東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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とりあえず伏線を張りまくった回になりました。

ちょっとだけ過去が垣間見えるシーンがありますが、早くそこを書きたいですね。そして、なぜかこれを書いているとき、

ほのぼの日常を書きたくなり、バレンタイン企画とかしたくなった。


第34斬【揺蕩う思い出】

《1》

 

 ――現在、禁呪の詠唱チームの魔理沙とアリスは竹林の奥の方に進んでいる。

 進んでも進んでも竹しかない同一の光景の中、魔理沙の心も同じく一つのもやもやとした感情だけで埋まっていた。

 

「何か、勝った気がしなかったぜ」

 

 魔理沙は不服そうに、まるで親にゲームを途中で止められた子供のように不満たれたれでぼやいた。

 

「あっちが負けを認めたんだから、私たちの勝ちじゃない。私はそれで十分納得がいくけど」

 

 そんな魔理沙の言葉に、隣を飛行するアリスが答えた。

 アリスは相方とは違い、全く何も気にしていない表情である。

 

「そうだけどよぉ~、最終的に幽々子には勝てなかったんだぜ。妖夢も妖夢で、まぁあれは私たちが少し不意を打ち過ぎであったしな」

 

 この会話だけで、魔理沙が一体何に不満を持っているのかは瞭然だろう。

 魔理沙は先の幽冥の住人チームである妖夢と幽々子の弾幕勝負に,

難色を帯びているのだ。

 あの戦いを簡単に回想すると――

 最後に魔理沙がノリで放った奥義に等しいスペル『ブレイジングスター』を幽々子は、軽々と鼻歌でも歌うかのように気軽な体捌きで避けていた。

 妖夢は己に襲いかかってくるアリスのスペルに対応していたので、魔理沙のスペルは回避できず、そのまま被弾してしまい倒れたが。

 しかし幽々子は軽く避け、尚且つ霊力もまだまだ限界には程遠い万全状態であった。

 それなのに幽々子は降参したのだ。まるでこれ以上、戦っても意味がないかのように。

 実際問題、それなのだ。

 幽々子はこれ以上の戦いは無意味と判断し、弾幕勝負を辞めた。理由としては“自分たちが誰かの掌の上で踊らされている”と感じ取ったからだ。その状況としては、場の不自然さ及び、自分たち以外にも戦いが発生しているのを感じ、はっきりとした。そもそも竹林に入った時点で、妙な霊力に空間を歪められた感覚はあったので、その時点で罠に嵌ったと半信半疑ではあったが直感した。だが降参したのを後押ししたのは、妖夢が倒れたこともあり、お腹が空いたということもあるが。

 これが本当の理由だが、魔理沙たちには言っていない。

 立前上は潔く降参した事になっている。

 だが一々本当の事を言ったら面倒だから言わない。

 これが本当の事を言わない理由だ。

 そして幽々子が犯人と疑っていた、アリスの件は簡単に晴れた。まぁ元々何の証拠も無かったから、直ぐに晴れて当たり前だが。

 こんな感じで、幽々子と妖夢の弾幕勝負は完結したのだ。

 

「確かにピンピンしてたからね、あの亡霊女。悔しいけど、あのまま戦っていたら勝てたかどうか分からなかったわ」

 

 アリスが思い出すように言う。

 実際にゾッとする話であり、強気で勝てたかどうかなどと言ったが、確実に勝利を掴むのは無理だったであろう。それ程までに実力差があるのだ。

 だが降参された。

 理由は前述通りである。

 

「ちきしょう~、この異変終わったらもう一度挑みに行くか。あー、もう悔しいぜ」

「だったらその悔しさを、あそこでぶつけたらどう?」

 

 アリスが竹林の奥の方を指差す。

 そこには大きな屋敷が見えた。

 こんな広大な竹林の中にポツンと、不自然な形で存在している。外装は平屋の日本屋敷で、竹林の中にあるには中々相応しい屋敷だ。

 

「何だ、あの屋敷?」

「随分と洒落た屋敷ね。恐らく、あそこに異変の元凶者が居るはずよ」

 

 異変の元凶者が居る。

 先程までは幽々子を疑って間違っていたのに、随分な自信である。

 そもそも魔理沙は、アリスがなぜ幽々子を疑っていたのか、最後までよく理解できなかった。

 

「そうだな、よし……憂さ晴らしをしに、一気に突入するぜ!」

 

 魔理沙の合図と同時に、二人は真の元凶者のいる日本屋敷に侵入したのだった。

 

   *

 

 その頃、幻想の結界チームの霊夢と紫は同じく竹林の奥に進んでいた。

 夢幻の紅魔チームとの弾幕勝負は、レミリアのお尻ペンペンと言う仕置きをして終了した。その後、咲夜とレミリアはその場所に放置して、先に進んだのは言うまでもない。

 

「吸血鬼のお尻を引っ叩くなんて、世界広しといえど博麗の巫女くらいでしょうね」

「少し溜飲が下がったわ。赤く腫れちゃってたけど、まぁいい気味だわね」

「かわいそうに。泣いてたわよ彼女」

 

 500年以上生きる吸血鬼が涙目で叫んでたのは、見方によっては年相応に感じた。

 直ぐに意識を取り戻した咲夜が、どこか羨ましそうな瞳で見ていたのはあえて言わなかった。

 そしてお尻丸出しで涙目のレミリアを放置し、今に至っている。

 変わらない風景の中を飛行しながら、霊夢の肌が複数の力を感じ取った。

 

「……あら、一護の霊力を感じるわね」

 

 霊夢が目を閉じながら、呟くように言う。

 

「気付くのが遅いわね。私はあなたが紅魔館の者と戦っていた時から、気付いていたわよ」

 

 紫は霊夢が気付く前に気付いていたらしい。

 そもそも紫は霊夢と紅魔チームの戦いを傍観していただけなので、周りの霊力などを探る余裕などが有った訳であり、逆に霊夢は紅魔チームとの戦いに集中していたので、そんな余裕は無かった。

 だから、紫が先に気付いていて当然なのだ。

 

「だったらもっと早く教えなさいよね」

「だってもう知ってると思ったから。それと、あの吸血鬼の妹の……えっと、フランって子もいるわね」

「ええ。らしいわね。それともう一人いるけど、知らない奴ね。誰かしら?」

 

 霊夢が感じたもう一人は、ウルキオラの事だろう。

 ウルキオラと霊夢は対面した事が無いので、霊力を感じても誰だか分からない。

 

