東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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第六章〈東方神信譚篇〉
第38斬【日常の中の非日常】


《1》

 

 ――太陽の光すら届かない、深く暗い森の中。

 唯一、森林の無数の葉を掻い潜るように抜けている太陽の光のみが、辺りを照らしている。しかしそれすら届かぬところは、夜でもないのに漆黒の世界が彩られているのみである。

 そのようなところを、一人の男が暗闇など意に介さず歩いていた。

 男は黒い着物を着ており、よって周囲の環境と相まって更に黒と言う色が強調されてしまう。もはや黒い影のように見えてしまうその男は、暗い森の中を行ったり来たりしては、キョロキョロと辺りを見回していた。

 

「こらあかんは」

 

 見るから分かるように男は、現在進行形で迷子になっていた。

 実を言うと男は、ある人から自分の着ていた黒い着物を返しにもらいに行き、その帰りについでばりの用事があった妖怪の山にある神社に足を運んだ。現在はその帰りである。

 だが運悪く、その妖怪の山を下っている時に「あら、ここさっきも通った気がするわ」と心底ガッガリしたように呟き、山の中を縦横無尽に歩き回っている。飛べばいいじゃんって思う人も居るかもしれないが、そうは出来ない。

 ここは妖怪の山……下手に飛行すれば、妖怪に見つかりかねない。妖怪の山にある神社は運良く妖怪に見つからずに、行くことが出来たが、帰りまではそう運良くいけるとは限らない。

 

「どないしょっかな? やっぱここは、妖怪さんたちを撃退しながらも飛んで帰るのが懸命なんかなぁ」

 

 男が立ち止まり、一旦頭をフル回転に活用する事にした。動き回ったところで活路を開く事は不可能だと悟ったのだ。

 ここはゆっくり考えて……

 ――そんな時だった。

 

 パシャリッ!

 

 不意に閃光が走ったかと思うと、シャッターを切る音が男に耳に入った。

 

「あやや、妖怪と思えば貴方、人間じゃないですか?」

 

 男の前方から、一人の少女が空から舞い降りてきた。背中には鴉のような双翼が生えている。片手にはカメラを持っており、赤い山伏風の帽子がポンと乗ってある。

 そう、この少女は一年前に一護の偽りの情報を幻想郷中に晒した張本人――射命丸文だ。

 

「そない言う君は妖怪みたいやな」

 

 男は少女を舐めるように見る。いやらしいとかそんな眼ではなく、何かを観察しているように見えた。

 文は蛇のような男の瞳に、一瞬背筋に悪寒が走った。まるで巨大な大蛇の餌が自分かのような錯覚さえ覚える。

 

「……貴方に忠告しておくわよ。知っての通り此処は妖怪の山。興味本意で入り込まない方がいいわよ?」

 

 男の蛇のような視線が消えると、文は一応忠告しておいた。蛇のような瞳を持っても、相手は人間であると言う事には変わりない。

 

「そんなん解っとるよ。ただボク、今迷子やねん。すんませんけど、どっち行ったらこの山から出れるか、教えてくれへん?」

 

 男は丁寧に言う割には、その裏別の何かを考えているような口調で言う。文はこの男を少し危険視した。

 

「分かりました。ここで見捨ててあなたが妖怪に食われたなんて話が入っては、流石に目覚めが悪いですからね。私がいい妖怪で良かったですね」

 

 文は一拍おき、一つ質問した。

 

「ではお名前を聞かせていただいても宜しいですか?」

 

 文は慎重に聞く。ただし慎重にしていないように男に気付かれないように。

 この先何に使うか分からないが、一応写真も撮ってある。あの時、男の不意を突いた時の一枚が。

 

「ええよ」

 

 男は一切表情を変えず、

 

「ボクは――」

 

 そして男は名乗った。

 文はその名を聞いてもこれと言って反応しなかったが、その名前はある人物が聞くと驚愕の瞳に変わってしまうような人名とも知らずに。

 

   *

 

 朝――博麗神社は今日も快調に参拝客もいらっしゃらなく平和だ。そんな事を思いながら、オレンジ髪が特徴的な神社の居候である黒崎一護は、境内の掃き掃除に精を出している。

 永夜異変が解決してから約一ヶ月。何の異変も起きず、争いも特になかった。唯一、一護が知る中での激しい争いはウルキオラとグリムジョーだ。紫がウルキオラの事を言った瞬間、数分後再び迷いの竹林で凄まじい喧嘩(ただし一方的にグリムジョーの攻撃で)が発生した。まぁそれも、直ぐにウルキオラがグリムジョーを軽くあしらい、終わりを告げたが。

