東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~ 作:ディーン・グローリー
《1》
博麗の巫女であられる、博麗霊夢がとんでもない発言をして数十分後のことだ。
不運にも幻想入りしてしまった黒崎一護は、弾幕の出し方すら分からないのに、急遽弾幕ごっこをするはめになったのだ。いやそもそも、弾幕を出せないのに弾幕ごっこになるのか甚だ謎である。
そして相手は、博麗神社に現れた魔法使いこと霧雨魔理沙。霊夢の友達で、弾幕ごっこはプロ的レベルと言っても過言ではない。
初心者VS熟練者の戦い。
それが今、始まろうとしているのだ。
「さてと、それじゃあとっとと始めなさい」
連れてこられたのは広い草原。障害物も何もなく、緑色の草がゆらゆら風に靡いている程度の草原だ。
霊夢は一護と魔理沙から少し離れ、まるで戦いを見物しに来た野次馬のような感覚で言ったのだ。
現在一護と魔理沙は対峙する形で向かい合っている。
「……」
一護は黙ったまま霊夢を見据える。今、凄まじいくらいに言いたいことがあった。いや、言って当たり前、思って当たり前のことを。
それを吐こうとした瞬間、
「なぁ霊夢。一護ってまだ幻想郷に来たばかりなんだろ? だったら弾幕の出し方とか分からないんじゃないのか?」
魔理沙が代弁してくれた。
もうごく普通の質問である。
「口で説明しても意味ないわ。こういうことは身体で覚えるに限るのよ。それに若干、一護は外の常識と乖離しているから。そういう奴は、実戦で直ぐに覚えるわ」
何て、身勝手に近い発言をした。
反論しようと思ったが、一護は止めた。
何故なら――一護は今までもそうしてきたからだ。斬魄刀の斬月を手に入れる時も命懸けだった。卍解を覚えるのも命懸けだった。虚化を覚えるのも命懸けだった。無月を覚えるのも命懸けだった。
そう、一護は命の危機と隣り合わせになることにより力を発揮するのだ。
反駁する必要は……ない。
「分かったよ。んじゃやろうぜ魔理沙」
「一護が良いんなら別に構わないけど。怪我しても知らないぜ?」
「ああ、それくらい承知している。けど魔理沙、一つだけ言っとくぜ。この弾幕ごっこ――俺が負けるとは限らねぇだろ」
そう、一護は言ったのだ。
魔理沙はそれを聞き、目を見開き、
「……はっ、ハハハ、アハハハハハハハハ! 言うなぁ一護! いや本当、その気概に意気込みは高く評価するぜ!」
大笑いを上げ、魔理沙は楽しそうな表情。骨のある奴だと認識したのだろう。
「どんな紆余曲折が頭の中で繰り広げられて、そんな考えに辿り着いたかは知らないけど、軽佻浮華でないことを願うぜ」
そう言って魔理沙は持っていた箒を前方に飛ばした。前方には一護が居るのだが、一護に当たる直前でどんな法則が箒に内包していたのであろうか。その箒は運動量も法則も重力も無視し、まるで意図的に上空に飛翔し、円を描くように背後から持ち主へと戻ろうとしている。
「よっと」
魔理沙は背後から戻ってきた箒に飛び乗り、そのまま上空に飛ぶ。
「さぁ始めようぜ一護! 私を楽しませてくれよ!」
そして黒崎一護VS霧雨魔理沙の弾幕ごっこが始まったのだった。
《2》
まず先手を取ったのは魔理沙だった。
と言うより人間ではどれだけ足掻いても届かぬ上方にいる魔理沙に、一護から攻撃できる訳が無い。
「これがスペルカードってやつだ。見ておけよ一護」
魔理沙は一枚のカードを取り出し宣言する。
「星符『メテオニックシャワー』!」
瞬間だった。
魔理沙から沢山の星型の弾幕が放たれた。それはまるで流星群のように。
「これが、スペルってやつか……!」
一護は驚愕としながら、間一髪のとこで避けきる。避け切れたのは、今までの経験則と身体能力のおかげだろう。
一発一発が軽く草原の大地を削り取っていく。曰く弾幕ごっこでもヘタをすれば死ぬとのこと。あながち間違いではないことを、一護は痛感した。