「恐らく敵の使者でしょうね。とても強い霊力を感じるわ。どうする? 助けに行く?」

 

 紫はそう提案する。

 だけど霊夢は首を横に振り、断る。

 

「一護なら大丈夫でしょ。あいつはどんな巨大な壁でも、一人で突き破る男だから」

 

 霊夢の眼は一護を信じている眼だった。

 そして二人は、この後魔理沙たちが入った日本屋敷に、一悶着があった後に到着するのだった。

 

   *

 

 瞬間――鼓膜を引き裂くような凄まじい爆発音が、静かな竹林に響き渡った。

 砂塵が吹き荒れ、周囲の竹が塵のように吹き飛ぶ。

 先の二戦とは比較にならないほど、洒落っ気のない弾幕勝負がここで繰り広げられている。

 

「くッ!」

 

 落ち着きを払った砂塵から、一護の姿が現れた。

 その顔は痛苦に満ちており、その証拠に頬には痛々しい切り傷ができている。

 

「いっちー!」

 

 フランも続いて砂煙から現れた。

 そして、一護とフランは竹林の上空に立つ。

 徐々に砂煙が晴れていき、半径50m程が荒野になっている。竹やぶが全て消し飛んでおり、その中央付近にウルキオラが泰然と現れた。

 

「どうした、黒崎一護。お前の力はこんなものか?」

 

 ウルキオラは上空に居る二人を見上げながら言う。

 一護の表情に疲れの色は出ていないが、かなりの傷を負っているのは確かだ。同じくフランは、傷を殆ど負っていないが、少し疲れの色を滲み出している。

 対するウルキオラは、二人とは完全に違い、傷も疲れも出していない。それどころか、腰に添えている剣を一度たりとも抜いていないのだ。

 一護もフランも決して弱い訳では無い。フランは狂気という暴力を捨てたことによって、戦闘に対する弱体化はしているだろうが、吸血鬼としての力は健在だ。

 故に、二人共幻想郷では強い方に部類して良いだろう。

 だが、ウルキオラは更にその上に居た。それだけの話なのだ。

 

「…………」

「どうやら、そうらしいな……残念だ」

 

 何も答えない一護に、特に何の感慨も持たないまま、ウルキオラは行動に出た。

 

「ッ! いっちー後ろ!」

 

 瞬間、一護とフランの視界からウルキオラが消えたかと思うと、二人の背後に姿を現した。

 その速度は死神化した一護ですら捉えることのできない。しかし一護より動体視力の良いフランは、ウルキオラの動きを見逃さなかった。

 一護は振り向き様に、右手に漆黒の刀を形成し斬りかかるも――

 

「虚符『虚閃』」

 

 先にウルキオラの人差し指の先端から、碧色の虚閃が放たれた。

 その標的は勿論、一護とフランだ。

 一護とフランはほぼ運任せで動き、紙一重で虚閃を横に飛び避け切る。

 だがウルキオラの攻撃は止まない。

 

「まだだ」

 

 再びウルキオラは姿を消し、一護の目の前に現れた。

 この高速移動は破面特有の響転だ。

 そしてウルキオラは手刀を突き出す。その腕はとても華奢だが、そこに秘められている暴力の密度は、軽く岩を貫く程だ。

 

「舐めんな!」

 

 一護は上半身を低くし、手刀をギリギリのところで躱し、同時に右腕の霊圧刀でウルキオラに斬りかかる。

 だが、ウルキオラの衣服が斬りこみで斬れただけで、皮膚は一切斬れていない。

 破面の持つ鋼皮と言うやつだ。文字通り鋼の皮膚。並みの攻撃では傷ひとつ付けられないだろう。

 

「いっちー退いて! 禁弾『スターボウブレイク』!」

 

 フランがスペルを唱えると同時に、一護は即座にその場から離れる。

 ウルキオラの上空から流星群のように、無数の弾幕が墜落してきた。

 避ける事が出来たはずだが、ウルキオラは“あえて避けず”に、その弾幕を受け入れるように被弾していく。

 

「まだまだー! 禁忌『フォーオブアカインド』!」

 

 続けてスペルを唱えるフラン。

 このスペルを唱えた事により、フランが四人に分身した。分身といっても、一つ一つの個体が単体フランと同一。だからフランが実に四人いるといってもいい、最強のスペルだ。

 

「「「「禁忌『レーヴァテイン』!!」」」」

 

 四人のフランが同じスペルを唱え、同じ灼熱の巨大な炎の剣が握られる。

 

「行くよ!」

 

 一人のフランの声を合図に、一斉にウルキオラに飛び集う。

 先程の弾幕は止み、ウルキオラの様子は衣服が少し汚れただけで、それ以上は何も変わっていない。向かってくる四人のフランを目にしても、全く危険視していないウルキオラ。

 四人のフランが一斉にウルキオラに斬りかかるが、最小限の動きで炎の剣を避け、避け切れなかった物は全て手刀で対応している。

 空間が震撼した。

 音速を超える速さで動き、敵を引き裂こうとする四つの炎の剣が大熱波を帯びながら、踊り狂っている。同時にフランはさながら超電磁砲のような弾幕を多方よりウルキオラを狙って放っていた。

 灼熱の炎剣も振るわれる度に周囲が熱で歪み、草木は燃え上がるどころか瞬間的に炭化灰化していっている。摂氏数千度の熱が宿っているのは自明の理だろう。近くにいるだけで命の危険がある。

 そんな桁外れな戦闘を繰り広げられる中、一護はその状況をよく見る。

 瞬く間でもいい、ほんの一瞬でもウルキオラの隙が生まれれば、自分の奥義を見逃さず放つ。

 

「……黒斬『月牙天衝』」

 

 一護は静かにスペルを唱える。

 右腕から凄まじい量の霊圧が込められた。

 両者それに感づき、フランは何かを察したのか少し微笑み、ウルキオラは特に表情を変えずに応戦する。

 炎剣が舞い踊り、弾幕が飛び交う中――

 

「行くぜ! フラン!!」

 

 一護は叫んだ。

 それを聞いたフランたちは、ウルキオラから四方に分散し、一斉に炎の剣をウルキオラに向けて投げ飛ばした。

 その投力は凄まじく、レミリアにも全く引けを取らない光速の域だ。

 それらが一気に四方からウルキオラに投げられたのだ。普通の者なら、絶体絶命だろう。

 

「少々厄介だな」

 

