無数に放たれた。

 

「こんな物が私に通用すると思っているのか?」

「ええ、思っていないわ」

「なに?」

 

 パチュリーのセリフにフレデリックは少し悪寒が走った。

 そう、フレデリックはパチュリーのいる自分の上空に向かって跳んでいる。

 その跳んでいる足元、その下方から凄まじい程の力を感じ取ったのだ。

 

「馬鹿な!? 何だこの力は!」

 

 フレデリックが自分の下方を見ると、そこには一護が霊圧を右腕に込めて立っていた。

 

「もう遅いわよ、フレデリック。あなたでも、あれは喰らえば、タダじゃ済まないでしょ」

 

 パチュリーがそう言うと同時に、一護がスペルを唱える。

 

「いくぜ、フレデリック。黒斬『月牙天衝』!!」

 

 一護からフレデリックに向かって、凄まじい霊圧が込められた、月牙天衝が放たれた。

 

「――ッ!」

 

 フレデリックが驚愕する。

 瞬間、一護の月牙とパチュリーの弾幕が同時にフレデリックに衝突し、世界すら震動する凄まじい爆発が起きた。

 爆炎と爆煙が吹き荒れる。

 

「やったか!?」

 

 一護がそう言った瞬間だった。

 

「ふはははははははははははははは!!」

 

 下卑た哄笑を上げながら、爆炎がフレデリックの為のように道を作り上げた。

 

「今のはそこそこ良い力だった。それが、最後の手か?」

 

 フレデリックは三人に対峙する。

 その姿は無傷で、服装すらも全く乱れていないし、焦げ跡すらない。

 

「嘘……だろ!?」

「言っただろ。私には〝邪劫ノ法〟がある。貴様らの攻撃など、私には全く効かない。それに〝邪劫ノ法〟で使用する魔力も全て、〝聖無石〟から無限に供給してもらえる」

 

 ――絶望。

 三人は完全に絶望してしまいかけた。

 

「もう、終わりにしようか。数百人分の魂を編み込んで作られた、邪劫ノ法の力で、貴様らを跡形も無く消し飛ばしてやる」

「…………!」

 

 その瞬間、一護はある事を思いついた。

 

「パチュリー、萃香……もう一度だけ頼む。最後にもう一度だけ……あいつの隙を作ってくれ」

 

 一護が最後の賭けに出る。

 

 

《2》

 

「最後にもう一度だけ……あいつの隙を作ってくれ!」

 

 一護のこのセリフが、絶望の淵に落ち掛けていた二人を救い出した。

 だが、一護がフレデリックに対して、どう攻略するのかは、二人共分からない。

 いちいち聞いていられないからだ。

 

「分かったわ。隙を作れば良いのね」

 

 絶望しかけていたパチュリーが、一護のセリフを聞いたお陰で、完全では無いが少し立ち直っている。

 三人の中でフレデリックの魔力を一番感じやすいので、一番恐怖していても仕方無いのだ。

 

「ああ。頼む」

「簡単に言うけど、結構大変だと思うよ」

 

 パチュリー程では無いが、フレデリックの力の巨大さに、負けを覚悟してしまっていた萃香も、一護のセリフで立ち直っている。

 

「けど、今は……」

「そんな事言ってる場合じゃないな!!」

 

 パチュリーが呟くように言った言葉の続きを、萃香が叫ぶように言った。

 その言葉が合図のように、三人がフレデリックに駆ける。

 

「何を思いついたか知らないが、私に勝てると思わないことだな」

「うるせぇ! 黒符『月霊幻幕』!」

 

 一護が最前でスペルを唱える。

 無数の三日月状の弾幕が、フレデリックを襲う。

 

「下らんな。怒符『ヘルクラッド』」

 

 フレデリックの周りに、槍状の弾幕が展開され、向かってくる一護の弾幕を掻き消していく。

 相殺ではなく、圧倒的にフレデリックの弾幕の方が強力で、一護の弾幕全てが、一瞬で消え去った。

 

「俺の魔力は聖無石の力で無限の上、邪劫ノ法で、スペルも詠唱を唱えた時以上の魔術が使える。貴様のスペルが、この私に通じる訳が無いだろ」

「御託はどうでもいい! 黒符『天幻月牙』!」

 

 続けてスペルを唱える一護。

 フレデリックの周りの空間から、三日月状の弾幕が現れる。

 

「さっきと同じ手か。なぜ私に通じんと分からん」

「酔神『鬼縛りの術』!」

 

 瞬間、萃香がスペルを唱える。

 萃香から鎖が放たれ、その鎖がフレデリックを縛った。

 

「何……?」

 

 鎖のせいで身動きの取れないフレデリックは、一護の弾幕を全て被弾した。

 それに続いて、パチュリーがスペルを唱える。

 

「攻撃は止めないわよ。水符『ベリーインレイク』!」

 

