東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~ 作:ディーン・グローリー
《1》
――歪な月が浮かぶ幻想郷。
現在、平和な日常から不意に何の予兆もなく、幻想郷では満月が欠けるという大異変が起こっている。
満月が欠けている事は、人間からしてみれば別にどうでもいい事だが、妖怪からしたら大問題。そもそも月から放たれる光というのは、一種の憩い。それは人間にとっても大切だが、妖怪たちにとって月の煌びやかに、そしてどこか不気味な光というのは、生きるための活力となる。故に、解決は必須。
また、それ故にこの異変は満月が沈むと解決できなくなる。
その為、紫が昼と夜の境界を操り、夜を止めている。
現在、異変を解決するべく二人一組のチームが五チーム動いている。
幻想の結界、禁呪の詠唱、夢幻の紅魔、幽冥の住人、禁忌の死神チーム。うまい事、人間と妖怪のタッグになっており、どのチームも過去の大異変を起こした強者やそれを解決してきた猛者で埋められている。
故に、解決は時間の問題だろう。
しかし、この異変は一体誰の者による所業なのか……一体何の目的があるのか。
全てはまだ、謎に包まれている。
*
現在、幻想の結界チームの博麗霊夢と八雲紫は、暗い夜の森の中を飛んでいる。
今日は蛍が活発に活動する日なのか、そこら中に沢山お尻を激しく光らせて踊っている。とても綺麗な光景であり、普通の人なら感嘆とするのが必然である。
不安を募らせる闇夜を引き裂くその光こそ、一般的には羨望に満ちるはず……なのだ。
「なかなか風情があっていいものね、夜の山道も。今度、この景観を肴に一杯やりたいわね」
紫は周囲を飛び回る光の球体を眺めながら、自然と優しい笑みを零す。
対する霊夢は少し、いや頑張って隠そうとはしているのだが隠しきれていないどころか完璧に露呈している……そう、凄く嫌な顔をしているのだ。
「そうね。悪くは無いと思うわ。けど、私はそんなに虫が好きじゃないのよね。どっちかって言うと嫌いな方」
近づいてくる蛍を手で追い払いながら、若干くぐもった声で言う。
「初耳ね。あなたが虫嫌いなんて。これはもしかして、最強無敵で有名な博麗霊夢の最大の弱点だったりするかもね」
「別に弱点までにはならないわよ。それに初耳なのは当たり前。誰にも言ってないもの」
「でも流石にGが大量に湧き出てきたら逃げるでしょ?」
「いえ、たぶんそれ、誰でも逃走すると思うけど」
「…………」
「何よその含みたっぷりの笑は? まさか、あんた自分の能力を使って……」
「あはは、ないない。そんなことしないわよ。けど、どうして虫が嫌いなの?」
「過去のトラウマもあるけど、一言で言うと……」
「――あなた、さっきから蛍を拒絶しているようだけど、蛍の何が嫌なわけ?」
瞬間、二人の会話に割って入るかのように、第三者の声が響き渡った。
ここで普通なら第三者に目を向けるのが一般だが、当の二人はまるで耳に入っていない様子なのか、綺麗に聞き流していた。
「一言で言うと?」
「あれ、待って。別にあんたに言う理由も何もないよね」
「ここまで話して言わないなんて卑怯よ」
「ちょっと、何無視してんのよ!」
無視されたのに憤ったのか、二人の前に立ち塞がる。
だが、二人共それすらも、何も居ないかの如く素通りした。
「無視するなって言ってるでしょ!」
過ぎていった二人の方に振り向き、怒鳴りつける。
それでようやく二人は、その呼びかけに振り向いた。
そこには一人の少女がいたのだ。
緑色のショートカットヘアに、頭部に虫の触角らしきものが生えている。
甲虫の外羽を模していると思われる燕尾状に分かれたマント、白シャツに紺のキュロットパンツという、ボーイッシュな格好をしている。
「何か用?」
見ず知らずの妖怪に声を掛けられたので、霊夢は更に嫌な顔と声をしながら問いかけた。
「用って……あなたがどうして虫を嫌っているのかを聞きたかったんだけど、もういいわ知らない。あなた達が私を怒らせたんだからね」
少女は小さな憤りを流出させながら、臨戦態勢に入る。
どうやら無視された事+αで怒ったらしい。
「弾幕ごっこでこてんぱんにブッ倒してやる」
そして同時に弾幕勝負を仕掛けてきた。
「ねぇ、どうして幻想郷にはこんな短気が多いのかしら」
「それをあんたが言うの? 短気代表じゃない博麗の巫女は」
「は~、もう面倒くさいわね」
霊夢が溜め息をついた。
「あの子、虫の妖怪ね。ちょうどあなたの嫌いな類の」
「虫は無視して先に急ぎたいところだけど、仕方ないわね」
霊夢がダジャレを交えて言う。
正直言って寒い。
「楽園の素敵な巫女 博麗霊夢よ。受けてたって上げるわ」
少女の挑戦を霊夢が受ける事にした。
「闇に蠢く光の蟲 リグル・ナイトバグ。虫の餌食にして上げるわ」
少女も二つ名と名前を名乗り、霊夢と弾幕ごっこをする事となった。
「とっとと終わらせて上げるから…ほら、掛かって来なさい虫女。あれ、虫女って言っててなんか気持ち悪いわね
霊夢が挑発的な態度を取り、手招きをして言う。
その態度に完全に憤ったのか、リグルは怒りで顔を赤くした。
「こんのぉ、くそ女ぁあ!! 蠢符『ナイトバグトルネード』!」
リグルは激昂すると共に、スペルを唱えた。
自分の周囲に白い弾幕を配置する。
そして、そこから白い弾幕が緑色の米粒弾に変わり、拡散するようにばら撒かれた。まるで卵から孵化した虫のような弾幕だ。
「最初からまぁまぁ強力なスペルね。やる気満々って感じ……けど」
霊夢は木の幹から木の幹に蹴り跳び、跳躍しながら弾幕を避けていく。
当たりそうで当たらない感覚とリズムで躱しつつ、相手を心理的に追い詰めていっていた。
「私には当たらないわよ」
「ッ!」
自分の弾幕を余裕な表情で避け続ける霊夢を見て、目を見開いて驚く。
ここまで己の弾幕を華麗に避けられ、一切焦燥しきった表情にもなっていない。正直、さっき紫と会話していた時の表情と全く変わらないのだ。
余裕綽々……そう思われ逆にリグルが焦りを見せ始めた。
「くそ、どうして!? 灯符『ファイヤフライフェノメノン』!」
そして、新たなスペルを唱えた。
無数の米粒弾を全方位に放ちながら、霊夢狙いの青い弾幕が放たれる。
「さっきと代わり映えのしないスペルね。愚直すぎて欠伸が出るわよ」
「うるさい! 早くくたばっちゃえ!」
