東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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色々と有り、また更新が遅くなりました申し訳ないです。


第44斬【いざ、地底へ】

《1》

 

 博麗神社の敷地内に沸いた温泉。

 しかし、それと同時に湧いてきた異形の者たち……地霊。

 その異変を解決するべく、現在三人は地底世界に向かっているのだ。

 

「ここが地底世界につながる道か」

 

 奈落の底に向かって黒い口を開ける、地底への道を落ちるように進む三つの人影があった。

 

「いやぁ~、味気ない道中だよな~。もっとこう緑が欲しい。いくら地底への道なりといってもよ、ここまで何もないとしょうもなさすぎるだろ?」

 

 魔女の霧雨魔理沙は嘆息を突きながら、言葉を吐いた。

 辺りは地面が剥き出しの、本当にただの大きな穴の中に落ちていっているようにしか映らない。

 

「前々から言ってるけどね、異変解決の時はもう少し緊張感を持ちなさい。足元すくわれるわよ」

「大丈夫だって。こう見えて、今までどうにかなっちまってるしな」

 

 巫女であられる博麗霊夢の戒めを、魔理沙は気楽そうに飄々とした態度で答えた。

 

「それに霊夢はもう少し肩の力落としたほうがいいぜ。こういつも眉間にシワ寄せてると、直ぐにしわしわの婆さんになっちまうぜ」

「……ねぇ一護。目の前の魔女をこの奈落に、思いっきり地の底まで叩きつけていいかしら?」

「それを行う労力に時間と体力を無駄遣いしたくないから、止めたほうがいいだろ」

「それもそうね」

 

 少年、黒崎一護は無難に答える。

 ここでいちいち軋轢を生んでは、異変解決どころではなくなってしまう。

 

「それにしても何か鬱陶しいな、これ」

 

 魔理沙が自分の周囲に浮かぶ小さな四つの八卦炉を見ながら呟く。

 

「しょうがないでしょ。紫が持って行けと煩かったんだから」

 

 霊夢の周囲にも同じく、陰陽玉が付き添うように浮いている。

 紫に渡された物だが、いまいち用途が分からない。攻撃の補助などをしてくれるのだろうが、その他に何か使用できるのだろうか?

 

「う~ん、本当に何なんだろうな? 私は八卦炉、霊夢は陰陽玉、一護は……えっと。それなんだっけ?」

「代行証、っぽいものだな」

 

 一護の周囲には死神代行戦闘許可証、通称「代行証」を円球にデザインしたものが同じく四つ浮いていた。

 

「なぁ霊夢。そういや俺、あんまり地底のこと詳しくねぇんだけど、どういうところなんだ?」

「一言で言えば旧地獄。地獄だった場所よ」

「何だそりゃ?」

「行けば分かるわ。その他に旧地獄には忌み嫌われた妖怪や鬼たちが暮らす世界。正直、ここに出てくる妖怪は並の妖怪じゃないわよ。気を引き締めなさい」

「ああ」

 

 確かに、この奈落の底へと進むごとに濃密な妖力を感じ取れる。まるで地獄の釜が開き、そこには溶岩にも似た灼熱地獄があるかのように。

 

「こっちも異変解決スペシャリスト三人組だぜ。例えどんな妖怪が出てきてもイチコロだぜ」

「あんたは前の異変で何を学んだのかしら? 諏訪子や神奈子にボコボコにされたって聞いたわよ」

「それはもう過去の話だぜ。今の私はあの頃より桁違いに強化されているんだよ」

 

 と、楽観的に言う魔理沙だが、こう見えて霊夢に負けず劣らずの負けず嫌い。まだそれほど日数は経っていないが、強くなっているのは確かなのだろう。

 一護もあの戦いはとても経験を積めた。斬月を握り締める事も出来た上、符名無しのスペル『卍解』も会得できた。諏訪子と加奈子には感謝している。自分自身を格段にレベルアップ出来たのだから。

 そして、今回の異変は地底世界……地獄だった場所。相手は未曾有、どんな妖怪が現れるかもわからない未知の世界である。下手をすれば、今までの異変よりも解決が困難になるだろう。それ故に前回の異変での成長は、とても功を奏したと言える。

 

「……あれ、そう言えば一護の符名の付かないスペル、えっと『卍解』だったかしら? あれ私、実際にはこの目でまだ見てないのよね」

「あ、私も見てないぜ! 耳では聞いたが、目ではしっかり見ていない!」

「出す機会がなかったからな」

 

