東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~ 作:ディーン・グローリー
《1》
――ウルキオラ・シファー。
虚夜宮で一護と壮絶な戦いを繰り広げた破面。
虚無のような隙のない気配は凍結した鋼のようで、顔立ちは整っているが全く温かみを感じない。酷薄で、冷厳で、威圧的な気配ながら、なぜか虚無のような不確かな存在感。
忘れるはずもないし、間違えるはずもない。
かつて一護が暴走して、消滅させてしまった男。
「ウル、キオラ……!」
黒崎一護は、その存在を確認し冷静ではいられなかった。
それもそのはず。
グリムジョーは虚圏で生きたまま幻想入りしたが、ウルキオラは完全に消滅して幻想入りしている。生きたまま幻想入りしたのなら分かるが、死んだはずのウルキオラが幻想入りしているのは、どうも理解出来ない。
「何で……テメェが幻想郷にいるんだよ……!?」
驚きのあまり、目を見開いたままの一護が声を上げる。
脳が理解しきれない不明で染められた。否、そもそもここは非常識で彩られる幻想郷。あり得ない事象が起きて当たり前の世界である。
「黒崎一護。貴様の質問を聞いている暇など無い」
「何だと?」
ウルキオラの台詞に一護は顔を険しくして言う。
そしてウルキオラは一歩一歩ゆっくりと歩みを進め、一護との間合いを縮めてきた。
「いっちー……」
フランが一護の服にすがり付き、ウルキオラの方を見据える。
その表情からは、怖い人を目の前にしている少女のように恐怖していた。
「あれ……ヤバいよ」
フランが身震いしながら、口を震わせていた。。
こんなフランの姿は今まで見た事がない。
「フラン……」
「私、恐い。あれとは戦いたくない」
フランとは思えない台詞だ。いくら狂気が無くなったとは言え、己の力が無くなったわけでもないのに。それ程までに、ウルキオラは別格ということだろうか。
「心配すんな。俺が付いてるだろ」
「……う、うん」
一護の言葉にフランの表情が少し和らぐ。
「ウルキオラ。すまねぇが、今はテメェに構ってる暇は――」
その時、一護は電流が体に迸ったかのように、複数の力を感じ取った。
(この力は……霊夢、紫さん、魔理沙、アリス、レミリア、咲夜、妖夢、幽々子さん! 何で、みんなが……!?)
「ようやく気付いたか、黒崎一護」
一護の驚きの表情を察したのか、ウルキオラが口を開く。
「何……?」
「今、貴様の脳に浮かんだであろう連中は醜い争いをしている。俺の計画通りにな」
「ウルキオラ……テメェ、何しやがった?」
「……力付くで吐かせてみろ」
「ッ!」
瞬間的に流出したウルキオラの霊圧に、一護は少し態勢を崩す。
だが直ぐ様態勢を戻し――
「上等だぁ!!」
ウルキオラの挑戦を受けた。
軽く、いとも簡単に。全てがウルキオラの手の平の上だと気づかずに、黒崎一護は簡単に策略に嵌ってしまったのだった。
*
現在――禁呪の詠唱チームと幽冥の住人チームは弾幕勝負を繰り広げていた。
お互いの攻防戦は全く止む事が無い。
飛び交う弾幕と、無数のレーザー。周囲の竹林は薙ぎ払われ、舞い落ちる竹葉でさえも激闘の熱波により焼失している。
最初に妖夢はアリスの変な誤解を解こうとしたけど、アリスが全く聞く耳を持たなかった為、結果としてこうなった。
「ほら早く月を元に戻しなさい! 魔符『アーティフルサクリファイス』!」
アリスが前方にいる妖夢と幽々子に向かって、魔力を込めた人形を放り投げる。
そしてその人形が二人に近づくと、まるで手榴弾のように爆発を起こした。
だが、妖夢と幽々子はそこから無傷で現れた。
どうやら妖夢が爆発する一歩手前で、自分たちに被害が及ばぬ距離で人形を斬っていたようだ。上手く、その人形に練られた魔力を演算し、余裕の範囲をもってして突破する達人技。