 流石のウルキオラも、こればかりは油断しては対処に困難すると判断したのか、右手左手に霊力を込める。

 そして四方から飛来してくる炎剣を一蹴した。

 

「うぉぉぉおおおおお!!」

 

 だけど、それはあくまで布石。

 本当の目的は、一護の月牙天衝だ。

 一護はウルキオラがフランの炎の剣に一瞬の対応をしている間に、ウルキオラの直ぐ近くまで来ていた。

 そして一気に月牙天衝をウルキオラに撃ち放つ。

 

「その程度の策で、この俺を倒せると思うな」

 

 ウルキオラは既に二人の策略を読んでいたらしい。

 右腕に霊圧を込め、月牙天衝をいとも簡単に払い消す。

 だが、ウルキオラは少し理解できない感覚があった。一護の月牙から、あまり霊圧を感じなかったのだ。

 

「まだだぜ、ウルキオラ」

「!?」

 

 ウルキオラが少し驚く。

 一護が自分の眼前で刀を構えていたのだ。

 そう、一護の月牙天衝も布石の一つ。

 本当の狙いは月牙を撃った後の弐撃目。

 

「うぉぉおおお!!!」

 

 一護は力強く霊圧の篭った刀で、ウルキオラを斜め一閃に引き裂いた。

 今度は最初の斬り込みと違い、霊圧の込められた量が違う。最初に放った月牙は目くらましで、殆ど霊圧が込められていなかった。

 その込められていなかった分の霊圧は、弐撃目に込めたのだ。

 

「――!」

 

 その斬撃で、遂にウルキオラに傷を負わす事が出来た。かすり傷に近いが、傷を負わせただけでも目っけ物である。

 

「…………」

 

 ウルキオラは斜め一閃に斬られた腹を、手で舐めるように触れる。

 その手に赤い血が付いた。

 

「……先のことは訂正しよう。少しは、やるようだな」

 

 視線の先を一護に向ける。

 

「だが、この程度の傷を付けたくらいで、思い上がるな」

 

 瞬間――ウルキオラの負った傷が何も無かったかのように、再生した。

 

 その光景に、一護は目を見開いて驚く。

 

「傷が、治りやがった……!?」

「そうか……お前は俺の能力を知らなかったな。ちょうどいい。俺の能力を教えてやろう」

「何だと? 驕りかよ、ウルキオラ」

「驕りではない。お前には、知る権利があるだけだ」

「知る権利だと……?」

「……ああ。この能力は黒崎一護……お前と、〝井上織姫のお陰で開花した〟と言ってもいいからだ」

「!? どう言う事だよ?」

 

 少しも理解できない一護は、頭が混乱してきた。

 一護と織姫のお陰で、能力が覚醒したウルキオラ。

 何故、一護と織姫なのだろうか?

 

「悪いが、これ以上、話すつもりは無い」

「…………」

 

 一護は深く聞くのを諦めた。

 そしてウルキオラは一息置くと、能力名を言う。

 

「俺の能力は〝事象を拒絶する程度の能力〟。あらゆる事象は、全て俺に拒絶される」

(!! ……う、嘘だろ。その力は……!?)

 

 一護は能力名を聞いて、驚きを隠せなかった。

 そう、事象を拒絶する能力はそもそも、井上織姫の能力だからだ。

 事象の拒絶は、対象に起こったあらゆる事象を拒絶し、何事も起こる前の状態に帰す事の出来る能力だ。

 藍染曰く〝神の領域を侵す能力〟。

 その能力が今、ウルキオラに宿っていると言うのだ。

 さっきの斬り傷も、この能力で起こる前の状態に戻し、治したのだろう。

 

「続きと行くぞ、黒崎一護」

 

 ウルキオラは能力名を言い終えると、今まで抜かなかった刀を抜いた。

 遂に本気で来る。その証拠に、一目瞭然で分かるほどの霊圧を放出している。

 一護の表情が苦くなる。

 それもそのはずだ。

 ウルキオラの能力が事象の拒絶なら、ウルキオラにはあらゆる攻撃は効かないからだ。

 どれだけ頑張ろうと、起こる前に戻される。

 しかも井上織姫と違い、いちいち盾を張らずに、瞬時に戻せる。

 勝てる確率が低すぎる。

 だが、そんな事で諦める一護では無い。

 一護は一人じゃない。

 今はフランと言う心強い味方が居る。

 一護も刀状の霊圧を構える。

 

「ああ。来いよ、ウルキオラ!」

 

 一護がそう言うと、ウルキオラは霊子で作った足場を蹴り、一護に向かった。

 

 ――今、第二幕が始まった。

 

   *

 

 その頃、禁呪の詠唱チームの魔理沙とアリスは、竹林の中で見つけた日本屋敷の中に侵入していた。

 薄暗く、途轍もなく長い廊下を二人は飛行している。

 ここに侵入したと同時に、妖怪兎達から弾幕による歓迎をされた。 その歓迎に二人は受け、妖怪兎達を一蹴したのは言うまでもない。

 

「凄い長い廊下だな、アリス」

「そうね。だんだん異変の解決が面倒になってきたわ」

 

 迷いの竹林の次は、長い廊下。

 異変解決に不慣れなアリスにとっては、こういうのは面倒になってくる。

 

「こんな長い廊下、掃除とか大変だろうな。一回の掃除に丸一日は消費しそうだぜ」

「魔理沙の家よりマシじゃない? あんたの家は、素人が掃除したら絶対に死人が出るわよ。運が良くて、精神に異常をきたすわね」

「酷いこと言うな、アリス」

「事実には近いでしょ」

「ん……た、多分な」

 

 否定しない魔理沙。

 一体魔理沙の家はどうなっているのだろうか?

