東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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遅くなり、申し訳ないです。
番外編を書いてたら、凄く遅くなりました、、、


第47斬【銀の星】

【1】

 

 私は魔術があまり好きではない。

 魔術というものはどうにも肌に合わない。小難しい本を読んで、変な文字覚えて、魔術業界の偉そうなやつに色々教わる。しかも座学が多いせいか身体が訛る上、無駄に目が疲れる。そもそも学生の頃の授業も嫌いだったので、苦行もいいところだ。

 ならなぜ魔術を、こんな嫌々ながら学んだか。

 簡単だ。

 喧嘩で魔術師に負けたからだ。鍛え上げた肉体を以てしても、魔術とかいう人間の範疇では太刀打ちできない術を使われたから。細い身体してるくせに、高慢で傲慢なクソ野郎に魔術を使われ負けた。

 イラっとした。

 だから魔術をマスターし、そいつに復讐してやった。魔術を練りこんだ拳でぶっ飛ばしてやった。

 やはり肉体のポテンシャルが、最終手にはものを言うと思ったよ。だから私は魔法学を片手間に、肉体を鍛え上げた。

 私は……魔術などという小細工より、殴り合いの方が性に合っているのだから。

 

   *

 

 地底にて再度、激戦を繰り広げる霊夢や魔理沙、一護にスタークを陰陽を象った通信装置を使い、それをもって見守る地上組。

 出会い頭に襲ってきた二人の妖怪――火焔猫燐と霊烏路空に相対する霊夢と魔理沙の姿を見ている計六人は、特に緊張した面持ちもなく援護と通信を行っていた。

 

「全く、あんたも体力馬鹿ね魔理沙。あれだけ魔力を消耗していたのに、まだここまでの鬩ぎあいを行えるなんて。言いたくないけど、流石は私の大図書館から本を盗んでいくだけのことはあるわ」

 

 今回の戦いの魔理沙担当はパチュリーがする事となり、通信装置に向けて魔理沙に話し掛ける。

 

『おう! 褒めてもらって嬉しいぜ。お返しにまた盗みに行ってやるぜパチュリー』

「その余裕さがあるんなら私の援護は必要なさそうね」

 

 魔理沙から現在戦っているとは思えないほどの明るい口調で返答があったのに対し、少し呆れるパチュリー。実際、燐からは霊魂のような青い炎が弾幕の如く放たれ、空からは太陽なような灼熱の大弾が放たれている。当たれば満身創痍は必然となってしまうだろう。

 そんな中であっても魔理沙は明朗快活としているのだ。

 

「それより、あんた達が戦っている妖怪、どうにも不可思議ね。最初の読み通り、誰かに操られているのは間違いなさそうだし」

 

 同じく魔理沙を見守るアリスが、現状を推察する。

 

「多分……というか確実に操っているのは今、黒崎さんが交戦中の謎の男。相当なポテンシャルね。その妖怪二人も恐ろしいまでの猛者なのに、それらをコントロールしながら黒崎さんとも戦っている。何ていうか、一人で大舞台を全て統制しているような、そんな化物じみた才腕を感じるわ」

『お、やっぱ一護は誰かと戦ってるのか? 凄く気になるぜ。こんなところの黒幕と張り合えるなんて、羨ましいからな』

 

 通信機の向こうから暴力じみた爆音と風切り音が生じる最中でも、魔理沙は興味津々に聞いてくる。

 

「ええ、そうよ。黒崎さんとスタークっていう破面は急に出てきた変な男と交戦中よ。名前は確か――」

「アレイスター・クロウリーと名乗っていました」

 

 別のテーブルを囲い、一護を見守っている妖夢から言葉が飛んできた。

 

『アレイスター・クロウリー? 知らない名前だな、どんなやつなんだソイツは?』

「能力は不明ですが、どうやら地霊殿の主である少女を操って、過去に一護さんが戦ってきた相手を再現しているようです」

「再現というより召喚に近い印象を受けるがな」

『再現? 何かよく分からないけど、面白そうなことになっているのは理解できたぜ』

『ちょっと魔理沙! あんたなに悠長にしゃべってんのよ! ちゃんと戦いに集中しなさいっての!』

 

 すると通信機の向こうから霊夢の叱責が飛んできた。

 

『言っとくけどねあの妖怪ども、それなりに強いわ。そして私たちは連戦で疲弊し切っているの。分かる? 悔しいけど、それなりに全力を出さないと勝てないのよ』

「全くもって霊夢の言うとおりね」

 

 溜息混じりにアリスが賛同した。

 地底に入った途端、力を使い果たす程の戦闘を繰り広げて、再び同じレベルの戦いを行っている。正味な話、正気の沙汰ではない。

 

「言っとくけど魔理沙、私たちの援護がなければ今頃あなたは負けてるのよ。そのへんしっかり自覚して戦いなさい。にとりなんてだんだん面倒くさくなって、うとうとしてるんだからね」

「……え、何か言った?」

『そんな口うるさく言われなくても分かってるぜ』

 

 会話の中でも、通信先からは劣悪な怨霊の悲鳴にも似た叫びと、大轟音を放つ発破が聞こえてくる。恐ろしいほどの激戦を繰り広げているにも関わらず、それを感じさせない魔理沙はある意味において緩和剤になっていると言える。

 程よい緊張感を保て、緊張の糸が一本切れただけでは場の趨勢を傾かせない。地上組にとって、それは精神的に和らげていると言えるのだ。

 

「ふふ、いいわね魔理沙。その余裕、溌溂とした雰囲気。霊夢もそのくらいの余裕はあって然るべきだと思うわよ」

 

 霊夢の援護をしている八雲紫が、通信機に向けてそう投げかける。

 

『はあ? あのね、私はいつだって真剣なの。異変解決で手を抜くなんてしないし、ふざけるなんてこともしないわ。この戦いは勝たなきゃいけないの。そっちももっと気を引き締めてやりなさい』

 

 怒りと呆れを孕んだ口調で答える霊夢。

 確かに敵の攻撃を一撃でもまともに受ければ、それだけで致命的な事になるのは明らか。敵が操られており、なおかつ稚拙な攻撃しかしてこなければ、即敗北を期していたかもしれない。

 

「まぁそうだろうね~。だって地獄鴉と火車だもんね~。私も接点はないから知らないけど、地底にいるくらいだもん。めちゃ強いと思うよ~。あ、戦ってるから強いのは分かってるよね~。変なこと聞いちゃった、ごめんなさ~い」

『……だれかその鬼を殴ってくれない?』

「暴力的な発言はダメだよ~霊夢~。そんなにご機嫌ななめならお酒でも飲んで、ぜ~んぶ放り投げたらいいんだよ~」

 

 今なお酒を飲み続けている伊吹萃香が、呂律の回っていない口調と頭の回っていない台詞を零した。

 

「あやや、とりあえず萃香さんは黙りましょうか。そんなことより、これはもういい仕事ですよ。私の手帳がネタで埋まる埋まる。次の新聞は私の記事で独占ですよ!」

『どうして私の周りにはまともな奴がいないの』

 

 通信先で霊夢が頭を抱えている。

 

「それはあんた自身もまともじゃないからよ。類は友を呼ぶって言うでしょ?」

『お願いだからそれを言わないで。私は絶対に認めないから』

 

 紫の悟ったかのような発言をしたため、霊夢のやる気が失われていった。

 

「まぁ心配しなくても、一護君が敵を倒してくれたらその洗脳も解けるでしょう。それまで耐え抜けば問題ないわ。仮に負けて死にそうな窮地に陥っても、私が通信機を介してスキマを展開するから、それで二人を救い出すことは可能よ。だから安心しなさい」