 

「はぁ~」

 

 一護は不幸でも寄ってきそうな溜め息をつく。

 幻想郷の季節は秋に入った。外の世界と違い都市が無く、自然が破壊されずにいる。お陰で綺麗な紅葉が何時でも何処でも見れる。

 だが、それとは裏腹に秋の次は冬。山の木に生えている葉が散る季節だ。

 つまりその大量の落ち葉を、一護が掃除しなければならない未来が待っているのだ。

 

「不幸だ」

 

 なんて事を呟いてしまった。まるで落ち葉のような哀愁を漂わせる声で。

 

「不幸だと思うんだったら、少しは博麗神社の信仰心を人里で集めてきたら? 少しは幸が寄ってくるんじゃない?」

 

 一護の言葉を聞き取ったのか、博麗神社の神主であらせられる博麗霊夢が一護の背後に現れた。何の気配も感じずに背後に立たれたので、一護は声を出して驚く。

 

「な、何だよ急に信仰心って?」

 

 一護は振り向き様に霊夢に言う。急に信仰心を集めてきたらと言われても、そんな物集めれるはずが無い。てか、一護の不幸の理由と信仰心は全く関係ない。

 

「いえ、ただ言ってみただけよ。それに少しは幸運な人間になりたいのなら、ため息や暗いことなんて言わずに、笑顔で鼻歌でも歌いながら掃除でもしたら? 何事も気からよ」

「そうだな。確かに一理ある。うんじゃあ、少し気分良くいってみるか」

 

 適当な鼻歌を歌いながら清掃する一護。

 

「……いきなり水を差すようで悪いけど、はいこれ」

 

 と、霊夢は買い物籠を一護に渡す。

 

「買い出し頼めるかしら?」

「別に構わねえけど。その替わり掃き掃除の続きは任せたぜ。あそこから、ここまでは終わらせたから」

「ええ、分かったわ」

 

 そして一護が早速向かおうとした瞬間……

 

「あ、そうだ一護。あんた、今日、何か食べたいものある?」

「は? 何だよ急に」

「いいから、言いなさいよ」

 

 と、霊夢が語感を強めて、まるで言葉だけが迫ってくる勢いを持って言ったので、一護は素直に答える。

 

「そうだな。旬に入った栗ご飯とか、かぼちゃの煮付けとか……」

「うん、分かったわ。じゃあ、それを作るための食材を買ってきて」

「え、俺の食いたいもんでいいのか?」

「そういうことよ。ほら……少しは幸が寄ってきたでしょ?」

「幸、ね。まぁ、確かにそうだな」

「分かったら早く行きなさい」

「ああ」

 

 そして一護は、人里へと向かった。

 

   *

 

 幻想郷には妖怪の山という山がある。

 文字通り、妖怪のみが住み着いており、一つの社会が完成した国といっても良いだろう。

 山の妖怪は幻想郷のどの種族よりも陽気で仲間意識も高く、豊かな生活を送っているという。ただ、仲間意識の高さから、余所者に対する風当たりは強く、山の侵入者に対しては、相手が何であれ全力で追い返されてしまう。特に天狗は、味方がやられると確実に敵対姿勢を取る。他の妖怪に無い特徴である。

 そのような場所に、神社が建っている。

 博麗神社より栄えているのか、外観もどこか立派だ。

 そこから、一人の少女が出てきた。

 

「それじゃあ任せたわよ早苗」

 

 どこからか放たれた声に、早苗と言う少女は「はい!」と元気な返事を返し、そのまま何処かへ飛んでいった。

 

 これが後に、異変の引き金になるとはまだ誰も気付いては居ない。

 

   *

 

 一護は現在、青空の中をゆっくりと歩いている。周りからしたら、とても異様な光景だ。

 これは一護の能力、〝物質に宿る魂を操る程度の能力〟。その能力を使い、空気中に宿る魂を操り足場を作っている。これにより、空をさながら大地を踏むかのように歩けるのだ。

 周りを見渡すと、視界一杯に紅葉が映し出される。紅い山……普段は緑の山を見慣れているから、紅い山はとても心を奪われる。美しく華麗で激しい。しかしどこか儚さすら感じさせる光景である。

 

「…………」

 

 不意に一護は自分の右腕に目を移した。

 前からだが、とても異様な何かを感じる。最初は幻獄七夢卿のフレデリックとの戦いの時だ。止めの月牙を放とうとした瞬間、右腕に言葉では表せない、とても妙な違和感を感じた。そして次はウルキオラとの戦いでだ。これも同じく月牙を放とうとした瞬間に、同じ違和感を感じた。最初は気にも留めなかったが、何故か最近気にするようになった。

 これは何かの予兆かと思う。

 

(考えても仕方ねぇか)

 

 いくら考えても明確な答えは出ない。そんな訳で考えるのを止めた。

 そして次に気になったのは博麗神社の事だ。

 神社と言う物は神を祭っている祭神と言う神様が存在する。例えば伊勢神宮には天照大御神(内宮)と豊受大御神(外宮)、出雲大社には大国主大神、八坂神社には素戔嗚尊などが。日本は多神教だから。

 そこで一つ疑問が浮上するだろう。

 ――博麗神社の祭神は?