 パチュリーから水色のレーザー、小弾、大弾が、大量にフレデリックに目掛けて発射された。

 休む事無くフレデリックに弾幕が降り注ぐ。

 

「チッ……その程度のスペルで、この私に勝てると思うなよ!」

 

 フレデリックが鎖を力任せに破壊し、横に避けるようにして跳ぶ。

 

「逃がすかよ! 黒符『天雨月閃』!」

 

 一護がスペルを唱えると、フレデリックの上空に黒い弾幕が現れ、それらが一気に降り注ぐ。

 さながら、黒い雨のようなスペルだ。

 

「何をしようと……無駄だァッ! 怨符『毒蟲砲弾』」

 

 フレデリックがスペルを唱える。

 すると、地面から黒い小さな塊が無数に現れ、一斉に降り注いでくる一護の弾幕に向かって放たれた。

 それにより、一護の弾幕が相殺されていく。

 

「懐が、ガラ空きだよ!」

 

 いつの間にか、萃香がフレデリックの懐に入っていた。

 

「何!?」

「遅いよ!」

 

 萃香は右拳に凄まじい妖力を込め、一気にフレデリックの腹に突き出す。

 フレデリックの腹に入った拳は凄まじい威力だったらしく、フレデリックは口から血を吐き、後方に吹っ飛んだ。

 

「ガハ……ッ!!」

 

 フレデリックは態勢を整えると同時に、勢いよく口から血を吐いた。

 

「くっ、内臓がいくつか潰れたみたいだが、こんなもの一瞬で再生してやる」

 フレデリックが自分の片手を腹に持っていく。

 どうやら、治療しようとしているようだ。

 

「させないわよ。木符『グリーンストーム』!」

 

 パチュリーがフレデリックの治療を、阻止しようとスペルを唱える。

 弾幕があらゆる角度からフレデリックを狙うように放たれた。

 フレデリックは透かさず、スペルを唱える。

 

「舐めるなよ! 怨霊『冥府の大蛆』!」

 

 フレデリックの周りに黒い霧が現れ、その周辺一帯が腐り落ちる。

 その黒い霧のせいで、パチュリーの弾幕はフレデリックに当たる前に霧散していった。

 どうやら、あの霧は全ての物を瞬時に腐らす霧のようだ。

 

「チ……ッ」

 

 パチュリーが悔しそうに舌打ちする。

 ようやくフレデリックに致命的ダメージを与えたのに、このまま黙って治るのを待つしか出来ないのだ。

 

「そうはさせっかよ!」

 

 だが一護は諦めない。

 

「黒符『天幻月牙』!」

 

 一護が相手の周りに弾幕を展開させるスペルを唱える。

 もし、霧の内側に展開出来ていれば、フレデリックは弾幕の的になる。

 

「やったか?」

 

 衝突音も何も聞こえてこない。

 上手くいかなかったのか?

 

「――!」

 

 瞬間、黒い霧が消え、そこからフレデリックがボロボロの姿で現れた。

 その姿は今までのフレデリックの姿から見れば、かなり滑稽に見える。

 どうやら一護の弾幕は全て、フレデリックに被弾したようだ。

「劣等民族の分際で、この私に……傷を付け負ったなァァアーーーッ!!」

 

 フレデリックが叫ぶと同時に、フレデリックの魔力が空間を揺るがす。

 

「ぐ……」

 

 三人がそれに、一瞬態勢を崩す。

 

「この蛆虫どもがぁぁあああっ!」

 

 どす黒い瘴気をフレデリックが纏い始めた。

 大気をも腐らせるような、高濃度の魔力がフレデリックから溢れ出す。

 

「この私を本気にさせた事を後悔しながら死んでいくがいい……」

 

 高濃度の魔力は周囲に漂う陰気を吸い込み、実体を成すほど死霊の群れが現れる。

 暗黒魔術の魔具の中では最上級に位置する〝邪劫ノ法〟。

 それに無尽蔵の魔力を供給する〝聖無石〟。

 この二つを取り込んだフレデリックの肉体は魔術回路と化し、永久機関の如く邪気を生み出しているのだ。

 しかも自然界と完璧に遮断されているこの別次元の空間では、邪気による力が何倍にも膨れ上がっている。

 

「怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨ォォォォォ!!」

 

 フレデリックの雄叫びに呼応し、漆黒の空から何かが降り注いでくる。

 

「ッ!?」

 

 凝り固まった怨念が髑髏の形を形成して、雨のように降り注ぐ。

 

「パチュリー! あいつは一体何をしたんだ!?」

 

 魔術関連の事に全く詳しくない一護は、フレデリックが何をしたのかをパチュリーに聞く。

 

「あれは自分自身を媒体にして、邪気を永遠に生み出す怪物にしたの。正気の沙汰とは思えないわ」

「邪気……?」

「一護は隙を作ってと言ったわね」

「ああ」

「……あいつの隙は、もう作れないわ」

 

