東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~ 作:ディーン・グローリー
《1》
妖怪の山――そこは妖怪が住まう一つの山。幻想郷で山と言ったら、だいたいの人は妖怪の山の事を指すことが多い。勿論、妖怪の山に人間が入るなんて事は許されない。仲間意識が高く、どこか閉鎖的な集団であるから。よって余所者は追い出される、なんてのは生易しい理由だ。下手をしたら喰い殺されるかもしれない。
そんな場所に、命を落としてもおかしくない危険極まらない地域に、三人の命知らずは飛んでいた。
妖怪の山の麓、そこを博麗霊夢、黒崎一護、霧雨魔理沙の三人はこの山にある守矢神社に向かっている。
季節が秋と言う事もあり、満開の紅葉が拝める。だが、無論のんびりと拝んでいる暇なんて無い。博麗神社の信仰心が無い事を理由に、山の上の神社が博麗神社を乗っ取ろうとしている守矢神社に……一護たちはそれを食い止めると言うより、純粋な話し合いで決着を付ける為に今から、その神社に行くのだ。
「……守矢神社、か」
一護は飛行しながら、と言うより己の能力で空に霊子を集約し、足場を形成し、空を駆けている。
「そこにはニ柱の祭神と、風を司る現人神の巫女が一人。今回は、相当難易度が高そうな話だな」
「ホント、あらかじめ阿求に聞いといて正解だったぜ。下手したら、私たちボコボコにされるレベルの相手だぜ。だって相手は正真正銘の神だもんな」
箒に跨り飛行する魔法少女は、前途に危惧しているがその裏腹には胸を高鳴らせているようにも思える。
「例え相手が神だろうと、私は決して博麗神社を譲渡したりなんかしないわ。もし相手方が喧嘩腰だったら、こっちも本気で挑むまでよ」
そんな魔理沙の言葉を聞いて、少し前を飛行する赤き巫女は力強く言葉を放った。
歴代の博麗の人間が守ってきた神社を、いきなり現れた訳の分からない連中に明け渡しては、こちらの立つ瀬がない。いや、そもそも根本的な話として、そんなもの固い矜持が絶対に許さないであろう。
「ああ、霊夢の言う通りだな。相手の話を聞く限り、筋が通ってねぇ」
――数時間前。
霊夢と魔理沙、一護が囲むテーブルひとりの少女も追加されていた。
年齢は霊夢や魔理沙より年下のように思える、可愛らしい少女。若草色の長着に、上から黄色の着物を羽織っている。紫色の髪をセミロングに整え、大きな花の髪飾りをつけている。
彼女は稗田阿求。
代々、妖怪などを記した幻想郷縁起を執筆し転生を繰り返している摩訶不思議な家系。
「えっと、お初にお目にかかります。私、稗田阿求と申します」
どこかオロオロとした調子で名乗る阿求。
「阿求、そんな気まずそうにするなよ。自分の屋敷だと思って気楽にしていいぜ」
「それ、家主である私の台詞なんじゃない?」
魔理沙の発言に霊夢が突く。
「私のことは知っていると思うけど、礼儀として名乗っておくわね。私は博麗霊夢。よろしく」
「俺は黒崎一護。よろしくな稗田さん」
二人は名乗った。
それに対して、どこか言いたげに、しかし言いづらそうに何かを呟く。
「あ、あの、そのよろしければ、阿求で構わないです。呼び方は……さん付けもいいです」
「そうか。なら阿求って呼ぶぜ。っと、何か馴れ馴れしくないか?」
「い、いえそんなことないです! ありがとうございます! あ、その別に他意はありませんから」
「いや、別にそこまで気にしてないから。それに阿求って方が呼びやすいしな。んじゃ、俺のことも一護って呼んでくれていいぜ。そっちの方が親しみやすいからな」
「えっと、承知、しました……一護さん」
頬を紅葉のように染める阿求は、どこか満足気である。
ヒエダノと言うより、アキュウの方が語感的にも言いやすい。同じく自分の名前もクロサキよりイチゴと呼ばれる方が簡単だろう……と言う一護のけったいな考えをした。
「私の時は最初から霊夢って呼んでたのに、随分と応対が違うわね」
霊夢が若干ジト目で一護を見ながら不満を放つ。
「え、あ~何だ、その雰囲気じゃないか? 霊夢と初めて会った時は、あんまり気を遣わなくても良さそうな感じだったからさ」
「あんた、かなり失礼なことを言うのね」