 一護はまだ霊夢から博麗神社の祭神を聞いていない。いや、もしくは霊夢自身も祭神を知らないだろう。だから信仰も無く、賽銭箱が廃れていくのだ……と言う答えを一護は導き出した。

 

「祭神か……」

 

 一護はそんな事を考えていると、少し博麗神社の祭神が何なのかが気になった。神社に戻ったら、調べてみるか。

 

「おーい、一護ぉ~」

 

 何て考えていると、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえたので、振り返ってみた。

 

「あれ、魔理沙。おはよう」

 

 そこには箒に跨って飛んでいる魔法少女・魔理沙がいたのだった。

 

   *

 

 その頃、博麗神社では……霊夢が一護の替わりに掃き掃除をしていた。巫女さんの掃除姿は中々様になる。

 

「何か、掃き掃除も久し振りね」

 

 一護が現れてから、境内の掃き掃除はほとんど一護に任せていた。だから自分でする事はあまり無かった。久し振りにしたからか、かなり面倒な掃除だと改めて思わされる。

 しかし同時に一護からの出会いを振り返ると、自分は変わったのだろうと思った。

 様々な異変を解決する度に、色んな人間、妖怪などと人間関係が形成されたのだ。正直、一護がいなければ自分は限られた者としか相容れなかっただろうが、現在では吸血鬼や妖精など色んなモノたちと接している。一護に変えられたのかなと、霊夢は考えた。

 

「――――ッ!?」

 

 瞬間、霊夢の頭に何かが突き刺さったかのような激痛が襲いかかった。

 ズキズキと痛む脳髄に、迸るように何かが流れ込んでくる感覚。握っている箒が軋むくらい力入り、何とか片膝を付かずに耐える。

 すると、何やら妙な映像が視界に、さながら昔の記憶を映し出すかのように展開された。

 

『俺の愛する幻想郷と仲間たちのために、この神聖闘争は取るぞ。お前たちなんかに引き継がせないし、取らせるわけにはいかないんだよ』

 

 誰か、顔は分からないが、男が誰か複数であろう何かに言っている。

 すると、それだけで妙な幻影は閉じてしまった。同時に頭の痛みも止まり、妙な記憶だけを残したのだ。

 

「何なのよ今の……!?」

 

 訳が分からない刹那の時。

 

「へぇー、やっぱり巫女らしい職務はしっかりと果たしているのですね」

 

 突然、神社に一人の少女が現れた。

 霊夢は参拝客か!?と思ったが、少女の姿を見てそれは無いと確信する。

 胸の位置ほどまである緑のロングヘアーで、髪の左側を一房髪留めでまとめ、前に垂らしている。頭には蛙と白 蛇の髪飾りが付いてある。霊夢と同じような巫女装束を着ている。巫女装束は霊夢の赤の部分を青にした感じだ。

 この人は参拝客と言うより、同業者に見える。いや、同業者なのだろう。

 

「あんた、誰? 信心深い参拝の人には見えないけど?」

 

 霊夢は少女に視線をやり聞く。

 

「私は東風谷早苗。早速で申し訳ございませんが――この神社を営業停止にしてもらいに来ました」

 

 満面な笑みで、何の不純すら感じさせずに、早苗という少女は、霊夢の度肝を抜く発言をしたのだった。

 

 

《2》

 

 ――一人の黒尽くめの女が、自然が生い茂る妖怪の山を歩いていた。

 女は漆黒のマントを肩から足首まで掛けており、その上は黒い鍔広の帽子を被っている。お陰で顔がよく見えないが、腰にまで伸びた緑色混じりの黒髪だけが女性の姿を強く強調している。

 見てはならない、近づいてはならない。

 その女からは絶えず、人間だろうが妖怪だろうが感じてはならない危険信号を随時、無意識下で垂れ流しているような、恐怖と絶望が人間の姿を形成した悍ましさがある。

 

「フレデリックは生きていたのか……」

 