『そんなみっともない事されたくない。負けるなんて、いちいち前提に考えて戦うようなことはしないわよ。やるからには勝つから』

「おお~流石は博麗の巫女だねぇ~。プライドは一丁前ときた。ねぇそれよりこの神社にお酒はないの~?」

『プライドの欠片もない鬼が何言ってるの? あとうちのお酒を飲んだら承知しないわよ』

「…………」

『ちょっと文、あんたが無言で手帳に何かを真剣に書き綴っているのが一番怖いんだけど』

『おい霊夢、お前も結構呑気にしゃべってるぜ』

 

 すると横やりを入れるように、魔理沙が霊夢に声をかけてきていた。

 

『はあ! そ、そんなこと、ないわよ?』

『自信なさそうだぜ霊夢』

 

 本当に通信先で戦っているのか怪しくなるが、そんな中でも魔理沙は続ける。

 

『それに霊夢、勝ち負けは正直どうでもいいんだぜ。今の私は楽しめたらそれでいい。そう思ってるから』

『あんたそれ本気で言ってるの? いやもう、確かにそうね。あんたはそういうタイプだったわ』

『だから私は、今一護が戦っている相手が大いに気になっている。そっちの方が楽しそうだからな』

 

   *

 

「見事だ、黒崎一護、そしてコヨーテ・スターク。やはり一度戦った相手や、見知った相手の攻略法は熟知しているか。そして実際に戦っていない相手に対しても、素早く見切って対処している。いやはや、流石というほかない」

 

 地霊殿の中心で、ここの主人こと古明地さとりを操っているアレイスターが、顎をさすりつつ二人の戦局を見据える。

 一護とスタークは共に、目の前に現れる自分達の見知った相手の再現体を倒していっていた。

 朽木白哉と阿散井恋次の次はダークワンの厳龍、続いてバウントの狩矢神、十番隊隊長の日番谷冬獅郎とその朋友である草冠宗次郎、元三番隊隊長の天貝繍助、そこからはグリムジョーやウルキオラ、スタークを除く十刃の面々。他にも虚圏統括官の東仙要、古の破面アルトゥロ・プラテアド、十二番隊第七席の因幡影狼佐、地獄の黒刀も再現されている。

 倒しても倒してもキリがない。一護が戦ってきた相手でもある為、攻略するのはそう難しくない。その上、今は元No,1十刃のスタークもいるのだ。しかし再現される数が多いため、こちらの体力も霊力も衰えを隠せないでいる。

 

「いいぞ、では次だ。ここまで私を期待させておいて、失望させてくれるなよ。この試練を踏破した瞬間こそ、羽化登仙の夢心地を感じられるもの。さぁ行くぞ、これがお前の未来の敵だ」

 

 そして一護の前に、再び煌めく粒子が人体を形成していく。

 大柄な男、黒を基調とした服を身にまとい、黒髪をオールバックにしている。その男の名は――

 

「初代死神代行……銀城空吾」

 

   *

 

「誰だお前? 俺の知っている奴じゃねえのか」

 

 目の前に現れた男、銀城を見て一護は困惑する。

 今までの相手は例え戦ったことのない相手でも、頭の隅にはいた相手だった。しかし今再現された男は全く知らない相手なのだ。

 記憶にない、面識のない男は一護に向けて口を開く。

 

「よぉ一護、久しぶりだな。俺のことをぶっ倒しておいて覚えてねえのか。そいつは随分と悲しいじゃねえか」

「何言ってやがる、俺はお前なんか知らねえよ」

 

 投げかけられた男の言葉に、一護は一蹴した。

 本当に知らない。知るはずもない。何故なら目の前の男は、一護が“本来いた世界で倒すはずだった、未来の相手”なのだから。

 

「そうかよ。まぁ構わねえよ。俺のことを忘れていようが覚えていようが、やることは変わらねえ。なぁそうだろう、黒崎一護ォオ!」

 

 銀城は一護に向けて突貫する。

 それと同時に身に着けている十字架のネックレスが淡い光を放出すると、それが刀身にも柄のある身の丈ほどの大剣に成り変わった。その大きさはさながら斬月を彷彿とさせる。

 

「だから知らねえって言ってんだろうが!」

 

 同じく手に斬月を握り、銀城と応戦する。

 大剣と大剣が衝突すると、風切り音の烈風が吹き荒れ大地が陥没した。

 互角、そう見えたのも束の間、

 

「ウォォオオオオ!!」

 

 気合の裂帛と共に、一護が銀城を弾き飛ばした。

 

「クソッ! やるじゃねえか一護! 俺を殺した時より強くなってるじゃねえか! だったら俺も最初からとばしていくぜ」

 

 銀城の霊圧が膨れ上がると……

 

「――卍解!」

「なにッ!?」

 

 その言葉を口にする。

 膨れ上がった霊圧が、まるで爆発したかのように迸ると、そこには先ほどの銀城の姿からは一変していた。

 虚のような禍々しい姿。髪は白くなり、瞳の色は悪魔の如き黒白反転。下半身は体毛に覆われ、背中には翼が生えたかのように霊圧が放出されている。

 霊圧は隊長格レベルであり、それに加えて虚の力も混ざり込んでいる。それはまるで一護の虚化を思わせる力である。

 

「どうした? この姿を見せるのは初めてじゃねえだろ。何そんなに呆けてやがる。俺を殺った時のお前は、もっと迫力があったぜ一護!」

 

 先の速さとは別格。

 一護が驚く間に一気に懐に入られ、大剣を木の枝のような軽々しさで振るわれる。その上、その威力も絶大で、振るわれた余波だけで台地がめくり上がったのだ。

 

「チィ、テメェが何言ってるか分からねえが、勝手に俺のこと語ってんじゃねえよ!」

 

 対する一護は、斬月で応戦する。

 相手は卍解しているが、まだ斬月でも戦える。よって切り札を下手に出すのは危険だと感じた一護は、斬月とスペルで応戦する。

 

「黒符『月霊幻幕』!」

 

 一護の周囲に黒い三日月状の弾幕が展開され、それらが一斉に銀城に向けて放たれる。

 

「随分と変わった技を使うようになったじゃねえか。だが、そんなもん喰らうと思ってんのか!」

 

 大剣の切っ先を、迫る弾幕と一護に向ける銀城。同時にそこに霊圧が凝縮されていったかと思うと、それが赤い閃光となって一気に放出された。

 そう、紛れもない虚閃である。

 

「――ッ!?」

 

 拮抗する間もなく、一護の弾幕は虚閃に飲み込まれた。そのまま勢いの止まらない虚閃が、一護をも飲み込もうとしたが間一髪で躱し切る。

 それを読んでいたのか、銀城は一瞬で一護の背後へと回り込み、大剣を一護めがけて剣戟を振り放った。

 一護はそれを斬月で防ぐも、先の意趣返しかのように次は一護自身が弾き飛ばされる。

 

「次は避けられねえぜ一護!」

 

 再び剣の切っ先を一護に向け、銀城は虚閃を発射した。

 

「……黒符『天幻月牙』!」

「なにッ!?」

 

 虚閃に包み込まれる寸前でスペルを唱えた一護。

 その瞬間、銀城の周囲には三日月状の弾幕により包囲され、吸い込まれるように一斉掃射されたのだ。

 一護と銀城、お互いの技がヒットするが……

 

「…………」

「…………」

 

 共に痛烈な一撃とはなっていなかった。

 

「やっぱアンタただの人間、じゃねえな。卍解に虚閃、そしてその姿。俺が言うのも何だが、普通じゃねえよ。虚化とも違うようだしな」

「それはこっちのセリフだぜ。いつからテメェはんな小細工するようになった? テメェの技は月牙天衝だけじゃなかったのか?」

「アンタの知ってる俺と、今の俺は違うってことなんじゃねえのか。それに何回も言ったが、俺はアンタなんか微塵も知らねえんだよ。もし会ってたら、アンタみたいなドギツイ奴を覚えてないわけないだろう」

 

 ――それにだ。アレイスターと言う男は未来の敵だと言っていた。それを真に受けるなら、目の前の相手は何の因果か自分と将来戦うことになっていた相手と言うことだ。

 ここまで考えるとある疑問が生じる。自分は死神の力を失ったのに、なぜ未来の敵がいるのか?

