東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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第41斬【覚醒】

《1》

 

「いらっしゃいましたか、歓迎いたしますよ」

 

 妖怪の山の中に見える、赤い鳥居。その奥には博麗神社と同じような――当たり前ではあるが――神社が建っている。

 守矢神社――霊夢と同格であろう巫女と、ニ柱の神が君臨する。今まで異変で戦ってきた妖怪とは、事実レベルの違う相手だ。妖怪や、幽霊、超人とは違う本物の神が実存している祭壇。そのような場所に霊夢、一護、魔理沙は攻め入ったのだ。

 

「お待ちしておりました、博麗の巫女。そしてお仲間さん達」

 

 一護達を出迎えたのは、守矢神社の巫女。霊夢の巫女装束を青色にしたような感じの、緑色の髪に霊夢と同じくらいの年齢の少女。

 きっと霊夢に姉が居たら、こんな感じなんだろうなと一護と魔理沙は奇しくも同時に思う。見た目は霊夢と同じくらいの背丈だが、どこか大人な美貌と雰囲気を醸し出している。

 

「歓迎してくれるなら、至極光栄ね。けど、私たちを歓迎するには、此処は小さすぎるわよ。最低でも、あの吸血鬼の居住まいくらい大きくなくちゃね」

 

 霊夢が相手の神社を見ながら言った。

 どの口が言うんだと、再び同時に思う一護と魔理沙。正直言って、此処の神社の方が明らか大きいし、賽銭箱も寂れていない。ただの負け惜しみじゃねぇかと思う一護だが、口には出さない。出した途端、自分の死を覚悟しないといけないからだ。

 

「あら、随分と酷いことを言うのね。あなたの神社よりマシだと思いますけど」

 

 ご最もである。

 一護と魔理沙はうんうんと頷く。

 すると霊夢から二人に向けて凄まじい殺気を当てられた。どうやら心中バレたようだ。

 

「あんた達、一体どっちの味方なの?」

「そんなもん決まってるぜ。私は私の味方だ。私は私の為に戦うぜ」

「もう帰っていいわよ魔理沙」

 

 格好いい事を言ったつもりの魔理沙を、直ぐに霊夢の一言で一蹴された。

 

「俺はお前の味方だ。それに今回もお前の為に戦う。それは変わらねえよ」

 

 と、一護は魔理沙とは真逆の事を言った。

 霊夢は「そう」とだけ言い、

 

「じゃあ一護と魔理沙は先に進みなさい。まだ神社の奥に方に何かが居るわ。それも、途轍もない奴が二匹」

「途轍もない奴?」

「ええ。最初は話し合いで済ませるつもりだったけど、こいつらは人の話を聞かなさそうな質ね。神気……まぁこれを感じ取っただけで瞭然。神様らしい傲慢気質みたいだから」

 

 霊夢の霊力探知は一護に比べて非常に高い。逆に一護はそういうのが大の苦手。それは死神時代から変わらない。

 

「人の話を聞かないなんて、霊夢と同じ質だな」

 

 魔理沙が余計なことを言う。

 

「あんた、この仕事が終わったらぶちのめすから覚悟しておきなさい」

「おう、だから無事にちゃんと終わらして帰ろうぜ」

「…………」

 

 魔理沙は純粋に、何の濁りもなく言った言葉に、霊夢は若干戸惑うも、

 

「とりあえずとっとと先に行きなさい。一護は私の為に。魔理沙は自分の為に。ここから先、正直勝てれば重畳。気を抜かないこと、いいわね?」

 

 語り合う、博麗神社に対する意見を聞きたい。

 そう思ってここまで来たものの、そんなものなど意味を成さなかった。

 

「ああ」

「分かったぜ。強い奴と戦えるんなら、本望だぜ」

 

 二人は地面を蹴り、一気に緑の巫女を横切り、先に進んだ。

 緑の巫女は何の妨害もせず、ただ先へ行く二人の背中を見据えようともせず、どこか哀れみにも似た言葉を発する。

 

「……あのお二方は、よりによって苦汁の道に進むなんて。しかしそのような道を歩む者を止めたりなどはしません。人の邁進を止める程、出過ぎたことを出来る身でもありませんから」

 

 緑の巫女は、霊夢に視線を向けたまま語る。

 

「それで、あなたは私を相手をすると?」

「当然でしょ。もう面倒だから、あなた達を黙らせて終わりにする。そっちの方が手っ取り早いし、私らしいから」

「信仰は、もうどうでも良いと?」

「良くないわよ。まぁ自分の神社の祭神も知らない私が言えた義理ではないけど、そんなもんは後で探すなり何なりすればいいしね。けど、博麗神社が無くなったら、元も子もないのよ」