「それだけ気兼ねなく話せるってことだよ。変に心配りする必要もないしな」
「そ、そう、何かありがとう」
お礼を言うのか怒るところなのか判然としなかったが、結果お礼を言う霊夢。
そんな光景を阿求は、どこか羨望に満ちた瞳で見る。
「で、阿求は今日ここに何しに来たんだ? 会いたがっていた一護のもとに訪ねてきた感じか?」
魔理沙が頬杖をつきながら、どこか落ち着きのない様子で言う。思うに、早く妖怪の山兼、守矢神社に行きたいのだろう。
「え、いえいえそんなわけではなくて! その……」
魔理沙の言い回しがどこか恥ずかしかったのか、手をわたわたさせる阿求。
そして、この場にいるものの度肝を抜く言葉が放たれた。
「博麗神社の祭神について――お話したいことがあります」
――そして現在。
阿求の話を聞いた後に出発した御一行は、妖怪の山の麓でちょっとした異変に気づいた。
「……ん、何だ?」
三人が森の上を飛行している中、魔理沙が何かを嗅ぎ取った。鼻を犬みたいにクンクンさせている。
「何か焼き芋の香ばしい匂いがするぜ」
魔理沙は直ぐに犬並みの嗅覚で、一体何の匂いかを断定した。ただし一護と霊夢は、あまり嗅ぎ取れていないようだ。
「焼き芋って、お前よく嗅ぎ取れるな」
「おう。こう見えても人間以上の嗅覚は持ってるつもりだぜ。魔術の実験や薬の実験では嗅覚も大切だからな」
ちょっと真剣に感心する一護に、魔理沙はどこか喜々として答えた。
それとは対照的に霊夢は、呆れたように溜め息をつく。こんな危険な場所に居て、何を暢気な事を言っているんだ? と心の中で呟いた。
「にしても焼き芋か。誰が焼いてるんだろうな?」
「ええ。それに食物繊維たっぷりの焼き芋。もし有るんなら、少し頂きたいわね」
「ああ、一口でパクリと食べてやりたいぜ」
何て、各々呑気な感想を口にした。
その時だ……
「――人間の癖に神様を喰べようなんて、笑止千万不届き千万!」
不意に、三人の前方に一人の少女が現れたと思うと、自らを猛々しく神と名乗った。
ボブの金髪に、瞳は赤。帽子は赤色の、唾が広い帽子。前面には立体的なブドウの飾りを付けている。服装は袖のふくらんだ黄色い上着に、上からはオレンジ色のエプロンを付けている。黒色ロングスカートに、首には黒い細チョーカーを付けている。靴や靴下を履いておらず、裸足の状態だ。
見た目は神様と言うより、年齢相応の少女のようだ。
「……神様?」
霊夢が小首を傾げて、もう一度尋ねる。
「そうよ、崇高な神様よ」
神様はぺったんこな胸を張って言う。あまり神様って感じがしない神様だ。
「その神様から美味しそうな匂いがするぜ」
クンクンと犬みたいに、匂いを嗅ぐ魔理沙。
「神様たる物、身に纏う香りも気をつけないと。あ、ちなみに私は豊穣の神ね」
付け足すように、自分が何の神様か言った。
豊穣の神なんて聞いたこと無い。
日本神話か北欧神話かマヤ神話に居たような~と思い出そうとする一護だが、全く思い出せなかった。
「え、つか本当に神様なのか? 頭のちょっと痛い妖怪の子供とかじゃないのか?」
「本当っぽいわね。ちなみに神様なんて、この幻想郷にはたくさんいるわよ」
一護と霊夢が聞こえないように会話する。
実際、神様なんて言われてもピンと来ない一護だったが、とりあえず柔軟な考えを持って理解に努力した。
そして、ふとそこに……
「穣子、こんな所で何してるの?」
豊穣の神と名乗る少女の元に、似たような格好と顔立ちをした少女がやって来た。
ウェーブのかかったボブの金髪に、金眼の瞳。穣子とは対照的に、服装は細いシルエットをした赤い上着。その裾は、楓の葉を思わせるような形の切り欠きになっている。頭には3枚セットの楓の髪飾りが付いてある。裸足ではなく、黒い靴を履いている。
「あ、お姉ちゃん。何しに来たの?」
豊穣の神が今やって来た少女に向かって、お姉ちゃんと言った。どうやら二人は姉妹のようだ。外見からするに双子だろうか。
「急に穣子が居なくなるから、捜しに来たんじゃない」
心配性なのか、姉がまるで子を叱る親のように言う。
魔理沙が「人探しならぬ、神探しだな」と下らない事を言っているが、勿論誰も聞いていない。