 思考をそっちに持っていくとキリがないと判断し、一護はいったん目の前の男を倒すことに集中する。

 

「そうだな、俺もよく分かっちゃいねえが、今はそれを氷解するよりテメェを倒したいと俺の体が疼いてんだよ一護。どんなカラクリか興味はあるが、そんなもんは後回しだ。決めようぜ、テメェもそれが望みだろう」

 

 銀城は大剣を構える。どこか儚げな色を感じるも、直ぐに滾るような闘志に塗り替わる。燃え上がるような霊圧が、大剣の刀身に収斂されていく。必殺にも等しい奥義が来るのは一目瞭然である。

 

「そうだな。今はとっととアンタを倒して、アイツも倒さねえといけねえ。下手に時間を喰うわけにもいかねえから、これで決める。――黒斬」

 

 一護の斬月にも、銀城に負けず劣らずの霊圧が集中する。

 そして同時に、足に力を込め、大地を踏みしめながら叫ぶ。

 

「「月牙天衝!!」」

 

 互いに放たれた月牙天衝がぶつかり合い、熾烈な勢いで拮抗する。衝突の余波で周囲の岩壁や大地が消し飛んでいったが、直ぐに決着がついた。

 両者共、この技が決め手にならないと即座に踏み、月牙天衝を放つと武器を構え斬り込んでいたのだ。

 袈裟斬り……ほんの数瞬の違いだった。

 先に動き、先に斬り込んでいた一護が、銀城を斬っていたのだ。

 

「くそッ、またか……俺はまた、お前に負けんのか。いや、これでいい、お前になら負けても悔いはねぇよ一護」

 

 斬られた銀城は、そもまま硝子が割れるかのように飛散し雲散霧消と化す。

 それを見た一護は、どこか心の奥で遣る瀬無い気持ちになった。

 知らない相手だった。見たことも、戦ったこともない相手なのに、相手を倒した瞬間、言いようのない沈鬱な感情が渦巻く。しかしそれと混同するように、強い憤りも感じていた。あくまでアレイスターが再現した偽の存在であっても、今まで戦ってきた相手の信念や矜持が踏みにじられている気がして、怫然となるのだ。

 

「まだ終わりだと思うなよ。こっから先こそが地獄、滅却師どもが所属する『見えざる帝国』。その中でも卓越した集団『星十字騎士団』が相手をする番だ」

 

 一護の思いなど知る由もないアレイスターは、更なる再現体を現出しようとしていた。

 

 

「ふぅ、やれやれ。流石に少し疲れてきたな……」

 

 スタークは帰刃状態で戦闘を継続していたのか、疲弊の色が見えてきていた。

 

「ザエルアポロ・グランツ……そうか。0番の時はあそこまで強かったのか。なるほど、もし俺がここで鍛えていなかったら負けていたなこりゃあ」

 

 消えゆく昔の同胞を見つつ、座り込みたい体をどうにか保たせる。

 

「このままだとジリ貧か。ここらで仕掛けねえとまずいな。敵さんの手札はまだまだ残っているようだし、こいつは直接叩かないと勝ち目はない」

 

 スタークは響転で一護の隣へと移動する。

 そしてアレイスターと、対峙する形となった。

 

「分かっていると思うが、このままだと状況が悪化する一方だ。そろそろ試練とかいう遊びは終わらせて、あの男を討ってもいい頃合いだと思うぜ」

「ああ、分かってる。それに遅すぎたくらいだ。もっと早く、そうしておくべきだった」

 

 一護がスタークに同意する。

 しかし心のどこかで、自分が戦うはずだった未来の敵とやらが気になるのも事実だ。銀城という男もだが、今アレイスターの口から滅却師という聞きなれた単語が出てきた。

 滅却師といえば、一護の仲間である石田雨竜が該当する。しかし滅却師は死神によって滅ぼされたと聞いていたが、それが自分の未来の敵となって現われるらしい。見てみたいという欲求が少なからず生まれたが、一護はそれを頭の片隅に追いやる。

 

「行くぜスターク。こっからは本気で仕掛ける。……頼むぜ」

 

 ザッと、一護は地面を蹴り、一気にアレイスターに突っ込む。

 

「ああ、そう来るか。読めていたとも、君たちが私の試練に、律義に最後まで付き合ってくれないことなぞ、童でもお見通しだったろうよ。しかしまぁ、一応は未来の敵を一人でも倒してくれたんだ。赤点ギリの及第点と言ってところだろうな」

「饒舌なのもたいがいにしやがれ!」

 

 一護は斬月に霊圧を込めると、スペルを唱える。

 

「黒斬『月牙天衝』!」

 

 至近距離より放たれる、烈々たる猛威。斬撃に乗せられた霊圧が大地を捲りあげながら、アレイスターと洗脳されている古明地さとりに迫る。

 

「おいおい冗談だろ? こっちには操り人形兼、人質が――」

 

 アレイスターが自身の傍らにいる、さとりの腕を掴み訴えようとするも……

 

「あんたは少し黙ってろ」

 

 不意を突かれたかのように、アレイスターの懐にスタークが瞬間移動さながらの速さで入っていた。

 そこからの行動は迅速だった。スタークは背後から迫る月牙天衝が直撃する刹那、片手の銃でアレイスターへ零距離で虚弾を連射。回避不可に等しいその弾丸を受け、アレイスターが仰け反り力が弱まった隙を逃さず、さとりを回収し再び瞬間移動さながらのソニードで退避。

 この後の展開は予測通りとなる。

 

「――ッ!」

 

 スタークの銃弾により、隙だらけとなったアレイスターに一護の月牙天衝が完全に飲みこんだ。

 

   *

 

 時を同じくして。

 地底世界に入った辺りのどでかい空洞を落ちるようにして進む、守矢神社の巫女こと東風谷早苗。

 紆余曲折あり、神奈子の命により今地霊殿へと向かっている。端的に言うに、どうやら神奈子が地底にいる地獄鴉に力を与えたらしく、その力を見てきてほしい。と言うものである。

 え、どうして? 何でそんな力与えたんですか? などなど色々と突っ込みたいところはあったが、渋々押し切られる形となってしまったのだ。

 

「はぁ~、私もまだまだ未熟ですね。神奈子様にもっとガツンと言える巫女にならないと」

 

 ため息をつき、自身の従属に近い立場を悔いる。

 

「諏訪子様は可愛らしい(見た目)から何でも言うこと聞いちゃいますけど、神奈子様はどう見てもいい大人。そんな人の我が儘をずっと聞いていたら、調子に乗った小姑みたいになりますよね」

 

 本日何度目かのため息をつく。

 あーやだやだ、早く帰って愛らしい諏訪子様を抱きしめたい、などと頓馬なことを考えている早苗。

そんな時だった。

ゴツンッと、早苗の頭にさながら神奈子の天誅が下されるが如く、硬い何かが激突した。

 

「~~いッッたぁああい!! 何なんですか落石ですかもうッ!」

 

頭をさすりながら涙目になった早苗は、ぶつかってきたであろう何かの方を見る。

そこには……

 

「ッテェな、くそがッ」

 

同じく少し痛そうにしているグリムジョー・ジャガージャックの姿が、そこにあった。

 

「あ、あなたは確か八雲家の居候で、黒崎さんと同じ世界からきた、名前はえっと……グラムさん!」

「違ェよ! 俺を計量単位みてェな呼び方すんじゃねェ! テメェ舐めてんのか? 俺はグリムジョーだ。つかテメェは誰だ?」

「ヤンキーな見た目と態度なのに、しっかり名乗ってくださるあたり根は優しいのでしょうが、まずは謝罪でしょうグリムジョーさん。今、私の頭にあなたがぶつかってきたのですよ」