「あのね、この程度で私に勝とうなんて……」
霊夢はそう言うと、迫ってくる弾幕を軽く避けながら、リグルの方に突進するように加速する。相手が驚くよりも先に、あっという間と言う時間でリグルの背後を取った。
「悪い冗談でしょ?」
リグルの背後に移動した霊夢が、耳元でポツリと奇怪に呟いた。
「――!!」
リグルはそれを聞いた瞬間、恐怖にも似た表情になり、その場から即座に離れる。
離れている途中、霊夢はリグルに特に何もしない。代わりに、相手を罵るように口を開いた。
「威勢はいいようだけど、力は全く無いようね。妖精と同程度か、下手をしたらそれ以下かしら?」
「くっ……う、うるさいなぁ! 隠蟲『永夜蟄居』!!」
続けてリグルはスペルを唱える。
リグルの周囲に弾幕が配置され、それが米粒弾に変わり、拡散するようにばら撒かれた。
さっきの蠢符『ナイトバグトルネード』の上位互換といったスペルだろう。先の弾幕とは加えている妖力や数、速さが歴然として違っている。
「ふ~ん。夢符『封魔陣』」
霊夢が初めてスペルを唱えた。
青白い結界が、霊夢の周りに展開され、リグルの弾幕から身を守る。
「うそ、でしょ……?」
自分の弾幕が全て、結界一つで防がれた事にリグルは驚く。
そして霊夢は、弾幕が止むのを確認すると、結界を解除した。
「今のは中々良かったわよ。その証拠にスペルを使って上げたわ」
「…………」
霊夢に褒められたリグルは、何も言う事が出来なかった。
「……で、今のが全力なの?」
続けて言う霊夢。
それを聞いたリグルの表情が険しくなる。
「……そんな訳、ないでしょうがぁ!」
リグルが慄くほどの妖力を集中させ、手を振り上げる。
「――世界の変換により発せられる理を死骸し、全てを擦り切る異風全幕は――遍く私の同胞に颱風と名の収益をもたらす」
それは自分の最強のスペルを発言するための祝詞。
今ここに、リグルの持つ渇望という名のスペルが顕現する。
「『季節外れのバタフライストーム』!!」
リグルを中心に台風の渦のような軌道で米粒弾を全方位に飛ばし、それを蝶々弾に変えて拡散させた。
カラフルに弾幕の色が変わり、とても綺麗であり、とても殺伐としている。
(符名も何も付かないスペル……! 私の夢想天生と同じ、強力なスペル!)
霊夢がリグルのスペル名を聞き、少し驚く。
――符名の付かないスペル。
スペルカードには符名の次にカード名が付く。例えば、霊符『夢想封印』、黒斬『月牙天衝』。
だが、稀に符名の付かないスペルカードが存在する。
そのスペルカードは、自分の持つ全てのスペルカードを超越した最強の名に相応しいスペルであり、己の渇望や勇気、はたまた絶望や叫喚などの真の己を顕現させた真髄にして誇りとも言えるスペルなのだ。
霊夢が昔、咲夜戦に使った『夢想天生』が、それに当たる。
しかし、それに達するには自分のことを全て理解した上で、必死に努力し、研鑽を積まなければならない。そうしなければ、その境地に立つことはできない最強のスペルなのだ。
「流石のあなたも、このスペルには歯が立たないようね」
何もしようとしない霊夢を見て、リグルが余裕の余地を生みながら言う。
どうやらリグルには、霊夢があまりにも強力過ぎるスペルを前に、諦めたと思っているようだ。
「確かに驚いたわ」
霊夢は小さく呟く。
「けど、私には通じないわよ。あんたとは踏んだ場数が違い過ぎるのよ。霊符『夢想妙珠』!」
霊夢がスペルを唱える。
その瞬間、霊夢の周りに光弾が展開され、一斉にリグルの弾幕を掻き消しながら、リグルに殺到する。
「何……!?」
リグルはその光景を驚愕の眼差しで見る。
「そういえば、あんた。私がどうして虫を嫌っているかを聞きたがっていたわね」
悠々と、何の感慨もなく笑顔になり――
「私が虫を嫌っている理由はね、一言で言うと――単に見た目が気持ち悪いからよ」
何の慈悲もなく、簡単に言い切った。
そして、それを聞いたリグルは同時に、霊夢の光弾に被弾した。
これにより、リグルは完全にノックアウトする。
――弾幕ごっこは霊夢の勝利で幕を閉じたのだった。
《2》
幻想の結界チームが、自分たちの前に立ち塞がったリグルを倒した辺りの時刻――
幽冥の住人チームの妖夢と幽々子は、夜の森林の上空を飛んでいた。
「ん~、なかなか美味しいわねこれ。何千本でもいける」
「その言い方には少し、語弊があるものと思われます」
幽々子が両手に何本もの、鳥の串焼きを握っている。どうやら晩ご飯の後のおやつのようだ。
バクバクと、さながらシュレッダーに紙を通す勢いで鳥の串焼きが幽々子のブラックホール顔負けの胃袋へと消える。
そして勿論、そんな勢いで食していたら……
「妖夢ぅ~、串焼きが残り一本になっちゃったよぉ~」
幽々子が哀愁を漂わせて言う。
先まで両手に十本近くあった串焼きが、時既に一本。時間にして十秒満たない。
「異変が解決するまで我慢してください」
溜息混じりに尤もなことを言う妖夢。
異変解決中に気の抜けた事を言われると、やる気を無くしてしまう。幽々子の場合は日常の殆どが、気の抜けた感じだから諌める気も起きない。
「え~、妖夢のけちぃ~。だから一護くんに振り向いてもらえないのよ~」
「なっ! 何を言っいるのですか幽々子様!? いいかげん異変解決に集中なさってください!」
妖夢が頬を染めながら狼狽する。
幽々子はそれを見て、面白がる……最近の趣味の一つである。
そして、最後の串焼きを口に入れようとした瞬間――幽々子の手から串焼きが無くなった。まるで、誰かに一瞬で取られた感じだ。
「あれ……私の串焼きは?」
「幽々子様! 敵です!」
呆然とする幽々子を前に、妖夢が楼観剣を抜き放ちながら言った。
妖夢の見据える先には、一人の少女が幽々子の串焼きを持って存在する。
背中に妙な羽が生えており、頭にはナイトキャップを被っており、それに背中の羽の飾りが付いている。
ジャンパースカートは雀のようにシックな茶色だが、曲線のラインにそって蛾をイメージしたような、紫のリボンが多数あしらわれている。
「あなたは……見たところ夜雀ですね」
妖夢が少女を注視して、確認するように言う。
「そうよ。よく知っているわね」
夜雀の少女が口を開いた。
「私は夜雀の怪 ミスティア・ローレライ。あなた達は?」
少女は二つ名と共に名乗り、次に妖夢達の名を尋ねてくる。
「私は半人半霊 魂魄妖夢です」