 一護の最後の切り札とも言うべき『卍解』の事を話はしたが、まだお披露目はしていない。

 斬月の方は妖怪退治で出したので、二人は知っている。しかし『卍解』を出すレベルの相手とは、果心居士以降現れてはいないのだ。

 だが……

 

「今回の異変では必ず出す」

 

 探査系が苦手な一護でも、奈落の底から怖気が走るほどの力を骨の髄まで感じ取れる。それ故に相手に不足なし。いや、それどころか下手を打てば自分がやられてしまう。

 この異変は、そんなレベルの相手なのだ。

 

「――どうやら、お出ましのようね」

 

 霊夢が、そう呟いたのと同時だった。

 

「ん、どっから――イテェエッ!」

 

 ゴン! と一護の頭頂部に桶が落ちてきた。

 なかなかの質量を保持していたのか、桶だけが落ちてきたかのような音ではなかった。

 

「くそッ、何だよこりゃ!?」

 

 一護は落ちてきた、少し大きめの桶を両手で抱き抱える。

 結構痛かったのか、ちょっと涙目な一護。頭から少し血が垂れていた。

 

「何か入ってる感じだったが……」

 

 と、中を覗き込んでみると……

 にゅっと、桶の中から人の顔らしきものがこちらを見ていた。

 

「うぉおおおお!!」

 

 驚いた一護は、その桶を放り投げる。

 しかしその桶は、落下せずまるで上から紐でぶら下がっているかのように、その場に留まった。

 

「お、何だあの桶? すげぇな浮いてるぞ。上から縄で吊り下ろしてんのかな?」

「馬鹿言ってないで、感じるでしょ魔理沙。あの桶、もとい中にいるであろう妖怪の力が」

 

 言われてみて、確かにあの桶から禍々しい妖力を感じ取れる。

 

「……出てこいよ」

 

 一護が静かに言うと、桶の中からヒョコッと幼い少女が顔を出した。

 緑色の髪をしたツインテールで、一枚の白い着流しを着ている。

 そして恥ずかしがり屋なのか、頬を赤らめを顔を出したり、少し覗かしたりしている。

 

「……随分と愛らしい妖怪だな」

 

 率直な感想。

 ここで出てくる妖怪はまず危険だと思っていたが、案外そうでもないのかもしれない。あくまで偏見、世論だけであっての勝手な浮世話に過ぎない噂だったのかもしれない。

 

「危険性はなさそうだぜ。少し話でも聞いてみるか」

「ちょっ、魔理沙! 下手に近づかな――」

 

 魔理沙が桶の少女に近寄ろうとした途端だった。

 烈火怒涛の勢いで、無数の弾幕が桶の少女から放たれたのだ。

 

「――なッ!?」

 

 幼い少女から放たれたとは思えない、凄まじい猛攻の弾幕。速さ、妖力、そして数。さながら裂帛の気合で放たれた力は、油断していた魔理沙に容赦なく襲いかかった。

 魔理沙は必死に避けつつ後退する。それと同時に星型の弾幕を展開し、迫る弾幕に対して挑んだ。

 

「なるほど、見た目によらずとても危険な気質かもね、この妖怪は。ほら見なさい、噂通りってやつよ」

 

 霊夢は弾幕の飛んでこない安全域から、魔理沙に少し嫌味を添えていう。

 

「そうみたいだぜ! それなら私も本気でやれるってもんよ!」

 

 相手がやる気満々なら、こちらもそれを堂々と迎撃できる。

 幼い少女であり、とても内気な性格っぽいから、可哀想という観点で戦いは避けたかったが、ここまでの力を見せつけられては最早戦う以外に余地はない。

 そして魔理沙も弾幕を展開し、戦闘態勢に入ったのだった。

 

『……霊夢、聞こえるかしら?』

 

 魔理沙の戦っている時に、陰陽玉から八雲紫の声が響いた。

 

「なにコレ?」

『陰陽玉を通じて、あなた達とお話が出来るようにしたのよ。私と河城にとりの力によってね』

「そんな事が出来るならもっと早く伝えなさいよ」

「にしてもすげぇな。そんなことが出来るなんて」

 

 つまるところ通信機。

 一護的には携帯電話と変わらないので、どこか懐かしい思いが膨らんだ。

 