 そして不意に、妖艶な微笑みを浮かべて呟いた。そのまま誰に言うでもなく続ける。

 

「けど、博麗の巫女……そしてアイツの息子に殺された、か。もしかしたら、フレデリックも本望だったのかもしれないわね。いや、“救いを求めていたのかもしれないな”。まぁ興味もないし、知る必要もないわね」

 

 女性はゆっくりとした足取りで、森を歩く。

 異常という存在が、森をスキップでもするかのように闊歩する中、更なる異常が女性の歩いてきた軌跡に転がっていた。

 ――山のような数の妖怪が、屍骸となっていた。

 様々な種族の妖怪が色々な猟奇的殺害をされている。周りの紅葉の森が、更なる紅い血に染められている。

 首だけ刎ねられている妖怪なら、充分死体としてはまだ形になっているが、バラバラや肉片挽肉など、見るに耐えない死体は、死体では無いと錯覚すらしてしまう。普通に生活する人間が見れば、失神は間違えないだろう。

 そんな中、女性は死体など一切気にせず、空を仰ぎ見た。

 

「あ~会いたい。フレデリックを負かした博麗の巫女と、黒崎一護に」

 

 快感を求めるように、天に向かって両手を仰ぐ女性。それはフランや虚化一護とは違う、異質の狂気を放っている。女性の後ろには大洪水でも起きたような、血の海。まるでそんな屍骸はどうでもいいように、今の彼女の目にあるのは博麗の巫女と黒崎一護だけだ。

 

 後に、この事件が幕で大異変が起こるとは、まだ誰も知らない。

 

   *

 

 秋空の中、たくさんの人や友好的な妖怪がいる人里で、一護は頼まれていた買い物を済ませていた。

 その横にはさっき来る途中に会った……

 

「そういやさ一護。私のあの黒い着物が取られちゃったんだ」

 

 一護の隣には、魔法使いのような格好をした霧雨魔理沙が立っていた。魔理沙はいつものテンションで変わらず、一護に話しかける。

 

「黒い着物……ああ、あれか」

 

 黒い着物は恐らく死覇装の事だろう。時たま、あの格好でよく博麗神社に現れたりしていた。

 一護はどうでも良さそうに、

 

「誰に取られたんだ? 随分な物好きだろ。あんな地味な着物を取るなんて」

 

 今まで着ていたが、思えばとても味気ない着物だったと思えてきた。

 

「取られたって言うより、買い取られたんだ。銀髪に細目で、変な話し方する男にさ」

「銀髪に細目……何だよその見た目100%危険な人間」

 

 ふと一護にある人物の顔が浮かんだが、首を横に振り否定した。

 

「つうか、死覇装のサイズは良かったのか? お前のサイズに合わせるように縮めていたんだろ?」

「それならアリスが修復したぜ」

「そうか……で、いくらで売ったんだ?」

「おいおい何だよその目は? 心配しなくても、そんなに高く売ってないって」

「……なぁ魔理沙、お前は俺と霊夢が出会う前から知り合いだったんだよな?」

 

 一護が話の内容を変えた。

 

「まぁな、急になんだよ?」

 

 急に話の内容を変えられたにも関わらず、魔理沙は普通に対応する。

 

「いや、魔理沙は博麗神社の祭神って知ってるかと思ってさ。何か知ってるか?」

 

 人里に来る前に気になっていたことを聞いた。魔理沙が霊夢と長い付き合いなら、博麗神社の祭神について何か知っているのかも知れない。

 だが、それ以前の問題だった。

 

「祭神って何だ? 食い物か?」

 

 終わっていた。中学の基本常識レベルの単語も知らない魔理沙に聞いたのが間違いだった。ってか外見は中学生?

 

「もういい、魔理沙に聞きいた俺が馬鹿だっただけの話だ」

「何だ一護、お前馬鹿なのか」

「…………」

 

 頭を抱える一護。この話は止めよう。

 

「そういえば、前に一護に会いたいって言ってたやつには会ってくれたか?」

 

 次は魔理沙が話題を変える。

 

「誰にだよ。名前は?」

「稗田阿求って言う女の子にだよ。ほら、前に話したじゃん」

「稗田阿求……ああ、そういえば、お前がベロンベロンになっている時、酔った勢いで言ってたな。ただの戯言だと思い込んでたぜ」

「おいおい一護。例え私は泥酔していても、真面目なことしか言わないぞ」

「…………」

 

 何て戯言は無視して、一護は手で顎をさする。

 

「稗田家って言えば、あの有名な家系だよな。『幻想郷縁起』っていう書物を代々記している……」

 