最悪の礼儀として妖夢は名乗る。
いくら敵であっても名乗られたら名乗るのが、幻想郷の仕来りだ。
だが幽々子は……
「ちょっと~、私の串焼き返してよ。それ最後の一本なんだからね」
と、ミスティアに奪われた胃袋補給材の串焼きを指差して言った。
それに対して嫌悪感丸出しで、ミスティアは言葉を吐く。
「……この串焼きは何で出来ているか、ご存知でしょうか?」
「え、鳥だけど」
「鳥だけど……じゃないわよ! さっきも言ったけど、私は鳥なの! 鳥の妖怪! ここまで言えば馬鹿でも分かるよね?」
ミスティアが声を荒げて言った。
ここで妖夢も察しは付いたが、幽々子に至っては――
「だから何?」
と、意味不明状態である。
「本当に鈍いわね。今あなたは私の目の前で、私の同族を食べようとしているのよ。それを黙って見ていられると思う?」
「よく分からないけど、私の串焼き返してくれないかしら。あなたの主張は、それを食べたら聞いてあげるから」
「……いや」
そう言って、ミスティアは串焼きをどこかへ放り投げた。
「ああーーー!!!」
それを見た幽々子が、夜を引き裂きかねない絶叫を上げ期待通りの反応をする。
「な、何するのよぉーーー!!?」
幽々子が森林に落ちていった串焼きを拾いに行こうとする。
それを妖夢は、幽々子の着物の襟を掴み、制止した。
「幽々子様、一度落ちた食べ物を拾いに行かないで下さい」
「妖夢! 離して! あれは私の生命線なの!!」
(いえ、既にあなた様は死んでいます)
幽々子のボケ?に、妖夢は心の中でツッコミを入れる。
「…………仕方ないわ」
幽々子は一言呟き、落ちた串焼きを追うのを止めた。
諦めたと思った妖夢は、掴んでいた襟を離す。
「妖夢……一つお願いを聞いてくれるかしら」
幽々子が表情を曇らせながら妖夢に言う。
「? はい、何でしょうか」
「あの雀を……捕まえてちょうだい!」
唐突の幽々子のセリフに、妖夢は少し戸惑う。
「ど、どうしてですか?」
「いいから捕まえなさい。それとも、私の命令が聞けないの?」
お願いから命令に早変わりした。
しかも、命令と変わると同時に、言葉に殺気が込められる。
「は、はい。かしこまりました……」
妖夢は幽々子に半脅され感覚でする事となった。
そして妖夢は、ミスティアに向き直る。
「そういう事で、あなたを一度捕縛させて頂きます」
ミスティアにそう言って、臨戦態勢に入る。
「私を捕縛? 出来るものならやってみなさい」
ミスティアもそれに答えるように、臨戦態勢に入る。
こうして、一本の鳥の串焼きが原因で起きた弾幕勝負が始まる。
(あまりやる気は起きないけど、これからの準備運動くらいにはなるかな)
「行くよ! 声符『木菟咆哮』!」
ミスティアが先手でスペルカードを唱えた。
自身を中心に全方位に、無数の弾幕がばら撒かれる。
「……捕縛するのは、思ったより大変そうですね」
妖夢は刀に、自分の霊力を込める。
そして、向かってくる弾幕を刀で乱舞の勢いで斬り潰していった。
「けど、捕縛出来ないレベルではありません」
妖夢が鋭い視線で、ミスティアを見据えて言う。
その刀より鋭い視線に、夜雀は少し恐怖を覚えた。
「故に、直ぐに終わらせます!」
「きゃぁぁあああーーー!! 妖夢かっこいいー!」
妖夢がセリフを決めた後、幽々子がまるでファンよろしく観客のように声を上げた。
「口を閉じていてください幽々子様……」
少し注意する妖夢。
「……では、次は私から行きますよ。幽鬼剣『妖童餓鬼の断食』!」
妖夢はスペルを唱えた。
そして刀を横に一振りした瞬間、その軌跡から無数の弾幕が放たれた。
このスペルは昔、一護との弾幕ごっこに使用したスペルだ。
「そんなスペル喰らわないよ! 毒符『毒蛾の鱗粉』!」
妖夢のスペルに対抗するように、ミスティアがスペルを唱えた。
ミスティアの周りに光の球体が幾つか現れ、その球体がゆらゆらと動き始める。そして球体が動き出すと同時に、球体から弾幕が放たれた。
その弾幕が妖夢の弾幕を相殺していく。
「成程。この程度のスペルは効きませんか。では、これなら……」
そう言い、妖夢はスペルを唱える。
「獄炎剣『業風閃影陣』」
複数の大弾が放たれ、それを妖夢が透かさず横一閃に斬る。
それにより、斬られた大弾から小さい弾幕が無数に発生した。
そして妖夢はその無数の弾幕に紛れ込む。これにより妖夢の姿が確認できなくなった。
「弾幕に紛れ込んで、私に接近する魂胆ね」
ミスティアは妖夢の行動を推測する。
その推測は大正解だ。
妖夢の狙いは、弾幕と共にミスティアに近づき、人符『現世斬』で決着をつける事。
しかし、そんな狙いなど稚児でも分かる。理解はできるが、それに対応できると言われると難しい。
敵がどう攻めて来る。どう戦略を練ってきている。それを知ったところで、それを回避もしくは反撃する手段を持ち合わせていなければ、理解したところで意味はない。
だがミスティアは不敵な笑みを零す。
「けど、私に通じるかな」
「漆黒園の暗闇に誘え。鷹符『イルスタードダイブ』!」
そしてスペルを唱えた。
刹那、妖夢の周りが暗闇に覆われる。
「――ッ!?」
妖夢は目を見開き、動きを止める。
その瞬間、妖夢に向かって暗闇から弾幕が飛んできた。
それを避け切る事が出来ず、被弾してしまう。
「くっ!」
被弾すると同時に、妖夢は真剣な眼差しで暗闇を見据え、構える。
周りは真の漆黒。自分が失明してしまったと錯覚するくらいに、本当に何も見えない。常人ならそれだけで狂ってしまうほどの不安に満ちた何も見えない空間。
しかし妖夢は直ぐに順応し、視覚以外の六感に至るまでの感覚を超人的に発揮する。
よって、続いて連射されてきた弾幕を避けることに成功した。
だが生憎と、ミスティアの位置までは把握できない。
「どう? これが私の本当の力よ。あなたに、このスペルを破れるかな? と言っても、その様子じゃ無理でしょうね」
どうやらミスティアには妖夢の姿が手に取るように分かるようだ。
「それじゃあ、そろそろ終わらせようかしら」
そう言って、ミスティアはスペルを唱える。
「これで終わりよ。夜雀『真夜中のコーラスマスター』!」
そして闇の洗礼を味わうが如く放たれる無数の弾幕が、妖夢に襲いかかる。
「くそ!」
流石の妖夢も、それを全て躱し切れず、何発か被弾してしまう。
(このままだと……!)