「そう、よく分かったわ。だったら、私も早くあなたを倒させて頂く。異論は勿論無しですよね」

「当たり前でしょ。一瞬で沈めてあげるわよ」

 

 霊夢は何枚かお札を取り出す。

 

「仕方ないわね。祀られる風の人間 東風谷早苗よ」

「楽園の巫女 博麗霊夢よ」

 

 両者名乗り──瞬間、二人の巫女が激突した。

 

   *

 

 激突と同時刻。

 一護と魔理沙は神社近くにあった湖の湖上に居た。

 そこらに不自然に凄まじいほど大きい山のような柱が建っているが、二人は全くそれを気にしていない。何故なら、二人の目の前にその柱が小さく見えるほどの、桁違いの神が二柱も存在していたからだ。

 一人は紫の掛かった青髪にサイドが左右に広がった、非常にボリュームのあるセミロング。冠のようにした注連縄を頭に付けており、右側には、赤い楓と銀杏の葉の飾りが付いている。瞳は、茶色に近い赤眼。そして背中に、複数の紙垂を取り付けた大きな注連縄を輪にしたものを装着している。上着は、赤色の半袖。袖口は金属の留め具で留めている。赤い上着の下には、白色のゆったりした長袖の服を着ている。小さな注連縄も首元、白い長袖上着の袖、腰回り、足首、とあちこちに巻かれている。スカートは、臙脂色のロングスカート。裾は赤色に分かれており、梅の花のような模様が描かれている。足は、裸足に草履。

 見た目は大人な女性だ。

 もう一人は金髪のショートボブ。青と白を基調とした壺装束と呼ばれる女性の外出時の格好に白のニーソックスをしており、俗に「ケロちゃん帽」と呼ばれる市女笠に目玉が二つ付いた特殊な帽子を被っている。片方と比べたら随分とシンプルな格好だ。

 見た目は完全に少女。

 その二人から、一護と魔理沙ですら蹴落とされそうな力を放っている。

 

「あんた達が博麗神社の使いだね。来るとは思っていたが、ここまで速いとはね」

「久し振りの遊び相手って訳だ。ゾクゾクするね」

 

 二人の神が一護と魔理沙を見据えながら言う。

 全く危機感が見られないとこを見ると、ソレほどまでにレベルが違うという事だ。

 そもそも、こうして対峙しているだけで二柱の神から溢れんばかりの神気を感じ取れている。感じる、ただそれだけで毒を注入されているかのように、足がフラつき、視界が霞み、手汗が滲み出、頭が眩む。

 ああ、この二人が紛う事なき神だと思い知らされる。

 

「あんたらが、噂の神ってやつか?」

 

 一護が当たり前のことを尋ねる。

 

「見ての通り。感じての通りだよ。まさか感受できないほどのヒヨっ子ではないだろう?」

「もしそうだったら、最近の若者は~、とか言う三下常套句を言っちゃうよ~」

 

 和気を帯びた声調だが、内包している力の桁数が段違いである。

 

「おいおい、こいつはまた面白そうだな一護。いやー正直、勝てる気はしないけど、まぁ全力全開で立ち回るくらいは頑張ってみるよ」

「えらく弱気だな。けど気持ちは分からなくない」

 

 神様を打倒しようなど不信心もいいところだ。神罰が下ってもおかしくない。

 けど……

「神様が何だってんだ。こっちは死神時代を経験しているんだよ。同じ神が付くんだ、何も恐れることはねえよな」

 

 自分でも何を言っているのか意味不明だが、こうして自分に何かを言い聞かさないと精神的に参ってしまいそうになったのだ。

 

「さて、そろそろ名乗ってやろう」

 

 神である女性が笑みを浮かべて、言う。

 

「山坂と湖の権化 八坂神奈子」

「土着神の頂点 洩矢諏訪子」

 

 対する一護たちも名乗る。

 

「博麗の死神 黒崎一護だ」

「普通の魔法使い 霧雨魔理沙」

 

 こうして両者は邂逅したのだった。

 

   *

 

 ――最初に動いたのは霊夢だった。

 取り出していた札を早苗に向かって投擲する。札は紙製だが、特殊な梵字が書かれており、それに自身の霊力を込める事によって、破壊力を付けた札になるのだ。

 

「随分と巫女らしい攻撃手段ね。教鞭通り、詰まらないわ」

 

 早苗は片手に持っている木の棒の先端に白い紙の付いた――いわゆる御幣を軽く一振りする。

 すると放たれた霊夢の札が全て、全く別の方角に弾き飛ばされた。札など眼中にないかのようだ。

 弾き飛ばされた札は森の中に疾駆し、被弾した木々を破裂にも似た勢いで爆破した。

 