「知るかよ。なに被害者ぶってんだテメェは。ぶつかってきたのはテメェだろうが」

「何ですかその当たり屋みたいな文言。言っときますけど、私はそんなものには屈しませんから。まぁ避けられなかった私にも米粒程度の非はあるのでしょうけど、今のは明らか――」

「…………」

 

こいつ面倒くせェと感じたグリムジョーは、これ以上関わるのをやめ穴の底へと向かう。

グリムジョーがここにいる経緯としてはこうだ。最初は地上組で現地組をサポートしていたが、粗相を犯した為ひょんなことから紫にスキマに落とされ、気付いたら今に至るのだ。

 

「……感じるな。これは黒崎と、スタークの野郎か」

 

 地底深くまで潜りつつ、グリムジョーは二人の力を感じ取った。

 

「チッ、後はついでに黒崎の居候先の女と、その連れの力も感じるな。全員、まだ戦闘中か。ああ、それで構わねェ。とりあえず俺の新しい力を試すにはちょうどいいじゃねえか」

「ねぇあなた、誰と話してるの?」

 

 誰に言うでもなく自然と口に出た言葉を、付いてきていた早苗が聞き取り訊ねる。

 

「あァ!? なに勝手についてきてんだテメェ?」

「ええー、だって私もそちらの方角に用がありますもの。それにどうやら、黒崎さんたちがこの先で何か一悶着起こしているようですし、助けに行かないと」

 

 これが万が一、神奈子が原因で起きた事態なら、釈迦に説法。強く諫言しようと思う早苗。

 

「助けだと? テメェ程度の女が行ったところで足手纏いにしかなんねぇよ。とっとと帰ってろ」

「言っておきますがね、私の実力はそれはそれは奇跡の現人神と謳われる守矢神社の風祝。そのへんの妖怪なんて私の前ではわけないんですからね」

「…………面倒くせぇな」

 

 グリムジョーは諦めたかのように呟く。

 どうにもこの幻想郷にいる女って生き物は、頑固というか考えを曲げない奴が多いと思うグリムジョー。それに実力も恐らくそれなりにはあると踏む。でまかせでないのは霊力を感じ取るだけでも分かるのだ。現人神というだけあって、それに見合った実力はあるのだろう。

 

「いいか、一つ約束しろ。俺の邪魔はするな。したらその瞬間、テメェも敵とみなす」

「こちらの台詞です。あなたこそ私の足を引っ張らないでくださいね」

「…………」

 

再び言い返そうと思ったが、これはオウム返しになることが目に見えている。

よってグリムジョーは口を閉じ、早苗を引き離すように一気に先行した。

 

 

【2】

 

「……素晴らしいよ、黒崎一護。そしてコヨーテ・スターク」

一護の月牙天衝をもろに受けたアレイスターは、多少ながらも全身に傷を負いながら二人に言葉を投げかけた。

 

「まさかこんな早々に直接、私を叩きに来るとは。予想通りといえばそうだが、試練が最後まで成せなかったのは心残りだ。銀城空吾の他にもまだまだ未来の敵はいたんだが、こうなっては試練を変更せざるをえないな」

「何だよ、試練ってのはそんな簡単に変えちまってもいいのか?」

「仕方ないだろう。私にとってのVIPがいなくなってしまったのだ。なんなら返してくれないか? 試練の続きを行いたい」

「返すわけねえだろ。諦めて、あんたらの目的を全て話せよ。勝手に試練だなんだで、よそに迷惑かけてんじゃねえ」

「随分と嫌われたものだ。私は君たちのことを考え、君たちにとって将来有益となるよう行動しているのに、ここまで卑下されるとは。残念だよ」

 

アレイスターは大きなため息をつき、両手をさながら降参宣告のように上げる。

 

「OK、了解した。従来の試練は完敗だ諦めよう。そもそも試練など私の本意ではない。あくまで刹蘭に頼まれたからやっているからに過ぎない」

「ぶっちゃけるじゃねえか。だったら決着つけようぜ、俺のやることは変わらねえ。あんたを倒して、それで終わりにする」

 

 一護は斬月の切っ先を向け、一気に霊圧を上げた。

 

「――『卍解』!」

 

 瞬間、漆黒の霊圧が渦を巻いて噴出する。

 さながら竜巻めいた猛威を感じさせると、それを引き裂いて一護の最強形態が顕現した。

 黒衣の死覇装を纏い、刀が黒い日本刀へと変形している。そしてその霊圧は、先の倍を行く質量を身に宿していた。

 

「……凄まじいな。これが黒崎一護の切り札。アイゼン様を倒した死神の力というやつか」

 

 スタークが横目に一護を見て呟いた。

 

「壮観だよ。帰刃をした破面。そして卍解した一護。ならばこちらもそれに応えようではないか!」

 

 同じくアレイスターの魔力が、今までに反して轟轟しく唸りを上げながら上昇する。プロレスラーのような熱い力を感じ、それは今までの慇懃めいたアレイスターの態度とは一変する。

 

「来い! そして力を貸せ聖守護天使エイワス! 全力で叩くぞ、黄金という肩書も秘密の首領などという魔術界のドンという肩書も捨てる。私は、私自身とそしてお前の力をフルに使うとする」

 

 言い切ると、アレイスターの背後に浮遊するように一体の天使が現れた。

 それは神々しく、文字通り天使のような輝き放出させて姿を見せた。圧巻、まさにその圧倒的存在感に息をのむ一護。身体が自然に無自覚に跪きそうになる神秘のオーラを纏う聖守護天使は、アレイスターを覆うように両腕で包み込む。

 

「行こう、愛しい我が妻よ。この劇的な舞台で、私は本気で君と踊りたいと、そう感じた」

『ゆえ、私を呼んだのだろう。振るえ、私はお前の剣だ』

 

 何かを語るアレイスターと聖守護天使。

 一護は冷や汗を流しながら呟く。

 

「あれが天使……初めて見た。死神とも、虚とも滅却師とも違う。本の中だけの存在だと思ってたぜ」

「俺もだよ。ま、世の中は広いってことだな。俺たちも幻想郷という世界を知らなかった口だ。天使や悪魔がいてもおかしくないだろうよ」

 

 幻想郷には妖怪や魔法使い、果てには神様がいるくらいだ。今さら天使や悪魔といった概念が出てきても不思議でない。

 

「天使を見るのは初めてか? ああ、悪いな二人ともガッカリしないでくれよ。聖守護天使エイワスは厳密にいえば天使とはまた別の存在だ。ここでエイワスについて説くには、なかなかの時間と労力、そして神秘学についての知識を要する。よって君たちは何も知らなくていい」

『私はエイワス。アレイスターを愛し、教授し高めるもの。さぁ行きましょうアレイスター。あなたの本領の時間よ』

 

 そしてエイワスは消えるようにして、アレイスターの身体へと入っていく。それはさながら一心同体のようで。

 

「《ハド》《ヌイト》の顕現!  天の一座の幕開け。全ての数は無限。そこには如何なる差異も無し。ホール・パール・クラアトに仕えるエイワスによりて啓示された。出ておいで、子どもたちよ、星々の下へ、そして愛に胸ふくらませるがいい我が喜びはお前の喜びを視ること」

 

 謳い上げるように、歓喜するようにアレイスターは声高らかに叫ぶ。

 

「4638ABK24ALGMOR3YX2489RPSTOVAL。《ハディート》の潜伏の終わり。美しき《星》の預言者に祝福と礼拝を! 汝の欲する所を為せ、それが汝の法とならん――『神打創造』」

 

 星々のような煌めきと共に、アレイスターの全身に黄金の鎧が形成されていく。

 

「――『アイオーン生成・ホルス顕現』!」

 

 五芒星の星をかたどった兜を装着し、胸に人の顔のようなものが彫られた星が象られている黄金の全身鎧。その佇まいは魔術師と言うより、歴戦の勇者を感じさせる。

 