 興味がなくとも、幻想郷に一年以上も住んでいれば、嫌でも耳にする稗田家。何でも『幻想郷縁起』と言う、幻想郷にいる妖怪なんかの能力や生態などを執筆しているらしい。

 

「他にも稗田家は千年前から転生を繰り返してるとか。……何か複雑そうな家系だよな」

「幻想郷だからな。どんな家庭があっても不思議じゃないぜ。そう言えば、今まで聞いてなかったけど、一護はどんな家系というか、家庭環境だったんだ?」

「ごくごく一般的だと思うぜ。二人の妹がいて、うっせぇ親父がいて。毎日、騒がしいくらい賑やかで。多分円満な方だと思うぜ家庭環境は。特筆して、何か言うことはねぇな」

「へぇ、妹がいるのか。やっぱあれか。最近流行りの妹萌え的な要素があったりするのか?」

「何だよ妹萌えって……」

「最近外の世界から流れ着く書物に、俺の妹が~とか、新妹魔王の~とか、妹様による~とか、何か妹って単語を強調したタイトルが多くてさ。外の世界では、そういうの当たり前なのかなって思って」

「創作と現実を、同じにするなよ。妹好きとか、兄好きとか、ほとんどそういうのは空想……」

 

 何て言ってみたが、身近にいたような気がした。

 ルキアと白哉は、相互的にそんな関係のような気が、しなくともなかった。

 

「なぁ、一護は家族に早く会いたいとか思わないのか?」

「そうだな、会いたくないって言ったら嘘になるけど。今は霊夢っていう頼りになる家族がいるからな」

 

 何て言ってみたのだった。

 

   *

 

「きゃぁぁぁあああああああ!!!」

 

 少女の喉がはち切れんばかりの悲鳴が……博麗神社から上がる。

 その悲鳴はちょうど、一護と、ついでに魔理沙が帰ってきたところで上がったのだった。

 

「な、何だ!? 今のは霊夢の声か!?」

「けっこう可愛い悲鳴あげるんだな」

 

 一護と魔理沙は悲鳴のした、霊夢の自室へと駆けると……

 

「いやぁあ~~~~~~!!」

 

 瞬間、襖をブチ抜いて廊下にパンツ一枚の霊夢が飛び出してきた。

 

「うぉぉおおおお!!」

 

 目の前までやって来ていた一護と激突し、そのまま後ろに倒れる。

 

「うお、どうしたんだ霊夢。んな格好で。発情期か?」

「違うわよバカ!? 出たのよ、あれ、あれ、ご、ごごご、ごごごごご……」

「後藤さんか?」

「誰よそれ!? あれよあれ!」

 

 魔理沙の対応をやめ、霊夢は一護を下敷きにしたまま部屋の方を震える指で差す。

 指先を辿っていくと、カサカサと床を這う黒い塊が視界に入った。

 

「な、なんだ、ゴキブリか……」

 

 一護は仰向け状態で、首を動かして部屋を見て言った。

 

「や、やめてぇ! その名前は聞いただけでゾッとするのよー!?」

 

 一護の胸板を可愛い少女らしくドンドン叩きながら、嫌悪感を露にする。

 

「早く、早く何とかしてよ!? 男でしょ!?」

「いや、ならどいてくれよ。つか、放っておけばその内どこかいくんじゃねぇのか? いつも掃除はかかさずしてるしな。ゴキブリの餌になるようなもんなんてないし」

「あんたバカなの!? アイツは水一滴、髪の毛一本でも餌になるのよ! 生半可なこと言わないでよ!」

「博麗の巫女で、尚且ついくつもの異変を解決している巫女が、たかが虫一匹にそこまでビビるなよ」

「うるちゃい! 苦手なものは苦手なのよ! あぁぁ、もうこうなったら『夢想封印』で家ごと……!」

 

 今の霊夢なら本当にやりかねない。

 

「まずい……魔理沙とりあえず、その箒……じゃ嫌だよな。とりあえず何かで叩き潰してくれ」

 

「へーい。んじゃ足で潰すか」

「バカーー!! そんなことしたら私の部屋が大惨事よ! 穢れるじゃない!」

「……じゃあ、どうするんだよ?」

 

 困り果てた一護だったが、ここで魔理沙がふと、あることを思いつき、そして取り出した。

 

「そういえば香霖堂で買っておいて放置しておいたぜ。こんな時の、こんなアイテムだ」

 

 瞬間、どこから取り出したのだろうツッコミは置いておいて、スプレーの殺虫剤を手に持っていた。

 

「へへーん。こいつこそ最強の武器だぜ」

 

