東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~ 作:ディーン・グローリー
というわけで、今回はお試しの軽い番外編をつけてみました。
「……どうして、こうなったんだ?」
なんだろう、昨日も同じことを呟いたなと思う一護。
あれから異変は解決と言う……いや、和解と言う形で解決した。何故、こんな異変を起こしたのかは別に、深く聞かなかった。それ以上の問題が発生したからだ。
刹蘭について、『混神異変』などの謎に包まれているが、全ての答えがそこにあるような問題。他にも一護の暴走などもあり、そこまで頭が回らなくなり、追求はよしておいた。
しかしまぁ、今の一護にはどうでもいい。
それ以上の、別方向の問題が発生しているのだ。
一護は現在、暗くなった迷いの竹林にいる。
ただし、一人で居るのでは無い。一護の横には、一護の腕にしがみ付いている少女がいる。まるで恋人同士の肝試しをしているように見える一人の少女の正体は――
「ねぇねぇ、いっちー、怖くない?」
吸血鬼の少女、フランだ。
確かに一般人なら、こんな夜暗い竹林は恐怖するだろう。だが生憎と一護は元死神代行だ。幽霊なんかで怖がる訳が無い。
「怖くねぇよ。俺としちゃ、別の方向で怖い」
「別の方向?」
「ああ、何か嫌な予感がする」
怖くない…確かに怖くは無い。
だが、何か裏があるような気がしてならない。
そもそも今、こんな事をしているのには訳がある。
蓬莱山輝夜の肝試しと言う提案だ。
この妙な提案により、一護と少女は夜の暗い竹林を歩いている。しかし、あの輝夜が何も考えず、普通な肝試しなどさせるはずがない。きっと何かあるはずだと、色んな意味で一護の肝が試されている気がした。
「たく、何で俺がこんな目にあってんだよ」
フランに聞こえないように、小さく不満を呟く。
嫌々肝試しをさせられている一護にとっては、とても帰りたい気分だ。
(霊夢は先に神社に帰っちまうし、八雲紫さんもそれに続いて帰った。お陰で残ったのは俺と……)
そう思うと一護は、自分の片腕にしがみ付いているフランを見る。
人懐っこく無邪気な笑みを浮かべていた。まぁフランが楽しそうならいいかと、一護はポジティブに考えてみたのだ。
「あ、そうだ。ねぇいっちー」
「何だフラン?」
「いっちーは私のあだ名……決めてくれた?」
あだ名……
そういえば、異変解決に挑む前にフランと約束したな。
自分のあだ名を決めてくれた代わりに、フランのあだ名を決める。
そんな約束を……
その瞬間、何の前触れもなく一人の女性が一護とフランの前に現れた。
一護とフランはその女性を確認すると、進めていた足を止める。こんな竹林で人と遭遇するとは思ってはいなかったが、直ぐに氷解した。
「誰だ、あんた?」
「お前らがウルキオラとてゐが言っていた、あいつからの差し金だな。よし、ぶっ殺してやるよ」
「はい!?」
*
時は遡り、霊夢が迷いの竹林から抜け出した後――
霊夢は紅魔館を訪れた。
別にレミリアをどうこうしに行った訳では無い。
確かに博麗神社の境内を砕かれた恨みは消えた訳では無いが、今日ここに来たのは、ある人物に会うためだ。
それは、
「たのもー!」
霊夢は紅魔館にお邪魔すると共に、ある一室に向かい、そこに到着すると扉を蹴り開けた。
その一室はまるで図書館を思わせるような蔵書の数々。一生掛かっても読み切ることは不可能と思わせるほどの数だ。
此処は紅魔館の名スポットの一つ、大図書館だ。
霊夢は大図書館の中をズカズカと歩く。
「おーい、パチュリー。居るんでしょー。出てきなさい!」
と、叫びながら大図書館の住人を探す霊夢。
それを聞き取ったのか、一人の少女が現れた。
「読書場では静かにしなさい。そんな常識も知らないの、博麗の巫女は」
現れたのはパチュリーだ。
出てくるなり、霊夢に苦情を言い付ける。
「あんたの苦情には興味ないから、私の用件だけ聞きなさい」
身勝手な事を言う霊夢。
「はぁ~。そんな態度で、私があんたの用件を聞くとでも――」
「サンジェルマン伯爵って知ってるわよね?」
パチュリーが「思っているの?」と続けようとした瞬間……霊夢が遮るように一言ある名前を言った。
それを聞いたパチュリーは絶句した。
霊夢から意外すぎる名前が出たからだ。
「……意外ね。あんたから、そんな人物の名前が出てくるなんて」
言動から見るに、どうやらパチュリーはサンジェルマン伯爵と言う人物を知っているようだ。
「いいわ。気分が変わったわ。で、サンジェルマン伯爵について、何が知りたいのかしら?」
「全部よ」
*
時は戻り、一護とフランは逃走していた。
それを追うように一人の女性が、一護とフランを追いかけている。
白銀髪のロングヘアーに、深紅の瞳。髪には白地に赤の入った大きなリボンが一つと、毛先に小さなリボンを複数つけている。上は白のカッターシャツで、下は赤いもんぺのようなズボンをサスペンダーで吊っており、その各所には護符が貼られている。
そんな妙に怪しい格好をした女に追われているのだ。
「ちきしょー! 何なんだよお前!?」
一護は女から逃げながら、後ろを振り返って叫んだ。
女はまるで狐を追いかける狼のような笑みを浮かべて追いかけている。
「ウルキオラとてゐから聞いてる。輝夜のバカが差し向けてきた刺客だろ? ヘッ、今度は何企んでるんだお前ら」
(ウルキオラの野郎っ、なに余計なことしてやがるんだよアイツ!)