『で、霊夢の陰陽玉には私と萃香、あと射命丸文が担当することになったわ。色々と助言とか、戦いの補助をしてあげるから』

「紫は分かるとして、あとの二人は必要なさそうなんだけど」

『何よ~! この中で一番旧都に詳しいのは私なんだからな! 全力で私に頼られろ』

『そうですよ。是非とも私もサポートしますから。いや本当、たくさん面白いネタがありそうで助かります』

 

 と、紫の声から伊吹萃香と射命丸文に切り替わった。

 萃香はいいとして、文の文言は完全に文々。新聞の為である。

 

「……ちなみに俺は?」

 

 なぜか嫌な予感がしつつ、紫に聞いてみた。

 

『ええ、一護君の担当は――』

『黒崎一護ォ!』

 

 紫の声を引き裂くように、一護の周囲に浮いている代行証っぽい球体から、鼓膜を潰すかのような怒声が響き渡った。

 

「つッ、この声は……」

 

 どう考えても、どう聞いてもグリムジョー・ジャガージャックである。

 

『てめぇ何俺に黙ってんな所に出向いてんだアァ!? 言っとくがな黒崎、テメェがそんな下らねえ場所に行くから俺は八雲紫に強引にこんなことをやらされてんだぜ』

「……うるせぇ」

『オイ聞いてんのか!? 俺が出向くなら分かるが、何で俺がこんなサポートじみた詰まらねぇことやらされねぇといけねぇんだ?』

「知るかよ! つうかお前、そんな素直に従う奴じゃねぇだろうが!? 嫌ならやるなよ!」

 

 一護は至極当然のことを突っ込んだ。

 

『う、うるせェ。こっちにも事情があるんだよ。それより黒崎お前に――』

『ああもう、話が進みません!』

 

 と、何か通信機から押し退けるような音と共に魂魄妖夢の声が聞こえた。

 

『あ、えっと黒崎さん。私たちが微力ながら全力で助力致しますので、ご安心ください』

「お、おお。そいつは助かる。ありがとうな妖夢」

『い、いえ、とんでもないです! 私なんかがお力になれるか分かりませんが、よろしくお願いします!』

 

 一護は心底良かったと思った。

 妖夢なら真面目だから、こっちも安心して頼ることができる。

 

『愚劣だ、黒崎一護。よもや貴様、先の桶、本気で躱せなかった訳ではないだろうな?』

「……この声は」

 

 そして妖夢と入れ替わるように、何やら辛辣な言葉をとても聞き覚えのある男から頂いた。

 

『まさか、俺がこのような裏方をやらされるとはな。思ってもみなかった。だが手伝えと、俺の現状の主から言われた以上は、最低限お前に力を貸す』

 

 その声はウルキオラ・シファー。

 聞いていると、ウルキオラも随分と丸くなったのだなと一護は心底思った。

 

「……つまり、俺のサポート役はグリムジョーに妖夢、ウルキオラか」

 

 何だこの面子は?

 こんな組み合わさえ、想像したことすらなかった。

 

『ちなみに、あそこで戦ってる魔理沙の補助はパチュリー、アリス、にとりにやってもらってるわ』

「パチュリーとアリスは分かるけど、にとり?」

『ええ、私と開発したこの通信機の確認と、後は旧都の妖怪に多少なりとも詳しいという点でね』

「成程。じゃあ、俺の面子も変えてほしい。主にグリムジョー辺りを」

『あァ!? テメェ今なんつった!? 俺が役立たずだとでも言いてぇのかコラ! 言っとくがな黒崎、テメェが出向くより俺が行ったほうが直ぐに事が片付くんだよ。分かってんのか!?』

『愚昧だグリムジョー。お前では解決するどころか、事を大きく荒立てるだけだ。何の解決にもならん、お前の質ではな』

『ウルキオラ、テメェ喧嘩売ってんのか?』

『そう聞こえたのなら、そうなのだろうな』

『ああ分かった。なら受けてたってやる……表出やがれ!』

『下らん、お前では俺にかすり傷一つ付けことなどできん』

『上等だァ! 腕の一本は覚悟しやがれウルキオラ!』

『ああもう! 二人とも喧嘩はやめてください! 今はそのような場合ではないでしょう!』

 

 妖夢が必死に仲裁に入る。

 一護は本当に頭を抱えた。

 

「くそ……とてもじゃねぇが、戦いに集中できねえなっと!」

 