「博麗の巫女って言うからには、もっと個性的だと思ったんですけど、随分と空虚な御技を使うようね。秘術『忘却の祭儀』」

 

 ついでと言わんばかりにスペルを唱える早苗。

 無数の弾幕が、星型を描きながら優雅に、流れる霊力は流麗に放たれた。

 

「あんたこそ私の服装を真似てるくせに、よく言うわ片腹痛いのよ。霊符『夢想妙珠』!」

 

 対する霊夢もついでと言わんばりのスペルを唱える。

 複数の光弾が、暴力的に内包する霊力を宿し早苗の放った弾幕を負けじと掻き消していった。火花が飛び散り、エネルギーの余波が空間を震わせる。

 

「別に真似てないわよ。あなたこそ、私の巫女装束を真似たのではなくて? それに、まるで神聖さを感じさせませんね。とても強暴さを持った力、まぁ心根も粗暴のように見て取れますが、全く、巫女にあるまじき気質ですね」

 

 呆れ果てたような早苗の言葉に、霊夢のこめかみがヒクつく。

 実際、そもそも巫女同士が争うなど御法度に近い。幻想郷では妖怪退治を生業にはしているものの、本職は祈祷、神楽舞などの尊いもの。それがこのように私情で争っているなど、それこそ神罰が下ってもおかしくない。

 

「けど実際、私は襲いかかってくる野獣を退けているだけ。言ってしまえば正当防衛ですね。よって巫女としての役は、何も犯していません、よ!」

 

 掲げた御幣が霊力が集中する。

 霊夢が危険を察知した次の瞬間、花火が爆発するかのように放たれた。

 襲い来るは無数に散布する弾幕。視界を埋め尽くすほどの弾幕の嵐、その上これら一粒一粒が追尾性を帯びて、敵対者を貫かんと掛かってくる。

 

「自分は何も悪くないみたいな言い方ね。反吐が出る。ええ私は口が悪いし、性格も短期で粗野なとこがある。けどね、あなたみたいなお淑やかが売りのような女に限って、裏で何やってるか分かったものじゃないわ!」

 

 そして迎撃に入る。

 複雑な挙動は取らない。向かってくる弾幕のみ確実に仕留めながら、一気に突っ込んだ。

 しかし弾幕すべてが追尾性を宿している為、霊夢を落とさんと迫り来るが、捌ききれない弾幕など軽い結界を張っておけば問題などない。

 

「言いますね。ええ思っていましたとも。あなたを人目見た時から、私とは相容れない存在だと。同族嫌悪ならぬ同職嫌悪、かしらね。だから何を言っても無駄なのは百も承知」

 

 突進に近い勢いで来る霊夢に対して、早苗は悠然とスペルを唱える。

 

「奇跡『客星の明るすぎる夜』」

 

 早苗の前に青白く光る球体が複数現れた。

 それはいい。今までの弾幕と何の特色もない。しかし同時に現れたものは、それを覆した。

 無数の槍状の弾幕。槍投げで使うようなものが霊力により形成され、悪魔を穿つように一気に射出される。

 

「その通りよ。あなたとは、こうしてぶつかり合うしか用を成さない宿命なのよ!」

 

 唱える。

 

「霊符『夢想妙珠』!」

 

 複数の莫大な霊力の篭められた弾幕が、容易く早苗の槍弾幕ごと喰らい尽くす。

 

「本当、霊力だけは一人前のようね。自分の管理している神社の祭神すら知らないのに」

「さっきから煩いのよ。今は口じゃなくて拳で語り合いなさい!」

「巫女としてあるまじき事ですが、そうですね、あなたの霊力だけには敬意を評して、私も神の子として本気でいきます」

 

 そして霊夢と早苗が激突する寸前でスペルを唱える。

 

「霊符『夢想封印』!」

「大奇跡『八坂の神風』!」

 

 その瞬間、凄まじい破裂音が轟き、巫女同士の霊力が衝突したのだった。

 

   *

 

「くッ、がァ、アアアアアアアアア!!」

 

 その頃、守矢神社の湖上の上で、もう一つの弾幕勝負が行われていた。

 いや、もう終結したと言っても良いだろう。

 何故なら先の攻撃で、魔理沙は悲痛の絶叫を上げながら湖畔に墜落し、一護ももはや満身創痍に近い状態で空中に肩で絶えず息をしながら立っているのがやっとだから。

 

「くそ……ッ!」

 

