東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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とりあえず新章で、もちろん原作的には永夜抄の物語になります。

最後の方は、ほぼ投げやりになりました。


第伍章〈東方虚永夜篇〉
第31斬【フランとの絆物語】


《1》

 

 時は幻獄七夢卿の一人、フレデリック・グレアムを倒して数週間。

 核なる戦いが終わり、ようやく一護に平和な時間が訪れた。

 人が人成す円環していく己の日常。戦いもなく、異変も起こることのない一時の生活。つまるところ、学校の休日、仕事の公休などが当て嵌るだろう。自分が自分であれる世界に入浸かれるのだ。

 

 そんな――黒崎一護の平和な日常は、とてもじゃないが非日常へと直ぐさま変わる。

 

   *

 

「……どうして、こうなったんだ?」

 

 幻想郷に唯一存在する人間が暮らす集落である人里を歩きながら、一護は溜息混じりに呟く。

 あれから実際に何も起こることもなく、フレデリック戦後は霊夢から昔小耳に挟んだ、過去の歴代博麗の巫女が異変を記してきた筆録書に、面倒くさそうに霊夢が何やら書いていたことくらい。

 特筆して、この程度のことくらいしか言えない、何もない日常だったのだ。

 しかし、現在は違う。

 これを日常と言うのか非日常と言うのかは、恐らく賛否両論となるだろう。

 なぜなら今、一護はとある少女と一緒にいるから……

 

「ねぇねぇ、いっちー! あれは何~!?」

 

 一護の横には、周りを見渡しながら無垢な声を上げている一人の少女がいる。

 まるで遊園地に遣って来た子供のようなはしゃぎ様で、目をキラキラさせながら少女がある一点を指差す。

 その先には団子屋が有った。

 あそこは人里に初めて来た時に、上白沢慧音に連れられた場所だ。

 

「あれは甘い菓子が食える場所だ」

「甘いお菓子っ!」

「食いたいか?」

「うん!」

 

 少女は可愛らしく頷いて答える。

 頷くときに、黄色い綺麗な髪が揺れた。

 そう、一護の隣にいる少女の正体はフランドール・スカーレット。

 レミリアの妹にして吸血鬼。

 一護と会うまでは幽閉されていたが、その後からはフランも自由に外を出歩けるようになった。

 ただし、吸血鬼なので太陽は苦手。

 だから一護は日傘を差しながら、フランと人里に居るのだ。

 

「それじゃあ、食いに行くか」

 

 こうして二人は、団子屋へと向かったのだった。

 

 ――何故、一護がフランと一緒に人里に来たかと言うと。

 話は1時間程前に遡る。

 

   *

 

 まさに晴天と言う言葉が似合う、天気の良い中――黒崎一護は一人、博麗神社の縁側で茶を啜りながら、空を眺めていた。

 空を見つめる表情はポケ~としており、まさに平和ボケした人間の外面的に表していると見えよう。

 そして傍らの煎餅を齧る。

 もう、完全に博麗神社暮らしを物にしている……と言うより、ここの神社の巫女である博麗霊夢に似てきている。

 

「……平和だな」

 

 湯呑みを置き、呟く。

 フレデリック戦の後、これといって激しい死闘は一切無い。

 あるとすればあの後、萃香との激烈な弾幕勝負くらいである。

 それ以外は、これといって何も無い。特に邪悪な妖怪が出たという話もないし、それ以外の人的事件も何ら起きていない。

 

「ん~~」

 

 一護は背伸びし、立ち上がる。

 

「さて、そろそろ庭掃除の続きでもするか」

 

 近くにあった箒を手に取り、境内の落ち葉を掃き清掃を再開する。

 境内はフレデリック戦の時、暫しメチャクチャになっていたが、今は綺麗に元通りになっている。

 勿論、元通りにしたのは一護。

 理由は殆どが月牙天衝のせいだからって事で、霊夢に強引的に復旧作業をさせられたのだ。正直に思い返せば、あの仕事が何よりも大変だった。

 