 

「もう来たのね。意外に早かったじゃない」

「全ての扉は封印しました。もう、姫様を連れ出す事は出来ませんよ」

 

 二人が暢気な会話をしていると、うさぎの耳が付いた、二人の少女が突然現れた。

 一人は長い薄紫色の髪に、紅い瞳。

 頭には前記の通りウサギの耳が生えている。

 上の衣服は、白のブラウスに赤いネクタイを締め、紺色のブレザーをその上に着用している。下は薄桃色の、膝下くらいまでのミニスカートを着用している。まるで学校の制服のような衣装だ。

 もう一人は癖っ毛の短めな黒髪で、身長は片方の少女より低い。

 衣服は桃色で、裾に赤い縫い目のある半袖ワンピースを着用している。首には、にんじんの付いたアクセサリーを付けている。

 

「誰だ、お前らは?」

 

 突然目の前に現れた二人の少女を見て、魔理沙が聞く。

 

「誰だって、人様の家でよくそんなセリフを……ん、って、あれ? あなた達、地上の人間じゃないの?」

 

 制服を着た方の少女が二人をよく見て言う。

 

「どういう意味かしら?」

「別にあんた達には関係の無い事よ~。だから、とっとと帰れ」

 

 ワンピースを着た方の少女が、挑発的……と言うか単純に口が悪かった。

 その態度にアリスは少しイラッときた。

 

「うざいわね。あのチビウサギ」

 

 心の中で思ったことを口に出すアリス。

 今にも弾幕を張り、暴れ出しそうだ。

 

「こら、てゐ。そんなこと汚い口の利き方しちゃ駄目でしょ」

 

 制服の少女が、ワンピースの少女を軽く咎める。

 口の悪いワンピースの少女とは対照的に、制服の少女は礼儀と言う言葉を知っているらしい。

 そして制服の少女が二人に向き直り、口を開く。

 

「大変申し訳ございませんが、今日は忙しいのでお引き取り願いたいのですが……よろしいでしょうか?」

「いいわよ、ただし一つ聞かせてくれるかしら?」

 

 アリスはゆっくりと怒りを静めて、言葉を発する。

 

「何でしょうか?」

「この歪な月の異変は、あなた達の仕業?」

 

 それを聞いた制服の少女は一瞬、眉を動かす。

 どこか周りの空気が、緊迫になったように思える。

 ただしワンピースの少女は口笛を吹きながら、どうでも良さげな顔をしている。

 

「……そうよ」

 

 緊迫した状況の中、制服の少女は重々しく答えた。ただし、ワンピースの少女の能天気な口笛をBGMにして。

 

「そう、だったら帰る訳にはいかないわね」

「大人しく元に戻すか、痛い目にあった後に元に戻すか、どっちかを選べだぜ!」

 

 アリスと魔理沙が臨戦態勢に入りながら言う。

 

「ヘッ、面白いね。その案乗った!」

 

 ワンピースの少女が、制服の少女より早く答えた。

 答えている時の表情が不敵で、妙に楽しそうだ。

 

「ちょっと、何でてゐが勝手に決めてるのよ!」

「別にいいでしょ。ああ言うバカ共は痛い思いをした方が、少しは利口になるよ」

 

 ワンピースの少女の言葉に、アリスは当然の事、魔理沙まで怒りが堪った。

 まるで超大バカに、鼻で小馬鹿にされた感じだ。

 

「魔理沙……分かってるわね」

「ああ、分かってるぜ」

 

 二人は小声で言い、完全に臨戦態勢に入った。

 

「その言葉! 痛い目あった後って事で受け取っていいんだな!?」

 

 魔理沙が声を荒げて言う。

 確かにワンピースの少女のセリフを聞く限り、そうだろう。

 

「そうよ。バカは確認しないと分からないのか? そっかだからバカなんだね。いやー無粋なことを聞いちゃってごめんね」

 

 ワンピースの少女のこの言葉が、完全に二人の神経にさわった。

 

「上等だぁ! 受けて立つぜ、このチビ兎野郎!」

「バカは見た目でしか悪口を作れないのか。可愛そうだね」

「カッチーンと来たぜ。私は普通の黒魔術師 霧雨魔理沙だ!」

「私は七色の人形遣い アリス・マーガトロイドよ」

 

 怒り心頭の二人だが、名乗ると言う礼儀はきっちりと守る。

 

「私は狂気の月の兎 鈴仙・優曇華院・イナバです」

「私は地上の兎 因幡てゐだよ。バカには憶えられないかなぁ~?」

 

 一言多い因幡てゐと言う少女。

 だが、もう二人は反応しない。

 

「行くぜアリス」

「ええ、言われなくても」

 

 二人は相手を見ながら言う。

 見られている二人も、口を開く。

 

「月の兎である私の赤い瞳で、狂気に落としてあげるわ」

「真の悪戯と言うものを見せて上げる」

 

 こうして二対二の弾幕勝負が始まった。

 

 

《2》

 

 魔理沙とアリスがてゐの言葉に苛立ちを覚えている頃、霊夢と紫はまだ竹林の中を飛行していた。

 普通なら二人共、既に魔理沙たちが侵入した日本屋敷に到着してもよい時間なのだが、ある会話をしているせいで、遅くなっている。

 その会話とは――

 

「あの時の話の続きだけど……」

 

 霊夢が紫の方に顔を向けて、言う。

 

「あの時って、私のマイホームにお邪魔していた時?」

「マイホーム……? よく分からないけど、あんたの家に居た時よ」

 

 あの時とは、霊夢が紫の家に居た時の事みたいだ。

 となると昼頃になる。

 そこでの会話の続きを、この異変中にしているのだ。それ程までに大切なことなのだろう。

 

「で、あの時の話がどうしたの?」

「紫……あんたは私の母様と仲が良い、友達と言う間柄だったのよね。そこで、ある事を一つ、聞き忘れていたのよ」

 

 どうやら霊夢は、紫の家に居る時、自分の母親について聞いていたらしい。

 そこで霊夢は真を突く質問をする。

 

「何で、あんたは私の〝母様と父様を助けなかったの?〟」

「…………」

 

 その事を言われて、紫のいつもの笑みが消え、少し暗くなった。

 だが、それは一瞬で消え、いつもの表情に戻し、答える。

 

「あなたが、もう少し成長したら教えてあげるわ」

「何それ?」

 

 紫はこれ以上、何も答えない。

 答えたくないようにも見える。

 

「…………」

 

 紫の脳裏にフラッシュバックのように、走馬灯のようにある過去が蘇る。

 

『ねぇ紫、私は今が一番幸せよ』『おいおい霊華。あまり引っ付くなよ。みんなが見てるだろ』『ははは、魂魄妖摩。随分と妻の掌の上じゃないか』『真咲、あなたはまだ子供すぎるのよ』『“真の博麗”はあまり存在していないのよ。私は十三代目だけど、まだ七代目になれていないしね』『おいルリミア、ちょっとそこのピーマン取ってくれ。いやそれキュウリな。好き嫌いするな』『刹蘭、あなたのその話し方はなに? 紫から聞いた中二病ってやつなの?』『ヘカーティアの馬鹿と純狐を俺と同じ部屋に入れてんじゃねえよ』『こぉの……変態ー!』『うへぇ~、また大変そうな異変ね。今年で何回目よ』『幽々子たん登場ッ!』『私はみんなが大好きよ』