それにより、当然のように爆破の力が二人に届かなかったのだ。
「ですから、誤解と何遍も言っているはずです! どうしてこう、あなた達は聞き分けが悪いのですか!?」
「前科があるあなた達がよく言えるわね。たく、犯人ってのはどうしてこう素直になれないのかしらね」
妖夢の言葉などまるで聞く耳なし。
確かにそう思われても仕方ない。妖夢と幽々子には前科がある。信頼という面において、そして過去において疑われても文句が言えないのだ。
だからと言って、今回の疑いの理由はあまりに理不尽であるが。
「ッ……どうやら本当にあなた達を倒す以外、ここを打破する事が出来ないようですね」
これにより妖夢が遂に本気で闘るようになった。
「そうする事ね。魔操『リターンイナニメトネス』!」
再びアリスがスペルを唱える。
魔力を込められた人形が、複数放り投げられる。先の魔符『アーティフルサクリファイス』の上位符だろう。
「人鬼『未来永劫斬』!」
妖夢はアリスがスペルを唱えると、その後からスペルを唱える。
それによりアリスが投げてきた複数の爆破人形は全て、妖夢の銀光迸る剣戟により防げた。
「せっかくだ幽々子、少しはお前も動こうぜ! 不毛な戦いなのは十分承知だが、楽しまなきゃ損だぜ! 恋符『マスタースパーク』!!」
魔理沙の持つミニ八卦炉から、閃光煌く極太レーザーが発射された。
その極太レーザーは、周囲の空間を震わせながら妖夢の後ろに佇んでいる幽々子に向かって放たれている。
「妖夢一人じゃ、二人の相手はやっぱり無理よねぇ」
幽々子は己に飛んでくるレーザーを、軽く上空に高く浮き回避する。
避けたせいで、幽々子の居た場所はレーザーにより木っ端微塵に吹き飛び、隕石が墜落したのではないかと思うほどのクレーターを残していた。
(あの時より威力も速さも増しているわね。これはこれは、今生きる世代も侮れたものではないわね)
幽々子は魔理沙のマスタースパークを観察し、春雪異変の時のことを想起していた。
――魔理沙はあの時より強くなった。
それは幽々子に三人がかりで、あれだけボロボロにされたんだ。
悔しくなかったわけが無い。その悔しさをバネにし、強くなった。まるで少年のような青臭い理由だが、これがどうして中々馬鹿にできたものではない。
「あの頃より少しは楽しめそうね。死蝶『華胥の永眠』」
幽々子がスペルを唱えると、自分を中心に蝶型の弾幕が展開され、それが蝶が飛び立つように一気に拡散された。
「来るぜアリス」
「分かってるわよ」
魔理沙とアリスは幽々子の弾幕を注意深く観察し、そのスペルに相応しいスペルを唱える。
「魔操『リターンイナニメトネス』!」
「恋符『マスタースパーク』!」
アリスと魔理沙は先程のスペルを唱え、幽々子の弾幕を掻き消していった。
たかが幽々子が軽く放ったスペルに対し、必殺に等しい二人が繰り出したスペル。しかしそうでもしないと、あのスペルは打破できなかった。それ程までに幽々子の霊力は桁違いに高いのだ。
「ここです、人符『現世斬』!」
そして二人が幽々子のスペルに気が行っていた隙を突き、妖夢がスペルを唱え、アリスに高速で斬り掛かる。
妖夢はアリスさえ倒せば、誤解が解けると思っている。だからアリスを倒して、魔理沙を説得しようとしているのだ。
「小賢しいわね。戦操『ドールズウォー』!」
アリスが急接近してくる妖夢を見て、即座にスペルを唱える。
妖夢から身を守るように、アリスの前に複数の槍を持った人形兵が現れた。
その人形兵達が、回転しながら槍を振るっている。
妖夢はそれらの人形兵を、剣で斬り崩していく。
「隙有りよ――咒符『上海人形』!」
そもそも人形兵はあくまで隙を作らせるため。次に放つスペルこそが本領なのだ。
アリスの眼前に一体の人形が現れ、その人形から極太レーザーが目の前にいる妖夢に向かって放たれた。
(しまった!!)