「……にしても、いい天気だな。風が気持ちいいぜ」

 

 空は快晴。

 風はちょうど良いくらいの感じで吹いている。まさにお出かけ気分、ピクニック気分。気温は暖かく、少しでも横になれば一瞬で寝てしまいそうだ。

 

「こんな平和が、後いつまで続くんだろうな」

 

 誰に言うでもなく呟く。

 霊夢は今、八雲紫に用事があるとかで、八雲の家に行っていて、今は一護一人である。

 だから、答えが返ってくる訳が無かった。

 

「そうね。いつまで続くのでしょうね? 天罰『スターオブダビデ』」

 

 誰かが一護の言葉を返してきた。聞こえるはずもない、スペル名付きで……。

 瞬間、妖力を感じた一護は声のした方角である上空を見上げる。

 そして目を見開いて驚愕する。

 なぜなら自分に複数の弾幕と、紅いレーザーが目の前まで迫ってきていたのだから。

 

「うぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 一護は絶叫を上げながら、弾幕とレーザーを間一髪のところで回避した。ほんの少しでも確認するのを遅れていたら、回避は出来なかっただろう。

 

「平和ボケはしていないようね、一護」

 

 一護はもう一度、上空を確認する。

 そこには咲夜の差している日傘に入った、レミリアとフランの三人がいた。

 

「テ、テメェ! 何すんだよ!?」

 

 そこに紅魔館の吸血鬼である二人とメイド長がいた事には特に触れず、まずは何より一護は弾幕とレーザーが被弾した石畳を指差す。

 綺麗に砕かれており、もし被弾していたら洒落にならない。

 

「大丈夫よ。力は抜いたから、例え当たったとしても、それ程まで致命的にはならないわ」

「そっちじゃねぇよ! せっかく集めた落ち葉が散ったじゃねぇか! しかも地面を砕きやがって、誰が元通りにすると思ってんだよ!? この石畳修復するの大変なんだぞ!」

「……怒るとこはそこなのね」

「当たり前だ。怪我は放っておけば治るが、壊された一帯は勝手に直らねえんだよ」

 

 呆れた表情になるレミリア。

 三人が一護の前に下りてくる。

 

「……で、何しに来たんだ? お前ら」

「久し振りに遊びに来て上げたのよ」

「そっ、遊びに来たんだよ~!」

 

 突然、フランが一護に抱きついてきた。

 一護はそれを受け入れるように、フランを受け止める。

 

「お、おいフラン。急に何だよ?」

 

 一護の胸に頬を摩るフラン。

 何故かこの時、霊夢に言われたロリコンという単語が頭に浮かんできた。とりあえず脳内で否定しておく。

 

「今日は一護と二人で、人間の里に遊びに行きたいの~!」

「は、人里に? またどうして」

「咲夜から面白いお店とか美味しい物が食べれるお店がいっぱいあるって聞いたから!」

 

 フランが一護の顔を上目遣いで見上げながら答える。

 

「つってもな、俺もまだこの辺の掃除終わってねえし……」

「何を言っているのですか黒崎さん。妹様の頼みですよ。何も言わずに聞き入れなさい」

「人にナイフをチラつかせながら頼むメイドなんて聞いたこともねえよ」

「頼んでいません。命令しているのです」

「なるほど脅しってやつか」

 

 傍から見えれば脅迫以外の何ものでもない。その時点で選択肢など一護には皆無だ。

 もし断ればBAD END直行であるし、こんな満面無垢な笑みを浮かべるフランを前にして、断れる勇気もない。

 

「……分かったよ」

 

 そんな状態の一護は、一言答え、首を縦に振った。

 

 とりあえず石畳を砕かれた件は、また霊夢に説教を食らうことを覚悟したのだった。

 

   *

 

 そんな事があって、一護とフランは人里にいる。

 フランは人里に来るのが初めてらしい。

 だから、フランは一護と人里に行きたかったのだろう。自分を救い、誰よりも慕う相手と。

 