休む事無く飛んでくる無数の弾幕。
そして暗闇に奪われた視界。
誰がどう見ても、圧倒的に不利な状況だ。
(……だったら、この手で)
妖夢は攻略法を考えたのか、諦めず弾幕を避け続けた。
だけど、それでも何発かは被弾する。
「そろそろ諦めたら? 今ならまだ見逃してあげるわよ」
ミスティアは何の変わった動きも見せない妖夢に向かって告げた。
だが、妖夢は何も答えない。
「ったく、諦めの悪い」
仕方なくミスティアは、妖夢を撃ち落とすまで佇む事にした。
「…………」
妖夢は黙ったまま弾幕を避け続ける。
その何かが来るまでの間、最大限まで感覚を活かし、無数の弾幕を斬っては避けて、斬っては避けてを続ける。
そして、妖夢は何かが分かったのか、一瞬目を見開いた。
(――見つけた!)
心の中で一言呟くと、刀を構え直した。
その光景にミスティアは、妖夢を凝視する。
「人符『現世斬』!」
妖夢がスペルを唱えると、刀に霊力が込められる。
「何をするつもりか知らないけど、私の居場所が分からなければ、何をしようと無駄よ」
「確かに、そうですね。けど、もし傲慢としている、あなたの位置を掴めたら、状況の趨勢はどうでしょうね」
「なんですって?」
瞬間、妖夢は目にも留まらない速さで、ミスティアを完全に斬り抜けた。
「な、に……!?」
ミスティアは妖夢の攻撃を受けた。
それのせいか、暗闇が綺麗に消え去った。
「何で、私の位置が分かったの!?」
ミスティアは直ぐ様、妖夢の方に向き聞く。
「簡単ですよ。私の半霊が、あなたの居場所を教えてくれたのです」
「半霊……?」
ミスティアはそれを聞くと、妖夢の周りをフワフワ浮いている白い魂を見る。
「そうです。私と半霊は一心同体。つまり、あなたが人間の方の私に気を取られている間に、幽霊の方である私があなたの居場所を探ったの」
「反則ね……それ」
妖夢は半分が人間で、半分が幽霊。
即ち、妖夢の半身である幽霊が、ミスティアの位置を探り教え、人間である妖夢が、それを元にミスティアに攻撃を与えた。
「どうです? これであなたの暗闇による攻撃法は、もう効きませんよ」
「……まだ、私には奥の手があるのよ」
ミスティアは自分が出せる最大の妖力を体外に出力する。
「――漆黒の園に迷い込んだ供物は、血肉を喰われ、魂は闇を彷徨う――求める光は永劫届かず、楽園から希望が遠ざかる盲目の世界」
紡ぎ出される祝詞は、己の業が生んだ力。
「『ブラインドナイトバード』!!」
(符名の付かないスペルカード)
ミスティアは符名の付かない最強のスペルを唱えた。
再び、妖夢の周りが暗黒に塗りつぶされた。
そして、今までの弾幕の速度、パワー、数が圧倒的に違った。
その凄まじい弾幕が妖夢を襲う。
「けど、詰です」
高密度に演算された妖夢の基礎スキル。
場を見極める一瞬一瞬の直感と慧眼、何一つ特別なことなど必要ない。ただ要するは、基本的なことのみ。
「遅いですよ。もう同じ手は食いません。人鬼『未来永劫斬』」
妖夢はミスティアがスペルを唱えた後、直ぐにスペルを唱えた。
今ならまだ、ミスティアの位置が判然としているから。
妖夢は向かってくる全ての弾幕を撃ち落とし、そして暗闇さえも妖夢と圧倒的な妖力により引き裂かれる。
「何!?」
ミスティアが自分の最強のスペルを軽々と撃ち落としていっている、妖夢の姿を見て驚愕する。
「どうして、私の最強のスペルが……こんな簡単に!?」
迫り来る妖夢の姿を見て叫ぶ。
「日々の鍛錬の成果です」
それに答えるように妖夢は言う。
そして、答えると同時にミスティアに一閃の刃を与えた。
これにより、ミスティアは完全に気を失った。
「これで捕縛完了です」
こうしてミスティアとの弾幕勝負は、妖夢が勝利を修め幕を閉じたのだった。
《3》
幽冥の住人チームはミスティアを倒した頃――
夢幻の紅魔チームのレミリアと咲夜は人里に向かって飛んでいた。
二人がこの異変に乗り出した理由は、人里から帰ってこないフランを探すため。故にまずはそこからフランの手がかりを探すため、人里に向かっているのだ。
「妹様は人里にいらっしゃるでしょうか?」
「分からないわ。けど、フランを見掛けた人間くらい居るでしょう。何たって、あの二人は目立つから」
心配そうに言う咲夜に、レミリアは答える。
一人は外来人で、異変を解決してきた有名人の黒崎一護。
一人は吸血鬼で、周囲とは違う派手目の洋服。
この二人が一緒に歩いていれば、何をしなくても確実に目立つのは必須である。
「しかし黒崎さんとご一緒だと、恐らく異変の解決に付いて行っているかもしれませんね」
「まぁ、その可能性が高いでしょうね」
「それ以外ですと、男性女性が夜な夜なすることと言えば……いえ、妹様にはまだ早い! だけどしかし、年齢を鑑みるに――」
「…………」
そんな訳で、人里に着かないと何も出来ないのが現状なのだ。
*
同時刻――人里では、夜がいつまでも明けない事に気付いた慧音は、外に出ていた。