妖夢は直ぐ様、防御の態勢に入る瞬間には、極太レーザーが妖夢を飲み込んだ。
「くッ!!」
妖夢は一瞬苦悶の声を上げ、後方に吹っ飛ぶ。
「大丈夫~、妖夢」
「余所見注意だぜ幽々子! 光撃『シュート・ザ・リトルムーン』!」
魔理沙は幽々子が妖夢の方に気を取られた隙を突き、スペルを唱える。
複数のレーザーと星型の弾幕が、上空に佇んでいる幽々子を襲う。
「あなたも足元注意よ魔理沙。再迷『幻想郷の黄泉還り』」
瞬間、魔理沙の足元が急に光だし、そこから大量の幽霊のような質量の宿った力の波が現れ、魔理沙を攻撃した。
まさに虚を突いた幽々子のスペルそれにより、魔理沙はかなりのダメージを受けた。
「幽々子様!」
起き上がった妖夢が声を上げる。
例え魔理沙に攻撃を与えても、さっき発動したスペルの弾幕とレーザーは残っている。
光撃『シュート・ザ・リトルムーン』のスペルで放たれた、レーザーと弾幕が幽々子との差をほとんど縮めているのだ。
「くっ、断迷剣『迷津慈航斬』!!」
妖夢は瞬歩の如く速さで幽々子の目の前に移動し、楼観剣に大量の妖力を注ぐ。
そして顕現されたのは、光り輝く巨大な剣だった。
「ハァァァアアアアアアア!!」
妖夢は迫ってくる弾幕とレーザーに向かって、気合の雄叫びを上げながら、剣を振るった。
妖力を纏った剣が、向かってくる弾幕とレーザーを全て否応なく掻き消す。
「あなた……少し学習した方がいいわよ」
アリスが妖夢を見据えて呟いた。
それに妖夢は目を見開く。
何故なら妖夢のほぼ目の前に、一体の魔力の込められた人形が投げつけられていたからだ。
「魔操『リターンイナニメトネス』よ。隙がありすぎてビックリ」
アリスがスペルの名を言った。
今、妖夢は力一杯に剣を振るった直後だ。
再び剣を即座に振る事は出来ない。
「舐めるな!」
妖夢は怒声を孕んだ声で言う。
――甘く見るな。私はそこまで愚かな失策はしない。
己が持つ、もうひと振りの剣――白楼剣も抜き放ち、人形を引き裂く。そして並々ならぬ妖力を込める。過去、自分の師であり祖父でもあり、そして二代魂魄家とは一線画す妖夢の力が紡がれる。
「人皆月光照らす夜を以て、等しく狂乱疼く朱き太極描き散る――魔性響めく反射衛星に舞え禍莫大於無敵の陣」
己の力を最大限までに放出する、妖夢の奥義が繰り出される。
「待宵の狂月よ 月光を反射せよ! 『待宵反射衛星斬』!!」
妖夢は符名の付かないスペルを唱える。
その刹那、引き裂かれた人形は止めを刺されるように妖夢の超高速の斬撃により撃ち落とされた。
「ッ!! アリス避けろ!!」
倒れかけていた魔理沙の声に、アリスは右へ跳ぶ。
それと同時に妖夢が、アリスの居た位置に斬り込んでいた。
「――!!?」
アリスは驚愕する。
自分でも全く妖夢のスピードを目で追い切れなかったからだ。
もし魔理沙に避けろと言われていなかったら、完全にアウトだった。
そして妖夢のスペルは速さが真骨頂では全くない。
斬り込んだと同時に、広範囲に凄まじい質量を備えた鱗弾の弾幕が縞模様の形で無数に配置された。これにより魔理沙とアリスは上手く身動きが取れない。
「終わりです!」
妖夢は再びアリスに斬りかかる。
アリスは間一髪のところで、妖夢の斬り込みを空中に高く跳び避ける。
だが、それをしたせいで妖夢が展開していた弾幕を、何発も受けてしまった。それだけで体へ与えられた力は、自分の体力と精神力を見るも無残にへし折られそうになった。