「いっちー、この団子美味しいね」

 

 フランが串団子を食べながら言う。

 本当に美味しそうに食べるフランを見て、一護は微笑ましくなった。

 幽閉されていた時では、絶対に見られない笑顔だ。

 

「……つうかフラン。その『いっちー』って何だよ?」

「いっちーはいっちーだよ。一護だからいっちー」

 

 いっちー。

 まるで何処ぞの11番隊の副隊長を思い出させる呼び方だ。

 

「お姉様がね、お友達はあだ名で呼ぶもんだって言うから、私がいっちーのあだ名を決めて上げたの」

「そうか。……あれ、アイツに友達とかいるのか? まぁいいか。じゃあ、俺も何かお前にあだ名を決めてやらねぇとな。俺だけあだ名で呼ばれるのは卑怯だし」

「え! いいの!?」

「ああ。けど、少し時間が掛かるな。あだ名ってなかなか思いつかねぇから」

「いつでもいいよ。いっちーが決めてくれるんだったら、何百年でも待つから!」

「何百年も待たせねえよ」

 

 恐らく百年もしないうちに、自分がこの世にいない可能性大だ。

 

「私、あだ名とか初めてだからすごくドキドキするよ」

「そうか。ならその期待に応えないとな」

 

 フランが眩しいくらいの笑顔を見せてくる。

 これにドキッとしてしまったら、霊夢にロリコンと言われても、反論できなくなる。

 

「そんじゃあ、そろそろ行くか」

「うん」

 

 団子を食べ終えた二人は、団子屋を後にした。

 

「――お、一護君じゃないか。久し振りだな」

 

 団子屋を後にした途端、さながら狙ったかのように上白沢慧音が一護とフランの前に現れた。

 

「慧音さん。こちらこそ久し振りです」

 

 フランは誰なのか分からない顔をしている。

 勿論、フランと慧音は初対面だ。

 

「ん、一護君。その子は誰だい?」

「こいつはフラン。まぁ慧音さんは多分察しがついたと思うけど……」

「ああ、勿論だ。君の娘だろ」

「……は?」

「似たような色の髪、隠す必要はないぞ。そうかそうか、君も遂にか。相手は誰だ? 霊夢か? それとも妖夢か? いや、髪の色から察するに魔理沙あたりが濃厚だろ。けど君の好みは個人的には年上の女性かと思っていたが、私としたことが履き違えていたよ。いち学び舎を預かる先生として、大誤算だ」

「な、ななな何勘違いしてんだよアンタ! 察しってそっちじゃねぇよ。俺はそういう意味で言ったんじゃねえ!」

「ま、まさか君、こんな小さい子を……いや、人の趣向にとやかくは言わんが、ああ、そうなのか。私はとても残念だよ」

「…………行くぞフラン」

 

 と、踵を返す。

 

「あはは、待て待て冗談だよ。少しからかってみただけだ。そんなに怒らないでくれ」

 

 ……――と、そんなやり取りは終えて。

 

「そうか。紅魔館の吸血鬼か。私は上白沢慧音。この人里で寺子屋の先生をしている者だ。よろしくなフラン」

 

 改めて、慧音はフランと少女と自己紹介をする。

 慧音は言い終わると、フランに手を差し出す。

握手を求めているのだろう。

 

「私はフランドール・スカーレット。いっちーの友達なの。よろしくね」

 

 フランも自己紹介をし、慧音の差し出してきた手に、自分の手を持っていく。

 そして、二人は握手を交わしたのだった。

 

   *

 

 ――その頃、紅魔館では広い部屋の中、レミリアがテ-ブルに付き、紅茶を飲んでいる。

 紅茶は血のように真っ赤だが、恐らく人間の血では無いだろう。

 ……そうであって欲しい。

 

「咲夜、フランは今ごろ楽しんでいるかしら?」

 

