東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~ 作:ディーン・グローリー
次回が新章になります
《1》
地霊殿の異変を解決して数日――
黒崎一護は無理に無理を重ねた身体を癒すために、我が家である博麗神社で療養していた。
あの異変の後、スタークより諸々の処理は任せろとのことで即座に地上に戻った。グリムジョーはどこか不完全燃焼だったのか不満たらたらであったのは言わずもがな。
その後に霊夢や魔理沙と合流し、ことの経緯を包み隠さずに全てを話した。早苗とグリムジョーがいる理由から、自身の新たな力のこと、そして『神のシルベ』のとこ。
それは通信機越しに地上のメンバーにも伝わった。
旧地獄で余計なことをした、守矢神社の神様には後できつくお灸を据えると紫が言っていた。
一護の新たな力のことについては、霊夢はとても興味を抱いている。
仲間の力を借りて、新たな力を得るという死神時代の一護ですら持っていなかった能力である。
そして『神のシルベ』が勝手に与えてくる2つの試練を踏破(うち一つは微妙)したことを伝えた。アレイスター・クロウリーと名乗る魔術師及びヘカーティア・ラピスラズリと名乗る地獄の神様。その二人の名前を出すと、通信機の向こうで紫が息を呑むのが伝わってきた。どうやらその名前にどこか身に覚えがあったのだろう。
そんなこんなで、この地霊殿での異変は幕を閉じたのだった。
そうして、再び日常が戻ろうとしていた矢先、一通の手紙が届いた。
差出人はスタークからである。
内容は至ってシンプルで、古明地さとりが先のお礼をしたいので2日後に地霊殿に来てほしいという趣旨だった。
特に予定もないため一護と霊夢は招待を受けることにし、魔理沙にも声をかけておいた。あの異変での功労者は他多数いるが、大人数で押しかけるのは迷惑になる――実際は面倒だったから――と思い三人だけにした。
どうやらおもてなしをしてもらえるようで、美味しい食事などを用意してくれるとのこと。タダ飯、ただ酒とあっては直ぐに行かねば精神の3人は手紙が届いた翌日には地底に向かっていた。
旧地獄、地底などと呼ぶその場所はまさに地底世界。
そんなところに住むのは主に鬼や、地上で忌避された妖怪たちである。
鬼たちが築いた旧都と呼ばれる街に、みんな住んでおり街も活気に満ち溢れている。
一護たちが異変解決の際に戦った妖怪もこの旧都に住んでいる。
そして地霊殿はその奥の離れた場所にあるため、この旧都を通り抜けなければならないのだ。
地底の大穴を抜けた先にはまず、大きな橋がある。
その橋の先に旧都があるのだが、そこには門番が存在する。
門番は水橋パルスィ。異変解決の際に魔理沙と戦った橋姫という種族の妖怪である。
「……まさか早速くるなんて。あの激戦の後に気兼ねなくこの地に来れる君たちのメンタルに嫉妬するわ」
開口一番、妬みの声を上げるパルスィ。
それに対して魔理沙は快活に返す。
「久しぶりだなパルスィ! 何だよ私たち友達だろ。遊びに行くのなんて当たり前だぜ」
「ええ、それは嬉しいわ。けど急すぎよ。少しは私の予定も考えて欲しいわ」
「何だ忙しいのか?」
「別に。そこまで忙しくないわ。どうせこんな場所、あなたたち以外に来るとは思えないしね。橋の門番なんて、あくまでお飾りだし」
「なら遊ぼうぜ」
笑顔で語りかける魔理沙に対し、どこか恥ずかしそうにするパルスィ。
初めて対峙した時は嫉妬の念が半端なかったが、今はどこか緩和されたのかほとんどそれを感じ取れない。
「あなた達も同じ?」
パルスィが一護と霊夢に目を向けて言った。
「ああ。俺たちは地霊殿の古明地さとりって奴から招待を受けてここに来たんだ。悪いが通させてもらうぜ」
「そう。アイツから……。構わないわ、通りなさい。地霊殿は知っての通りこの先、旧都を抜けたところにあるわ。と言うより、旧都の真ん中にあるって言った方が正しいわね」
「さんきゅう。んじゃ行こうぜ」
一護たちが橋を渡り切ろうとした時、パルスィがジト~と見つめて嫌なことを言った。
「けど、旧都をただ悠然と歩けるとは、思わないでね」
「え?」
そんな不吉なことを言われた矢先だった。
旧都より何かが迫ってきている足音と、そして霊夢からはあまり聞きたくない喧しい声が轟いてきた。
「待ってたぜお前ら! スタークから聞いてるよ! ここに遊びに呑みに、弾幕勝負をしに来たんだろ!?」