「避けましたか……」
妖夢が空中に移動したアリスを見て言う。
アリスは弾幕をもろに何発も受けてしまったので、一気に満身創痍と言っていいほどだ。
「だったら、次は避ける事が出来ない程の速力で行きます。甘く見ていたわけではありません。久方ぶりのこの力に、少し身体が追いついていなかっただけです。ですがもう充分に身体を満足に動かせます!」
剣を構える。
次は避けるのが不可能だと悟ったアリスは、もう自分の力を隠してはいられない。
「復刻する恐怖劇からは人々の悲鳴散らばせ悦に酔い痴れる大公――並び座すオペラもまた人に悲劇を沸騰させる狂乱の闇劇、そうして再び恐怖を魅せよ」
紡ぎ出される祝詞は、人々に与える恐怖の人形劇のみ。
「『グランギニョル座の怪人』!」
アリスも符名の付かないスペルを唱えた。
それを見た妖夢は一旦動きを止める。
下手に突っ込んだら危ないからだ。
アリスを中心に八つの魔方陣が現れ、そこから無数の米粒弾が放射状に放たれる。
それにより、妖夢が展開した弾幕が次々と相殺されていく。
(これなら、行ける!)
アリスのスペルを見て、妖夢はそう判断した。
アリスは米粒弾を放つ以外、何もしていないからだ。いや、例え他に何かをしても、それをする前に討てばいいだけの話なのだ。
妖夢は飛んでくる米粒弾を剣で斬り潰しながら、一気にアリスに向かう。
「これで、最後だ!」
妖夢が叫ぶ。
後もう少しで剣の間合いに入る。
「最後はあなたよ!」
アリスが叫び返す。
その瞬間、八つの魔方陣から放たれていた米粒弾が一瞬止まり、続いて妖夢狙いの鱗弾の弾幕が無数に発射された。
放射状に放たれていた無数の弾幕が、妖夢一点に集中されたのだ。
これでは、勢いに余った妖夢は完全に避ける事が出来ない。
「――だからって、私は負けない! 変な誤解されて、勝手に襲ってきたあなた達に負けたら、格好悪いから!」
烈光迸る剣閃。
全く無駄のない乱舞により、無数の弾幕が薙ぎ払われていく。今の妖夢なら流星群だろうが大海嘯だろうが颶風だろうが、全てを一点の曇りなく引き裂けるだろう。
「あらあら妖夢ったら、一人で勝手に燃えちゃって。けど、そんなところが可愛くて仕方ないのよね。だから、私もちょっぴ本気で手伝おうかしら」
そんな中、幽々子がとんでもない横槍を投擲する。
「仏授記已 便於中夜 入無余涅槃 仏滅度後 妙光菩薩 持妙法蓮華経 満八十小劫――西行寺の死力以て滅する満開の奥義桜」
それは過去に一護に対して放った反魂蝶の、満開に相当する最強のスペル。
「亡霊女の涅槃の境地を見よ『西行寺無余涅槃』」
幽々子が符名の付かないスペルを唱える。
レーザー・大玉・高速で移動する蝶々弾が全方位に発射された。
そして、やはりと言って一護戦に使用した『反魂蝶 -八分咲-』のようなスペルだ。
だが、完全に弾幕の速さも数も違っている。
もしかしたらこのスペルは、決して起こり得ない『反魂蝶 -満開-』を表しているのかもしれない。
「来たぜアリス!!」
「ええ。分かっているわ!」
二人は九死な状況下にありながら、スペルを唱える。
「魔砲『ファイナルスパーク』!」
「咒詛『蓬莱人形』!」
魔理沙のミニ八卦炉から飛翔する神威の一撃――黄金に光る極太レーザーが放たれた。
続いてアリスは妖夢にも気を配らせながら、自分の眼前に複数の人形が展開し、その人形達からレーザーが放たれた。