 紅茶を啜りながら、自分の横に立つ咲夜に聞く。

 

「ええ、楽しんでいることでしょう。初めて行く人里ですから。それに、妹様は一護さんに好意を寄せていますし、楽しくないわけございません」

 

 レミリアはふと、咲夜の使ったある単語が気になった。

 

「好意……?」

 

 レミリアは紅茶の入ったカップをテーブルに置き問う。

 

「はい。妹様は一護さんに恋心を抱いているはずです。なぜ分かるかと言いますと、同じ恋を抱いている者だからです。勿論、私が恋心を抱いているのは、お嬢」

「フランが恋心をね……」

 

 レミリアは少し悪寒を感じ、途中で咲夜の話を聞くのを止めた。

 

「……あの子の気が狂れなくなったのは、一護の存在が大きいって事ね」

 

 何かを理解すると、レミリアは再び紅茶に口をつけた。

 

   *

 

 これは一護も知っている吸血鬼姉妹の過去の物語――

 フランは自分の狂気と言う概念に囚われ、外の世界を知らなかった。

 なぜ、どうして、フランがそこまで狂気に襲われたのか、その経緯は簡単だ。

 

 既にフランからは記憶が失われているが、簡易的にレミリアから一護に教えられた。

 そもそも二人は幻想郷の出身ではなく、一護たちのいた世界からやって来たのだ。スカーレット家はとある国の元貴族。しかし時代が古く、スカーレット家は人を殺しては、その血を浴び永遠の若さを保とうとしている貴族であると、民衆から思われていた。

 だが、それは紛れもない嘘。それを広めたのはスカーレット家を憎む、衰退していった貴族である。つまるところ言うと、ただの妬みから発生したのだ。

 当時のスカーレット家は国の中枢を成す貴族で、それを妬む他貴族はいたものの嘘を蒔く貴族はいなかった。しかしとある貴族は妬み、根拠もくそもない嘘を平気で蒔き、民衆を疑心暗鬼にさせた。

 そこで、とある貴族がその嘘の真否を確かめるため、スカーレット家に趣いて確認したところ、そう言った嘘に繋がるものは何も出て来なかった。これで、嘘も晴れるとスカーレット家のレミリアとフランの夫婦にあたる二人はホッとした。

 だが、そこで見られてはいけないものを見られてしまった。

 それは幼子、フランの小さな牙と黒い蝙蝠の羽である。

 まだ幼子であるフランは、急に見ず知らずの人間たちが自分の家に押し入ってきたのに混乱し、怯え、不意に見せてはならないものを人間に見せてしまったのだ。

 そもそもスカーレット家は夫婦ともに、古くから続いた真祖直径の一家なのである。昔は人の血を飲んではいたが、時代が変わるごとに人間と平和に暮らせる日を夢見た吸血鬼は、その特異な体質から通常の人間の何倍も国のために仕事に励み、そして国の中枢を成す貴族にまでなった。

 そして人の血を飲むことを止め、じょじょにではあるが血を飲まなくてもすむ吸血鬼へと変質していった。

 しかし吸血鬼の羽や牙、身体力は残ったものの人間と何ら変わらぬ生活を送っていた。

 そして、その瞬間に、フランの羽を見た人間たちは化物として捉え、スカーレット家の人間を捕らえようとしたのだ。

 そこで母と父がフランとレミリアを連れて、驚異の身体能力により国から逃げることができた。

 だが、これからの生活は地獄だった。

 元々貴族という事だからではない。これから先、人間たちから逃げ回って生活しなければいけないからだ。

 何度も何度も住まう場所を変えていき、数回目、人をあまり寄せ付けない山奥で、簡単な木製の小屋のような家で生活していた。

 この時、レミリアとしては毎日働いている父と母がいつも一緒にいるから、この生活を満足していた。大変で、辛いこともたくさんあるけど、それでも家族四人が毎日一緒にいるだけで、それがとても嬉しかった。