 

 明るい、本当に愛した幸せな過去が蘇る。

 まるで周囲に輝く、数多の星のように綺麗で優しい大切な記憶の欠片たち。

 しかし反目するように――漆黒にまみれた思い出したくもない戦慄の記憶も蘇る。

 

『どうして、ねぇどうしてなの!? 何で六代目が……』『違う。違う! 俺が愛した幻想郷は、こんなんじゃない! 誰だよ、この世界を穢したやつは!?』『この世界は絶対に守る! 渡しはしない!』『掛かってこいよ■■。俺がお前に、死という片道切符をくれてやる』『嫦娥を匿う。アイツ、あえてあっちに乗りやがった』『てるてる坊主、てる坊主、あした天気に、しておくれ、それでも曇って、泣いたなら、そなたの首を、チョンと切るぞ』『刹蘭やルリミアのように、お前まで狂ったのかよ……!』『必ず俺たちで、この大異変を解決してみる』『私たちの知らない博麗と、■■■。根源の存在は絶対に叩く!』『私たちの愛する幻想郷と、みんなを守るために、行きますよ!』

 

 嫌な記憶ほど、たくさん蘇る。

 暗黒の歴史。忘れたい過去……。

 しかし同時に、無くしてはならない物語なのだ。殺伐とした、ただ単に不愉快な事実。過去に戻ってやり直したい。だが、恐らく何百回何千回繰り返しても、変わらないであろう過去。

 事実上、歴代最大にして最悪の大異変――混神異変。

 

「……最悪だったわね」

 

 そして最後に後悔の念が押し寄せる。

 

(紫……私のこと――見捨ててね)

 

 霊夢によく似た女性が微笑み、涙を流しながら言っている。

 これは紫と霊夢の母親……霊華との過去の一部だ。

だが、何故見捨てないといけないのか、何故涙を流しているのかは、全く分からない。

 

(霊華……約束は守るわ。だから、あの時、護れなかったのは謝らせてね)

 

 紫は過去を思い出すのを止め、一気に先へ進んだ。

 

   *

 

 思い、願い、夢見た理想郷。

 この現実は、世界はもう完結している。

 笑い、嗤い、嘲笑いながら世界の中心に存在する、森羅万象の核――巨大な暗黒が賛歌を下卑た瞳で謳っている。

 無限に広がり宇宙を覆う陣が、混沌とする闇を紡ぎ出す暗黒の波動。

 逃げ場など無限の並行宇宙を探し出しても存在しない、欲にまみれた祝福の王道を歩む。

 我が真言により開闢しろ――『極界・夢創天世』

「あはは、ははははは、ははははははははははは!」

 さぁ、新しい時代を見せてくれ。

 

   *

 

 その頃――竹林の屋敷で弾幕勝負をしている魔理沙&アリスVS鈴仙&てゐの戦いが幕を上げていた。

 

「さぁさぁ、行くよ! 兎符『開運大紋』!」

 

 因幡てゐが誰よりも早く、スペルを唱えた。

 大弾、米粒弾と様々な大きさの弾幕が、対峙している魔理沙とアリスに向かって放たれる。

 

「私たちにこの程度の弾幕を当てれると思ってるの?」

 

 アリスが迫ってくる弾幕を見ながら、冷静に呟いた。

 広い廊下の中、二人はてゐの弾幕を巧みに避ける。

 今までの幽々子や妖夢のスペルに比べたら、レベルはかなり低い方だ。

 

「お前、こんなスペルが当たると思ったのか? バカなのか?」

 

 魔理沙がてゐに向かって仕返しと言わんばかりのセリフを吐く。

 今までてゐにバカにされて来たから、思わずバカと言ったのだろう。

 だが、バカと言われたてゐは何も反応を示さない。

 絶対に言い返してくると思ったが、てゐの表情は弾幕勝負を真剣に励んでいるように見える。

 さっきまでの挑発的な態度が嘘のようである。

 

「……どうしたんだ、アイツ。さっきまでと雰囲気が違うぜ。急に真面目モードになってやがるぜ」

 

 そのてゐの姿に、魔理沙が首を傾げる。

 魔理沙の目には、さっきと別人に見えているのだ。

 

「ボサッとしない! 次来るわよ!」

 

 アリスが呆然としている魔理沙に向かって、声を当てる。

 それを聞いた魔理沙はハッと、我に返った。

 

「狂いなさい、幻波『赤眼催眠』!」

 

 魔理沙が我に返るのと同時に、鈴仙がスペルを唱える。

 鈴仙を中心に、全方位に無数の弾幕がゆっくりと放たれた。その弾幕は、まるで銃の弾丸のような形をしている。

 

「これも避け切るわよ、魔理沙」

「おう」

 

 魔理沙とアリスは迫ってくる弾幕に、弾幕で対応しようとせず、全て避け切ろうとする。

 

「何故、弾幕を使わないのですか。使う程度では無いと言う事ですか?」

 

 二人の様子を見て、鈴仙が疑問を呟く。

 その声調には、少し怒りが孕んである。

 

「そうよ」

 

 それにアリスが答えた。

 

「あなたたち程度に魔力を消費できないからね。この黒幕のために温存してるのよ」

「そうですか。真っ当な理由があれば、少しは手を抜いて上げようと思いましたが、そうする必要は無いようですね」

 

 瞬間、鈴仙の眼が紅く光りだした。

 それに呼応するように、一瞬だけ魔理沙とアリスの眼が不自然に見開いた。

 

「……何だ? 今一瞬」

 

 魔理沙は自分の眼下辺りを触れる。

 どうやら無意識に開いたようだ。

 

「さぁ、私の弾幕が見えますか?」

 

 鈴仙が眼を紅くしながら、二人に告げる。

 その言葉を聞いた二人は、今初めてそれに気付いた。

 二人に迫ってきていた弾幕が、消えていたのだ。

 

「なんだよ、こいつは!?」

 

 魔理沙が驚愕の眼差しで、前方を見る。

 さっきまで存在していた……鈴仙が放った弾幕が全て消えているのだ。

 ゆっくりと放たれていたから警戒はしていなかったが、弾幕が消えたのであれば話は別だ。

 少し取り乱している魔理沙に比べて、しかしアリスは至って冷静だ。冷静だから、相手の能力を分析できる。

 