「すげぇ力だ。見ているだけで、身体が震えてやがる」

「武者震いってやつか? 卍解とも帰刃とも違う、感じたことのない力だ。俺はあの力に興味がある」

 

 スタークは両手の銃口をアレイスターに向け、

 

「行かせてもらう。色々と試したいもんでな」

「奇遇だな。俺もちょうど試したいことがある。昔“使っていた力の真似事”だけど」

 

 一護は片手を額に当てがいながら言う。

 その姿はまるで仮面を付けるような仕草で……。

 

「そいつは気になるな。だが俺が先に行かせてもらうぜ」

 

 虚閃を発射する。

 

「同じくだ。私もこの力を使うのは久方ぶりだ。少し肩慣らしが必要なんだよ」

 

 右拳を裏拳の要領で振るい、虚閃を難なく弾くアレイスター。

 

「準備運動といこうか。付き合ってくれたまえよ」

 

 そして地面を蹴り、一気に前進する。

 

「――虚符『無限装弾虚閃(セロ・メトラジェッタ)』」

 

 そんなアレイスターに向けてスタークは容赦なく、己の必殺技であるスペルを放った。一度に虚閃を千発以上連射できる、出鱈目極まりない技である。

 

「おいおい急に大技か。こちらとしては最初は少し動く程度を所望したいのだが!」

 

 アレイスターは立ち止まり、横に避けて射程から逃れる。

 しかしその程度で回避できるわけもなく、常に連射が絶えることのない虚閃の猛威がアレイスターを襲う。

 

「とんでもないな。いやはや虚閃の無限連射とは果てしない脅威だよ!」

 

 言っていることとは裏腹に、口元は笑みを浮かべている。

 そして連打、連打、連打。虚閃の連射に対抗しうる速さで拳を放ち、文字通り相殺していっているのだ。並みの力量でどうこうできないこの技を、アレイスターは正面切って競り合っている。

 

「こいつはとんだ化け物だな。初めてだ。俺のこの技を正面から堂々と挑んで、そして張り合っている。こんな野郎に会うなんてな。ま、勇儀あたりもやってきそうだが」

 

 スタークは連射を止めることなく撃ち続け、その間に別のスぺルを唱える。

 

「牙符『一匹狼』」

 

 瞬間、アレイスターの背後に一匹の狼が現れた。狼のようだが、炎のように青く燃えており、膨大なエネルギーの塊が狼の形をとっているように感じる。

 それが狼のように吠えたかと思うと、一気にアレイスターへ襲い掛かった。

 

「ならこうだ!」

 

 正面からは虚閃。背後からは狼。そこでアレイスターは何の迷いもなく、それらを対処する行動に出た。

 拳を放ち続けながら、踏み込んでいる両足を軸に身体を高速回転。さながら稚拙な行動に見えるも、その回転は脅威の域へと変わる。さながら竜巻を思わせる烈風が発生し、それが防壁のような役割となって、虚閃と狼を弾いた。

 驚愕するスタークだったが、それだけで終わらなかった。

 発生した激烈な竜巻から、上空に舞い上がるようにアレイスターが跳躍していたのだ。

 

「受けてみろコヨーテ・スターク!」

 

 拳に魔力を込め、それを振るって魔力を放つ。茶渡泰虎のような攻撃方法だが、その威力は桁が違う。

 それを察知したスタークは直ぐさま銃口をそちらに向けた。同時に虚閃を放ち、何とかそれを相殺するもそれで終わるわけがない。

 まさに隕石群を思わせる弾丸が無数に降り注ぐ。

 高密度に圧縮された魔力の隕石は、一発一発が極悪な威力を有している。

 

「チッ! こいつ、地底ごと崩壊されるつもりか……!」

 

 銃口に更なる霊圧を込め、険しい顔をしたスタークはスペルを唱える。

 

「虚符『無限装――」

「読んでいないと思ったか? 単純だなコヨーテ・スターク」

 

 魔力の隕石に集中した一瞬の隙を狙われ、自身の懐にアレイスターが入り込んでいた。

 

「――しまった! と言うと思ったか?」

「なに?」

 

 そして次の刹那には、アレイスターとスタークの間に漆黒の刃が煌めいていた。

 それが自分の首を刎ねようとしていると思ったアレイスターは、即座に回避に徹した。

 

「これは黒崎一護か。成程、大人しく観戦しているとは思えんかったが、ようやく動いたということか。一対二なのを忘れていたよ」

「まだだ、逃がさねえぞアレイスター!」

 

 後方に跳んで躱したアレイスターを追うように、一護が天鎖斬月を構えて疾駆する。

 

「剣呑としたぞ。私の首を狙うとは、随分と豪気な男になったようだ。殺しはしないのではないか、黒崎一護」

「あんたが避けると踏んでいたからな。それに、当たったところでその鎧が防いでくれただろうから、致命傷は避けられただろうよ」

「そうか、愚問だったな。私の力を良く見極めている」

「それにな、俺らは二人じゃねえ!」

 

 そして光った。

 一護の周囲に付き添うように浮遊している、代行証を球体にしたような四つの玉――通信装置兼、援護機器――が一護に応えるように光ったのだ。

 

「妖夢! 力を貸してくれ!」

 

 瞬間、一護の天鎖斬月に緑色の霊力が纏われる。

 

『お待ちしておりました黒崎さん! 全力で援護いたします!』

「ああ頼む! 一緒にアイツをぶっ倒すぞ!」

 

 天鎖斬月から黒と緑の莫大な霊力が纏われる。

 

「喰らえアレイスター! 黒斬『月牙天衝』!」

 

 そして放たれるは月牙天衝。

 しかしいつもと違い、今回は妖夢の力も加わっている。文字通り二人分の力が合わさっているので、威力も倍である。

 

「これが月牙天衝か!? 正面から受けて立ってやろう!」

 

 アレイスターは拳に魔力を込め、自身に迫る斬撃に向けて拳を突き放つ。

 

「――ぐッ! グぅゥゥウウウッ!」

 

 拳と月牙が衝突した瞬間、凄まじい衝撃が発生した。アレイスターの立っている地面が陥没、更に陥没していく。それでも月牙天衝の勢いが収まることはなかった。

 

「私の力は、まだまだこんなものではない!」

 

 自身に言い聞かせているのか、アレイスターは咆哮に近い言葉を口にする。

 同時に拳に更なる魔力を込め始めた。

 

「だったら俺もまだまだいくぜ!」

 

 このままだと月牙天衝は惜し負けると踏んだ一護は、即座に行動に出た。

 

『黒崎さん! いきます! 次は斬撃を飛ばすのではなくそのまま斬り伏せましょう!」

「ああ!」

 

 再び天鎖斬月に一護と妖夢の霊力が込められる。

 

『断迷剣「迷津慈航斬」!』

「黒斬『月牙天衝』!」

 

 二人のスペルにより天鎖斬月に込められる霊力が、相乗効果により増した。

 そして先に放った月牙天衝と拮抗していたアレイスターがそれを打ち破った刹那、一護は斬撃の乗った天鎖斬月を直接アレイスターに向けて突貫する。

 

「――ッ!」

 

 咄嗟のことでアレイスターは迎撃を捨て、間一髪で両腕で守りを固めた。

 

「ウォォオオオオオ!!」

 

 裂帛の気合と共に、一護が袈裟に斬り込んだ。

 

「ッ! なるほど考えたな! 斬撃を飛ばすのではなく、刀に纏ったまま斬りこんでくるか! 確かにそうすることにより剣戟の威力は増すが、まだまだだ!」

 

 黄金色の鎧に更なる魔力と、そして天使めいた道の力が増幅される。

 

「喰らいつく、この私こそが上だと、お前たちに反論さえさせぬ域で盛り返してやろう!」

「なッ!?」

 