何かとんでもない勘違いをしているようだ。
刺客? ……違う。
肝試しだ。
「いや、これはこれで肝、試しか。いや、そんなことに対して納得してる場合じゃねぇか」
一護は迫ってくる女に向けて、弁解の言葉を吐く。
「おい、あんた、何か勘違いしているようだけど、俺らはただ平和的に肝試しをしているだけだぞ!」
とりあえず軽く弁明してみる。
「あぁ、肝試し? そうやって私を騙まし討ちするつもりだろ。今までの輝夜の刺客もそうだったからな!」
言い終えると同時に、霊力を纏う。
どうやら弁明は無理のようだ。
「不死『火の鳥 -鳳翼天翔-』!」
スペルを唱えた。
すると女性から火の鳥のような物が、逃げている一護とフランに飛来してきた。
「おいマジかよ! 黒符『月霊幻幕』!」
一護も咄嗟にスペルを唱えた。
三日月状の弾幕を展開し、飛来してくる火の鳥目掛けて放つ。
一護の弾幕が火の鳥を徐々に弱くしていき、そして掻き消した。
「ったく、しゃぁねぇな!」
一護は走る足を止め、女と向き合う。
それと同時にフランも足を止める。
本当は無駄な戦いは避け、このまま逃げ切りたかったが、相手がスペルを使ってきたのでは話は別だ。ただの鬼ごっこ的な感じの逃走劇ならOKだったが、スペルを使われては危険すぎる。
背中から撃たれかねない。
「何だ、逃げるのは諦めたのか? 殊勝なことだ」
足を止めた一護を確認した女は、自分も追いかける足を止めた。
「ああ。本当は撒きたかったんだけどな」
「そいつは残念だな。まぁ私から逃げる事の出来る人間なんて、この世に居るどうかすら分からないけどね」
「随分と足には自信があるんだな」
「足だけじゃないよ。こっちにも自信があるからな」
女はそう言って、再び霊力を纏う。
こっちにも自信があると言うのは、どうやら弾幕ごっこの事のようだ。
「仕方ねぇ、フランこいつは俺が一人で戦う」
「え~どうしてぇ~?」
あからさまに不満そうな表情をして聞いてくる。
「どうしてもだ。先に帰っててくれ」
「ん~分かった。じゃあ、先に屋敷に帰ってるね。代わりに、ちゃんと、あだ名教えてね」
「ああ、分かったよ」
少し考えた後、フランは一護の言う通りにした。この時点で、女には一護たちは敵では無いと思って欲しかったが、そうはいかなかった。
一護と女は対峙する。
「いいのか? せっかくの戦力を減らして。それとも、これも作戦のうちか?」
「どうだろうな。それより、そろそろお互い名乗らねぇか? 弾幕ごっこの前の、作法なんだろ」
まだお互い名乗っていないので名前が分からない。
一護は文々。新聞で有名になっていたが、女の態度を見るに、どうやら文々。新聞を読んでいないようだ。
「そうだな、じゃあ名乗っておこうか」
女が一歩前に出て、二つ名と共に名乗る。
「私は蓬莱の人の形 藤原妹紅だ」
「俺は博麗の死神 黒崎一護だ」
一護も女――藤原妹紅が名乗ると続け様に名乗った。
そして両者が名乗り終えると同時に、弾幕勝負が始まった。
「それじゃあ手始めだ。滅罪『正直者の死』!」
先手で妹紅からスペルを唱える。
妹紅の背中から炎の双翼が生え、そこから無数の蛇が出てきた。いや無数の蛇ではなく、蛇のように形作った弾幕だ。
「黒符『月霊幻幕』!」
相手のスペルを確認した一護は、直ぐにスペルを唱える。
無数の三日月状の弾幕を展開し、妹紅の弾幕に対抗した。
「まだ行くぜ。不滅『フェニックスの尾』!」
先のスペルを解除し、新たなスペルを唱える妹紅。
無数の火の玉が、一護に襲い掛かる。だが一護も三日月状の弾幕を新たに展開し、火の玉に対抗する。無数の火の玉を、三日月状の弾幕が押している状況だ。
「……この程度、と言ったところか」
妹紅は何かを一瞬にして測った。
自分のスペルが押されていようが、どうでも良いように、妹紅はそれを測り終えると、スペルを解除した。
元々押されていたせいで、一護の三日月状の弾幕が一斉に妹紅に殺到する。
「ッ!?」
急に妹紅がスペルを解いたのに、一護は驚いた。
驚いた時には、妹紅に弾幕が被弾していた。
だが全く効いていないのか、妹紅は無傷だ。
「止めだ止めだ。霊力を持った人間でも、お前程度じゃあこの私に勝てるわけ訳ないだろうが」
「なに……?」
「何となく、お前の力を計測していたんだが、どうにも駄目だ。どれだけ見極めてみても、程度がしれている。正直、圧倒的な差で私の勝ちだ」
どうやら、相手は長生きしているらしく、敵の力量差を測るのに長けているらしい。
実際、一護は〝人間時の状態〟で多少の本気は出していた。それを憶測も踏まえて、何倍も読んでいたが、自分には到底及ばないと踏んだのだろう。
確かに、この状態で戦えば、彼女の言うとおり一護の完敗で終わる。
「分かるか? 戦うだけ無駄なんだよ。仕方ないから見逃してやるよ。とっとと帰りな。雑魚をどれだけ潰しても意味はないし、変に労力を使うだけだからな。損した気にしかならないよ全く」
それを聞いた一護は、少し微笑んだ。
戦闘中に出すような笑みでは無い。
「何笑ってるんだ?」
普段から眉間に皺を寄せた人間の微笑んだ姿は、なかなか分かりやすい。