けたたましい声と共に、鬼の妖怪である星熊勇儀が現れた。
霊夢は盛大に嫌な表情となり、一護もその迫力に少し威圧された。
「あー、えっと、確か星熊さんだっけ?」
「さん付けするな、むず痒いだろ? 勇儀でいいよ」
「じゃあ勇儀、悪いけど俺たちは今から地霊殿に行かなきゃいけねえんだよ。その後ならいくらでも付き合ってやるから、今は勘弁してくれ」
「ちょっと一護、何で後で付き合うのよ! 私はごめんよ。この鬼と付き合った暁には、次の日は全身筋肉痛で動けなくなるわ」
一護の遠回しな発言に霊夢が突っ込んでくる。
しかしここの妖怪たちは、そう甘くない。
「おいおい何を言ってるんだ? そんなことで貴重な遊び相手を逃すわけないだろ?」
ガシッと、勇儀が一護の肩に腕を回した。
文字通り、これで逃げることは不可能である。
「スタークから聞いたよ。あんた、随分と強いそうじゃないか。そんな男をこのまま地霊殿に行かせると思うかい?」
「い、いいえ、思わないです」
「往生際がいいね。嫌いじゃないよ。ハッハハハ!」
哄笑を上げながらさながら恋人のように、勇儀が一護を力強く自分に押し寄せる。
それにより豊満な勇儀のお胸様が一護に押しつけられた。
「っ、ゆ、勇儀、さん……すいません、少し離れてくれませんか!?」
「な~に赤くなってんのさ。まさか女の身体を知らないのかい? はは、こいつは初心だね。見た目と反して可愛いじゃないか」
「ちょっとあんた一護から離れなさいよ!」
霊夢が一護から勇儀を引き離そうとするも、全くもって微動だにしない。
その光景を見ている魔理沙はどこか面白そうに、
「いやー、ここにいたら退屈しないな。毎日楽しそうなところじゃないかパルスィ」
「そう? 毎日やかましいところの間違いじゃない? けどそうね、退屈はしないわね」
パルスィも、そんな光景を面白そうに見ていた。
そして霊夢のしつこさに勇儀は意地悪な笑みを浮かべて離れる。
「仕方ないね。ほら、離れてやるさ」
「全くもう、一護も鼻の下伸ばさないでよ」
「伸ばしてねえよ! 勘違いしてんじゃねえ!」
「おやおや何だい、まさかアンタ、黒崎一護にほの字なのかい?」
「っ! ま、そ、そんなわけっ、な、ないでしょ!!」
あからさまに狼狽える霊夢を見て、勇儀は新しい玩具を発見したかのような目つきになる。
その隙を見て一護は少し距離を置いた。
「モテモテだな一護」
「そんなんじゃねえよ」
「誰かに言い寄られるなんて妬ましいわね」
「だからそんなんじゃねえって」
離れた一護に魔理沙とパルスィが近づいてきた。
絶賛、霊夢と勇儀は何やら大口論(主に霊夢が一方的に、勇儀は愉快そうにしている)している。
「これじゃあ地霊殿に全然つけねえな。俺の予想だと、旧都でも色々面倒事がありそうだしよ」
「ええ、覚悟しておいた方がいいわ。地上の人間が地底に来ることなんて滅多にないから。絡み酒の要領で、鬼たちから絡まれると思う」
「マジかよ帰りてえな」
「だから言ったでしょ。ここの旧都を悠然と歩けると思わないでってね」
パルスィが旧都の方に目を向けながら言う。
旧都では、ここまでも聞こえるくらいの豪傑笑いが響いていた。
「ここは年中そうなのか?」
「そうね、ここでは常に誰かが喧嘩して、誰かが飲んで、誰かが騒いでいるわ。ずっとお祭り騒ぎしている所とでも思ってて」
「たまったもんじゃねえな」
「何を言ってるんだよ一護。こんな楽しいところ地上でもなかなかないぜ」
「魔理沙はそうだろうな」
早く旧都に行きたくてウキウキしている魔理沙とは反対に、一護は既に疲弊し切った顔をしていた。
いっそ瞬歩で一気に駆け抜けようかとも思った時だった。
「よぉ来てくれたのか。ま、お前らならちゃんと来てくれると思ってたよ」
スタークが旧都からのんびりと歩み寄ってきていた。
「スターク。ああ、招待を受けにきたぜ」
「さとりも喜ぶ。アイツ、何も謝罪できていないことを気にしてたからな」
どこかホッとした顔つきになるスターク。
パルスィはそれを見て、
「なに? スタークが呼んだの?」
「ああ、さとりに頼まれてな。グリムジョー達は来てないのか?」
「みんなで押しかけるのは悪いと思って、今回は呼んでない。心配すんな、こっちで穴埋めはしておく」
「そうかい。そいつは悪いな」
スタークはそこで魔理沙に目を向けた。
「アンタは、確か霧雨魔理沙だったか。パルスィから色々と聞いてる」
「おう。初対面じゃないけど、改めて私が霧雨魔理沙だ。魔理沙でいいぜ」