 その言葉に、一護は目を見開く。

 

「な、何でだよ?」

「フレデリックのあの邪気は常に自分自身を守る。打ち消す事も恐らく出来ないわ。何故なら、この世界がそれをさせないから」

「世界……」

「そうよ。スペルによる力は絶対に通じないわ。いえ、それどころか、あらゆる異質な力を寄せ付けないわよ。あの邪気は異質かつ異能などに敏感に反応すると思うから」

 

 パチュリーが即座に分析と解析を行う。流石は紅魔館の魔法使い、とんでもない慧眼の持ち主だ。

 そして曰く、スペルによる力が通じないどころか、それ以外の力も通じない。

 その言葉が一護たちに絶望感を与える。

 

「何をチンタラ話している? 貴様らにそんな暇を与えると思うなよ。怨霊『死の楔』」

 

 フレデリックがスペルを唱えると、ゾゾゾと音を立て、怨霊が現れる。

 それが無数の黒い鏃となり、フレデリックの周りを浮遊する。

 

「死ねぇぇえええええっ!!」

 

 一護に向かって鏃状の弾幕が放たれる。

 

(……スペルが効かねぇなら、これしかねぇよな!)

 

 一護は何かを決心したように、向かってくる鏃状の弾幕に向かって走る。

 

「な、何をしているの一護!?」

 

 一護の行動に驚いたパチュリーが声を上げて言う。

 傍から見れば、今の一護の行動は完全に自殺行為だ。

 

「萃香! 俺をフレデリックの方に思い切り投げてくれ!」

 

 一護の言葉を聞いた萃香は、一瞬思考を停止させてしまったが、直ぐに行動に起こす。

 今はどれだけ一護が馬鹿げた事を言おうと、それに賭けるしかない。

 それ程までに切羽詰っている。

 だが、萃香の力は殆ど残ってはいない。

 フレデリックを殴る時に、殆どの妖力を使ってしまったからだ。

 

「分かった。けど、これが最後だよ一護」

 

 萃香は一護の方に駆けながら、スペルを唱える。

 

「萃符『戸隠山投げ』!」

 

 萃香の能力で一護を手元に萃める。

 お陰で鏃状の弾幕は、一護に当たる事なく萃香の手元へと瞬間移動した。

 そして一護を掴み、全力でフレデリックの方に投げ飛ばした。

 

「何をしている?」

 

 流石のフレデリックも、今の一護の行動には理解できないようだ。傍目からも、とんでもない自殺行為にしか見えない。

 そしてそんな一護は、そのままフレデリックの方に吹っ飛ぶ。

 

「まさか私と正面衝突をし、気絶させようという魂胆か? 下らん」

 

 怨霊の群れが、フレデリックの前で壁を作り出す。

 

「怨霊の壁に衝突すれば、貴様の身体はどうなるかな?」

「……霊圧を消す」

 

 一護がそう呟いた。

 その瞬間、一護の纏っている黒い霊圧、死神の姿が解除された。

 これで一護は完全に無防備になってしまったのだ。

 

「!! 貴様、何を考えている!?」

 

 この一護の行動にフレデリックは驚き、目を見開く。

 

「テメェの力が、スペル等による異質の力に過剰に反応するなら、俺自身の中にある異質の力、霊圧を消して、テメェの邪気を突破してやる!!」

 

 一護にとって、これは賭けに等しい行為。

 上手くいかなければ、一護は無防備のまま邪気の力を浴び、死ぬ。

 だが、上手くいけば最大の、フレデリックを倒すチャンスを作れる。

 

 そして……一護は怨霊の壁を突破した。

 

「何だと!?」

 

 フレデリックは驚愕の表情となる。

 こんな無謀な策で突破されると思わなかった故。

 

「いくぜ!」

 

 一護は突破すると、直ぐ様態勢を整え、フレデリックの胸元を掴む。

 怨霊の壁を突破したと同時に、萃香に投げられた時の力が緩和されたのか、態勢を整える事が出来た。

 

「貴様! 何をする!?」

 

 フレデリックは一護の掴んでいる手を掴み、引き離そうとするが、一護は離さない。

 

「離せぇ!」

 

 怨霊が一護の周りに浮遊し、今にも襲い掛かろうとしている。

 

「フレデリック……俺の能力が何か知っているか?」

「何!?」

「……分からねぇんなら教えてやる。〝物質に宿る魂を操る程度の能力〟だ!」

「……まさか、貴様ぁぁあああ!!」

 

 一護の能力を聞いたフレデリックが、尋常じゃない焦りを見せる。

 何かを察したようだ。

 

「終わりだ……フレデリック」

 

 一護は空いている手で、フレデリックの腹に手の平を突き出す。

 その瞬間、ドクンと世界が波打つ。

 

「止めろ……黒崎一護!」

「テメェの、邪劫ノ法の……魔術師達の魂を――解放する!」

「止めろぉぉぉおおおおおおおおおっ!!」

 