「……おかしいな。夜が一向に明ける気配が見えない。それどころか、月の位置も動いていない」
肌寒くなってきた夜空の下、歪に欠けた月を見ながら呟く。
(月が欠けているのは、恐らくあいつの仕業だろうけど、月が全く不動なのはおかしい)
どうやら慧音は満月の異変の犯人を想起しながら、夜が明けない状況がどうしてなのかを考える。
だが夜が明けない異変は、全く検討がつかない。
それもそのはず。
何たって夜を明けないようにしているのは、幻想の結界チームの八雲紫の仕業なのだから。
すなわち、現在二つの異変が幻想郷で起こっている事になる。
満月が欠けている事。
紫の能力で夜が明けなくなっている事。
第三者からすればもう、どっちが悪役か分からない状況だ。
そして突然――慧音の前に一人の男が現れた。
「お前は……」
慧音は男の方に視線を移す。
そこには白い死覇装を着た男――ウルキオラが立っていた。
「ウルキオラか。なぜここに」
ウルキオラとは知人の仲なのか、特に警戒の色は一切見せずに対話を行う。
「上白沢、今すぐ貴様の能力で人里を消せ」
慧音の質問には答えず、ウルキオラは即座に命令した。
「おいおい、突然何を言い出すんだ? 流石にそのようなことを何の許可も知らせもせずに……」
「俺は、警告しに来ただけだ。判断は貴様に任せる」
戸惑う慧音をよそに、ウルキオラは冷静に、しかしどこか冷酷の色を染めて言った。
「一体、お前は何を言いたいんだ? なぜ、そのようなことを」
「程なくして、俺の言った意味を理解する。今すぐ人里を消せ……俺が伝えるのは、それだけだ」
そうとだけ言い残し、ウルキオラはそのまま姿を消した。
「なっ、おい待て!」
呼び止めようとする慧音だが、既にウルキオラは姿を消したため、呼び声は儚く散る。
突然来て、直ぐに帰ってしまったウルキオラ。
人里を消せ。
警告。
(一体、何なんだあいつは。言葉足らずにも程があるぞ)
ウルキオラは初めて会った時から、よく分からない人間?だった。
それは今でも変わらない。
けどウルキオラの言葉は、どうにも無視しておく訳にはいかない……ように感じる。
「仕方ない。警告にのってみるか」
慧音はウルキオラの言われた通り、行動を起こす事にした。
*
「…………」
「…………」
夢幻の紅魔チームのレミリアと咲夜は無事に、人里へと到着した。
だが、そこには――
「人里が、無い」
そう、人里が無いのだ。
そこにある筈の民家、人間達、畑……人里そのものが、忽然と姿を消してしまっている。まるで最初からそこに人里など存在しなかったように、平らな平野のみの広い土地があるだけ。
最早ここまで来ると滑稽どころか、場所を間違えたかのように思うのが当然の道理だ。
「……咲夜、本当にここが人里なの? ただの空き地のように見えるんだけど。寂しい平原にしか見えないんだけど」
「間違いありません。私はあまり外出なされないお嬢様と違って、よく人里に足を運びますので場所を誤ることは無いと思います」
ニートと言っても過言ではないレミリアは兎も角、咲夜はよく里に買出しに来る為、いま目の当たりにしている光景に訝しさを感じている。
その時、二人の目の前に一人の女性が現れた。
「やはり、ウルキオラの警告を聞いていて良かったようだ」
現れると同時に女性は口を開いた。
「……あなたはどなたでしょうか?」
「私か? 私は知識と歴史の半獣 上白沢慧音だ」
女性は二つ名と共に名乗る。
そう、そこには上白沢慧音が平地となった土地に立っていた。
「で、そんなお二人さんは?」
慧音が二人の事を聞く。
恐らく慧音はレミリアの事は知っているだろう。何たって紅霧異変を起こした張本人で、新聞にも載っていたから。
しかし最低限の礼儀と慮って聞いた。
「私はお嬢様に仕える紅魔館のメイド 十六夜咲夜です」
「私は紅魔館の主の紅い悪魔 レミリア・スカーレットよ」
二人も二つ名と共に、名乗る。
どうやら咲夜は人里にはよく来るが、慧音とは初対面のようだ。
「紅魔館の者か……」
慧音が呟くように言う。
「成程、ウルキオラの言った意味が分かったよ。貴様らが人里を狙う輩だな」
慧音が二人に向かって言う。
そのセリフに二人共、頭に?を浮かべている。
「あなたは、何か勘違いをしているのでは……」
「――人里を消しておいて正解だった」
咲夜が誤解を解こうとした瞬間、慧音が一人事のように言ったセリフを聞き逃さなかった。
「……あなたが人里を消したのですか?」
「そうだ。私の能力、〝歴史を食べる程度の能力〟でだ」
「歴史を食べる程度の能力?」
慧音の能力……歴史を食べる程度の能力。
能力だけを聞いただけでは、全く理解できない。
「そもそも、人間は居なかった事にした。今、ここの里の歴史は全て私が保護している。故にここには元々何も無かった。人間も人間の里もだ。だから今すぐここから立ち去れ。何もない場所に、用はないだろう? それとも、こんな何も無い場所に用があるほど暇なのか? ピクニックをするなら、もっといい場所を提示してやる」