「ッ! 魔理沙、飛ぶなんて卑怯だろ!」
「何言ってるんだ一護。弾幕ごっこでの飛行なんて当たり前だぜ」
余裕の笑みを漏らしながら、魔理沙は言う。
一護はまだ知らないが、この幻想郷において空を飛ぶなんてことは当たり前のことである。
「そらそら、続けていくからちゃんと避けろよ」
カードを振りかざす。
「星符『メテオニックシャワー』!」
再び同名のスペルを発動する。
天から一護を蹂躙すべく、数多の流星が降り注ぐ。
「どっ、わぁぁぁああああああああ!!」
全速疾走――陸上選手でも目を丸くするような速度で走る。その轍には、流星により抉られた大地が残っていく。
「ちょっと待てちょっと待て! いくら何でも反則だろ!」
最初の威勢はどうしたと言いたい所だが、本当に予想外だったのだ。
まさか、飛ぶとは思っていなかった。本当はもっと早く気づくべきだったんだ。霊夢が普通に平然と、当たり前のように飛んでいたとこを推測すれば良かったんだ……と、一護は後悔する。
「いやぁけど凄いぜ一護。普通なら最初の一発で終了なんだけど、ここまで耐えきるなんて」
まだ始まって一分程度だが、当初の魔理沙は始まって数秒で終わる予定だったのだ。
十分、ここまでに値するだろう。
「くっ、そ……ッ」
今の一護ではあんな高く跳ぶのは不可能。
だったら石ころか何かを投げつける……いや、こんな状況で石を拾ってる暇もない。
――手がない。手段が全くないのだ。
八方塞がりとはこのこと。攻撃はやまず、何十秒も全速力で走り続ける。
「……なぁ霊夢。何か一護にヒントの一つや二つあげたらどうだ? 何か知っているんだろ? そうじゃないと私と弾幕ごっこをさせるわけないからな」
一護が必死の逃走をしている中、魔理沙は傍観している霊夢に話しかけた。
それに対し霊夢は、
「……もう少し、確証が出るまで見させて。そうすればヒントを上げれるかも」
「分かった」
釈然としないが、魔理沙は攻撃を続ける。
それを避けきる一護。その姿を凝視する霊夢。
そして――数分後。
「……成程ね」
と、霊夢が呟いた。
一方、一護は、
「ッ! くそ!」
だんだん体力も衰え始め、動きが鈍くなっていく。
息も荒くなり、今日一体どれくらい走ったんだろうと言う疑問が湧くぐらいだ。
「つか霊夢。こんなもんノーヒントで出せる訳ねぇだろ! 何かヒントとかねぇのかよ!?」
霊夢に向けて叫ぶ。
すると霊夢は、仕方ない感じで答えた。
「あんたの今持っている、大切な物……と言うより、あんたが今唯一持っている物が、最大のヒントであり、攻略ポイントよ」
「は? 今持っている物……」
一護の頭に、必然的にアレが浮かんだ。
その浮かんだ物を、走りながら取り出す。
「代行証……」
一護はその代行証を手にし、困惑する。これで一体どうするのかが分からないのだ。
いつの間にか魔理沙は攻撃を止め、一護を見入る。
「霊夢、あれがそうなのか?」
「ええ、そうよ」
魔理沙が指差し聞いた質問に即答。そして霊夢は一護に語り掛ける。
「ねぇ一護。急に変な質問するけど、、あんたに取っての“誇り”とは何?」
「誇り?」
「そう、誇りよ。あんたはそれを持っているはず。何故なら――あんたに会った時からそれを感じていたから」
霊夢は言葉を紡いでいく。
「私があんたと異変の解決に臨んだのは、ただあんたの意地や熱意に負けたからじゃない。あんたからは沢山の戦場を歩んできた心を感じたからよ。私もあんたと同じでたくさんの戦いに身を投じているから分かるわ。だからこそ聞かせてもらう。あんたの誇りとは何?」
「俺の誇り……」
一護はゆっくり思案する。否、自然と頭に流れ出てきた。
死神時代の誇り……ゆっくり目を閉じ、振り返る。
俺が……
死神の力に誇りを持った時のこと……
そんなもん――
数え切れねぇよ――――!!