 一護は荒い息を整えながら、自分の前に佇む二柱の神を見る。

 死神の姿になっているのにも関わらず、圧倒的な力の差で負けている。全力で放った魔理沙のマスタースパークは軽い所作で弾かれ、一護の月牙天衝もいとも容易く相殺された。

 そもそも相手は神。絶対の存在。

 単なる魔法使いや、死神である者に倒せる道理などどこにもない。当たり前の結果。揺るぎない理屈の末である。

 

「く、くそ……黒符『月霊幻幕』!」

 

 一護が無数の三日月状の弾幕を張り、一斉射撃。二人の神に全力で放つ。

 だが二人の神は欠伸すら漏らしそうになりながら、その弾幕を軽い神気を帯びた弾幕で掻き消した。

 

「土着神『手長足長さま』」

 

 片方の神――洩矢諏訪子が詰まらなさそうにスペルを唱えた。

 万象全てを貫く神々しい赤いレーザーと緑のレーザーが一護に向かって放出される。

 

「舐めるなよ! 黒斬『月牙天衝』!」

 

 右腕から月牙を放つ一護。

 それにより赤いレーザーと緑のレーザーを相殺する事に成功した。だが――

 

「奇祭『目処梃子乱舞』」

 

 一護がそれに対応している間に、もう一人の神――八坂神奈子がスペルを唱えた。

 まるで予測していた展開、演劇の台本通りに演じるかのように、赤いレーザーと無数の札状の弾幕が一護にに放たれる。

 

「しまっ――!」

 

 それに対応することが出来ず、全て自分に吸い込まれるように諸に受けてしまった。いつもの一護ならギリギリ避けれたかもしれないが、この状態では喰らったのが必然とも言える。

 

「ふ~、もう終わりかい? そもそも神に挑むことが間違いなんだけどね」

 

 神奈子が不満そうに言う。

 対する諏訪子も似たように、

 

「あんまり面白くなかったな。けど暇つぶしにはなったかな」

 

 もう終わりと言わんばかりに、両手で腰を掴む。

 そも神様というものは敬い奉るもの。倒すなど考えるだけ無意味である。よって到れるとすれば鎮めるのみ。

 

「……ァ、ハァ、く」

 

 しかし、そのようなことが出来るほどの力量など、今の一護に無い。

 無数の弾幕を浴びた一護は、どうにか踏ん張りながら倒れずにいた。

 

「……けど、一つ気に食わないね。あんた、まだ何か隠しているだろ?」

 

 神奈子が一護の右腕を見据えながら、一護が唖然とすることを言った。

 

「……何言ってんだよ」

 

 何かを隠している? 正直言って一護何も隠していない。もし力を隠していたら、こんな絶望的な状況で使わない訳が無い。

 だが神奈子は、

 

「それとも、まだその未曾有の力に気付いていないと。成程、己の力も存分に発揮できないわけだ」

 

 断言するように言う。

 

「だから、何言ってんだよ! 黒斬『月牙天衝』!」

 

 一護は再び月牙を放つ。

 瞬間、凄まじい形容し難い違和感が右腕に流れた。

 これはフレデリック戦でもウルキオラ戦でも感じた違和感。いや、初めから振り返ればグリムジョーとの戦いでも感じていた。

 瞬間、何かが溢れ出るように、違和感が顔を出す。

 

「――!?」

 

 一護は驚く。

 右腕の霊圧が何かに形成しようとしていた。無形だった霊圧の刀が、徐々に形を鮮明に作ろうとしている。

 諏訪子と神奈子は興味深そうに見る。向かってきていた月牙なんてどうでも良かったように。

 

「こ、これは……」

 

 そして遂に、違和感の正体が明かされた。

 それは――

 

「斬月……!」

 

 右手には、かつて死神時代だった時の一護の斬魄刀が握られていたのだった。

 

 

《2》

 

 最初は何が何だか分からなかった。

 確かに表現出来ない妙な違和感を右腕に感じていた。

 始めはグリムジョー戦からフレデリック戦。ウルキオラ戦などで。

 そして最後はこの戦いで。

 故に理解できない。

 こんな旨い話はあるのか? まるで漫画の主人公のようだ。

 窮地に陥った主人公が、最強の敵を前にボロボロにされ絶体絶命のピンチになったところで新たな力。これならまだ、誰かが助けに来てくれて、この状況を打開する方が現実味が有っただろう。

 だが一護は漫画の主人公のように、絶体絶命の状況下で新たな力を覚醒させた。

 今まで感じていた違和感が顔を出したかのように。新たな力が右腕に握られていた。

 否、新たな力では無い。

 それは旧なる力であり、真なる力。

 死神代行時代、一護と共に戦った斬魄刀。それは一護が死神の力を失うと同時に消失した斬魄刀。

 