「態度がムカつくわね。咲夜なんとかしなさい」
レミリアが慧音の態度にイラッと来たらしく、頭に怒りマークを付けている。
「はい、お嬢様。では、ここは幻想郷らしく……弾幕勝負で白黒つけましょう。私が勝てば、人里を戻す事。私が負ければ、素直に立ち去ります」
咲夜が提案する。
それに対し、慧音は少し思案する。
「……確かに、このまま素直に引き下がる雰囲気じゃないか。分かった、受けてたとう」
そして慧音はそれに乗った。
「それでは勝負ルールはお手軽に……一発でも弾幕に被弾した方の負け。それで宜しいでしょうか?」
「異論は無いわ」
咲夜が続けて勝負ルールを決めた。
一発でも被弾したら負け。
これで弾幕勝負は直ぐに決着がつくだろう。
「それでは、紅魔のメイド長の力をお見せして差し上げます」
「ああ……来い」
両者の弾幕勝負の幕が開いた。
*
「先手はもらいます。幻符『殺人ドール』」
咲夜が最初にスペルを唱えた。
白銀に煌く凶刃が、まるで意志を持つかのようにして慧音に流星のごとく降り注がれる。
「危険な弾幕だな。野符『GHQクライシス』」
慧音も咲夜の後にスペルを唱える。
弾幕が歯車のように回転しながら、咲夜の弾幕を尽く、ひとつも残さずに撃ち落としていく。そして、それだけでは終わらずに、無数の弾幕が一気に咲夜を襲った。
「強力なスペルね。だったら、こっちもそれ相応に強力なスペルで行くわ。幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』」
咲夜が新たにスペルを唱える。
無数のナイフが現れ、それら全てが慧音の弾幕を相殺しながら、白銀の波が慧音に殺到する。幻符『殺人ドール』の強化版のようなスペルだ。
「一発でも当たっては駄目なら、出し惜しみは無しだな。国体『三種の神器 郷』」
慧音も新たにスペルを唱える。
中弾が全方位に放たれた後、咲夜の方に無数の弾幕が放たれた。最初の中弾が咲夜の弾幕を掻き消していき、その後から無数の弾幕が咲夜を狙うように、計算されて放たれたのだ。
お互いのスペル同士のぶつけ合い。
一発でも被弾してはいけないが故に、下手な手を踏めないのだ。
「強力なスペルを続けて使うのは結構キツいのですが……仕方ありませんね」
咲夜は新たにカードを取り出し、スペルを唱える。
「幻幽『ジャック・ザ・ルドビレ』!」
咲夜から大岩のような大弾が、前方に幾つか放たれる。
その大弾が、慧音の弾幕を否おうなく掻き消していった。
勿論、それだけでは無い。
その後、咲夜は時間を止め、無数のナイフを慧音の周りに展開させる。前方からの攻撃にも手に余るナイフの波に対して、次は全方位。
そして時間を動かす。
「ッ!? 何!」
しかも、時間を止められていたが故に、慧音は気づいたら自分の全方位に訳も分からずに展開されている無数のナイフ。
態勢も、予測も、どういった経験則も活かせない状況下である。
だが驚くと同時に、ナイフが自分に被弾するまでの数瞬の時間はある。故に、慧音は直ぐに反応した。
「虚史『幻想郷伝説』!」
透かさず慧音はスペルを唱えた。
慧音から全方位に、無数の弾幕とレーザーが放たれる。
「チッ」
咲夜が舌打ちする。
自分の弾幕が全て慧音のスペルにより、撃ち落とされたのだ。
「こう見えても先生なんていう仕事をしていてな。どんな状況でも、直ぐに効率の良い対応が出来るように鍛えているんだ。そうでもしないと、子供たちの相手は大変だし、もしもの時に子供たちを救えないからな。だからこそ、先のナイフの弾幕も突破できた」
「成程、先生ですか。世の中の先生というものは、とてもお強いのですね」
「当たり前だ。先生は、生徒の為なら何も惜しまないからな」
そして、天に向けて手を振り上げ――
「終わりだ、紅魔の従者! 未来『高天原』!」
慧音がスペルを唱える。
それはまさしく高天原より、大地に向けて放たれる神罰のように全方位より、無数の弾幕と全てを射抜くレーザーが隙間なく放たれた。
そして正銘、紛れもない全霊に近い慧音のスペルである。
「これは、不味いですね。流石の私も本気のスペルで行かないと、勝ち目は無い様です」
咲夜が額から汗を流して呟く。
一発でも被弾したら負け。
相手が本気のスペルで来たら、それ相応のスペルで対抗しないと、直ぐに敗北してしまう。
故にここで、咲夜は自分の持つ最強に等しいスペルを唱える。
「――私はこの瞬間、この今こそが思考の至福の時であり、最も愛する刹那である――それ故に今の時が永遠に続くよう過去未来を全て現代に収縮する」
それは符名の付かない強力なスペルを唱えるための祝詞。
自分が愛する、今この時を何よりも大事にするがゆえに生まれた最愛のスペル。
「『デフレーションワールド』!」
そして唱えた。
(あのスペルは……ヤバい!!)