 そして別方向より複数の弾幕が飛んできたので、直ぐさま回避に転じる。

 

『お、こいつは懐かしい。土蜘蛛だね』

「新手ってことね」

 

 霊夢が前方を見据えると、そこには金髪の黒い上着の上からジャンパースカートを着ている少女がいた。

 

「おやおやキスメが誰かと戦っていると思いきや、まさか人間が三人もいるとは。地底に遊びに来たのかい……そんな顔じゃないか」

 

 どうやら今、魔理沙と戦っている少女はキスメと言うらしい。

 目の前の少女はキスメと言う妖怪より話が通じるようだ。いきなり襲ってきたりなどはしない。

 

「あんたは話が通じそうだ。俺は黒崎一護。あんたは?」

「ん、私? 私は黒谷ヤマメ。地下に住まう土蜘蛛よ」

「土蜘蛛。また危険極まりない妖怪。流石、地底世界に封じられた種族ということかしらね」

 

 霊夢がぼやくように言う。

 

「危険とは失礼ね。私は地底の妖怪たちに比べたら、まだまだ意思の疎通が取れる方よ。けどまぁ――」

 

 空間が震撼する。

 突発的に凄まじい殺気がヤマメから放たれた。同時に襲来する無数の、殺意を乗せた弾幕。

 

「――ッ!」

 

 一護はそれらを反射的に、自分の弾幕で応対する。

 爆破と火花が飛び散る中、ヤマメは詰まらなさそうに言葉を吐く。

 

「ええ、ええ。私は話が通じるわよ。だから何? そもそも私は人間というものが大嫌いなの。生理的に受け付けないのよ」

 

 ギチギチと骨が軋むような音を立てながら、ヤマメは愉しそうに笑う。

 獲物を目の前にした蛇、いやこの場合は巣に捉えた虫を捕食する蜘蛛が如く、垂れ流す妖気が人間を噛み砕くように空間を支配する。

 

『いい霊夢。地底の妖怪は地上から追放された危険な連中よ。出会い頭に倒しなさい』

「そのようね。でもどうせ、私も対峙する気満々だし、ちょうどいいわ」

 

 紫の助言に霊夢は頷いた、その瞬間――

 

「喰らってやろう。醜い肉片にした後で、私の腹を満たしてくれ」

 

 弾き出された弾幕は、先の不意打ちとは段違い。

 間隙なく発射された弾幕は、まさに人間を殺すには余りある力だ。一発一発が人間を殺害できる。

 

「――――」

 

 しかしそれは人間に当て嵌めた時の話である。

 こっちは博麗の巫女と、死神だ。このような枠には嵌らない。

 一護が飛び出すと同時に、漆黒の衣を纏い手には大型の出刃包丁のような大剣――斬月が握られる。

 そして横一閃……霊力を乗せた斬月は、容易くヤマメの弾幕を引き裂いた。

 

「はは、ははははは! どう、醜いでしょ? おぞましいでしょ? 恐怖するでしょう? それが地底の妖怪。理解しなさい、あなた達はもう、糸に因われた獲物でしかないの」

 

 ぎらつく牙を見せながら、ヤマメの目が禍々しく光る。

 

「……霊夢。こいつは俺がやる。初戦だ。このどう働くか分からない代行証?を試してみたい」

 

 自分の周囲に浮かぶ四つの代行証を模した球体。そしてこれは戦いの補助をしてくれるらしいが、一護を担当するのは妖夢、グリムジョー、ウルキオラと言った組み合わせ。

 どうしても不安な一護は、本格的な異変解決を実行する地底の都市に行く前に試してみたいのだ。

 

「分かったわ。けど油断は大敵よ。相手は地下の妖怪、漫然と戦えばあんたでも痛手を貰うわよ」

「ああ、分かってる」

 

 斬月を構え、一護はヤマメと対峙する。

 地上の妖怪とは違う。相手は忌み嫌われた能力を有する、危険な妖怪だ。

 初めから本気で、もしかしたら『卍解』を使わざるを得ないかもしれなと考えながら、一護は臨戦態勢に入った。

 

「いいでしょう。なら、あなたから砕いて、引き裂いて、食らってあげる。でもまぁ、なかなかいい男だから首から上は残してあげてもいいよ」

「そいつは御免だ。それに、どっちが勝つかはやってみなけりゃ分からない」

「へぇ、面白い。じゃあ試してあげる」

「望むところだ」

 