 ──斬月。

 

 バカデカい出刃包丁のような刀。柄には白い布が巻いてあり、一護の背丈ほどある。

 懐かしい。

 一護はそう思った。

 もう二度と握ることは無いと思っていた刀。それを今握り締め、この絶体絶命の状況を打開する力にも成っている。

 だが、それはあくまで一護の黒い霊圧が形成されたに過ぎない。

 言わば今まで不安定だった霊圧刀が一つの形を成し、安定された力。

 故にあの時のような斬月の力は無いが、凄く心強かった。

 例え正真正銘の斬月では無くても、何処かで自分は死神の力を取り戻しつつあると実感していた。

 力が湧いてきた。

 比喩ではなく本当に力が湧いてきたのだ。

 今までのボロボロの状態が嘘かのように体が軽い。傷は残っている物の、痛みを感じなかった。

 一護は前を見る。臆せず、引かず、闘志を燃やし、二人の敵を見る。

 相手は二人、こっちは一人。

 だが一護は自分の後ろに斬月のおっさんが居ると思った。錯覚なのかどうかは分からない。だが妙な気軽さを感じる。

 これで二対二だ、と一護はそう思い込んだ。

 対する二柱の神は、一護の発現した力を見て、少し目を丸くした。

 少し……いや、かなり不可解だった。

 二人の神は今まで沢山の力を見てきた。

 それは気なる力や、妖なる力、霊なる力、魔なる力、聖なる力、はたまた超能力と言う天然の力まで。

 だが、目の前の力は見たこと無かった。

 さっきまでは霊なる力を行使していた。だが急に右手にデカい出刃包丁のような刀を握った瞬間、霊なる力では無くなった。それどころか、二人とも感じたことのない正真の未曾有の力だった。

 恐らくそれは一護ですら気づいていないだろう。

 

「行くぜ、斬月」

 

 些少目の前の不可解な力を理解しようとしている頭を働かせている二人の神は、一護の言葉を耳にして身構える。

 その刹那──二人の神の斬程圏内に、一護が居た。

 

「――!」

 

 二人の神が驚愕する。

 本当に本当の意味で、一護の移動速度を認識することが出来なかった。二人が気づいたときには、既に一護は二人の懐に入っていたのだ。

 一護は刃の付いた斬月を大きく横に振る。

 だが相手は神。

 まだその程度なら、認識できなくても斬られる前に気づけば避けきることは可能だ。現に二人は後方に下がることにより躱した。

 そしてその後の事も二人の神は考えている。

 

「神秘『葛井の清水』!」

「土着神『七つの石と七つの木』!」

 

 神奈子と諏訪子は直ぐにスペルを唱える。

 左右から一護を狙うように無数のナイフ状の弾幕が、そして真正面から七本のレーザーと七色の弾幕が放たれた。

 

「黒符『月霊幻幕』!」

 

 一護はスペルを唱えると同時に、大きく斬月を横に振るう。

 瞬間、扇状に広がるよう斬月から三日月状の弾幕が放たれた。

 それらが真正面から放たれてくるレーザーや七色の弾幕を相殺していく。続いて左右から迫ってくるナイフ状の弾幕に向かって同じく三日月状の弾幕を放ち相殺する。

 ここまで僅か一秒。

 だが、それも二柱の神の計算どおりだった。

 

「天高く積もる信仰こそ山の象徴 我が言葉以て御国の救えとなり祖国を害する邪を滅する『マウンテン・オブ・フェイス』!」

 

 神奈子は符名の付かないスペルを唱える。

 五つの箇所から円状に広がるように、無数の弾幕が放たれた。

 

(符名無しのスペル! 霊夢が言うにはそこらのスペルとは桁外れらしいけど……今の俺なら)

 

 一護は斬月を頭上に振り上げ、スペルを唱える。

 

「黒斬『月牙天衝』!」

 

 斬月から黒い月牙天衝が放たれた。

 その光景はまるで、あの時の頃を思わせる。

 

「――蛙狩『蛙は口ゆえ蛇に呑まるる』!」

 

 諏訪子がこのスペルを唱えたのは、一護が月牙を放ったのと同時だった。

 月牙は無難なく神奈子の弾幕を掻き消していっていたが、一護本人に諏訪子の弾幕の魔の手が伸びた。

 無数の弾幕がまるで蛇のように、一護に襲い掛かる。

 

「ッ! 黒符『月霊幻幕』!」

 

 焦りながらも、一護はどうにか対応する。

 だが咄嗟だったので防ぎきれず、いくつか被弾してしまう。

 