「分かってるの穣子。今この山は、何が弾みで崩れるか分からない緊迫した状況なのよ」
姉が妹に説教しているが、聞き逃してはいけない台詞が混じっていた。
「緊迫した状況?」
一護が呟くように言った。
それが聞こえたのか、姉妹が一護の方を見据えてきた。
「え~と、あなた方は?」
姉が今さら、そんな事を聞いてきた。
もっと早く聞くべきでは? と三人が同時に思う。
「見たら分かるでしょ。博麗の巫女と、その下僕の二人よ」
霊夢が一護と魔理沙を指差して言う。
下僕と言う言葉に魔理沙が「おい、今何て言った!?」って怒ろうとしたが、一護が「どーどー」と言い魔理沙を止め宥める。
「私は秋静葉。紅葉の神です」
「私も名乗ってなかったね。私は秋穣子」
姉妹揃って神様ときた。
とりあえず、遅れた自己紹介で二人の名前が判明した。
「で、早速で悪いけど何が緊迫した状況なんだ?」
再び一護が同じ事を聞く。
どうも気になって仕方ないのだ。
静葉が言おうか言わないか少し悩んだが、言う事にした。
「実は今朝、妖怪の山で沢山の妖怪が殺されたんです」
たったそれだけの言葉で、一護だけではなく、霊夢と魔理沙も何で妖怪の山が緊迫した状況なのかが理解できた。
「ですから今現在、妖怪の山は例え誰であろうと出入り禁止なんです」
最後にそう言った。
暗に帰れと言っているのだ。いや、これは善意からくる警告なのだろう。だが、そんな促しを聞き入れるわけにもいかない。
こっちもこっちで、博麗神社の存亡に関わる問題を抱えているのだ。
「だからもし、此処をどうしても通りたいんなら、私たち二人を倒す事ね。無視したいところだけど、そうは問屋がなんやらだから」
穣子が静葉の台詞を付け足すように言う。
どうやら弾幕ごっこに勝てば、通してもらえるらしい。
良いのかそんなんで……と少し心配する一護。けど通れるなら受けて立つしかない。
静葉がまた何やら穣子に叱っているが、全くって言って良いほど聞いていない。
「それじゃあ一護、あんた一人で戦いなさい」
「どうせ言われると思ったよ」
霊夢の無茶振りに、一護は了承した。言われるとは思っていたからだ。
一護は一歩前に出て、名乗る。
「博麗の死神 黒崎一護だ。弾幕勝負を申し込むぜ」
それを聞いた二人も、作法通りに名乗る。
「豊かさと稔りの象徴 秋穣子よ。一人で大丈夫か人間? 言っとくけど、手加減なんて生ぬるいことしないからね」
穣子が名乗ると、静葉は仕方ないように、
「寂しさと終焉の象徴 秋静葉です」
三人が名乗ると同時に、弾幕勝負が開始された。
「んじゃ、先手は貰うよ。秋符『オータムスカイ』!」
先手必勝――穣子が最初にスペルを唱えた。
神気にも似た爆発的な妖力が篭められた魔弾が、円形に広がるように無数に放出される。そしてこの魔弾は二種の赤と青の色が存在する。赤は左へ広がり、青は右へ広がる。二色の弾幕が交差するように一護に迫りくる法則性を帯びているのだ。
「こういう弾幕は何十回も見てきたぜ。喰らうわけねぇ、だろ!」
迫り来る弾幕を冷静に対処する一護。今までいくつものスペルを見てきた一護にとって、この程度の弾幕は軽く避けきれる。
「悪ぃが、こっちは急いでんだ。直ぐに終わらすぜ」
一護は自分の能力――〝物質に宿る魂を操る程度の能力〟で、空中の魂を操り一躍一瞬で二人の距離を縮めた。二人の神はその速さに驚くも、一護は間髪入れずスペルを唱える。
「黒符『月霊幻幕』」
一護の周囲の空間から、凄まじい霊力を練りこんだ三日月状の弾幕が展開される。そしてそのまま一斉に弾幕を二人に向けて集中砲火させる。同時に、距離も縮まったせいで応対の難度を上げていた。
「嘘っ!?」
穣子が驚きの声をあげる。しかしそこは流石は神様なのか、二人は上空に飛翔し、何とか一護の弾幕を避けた。
一護は直ぐに上空に飛んだ二人の神を見上げる。
その瞬間……
「豊作『穀物神の約束』!」
「葉符『狂いの落葉』!」
二人の神が同時にスペルを唱える。
穣子からは複数のレーザーの無数の弾幕、静葉からは落ち葉のように無数の弾幕が落下してくる。
二つのスペルが一護を襲った。
「――――」
瞬間、一護に全ての弾幕とレーザーが降り注いだ。凄まじい轟音と烈風が巻き起こる。