瞬間、一護の代行証から卍型の漆黒の霊圧が噴出したのだった。
《3》
一護が死神の力に誇りを持った時のこと……それに対し――心が、力が答えてくれた。
代行証から黒い霊圧が卍型になり噴き出す。それはまるで――
「斬月の鍔」
そう、それはまるで一護の死神代行時の時に使っていた天鎖斬月の鍔だった。
迸る霊圧がそれを描く。
「……あれが、一護の能力なのか?」
魔理沙が一護を指差しながら、再度霊夢に問いかける。
霊夢は既に予測していたかのように、事務的作業の如く答えた。
「ええ、あれが一護の能力よ。あんたは気付かなかった訳? 一護が走っている時とか」
「ん、何が?」
「まぁあんたが気付いている訳ないか。そうね、一護が走っている時、一護の足から妙な光が迸っていたのよ」
「光?」
「そう、まるで一護の手助けをするかのように。そして魔理沙の攻撃から逃げている時にようやく気付いたのよ。あれは、この大地に宿る魂だと」
「大地に宿る魂。待て霊夢、ちょっと分からねぇ」
「魔理沙も知っているでしょ。魂ってのは、生き物や草木だけじゃないってことくらい」
「ああ、知っているぜ」
「例えば玉、椅子、食器なんかにも微小だけど魂は宿っている。一護はその魂を引き出し使役しているのよ。さっきの走っている時なら、大地の魂を引き出して疾走の補助をさせているように」
まぁ逃走中は無意識に発動していただけだけどねと付け足し、そして結論を言う。
「差し詰め一護の能力は〝物質に宿る魂を操る程度の能力〟ね」
〝物質に宿る魂を操る程度の能力〟……勝手ながら、一護の能力名はそうなった。
それを聞いた魔理沙は――
「何かよく分からねぇけど、凄そうだな。俄然やる気が出たぜ!」
魔理沙は一護に目を向け、闘争心に火を点けた。
「一護、さぁ続きをやろうぜ! こっからが本番だぜ!」
「! ああ、分かってるよ」
一護は霊圧が噴出している代行証を手に、構える。
まだ使い方は分からない。能力はさっきの霊夢の台詞を耳に入れていたから、何となくは分かるが。
試行錯誤……している暇はないだろう。相手は魔理沙だ。そんな時間をくれるとは思えない。
だったら――
「思いついただけ試すか」
そう呟いた瞬間、一護は前方――魔理沙の下方位置まで駆ける。
既に能力を自覚しているため、現最大限までに発動できた。初めてなのに、何処か馴染んで使えるのは死神時代の経験のおかげだろう。
「だったら、こいつはお試しだ!」
魔理沙はスペルを使わずに、普通の弾幕で一護を狙う。
言うなれば機関銃。連撃弾雨の勢いで一護を襲う。
だが――
「当たらねぇよ!」
紙一重で、無駄な動きをせずに匠に躱し続けながら、こっちに向かってくる。
乾坤一擲、一護はそれを心構えに魔理沙へと猪突猛進する。
「凄いなこりゃ。少しどころか、かなりの驚きもんだぜ」
本気で感心する魔理沙。
恐らく、現状今の一護はそこらの妖怪より上だ。たった数時間、幻想郷に幻想入りしてたった数時間でここまで上達する人間を、魔理沙は勿論のこと霊夢でさえもお目にかかるのは初めてだった。
故、感嘆の声が上がるのは必然的と言えよう。
恐ろしいまでの才能だと思った。
「んじゃ、こいつはどうかな」
魔理沙は新たなカードを取り出し、唱える。
「魔符『スターダスト』!」
星型の弾幕が張られ、まるで円を描くかのように二重三重と拡がってゆく。
それに対し一護は十分の距離まできたのか、魔理沙の方を見て、演算を開始する。
どう跳べばあの無数の弾幕を掻い潜り、魔理沙のいる座標値点まで跳べるのかを。それには弾幕の動きの予測、速度、タイミング、ジャンプ力を慎重に計らなければいけない。失敗すれば、そこで終わりだ。
「……ここだ!」
一護はタイミングを計り終えたのか、意を決して一気に跳ぶ。その際は大地の魂を操り、反発力の補助をさせる。そうすることによって、有り得ない距離を跳ぶことができるのだ。
「うぉぉぉおおおおおおお!!」
演算通りだった。
弾幕を全て紙一重で掻い潜り、充分な距離までジャンプに成功できた。
だが甘かった。
相手は数々の弾幕ごっこを制してきた魔理沙。そんな掻い潜れるような隙間を作るわけがなかったのだ。
数発の弾幕が軌道変え、一護に襲いかかってきた。
「ッ、だが、間に合う!」
一護は弾幕に被弾する前に、卍型の霊圧が噴出した代行証を魔理沙に目掛けて投げつける。
風車が回転するかのような、まるで手裏剣めいた飛び方だ。
だが――
「いて」
噴出した霊圧が突如消え、ただの代行証だけが魔理沙の額にコツンと当たった。
そして重力に身を置き、そのまま落下する。一護は一護で無理な体勢の空中回避を行い弾幕を避け、そのまま同じく落下する。