 そして一護とヤマメの戦いが始まった。

 

    *

 

「捕まえてあげる。蜘蛛の巣に捕われた獲物は、もうただの餌なのよ。蜘蛛『石窟の蜘蛛の巣』!」

 

 無数の弾幕が、さながら蜘蛛の巣を描くように放たれる。

 初発はヤマメのスペル。

 捕らえるというより、完全に殺しに来ている弾幕だ。回避はどうにか可能なレベルではあるが、一つでも被弾すると危険と悟った一護は、同じくスペルで対抗する。

 

「黒符『月霊幻幕』!」

 

 無数の漆黒の三日月状に構築された弾幕。

 同時に颶風の勢いで放たれると、ヤマメの弾幕を相殺し、またはかき消し、または逆にかき消された。互角、現時点での弾幕の競い合いは相を打つ。

 火花が散り、轟音を放ちながら爆発の色合いを重ねる先で、ヤマメは不敵な笑みを零していた。

 

「へぇー、成程ね。人間というのは、本気を出せばここまで強いのね。食前のいい運動になりそうだわ」

 

 己の蜘蛛の巣の弾幕を引き裂かれながらも、ヤマメは続くスペルを放つ。

 

「瘴気『原因不明の熱病』!」

 

 無数の弾幕が、一護に放たれる。

 

「喰らうか……よ?」

 

 瞬間、一護は自分の体の異変を感じとった。

 同時に――

 

「ぐ、がァッ!」

 

 一護を襲ったのは例えようもない吐き気だった。毒に満ちた大気にいるような、生存本能が死の危険を感じ取らせるような、清浄さを失った空間。

 体中が病んだかのような激烈な蟻走感。皮膚の下で蛆が這いずっているような感覚が走り、同時に首から上は灼熱に犯されたかのような激痛が絶え間なく一護を掻き乱す。

 幻聴に厳格、攪拌する五感は宙に浮くことすら許されなくなり、全身から腐ったような激臭がしていた。

 頭と胸を掻き毟りながら血と嘔吐を繰り返す。

 

「あッ、グ、がぁ――あああぁああァァァァァッッ!」

 

 血反吐からは糞便の臭がした。腹が爛れる。脳が腐る。全身があらゆる死病に侵された、形容しがたい地獄のような苦しみ。

 そんな中、ヤマメは京楽な笑みを浮かべていた。

 

「どう、これが人間にとって、いえ生物にとって最大の苦しみ。それは病。絶対の死と苦痛を与える最悪の病気よ」

 

 つまりヤマメの真骨頂は……

 

「私は病気を操る程度の能力。あらゆる生物にとって私は、最悪の能力を所有しているの」

 

 そう、一護はヤマメの操った病に犯されているのだ。

 病魔が一護の全身を喰らうように、生命を根絶するが如く蝕んでいく。

 

「さて止めを刺してあげる。死の恐怖は充分味わったでしょう? 次は喰われる恐怖を味わう時よ。どだい人間では、到底私に勝つなんて不可能なのよ。いいえ、私にというより病からか」

 

 問答無用に叩き込まれた病など、一護では防ぎようがない。

 蹂躙、陵辱、後には何も残らない。それだけ地底の妖怪は危険なのだ。

 

「美味しく、食べてあげる」

 

 そしてヤマメが一護に手を伸ばした瞬間……

 

『病か。成程、確かに通常の手段では防ぎようのない力だ。だが、運が悪かったな』

 

 一護の周囲に浮かぶ代行証から、ウルキオラの声が響いた。

 

「何……この声?」

 

 ヤマメが眉をひそめる。

 しかしウルキオラはそれに答えることなく続ける。

 

『事象の拒絶……それが俺のサポートできる力だ』

 

 あらゆる起きた事象を拒絶し、一護の病を超回復させた。

 無数の病に犯されていたのが嘘だったかのように再起したのだ。

 

「すまんウルキオラ。すげぇ助かった」

『礼などどうでもいい。今すぐソイツを倒せ黒崎一護』

「ああ、分かった」

 

 一護は再度、斬月を構え直す。

 

「くそッ! どうして私の病が!? 人間如きに破れる訳がないのに!」

 

 目視不可、回避不可の必中の病の能力を解放するも、今の一護には通用しない。

 猛威を振るう病の毒は、ウルキオラのサポートにより瞬時に回復される。

 