慧音が咲夜の符名の付かないスペルを唱えたのを見て、身構える。
――瞬間、咲夜から単独で飛ぶ青と黄のナイフが放たれる。
そして咲夜がその次に時間を止め、どこからか無数のナイフの弾幕が一気に現れた。
それらが時間を動かすと同時に一気に放たれ、慧音の全ての弾幕を掻き消していく。
単独で飛ぶ青と黄のナイフとライン状に並んだ、慧音狙いのナイフを発射した後に時間を止め、青ナイフの飛ぶ軌道上全てに無数のナイフを配置発射。この技は過去未来を収縮して放つスペル。ゆえに無限に等しい白銀を前に、有限に等しい慧音のスペルは無力である。
「やはり、無理か……」
慧音が消されていく自分の弾幕を見て言う。
「私の『デフレーションワールド』は時空を収縮させることで、投げたナイフの過去と未来を具現化させるスペルです。そう簡単には敗れませんよ」
咲夜が自分のスペルの説明をした。
そして咲夜が第二の攻撃をしようとする。
「成程、強力過ぎるスペルだ。なら、こっちも」
慧音は再び、天に向けて手を振り上げた。
「見せてやろう。私の最強のスペルを」
そして唱える。
「――使者言俀王以天爲兄 以日爲弟 天未明時出聽政 跏趺坐 日出便停理務――云委我弟 高祖曰 此太無義理 於是訓令改之」
その祝詞は、聞いているレミリアは勿論、咲夜にも理解できなかった。
しかし、そこに孕む全身全霊の力は全神経を持って感じた。
「『日出づる国の天子』!」
慧音を中心に全く隙間の無いレーザーが全方位に放たれる。
これにより、咲夜は身動きが取れなくなった。
そして、その状態で咲夜狙いの弾幕が発射される。
このままだと咲夜が負ける。
だが、咲夜はその前に考える余地も捨てて反射的に『デフレーションワールド』の第二撃を放った。
両者の最強のスペルが激突する。
そして……お互いに弾幕が行き届いたのだった。
《2》
咲夜と慧音の弾幕勝負は、お互い同時に一発被弾して、幕を閉じた。
結果は互角。
咲夜が勝てば、人里を元に戻す。
慧音が勝てば、咲夜たちは素直に立ち去る。
だが、どっちも勝っていなければ、負けてもいない。
互角だった時は何も決めていない。
だから、どうして良いのか分からないのが現状。
「……で、一つ聞きたい事があるんだが」
慧音が不服そうな顔をしている咲夜に言う。
どうやら慧音と互角だった事が悔しいようだ。
咲夜は紅魔館のメイド長と言うプライドもあったから尚更だ。
「はい、何でしょうか?」
「お前たちは人里の人間を襲いに来たのか?」
「……いいえ、違います。私たちは人里に行ったきり帰られない妹様と黒崎一護様を探しに来ただけです」
「何?」
慧音は黒崎一護と言う名前に反応する。
その反応を見てレミリアが口を開いた。
「あなた、黒崎一護を知っているようね?」
「あ、ああ。まさか……」
慧音は何かに気付いたのか、その事を問う。
「妹様と言うのは、フランドール・スカーレットの事か?」
その名前を言われ、レミリアと咲夜は驚く。
知っているとは思わなかったからだ。
「なぜ、その名前を?」
フランの名前を知っているのは紅魔館の者と、極少数の人間のみ。
それ以外で知っている者は一部除いてまず居ない。
だが、慧音はその名を知っている。
その理由は……
「一時間くらい前まで、私の家に居たからな」
そう、一護とフランはさっきまで慧音の家に居たのだ。
そして慧音とフランは自己紹介までしている。
知っていて当たり前の存在に、慧音はなっている。
「「家に居たぁ!?」」
レミリアと咲夜は同時に声を上げる。
予想外すぎる答えが返ってきたからだ。
「ど、どうして、あなたの家にフランが……!?」
「ん、それは――」
慧音は一護とフランと出会ってからの事を話す。
話すと言っても、団子屋の前で偶然会って、そのまま家で話し込んだと言う事だけである。
その事を慧音が話し終えると、咲夜が口を開く。
「その後、妹様と黒崎一護様はどちらへ行かれましたか?」
「何も言っていないが……ただ家へ帰るとしか」
「そうですか」
手掛かりは0。
やはり、そう簡単には見つからない。
「ただ、帰ったら霊夢に怒られるとか愚痴っていたな」
「……どうして?」
付け足しのように言った慧音の言葉に、レミリアが食い付く。
「いや、よくは聞いていないんだがな。誰かさんのせいで境内がまた破壊されたとか何とか……」
そのセリフにレミリアはあの時の事を思い出す。
平和ボケをしていた一護に放った弾幕。
手加減をしたとはいえ、地面を少し吹っ飛ばしてしまった。
恐らく、それに対してだろう。
「咲夜、それって」
レミリアは咲夜の方を横目で見て言う。
咲夜はそれを察したのか一言……
「お察しの通りかと」
と、だけ答える。
「仕方ないわね。一度、博麗神社に行ってみようかしら」
「それなら私が確認しに行きましょうか?」
咲夜が言う。
「そうしてくれたら助かるわ」
「はい。では……」
瞬間、咲夜は時間を止め、その間に一人で博麗神社にまで向かった。
咲夜の能力は〝時間を操る程度の能力〟。
その能力を使い時間を止め、確かめに向かう。
そうする事で、咲夜以外の人は何もせずに済む。
何たって、その刹那には咲夜が答えを持ってきてくれているのだから。
まるで、どこぞのネコ型ロボットが使うタイムウォッチだ。
「お嬢様、博麗神社には誰もいませんでした」
瞬間、咲夜がレミリアの目に前に現れた。傍から見れば、咲夜がレミリアの前に瞬間移動したように見えるだけである。
「そう」
一言だけ答えるレミリア。
「恐らく博麗霊夢はこの月の異変の解決に向かったと思います」
「……それしかないわね。恐らく一護も異変の解決に向かった。それにフランが付いて行ってしまった……と、考えるのが妥当ね」
レミリアが推理する。
その推理はほぼ100%合っている。
「いかがなさいますか?」
咲夜が聞く。
答えはもう分かっているが。
「急いで追うわ。この妙な妖気を感じる方に行けば会えるはずよ」
そう言うと、完全に慧音の存在を忘れた二人は、行動を起こしたのだった。
*
その頃、竹林にウルキオラが居た。
何か考えているのか、目を閉じている。
「そして…………」
スッと、ウルキオラは何かを感じたのか目を開ける。
「……動いたか」
ウルキオラはそう言うと、右手と左手を広げた。そして虚空に沈むように、そこから空間が割れ上げつつ叫喚した。
「解空『デスコレール』」
そしてスペルを唱えた。
それを唱えると、ウルキオラは歩き出す。
その先は……
*
同時刻、禁呪の詠唱チームの魔理沙とアリスは、竹林近くを飛行していた。