「あんた、優しいな」
一護は一言、そう言った。純粋に、心の底からそう思ったからだ。
妹紅は予想外のセリフを吐かれて、少し困惑する。
「な、私が優しいだと!? お、お前、いきなり意味の分からん言葉を使うな! まさか、私の心を惑わす作戦か!?」
「いや、率直に思ったんだよ。特に他意はねぇ。だから、あんたと戦う理由はないし、お言葉に甘えて帰らせてもらうぜ」
「な……お、おい! やっぱり今のは無しだ。最後まで付き合え!」
「……はい?」
急な妹紅のセリフ変わりに、一護はまごつく。
さっきまでは一護を殺すとか言い、やっぱり見逃すと言い、次はやっぱり戦えだ。うむ、混乱と言うより意味不明だ。
「だから、やっぱり最後まで戦えって言ってんだよ! 自分から言った事を曲げて悪いとは思ってるけどよ。お前は今までの刺客と違って、力は読めても、お前自身のことが全く読めない。むしゃくしゃするだけだ。だから付き合え!」
悪びれたように言う妹紅。
やっぱりこの子は優しいと思う。
一護はなるべく妹紅とは戦いたくない。
だから今から逃走しようかと思ったが、致し方なく最後まで付き合うことにした。
「しゃあねぇな。俺は戦いたくねぇんだけど」
異変を解決? した後に、あまり弾幕勝負はする気が起こらない。
入試テストが終わった直後に、また勉強をするのは嫌だろう。それと同じだ。
「心配すんな。一撃で終わらせてやるからよ」
妹紅が再度、霊力を纏う。
そんな考えを持つんなら、別に弾幕勝負を続けなくても良いのでは? と思う一護だが、あえて口には出さない。
「……乗り気じゃねぇが、仕方ねぇか」
戦闘力には圧倒的な差があるが、一護はどこか余裕だ。
なぜなら切り札があるからだ。
一護は気だるそうに、代行証を取り出す。
瞬間、黒い霊圧が一護の身体を包んでいく。
徐々に黒い霊圧が形を成していき、死神の着る死覇装になる。
「――何だ……! その姿は!?」
突然、黒い着物姿に変わった一護を見て驚く妹紅。
だが妹紅は黒い着物に驚いたのではなく、霊力が一気に上昇した事に驚いたのだ。
「……まさか」
妹紅は冷や汗を流しながら呟くように言う。
「どんどん霊力が上昇している。おいおい冗談だろ……ほぼ私と互角じゃないか……!?」
急激な霊力の圧力に、妹紅は威圧される。
「ほら、行くぜ藤原妹紅。俺もラストスペルで行く」
お互い最後のスペルを唱えるようだ。
「面白い……」
妹紅は一護の霊力の上昇を確認して、闘志を燃やした。
「不死鳥の名を持つ鳥、ベンヌ,フェニキアクス,フェネクス,朱雀,鳳凰 今一つに成りて 我の前に立つ不道なる人間を断獄せよ! 『フェニックス再誕』!
」
妹紅が符名の付かないスペルを唱えた。
一護は不道という単語の意味を理解しているが、なぜ自分が不道なる人間か理解できなかった。まぁそのへんは、祝詞の問題だろう。
火の鳥が妹紅の周りに何体も現れると、全ての火の鳥が融合した。
融合した姿は、普通の火の鳥の大きさと何ら変わらない。大きさは人間10人分程度。なぜ大きくならないのかは、理由は簡単だ。融合した力を広げるのではなく、凝縮したからだ。よって、一撃の力は本来より桁違いだ。
一護も続けてスペルを唱える。
「黒斬『月牙天衝』!」
一護の右腕の霊圧に凄まじい霊圧が溜まる。
「不躾ながら一つ聞く、黒崎一護」
「何だ?」
「何故、私を優しい人間と思った?」
それを言われた一護は少し黙った末、答えた。
「俺がお前の事を優しい人間だと思ったからだ。別にそんな深い理由はねぇ……よ!」
答えると同時に、一護は月牙天衝を放った。
答えを聞いた妹紅は一瞬目を見開き、少し微笑んだ。
そして妹紅は……
「そうかよ!」
妹紅も迫り来る月牙に向かって炎の鳥を放つ。
両者が激突すると凄まじい轟音と、大地を轟かす程の揺れが起きた。
(そうだ……フランのあだ名……)
月牙と炎の鳥が激突した瞬間、一護はフランのあだ名が思い浮かんだ。
緊迫した状況なのに、一護はゆっくりとフランのあだ名を口に出す。
「フランのあだ名は――」
あだ名を言おうとした瞬間、月牙と炎の鳥が大爆発を起こした。
その衝撃はウルキオラの黒虚閃と一護の月牙天衝と同等か、それ以上だった。
言うまでもなく、衝撃により、両者は吹っ飛んでしまった。
そして言うまでもなく、衝撃によりフランのあだ名を一護は、忘却の彼方まで飛ばしてしまったのだった。
こうして一護の一夜が幕を閉じたのだった。
【番外編『一護の女難の相』】
「ふむ、君は本当に面白いわね黒崎一護君」
とある朝、一護は急に八雲紫の屋敷に呼ばれたので、スキマを使い軽々と部屋まで移動した。
そして座敷に通されると、早速、意味理解できない発言をされたのだ。
「何ですか紫さん。いきなり呼びつけて」
「何やら一護君から禍いの相を感じたので、ちょっとここまで足を運んでもらったんだけど、案の定、正解だったようね」
「禍の相? えっと、つまりそれは、どういう禍なんですか?」
「一言で言うと――女難の相ね」
「じょ、女難?」
「ええ、文字通り女性に対して、災いばかり起きることよ。しかも、この度垣間見えたのは、かなりのものね。主にラッキースケベ的な」