 アレイスターが気力を振り絞ると、その勢いのまま一護の剣戟を弾いて見せた。

 そして格闘家のような構えを取ると、アレイスターが一気に一護の腹部に拳を放つ。

 

「ガァッ!」

 

 口から血反吐を飛ばしながら、一護は苦悶の声を上げつつ吹き飛ばされる。

 

「どうだ、この私の力は!? まだまだこんなものじゃないぞ」

 

 アレイスターはどこか愉快そうに言った。

 悶絶するような痛みと、呼吸するのも困難な状態となるも一護は倒れることなく態勢を立て直す。

 

「うるせぇよ。俺の力もまだまだこんなもんじゃねえ」

 

 息も絶え絶えになりつつも吠え、意識を通信装置に向ける。

 

「ウルキオラ、わりぃ。回復頼む」

『ほう、この俺に直接頼るか。構わん、俺の力はお前と井上織姫が元で発現した能力だ。好きに使え』

 

 事象の拒絶――元来は井上織姫の力であるが、今はウルキオラにもその力が備わっている。

 よって援護できるものとしては、回復が最も適している。しかし織姫ほどの完全な回復(事象の拒絶)はできない。それは装置を介しているからではなく、単純にその能力そのものが劣っているからである。

 だが致命傷ではない一護を回復させるだけなら、造作もなく可能だ。

 

「悪いなウルキオラ。助かる」

『そう思うなら必ず勝て。俺の助力を無碍にはするな黒崎一護』

「ああ」

 

 そして一護の身体がみるみるうちに回復していく。

 

「ほう回復か。しかも通常の回復の術ではないな。まるで回帰にも似た力だ」

 

 一護の身体を熟視しつつ、アレイスターは顎に手を当てる。

 

「つまり、ダメージを与えても回復を続けられれば千日手。ならば、お前を一撃で屠るほどのダメージをぶつければいい。単純な話だ」

「そう単純にいくと思ってんのかい?」

 

 カチッと、金属音がしたかと思うと、青い閃光である虚閃がアレイスターに放たれていた。

 それを拳を振るって掻き消すと、アレイスターは言う。

 

「流石だ。私が全力で放った拳の弾雨を全て相殺していたか。いやはや、恐ろしいまでの実力だ」

 

 先ほど隕石群めいた魔力の弾雨を、一発も地上に直撃させることなく撃ち抜いて見せたスターク。その技能に感嘆の声を漏らしたのだ。

 

「そうかい、そいつはありがとよ」

「まだやれそうかスターク?」

 

 一護が横目にスタークを見やった。

 

「ああ、やれるさ。それにまだ、試したいことをやりきれていないからな」

 

 スタークはそう言うと、二丁拳銃をホルスターにしまいつつアレイスターに向けて一歩前に出る。

 

「このままアンタに虚閃を撃ったところで、致命的な深手を与えるのは難しいだろうな。なら俺の、奥の手を使わせてもらう」

 

 瞬間、スタークのリボン式の弾倉から青い炎が噴出する。

 

「――狼符『魂ノ群狼(コヨーテ・アミ)』」

 

 そこから青い炎を纏った狼が一体、また一体と徐々に増え始める。

 まさに群狼のように顕現していく狼の群れは、一体一体が脅威だと感じさせるほどの力が込められていると見て取れる。

 

「狼の群れか。高ぶるな、私はそれと拳一つで挑んでみたいと胸躍っている。しかし……今は黒崎一護に集中したいと、そう思っている!」

 

 告げるや否や、黄金の鎧の輝きが一際激しさを増す。

 

「開け――『高次時代・銀の星』!」

 

 アレイスターを中心に、円球に黄金の光が爆発するように広がった。

 目を突く光に一護は反射的に目を閉じるも、次の刹那には光景が一変していたのだった。

 

   *

 

「アレイスター・クロウリー。聞いたことはあるけど、ここまで強いなんてね」

 

 地上組の八雲紫が、暇だったのか妖夢とウルキオラが担当している通信装置を覗き込んでいた。

 

「……貴様はこちらにうつつを抜かしていていいのか?」

 

「構わないわよ。霊夢と魔理沙の方はもう少しで決着がつきそうだし。さしあたっての異変の元凶も分かったようだし、無地解決の流れになってるわ。問題は、このアレイスターって男ね」

 

 ウルキオラの言葉を返しつつ、アレイスターという男を観察する。

 

「あの、この男の人を知っているのですか?」

「名前だけわね。実際にこの目で見るのは初めてよ。でも、まさかここまでやるなんて。流石は聖守護天使と一緒にいるだけあるわ」

 

 妖夢の言葉も返しつつ、紫は深いため息をつく。

 

「随分と詳しそうだな。どこまで知っている?」

「少しだけよ。隠岐奈から聞きかじった程度。あの聖守護天使は、アレイスターの妻であるローズという人間よ。誰よりも何よりもアレイスターという男を愛し、生涯を彼と共に歩みたいとそう願っていた、アレイスターの女房。けどローズという女性は病弱だったらしく、永くは生きられないと言われていたの。自分の命がそう永くないと感じていたローズに宿ったのが、聖守護天使エイワス」

「つまり、そのローズという女性に乗り移ったと?」

「ええ。簡単に言うとアレイスターが、かの地で聖守護天使エイワスと名乗る存在と出会うの。そこで数多の知識を与えられ、魔術界で有名な『法の書』を書くわけだけど、その際にエイワスは妻ローズの体に乗り移ったわけ」

 

 そして紫は簡略的に説明する。

 神懸かりにあった妻ローズはその後、エイワスと交渉した。

 自分の身体を好きに使ってもいい。だから自分の命をアレイスターが死ぬまで永らえてほしいと。

 結果、ローズとエイワスは一心同体になり今に至るという。

 

「劇的な愛の物語ね。これが愛のなせる所業ってものなのかしら。私にはとても分からない概念ね」

「え、八雲様は1000年以上も生きて……あ、いえいえ失言でした。何でもないです」

「そこまで言って口を閉じるのも失礼だけどねあなた」

 

 妖夢の言葉に少しムスッとする紫。

 そこで言い返せない自分にも虚しく感じたし、あれ私1000年も生きて何してたっけ?と言ういらぬ疑問が頭をよぎったのだった。

 

「ローズという女のことは理解した。なら、聖守護天使エイワスとはどういう存在だ?」

 ウルキオラの言葉に紫は続けて言おうとするも、口元に人差し指をあてがって悩む。

「ん~、そうね。私も魔術や天使なんかは専門外だから説明は難しいわね。パチュリーは分かる?」

「いいえ、私も天使にはそこまで詳しくないわ。それに神秘学においても、エイワスってかなりマイナーな部類だったと思うから、詳細に知っている人なんて少ないんじゃないかしら。いえ、そもそもだけど。エイワスについて熟知しているのは、アレイスター・クロウリー以外にいないと思うわ」

 

 聞き耳をたてていたのか、開いた襖の向こう部屋からパチュリーが答えた。

 

「そうよね。隠岐奈もエイワスについてはほとんど分からないって言ってたから。だから私も気になって見ているわけだし」

「博麗霊夢の支援は大丈夫なのですか?」

「いいのいいの、あの子は殺しても死ななそうなタイプだし」

 

 紫は霊夢の方には目もくれずに言い切った。

 

「では、もう一つ質問だ。アレイスターとは言動から見て地霊殿と関係のない者だ。神のシルベと言っていたか。それは一体なんだ?」

「私が知っている前提で話すのね」

「アレイスターと言うものを摩多羅隠岐奈に聞いたという点でおおよそ察しは付いた」

「耳聡いわね。ま、黙っている必要もないから、今は端的に話すわ。彼はいわゆる使者、刹蘭の配下……なのかしら? まぁその一人ね。刹蘭が幻想郷の外で見つけた傑物揃いで構成されているようで、その名が『神のシルベ』。五つの試練ってやつを冠するらしいわ」