「天竜『雨の源泉』」

 

 追い打ちを掛けるように、神奈子がスペルを唱える。

 先の月牙は既に神奈子に弾幕で相殺されていた。

 次いで上空から雨のように青い弾幕が降ってきたかと思うと、落下途中無数の弾幕に変貌し、一護を狙うかのように飛んでくる。

 

「――黒斬『月牙天衝』!」

 

 透かさず月牙を上空に放ち、弾幕を防ぐが、

 

「──ほらほら、少しは学習しなよ。二対一で言えた義理じゃないけどさ」

 

 一護が月牙を放っている隙に、諏訪子が一護のほぼ目の前まで移動していた。

 

「!」

「――祟符『ミシャグジさま』」

 

 諏訪子を中心に全方位に広がるように、無数の弾幕が放たれた。

 

「っ! しまっ――」

 

 ――瞬間、一護の身体に、無数の弾幕が衝突した。

 

「ガァッ、く、負けてたまるかよ!」

 

 一護は倒れそうな身体を、どうにか押し止める。

 今の弾幕で、今まで蓄積されたダメージが復活したのか、かなりボロボロになっている。

 

「まぁ、例え未知の力を使った所で、私たちと拮抗できないのなら同じ事よ」

 

 諏訪子が余裕の表情で言う。

 

「故に、この程度の力じゃ、私たちに勝つのは到底不可能」

 

 続けて神奈子が言う。

 二人共、まだまだ余裕で、傷一つ負っていない。

 

「……しゃあねぇか」

 

 一護はポツリと呟く。

 

「付け焼刃になっちまうが、今しかねぇよな」

 

 一護は斬月を前に突き出し、

 

「符名無しのスペルは霊夢曰く、渇望を具現化したものらしい」

 

 一護は誰に言うでもなく、呟く。

 そして――

 

「だから、今此処で、試すしかねぇな」

 

 どうやるかは具体的に分からない。

 だが渇望だけはある。斬月を見た瞬間、その渇望が生まれたのだ。

 一護は一呼吸置き、言う。

 

「……『卍解』!」

 

   *

 

「この、とっとと倒れなさいよ! ああもう見た目によらず随分とタフなのね!」

「あなたこそ、早急に地面に伏して然りだと思っていましたが、どうも霊力だけじゃなくて体力にも自信があるよう、ね!」

 

 時は流れ、霊夢と早苗の弾幕勝負はほぼ終結していた。

 どちらも既に戦える霊力など、ほとんど残っておらず、後は巫女の御身とは一切かけ離れた体術と少ない霊力を使い、もはや傍目には殴り合いのように見える死闘を繰り広げていたのだ。周囲の地面はいくつも陥没、起伏し、周囲の木々は軒並み燃え、伐採されている。この現状だけで、二人がどれほどの激闘を行っていたかを如実に物語ってくれていた。

 そして尚も拳、御幣、そして弾幕、巫女服は所々破れ、焦げ跡を見せ、お互い死力を尽くした衝突をする。

 

「クッ、あんたもうお淑やかさの欠片もないわよ。なに、もう巫女のなんたるかは捨てたわけ!?」

「ッ! うるさい、あなたを倒すためなら、恥も外聞も捨ててやるわよ! ここで負けることが、現人神として絶対に許されない。言ってしまえば、ただの意地なんですけど、ね!」

 

 飛び交う乱舞。

 ここまでするのはお互い、負けられない矜持があるから。絶対にこいつには負けたくないという気持ちのみで、二人は奮い立って、先に相手の膝を地につかせる為に攻防を繰り広げているのだ。

 

「中々やりますわね、博麗の巫女。流石は数々の異変を解決した猛者と言ったところかしら」

「こっちも認めてあげるわ、あんたのその意地っ張りなところだけわ」

 

 ひたすら殴り、蹴り、同時に霊力をまとった弾丸が休むことなく発射されている。二人の華奢な体型、細い指、か弱い腕や足からは放たれたとは思えない、岩を軽く砕く威力を内包してお互い放たれていた。

 

「ク、ハッ! ふふ、あちらも直に決するでしょう。まぁ勝機は目に見えていますがね。神奈子様、諏訪子様の実力は本物。何たってれっきとした神様なのですから。だから、こちらもそろそろ、決着と行きましょうか!」

 

 全力で、それこそ身体ごと叩きつけるように強く握り締めた拳を、早苗は霊夢にお見舞いした。

 

「ガッ! ク、舐めるんじゃないわよ……神? 神様だから何? 神だったら絶対に負けないと、そんな道理誰が作ったのよバカじゃない!? そんな意味不明な理屈で……」

 