「ラ、ラッキースケベ? つうか、俺はそれを聞いて、どうすればいいんですか?」
「行動を控えることね。まぁ今日だけだと思うし。ちなみにちょっと動いたら、女難的な展開が待っているわよ。一護くんてきにも、そんなことになるのは嫌でしょ? あら、けど青少年からしたら、もしかしたら天国のような日にちかもね」
「よく分からないが、つまり余計な行動は控えろってことですね」
「いいえ、文字通り……動かない、ということよ」
「…………」
えっと、つまり今日一日、何もするな=微動だにするなと言うことだろうか? 悪いが一護も、そこまで暇ではない。
「はぁ~、紫さん。忠告はとてもありがたいけど、考えすぎだぜそれは」
「あら、信じてくれないの?」
「信じないってわけじゃないけど。流石にそれは言い過ぎだと思うだよ」
「ならいいわ。実際に、体験してみたほうが、こちらとしても面白そうだし」
「……そんじゃあ俺は帰るぜ」
「ええ」
何やら最後の方に、紫がとんでもないことを言ったような気がしたが、気にせず一護はスキマを通り、博麗神社まで帰ったのだった。
博麗神社に帰った一護は、まず自分の部屋に戻った。
朝、寝起きを狙ったようなタイミングで現れたため、布団の片付けなどが済んでいないのだ。
「さて、とりあえず一通り済ませて、まずは風呂場の自分の昨日の着替えだけでも自分で処理するか」
片付けを済ませている時に、まぁ正直道でも良かった紫の話など、頭の片隅へと追いやっていた。
とりあえず風呂場に行って、洗濯カゴにあるものを回収しに向かう。その最中、霊夢が見当たらないところを見るに、朝食の支度でもしているのだろうと、勝手に憶測を立てた。
ガララと、一護は更衣室前に着くと、無造作に戸を開けたのだ。同時になぜか、更衣室の向こうにある風呂場の戸まで、同じガララと言う音を立てて開いた。
「「――!!」」
そこには、いつもののリボンを解いたロングヘアーの黒髪に、全身つるっぺた(つまり素っ裸)の博麗神社の主――博麗霊夢がいた。
流れる沈黙に、見つめ合う瞳。
霊夢は言葉を失っているのか、右手で胸を隠し、左手でおへその下を隠した。
「こ、この……ヘン、ヘンタイ……!」
ブワワッと、凄まじい霊力を込める霊夢を見て、一護は咄嗟に焦りきった頭と行動でアクションを起こしてしまった。
「ち、違う! 誤解だ霊夢! 俺はただ洗濯ものを!!」
直ぐそこにあった適当な洗濯カゴに手を突っ込み、両手で握って取り出したそれは……
「あ、あ……」
まさしく絶句した。
そこには下着がひらりと、がっちりと握られていたのだ。どこで買ったのだろう、可愛らしい花柄のパンティーだった。
ああ、そうかと、ここで一護は理解した。自分は間違えて、霊夢の着替えていたカゴに手を突っ込んでいたのだと。
「~~~~~~この、一度、死んでこい!!」
瞬間、怒りに満ちた凄まじい霊力が放たれて、一護は文字通り吹っ飛んだのだった。
*
「たく、酷い目にあった」
まさかベターな女難の展開があるなんて思いもしなかったのだ。
それについでと言わんばかりに、一護は罰として朝飯抜きの、人里への買い出しだった。とりあえず一護は朝早くから、人里へと赴いた。
「ついでに、適当にうろつくか」
久しぶりに学び舎にでも顔を出すかと思った一護は、そちらの方に歩みを進めた。
「……なにしてるんだ、お前ら」
そして目に映ったのは、学び舎の廊下にいる男子諸君だった。
学び舎は簡素な作りになっている。玄関を入れば、少し長い廊下。そして奥に一つの教室があるだけである。その廊下に、なぜか体操服姿の男子が全員いた。
一護が来るやいなや、男子全員は、まるで声を抑えるようにして一護の名前を呼んだ。
「いちご先生、お久しぶりです」「おひさー」「おはような」「おっす、いちご先生」などなど。
一護は何度か学び舎に顔を出したが、それだけで人気者となってしまったのだ。今では先生などとも呼ばれている。
「何だよ、お前ら。何で体操服なんて着て? そもそも幻想郷に体操服ってなかったよな?」
「うん、慧音先生が作ってくれたんだ。あ、そういえば慧音先生が会いたがってたよ~」
「そうそう。あ、中にいるから挨拶していったらどう?」
「そうだな」
と、一護は教室の扉を平然と、考えもなしに開け放ってしまった。
なぜ考えなかったのか? 男子全員が、しかも体操服姿で廊下にいるということを。そんな簡単な答えを導き出せるというのに。
「…………」
今日、二度目の絶句。
そこには小さな女の子達が、体操服に着替えている。そして、その小さな蕾たちの中に、咲き誇った一輪の花……上白沢慧音が下着姿でジャージのようなものに手をかけていた。
豊満な胸に、綺麗にくびれた腰、そして程よく鍛えられたお腹、見えている全てを一護は完全に見てしまった。
「な、なぜ、一護君、君が、ここに……?」
流石の慧音も呆然。
他の女の子たちも唖然。
あれ、これヤバいよな? 社会的に死ぬのでは? と焦る反面、一護は慧音の姿に赤面。そして何とか弁解の言葉を並べる。
「あ、あの、これは誤解で、その、まさか着替えてるなんて思わず……」