 貧相な食事、古く汚い服、本当に最低限のものしかない生活用品、小さな家。それだけでもレミリア、そしてフランは家族がいるだけで温かいし、食事も貴族暮らしの時より美味しく感じた。

 ――そんな生活が続いて、数年後……その幸せな時は一瞬で崩壊した。

 スカーレット家はとある山奥にいると言う情報が、故郷の国に流れ、大々的に抹殺へと動いてしまった。

 それは夜の、一瞬の出来事だった。

 スカーレット家が住む山は取り押さえられ、国から来た武装集団が爆撃、放火と、そして暴力が始まる。

 食事をしている瞬間を狙われたスカーレット家は、瞬時に完全包囲されているのを理解した。そこで捕まれば自分の娘も殺されると悟った父は、母に娘たちを託し一人で数千の兵に挑んだ。自分の愛する家族に逃げ道を作るため、一定の箇所に吸血鬼の力を見せつけ、数多の兵を薙ぎ払い、それを突くように娘を担いだ母は走った。

 レミリアはこの時、何も恥じぬ声調で、この時自分は一番涙を流したといった。

 愛する父が自分を守るために戦った。それが誇らしかったが、とてもじゃない悲しみと絶望があった。それは母もフランも同じだ。

 そして随分逃げたところで、母とフランが三人になったところを、狙うような策謀していた感じで数百の兵が現れた。

 この時、もしかしたら母はレミリアとフランを見捨てたら逃げれたかもしれない。しかしそれをしなかった母は、本当に子供を守る意思を露にし、自分に宿る吸血鬼の力を解放した。

 だが、数百の兵には敵わず、戦うことのできないフランとレミリアを守り亡くなったという。

 この瞬間、レミリアは糸が切れたかのように絶望し、全てが終わったと思った。

 しかしフランは違った。

 自分の愛する父と母が殺され、全てが狂ったのだ。黒い羽は砕け、代わりに水晶のようになり、驚異的な力を見せつけ、有り得ない域で兵を惨殺していった。

 その光景を唖然と見ていたレミリアは、死に際に母と父の言葉を思い出す。

 …………思い出して、絶望からフランを救い出し、そして誰かが呟いた。

 

「その勇気、絶望から立ち上がる希望。とても素晴らしい。さぁ君たちを助けてあげよう。俺の世界へ」

 

 そこで全てが変わった。

 

 二人は何の前触れもなく、幻想郷にいたのだ。

 

 ここまでがレミリアから聞いた簡易的な話し。

 いろいろと省かれて話したが、レミリア曰く母と父を目の前で失ったのだ、狂気の原因だと言った。

 

   *

 

 そして話は戻り、ある屋敷では――

 とある計画が実行されようとしていた。

 

「今日の夜、月を隠すわよ。良いわね」

 

 一人の女性が、前に立つ二人の少女に告げる。

 それを聞いた二人はコクリと頷く。

 

「今回のこの計画で、博麗の巫女などの異変解決に携わる人達が動くはずよ。あなた達はそれを止める役に回ってもらうわ」

「はい。師匠」

 一人の少女が答える。

 なぜ月を隠そうとしているのかは分からない。

 だが、再び大きな異変が起きようとしているのは分かる。

 

「今回、あなたには大いに期待しているわよ」

 

 女性は二人の少女から視線を、部屋の壁の方に移す。

 そこには一人の男が立っている。

 コート状の死神のような白い死覇装を着ている男。

 そう……そいつは

 

「ウルキオラ」

 

 女性が、その人の名を言った。

 ウルキオラ・シファーだ。

 

 新たに起こる異変に、ウルキオラが参戦する。

 

 

《2》

 

 太陽が沈み、丸い月が顔を出す。

 幻想郷に暗い夜が訪れた。

 宵闇に包まれ、人々が寝静まった人間の里。

 人の気配は無く、建物の明かりが一切照らされていない。

 昼間とは豪い違いようである。

 