「――まさかこれは。魔理沙! 弾幕は消えていないわ、気をつけて!」

 

 冷静だから、魔理沙に忠告できた。

 

「ッ!」

 

 その瞬間だった。

 魔理沙とアリスの目の前に、何の前兆もなくさっきの消えていた弾幕が現れたのだ。

 そしてアリスの忠告のお陰で、魔理沙は後方に跳び、弾幕から逃れる事が出来た。

 

「危ねぇ! 何で急に弾幕が現れたんだ!?」

 

 魔理沙が率直な疑問を口に出す。

 

「恐らくだけど、あいつの能力ね。ほら、あいつの目が紅く光りだしたでしょ。あれが能力発動の瞬間だったんじゃない?」

 

 アリスは先程自分で分析した結果を、魔理沙に言う。

 詳しい所までは分からないが、ある程度の鈴仙の能力の推測もした。

 それを魔理沙に伝える。

 

「……あいつの能力は多分、相手の視野などに関係する能力だと思うの」

「視野だと?」

「ええ。あいつの紅い眼が光った瞬間、一瞬だけ自分の眼に妙な違和感を感じたでしょ?」

「あれで私たちは、あいつの能力に侵されたと」

「そうよ。まぁ恐らく他にも脳に作用する幻術とかも使ってきそうね。これは少々厄介な相手かもよ」

 

 二人は相手の弾幕の警戒を怠らないように会話をしている。

 もしアリスの憶測が正しければ、気を抜いただけで危険だから。今にも、また目の前に弾幕が現れても何らおかしくない。

 その瞬間、読み通り再び二人の目の前に弾幕が出現した。

 まだ、あの時の鈴仙のスペルである幻波『赤眼催眠』が継続している証拠だ。

 そう、ただ避けきっただけで、消していないからだ。

 

「たく、魔力は温存しておきたかったんだけど、仕方ないわね」

 

 アリスが瞬時にスペルを唱える。

 

「魔操『リターンイナニメトネス』」

 

 複数の人形が、アリスと魔理沙眼前に現れ、アリスと魔理沙は直ぐに後ろに跳び退く。

 その瞬間、人形が爆破し、鈴仙の弾幕と共に消え散った。

 アリスと魔理沙はようやく本気になる。

 二人がスペル無しで行こうとしていた理由は、先も言った通り簡単だ。

 幽々子と妖夢との弾幕勝負で、結構な魔力を消費したから、あまり魔力を使いたくなかった。

 相手が異変を起こした張本人だったら、話は別だが、その下っ端なら使う必要……と言うより、アリスが言ったとおり、温存しておきたかったのだ。

 この後に、異変の張本人と戦う為に。

 けど相手が予想以上に手強いと思った二人は、その考えを捨て、本気で戦う事にした。ただし、あまり魔力を使わない方向で。

 

「行くわよ……廻符『輪廻の西蔵人形』」

 

 先にスペルを唱えたアリス。

 アリスの周りに複数の人形が現れ、主の周りをグルグルと回る。

 

「さぁ、私の可愛い人形たち……あのバカな兎さんたちを懲らしめなさい!」

 

 そう言った刹那、人形たちから無数の弾幕が発射された。

 

「私はバカではありません! 勝手に人のことをバカと言わないでください! 狂視『狂視調律イリュージョンシーカー』!」

 

 鈴仙がバカと言われて少し怒り、強力なスペルを唱えた。

 壁のように隙間なく並んだ弾幕が、無数に放たれる。

 

「その程度の弾幕で私に勝てると思っているの? 舐めないでちょうだい」

 

 アリスが鈴仙の弾幕を見て言った。

 もし弾幕無しで挑んだとしたら、避けるのは不可能に近いが、弾幕有りなら余裕に攻略できる。

 弾幕を弾幕で掻き消せばいいのだから。

 

「……ええ確かに。私の弾幕では、あなたの弾幕には恐らく勝てないでしょう。しかし、私の弾幕――消えますよ」

 

 鈴仙が言い放った瞬間、言葉の通り、鈴仙の弾幕が消えた。

 ……いや、消えたのではない。

 少し透明になったのだ。

 アリスの弾幕は、透明になった鈴仙の弾幕に文字通り被弾せず、そのまま鈴仙とてゐの元に殺到する。

 

「てゐ、来るわよ」

「分かってるよ。見ればわかる。兎符『因幡の素兎』」

 

 鈴仙に言われ、てゐがスペルを唱える。

 無数の弾幕と大弾が展開され、迫ってくるアリスの弾幕に向かって放たれる。

 そして鈴仙が放った弾幕は、透明状態から一斉に分裂し、弾幕の数を増やす。そして分裂し終えると、透明から実体に戻り、魔理沙とアリスを襲う。

 戦いの場所は廊下。

 縦幅も横幅も広いが、所詮は廊下。

 逃げ道には限界がある。

 限界はあるが、敵が使うのは弾幕。

 攻略するには弾幕を消し去ればよいだけの話だ。

 

「行くぜ! 恋符『マスタースパーク』!」

 

 魔理沙は迫ってくる弾幕に向けてミニ八卦炉を構え、スペルを唱えた。

 凄まじい魔力が込められた超極太レーザーが、ミニ八卦炉から発射され、無数の弾幕を全て掻き消していく。

 廊下を一直線に、逃げれる幅も無く撃たれているので、その前方にいる鈴仙とてゐは逃げる事が出来ない。

 長く広い廊下の割に、直線の道で曲がり角が無いからだ。

 

「なにこれマジ面倒ね」

 

 てゐはダルそうに新たなスペルを唱える。

 

「生きることは万象騙し通すこと 繰り出される世界が嘘にまみれた世界で形成されているのなら詐欺師となり狡猾に生きよう」

 

 それは、てゐの真理に至る祝詞。

 故にそこから放たれるは、奥義に等しいスペル。

 

「全ては騙されるほうが悪いのよ『エンシェントデューパー』!」

 

 符名の付かないスペルを唱えた。

 てゐの両サイドから二本の赤いレーザーが放たれると共に、てゐを中心とした全方位型の青弾と、てゐを囲むように円弧を描きながら展開される赤弾が同時に放たれる。

 それが魔理沙のマスタースパークを押し負かす。

 

「あのスペルはキツいぜ! つうか何でアイツ弾幕勝負では舐めた口言わないんだ!?」

「魔理沙はいちいちそんなこと言わない。余裕がないんでしょ! 見た目は小生意気な子供だからね」

 