 その瞬間、凄まじい光と共に怨霊たちが霧散し、フレデリックの世界に皹が入った。

 

 そして、ガラスが割れるような音と共に、フレデリックの世界が潰れ散ったのだ。

 

 いつもの光景、山や青い空、そして博麗神社が、視界に映し出される。

 先ほどまでの爛れた世界はどこにもない。

 

「な、な、な、何をしやがるッ! 黒崎一護ぉぉぉおおおおお!!」

「――黒斬」

 

 フレデリックの怒涛の叫びも聞く耳持たず、呟くように黒斬と言った。

 それと同時に、一護の姿が死神の姿に戻り、右腕から黒い霊圧が溢れ出す。

 

「何!?」

 

 フレデリックはそれに驚く。

 一護は今、スペルを唱えようとしている。

 しかも、胸倉を掴まれたままなので、ゼロ距離だ。

 

「『月牙天衝』!!」

 

 一護は月牙をゼロ距離でフレデリックに放った。

 渾身の霊圧を込めた月牙天衝。

 今のフレデリックは、自分を守ってくれる力が無い。

 それにより、月牙を完全に受け、霊圧による凄まじい爆発が起きた。

 

 幻想郷に漆黒の柱がたちのぼる。

 

「ぐぁっ!」

 

 一護は自分の放った月牙天衝の衝撃で、後方に勢いよく吹っ飛んでしまった。

 パチュリーもそれに耐えるように、身体を縮める。

 萃香は、一護を投げ飛ばした時に、力を殆ど使い果たし、気絶していた。

 

「……やったよな」

 

 一護は月牙を放った方を見て、フレデリックの安否を確認する。

 流石にあの月牙を受けて無事では無いだろう。

 天まで届くような黒煙が舞っていて、全く様子が分からない。

 

「……パチュリー、後どれくらい魔力が残ってる?」

「もう、殆ど無いわ。今の月牙天衝で倒せていないなら、絶望的ね」

「そうか」

 

一護は自分の残り霊圧を確認する。

 

(月牙天衝は、撃てて後一・二発くらいか)

「ねぇ、一護」

「ん、何だ?」

「どうやって、あの世界を打ち破ったの?」

 

 フレデリックの結界、そして邪気による力。

 そのフレデリックの全ての力を、一護はあっという間に打ち砕いてしまった。

 魔術師のパチュリーはその力を、どう打ち砕いたかに興味があったのだ。

 

「簡単だ。あいつの持っている邪劫ノ法ってやつは、魔術師達の魂が源で出来てんだろ。だから、その魔術師達の魂を、あの本から解放してやったんだよ。俺の能力でな」

「……なるほど、そんな裏技が」

「〝物質に宿る魂を操る程度の能力〟。その能力のお陰で、あいつの本の力を打ち破ったんだ。まぁ、賭けに近い行為だったけどな」

 

 結果、一護は二重の賭けに挑戦した事になったのだ。

 フレデリックの邪気の力を、霊圧無しで突破できるかどうか。

 邪劫の法の魔術師達の魂を、自分の能力で解放し無力化できるか。

 この二つの賭けを、一護は成功させたのだ。

 

 ――刹那、パチュリーが黒い弾幕に貫かれた。

 

「ッ…パチュリー!」

 

 一護の叫び声も空しく、パチュリーは地面に倒れ伏した。

 

「黒崎……一護……」

 

 一護がパチュリーに駆け寄ろうとした途端、フレデリックの声が聞こえてきた。

 足を止め、月牙で出来た黒煙の方を見る。

 そこから、フレデリックが歩いて来ていた。

 身体は、かなりボロボロで、戦える状態とは思えない。

 

「フレデリック……テメェ、まだ立てんのかよ?」

 

 フレデリックは足を止め、答える。

 

「……私を舐めるなよ。貴様に邪劫ノ法は崩されたが、まだ私には無聖石がある。それに私にはまだ……」

 

 フレデリックがここまで言ったところで、一護は直ぐ様攻撃を仕掛ける。

 こう会話している間にも、フレデリックは魔力で身体を治療しようとしているからだ。

 

(今なら、まだ間に合う!)