 お返しとばかりに、強く強く拳を握り締め、あらん限りに咆哮と共に、渾身の一撃を振り下ろした。

 

「私の仲間を侮るなッ!」

「キャァアッ!」

 

 弱々しいが霊力で結界を張り、霊夢の拳を防ぐもそのまま粉砕された。

 

「何なのよ、一体何なのよ、博麗の巫女っていうのは!?」

 

 交差する二つの力。

 ほぼ相打ち。同時に、二人は多大なダメージを受けている。

 血に濡れた服も、拳も顔も、凄惨を通り越した様相をしていた。全身の血が沸騰する赫怒で、両者は負けない気負いで、猛然と、吠え猛りながら烈火怒涛に衝撃を叩き込んだ。

 

「「ハァァアアアアアッ!!」」

 

 そして二人の拳は、同じ相手拳に打ち込まれた。

 バキと、骨が砕ける嫌な音を発しながら、二人は苦痛に耐え、そのまま一気に距離をとる。

 

「ッ! これ以上やると、お互いが倒れてしまいそうね。認めたくありませんが、私たちはほぼ互角」

「その、ようね。全く、どうしてこう面倒な相手ばかり増えていくんだか」

 

 そして――

 

「次の一撃で決めます。私の全霊力を込めたスペルを、あなたに繰り出してあげますわ。これで最後、行きますわよ」

「お生憎様。私の一撃で、あんたのスペルごと吹っ飛ばしてあげる」

 

 最後のスペルを唱える。

 

「奇跡『神の風』!」

「霊符『夢想妙珠』!」

 

 そして両者、最後のスペルを唱えたのだった。

 

 

《3》

 

「ふ~ん、やっぱ接触したんだ、エリゼベートは黒崎一護と博麗の巫女に」

 

 細身の男は欠伸混じりにそう言う。

 その言葉を聞いているのは、年配白髪おじさんだ。豪勢な司教服を着ており、教会で十字を切っている老人のようにも見える。

 だが、それは違う。

彼は魔術結社・黄金の夜明け団の創設者の一人――マクレガー・メイザースだ。詳細は後日説明するが、彼は当の昔に亡くっなっているはずの男だ。

 

「彼女の半魂は未だに消息不明です。現在は《魔王》と《星天》が幻想郷中を探索していますが、何処にも見当たらないようです」

 

 メイザースは報告書を読み上げるように、事務的に男に向かって口を開く。

 男──刹蘭はどうでも良さげに、

 

「う~ん、多分、あの半魂を見つけ出すのは無理だよ。偶然でも見つけ出せるとしたら《原初》くらいかな。他は絶対とは言わないが、ほぼ不可能。それに《魔王》は多分、真剣に探してくれていない」

「でしたら、一体どのように策を立てましょうか? 安易に《原初》を動かしますか?」

「ん~命令しといて何だけど、もう放っといていいよ。彼女が姿を現したから、見つかると思ったんだけどね。まぁアレの叶えたい渇望が何だか知らないけど、正直言って関係ないし。ただ──彼に会って一つ聞き出したかったんだよね」

 

 刹蘭は一拍置き、

 

「博麗の父親の居所について」

 

   *

 

 卍解──それは死神が使う斬魄刀の最終奥義。

 死神時代、一護はこの卍解にまで至り、数々の戦いを勝ち抜いてきた。しかしながら勿論のこと、死神の力を失うと同時に消えた。

 だが、今の一護は斬月を形成し、更なる領域に達した。

 符名の付かないスペル――謂わば渇望を具現化させた能力のスペル。一護はそれを具現化させる境地に立ち、再び漆黒の刃を持つ刀――

 

「天鎖斬月」

 

 卍解を手にしていた。

 死覇装もご丁寧に、ロングコート状に似た黒い死覇装を身に纏っている。

 一護の瞳に強い力が宿る。希望はここに、再び掴んだ最強の力を手にし、勝利を導くために立ち上がった。

 

「ッ!」

 

 二柱の神はその瞳に一瞬、戦慄が走り――

 隙が生まれる。

 

「ふんっ!」

 

 一護はいつの間にか、一柱の諏訪子を峰打ちで切り伏せていた。

 神ですら反応できない速度。まるで時間を無視した速さ。光の速度など、鼻歌でも奏でながら追い越せてしまいそうなものだ。

 よって本調子、油断などしていなければ間一髪で躱せたかもしれない一撃を、諏訪子は間隙を突かれて沈んだのだ。

 

「チッ……『諏訪大戦 ~ 土着神話 vs 中央神話』!!」

 