二人の神様からすれば必殺にも近しい攻撃だった。
それにより神気を迸らせた煙が舞い、一護の姿が確認できなくなる。
「やったかな?」
などと穣子が言った途端――
「黒符『天雨月閃』」
煙から、耳を澄ましていないと聞こえない程の声が聞こえてきた。
瞬間、二人の神の頭上に三日月状の弾幕が容赦なく無情に降り注いだ。
二人はそれを避けきれず、全て被弾してしまった。
「すまねぇな」
煙がブワッと、強風にでも煽られたかのように、一気に晴れた。
そこから悠然とした態度で一護が現れる。
「お前ら程度じゃ、力が足りねぇよ」
こうして刹那の如く速さで弾幕勝負の幕が閉じたのだった。
《2》
それは頼りなく、おどおどとしていたが、しかし裏腹に重苦しさを感じった。
「博麗神社の祭神――それが何だか皆様はご存知でしょうか?」
霊夢、一護、魔理沙が妖怪の山に赴く数時間前、博麗神社にて稗田阿求が真剣な眼差しを持って三人に問いかけた。
博麗神社の祭神……つい先ほど一護が人里に向かう前に気になっていた事柄である。それがまるで狙ったかのようにその内容が出てきた。
一護はどこか言い知れぬ不吉と不安が混在する気持ちになる。
「ええ、もちろん博麗の巫女である私が知らないわけないでしょう。いえ、知っているけど知らない、と言ったほうがいいのかな?」
霊夢がどこか不明瞭に答える。
「祭神……つまり神社を信仰するためには必要不可欠。けど、博麗神社には何を祀っているのか、ほとんど、いえ皆揃って知らない」
阿求が淡々と、さながら前にも言ったことがあるかのように、さながら繰り返すように言葉を紡ぐ。
「それは例え、この私でも分かりませんし、幻想郷縁起にも記されていない。理由は簡単です。“真の意味で完全に隠蔽されているから”。例えそれが博麗の縁者であっても、祭神を知る由はない」
いつもと纏っている空気が違う阿求に、楽観的な魔理沙でさえ黙って言葉に耳を傾ける。
「では何故この私、稗田阿求が博麗の祭神が隠蔽されていることを知っているか。それはその祭神に稗田を“こういった確立にされたから”。だから博麗の祭神が隠蔽されたと知っている。ですよね、博麗霊夢さん」
霊夢は黙って、真剣な面持ちで呟いた。
「そうよ。博麗の祭神は誰にも分からない。そして稗田家を祭神の隠蔽するために使ったのも、紛れもない事実」
「祭神は誰にも分からない。転生を繰り返す稗田家だからこそ、それだけは引き継いで世に拡散しなかった。いえ、そもそも知らないから拡散もできない」
二人の会話について行けない一護は、そこで割って入った。
「な、なぁちょっと待ってくれ。博麗の祭神? 隠蔽? 稗田家が隠蔽に使われた? 全然話の内容が読めねえよ」
訳の分からない話を続けられても困る。
どうにか頑張って一護が頭で纏めると……博麗の祭神は誰も知らなくて、隠蔽されているよっていう設定が稗田家にはあって、ということまでだ。
「つまりそういうことよ。博麗の祭神は誰も知らない。そういうこと」
簡単に霊夢が言う。
「いえ、誰もっていうのは間違いかもね。博麗の縁者にも知られない、そうじゃなくて薄々気づくようになってくるようになっているのよ、博麗の巫女限定でね」
面倒くさそうに、霊夢は頭を掻きながら、
「ほら、一護に前に私が博麗14代目巫女って言ったじゃない? その後に正式には7代目とかって話」
「ああ、言ったな」
確か初めに聞いたのは紅霧異変の時だ。あの時はルーミアに邪魔されて途中までしか聞けなかったが。
「14代目ってのは総合的にねって事よ。博麗神社が出来て私で14代目」
「じゃあ7代目ってのは? つか、それと祭神に何か関係あるのかよ」
「あるわよ。幻想郷の法――つまり」
つまり――
「もしかしたら博麗神社の祭神は――」
――そして現在。
ニ柱の神である穣子と静葉を打ち負かした霊夢一行は警告を無視して、妖怪の山の奥……樹海の中を飛行していた。その名の通り、樹の海のような樹海である。
三人の姿も樹海で出来た影のせいで、よく見えなくなっている。
「結構山の奥まで来たわね」
「ああ。此処なら中々良い実験素材がありそうだぜ」
何処に行っても、魔理沙はそんな事を言う。どれだけ実験が好きなんだろうか?