恐らくこのスペルは、咒符『上海人形』の上位符だろう。
二人が放ったレーザーが、幽々子の放つ弾幕を掻き消していく。
だが幽々子から出される大玉と弾幕の数が多い上に速い。
到底二人のスペルでは歯が立たない。
「くそ、やっぱ無理か」
二人はスペルを解き、弾幕、大玉、レーザーを避ける。
「だったら、私も本気で行くぜ!」
魔理沙は弾幕を避けながら、自分も負けじと唱える。
「闇夜を引き裂き暗黙を光輝躍起に塗り替えちまえ――さぁ派手に楽しめ天より星々がお前らの煌く姿に嫉妬して落ちてくるんだから」
それは何とも魔理沙らしい祝詞であった。
「『ブレイジングスター』!!」
魔理沙が符名の付かないスペルを唱える。
瞬間、空からマスタースパークのような極太レーザーが、いくつも降ってきた。
まるで沢山の彗星が地に落ちてきているようだ。
――その極太レーザーがもはや敵味方関係なしに降り注いだのだった。
《2》
禁呪の詠唱チームと幽冥の住人チームが戦っていた頃――
禁忌の死神チームはウルキオラと対峙していた。
ウルキオラは刀を抜かずに、両手をコートに入れ、ただそこに佇んでいる。
一護も代行証を出さずにウルキオラを見据えていた。
「……どうした、何故来ない」
向かってこない一護を見て、ウルキオラが言った。
今までの一護なら、真っ先に向かって来たはずだからだ。
虚圏でもウルキオラとの戦いの時は、いつも一護から斬りかかっていた。
だが、今回はそれをしない。
「やっぱ、テメェもか? ウルキオラ」
「何?」
質問の意図が分からないウルキオラ。
それに対し、一護は言った。
「霊圧と帰刃の事だ」
眉一つ動かさなかったウルキオラの表情が、その事を言われ、少し眉をひそめる。
この反応を見るからに、ウルキオラはやはりグリムジョーと同じ異変に陥っているようだ。
霊圧の半分以上が消失の上、帰刃で斬魄刀の解放が不可能になっている。
ウルキオラは、このグリムジョーと同じ状態なのだろう。
「…………」
ウルキオラは黙ったまま、何も答えない。
「そうか」
一護はウルキオラの様子を見て、察したのか、深く聞くのを止めた。
「分かった、そろそろ行くぜ……」
代行証を取り出し、死神の姿になる一護。
この状態の一護とウルキオラの対峙している光景を見ると、まるであの時の戦闘を思い出してしまう。
「博麗の死神 黒崎一護だ」
一護は二つ名と共に名乗る。
弾幕勝負の前に名乗るのは礼儀らしいことを、得てから覚えた。
「虚無の黒い大魔 ウルキオラ・シファー」
ウルキオラもそれに連ねて名乗る。
それを聞いた一護は、右腕の霊圧を刀状に構築する。
そして一気にウルキオラの方に斬りかかったのだった。
*
幻想の結界チームと夢幻の紅魔チームの弾幕勝負。
この弾幕勝負の事の発端は――ウルキオラの策略でもあるが――レミリアが博霊神社の境内の一部を粉々に粉砕した事で、霊夢が怒り、戦いが起きたと言う下らない理由だ。
こんな下らない理由でも幻想郷の者達は真面目に弾幕勝負をする。
負けると言うのはプライドが許さないからだろう。
「いさぎよく、お尻ペンペンされたらどう? 散霊『夢想封印 寂』」
霊夢が相手に対してガキ扱い丸出しな発言をしながら、己の代名詞とも言えるスペルの応用を唱える。
すると無数のお札と、弾幕が霊夢からばら撒かれた。
「させませんわ! お嬢様のお尻に触れて良いのは……私だけです!」