 そしてスプレーを構えながら、もはや異界に見えてしまう地……ゴキが這う霊夢の部屋へと入る。

 

「にしてもデケェな。気持ち悪いのは確かだな。パッと見、カブトムシと間違えてもおかしくなぜ」

「……確かに、大きいな」

 

 一護もよくよく見る。

 

「今年は暑かったからな。もう秋だけど。異常成長してもおかしくねぇよな」

「よっしゃ、一気にいくぜ!」

 

 魔理沙はスプレーを噴射するも、ゴキブリはそれを難なく躱し、逆に先読みまでしてきた。そもゴキブリには気流を読み取る器官が備わっており、俊敏な動きで危険を回避する能力がある。

 よって、スプレーの攻撃もなかなかどうして当たらない。

 

「やるな! けど、まだまだだぜ!」

 

 しかし魔理沙も魔法使い。

 そのような科学的に語れる回避能力では、魔理沙の戦略を崩せない。

 パキーンと、魔力の障壁をゴキブリが逃げる方へと張り、一気にスプレーでトドメを刺した。

 床には腹を見せてピクピクと痙攣させる黒い塊があるのみ。

 しかし……

 

「魔理沙、まだだ!」

「あ、あ、あ、きゃぁぁあああああああああ!!!」

 

 同朋の死に反応したのか、箪笥、押入れの隙間や裏から、隠れていたゴキブリが一斉に現れた。そのいずれも、先ほどと変わらぬ大きさを見せている。これは流石に一護も鳥肌だ。

 

「な、なによこいつら!? 博麗神社を乗っ取るつもりなの!?」

 

 倒れている一護の状態に抱きつき、阿鼻叫喚の霊夢。

 一匹見たら三十匹はいる。ゴキブリの繁殖力と生命力は並大抵ではない。

 しかし魔理沙はどこか楽しそうに……

 

「はっははー! いいぜ、どんどん掛かってきやがれ!」

 

 どんな状況でも戰かない。一瞬一瞬の動作が効率よく働き、スプレーを噴射し、一匹一匹確実に仕留めていく。害虫駆除業者にでもなれそうだ。

 そして程なくして……

 

「よっしゃ全員片付けたぜ」

 

 魔理沙が全てのゴキブリを駆除した。

 

「見事だな魔理沙。ほら、霊夢。もういなくなったぞ」

「ほ、本当……」

 

 と、目をうるうるしながら後ろを振り向く。

 そこには死骸すらなくなっている、いつもの部屋が目に映った。

 ようやく、死闘が終わったのだ。

 そこで魔理沙が次いで、困ったように現状を言う。

 

「……あー、つうか霊夢、いつまで一護の上に、しかも下着一枚でいるんだ? 傍目からは、けっこうヤバイ光景だぜ」

「え……」

 

 そして次は、熱でも出したかのように顔が真っ赤になる霊夢。

 下着一枚の霊夢が、倒れている一護の上に乗っかって、上体を抱き起こすようにしている。これは、一護も改めて危ないと思ったのか、目を背けるも、

 

「きゃぁぁあああああああ!!」

 

 霊夢は、今日何度目になるのだろう悲鳴を上げて、片腕で胸を隠しながら、もう片手で一護を平手打ちしたのだった。

 

   *

 

「…………」

 

 ゴキブリ騒動から一段落終え、一護たちは居間でテーブルを囲っていた。

 先の騒動で霊夢と一護は気まずそうだが、魔理沙は能天気そうに、

 

「ふぁ~、にしても二人は付き合ってたりするのか?」

「んな訳ないでしょ!」

 

 魔理沙の発言に、全力否定した霊夢。

 

「そんな直ぐ否定すると、まるで図星みたいだぜ。けど、もう一年以上も一緒に同じ屋根の下で生活してたら、普通そう思うぜ。逆に何もないのがおかしいくらいだ」

「あんたね、なに変なこと言ってんのよ……!」

 

 ブチブチと、眉間に青筋を立てる霊夢に、一護は内心ビビッていた。

 

(……このまま魔理沙の弄舌が続くと、霊夢が切れて神社がドッカン。掃除と建て直しは……俺か)

 

 などと、ちょっとベクトルがおかしい感じに、一護は苦悩していた。

 

「はぁ~、今はあんたをブチのめす気も起きないわ」

 

 と、霊夢は呆れたのか、ため息をつく。

 

「お、どうしたんだよ霊夢? いつもの霊夢らしくないな。心配すんなよ。またゴキブリが出てきたら、私が二度とでないようにする薬品を作るって」

「別に、そんなことでここまで悩まないわよ」 

「悩み? 何か困ってるのか?」

 