二人とも、怪しい妖力を感じる方を飛んでいて、此処まで来たのだ。
「竹林の中が怪しいぜ、アリス」
横を飛行するアリスに言う魔理沙。
「ええ、分かってるわ」
アリスも怪しい妖力が竹林の奥から来ている事は、分かってる。
「さぁて、今回はどんな相手か楽しみだぜ」
まだ一度も弾幕勝負をしていない二人。
何の妨害も無く、普通に敵の根城近くまで来てしまったのだ。
だから弾幕ごっこが好きな魔理沙は現在、弾幕ごっこがしたくて堪らない状態だ。
「そうね。私の予想では亡霊女だと思うけど」
まだ言っているアリス。
どこまで亡霊女もとい幽々子を疑っているのやら。
「幽々子だったらリベンジだな。あの時は三人掛かりで勝てなかったから」
いちいち突っ込むのも面倒になった魔理沙は、アリスの予想に合わせる。
そう言う会話をしている間に、いつの間にか竹林の中に入っていってしまった二人。
その時だった……
「! ……何だ、一瞬何か変な力を感じたような?」
「奇遇ね……私も何か妙な力を感じたわ」
どうやら二人共、一瞬不可思議な力を感じたようだ。
と、突然アリスと魔理沙の前方にある二人組が現れた。
「お、おい、アリス。あれって……」
魔理沙が前方を指差しながら驚愕の眼差しで見ている。
「ほら、私の大正解」
アリスが満足気な表情をしながら言った。
*
禁呪の詠唱チームが竹林に入る少し前。
幽冥の住人チームの妖夢と幽々子は既に竹林の中に入っていた。
因みに、この竹林は迷いの竹林と言われ、その名の通り必ず迷う。
単調な風景と霧、地面の僅かな傾斜で斜めに成長している竹等によって方向感覚を狂わされると言う。
また、竹の成長が早い為すぐに景色が変わり、目印となる物も少なく、一度入ると余程の強運でない限り抜け出せない。
「幽々子様……妖気を辿れば敵の本拠地に着くと仰いましたが」
妖夢は自分の少し前を飛行する幽々子に言う。
「そうよ。敵の根城は直ぐ其処。もう後数十分行ったら着くわね」
「いえ、そうではなく、私が言いたいのは……」
「事が上手く進みすぎている……と言いたいんでしょ?」
「は、はい。そうです」
自分の言いたい事を幽々子に言われて少し驚く。
「そうなのよね。私もそれが気掛かりで仕方ないのよ。まるで、敵の策略に上手く嵌ってしまったような……そんな感じを」
「私も、先程からそう思っています」
どうやら二人共、同じ感覚を抱いていたようだ。
「……敵の何らかの罠だったら、どうなされますか?」
妖夢が聞く。
不安なようだ。
「その時は、妖夢の日々の鍛錬の成果に期待しているわ」
ミスティア戦の時に言った、妖夢の言葉を言う。
それを聞いた妖夢は少し顔を赤くした。
「は、はい! 幽々子様のご期待に答えれるよう頑張ります!」
「それじゃあ――早速頑張ってもらおうかしら」
「!」
幽々子のセリフに妖夢は近づいてくる複数の力に気付いた。
その力は弾幕。
複数の弾幕が妖夢と幽々子に殺到しているのだ。
「幽々子様! お下がりください!!」
妖夢はそう言うと、幽々子の前に立ち、楼観剣を抜く。
そして剣に霊力を込め、全ての弾幕を剣で撃ち落とす。
「何者だ!?」
妖夢は弾幕が飛んできた方向に向かって叫ぶ。
それと同時に二人の人影が現れた。
「ほら、あってたでしょ。私の予想」
「信じたくは無いけどな。本当に」
それは禁呪の詠唱チームの魔理沙とアリスだった。
「まぁ、とりあえず――動くと撃つぜ」
そして魔理沙がミニ八卦炉を持ち、妖夢の方に向けて言った。
完全に臨戦態勢に入っているのだ。
*
その頃、夢幻の紅魔チームのレミリアと咲夜は目を丸くしていた。
先程まで森林を飛んでいたのに、今は竹林の中に居るからだ。
まるで森林から竹林に空間移動したような感覚だ。
「……これはどういう事なの、咲夜?」
「私にも理解できません」
二人共歩みを止め佇んでいる。
現状が理解できないからだ。
「ですが、一つだけ分かるとすれば、妙な妖気を感じる拠点に近づいたと言う事くらいですかね」
「ええ。敵の罠かしら?」
「……恐らく」
これにより、二人は慎重に動く事にした。
だが、それは意味を持たなかった。
そう、前方に幻想の結界チームの霊夢と紫が居たからだ。
「ようやく見つけたわ、博麗霊夢」
前方に居る霊夢に向かって言う。
その声に気付いた霊夢と紫は、レミリアと咲夜の居る方を見る。
「あれ、何であんたが此処に居るの?」
霊夢が尋ねてくる。
レミリアが居た事には、あまり驚いていないようだ。
「……単刀直入に聞くけど、一護とフランを何処に行ったか知ってる?」
レミリアが霊夢の問いを完全に無視し、自分の聞きたい事を聞く。
「私の質問は無視? まぁいいわ。一護とフランなんて知らないわよ。一護とは昼から会ってないからね」
「昼から……」
「ええ。それより……ちょうど良かったわ。あんたに一つお説教をしたかったのよ」
「え……?」
何故か霊夢のセリフが理解できてしまったレミリア。
「あんた、私の境内を一部ふっ飛ばしたでしょ」
レミリアの予想は大正解だった。
さっきも言った通りレミリアは、今日スペルで博麗神社の境内の一部を粉々に粉砕した。
霊夢にとって博麗神社はかなり大切な家。
そこを壊された事で怒っていたようだ。
「な、何で、それを……?」
それに少し動揺するレミリア。
「微量だけど、粉々に砕けた境内からあんたの妖気を感じたからよ」
「そういう事ね」
「理解した所で遅いわよ。悪い子には……お尻ペンペン一万回よ」
「私はガキか!?」
*
同時刻、禁忌の死神チームの一護とフランは他のチームと同じく迷いの竹林の中に居た。
どうやら一護は他のところと一緒で、妙な力を感じる方に進んでいたようだ。
「この辺だと思うんだけどな」
一護が言う。
元々霊圧探査などが下手な一護が、此処まで来れただけでも凄い事だが、迷いの竹林に入ってからは全く分からなくなったみたいだ。
「いっちー、もしかして私たち迷子?」
少し不安な表情をしながら言ってくるフラン。
「……多分な」
答えたくなかったが、一応答える。
だが、多分ではなく、完全に迷子だ。
この光景は、まるで何処ぞの11番隊のコンビだ。
「黒崎一護」
その時、背後から一護の名を呼ぶ、声が聞こえてきた。
(ッ!! ……この声は!?)
一護はこの声に聞き覚えがあった。
かつて一護と壮大な戦いを繰り広げた人物の声。
声のした方に振り向く。
そこには――
「ウルキオラ!」
一護は驚愕の眼差しで言った。
そう、そこには……ウルキオラ・シファーが立っていたのだった。