「何であなたはOKなの?」
咲夜の露骨なセクハラ発言にレミリアが小声で突っ込む。
「それはさておき、お嬢様に仇なす者を黙って見ているわけにはいきません。いきますよ、博麗霊夢。お嬢様のお尻は私が守り、私が撫でるため! 幻符『殺人ドール』!」
咲夜の周りにナイフの弾幕が展開され、白銀の尾を照らしながら一斉に霊夢に向かって放たれた。
霊夢から放たれたお札や弾幕は、咲夜のナイフに相殺されていく。
「今の発言、少し危ないわよ」
呆れた表情で言いながら霊夢は、飛んできたナイフを避ける。
「けど、そう言われると、意地でも触りたくなるのが、博麗のさがよね」
博麗にそんな性はありません。
しかも完全なセクハラ発言に昇華された。
「それじゃあ次行くわよ。神技『八方龍殺陣』!」
霊夢がスペルを唱えた。
無数の弾幕とお札が、霊夢を中心に全方位に隙間無く放たれた。
避け切る事が不可能だと思ったレミリアと咲夜は、同じくスペルを唱える。
「幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』!」
「紅符『不夜城レッド』!」
咲夜からは無数のナイフが放たれ、レミリアからは自身を中心に真紅の十字架型のオーラが噴射された。
それらが霊夢の放つ弾幕とお札を掻き消していく。
「一点集中でいくわよ。神槍『スピア・ザ・グングニル』」
レミリアは続けてスペルを唱えた。
左手が紅く光り、そこから巨大な紅い槍が形成された。
森羅万象を貫く神槍を、吸血鬼の膂力で瞬足の域で投擲される。
紅い槍が霊夢の弾幕とお札を掻き消していき、そのまま一気に霊夢に迫った。
「神技『八方鬼縛陣』!」
流石の霊夢も危険を感じ、即座にスペルを唱えた。
飛来してくる紅い槍の方向に結界を張り、身を守る。
結界に紅い槍が衝突すると、凄まじい轟音と、紅い光りが発せられた。そしてお互いの力が相殺され、ガラスが砕けるように散った。
「後ろがガラ空きです! 傷符『インスクライブレッドソウル』!」
咲夜が一瞬の霊夢の隙を突き、後方に回っていた。
そしてスペルを唱え、目にも止まらない速さでナイフを使い、霊夢に切りかかる。
「チッ」
霊夢は不服そうに舌打ちし、切り込んでくるナイフを全て紙一重で避け続ける。
少しでも気を抜けば、直ぐに切られる勢いだ。
「こっちも無視しちゃ嫌よ霊夢。嫉妬しちゃうじゃない! 紅符『スカーレットマイスタ』!」
霊夢が咲夜の切り込みを避けている中、霊夢の後方にレミリアが笑みを浮かべながらスペルを唱えた。
レミリアから複数の大弾が放たれ、それに連なるように中弾と小弾の弾幕が無数に放たれる連鎖型のスペルだ。
「ッ、鬱陶しいわね!」
霊夢は少し驚くも、レミリアの行動を予測していた。
妖怪退治に異変解決、この二つの事に特化した霊夢に、これくらいの敵の手段は簡単に把握できる。
霊夢はそれを直ぐに対応する。
「大結界『博麗弾幕結界』!」
霊夢を中心に半径5m程の結界が張られ、その結界内に咲夜とレミリアが中に閉じ込められた。
そして続け様に無数の弾幕を、放射状に全方位に放ったのだ。
「く……ッ!」
咲夜は急に霊夢がスペルを唱えた事により、直ぐ様後方に飛ぶ。
だが霊夢の結界により閉じ込められているので、弾幕からあまり逃げられない上、行動範囲に制限が付けられている。これでは時間を止めようが意味を持たない。
さらにレミリアの放った弾幕が、霊夢の無数の弾幕により悉く潰されていっていた。