 

 一護は素早くスペルを唱える。

 

「黒斬『月牙天衝』!」

 

 一護が残り僅かの霊圧で、月牙天衝を放つ。

 

「……フッ」

 

 フレデリックが小さい笑みを浮かべ、この場では有り得ない物を取り出した。

 

「……ッ!? 拳、銃……?」

 

 そう、フレデリックは拳銃を取り出したのだ。

 その銃の種類はモーゼルミリタリー。この幻想郷には似つかわしくない、現代兵器である。

 

「褒めてやるぞ……黒崎一護」

 

 迫り来る月牙に全く動揺せず、話し続ける。

 

「んなもんが、月牙に通用すると思ってんのかよ!?」

「どうかな」

 

 フレデリックが月牙の方に銃口を向ける。

 月牙がただの銃に負ける訳が無い。

 ……そのはずだった。

 

 フレデリックの握るモーゼルミリタリーが火を吹く。

 弾丸が月牙を貫き、いとも簡単に霧散した。

 

「月牙が……消滅しただと!?」

 

 一護は目を疑う。

 月牙が銃の弾丸に負けてしまったのだ。

 

「切り札というのは、最後まで取っておくものだぞ?」

 

 続け様に銃声が発せられる。

 左腕、もも、腹、肩……。

 一護の纏っている黒い霊圧が貫かれ、徐々に消えていく。

 肉を抉る弾丸の破片。

 それが深々と刺さった瞬間に、力が急激に失われていく。

 

(一体……何が……!?)

「私が聖無石と邪劫ノ法だけで、貴様らに復讐すると思っているか?」

「何だと……」

 

 復讐……この単語が一護には今だ理解できない。

 

「奥の手まで喋る程、愚かではない。お前らは、奥の手を全て出し切ったようだがな」

 

 さらにもう一発。

 フレデリックの弾丸が一護の右腕を打ち抜いた。

 右腕の黒い霊圧が、霧散していき、一護の纏っている全ての霊圧が消えていく。

 フレデリックは一護に歩み寄り、無造作に一護の腹を蹴り上げた。

 

「ぐ……ッ!」

 

 一護は衝撃のあまり転がる。

 

「何故ただの鉛球が、貴様や月牙を打ち抜けたか、知りたいか?」

「……何?」

「この銃の弾丸は特別製なんだよ。この弾を相手にして、防ぎ切れる力は存在しない。今の私でも不可能だし、悪魔ですら確実に殺しきる事が出来る代物だからな。そう、これは、かの磔刑に使われた釘だよ」

「磔刑?」

「神人の肉を貫き、血を浴びたのはロンギヌスの槍だけじゃない。十字架に磔にされた時に、手首と足に突き刺さっていた大釘の方が、充分に血を吸い込んでいた訳だ。神人の血肉を裂いた釘を独逸国へと持ち帰り、鎔かして弾丸を鋳造したのさ」

 

 一護は言葉を発する事が出来ない。

 

「さらに、この弾丸の内部には、ある協会が開発した霊薬が仕込んである。あらゆる区別なく、どんな異質の力でも分解する特殊な霊薬がな。勿論、貴様のような力でも、一瞬で分解できてしまう霊薬だ」

 

 ――更なる絶望。

 一護は完全に絶望してしまいかけている。

 

(俺は、死ぬのか……)

 

 そんな言葉が頭を過ぎった。

 

「これで、最後だ黒崎一護。脳に一発撃ち込み、終わりにしてやろう」

 

 銃口を一護の頭に向ける。

 

「死ねぇ」

 

 銃声が轟く。

 終わった……かと思った。

 

 だが、一護の頭には何も貫かれていない。

 何故なら、一護は放たれた弾丸の位置にいないからだ。

 

「貴様は……」

 

 フレデリックは一護がいる方向を見る。

 そこには、一護の横に一人の少女が立っていた。

 

 そう――博麗霊夢だ。

 

「博麗の巫女か」

 

「誰よ、あんた?」

 

 毅然とした態度で登場した霊夢だったのだった。

 

 

《3》

 

「誰よ……あんた?」

 

 窮地に陥った一護を、霊夢が救い出した。

 もし霊夢が来なかったら、今頃一護は頭に弾が貫通し、即死だっただろう。

 ただし霊夢は口には出さないが、実を言うと財布を忘れたから、取りに戻ろうとしたら偶然こんな展開になっていたのだ。

 簡単に言うと、一護は財布のお陰で助かったと言っても過言では無い。

 

「博麗神社とその境内をこんなに滅茶苦茶にして、死ぬ覚悟は出来てるわね」

 

 周りを見渡す。

 確かに境内には大穴が開き、博麗神社の所々が崩壊している。

 まぁ、あんな熾烈な弾幕勝負をしていれば仕方の無い事。

 ただし、殆どが一護の月牙天衝によるスペルが原因だが。

 

「……貴様が今の博麗の巫女か?」

 

 フレデリックは銃を下ろし、問いかける。

 

「私が先に誰? と言ったのよ。先に答えなさい」

「……幻獄七夢卿の一人。夢殺しの暗黒魔術師 フレデリック・グレアムだ」

「――ッ! 幻獄七夢卿……」

 

 幻獄七夢卿という単語に霊夢は面喰らった。

 だが、直ぐに態度を戻す。

 

「あんたが、その一人。良かったわ。ようやく、これで幻獄七夢卿の事を聞きだせる」

 

 霊夢がスペルカードを取り出し、臨戦態勢に入る。

 

「幻獄七夢卿の事を聞き出すか……。面白い事を言う。聞き出せるとでも思ってるのか?」

「聞き出すわよ。拷問をしてでも」

 