 どうやら霊夢には悩みがあるらしい。

 霊夢はまるで何かに縋るような気持ちで、口を開いた。

 

「一護が買い出しに行っている間に、お客さんが来たのよ」

「お客? めずらしいな、誰だよ?」

 

 博麗神社に来る人間or妖怪なんて限られている。主に魔理沙やチルノや萃香だ。

 それ以外の客or参拝客なんて滅多に来る事が無い。

 

「客と言うより商売敵って言うとこかしら……妖怪の山に一つの神社が建ったらしいのよ」

「神社?」

「ええ、そこの神社の巫女さんがご親切に挨拶しに、此処まで来てくれたんだけど、来た途端の発言が『この神社を営業停止にしてもらいに来ました』なんて言い出したのよね」

 

 その台詞に一護と魔理沙は少し驚く。驚いている二人を無視し、霊夢は続けて言う。

 

「理由は――信仰心の無さだって」

 

   *

 

 処変わり、ある頃、とある小さな城に一人の男が、広い部屋の窓の縁に座っていた。そこからは青空や小さな森が見える。

 彼は暇そうにその風景を眺め、どこか哀愁を漂わせた。

 なぜ、どうして、それは本人にすら分からないだろう。このような感情、過去に投げ捨てたものだと思っていた。

 彼……幻獄七夢卿の一人『刹蘭』は、目を閉じ、ゆっくりと窓の外から城の内部に顔を移す。

 そこには一人の〝誰か〟が立っていた。

 

「刹蘭様、奴が動き出しました」

 

〝誰か〟が刹蘭に、とても漠然と無機質に報告する。

 刹蘭はそんな話に興味ないのか、分かりやすく話を変え……

 

「この城の名前、知っているかい?」

 

 急に話を変えられたことに、〝誰か〟は予想していたのか平然と対応する。

 

「はい。この城は西インド諸島のハイチ北部のラ・フェリエール山の頂にあるシタデル城でございます」

 

 正確な場所と城の名前を、抑揚もなく、まるで機械的に言う〝誰か〟。

 場所から分かるように此処は幻想郷ではなく、一護の住む外の世界……なのであろう。

 

「うん、よく知ってるね。感心感心」

 

 刹蘭は問題を解けた子供を褒めるように言うと、微笑みながら続ける。

 

「それじゃあ、こんな逸話があるのを知ってるかい? この城は元々黒人が建てた城で、城主は生前、自分の命令に従わない白人を次々と虐殺しては、近くの池にその死体を投げ込むと言うようなことを平然と行っていた……そんな事を」

「いえ、そこまでは承知しておりません」

「まぁ知っている人は少ないしね。けど、話の面白味はここから先でね」

 

刹蘭は子供に絵本を読み聞かせるように、

 

「1952年に、この地を四人の人間が訪れたんだ。ジョゼフ・クルーゾーとその妻のマリー、それと二人の助手がね。四人は仕事でこの近辺を調査するために訪れたんだけど、仕事中、突然ジョゼフの気分が悪くなってしまったんだ。少し休んだ方が良いと思った四人は池のほとりに座って休憩を取ることにしたんだ。そして妻のマリーが『ジョゼフは私が見てるから、あなた達二人はちょっとその辺でも散歩してきたら? お城の方を見物してきてもいいわよ』と言って、二人の助手はマリーの言葉に従い付近を散策する事にした。助手たちがしばらく歩いて池の方を振り返ってみると、マリーは夫の横に座ってはいるが、何か池の方をじっと見つめているようだった。『別に状況は変わってないみたいだ』そう思い直して、また二人は向きを変え歩き始めようとした瞬間――」

 

 刹蘭は自分の右手を、銃のように形作り、人差し指を〝誰か〟に向け……

 

「バン! という銃声が後ろから響いた。びっくりして助手たちが振り返ってみると……マリーは、まだ〝硝煙の立ち上る銃を手に持ったまま呆然と立ちすくんでいた〟。助手たちはすぐにマリーの元へ駆けつけた。しかし、当のマリーは『私、ジョゼフを殺してしまった……殺してしまった……』と呟くばかり。だがよく見ると、目の前に横たわっている死体はジョゼフではないんだ。殺されたのは城の管理人のレオンという男だったんだ。しっかりと胸を撃ち抜かれて死んでいる」

 

 刹蘭は窓の縁から立ち上がり、

 

「ここで謎が出来るよね。さっきまでそこで寝ていたジョゼフはどこへ消えてしまったのか? そしてなぜ城の管理人であるレオンがここにいて、今、この場で死んでいるのか?」