「それにしても深い森だな。もし飛べなかったら迷子コースは確実だぞ」
一護が若干物騒な事を呟く。確かにこんな深い樹海は、コンパスも地図も役に立たないだろう。
切り株などで方角を探ることは出来るが、飛べないのでは樹海を抜け出すのに何日か掛かる。一護は飛べるって便利だなと改めて思った。
「にしても何なのかしらね、今朝起きたって言う大量殺害って」
霊夢が先の言葉を思い出すように言う。
秋姉妹が言っていた、妖怪の大量殺害だ。一部の妖怪の山に居た様々な種族の妖怪達が無差別に大量殺害されていたらしい。しかも死体とは思えないような、妖怪ですら吐き気を催す猟奇的殺害法で。
「身内争いじゃないわよね」
霊夢が仮説を言ってみるが、それは直ぐに脳内で否定された。
もしそんな身内争いが起きるなら、妖怪の山なんて物は初めから存在しないだろう。それにもし身内争いだったら、とうに解決されていてもおかしくない。
それに色んな種族が殺されている時点で身内争いでは無い。
(こんな大量に妖怪を殺す連中は……)
──幻獄七夢卿。
霊夢はそいつらが犯人だと思った。だが一体なぜ……。
幻獄七夢卿には妖怪を大量に殺す意味など無い。ただ快楽の為に殺したのだろうか。現に幻獄七夢卿にはブギーヴァルトと言う、人間と妖怪を大量に殺した殺人鬼がいる。そいつが犯人なのだろうか?
もしそうなら、また壮絶な戦いが幕を開ける。
霊夢がそんな事を考えているときだった。
「あらあら人間がこんな所に来たら危ないですよ」
不意に三人の前に樹海を背景に少女が現れた。
緑色の髪で後ろからサイドにかけてすべてを胸元で一本にまとめている。頭部にはフリル付きの暗い赤色のリボンを結んだヘッドドレスを着けている。服はいわゆるワンピース状で、襟は白、それ以外は赤を基調としている。袖はパフスリーブの半袖、襟は三角形で腹部にまで垂れている。スカート部分は真ん中よりやや下あたりで色がわかれており、上部分はほぼ黒に近い赤、下部分は純色の赤である。足には、赤紐をクロスして留めた黒いブーツを履いている。
「今すぐ、この山から引き返す事をオススメするわ」
少女は自分の服を自慢するように、クルリと回って言った。
「私は他人のオススメを聞かないわ。自分で確かめる派だからね。だから、先に進ませてもらうわ」
反発心たっぷりの霊夢。こういう人が後々後悔する。
「実はそうもいかないのよね。今この山は結構大変な事が起きているからね。だから立ち入りは厳禁なの」
溜め息混じりに言う。
確かに妖怪側からしたら一大事だろう。だがそれはあくまで妖怪側の事であって、自分には全く関係のない事と霊夢は思っている。
「で、あんたはどうしたいの? 私たちの邪魔をしたいの?」
とっとと先に進みたい霊夢は、お札を出して怒りを露にして言う。短気は損気と言う言葉が一護の脳内に現れた。
「引き返すのなら邪魔はしないわ。けど、前へ進むのなら精一杯邪魔させてもらいます」
「面倒ね、本当に妖怪の山の妖怪って奴は」
「厄神様よ」
また神か……と霊夢は呆れた表情になりながら心底思う。
「魔理沙、今回はあんたがやりなさい。どうせ弾幕勝負をしたくてウズウズしてるんでしょ?」
「別にウズウズしてないぜ。ただ誰かの弾幕ごっこの観戦は暇だな~と思ってただけだぜ」
だからと付け加え、魔理沙は一歩前に出る。