 そんな人里に二人の男女が歩いている。

 男はオレンジの髪に、眉間に皺を寄せている。

 女は黄色い髪に、小柄な体躯で可愛らしい顔をしている。

 パッと見、男が小さい女の子を誘拐しようとしているようにも見える。

 だが、それは違う。

 

 この二人の男女は、黒崎一護とフランドール・スカーレットだ。

 人里に遊びに来たんだが、そこで寺子屋の先生をしている上白沢慧音と出会い、慧音宅で夜中まで話し込んでしまったのだ。

 勿論、夕飯は慧音宅で済ませた。

 

「たく、まさかもうこんなに暗くなってるなんて思わなかったぜ」

 

 一護が溜め息混じりに言いながら、頭を抱える。

 こんなに夜遅くまで、フランと一緒に出歩いていたのだ。

 霊夢に何て言われた物か。

 ロリコン。

 そんな単語が一護の頭の中で泳いでいる。

 

「誤解されるだろうな」

 

 弁解しようが、霊夢は恐らく聞く耳を持たないだろう。

 何せ、一護には不可抗力な前科があるのだから。

 

「…………」

 

 フランが月を見たまま黙っている。

 何かあったのだろうか。

 

「どうした、フラン?」

 

 一護の言葉に我に返ったのか、少し表情がビクついた。

 因みに日傘は、太陽が出ていないので閉じている。

 

「え、えっとね……今日のお月様、少し変だな~って思って」

「月……?」

 

 フランの言葉を聞いて、一護は月を見る。

 今日は綺麗な満月で、深夜まで夜空を見ていたい気になるような感じだ。霊夢のことだから月見団子に一杯やっていたりするかもだ。

 

「……満月がどうしたんだ?」

「少しだけど……あのお月様、おかしくない? ――形が」

「形?」

 

 一護は満月をよく見る。

 そして気付いた。

 

「満月が――欠けてやがる」

 

 そう、綺麗な満月のはずが、ほんの少しだけ欠けていたのだ。

 

   *

 

 その頃、博麗神社でも二人の女性が、その月の異変に気付いていた。

 

「……紫、月がおかしいわね」

「ええ、霊夢も気付いていたのね」

 

 二人の女性が縁側に座りながら、欠けた満月を見ている。

 その二人の正体は博麗霊夢と八雲紫。

 二人がその異変に気付いたのは、ほぼ同時だった。

 

「一応聞くけど異変……よね」

 

 霊夢が自信の無い口調で言う。

 

「一応答えておくけど異変ね。けど、こんな大掛かりな異変も久し振りね」

 

 今までの大掛かりな異変といえば、紅霧異変、春雪異変の二つくらいである。

 だが、これは一護が幻想入りしてからの異変であって、過去にもいくつか大掛かりな異変は起きているが。

 

「……それじゃあ、とっとと解決に向かおうかしら。欠けた月の欠片を探しに」

「あら、異変の時はその重いお尻、簡単に上がるのね」

「張り倒すわよ。重い腰って言いなさい」

 

 霊夢が縁側から立ち上がり、異変解決に向かう事を決めた。

 本当は、自分の神社の石畳を砕いた犯人を取っちめたい気分だったが、後回しにすることにした。

 そして、それに続いて、紫も立ち上がる。

 

「それじゃあ、夜を明けないようにしないとね。朝が来たら、月の欠片なんて探し出せないでしょ」

「……どうするつもり?」

「夜と昼の境界を弄るだけよ。そうすれば、夜は明けないわ」

 

 今、霊夢の前でも更なる異変が起きようとしているが、今回は見逃す事にした。

 ある意味では、月が欠けている事より夜が明けない異変の方が、人々にとっては大惨事である。

 だが、今はこんなことをした犯人を捕まえるのが仕事だ。

 

「全くあんたは何でもありね。これから異変が起きたらまず、あんたを疑うことにするわ」

「あら、それは喜んでいいのかしら」

「いえ嘆いてほしいわ」

「イヤねもう。さて二人で挑むならチーム名が必要ね」

「いやいらないでしょ」

「今ここに幻想の結界チームの誕生よ」

「何なの今のアンタのノリ?」

 