現状は霊夢が優勢に立っている。
「クッ!」
「チッ!」
避けるにも、やはり困難を極めたため、いくつか被弾してしまう。
「流石は博麗の巫女ってところかしら……。けどこの程度、吸血鬼の力をもってすれば無力!」
瞳を血のように紅く輝かせ、口を開く。
「渇望する世界を塗り替え 幻想郷を紅魔の世に染めよ――さすれば己が負の面は燃やされ真血としての誇りが尊ばれる――『紅色の幻想郷』!」
レミリアが符名の付かないスペルを唱えた。
瞬間――結界内がレミリアの力により紅く染まり、軽々と霊夢の結界はガラスが割れるように砕けた。
「ツゥ!」
更に、そこから放たれた無数の弾幕により霊夢は呑み込まれ、凄まじい痛手を受けてしまったのだ。
だが、それは相手も同じ。
ほぼ捨て身に等しい行為で結界を破壊してせいで、咲夜とレミリア現れると、衣服の所々がボロボロになっていた。
どうやら、二人も結構ダメージを負ったみたいだ。
一旦三人は弾幕を出さずに対峙する。
そして霊夢がある事に気付き、怒り混じりに言う。
「ちょっと、何であんたは戦わないのよ。紫!」
霊夢が声を当てたのは、三人の弾幕勝負を観戦している八雲紫だった。
紫は三人から少し離れた安全地帯で、地に足を着きながら、三人を見ている。
普通なら紫は霊夢のチーム。
相手が二人なら、普通は紫も参戦するだろう。
だが紫はそれをしない。
ただ霊夢が一人で二人相手に戦っている姿を観戦しているだけだ。
「別にいいでしょ。あなた一人でも十分そうだし。ちゃっちゃと終わらせてちょうだい」
紫が笑みを崩さずに言う。
その表情を見た霊夢は少しイラッとした。
「それともなに……あなた一人じゃ、手に負えないのかしら?」
紫のそのセリフに、霊夢はカチンときた。
言い方。
声のトーン。
全てが霊夢の神経にさわった。
「上等じゃない! 一人で闘ってやるわよ!」
(本当に単純ね、この子は。まぁ扱いやすくていいけど)
霊夢の反応に、紫は心の中で笑った。
「さぁ、行くわよ」
霊夢はレミリアと咲夜の方に向き直り、スペルを唱える。
「神霊『夢想封印 瞬』!」
すると霊夢は霊力を纏い、高速で動き回って相手を惑わす。
それだけでなく、更に霊力の纏った札をばら撒いていった。
「速いわね」
レミリアが目で霊夢を追いながら呟く。
霊夢は二人を囲うように高速移動しながら、お札をばら撒いている。当たれば痛手を食らうだろう。
「けど、捉えられない程のスピードではないわね」
当たりそうになったお札を避けると同時に、スペルを唱える。
「必殺『ハートブレイク』」
紅い槍がレミリアの左手に現れた。
だが、神槍『スピア・ザ・グングニル』程の大きさの槍では無い。一般的な投げ槍めいたサイズである。
レミリアは霊夢の動きをよく見て、一気に槍を投げる。
「――!!」
霊夢は自分に向かって飛んでくる槍を見て、目を見開く。
直ぐさま槍を躱し、次は絶対に捉えられないであろう速度で動いた。
(速くなったわね)
レミリアは霊夢が加速したのに気付く。
「ここは私にお任せください、お嬢様」
咲夜が一歩前に出て言う。
「奇術『エターナルミーク』」
咲夜はスペルを唱えた。
青い無数の弾幕が全方位に凄まじい速さで発射される。
咲夜はいつもナイフを使うが、このスペルはナイフや能力を使わない、スピードと言う面だけに特化したスペルなのだ。
(厄介なスペルね!)