そんな一護の言葉を聞き、慧音は冷静に――
「と、とりあえず扉を閉めて、今は出てくれないか? 今、女の子たちと、わたしは着替え中なので、な……」
「え、あ、はい。ありがとうございました!」
「何のお礼だ!?」
バンと、一護は教室の戸を閉めた。
とたん爆発したかのように、女生徒たちの悲鳴が木霊したのは言うまでもなかった。
そしてこれが、男子生徒諸君の策略とは、簡単に思い知ったのだった。
「これで二度目か……」
とりあえず一護はみんなに謝罪し、学び舎を後にした。
女難の相……確かにあながち間違いではないのかもしれない。つか洒落にならない。
早く買い物をして、家でゆっくりしようと思った一護は素早く買い物を済ませていくも……
「悪ぃな旦那。こいつはもう品切れなんだよ。使っている素材が、魔法の森から取れるもので、なかなか出回ってこないんだ」
調味料を購入する時の、行きつけに行ったのだが、どうやら在庫切れだったらしい。
ここは仕方がないので、帰ろうかと思ったが今回は朝にやらかしているため、下手に買って帰らなかったら何を言われるか、分かったものではない。
「しょうがねぇ。悪い親父さん。その素材、今から魔法の森に取りに行くから、この調味料、作ってくれねえか?」
「ああ、そいつは構わねえが、大丈夫か? あそこは危険だぜ」
「心配すんなよ。こう見えても、色んな異変を解決してきてるからな」
そう言って、一護は店主から素材の形などを聞き、早速魔法の森に向かったのだった。
魔法の森……禍々しい妖気で溢れており、人間はおろか妖怪ですら近づかない場所。確かに普通の人間が迷い込めば、たまったものではない。
一護はそんな謎の森を一人散策する。
「えっと、こんな形のキノコか。そういったことなら、魔理沙の方が詳しそうだな」
店主が描いてくれたキノコの絵と、特徴を見ながら、道に生えているキノコを探していくも、なかなか見つからない。
「これじゃあ、本当に日が暮れそうだな。魔理沙の家に行くのがてっとり――うぉっ!」
何かのツタに足が引っかかり、そのまま転んでしまった。
しかもベストな場所に謎のキノコが生えていたらしく、倒れる際に齧り、少し飲み込んでしまった。
「くっ、何か食っち、まった……」
瞬間、変なものを食ってしまったせいか、いきなり体に異変を感じた。
なぜだろう、視界がどんどん下、いや、周りが大きくなったように、身体が、縮んでいった。
「…………え?」
空気の振動を、常に髭先で感じ、暗い闇の中もはっきりと視える。
何だ、一体どうなったんだろう……一護は己の足を舐めた。
「??」
なぜ、自分はそんなことをしたのだろうか?
一護は己の毛むくじゃらの手を見た。次いで、己の後足とよく動く可愛らしいオレンジ色の尻尾を見た。
「……な、なんだと!?」
そう、一護はオレンジ色の猫になっていたのだ。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいと、一護は心の中で焦り散らす。このままだと神社にも帰れない。下手をすれば、妖怪に喰われる危険性まである。
「おや、こんなところに子猫」
すると、聞き覚えのある声が、森の中から現れた。
それは魔法の森に住む魔法使いのアリス・マーガトロイドだ。
「お、迷い猫か。こんなところまで来るなんて珍しいな」
そして、その後ろから霧雨魔理沙まで現れた。
「小さいわね。たぶん、まだ生まれたばかりの子猫よ」
「子猫が、こんなところに迷い込んで息絶えてないなんてな。すげー生命力だぜ」
「確かに」
一護はとりあえず意思疎通が出来るか試みるために、小さな口を開く。
「みゃ、みゃ、みゃー」
ダメだった、人間語が全く話せなかった。
「だいぶ興奮しているわね」
「まぁ、こんあ物騒なところに一匹だもんな。とりあえず連れて帰るか。流石に見捨てるのは目覚めが悪いぜ」
「そうね、野良猫だし。ちゃんと体を洗ってあげなきゃね」
「みゃ、みゃ、みゃーー」
そのまま力なく、一護(子猫)はアリスの家に連れて行かれたのだった。
そして着いた途端、いきなり風呂場まで運ばれた。そして、予想通りの展開が起きる。
アリスと魔理沙が脱ぎだしたのだ。一護(子猫)は透かさず目をそらし、隙を見て逃げ出そうとするも、軽く捕まった。
「だいぶ怯えてるわね。水が怖いのかしら?」
(違う! まずい、マジでまずいんだよ、この状況!)
すっぽんぽんとなった二人に抱えられ、一護(子猫)は風呂の中へ。
こうしてよく見てみると、魔理沙の体はまだ青い果実を思わせる。同時にアリスは熟したような、豊満なボディだった。
(って、俺はなに見てるんだよ!?)
アリスが優しく、適温な水を被せる。
濡れるのは、確かに嫌だった。何か、体が重くなり、へばりつくような気持ち悪さがあったから。
ああ、猫が水を嫌う気持ちが分かったぞ、と一護は学んだ。
「きもちいーか」
と、魔理沙が首筋を撫でる。
それだけで、一護(子猫)のドキドキは絶頂へいきそうになった。
「あ、尻尾がめろめろになってる可愛いわね」
アリスが優しく、尻尾から背までなぞるように撫でる。
(~~~~やばい。マジで、ヤバイ!!)