「チッ、こういう使い方じゃねぇのか」
一護は地面に足を付けると同時に、直ぐ様代行証を拾い上げる。
瞬間、再び代行証から卍型の黒い霊圧が噴出した。
(! 俺が掴んでいる間だけ、鍔の形の霊圧が出るのか)
そして一護は試しに、卍型の霊圧を地面に当ててみた。だがその分、地面が凹んだだけで、何も起きてはいない。
(それに斬れてねぇ。この鍔にそういう力はねぇのか。そりゃそうだ、鍔で相手が斬れねぇのなんて当たり前だ)
さて、どうしたものかと、一護は思った。
対する魔理沙は、
(まさか一発喰らっちまうとは、マジで驚きだぜ)
呆気に取られる結果だったが、確かに代行証は魔理沙の額にヒットした。それは紛れもない事実なのだ。
もし、あれに何らかの力が働いていたらただでは済まなかっただろう。
(それに、あれだけの弾幕を全て、まるで針の穴を通るかのような緻密さでクリアしやがった。こりゃ油断したら負けるな)
魔理沙は再びカードを取り出し、
(まだあれが何の力を持っているかは未曾有。ただ魂を使役しているだけじゃないからな多分。だったら試すしかないか――)
唱える。
「星符『メテオニックシャワー』!」
再び星型の流星群が一護に降りかかる。
対する一護は、卍型の霊圧でそれを防いだ。
「ッ!」
その際、反動で一護の身体は後方へ軽く吹き飛ばされた。
だがこれで一護は一つ確信したのだ。
「いてぇ……けど、思ったっ通り。鍔と同じ使い方ならできる」
そう、代行証から噴出している霊圧は攻撃はできなくても鍔と同じ使い方なら可能なのだ。
そして一護はもう片方の手で、無意識に代行証へと触れた。
瞬間――代行証から噴出している霊圧が一段と力強くなった。
一護はその感覚に心当たりがった。
(!! 今の感覚は――)
その異常に魔理沙も気付いた。
今のは何だと……。
だったら――
「喰らえ一護!」
魔理沙はもう一度、今のが何だったのかを確かめるため弾幕を放つ。
一護はそれに対し平然と思案する。
(いける。今の感覚は確かに――)
飛来してくる弾幕を見つめながら、遂に真の力を発揮する。
(月牙天衝の感覚――)
一護は雄叫びと共に、死神時代、月牙天衝を撃っていた頃の感覚で、代行証を振るった。
その瞬間、卍型の霊圧部分だけが乖離し、そのまま魔理沙めがけて飛んだ。飛来してくる弾幕は悉くその卍型の霊圧に掻き消されていった。
「何だこれは!?」
魔理沙は驚愕しながらも、紙一重のところでその飛来してきた霊圧を躱す。
「くそ、避けられたか」
一護は舌打ちし、再び霊圧が放出する。
「……はっ、今のは危なかったぜ一護」
魔理沙は一護を高く評価しながら、言葉を紡ぐ。
「ってことでよ一護。私も少し本気で行くぜ。別に良いだろ?」
「ああ、構わねぇぜ。こっちも本気でいくからよ」
今の一発で、だいたいの力加減は分かった。
故、もう本気で行ける。
魔理沙は一枚のカードと、ミニ八卦炉を取り出す。
一護はそれに訝しむも、ここで一々聞くのは野暮だと思ったので聞かないことにした。
「いくぜ――恋符『マスター――」
「月牙――」
そしてお互いがぶつかり合おうとした瞬間――
「はい終了!」
と、随分無粋な台詞が割って入った。
その正体は博麗霊夢だ。
「な、何だよ霊夢。急に」
一護と魔理沙は呆気にとられながら、傍観していた霊夢の方を見る。
「もう終わりよ。これ以上激突したら、どちらかが多大な怪我を負うわ。そうなったらこっちが面倒だから終わり」
冷める台詞。いや、本当に一護と魔理沙は冷めたのだ。最高潮まで高まった心が一気に底辺へと堕ちた。
「一護の能力もわかったし。当初の目的は達したわ」
「いやまぁ、そうだけどよ」
魔理沙がゆっくり地面に足をつけながら言う。
「だから面倒なのよ。もしどちらかが気絶したら運ぶの面倒でしょ。その激突はいつかにとっておきなさい。私が見ていない時にでも」
そう言って、霊夢は歩き出す。勿論、帰るためにだ。
もう、こうなったら止まらないので、一護も魔理沙も渋々帰ることにした。
こうして弾幕ごっこは終幕した。随分と詰まらない形で。起承転結の結がない形で。
《4》
その夜、一護は早めに寝た。理由はいきなりの出来事に身体が予想以上に疲れたのだろう。
だが懸念は大量にある。
まず外界もとい一護の世界のみんなだ。
一護はいきなり消失したことに友達や家族が心配していないだろうかということ。霊夢曰く、幻想郷には様々な能力を持った者が居るからどうにかなるんじゃないとのこと。他人事すぎる。
まぁ悩んでも解決しないため、一護は早くこの博麗大結界の異変を解決すると心に誓ったのだった。