「刹蘭か。八意永琳から報告は受けている。どうやら、俺やグリムジョーといった破面をこの世界に幻想入りさせた男だとか」

「ええ、その通りよ。彼は五人の配下を使って、何やら行動しているらしいの。彼の言葉を鵜呑みにするなら、目的は一護くんに試練を与えるのだとか」

「試練だと? 意味が分からん。そんなものを与えてどうする?」

「私に聞かないでよ。そこまでは知らないわ。全て聞き出すことはできなかったんだもの」

 

 紫はバツが悪そうな顔をする。

 恐らく、永夜異変で対峙した時に聞き出したのだろう。その内容をかいつまんで話してくれたようだ。

 

「それにしても神のシルベだとか、五つの試練だとか、変わったことを言いますね」

 

 妖夢がそれとなく口にした。

 

「……まぁ彼は、昔からどこか中二的な思考があったからね」

「中二?」

「ああ、ごめんなさい。何でもないわ」

 

 紫はどこか懐かしむように答えると、視線を戻す。

 すると一護と対峙するアレイスターの鎧が、何やら神々しく輝きを放ち始めた。

 

「――これは、そうきたわね。なるほど、こちらからも手出しを一切させない腹積もりね」

「八雲様、通信が……ッ!?」

「ええ、やられたわね。完全に遮断されてしまったわ」

 

 そう、今の謎の輝きにより通信装置が断たれたのだった。

 

 

【3】

 

「……ここは、どこだ?」

 

 一護はアレイスターの謎の閃光により、目を閉じてしまった。

 敵の前で目を閉じるなど自殺行為も甚だしいが、不意打ちすぎて対処できなった。しかし直ぐに身構え、目を開けると、そこには別の光景が広がっていたのだ。

 地平線まで広がる荒野。空は銀の星々が煌めき、さながら宇宙空間にいるような錯覚さえ覚える神秘的な空間。先ほどまでの地霊殿とは打って変わった景色に、一護は困惑を隠せなかった。

 ――地霊殿は? スタークは? それどころか通信装置まで消えている。

 空間転移、もしくはそれに類する何かだと、一護は考える。

 そう思索しようとするも、目の前には一人の男が立っていたため、考えるのを止めた。

 

「ここでなら何の邪魔も入らん。黒崎一護、私と一対一の勝負を受けてもらう」

 

 そこには黄金の鎧を纏ったアレイスターが立っていた。

 さながらライバルに果たし状を叩きつけ、公園に仁王立ちしている男のような佇まいである。先までの魔術師然としていた態度からは一変している。恐らくだが、こちらのアレイスターが素なのだろうと、一護はそう感じた。

 

「私は魔術師として、そして神のシルベとして動いていたが、やはりどうにも性に合わん。ああ、全くもって私らしくない。お前たちと直に拳を交えて、ようやく思い出したよ」

 

 アレイスターはしみじみと感じ入りながら、言葉を紡ぐ。

 

「感謝する黒崎一護。私は、魔術やら試練やら、正直なところあまり興味がない。私は最初から、自身の拳しか信用していないのだからな。こんなに熱くなれたのは久方ぶりだ」

 

 などと言い切った。

 一護はそれに対し、

 

「そうかよ。まぁ戦っててそんな気はしていたけどな。つか、勝手に感謝してんじゃねえよ。俺とあんたは逢ったばかりで、しかも敵同士だ。急にそんな情熱的な男になられても反応に困る」

 

 至極、当然のことを言った。

 先ほどまで試練だなんだと、人質を取りながら戦い、慇懃無礼な態度でいた。それが急に鎧を纏った途端、今までとは一変。どこか情熱的な性格へと早変わり。確かに対応に困ると言うものだ。

 アレイスターはどこか楽し気に答える。

 

「そうかそうか、そいつは悪いことをした。こう見えても名のある魔術師と自負しているものでね。一応、外聞は崩さずにおこうと思ったのだが、そうはいかなかった。お前たちを見ていたら若いころを思い出してね。つい素が出てしまった」

「ようは魔術なんかより、拳の喧嘩が好きってことか?」

「喧嘩などという無粋な言い方をするな。決闘と言ってくれ」

「似たようなもんだろ」

「……まぁ確かにそうだな」

 

 どこか格好がつかないと感じたアレイスターは、拳を握り始める。

 

「このような問答などもう良いだろう。すぐに始めようではないか。気付いていると思うが、ここでは私とお前以外、誰も介入できない領域。ギャラリーがいた方が盛り上がるのだろうが、集中して戦うにはもってこいの場所だ」

「つまり、あんたを倒さねえとここから出られないってことか?」

「察しがいいな。その通りだとも」

 

 ここでは完全な一対一となる。それにこの空間がアレイスターが作り出したものなら、アレイスターを倒す以外に出られる手段はないだろう。

 一護は手に持つ天鎖斬月を構え、

 

「なら、あんたを倒してここを出る。早く戻らねえと、霊夢あたりがそろそろ着きそうだからな。もしまだ戦ってたら小言の一つや二つ言われかねねぇ」

「女性の小言くらい、受け止める度量を備えるべきだぞ黒崎一護」

 

 対するアレイスターも拳を構える。

 

『アレイスター、私の小言を受け入れてくれたことなんてあった? 全部聞き流されていた気がするのだけど』

「ローズ、こここそ聞き流してくれると私は嬉しかった」

『まぁいいわ。さぁやりましょう。私も全身全霊であなたの力になるわ。夫を支えるのは妻の役目だからね』

「ああ、それでこそ私の妻だ。ならば私も全身全霊でそれに応えて見せよう」

 

 鎧から響く妻ローズの声に答えるアレイスター。

 それを見て一護は、額に片手を宛がう。

 

「……いける、今の俺なら次のステップに進めるはずだ」

「ほう、そうか。私の試練は無駄ではなかったという事か」

 

 アレイスターは一護の行動を看破したかのように呟いた。

 そして一護の片手から徐々に、黒い霊圧が集約していく。その姿はまるで、死神時代の一護があの仮面を付ける時の所作に似ていた。

 

「試練のお陰じゃねえよ。これは今まで戦ってきたみんなの、そして仲間たちのお陰で身に付いた力だ」

 

 死神時代の戦いと研鑽、そして幻想郷で培ってきた賜物であり、元来一護に宿っている力。

 

「――『虚化』だ」

 

 一気に片手で顔を覆うようになぞると、そこに虚の仮面が付いていたのだ。

 その姿はもはや、死神時代の虚化一護と瓜二つ。その証拠に、霊圧が爆発的に上昇している。あくまでスペルによる虚化のためオリジナルとは違うが、それでも次のステップに進めているのは顕著に出ている。

 

「……よし、うまく出来た」

 

 心の底から安堵し、次に達成感を得る一護。

 仮面が無事に出た。そして自分の力が更に上がっていることを感じ取っていた。それがとても嬉しく、感慨深いものになっている。

 

「虚化。刹蘭から聞いていたが、そうか遂に至ったか。いいぞ、楽しみが増えたというもの。心躍るとはまさにこのことよ!」

 

 アレイスターは更に拳を強く握りしめ、歓喜にも近い喜びが沸き上がっているのを感じていた。

 ああ、いいぞ。楽しみだ、興奮する。子供のようにわくわくが止まらないと。

 

「ああ、奇遇だな。俺も今、自分の力を全力で試したいと思っていたところだ」

 

 天鎖斬月の切っ先をアレイッスターに向け、

 

「俺はあんたを倒して、みんなのところに、霊夢の元に帰る。だから負けるわけにはいかねえんだよ!」

 

 最初から本気で行くため、霊圧を一気に上げる。

 

「ふふ、あははははは!! なら私はお前を倒し、最高の勝利を得よう! さぁどちらが強いか、決着を付けようではないか!」

「なら、とっとと行くぜ!」

 