「このあたりも、よく洗わねぇとな」
と、一護(子猫)の肉球をプニプニ触る魔理沙。
「そうね。とりあえず、ちゃんと洗って、後は……」
(ま、まておい……おっ)
いきなり天井が近くなった一護。尻が風呂の床に触れた。
「……こ、これは?」
一護は自分の手を見た。
それは人間の手。そして風呂場にある鏡を見ると、そこにはちゃんと一護の姿があった。
「も、戻った……。やった、戻ったぜ!」
喜んだ一護も束の間、ようやく自分が置かれている状況が理解できた。
自分を見つめる魔理沙とアリスは、しばらく硬直としており、一瞬で愕然の表情に変貌する。
「うあああーーーーーー!!」
「きゃああーーーーーー!!」
一護は二人の悲鳴を聞きながら思った。
「これも、女難……か」
そして一護はそのまま風呂場から叩き出されたのだった。
*
「くそ、酷い目にあった」
一護はあの後、逃げるようにアリスの家から出ると、魔法の森を彷徨っていた。余談だが、猫にはなっていた服も一緒に同化していた為、よくあるスッポンポン状態ではなかった。
「何で調味料の素を手に入れるだけなのに、こんな苦労してんだ俺?」
おかしいだろ? ちょっとした異変を解決した時くらいの疲れがあるぞと、呟く。
「とりあえず調味料は諦めるか。これ以上ここにいると、また面倒なことが起きそうだ」
さぁ帰ろうと思った直後に、あることを思い出した。
「そうだ、確か目当ての調味料、幽々子さんの家にあったな」
西行寺家に行った時、確かに見た記憶がある。
ここは少しでも希望を込めて、一護は決心した。
「しゃあねぇ、少し貰いに行くか」
油断大敵、傲慢不敵、直ぐ行って頂戴するだけだから、女難も大丈夫だと一護は考え、白玉楼に向かったのだった。
――数十分後、一護は西行寺家へと到着した。
相変わらず庭は隅々まで手入れが行き届いており、神社の掃除をする一護からすれば感嘆ものだ。
ここは庭師である魂魄妖夢を褒めるべきであろう。うちの神社にも是非いらしてほしい逸材だ。
「と、感心してる場合じゃなかったな。早く目的の物を貰わねぇと、霊夢になんて言われるか」
朝にとんでもないことをやらかしているから、これ以上買い出しを遅れさせれば激憤は免れない。
一護は「おじゃましま~す、妖夢、いるか?」と、玄関を開けて言い放った。
ここは家主である幽々子に一声かけるのが礼儀なのだろうが、正直なところ彼女にそこまで気を使う必要はないだろう。
そも台所の管理をしているのは確実に妖夢なので、彼女に言っておけば万事OKだ。
そして、とことこと歩いてくる一人の女性が、やって来た。
「あら~、一護ちゃんじゃない、どうしたの?」
のんびりとした調子で、家主である幽々子が現れた。
「あ、幽々子さん、こんにちわ。悪い、妖夢はいますか?」
「あらあら、妖夢に御用なの? 私には御用はないの~?」
「えっと、はい、そうですね」
正味な話、幽々子に調味料の場所を聞いても分からないだろう。まず幽々子が台所に立つ姿を、一護は想像できない。
「そう、そういうわけね。遂に来るべき日が、来たというね」
何か含みがある笑みを零しながら、幽々子は上がってと招く。
一護は何か、不吉な予感を蟠せながら、上がったのだった。
「妖夢~、一護ちゃんが会いに来たわよ~」
と、居間に連れて行かれると、妖夢は居間の掃除に勤しんでいた。
「あら、黒崎さん。お久しぶりです」
「ああ。久しぶり」
この常識外れの幻想郷で、しかも性格がおかしい者が沢山いる中、妖夢はまともな人だと一護が太鼓判を押す人物である。
「うふふ~、妖夢、ようやくこの日が来たわね。私は待っていたのよ」
ふらふら~と、幽々子が妖夢の背後に回り、両肩に手を添える。
「え、えっと、待っていたというのは何のことでしょうか?」
妖夢は訳も分からず、じゃっかん困惑する。
すると幽々子がとんでもないことを言い放った。
「二人の結婚についてでしょ?」
瞬間、場が凍った。
何を、一体どのように頭の歯車を回せばそうなるのか、逆に聞いてみたい。
妖夢は分かりやすく顔を真っ赤にさせると、
「なっ! 何をおっしゃっているのですか幽々子様!? け、けけけ結婚などと、そ、そのようなことは一切――」
冷静沈着、普段はクールな妖夢が凄まじく動揺している。
それは一護も同じで、
「たく、何言ってんだよあんたは? 俺はそういう話をしに……」
「あはは、何か図星を突かれた感じだよお二人さん」
と、嫌な笑みを浮かべる幽々子。
「それに妖夢はね~、それっ!」