 

〝誰か〟は刹蘭の話を無言で聞いている。

 そんな〝誰か〟を見て、刹蘭はゆっくりと移動しながら続きを話す。

 

「マリーは勿論殺人の現行犯で逮捕された。たが、マリーに詳しく事情を聞いてみると、その話は全く理解に苦しむものであった。『あの時私は、じっと池の水を見つめていました。すると、池に映った私の顔がみるみる醜い男に変化したのです。そしてその醜い男は、いきなり池から出てきて私の首を絞めたのです。それから後のことは覚えていません。きっとジョゼフの持っていた銃をとっさに取って、その醜い男を撃ったんだと思います。私にもわけが分かりません。一体なぜ、こんなことになってしまったのか……』当のマリーも全く理解できていなかった」

 

 刹蘭は城の中をゆっくり歩きながら、後ろの〝誰か〟は刹蘭の後をペースに合わせて歩く。

 

「ところで撃ち殺された、城の管理人レオンの方だけど、あの日、時計が午後二時を打った時、レオンの妻は、城の庭で草木の手入れをしている夫――レオンをはっきりと目撃している。マリーが池のほとりでレオンを射殺したのは午後二時五分。城と池は約二km離れている。徒歩五分で二kmの道のりを行けると思うかい? しかも、二人の助手が、マリーとジョゼフの間を離れていたのは、ほんの一分か二分の間。不思議だよね、どうやってレオンは二kmの距離を五分で……しかもマリーに殺されに。そして何よりも奇妙なことは、ジョゼフは一体どこへ行ってしまったのかだ。警察も大がかりな捜索を行ったが、結局その姿は発見されず、行方不明ということになってしまった」

 

 刹蘭は心底楽しそうに、

 

「それから半年後のある日、アメリカの調査団がこの城を訪れた。この調査団は、マリーの殺人事件とは無関係で、学術的な見地から、この城そのものを調べにきた調査団ね。調査団は城の中に入り、あれこれと調べているうちに、何十年も誰も入ったことのない地下牢の方へと調査が進んでいった」

 

 いつの間にか城の外に出ていた二人だが、刹蘭の話はまだ続く。

 

「ある地下牢のカギを開けたところ、その中に一体の死体を発見した。調べてみると、それはなんと半年前に行方不明になったジョゼフの死体であった。死体は白骨化し、変わり果てた姿になっていたが、服や持ち物などからジョゼフであることが断定された。しかし、この地下牢は、何十年も開けられた形跡がなく、第一かけられたカギはすでに錆びついてしまっている。なぜこのような場所にジョゼフの死体があったのか。そして撃ち殺されたレオンは、どうやって五分で二kmもの道のりを移動したのだろうか。謎は今も解明されてはいないんだ」

 

 ここで刹蘭の話は終わった。

 

「どうだい、面白い話だろ? 真相は暗雲の中で行方不明。行方不明……どこぞの誰かが好きそうな単語だ」

 

 刹蘭は〝誰か〟と向き合う。

 

「おっと、話が長くなってしまったね。で、君の方はどうなんだい?」

 

 再び楽しい口調に変わり、

 

「魔術結社・黄金の夜明けの創設者の一人――《薔薇十字》マクレガー・メイザース。君は私の最高の部下の一人だ。君の話の続きを聞こうか?」

 

   *

 

 そして処変わり、再び幻想郷・博麗神社へ――

 

「面倒くせぇな。だったら、ちゃんと面と向かって話し合えよ。とりあえず今から、その守矢神社ってとこに行こうぜ」

 

 あれから霊夢の話を聞き、一護はそう決断した。

 霊夢の話の内容は簡単だ。信仰心の無い博麗神社を山の上におわす神様に譲渡しろとの事だった。そうする事で、今より必ず信仰心を集める事が出来るらしい。

 それにより霊夢の心が揺らぎ、どうするか悩んでいたのだ。

 けど一護の今の台詞に決心したのか……

 

「分かったわ。一護がそう言うのであれば、一度会いに行こうかしらね、その山の上の神様って奴に」

「よっしゃ。なら私も付いていくぜ」

 

 そして熱くなっていたのだが……

 

「あのぉ~、こちらに黒崎一護様はいっらしゃいますでしょうか?」

 

 と言う、聞き慣れない少女の声が聞こえてきた。

 誰だろ? と思ったのだが、魔理沙が聞き覚えあったらしく言った。

 

「お、この声。阿求だ」

「え?」

 

 そして、守矢神社への決行はとある珍客により先送りになるのだった。

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