「悪いな。今の俺は心強い味方が付いているんだよ!」

「な、にィィッ!」

 

 一閃、霊力を乗せた斬撃を放つと、ヤマメはそれに飲み込まれたのだった。

 

 

《2》

 

 ヤマメとの戦闘が一護の勝利で終わると、ちょうど同じタイミングで魔理沙もキスメと呼ばれる少女に勝利していた。

 そして学んだ。

 本当に、地底の妖怪は危険だ。一護に至ってはウルキオラの支援が無ければ、病に犯されて、そのまま死んでいたであろう。

 一護の力不足という点もあるが、これは今までにない妖怪だった。概念的な攻撃を防ぐ手段を、今の一護にはない。そして、この先には地底の都市。ヤマメレベルの妖怪が住む、真に恐ろしい場所なのだ。

 

「これで分かったでしょ。気を引き締めなさい。油断するしないの以前に、もう出会い頭に倒すのが最善の手段よ」

「確かに。あのキスメって妖怪もなかなか強かったぜ。けどまさかパチュリーにアリス、にとりにサポートされるなんて夢にも思わなかったぜ」

『ええ、感謝するのなら私の本をちゃんと返すのね』

『まさか雪かきと温泉の後にこんなイベントが待ってるなんて。早く家に帰りたいわ』

『私の開発した道具もなかなかのものね。ふむ、次はもっと改良できるかも』

 

 各々の声が、魔理沙の四つのミニ八卦炉から聞こえた。

 

「まぁ実際、このサポートシステムは本当に役に立った。ウルキオラに助けられるなんて初めてだったからな」

『その為に俺はここにいる。だが黒崎、あまり俺達の力を過信しすぎるな。あくまで補助程度だ。その道具からは、俺達の力を十全には扱えない』

「ああ、分かってる。そうだと思ってたからな」

 

 けど、ウルキオラは事象の拒絶で病から助けてくれた。

 つまりグリムジョーも妖夢も、何かしらの力で支援してくれるだろう。

 

『けど、やっぱり危険ですね地底の妖怪は。それにこんな深く大きな穴があって、深奥には都市ですよね。いや~、地上の強度が心配です』

 

 通信機から、文が面白そうに言った。

 

『まぁそれは心配要らないわ。地上が地下都市まで陥没する事は多分無いから』

『あら、言いますね。何か根拠でも?』

『何も。今まで落ちなかったのが何よりの証左になるから』

『あ~、ふむふむ成程。流石、年増のようなお考えをお持ち――』

 

 文と紫が何やら話していたが、文が禁句を言った瞬間、二人の会話が途切れた。何があったのかは考えないようにしよう。

 そして、そんな時。

 

「……着くわよ、地底の都市」

 

 霊夢が呟くと、その先に灯りが見えてきた。

 

『へぇ、これはまた。あっちもやる気満々みたいよ』

 

 萃香の声が響く。

 

『いい、これからあんた達に仕掛けてくる敵はさっきの土蜘蛛以上よ。お、この嫉みを含んだ視線はアイツか。はは、面白い戦いになりそうだね』

 

 陰陽玉越しにも力を感じ取れるのか、萃香が楽しそうに言う。

 

「ヤマメ以上か……」

 

 一護は再度、改めて緊張感を持つ。

 

『おい、ウルキオラ』

『ああ。グリムジョー、お前も感じたか』

 

 そしてグリムジョーとウルキオラの声も響いた。

 

『黒崎、気ィつけろよ。この先に破面が一人いやがる。しかもコイツは……』

「何だよ、破面がいるのか。お前ら以外にも幻想入りしてたのかよ」

『らしいな。本気でかかれよ。認めたくはねぇが、幻想入りする前は俺やウルキオラよりも強かった破面だ』

「……マジか」

 

 嫌な汗をかく。

 ヤマメ以上の妖怪たちに、ウルキオラとグリムジョーを上回る破面。

 これが今回の異変。

 死の恐怖を感じつつ戦わなければいけない。

 

「この異変を解決しないと幻想郷が大変なことになるわ。逃げることは許されない。解決して、みんなで必ず生きて帰る。いい、これは絶対よ。分かっているわね?」

 

 霊夢が確認する物言いで言う。

 一護と魔理沙は頷き、

 

「行くわよ……本気で攻撃を仕掛けるわ!」

 

 そして地底都市に入ると、まず最初に起こったのは凄まじい開戦の号砲だった。

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