 巫女とは思えないような事を吐く。

 

「博麗の巫女と博麗の■■■■」

 

 フレデリックが博麗の巫女の続きを言ったが、何を言ったか聞き取れなかった。

 

「……霊夢、俺の霊圧は残り少ない。月牙天衝は撃てて後一発が限度だ」

「分かってるわよ。あんたの霊圧を見れば分かる。けど、あいつも結構弱ってるわね。私が来るまでに、粗方終わらしたようだけど……」

「あいつには聖無石っつう魔力を無限に供給する魔具がある。だから、時間を掛けたら、こっちが不利になる。それに、あいつが持ってる銃は弾幕や結界なんかの異質の力は全て分解し、無効化される」

「聖無石と鉄砲……分かったわ。じゃあ、私があいつの隙を作る。だから一護は、最後の月牙であいつを倒して」

「簡単に言うが、あいつの隙を作るのは大変だぜ」

「そんな事、分かってるわよ! 神霊『夢想封印』!」

 

 霊夢がスペルを唱え、フレデリックに駆け出す。

 複数の光弾がフレデリックに殺到する。

 

「博麗の巫女……貴様を殺す。怒符『ヘルクラッド』!」

 

 フレデリックがスペルを唱えると、槍状の弾幕が展開され、霊夢の弾幕を相殺していく。

 

「怒符『スロウトハンド』!」

 

 続けてフレデリックがスペルを唱える。

 空間に穴が開き、そこから黒い腕がいくつも現れ、霊夢に襲い掛かる。

 

「この程度のスペルで、私に勝てると思わないでね」

 

 霊夢は向かってくる黒い腕を、全て紙一重で躱しながらフレデリックに向かう。

 

「流石は博麗の巫女だな。だが、これならどうだ? 獄炎『パジェリマ』!」

 

 フレデリックの頭上に火の鳥が現れる。

 だが、大きさが今までの比ではない。

 まるで、燬鷇王。ルキアの処刑時に使われた炎の鳥だ。

 

「どうだ、これなら簡単には対処できんぞ」

「そのようね。けど、あんたもかなりの魔力を消耗したんじゃない?」

「ああ。だが、この程度の魔力は、聖無石で直ぐに元に戻せる」

 

 それを言い終わると、炎の鳥が霊夢に向かって飛んだ。

 

「……チッ」

 

 霊夢は後ろを少し振り向き、舌打ちをする。

 そこには博麗神社がある。

 そう、避けたら博麗神社は炎の鳥に燃やし尽くされる。

 

「最悪ね。神技『八方鬼縛陣』!」

 

 霊夢がスペルを唱え、結界を張る。

 炎の鳥から博麗神社を守れるくらいの大きさの結界だ。

 

「結界か」

 

 フレデリックが呟くように言う。

 

「くっ……流石にきついわね!」

 

 霊夢が両手を前に出し、結界に霊力を注ぎながら、何とか炎の鳥に対抗している。

 

「けど、もうちょっとで……」

 

 炎の鳥の魔力が消える。

 放った魔力を無限に保つ事は不可能。

 即ち、時間を掛けて防ぎきれば、炎の鳥は自然に消える。

 

 だが、予想外の事が起きた。

 凄まじい音が一瞬轟いたかと思うと、炎の鳥も霊夢の結界も霧散した。

 

「な……に!?」

 

 霊夢の右肩から鮮血が出ている。

 何か小さな物に、貫かれたようだ。

 

「どうだ、この銃の威力は?」

 

 フレデリックが銃口を霊夢に向けながら言う。

 どうやら、あの銃で炎の鳥も霊夢の結界も消し去ったようだ。

 そして、弾丸はそのまま霊夢の右肩に貫通した。

 フレデリックが持つ銃の弾丸は、磔刑に使われた釘と霊薬で出来ている。

 その両方の力で、あらゆる異質の力は分解され、無に還る。

 即ち、どのような方法を用いても防げない弾丸だ。

 

「……霊符『夢想妙珠』!」

「――!」

 

 霊夢はフレデリックの話を聞かずに、スペルを唱える。

 こうしている間にも、フレデリックは魔力を回復するからだ。

 霊夢の周りに八個の光弾が展開され、フレデリックに放たれる。複数の光弾に比べて、威力は高い。

 

「成程。賢明な手段だな。俺の魔力の回復時間をやらずに、一気に攻めて来るか」

「当然よ!」

 

 霊夢はまるで右肩の傷が無いように、動き出す。

 

「……確かに俺の魔力は炎の鳥により、殆ど無くなったが……怨霊『スピズエイド』」

 

 フレデリックがスペルを唱えると、半透明の暗黒色の結界が張られた。

 それで霊夢の光弾から身を守る。

 だが、それにより結界に皹が入り、今にも割れそうになった。

 

「良い弾幕だな。だが、俺の結界の前では無力に等しい」

 