単に咲夜が時間を止めて、自分の周囲にナイフを展開するだけなら回避できたが、こういう単純なスペルは度外視していた。
だけど霊夢は上手い事、弾幕を避けながら行動を続ける。
「避けながらアクションは、やっぱり減速してしまうようね、霊夢」
瞬間、レミリアが霊夢の真正面に立っていた。
霊夢はそれに驚愕する。
「神槍『スピア・ザ・グングニル』!」
その刹那、レミリアはスペルを唱え、巨大な紅い槍が形成された。
それが一瞬にして投げられ、霊夢に直撃する。
――その瞬間、紅い爆発が起こり、霊夢の姿が確認できなくなった。
だが、この程度でやられる霊夢では無い。
直ぐに姿を現す。
衣服が更にボロボロになっており、別途で腕に括りつけている袖が破け落ちている。
「……あ~あ、私の自慢の巫女服がボロボロじゃない」
戦況を一切気にせず、自分の衣服の心配をする霊夢。
まだまだ余裕があるようだ。
「お尻ペンペン一万回じゃ、済まないわよ」
霊夢がレミリアを睨みつけて言う。
「じゃあ、もっとボロボロにして上げるわ」
レミリアは霊夢の人を殺すような眼を気にせず、再び奥義にも等しいスペルを歌う。
「其の鬼、神ならず 其の鬼、神ならずにあらず 其の神、人を傷わず 其の神、人を傷わずにあらず 聖人、また、人を傷わず それ、両相傷わず 故に徳は交に帰す」
それは何とも過去に携わる祝詞。
「『スカーレットディスティニー』!」
レミリアが二枚目の符名の付かないスペルを唱えた。
無数の紅いナイフを全方位に放ちつつ、無数の紅い大弾を霊夢の方に目掛けて放ったのだ。
「…………」
迫ってくる大弾やナイフを前に、霊夢は動こうとせず、スペルを唱える。
「天に生み出されし夢想よ 我にその夢想を授けろ――『夢想天生』!」
霊夢が符名の付かないスペルを唱えた。
その瞬間、七つの陰陽玉が霊夢の周りに現れ、それが霊夢の周りを回りながら浮いている。
「あれは……!?」
咲夜は霊夢の唱えたスペルを見て驚愕した。
そう、このスペルは紅霧異変の時に咲夜戦に用いたスペルなのだ。
そして……咲夜はそのスペルを使われ負けた。
勿論、咲夜はそのスペルの危険性をかなり理解している。
だからレミリアに言わなくてはいけなかった。
「お嬢様! お気を付け下さい!! あれは――」
だが、咲夜は言い切る事が出来なかった。
何故なら、その前に霊夢にお札による攻撃を受けたからだ。
「ガァッ!」
咲夜はそれだけで倒れてしまった。
「咲夜!!」
流石のレミリアも、咲夜がやられた事に驚いた。
だが、それ以前に不可解な事がある。
何故ならレミリアの放った弾幕が霊夢に当たらずに――通り抜けているからだ。
「一体、何なの、そのスペルは!?」
レミリアはその現象に全く理解できなかった。
「さぁ~ね、自分で考えなさい、お嬢様。私にお尻ペンペンされながらね」
霊夢は満面の笑みで言いながら、レミリアにゆっくり近づく。
レミリアは近づいてくる霊夢に弾幕を放つが、全てが当たらずに通り抜ける。
弾幕が全く霊夢に干渉していないのだ。
「や、やめ……来るな……」
レミリアの声が、どんどん弱くなる。
霊夢は全くレミリアの言う事を聞かずに近づく。
「お、お願いだから……来ないで」
元々紅いレミリアの眼が、更に紅くなり、涙目になる。
「い、いや……」
そして霊夢がレミリアの前に立ち、霊夢の表情が更に満面になった。
この満面の笑みは、レミリアには般若のように見えて仕方が無い。
「さぁ、お仕置きよ……お嬢様」
霊夢はそう言うと、レミリアに手を伸ばす。
そして……
「キャァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!!」
レミリアの子供のような、とてつもない叫び声が迷いの竹林全土に響き渡ったのだった。