 一護は一気に地面を蹴ると、天鎖斬月に霊圧を込めながらアレイスターに肉迫する。

 アレイスターは真っ向から受けて立つつもりなのか、両拳に力をこめ、格闘家のような構えを取った。

 

「「――――」」

 

 そして繰り出される刀と拳。

 まさに正々堂々とした激突。交差する刃と拳が、互いにぶつかり合ったのだ。拳が一護の顔面に、刃はアレイスターの右肩の鎧に。どちらも相応のダメージを受けた。傍から見たら、アレイスターにはダメージは通ってないように見えるが、霊圧の込められた刀を鎧に当てられたのだ。鎧が悲鳴を上げ、その痛みがアレイスターに通じているのは、アレイスターの表情を見れば一目瞭然である。

 互いに苦悶の表情を浮かべながら、しかし攻撃はやめない。

 足に力を入れ、刃と拳が両者の間を疾風のごとく飛び交う。

 もはや喧嘩でいうところ殴り合いに似ている。至近距離で行われる子供じみた殴り合いが繰り広げられ、互いの体を削っていく。

 

「――おらァアアッ!!」

 

 アレイスターが一気に力を込め、一護の顔面に拳を叩き込む。すると、仮面の一部が散りながら一護は仰け反ってしまう。

 その隙を逃さんとアレイスターは更に拳を突き放つも、

 

「俺はあんたを倒して、更に上に行ってやる!」

 

 上体を斜めに歪め、その勢いのまま拳より先に天鎖斬月を斬り放った。

 

「グッ! グゥウウウ!」

 

 同時に月牙天衝も放っており、その斬撃に飲まれるようにして吹き飛ばされるアレイスター。

 苦悶の表情に顔を歪めつつも、何とか態勢を立て直す。

 

『アレイスター!』

「心配するなローズ! まだまだこれからよ! このような戦い、一生に一度あるかないか、全力で楽しめんでは男が廃る!」

 

 気合と根性で再び拳を構えるアレイスター。

 ローズはそれを今、全力を以て支えているのだ。

 

「すげぇ気概だ。けど、俺も今のあんたを倒さねえと!」

 

 一護がそう言うと、アレイスターに向けて瞬く間に迫る。

 同じくアレイスターも一護に応えるように動いた。

 

「うぉぉらァッ!」

「ガハッ!」

 

 先に射抜いたのはアレイスターの拳だった。剛腕な膂力より放たれたその一撃は、一護の仮面のほとんどを割るに申し分のない威力を有していた。

 血反吐を撒き散らしながらも、しかし一護の目は死んでいなかった。

 

「まだだァア!」

 

 踏ん張りながら、一護の天鎖斬月が続いてアレイスターの体を引き裂き、同時に並々ならぬ力でアレイスターを蹴り飛ばす。

 

「グ……ッ!?」

 

 蹴り飛ばしたその刹那の隙を逃さず、一護は霊圧を込めスペルを唱える。

 

「喰らえ! 黒符『月牙天衝』!!」

 

 一護の必殺技ともいえる技。

 霊圧を超高密度までに圧縮した黒い斬撃が、吸い込まれるようにしてアレイスターを飲み込んだのだった。

 文字通り天を衝くその一撃は、周囲の大地を吹き飛ばしてなお余りある威力を持っていた。

 それをまともに受けたアレイスターは、勿論ながらタダで済むわけもなく……。

 

「――ッ! グゥ、はぁぁはぁはぁ……っ」

 

 息も絶え絶えといった形で倒れていたのだ。

 荘厳と壮美を感じた黄金の鎧が、罅が入り崩れ落ちている。全壊とまでいかないが、それでも大部分が砕け散っていた。

 

「――くッ、もう限界だなっ」

 

 同じく一護も仮面が全て花弁のように散っていき、肩で息をしていた。纏っている黒衣も、徐々に消失し始め刀を地面に刺して杖替わりにし、何とか立っている状態だ。

 お互い、完全に限界。拳を振るう体力も、刀を振るう力も残されていないだろう。

 

「……この私が、負けたのか」

 

 仰向けに倒れたまま、アレイスターは口を開いた。

 

「へっ、もうばてたのかよ。随分と潔いいんだな。俺ならまだまだやれるぜ」

 

 一護も倒れそうな表情で答えた。

 

「どの口がほざく。嘯いているのが見え透いているぞ黒﨑一護。だが、これは私が先に倒れたのだ。誰が見ても、勝者は決したと見るだろう」

「そうかい。あんたのことだから、まだ奥の手の一つや二つ隠していると思ったぜ」

「ふっ、そうだな。私ではなくローズなら……いや、よそう。これはあくまで私の戦い。私がこうして倒れた時点で、勝敗は決した。後出しじゃんけんなどといった見苦しいことはせんよ」

「……あんたはそれでいいのか? えっと、ローズだっけ? エイワスだっけか?」

 

 一護はアレイスターではなく、その鎧に宿るローズに語り掛ける。

 

『……ええ、そうね。アレイスターがそう言うのなら、私もそれでいいわ』

 

 一瞬だが、回答に逡巡としたローズの声が響く。

 

『私はアレイスターを愛している。故にこの戦い、アレイスターを勝たせるのが私の役目。例え何があっても私の力で再び立たせてあげたい。けど、それはアレイスターの意志に反する。そんな真似は何があってもできない。だから、悔しいけどこの戦いはあなたの勝ちよ』

「そうか……」

 

 どこか複雑な気持ちになる一護。もし相手が容赦なく本気で来ていたら、自分が負けていたという事になるからだ。

 

『それにね、私はあなたに感謝しているのよ』

「え?」

『あなたのおかげで、私は久しぶりにアレイスターの熱い心を感じ見ることができたのだもの。魔術師としてではなく、一人の男としてかっこいい姿が見れたからね』

「おい、そう恥ずかしいことを言うなローズ」

 

 ここでアレイスターが割って入ってきた。

 

『あら、本当の事じゃない。最初に黒﨑一護と相対した時のあなた、役者のようでそれは見てて面白かったけど。やっぱりあなたは、こうでなくちゃね』

「全く、負けた上にそこまでネタばらしするとは、私の立つ瀬がないな」

『心配いらないわ。あなたが戦闘で火がついた瞬間に演技を止めてたから。最初のあなたの口ぶりや態度が嘘だって、簡単に見分けがつくわ』

「まぁ確かにお前の言うとおりだともローズ。しかし男には矜持というものがあってだな――」

 

 まるで夫婦の会話を聞かされているようで少し困惑した一護は、どこか申し訳なさそうに割って入る。

 

「なぁ、悪いけどよ。まずはこの空間から出してくれねえか。こっちは仲間を待たせてるからさ」

 

 そこでアレイスターとローズは会話をストップし、

 

「おっと、すまない。そうだな、まずはこの空間を解こう」

 

 倒れたままアレイスターは片手を上げると、一気に何かを潰すかのように拳を固く握った。

 その刹那、空間に罅が入り始め、まるでガラスが割れるように消えていく。

 

「私を倒した報酬だ。私の知っていることは何でも教えてやろう」

 

 砕ける空間で、アレイスターはそう言う。

 

「ああ、頼む。あんたには聞きたいことが山ほどあるからな」

「頼むか……。ふっ、そうかい、これは長い夜になりそうだ」

 

 少しずつ周囲の空間が、先ほどいた地霊殿に変わり始めていた。

 一護もようやく腰を下ろせると思った途端、ここでアレイスターの表情が一変する。

 何かに驚愕としている表情なのは、容易に見て取れる。そしてその次に放った言葉が、更なる試練を予感させた。

 

「――なぜだ。なぜここにいる……『魔王』ヘカーティア!」

 

 休む間もなく、五つの試練の三つ目が顕現する。

 次の神のシルベと呼ばれる存在が、地霊殿に現れたのだった――。

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