 神奈子は一切逡巡せず、味方の気絶した諏訪子を巻き込む勢いで、符名の付かいないスペルを唱えたが――

 

「ちゃんと避けてくれよ」

 

 平然と一護は告げる。

 

「今の俺の力じゃ、こいつを抑えられねぇ……!」

 

 天鎖斬月を握る手に力を込め……

 

「黒斬……『月牙天衝』!!」

 

 天を揺るがす黒い斬撃が放たれた。

 

   *

 

 同時刻……外の世界にいる刹蘭は、一護のその力を感じ取った。

 

「……何ですか? この出鱈目な霊力は?」

 

 刹蘭の前に居るメイザースが瞠目し、冷静な口調で驚きの言葉を吐く。本来のメイザースを知る者が見れば、夢でも見ているような光景に映るだろう。

 

「……へ~、黒崎一護君……君は本当に未知だ。いや救いなのかな? まさか、次元すらも超えて――いや、それ以上だ」

 

 刹蘭は感嘆するように言う。目の前のメイザースなど無視して……

 

「いやいや、本当に驚きだ。今の力、下手をすれば世界の一つが破壊されていたかもしれないぞ」

 

 口端をプルプル震わせ、頑張って笑いを堪えるように、

 

「だけど、踏ん張って力を抑えたね。いや、今の力は奇跡だな。恐らくあれ程の力はもう、今の一護君には使えないだろう。何たって、そういう〝システム〟だからね」

 

 だけど……と刹蘭は続けてセリフを吐く。

 

「死神時代の一護君……君はその時の力を、優に超えてしまったよ」

 

   *

 

 更に一護の月牙は、あらゆる強者に感じ取られていた。

 

「何、今の……。ずいぶんと凄い力が働いたものね」

 

 口に出していったのは幻獄七夢卿のエリゼベート・ピーダネルだ。

 

「まぁ、あんな力、アレが黙っている訳ないか」

 

 直ぐに超然とし、歩む漆黒の衣を着たピーダネル。その口元は不敵な笑みを作り上げていた。

 

「終焉は近いのかもしれない。また、あの戦いが始まる。どの時まで、私は静かに身を潜めるとしようか」

 

   *

 

「今の力――《原初》にも届きかねない霊力だな」

 

 黒い司教服のような服を着た男が、何処かの異次元から目を見開いている。

 

「故に、そろそろ私の出番が来るだろう」

 

 男は何かを悟ったかのように言う。

 

「さぁ、準備は良いかい――聖守護天使エイワス。世界の終りは近いのかもしれない。ああ、この時のための私たち『神のシルベ』だ」

 

 男、《星天》の名を冠する者は歩む。

 終わりの近い時を刻みながら――

 

   *

 

「アハハハハハハッハ、アハハハハ!!」

 

 一護の力を感じ取った男は、ナニかなる場所で子供のように大爆笑していた。

 

「踊る阿呆に見る阿呆、飛び入り大歓迎のパーティーってことで――とか言っちゃったけど、これじゃあ黒崎一護の独壇場じゃん! クク、アハハハハハ! もう刹蘭さんもお人が悪い! 三流映画をダラ~とした気分で高みの見物気取るつもりだったけど、これじゃあ僕も動かざるを得ないじゃないか!」

 

 空っぽの男は、空っぽな言葉を紡ぎながら言う。

 一護が幻想郷にやってきた時から、神様気分で俯瞰から監視するように眺めていたが、これは干渉しないと面白くない。

 よって――

 

「さぁ刹蘭さん。僕らも動くよ。動きまくりますよ。これは大運動会だ。終わりの時と、そして始まりの時は近いですよ~」

 

 傍観者は動き出した。

 

   ***

 

 ―――――――――

 ……深い、深い、奈落よりも地獄よりも、なお深い暗黒の極地。

 ********ここにいるぞ。

 どこにでもいる。無限にいる。ソレは祝詞を掲げながら、次元すら超えた一護の力にすら気づかず、いやそもそも“そのような塵芥程度の力では関心すらしない”、ソレは新しい時代を見つめる。

 ――――誰も関われない。誰も手を出せない。

 **可能性分岐、無限に並列している多元宇宙、その更に上位次元、別位相より笑う。

 過去? 現在? 未来? あらゆる可能性があるのなら、その理想郷で夢を紡ぐがいい。

 混沌とした暗黒の波動が、欲にまみれた祝福の王道を歩む。

「……綺麗だ」

 我が真言により開闢しろ――『極界・夢創天世』

 

   ***

 

 そして一護は……月牙を放った後、

 

 力なく、湖の岸に倒れていたのだった。

 

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