と、幽々子は背後から妖夢の小さく膨らんでいる胸を、豪快に鷲掴みにした。
「ひぅぅぅぅぅぅっ!?」
「ぶううッ!?」
妖夢の声にならない悲鳴と、一護は驚愕の声を上げる。
「ほらほら、この幼さの残っている可愛らしい妖夢のおっぱい。小さいながらも柔らかさはしっかり兼ね備え、尚且つまだまだ成長するであろうこの、おっぱい! しかもクールなキャラと相まって、何というかこの背徳感にも似た気持ちが、どこか興奮を覚えさせる。たまらないでしょ~?」
「な、ななな何をするんですか幽々子様!? は、離して、キャゥッ!」
「ええやんけ~、ええやないの~、減るものじゃないでしょ~」
「そ、そういう問題ではなく、て……!」
もみもみと、幽々子が優しく、そして胸の膨らみを服の上からでも分かるように素晴らしいテクニックで揉んでいる。
「ほらほら~、いいのよ~気持ちのいい声を出しても~」
「あっ、くっ……ひぅっ、そ、そんな風に触らないで、ください……」
「あらあら、そんな艶かしい声を出しちゃって~……一護ちゃんも触ってみる?」
「さ、ささささ触りません! つかいい加減離してやれよ!」
一護は赤面させ、なるべく見ないようにする。
しかし、どうしても妖夢の艶やかな声が聞こえてくるので、いたたまれない。
「んっ、あっ、ああぁぁ……あくぅ、だ、ダメです……これ以上は……!」
「ここ? ここかな? ここがいいのかな~?」
さながら喘ぎ声。
これ以上ここにいると一護の頭が破裂、というよりも理性が吹っ飛びそうになったので、その場から逃げるように去った。
「し、失礼しましたー!!」
こうして一護はまた、女難が働き調味料を手に入れることができなかった。
*
「くそ、酷い目にあった」
竹林の上空を歩きながら、一護は俯きながら呟く。
ただ調味料が欲しいだけなのに、なぜこのような目に合うのか。まさに紫の言った通りになっている。
「……あ、そういえば竹林ってことは、永遠亭があるよな。行ってみっか」
満月の異変の後、少しだけ交流がある。
永遠亭には永琳、輝夜、鈴仙、てゐ、ウルキオラがいる。人里の病人なんかを診たりしている、健全な診療所である。
「あそこになら、あるかな」
自身に女難の相が働いているのに、特に気にせずその場所へと足を運んだのだった。
永遠亭に付くと、てゐが出迎えてくれた。
「おや、君は確か一護だね。またどうしてここに?」
「てゐか。悪い、少し調味料を分けてほしくてな。これなんだけど、あるか?」
一護はメモ用紙を見せる。
「……ふふん、ええ、あるわよ。しょうがないわね、博麗の死神さんのお願いなら、無償で上げていいわよ」
「お、ホントか?」
「この私に二言はないわ。ささ、入った入った」
と、てゐに招待され永遠亭の中へと入った。
長い廊下を歩き、てゐが声をかけてくる。
「その調味料なんだけど、私が無許可で渡したら永琳に文句言われるので、ここで少し待っててほしい」
「あ、じゃあ俺からお願いするよ」
「いいよいいよ。一護はこの部屋で少し待ってて。あー、心配しなくても直ぐに持ってくるから」
「そうか。ならそのお言葉に甘えるぜ」
「は~い」
てゐが廊下の奥へと消えていった。
そして一護は何の躊躇いもなく、指定された部屋の襖を開ける。同時に気づいた、てゐが悪戯好きだったということを。
「…………」
「…………」
一護の目にまず入ったのは、見慣れぬ肌色だった。
相手はウルキオラならまだ良かっただろう。しかしそうではなく鈴仙だったのだ。
彼女はちょうど着替え中だったのかスカートに手をかけている。ここで重要なのは、まだ穿いていないということだ。
そして上半身もシャツのボタンは留められておらず、全開であり下着が丸見えという事実。
あら、薄ピンクの可愛らしい下着、などとトチ狂った一護の脳はまずそんなことを思ってしまった。
社会的に死ぬと確信した一護の顔が青くなり始めると、鈴仙の顔も徐々に赤くなり始める。
「――ふぇ、あ、ああ、ああああ」
「きゃああああああああっ!」
「何で一護さんが叫んでいるんですかーっ!?」
涙目で悲鳴を上げそうになった鈴仙だが、先に一護が目に手を当て叫んだ。
そして一護は直ぐに回れ右をし、
「悪い! 本当にごめんなさい!」
「出て行って、早く出て行ってくださいーっ!」
一護は襖を閉め、頭を抱えていた。
(くそっ、やっちまった! てゐに案内された時点で、いや女難の相の時点で気づくべきだった。下手な行動をしちゃいけなかったんだ!)