 自分のマスパを負かすだけでは飽き足らず、そのままアリスと魔理沙の元にてゐのレーザーと無数の弾幕が襲い掛かった。

 

「二人掛かりで行くわよ」

 

 流石のアリスも符名の付かないスペルは危険に思い、二人で対応する事にした。

 決まると直ぐに、二人はスペルを唱える。

 

「咒詛『蓬莱人形』!」

「魔砲『ファイナルマスタースパーク』!」

 

 アリスと魔理沙はお互いレーザー系のスペルを唱え、てゐのスペルに対抗する。

 アリスの案は正しく、てゐのスペルは二人のレーザーにより、相殺された。

 だが一難去ってまた一難。

 二人がてゐのスペルに対応している間に、鈴仙がスペルを唱えていた。

 

 ――散符『真実の月』。

 

 波紋状に弾幕を発射した後、一瞬だけ全ての弾を消失させてから再拡散を繰り返すスペル。消失中も弾幕は動いている為、どこに現れるか分からない。

 どこに現れるか分からないから、二人は反応できなかった。

 二人の眼前に、何の予兆も無く鈴仙の弾幕が現れたのだから。

 

「しまった!」

 

 てゐのスペルを打ち破った後で、二人は一瞬の気の緩みが出来てしまっていた。

 そうしたせいで二人は、鈴仙の弾幕を何発も被弾してしまう。

 

「くっ! 魔操『リターンイナニメトネス』!」

 

 ダメージを受け態勢を崩すも、直ぐに戻しスペルを唱えるアリス。

 複数の人形を全方位に放り投げ、爆破させる。

 それにより鈴仙の弾幕を掻き消していく。

 

「一旦、態勢を整えるわよ」

 

 アリスの言葉に魔理沙は一旦動きを止める。

 相手二人も一旦動きを止めた。

 弾幕を放った様子は一切無い。

 お互い動きを止め、にらみ合う。

 間合いも充分に空いており、今のうちに態勢を整える両者。

 この緊迫した状況で、てゐが口を開いた。

 

「さてと――ようやく私の本気モードね」

 

 その発言に、二人は嫌な汗が身体から溢れ出た。

 こういうふざけた奴が本気モードとか言い出すと、大体場が破天荒になる。

 

「第二幕の開始よ!」

 

 そして、てゐの真剣な表情から一変し、弾幕勝負をする前の悪巧みを考えている様な表情に変わった。

 

「ヘッ、何を考えてるかは知らないけど、本気になる前に倒してやるぜ!」

 

 魔理沙が魔力を込め、スペルを唱えようとするが……

 ――パチンッ!

 と、てゐが親指を弾いた瞬間、魔理沙の開いた口の中に、何か赤いものが見事に入った。

 

「っ!」

 

 そして思わず噛んで、飲み込んでしまった。

 

「な、何か飲んじまった……!」

「心配しなくていいよ。身体に害を及ぼすような物じゃないから」

 

 一応言っておくてゐ。

 もし毒だったりしたら一大事だ……と言うより、弾幕勝負では無くなってしまう。

 

「じゃあ、何なんだよ? ……ん、喉の奥が……熱い?」

 

 魔理沙が自分の身体の異変に気付いた。

 喉の奥、胃が妙に熱く、何かの熱気が食道を通って這い上がってきている様な感覚。

 そして魔理沙の顔が一気に赤くなり、それを感じた。

 

「……か、辛ぁぁああああ!!」

 

 口から火を噴かんばかりの勢いで叫び、悶える。

 どうやら、口に入れられた何かは、改造された超激辛の物だったらしい。

 

「水! 水ぅぅうううう!!」

 

 と叫びながら走り回っている。

 その様子を見ているアリスは、心のどこかでホッとしていた。

 

(……もし私が先に唱えていたら、ああなっていたのかな? 助かったわ魔理沙)

 

 何も無いとこで躓いて転んだ魔理沙を、哀れみの眼で見ながら心の中で思った。

 

「さぁ今から第二幕の悪戯地獄篇の開幕よ!」

 

 てゐの合図と共に、鈴仙とてゐが廊下の奥に飛んでいった。

 

「な! 逃げるつもり!?」

 

 苦しそうにしている魔理沙を横目に、廊下の奥にゆっくりと逃げていく二人を見て言う。

 

「逃げる? バカの考える事は単純ね。そんなバカが私たちに追いつく事は、到底不可能よ。この低能ども」

「…………」

 

 てゐの無駄な挑発に、鈴仙は何も注意しない。

 もう面倒なのだろう。

 

「チッ、行くわよ魔理沙。あいつ等を追うわ!」

 

 アリスの言葉に、魔理沙はゆっくりと立ち上がる。

 どうやら口の中の辛さは取れたようだ。

 

「おう……あの野郎、一発どころか頭を瘤祭りにするくらい殴ってやるぜ。つうかさっきまでの真面目なツラはこの時のための布石かよ」

「油断させるためでしょうね」

 

 声は低いものの、完全に怒り心頭だ。

 そして二人は、鈴仙とてゐを追う為に、飛行した。

 

 ゆっくりと飛行する鈴仙とてゐ。

 それを勢いよく追う、魔理沙とアリス。

 距離を着々と縮める。

 だが、そう簡単にはいかない。

 

「そのまま真っ直ぐ飛行すると、危ないよ」

 

 てゐが魔理沙たちの方を振り向き、忠告する。

 それを聞いた魔理沙たちは考える間もなく、紐らしき物に魔理沙が当たり、その紐が切れる。

 まるで昔のワイヤートラップのようだ。

 

「何だ、今の?」

 

 紐を無意識に切り落とした魔理沙は、辺りを少し警戒する。

 ――ガタンッ

 天井の方から何か音がした。

 魔理沙とアリスが飛行しながら上に顔を向けると、最初に眼に映ったのが天井ではなく、黄色いシャワーだった。

 二人がそのシャワーを綺麗に浴び、口の中に黄色い液体が大量に入った。

 

「「!!」」

 

 二人は目を見開いた。

 口の中からシュワシュワと炭酸のような音を出し、二人は飛行を止め、一気に吐き出す。

 

「何だこりゃぁぁあああ!? 口の中で爆弾が爆発したみたいにズキズキ痛いぜぇえ!!」

「口の中が、痛い……」

 