 そして紫は勝手にチーム名まで決め、二人で異変の解決に挑むのだった。

 

   *

 

 同時刻、霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドは魔法の森を歩いていた。

 理由は月の様子がおかしいと言う理由でだ。

 最初に気付いたのはアリスで、一人で調査しようとしたが、途中で行き詰まり魔理沙に協力を仰いだのだ。

 

「魔理沙……この異変は何が目的だと思う?」

「え?」

 

 アリスの唐突な質問に、魔理沙は答えに少し困る。

 今までの異変には、目的があって行われていた。

 紅霧異変では、太陽を隠すため。

 春雪異変では、春を奪い妖怪桜を満開にさせるため。

 アリスは今回なぜ、月が欠けているのか……その目的を聞いたのだ。

 

「え~と、分からないぜ」

 

 満面な笑みで答える。

 分からないのに満面の笑みで答えられると、何故かイラッと来る。

 

「アリスは分かるのか?」

「え、私は推測だけど、多分あの亡霊女が怪しいと思う」

 

 亡霊女。

 幽々子の事だ。

 

「何で、幽々子が怪しいんだ?」

 

 月と幽々子……一体何が関係しているのだろう?

 

「あの亡霊女は、前に幻想郷中の春を奪った前科があるよね。それと同じよ。次は月を奪おうとしているのよ!」

 

 さながら名探偵よろしく自信たっぷりで言うアリス。

 こんな馬鹿げた事、有り得る訳が無い。

 

「だったら何で、月を奪おうとしているんだ?」

 

 とりあえず訊ねて見る魔理沙。

 あの時、幽々子が春を奪っていた理由は、西行妖という妖怪桜を満開にさせる為である。

 だが、今回は違う。

 幽々子が月を奪ったところで、何のメリットがあるのだろうか?

 

「……魔理沙も分かるでしょ。満月を見ながら食べる団子やカレーは一段と美味しいの。あの亡霊女は大食いで有名。だから、あの大食い亡霊女は毎日満月を見ながら、美味しい食生活を送ろうとしているのよ」

 

 つまり、食事を一段と美味しくする為に満月を奪おうとしている訳だ。

 流石の魔理沙も、アリスの推測には全く信憑性が感じれなかった。

 

「大丈夫か、アリス……頭」

 

 魔理沙に頭の心配までされてしまった。

 こいつに頭の心配をされてしまったら、わりと頭の終わりは近い。

 

「文句を言いたいところだけど、今は許すわ。私の決意は固いから」

「何の決意? その馬鹿みたいな理由で動くのか? 絶対に違うと思うぜやめときな」

「魔理沙は黙ってついてくる。ほら、取りあえず動くわよ。今ここに――禁呪の詠唱チームの誕生よ」

 

 そしてアリスは勝手にチーム名まで決めてしまった。

 

 だが、二人は気付いていなかった。

 この会話を、ある人物に聞かれていたことを。

 

   *

 

 さらに同時刻。

 紅魔館では、レミリア・スカーレットがフランの心配をしていた。

 それは簡単。フランの帰りが遅いからだ。

 

「遅いですね、妹様」

 

 外を出窓から見ているレミリアに、十六夜咲夜が話しかけた。

 勿論だが、二人共満月の異変には気付いている。

 

「ええ、遅いわ。二人で一体何をやっているのかしら?」

「そうですね。夜遅くまで男女がやる事といえば……」

 

 咲夜は顔を赤らめながら言う。

 そして、その続きを言おうとした途端。

 

「真面目に答えてくれるかしら、咲夜」

 

 レミリアは呆れた表情で咲夜を制止する。

 これ以上言わせたら、何かと大変になる。

 

「こほん、失礼致しました。……もしかしたら、博麗神社にでも泊まっているのではないでしょうか?」

 