「こいつは私が相手するぜ」
やる気満々。
魔理沙にとって弾幕ごっこは、自分のストレスを解消するためでもある。だからストレスが溜まっていればいるほど強くなる(本人談)。
「普通の魔法使い 霧雨魔理沙だ。前へ進みたいから、お前を倒させてもらうぜ」
「秘神流し雛 鍵山雛よ。盛大に邪魔させてもらいますよ」
再び妖怪の山で、先と同じ理由で弾幕勝負が始まった。
「先手はもらう――」
「先手はもらいますよ。厄符『厄神様のバイオリズム』」
魔理沙は弾幕勝負が始まった時に言う常套句を、雛によって遮られた。
魔理沙より先にスペルを唱える雛。少しカチンときたが、魔理沙はそれを抑える。
雛がクルクルと体を回転させると、そこから無数の弾幕が円を描きながら、魔理沙に襲い掛かった。
「さぁて私の先手は取られたし、一気にストレス倍増だぜ。お前は悪い奴じゃ無さそうだけど、今週分のストレスを此処で晴らさせてもらうぜ!」
魔理沙は箒を前方に投げつける。
普通なら法則に則り、箒は前方に飛ぶが、まるで意思を持っているかのように、円を描くように大きく一回転し、魔理沙の後ろから箒が戻ってくる。
魔理沙はその動く箒の上に飛び乗り、空高く飛んだ。
「あら飛んじゃったわね」
魔理沙が飛んだ事により、雛の放った弾幕は全て当たらなかった。
雛は先のスペルを解き、魔理沙と同じ樹海の上空に飛ぶ。
「移動中がチャンスだぜ。黒魔『イベントホライズン』!」
魔理沙は雛が同じ上空に向かってきているとこで、スペルを唱える。
複数の魔法陣が周囲に現れ、そこから無数の星型の魔力の弾丸を放出する。その標準を雛に定めた。
「移動中が一番の危機である事くらい承知ですよ。疵痕『壊されたお守り』」
雛は即座にスペルを唱えた。
秋姉妹と同じく神気に満ちた弾幕が不規則にばら撒かれる。
その弾幕が、魔理沙の弾幕を食い止める壁のように、雛を守る。ほぼ互角の競い合いに、前走も後走もない。瓦解するには、それを吹き飛ばすパワーが必要だ。
「面倒だぜ。仕方ない、一気に蹴散らすぜ。恋符『マスタースパーク』!」
パワーならお手の物の魔理沙が、懐からミニ八卦炉を取り出し、雛の方に向け爆発的な魔力を宿した超極太レーザーを発射する。
よって、超極太レーザーが雛の弾幕を打ち消していき、状況を劇的に瓦解させた。
「ッ! 悲運『大鐘婆の火』!」
雛から光り輝く弾幕が無数に放たれた。
一発一発が強力なのか、超極太レーザーを防いでいる。その間に雛が魔理沙と同じ空中位置に立つ。
「創符『流刑人形』!」
雛が続けてスペルを唱える。
無数の弾幕が全方位に放たれ、所々に放たれている青い弾幕が魔理沙を貫かんと狙ってきた。
「言ったろ、この弾幕勝負は私のストレス解消の為だって……だから」
魔理沙はそんな中も悠然と、再びミニ八卦炉を雛に向ける。
「――この一発に全てのストレスを込めるぜ!」
ミニ八卦炉が太陽のように輝きだす。
「新スペル! 精砲『ストレスマスタースパーク』!!」
グオン! と轟音が轟いた瞬間、超極太レーザーが放たれた。そのレーザーは大地を轟かす振動と烈風を起こした。魔理沙はその反動で、後方に勢いよく吹き飛ぶ。
「えええええええ、何ですのその――ッ!!」
雛が声を上げようとした瞬間、全てが幕を下ろしてしまったのだった。