そしてガラガラと、襖が開き、着替えを終えた鈴仙が出てきた。
「あの、一護さん、どうしてここに――」
「本当にすいませんでした!」
何よりまず一護は鈴仙に頭を下げた。
「そのことはもう忘れてください! い、いいですか一護さん、あなたは何も見ていない、忘れた、そうしてください!」
「は、はい。分かりました」
鈴仙が頬を赤くしながら、一護の鼻頭に人差し指をやり強く言った。
「それで、一護さんはどうしてここにいるのですか?」
「あ、えっと、てゐに調味料をだな。このメモに書かれているものなんだけど」
「え、それはうちにはありませんよ」
「え……。ん」
そこで廊下の影から、てゐの笑い声が聞こえてきた。
「あははははは! 本当に入ったよ! 綺麗に引っかかったよ! あははははは!」
てゐが一護を指さしながら声高らかに笑っていた。
「てめぇ、てゐ。こうなると分かっていやがったな」
「えー、どうかな~? 私には分っからないな~」
「てめぇ……ああ、もういい。これ以上言ったところで意味ねえよな」
一護は怒りを抑えて、目的のものを聞く。
「で、調味料は?」
「え、そんなものないよ」
「は?」
「私がこの家の調味料のことなんて知るわけないでしょ? まさか本当にあると思ったの?」
「コラてゐ! あなたの仕業だったのね! いくら言っても聞かないんだから!」
鈴仙がてゐを りつける。
ああ、今回も無駄足だったか、と一護は途方に暮れるのを覚悟したのだった。
*
「駄目だ。もう疲れた」
一護は空の上を歩きながら、疲れ果てていた。
「もう、こうなったら調味料は諦めるか。また別の場所に行っても、何かあるだろうし……」
霊夢には怒られるだろうが、これも仕方のないこと。
世の中、諦めも肝心だ。
そう思った刹那である。
「あら、黒崎さんではないですか?」
そこで一護は、買い物帰りなのか買い物篭を持った十六夜咲夜と出会った。
「咲夜さん。買い物の帰りですか?」
「左様です。そういう黒崎さんはどこかに行く途中ですか?」
「はい。と言うよりも帰るところかな。とある調味料がなくて、諦めたところなんだ」
「調味料でございますか?」
そこで一護は軽く、例の調味料の事を言う。
すると……
「それでしたら紅魔館にありますので、よろしければお分け致しますよ」
咲夜が優しく、そう言ってくれた。
「…………」
一護としては有難いことこの上ないのだが、現状、素直に喜んでいられない。
この女難と言う力は、どうにも容赦なく襲って来るので、何が起こるか予測できない。しかも紅魔館は全員、女。これ以上なく打って付けの場所である。
だが、相手の好意を無碍に断るわけにもいかず、
「ああ、それじゃあお言葉に甘える。助かるよ咲夜」
そんな訳で一護は、咲夜と一緒に紅魔館に向かったのだった。
紅魔館に到着すると、相変わらず門番である美鈴は起きているのか寝ているのか分からない状態である。
咲夜は溜息をつくも、特に何をするでもなく館の中に案内された。
「さて、では早速お渡ししたいのですが、少々汗臭いですよ黒崎さん。まずはシャワーをお貸ししますので、一度汗を流されてはいかがですか?」
「え、いえいえ、そんなことは……」
「入られては、いかがですか? そのような体臭を、館中に撒き散らされては迷惑ですので」
「……はい」
浴場というくらいだ。女難が働いている故に、誰かいるのは必然だろうと一護は頭を抱える。
そんな訳で、嫌な予感がプンプンする浴場へとご案内された。
そして――場面変わって、一護は館の大浴場に入ったのだ。
「あら一護じゃない? どうしたの、うちの浴場に入ってくるなんて」
「いっちーだ!」
湯煙の先、そこには大きな湯船に浸かる二人の吸血鬼。
レミリアとフランがいたのだった。
「……何だ、良かった」
一護はここで少し安心する。
「いや、ちょっとな。外で咲夜と会って、調味料を分けてもらいに来たんだ。まぁ汗臭かったらしく、良かったらシャワーでも浴びろって言われたんだよ。だから好意に甘えたってわけだ」
軽く説明し、熱いシャワーを浴びる。
「へぇー、そういうことだったのね。いきなり一護が入ってきたからビックリしたわよ」
「わーい! いっちー、お背中ながしてあげるー」
「いや、いいよ。俺も浴びたら、ちょっと浸かって疲れを落としたいから」
「えぇー」
「また今度な」
そしてシャワーを浴びながら思う。
(良かった。これなら安心だ。二人はいわば、まだ子供。年齢はあれだけど、見た目は子供だから、そういう危険を感じない。もしこれがパチュリーや美鈴さん、小悪魔だったら、結構危なかったかもな。だから、うん、これでいい。これでいいんだ。決して期待してた訳じゃねぇけど、これで正解なんだ)
浴び終え、一護は湯船に浸かる。
その時だった。
「あ、あれ、もしかして一護」
「て、え、え、パ、パチュリー!」
そこにはパチュリーが、大浴場に入ってきたのだ。
「そうよ。それにしても、何で館のお風呂に?」
「ああ、何か調味料を頂きに来たらしいわよ。お風呂はそのついでだって」
と、レミリアが代弁する。
「うわぁ~、パチェはやっぱりツルツルほやほやプルンプルンだね~」
フランがパチュリーのナイスバディを見ながら言い、一護は今日一日の色んな臨界を突破したらしく……
「プ、プルン、プル、プル……ブ、ブハァアッ!」
ドバッと、さながら昔のアニメみたいに鼻血を噴出させ、湯船に撃沈した。
「うわ、なに、お風呂が血の海みたいなんだけど?」
一護の血が流出し、お風呂のお湯がまさに血のようにおどろおどろしくなった。
「あらあら、折角の貴重な血液がもったいない。まぁいいわ、血風呂も悪くないわね」
「うわ~、いっちーおもしろーい」
「流石に私は入る気がしないわ。また後で、改めて入るわね」
と出て行くパチュリー。
「や、ちょっと頼むから、救出を、頼む……」
「ふぅー、いいお湯ねフラン」
「はい、いっちーの血がきっとお湯をパワーアップしたんだよ」
一護の死にかけの助けも虚しくちった。
「くっ、こ、これが女難の相……恐るべしあぶぶぶぶぶ……」
そして血の海に沈んでいったのだった。
*
「あ~あ、だから私は動くなと言ったのに。ちゃんと言うことを聞かないから」
一護の本日の行動を、スキマより見ていた紫はどこか楽しそうに言った。
「まぁこれはこれで面白かったし、次はグリムジョー辺りに女難の相が来ないかな~」
何て言いながら、紫は今日一日のことを文あたりに話すのだった。