 一言謝罪し、話を戻す。

 

「それは無いと思うわ。一護と二人で人里に向かう時に、必ず帰ってくるのよと言い聞かせておいたから。もし、フランが途中で疲れて寝てしまって、博麗神社に泊まる事になったとして、何の連絡も無いのはおかしいわ」

「何か事件に巻き込まれたのでしょうか?」

 

 レミリアが今一番言われたくない、考えたくなかった事を言われた。

 必死に目を逸らしていた真実を、言われてしまったのだ。

 

「……満月が欠けている上、フランまで行方不明。仕方ないわね咲夜……出陣よ!」

 

 レミリアは出窓を突き破り声高らかに叫ぶ。

 

「はい、お嬢様! そのお言葉を待っておりました!」

 

 咲夜はそれに乗る。

 誰も出窓を突き破った事にはツッコまない。

 

「今ここに夢幻の紅魔チームの誕生です」

 

 そして咲夜は勝手にチーム名を決めてしまった。

 

   *

 

 そのまた同時刻。

 白玉楼で西行寺幽々子は満月を見ながら、縁側で団子を頬張っていた。

 

「ハァ~、あまり美味しくないわ」

 

 幽々子が滅多に口にしない発言をした。

 美味しくないと。

 だがそう言いつつ、団子は全て平らげる。

 

「そうですか? 私は美味しいと思いますが」

 

 幽々子の隣で団子を食べている魂魄妖夢が言う。

 

「妖夢には分からないのぉ~? 団子はね、満月を見ながら食べるのが格別に美味しいのよ。それなのに、今日の満月は綺麗に欠けていて、満月じゃ無くなっている。だから、団子の味も落ちるのよ」

「そ、そうなんですか?」

「そうよ」

 

 幽々子の妙なこだわり。

 だが、幽々子と同意見の人も多数居るだろう。

 

「よし、こうなったら……私達で月を元通りに戻すわよ!」

 

 急に幽々子が立ち上がり、異変の解決をする事にした。

 理由は勿論、美味しい団子の味を取り戻す為である。

 こんな理由で異変に立ち向かう人?は、前代未聞だろう。

 

「……あの、幽々子様、そんな急に言われましても」

 

 妖夢は突然すぎる幽々子の発現に、頭が付いて行かなくなっていた。

 

「今ここに幽冥の住人チームの誕生よ」

「えー……」

 

 そして幽々子は勝手にチーム名まで決めてしまった。

 もう妖夢は何を言っても、参加させられる事になってしまったのだった。

 

   *

 

 その頃、一護とフランも動きを見せようとしていた。

 

「フラン、俺は今から異変の解決を試みる。お前は先に帰っててくれ」

 

 一護も他の四組と同様に、異変の解決にここから直接向かう事にした。

 今から博麗神社に戻ったところで、霊夢は既に異変に気付き、解決に向かっていると思ったからだ。

 

「え、嫌だよ。私もいっちーと一緒に異変の解決に行きたい!」

 

 突然のフランの発言に、一護は困惑する。

 

「いや、危ねぇから。フランは帰った方がいいって。レミリアとか心配してんだろ」

「嫌だ! いっちーと一緒に行くもん!」

 

 説得は効果が無いようだ。

 

「……しょうがねぇな。じゃあ、付いてくるだけだぞ。危ないと思ったら直ぐに逃げる。約束だからな」

 

 あっさりと引く一護。

 これにより、フランは一護と同行する事となった。

 

「うん! 分かったぁ!」

 

 嬉しそうに言うフラン。

 

「それじゃあ、今ここに禁忌の死神チームの誕生よ」

「え、なにそのチーム名?」

 

 そしてフランは勝手にチーム名まで決めてしまった。

 いつ決めたのだろうか?

 

 こうして幻想の結界、禁呪の詠唱、夢幻の紅魔、幽冥の住人、禁忌の死神チームの計五チームが異変に乗り出す事になったのだった。

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