 フレデリックがそう言うと、皹が入った結界が何も無かったかのように、元に戻った。

 

「面倒な結界ね!」

 

 霊夢が結界の近くまで行くと、スペルを唱える。

 

「宝符『陰陽宝玉』!」

 

 霊夢の手の先から光りが発せられ、そこから気弾が放たれた。

 その気弾が結界にぶつかる。

 だが、結界には傷一つ出来ていない。

 

「私のスペルが、効いていない!?」

「無駄だ。この結界には私の魔力が込められている。そう簡単には壊せないぞ」

 

 フレデリックは自分の魔力で結界を強化したようだ。

 これで、自分の魔力の回復の時間稼ぎをするつもりだろう。

 

「くそ……だったら、これなら……宝具『陰陽鬼神玉』!!」

 

 霊夢の先程の手先から巨大な光の弾が現れ、再び結界を襲う。

 このスペルは陰陽宝玉の強化版のようなスペルだ。

 

「だから、無駄だと言っている……何?」

 

 フレデリックの余裕の笑みが、少し歪んだ。

 結界に皹が入ったのだ。

 

(後、少し!)

 

 霊夢は霊力を力強く込める。

 だが、後一押しというところで結界が割れない。

 

「くくく、残念だったな、博麗の巫女。貴様は無駄に霊力を使っただけだ」

「ちっ、くしょう……」

 

 霊夢の光の弾が弱まっていく。

 そろそろ霊力が切れそうだ。

 

「無駄じゃ無いぜ! 霊夢!」

 

 突然、霊夢の背後から聞きなれた声が聞こえてきた。

 その声の主は……

 

「こんな近くでドンパチと祭り事をやられちゃ、嫌でも目が覚めるっての!」

 

 魔理沙だった。

 萃香との弾幕勝負で、動けない程のダメージを受け寝込んでいた魔理沙が、起き上がりミニ八卦炉を構えている。

 

「魔理……沙」

 

 霊夢は後ろを振り向き、魔理沙を確認すると、弱々しく言った。

 

「いくぜ、霊夢。恋符『マスタースパーク』!!」

 

 ミニ八卦炉に魔力が吸収され、そこから極太レーザーが放たれた。

 マスタースパークがフレデリックの結界に激突する。

 

「ッ! ……まさか、ここで魔法使いの助っ人とは予想外だ!」

 

 瞬間、マスタースパークが結界を打ち破った。

 

「チッ」

 

 フレデリックは結界が破られたと同時に、空中に跳び、極太レーザーを避ける。

 霊夢も巻き込まれないように、横に跳び避けた。

 

「くっ、やっぱ、一発が限界だったぜ」

 

 スペルを唱えた魔理沙は、そのまま地面に倒れ伏した。

 動かせない身体を強引的に動かして、マスタースパークを放ったのだ。倒れても仕方が無い。

 

「一発でも、よくやってくれたわ魔理沙。神霊『夢想封印』!」

 

 霊夢がスペルを唱え、複数の光弾が上空にいるフレデリックを襲う。

 

「くそ……まだ魔力は殆ど回復していない。だったら」

 

 フレデリックが銃を構え、向かってくる光弾に向かって弾を発射する。

 自分に向かってくる弾幕だけを的確に捉え、発射された弾丸は全て光弾に当たった。

 それにより、光弾が霧散していく。

 

「ハハハハハ、無駄な足掻きだったな、博麗の巫女! やはり貴様では、私に傷一つ付けられんようだ」

「……私の事ばっか見すぎよ、あんた」

「何?」

 

 その刹那、フレデリックの背後に一護が現れた。

 

「――しまった!!」

 

 後ろを振り向いたフレデリックは、険しい表情になる。

 一護は死神の姿に戻り、月牙を放つ構えをとっていたからだ。

 

「黒斬『月牙天衝』!!」

 

 一護は残り少ない霊圧で、渾身の月牙天衝を放った。

 それと同時に、一護の右腕に妙な違和感が流れる。

 

(何だ……“右腕の霊圧が今、圧迫されたように感じた”……?)

「くそぉぉおおおお!!」

 

 月牙を喰らったフレデリックが、身体をボロボロにさせながら、地面に落ちていく。

 

「黒崎……一護ぉぉおおおお!!」

 

 落下しながら、フレデリックは銃口を一護に向ける。

 

「死ねぇぇえええ!!」

 

 だが……銃からは何も発射されない。

 どうやら、弾切れのようだ。

 恐らく、霊夢の弾幕に使い果たしたのだろう。

 

「ば、かな……」

 

 フレデリックが弾切れを信じきれない目で見ている。

 

「しぶといわね。まだ、そんな銃を構える力が残っているなんて」

 

 霊夢が落下してくるフレデリックを見上げながら言う。

 

「私も残り少ない霊力で、スペルを唱えさせて頂くわよ。神霊『夢想封印』!」

 