 魔理沙は大絶叫し、アリスは口を抑えて少し悶えていた。

 これは言わば超強力なショウガや唐辛子を配合した炭酸飲料を、口に入れられたのと同じ。

 炭酸を口に入れると、少し口の中にチクチクとした痛みが襲うが、この黄色いシャワーはその何十倍もの威力がある。それを一気に口の中に入れられれば、叫ぶくらい痛いだろう。

 

「どうだ? 改造したお水の味は。少し刺激が強かったかな」

 

 ゆっくりと飛行しながら、てゐは言う。

 完全に舐めきった態度だ。

 

「くッ、くそぉ~、絶対に許さないぜ! もう口の中が痛みで何も感じないぜ」

「……とっとと追うわよ魔理沙」

 

 二人は再び飛行を始めた。

 充分に辺りを警戒しながら。

 

「あ、そこも危ないよ」

 

 再びてゐが忠告する。

 

「へっ、だったら、恋符『マスター……」

 

 魔理沙が一気に全ての罠を潰そうとした前方めがけた瞬間、ちょうど魔理沙の上の天井が開き、そこからお笑い番組で見るような銀のタライが落ちてきた。

 それが魔理沙の脳天に綺麗にヒットする。

 

「あいッッて~~~!」

(ふ、古いトラップね……)

 

 魔理沙は頭を抑えながら、身悶える。

 

「だから危ないって言ったのに。バカには危ないと言う単語が通じないのか?」

「この野郎ぉ~、いい加減に悪戯は止めろ! 真剣に戦えっての」

「これが私の真剣よ。なに負け惜しみ? 弾幕ごっこだったら勝てると思ってるの? この程度の罠に嵌る魔法使いさんが」

 

 てゐの台詞にカチンときた魔理沙はミニ八卦炉を構え、マスパを撃とうとするが、再び銀のタライ……そして氷水が降って来て阻止された。

 それに魔理沙が直撃すると、脳天の痛みだけでは無く、服はビショビショ、氷水で身体は冷たくなる。

 もう嫌になってくる。

 

「ちきしょう! こうなったら一発でかいのぶつけてやるぜ!」

「それには同意するわ。もう付き合ってられないからね」

 

 そして魔理沙とアリスが怒りのあまりスペルを唱えようとした瞬間、

 眼前に黒い鉄球型の爆弾が現れたのだった。

 

「「……え?」」

 

 ドカンという爆発音と共に爆発が発生した。

 黒煙が舞い起こり、そこからチリチリのパーマな髪型になった黒こげの魔理沙とアリスが突っ立ていた。

 

「あははははは! 超おかしい! 全部引っかかてくれるなんて、仕掛けた甲斐があるわ!」

 

 それを見て大爆笑なてゐ。

 同時に二人の怒りが殺意へと変わった。

 

(こいつ、殺す……!)

 

 再び魔理沙とアリスは二人に向かって飛行した。

 

   *

 

 数分後……

 

 魔理沙とアリスの姿は酷いの一言に尽きた。

 二人は完全にびしょ濡れで、服の所々に矢が刺さっていたり、蛇が噛み付いていたり、焦げ目が付いていたり、黒い墨が付いていたりしている。

 しかも魔理沙に至っては、頭の瘤が尋常じゃ無い。

 昔のアニメのように、オヤジにボコボコにされた時くらいの瘤がある。

 瘤祭りにしてやるとか言っておきながら、自分が瘤祭りになっていたのでは、話にならない。

 てか、もう弾幕勝負にもなっていない。

 

「もう、帰らない魔理沙。流石の私も、もうメンタルがボロボロよ」

 

 アリスが諦めたように言う。

 全くって言っていいほど、鈴仙たちの距離と魔理沙たちの距離が縮まっていない。

 

「……そうだな」

 

 アリスの案に魔理沙は承知する。

 流石の魔理沙も、もう嫌気が差したのだろう。

 それを聞いた鈴仙は安堵したかのように、息を吐いた。

 てゐはしてやった感万歳の顔をしている。

 

「けど、一発アイツの鼻を明かさないと気が済まないぜ。だから、最後に……こいつをぶちかますか」

 

 そう言って魔理沙は一枚のカードを取り出した。

 それに鈴仙とてゐは身構える。

 

「闇夜を引き裂き暗黙を光輝躍起に塗り替えちまえ――さぁ派手に楽しめ天より星々がお前らの煌く姿に嫉妬して落ちてくるんだから! 『ブレイジングスター』!!」

 

 銀のタライが降ってこようと、魔理沙は怯まなかった。

 怒りが頂点に達し過ぎたせいで、もう何も感じなくなっている。

 そして唱えたスペルは、かなりの魔力を消費する、符名の付かないスペル。

 もうここで終わりにしようと思ったから、これを唱えたのだ。

 天から極太レーザーが彗星のように沢山、地に落ちてくる。

 屋敷の天井を貫き、全てを破壊する。

 だが、これでは終わらない。

 

「復刻する恐怖劇からは人々の悲鳴散らばせ悦に酔い痴れる大公――並び座すオペラもまた人に悲劇を沸騰させる狂乱の闇劇、そうして再び恐怖を魅せよ! 『グランギニョル座の怪人』!」

 

 続けて符名の付かないスペルを唱えたアリス。

 アリスを中心に八つの魔方陣が現れ、そこから無数の米粒弾が放射状に放たれる。

 アリスも魔理沙と同様、ここで終わりにしようと思ったから、このスペルを唱えた。

 もう後先考えてはいない。

 二つの符名の付かない最強のスペル。

 しかも、これは鈴仙やてゐを狙ったスペルではなく、単純に八つ当たりに等しい暴力。つまり、この異変の元凶者のいる日本屋敷そのものを、滅茶苦茶に破壊しようとしているのだ。

 

「ちょっ、止めなさい!」

 

 鈴仙が叫ぶが、当然聞く耳なんて一切持ち合わせていない二人。

 自分たちの屋敷が潰されて行っているのを、止めなくてはいけない。

 仕方なく鈴仙も、最後のスペルを唱えた。

 

「里わの火影も、森の色も田中の小路を、たどる人も、蛙のなくねも、かねの音も、さながら霞める朧月夜――朧月の魅惑に影響されし者よ、月の狂気に満ちよ」

 

 それはとある童謡を用いた祝詞。

 さこから放たれるは狂気まみれる世界。

 

「『幻朧月睨』!」

 

 鈴仙も符名の付かないスペルを唱えた。

 

 その瞬間、屋敷の一角が跡形も無く吹っ飛んだのは言うまでもなかったのだった。

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