 霊夢から複数の光弾が放たれる。

 それが全てフレデリックに被弾した。

 

「ぐふっ」

 

 フレデリックは口から血を吐き、そのまま地面に撃墜した。

 

「今ね」

 

 霊夢は何枚かのお札を、地面に叩きつけられたフレデリックに投げつけ、それを四肢に貼り付けた。

 

「これで終わりよ。幻獄七夢卿」

「博麗……がァ」

 

 フレデリックが四肢を動かそうとするが、全く動かない。

 

「無駄よ。今、あんたの四肢は完全に封じたから。しばらくは動けないわ」

「貴様……!」

 

 フレデリックは四肢を動かすのを止め、霊夢を睨みつける。

 憎しみや殺気が込められた眼。

 霊夢はそれに一瞬ビクついた。

 

「霊夢、終わったか?」

「ええ」

 

 一護は空中から霊夢の横に下りる。

 そして、倒れているフレデリックを見る。

 

「……随分と無様な姿になったな、フレデリック」

 

 一護はフレデリックを見下ろしながら言う。

 既に霊圧が限界状態だった一護は、死神の姿を解き、普段着に戻っている。

 

「くそがぁあ……これ以上、博麗の前で醜い姿を見せるのは、御免だ」

 

 フレデリックがそう言うと、掌に聖無石が現れた。

 

「! テメェ、まだ……!」

 

 瞬間、霊夢と一護は目を疑った。

 

 フレデリックが自分の聖無石を握り潰したのだ。

 

 聖無石がガラスのように割れ、欠片が全て霧散していった。

 

「な、何してんだよ!?」

 

 理解できない事に、一護が声を荒げた。

 

「……言っただろ。これ以上、博麗の前で醜い姿を見せたくないと」

 

 その瞬間、フレデリックの身体が徐々に消え始めた。

 

「テ、テメェ……どうしたんだよ!?」

「俺の生命は“神聖闘争”以降は聖無石に維持されてきた。その聖無石が砕けた今、俺の魂は消えていく」

「聖無石は生命を維持まで出来んのか?」

「ああ。無尽蔵の魔力のお陰で……だ」

 

 聖無石の魔力で生き永らえてきたフレデリック。

 それが潰れた今、フレデリックの生命の維持が出来なくなり、魂が消えようとしているのだ。

 それに対して、一護は頭が回らなくなっている。

 

「あんたには聞きたい事が山ほどあるのよ! 勝手に消えるなんて卑怯よ」

「聞きたい事があるなら早く言った方が良い。私に残された時間はごく僅かだからな」

 

 どうやら、フレデリックは今なら質問をして答えてくれるようだ。

 だが、それはフレデリックが消えるまで。

 質問できる数も限られてくる。

 そんな中、一護が霊夢より先に口を開く。

 

「待てよ。俺も聞きたい事がある。テメェが見せたあの悪夢は、全てフィクションなのか?」

 

 霊夢を差し置いて、先に一護が質問した。

 

「……違うな」

「何!? じゃあ、18年前の連続殺人と集団失踪事件は本当に有った事なのか?」

 

 頭があまり回らない一護は、真っ先に思いついたことを聞いた。

 

「当然だ。俺が空座町に滞在した時の話になるがな」

「どういう事だ?」

「話すのに時間が掛かるな。簡単に言おう。俺は空座町で博麗に敗れた」

「空座町で!?」

「ちょっと一護。私も聞きたい事があるの。質問させて」

 

 自分を差し置いて質問をする一護を退け、霊夢が問う。

 まだ色々と聞きたい事が有ったが、仕方ない。

 

「あんた達の目的は何?」

 

 一護が一番最初に聞こうと思っていた事を、霊夢が聞いた。

 

「……目的か。私たち一人一人は独自の野望を持って活動している組織だ。だが、一つだけ共通の目的がある」

「共通の目的……?」

「ああ。俺たちの目的は〝真の自由〟を得る事だ」

「真の自由? 何よ、それ?」

 

 全く訳の分からない目的に、霊夢は理解できなかった。

 

「そろそろ俺の魂は消える。その質問に答える時間は無い……が、最後に一つ面白い事を教えよう」

「面白いこと?」

「刹蘭……奴の正体は、外の世界でも有名な、ある伯爵だ」

「伯爵?」

「ああ。……最後に黒崎一護。貴様の名を聞かせてくれ」

「名前だと?」

「ああ。名前というより、二つ名に因んだ……いや、いい。二つ名で構わん」

 

 二つ名を含めた名。

 一護にはまだ二つ名が存在しない。

 決めていないからだ。

 

「俺は……」

 

 一護は思案する。

 ちょうど今、決めようと思ったからだ。

 

「俺は――博麗の死神 黒崎一護だ」

 

 咄嗟に思いついた自分の二つ名を、一護は言った。

 博麗の死神……今この時をもって、一護の二つ名が決まったのだった。

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