「じゃあ俺も改めて名乗らせてもらう。コヨーテ•スターク。スタークで構わねえ。こいつ、パルスィは友達が少ねえから仲良くしてやってくれ」
「聞き捨てならないわね。あなたも友達が多い方じゃないでしょ?」
「俺はいいんだよ。旧都でのんびり暮らしてるだけで満足だからな。俺みたいなおっさんより、パルスィみたいな子はもっとみんなと仲良く遊ぶべきなんだよ」
「それもそうだぜ。けど私は、もうスタークとも友達になったつもりだぜ。嫌じゃないだろ? これから仲良くしような」
「ふっ、そうかい。こんな俺でもよければ、仲良くしてやってくれ」
相変わらず相手との距離感を一気に縮める魔理沙を見て、一護はどこか尊敬している。相手を全く不快にさせず、誰とでも楽しそうにする魔理沙というキャラは、過去オレンジ色の髪というだけで不良に絡まれ喧嘩に明け暮れていた一護からすれば、この社交性は素晴らしい。
「お、スタークじゃないか。何だい、あんたもこいつらの霊力を感じて来たのかい?」
「そんなところだ。お前より一足遅れたのは、地霊殿にその旨を伝えに行ってたからだ」
「あんたはよく地霊殿に出入りしてるね。あんなところ楽しいのかい?」
「別に楽しむために行ってるわけじゃねえよ」
地霊殿は旧都では嫌われている。
故に旧都の者は誰も近づかない。誰も近づかないから、
「ほら、さとりは友達いねえだろ。だからたまに顔を出してるんだよ」
「スターク、あんた友達がいねえ奴のところに現れる習性でもあんのか?」
「一人は寂しいだろ? だから、俺なんかでよければ話し相手にくらいなってやろうとおもってな」
あ、この人はいい人だ。他の破面とどこか違うぞと、一護は確信を得た。
「よっしゃ、じゃあ飲みに行くぞ! まず旧都に来たら一杯引っ掛けねえとな。ほら行くぞお前ら!」
「いやだから俺たちはまず地霊殿に行くって言ってるーー」
勇儀の飲みの誘いを断ろうとした瞬間、スタークが割って入った。
「心配するな。さとりには旧都で飲んだ後に行くって伝えてるからよ」
「余計なことしてんじゃねえよ!」
そうして嫌々ながら、旧都へとみんなで足を運んだ。
*
例えるなら歓楽街。
眠らない街と称されてもおかしくない、躁狂の如く常に賑わいに満ちている。目に入るのは飲み歩く妖怪に歌う妖怪、遊び回ってる妖怪に喧嘩をしている妖怪、たまに働いている妖怪と様々だ。
自分のいた街で言うなら新橋か歌舞伎町あたりか? いや恵比寿あたりか? など思い浮かべる一護。まさに活気に満ちた街である。
勇儀は誇るように、隣を歩く一護に声をかける。
「どうだい旧都は? 地上にはない花のあるところだろ」
「すげぇ煌びやかすね。旧都はいつもこんな感じなんすか?」
「当たり前よ。酒と喧嘩で彩られた、退屈しない街さ」
「そうですか。……何かすげぇ周囲から見られてる気もするんですけど、俺たちって目立ってるのか?」
「そりゃな。地上の人間が来ることなんて、まずないからね。心配しなくても私といたら絡まれることはないから安心しな」
「ここにいる間はあんたから離れないようにします」
周囲の妖怪達が敵意は感じないものの、面白いような物を見ている目つきで一護たちを眺めている。
当初は勇儀たちから逃げようと考えたものの、現在は地霊殿に着くまでは一緒にいたい心持ちである。
「注目を浴びるなんて、とても妬ましいわ」
「こんな注目でよければ譲りてぇよ」
後ろを歩くパルスィから嫉妬の声が聞こえてきたが、一護は嫌な汗が流れてきそうな面持ちである。
ちなみに霊夢と魔理沙は物珍しそうに、周囲の視線など気にも止めずに見渡している。肝のすわりかたが一護と違うようだ。
「お、勇儀~。たくさん引き連れて何してるの?」
とある飲み屋の屋外座席に座って飲食をしている、見慣れた二人の姿があった。
「なんだ、お前達も飲んでるのか? ちょうどいい、一緒に飲まないかヤマメ、キスメ」
そこには異変の時、一護たちが地底に向かっている際に戦った二人の妖怪がいた。
「……あ、よく見たら前に地底に侵入してきた人間! え、何で!? 何で勇儀と一緒にいるの!?」
「ヤマメ、うるさいよ。一緒にいると言うことは、あの人達とは和解したんじゃないかな」
声を荒げて一護たちを指さす土蜘蛛の妖怪であるヤマメに対して、釣瓶落としの妖怪であるキスメが冷静に嗜める。
「お、顔見知りか? なら話が早いな」
「いえ、お互いあまりいい印象がないわよ。出会った瞬間に戦ったから」
「そうなのかい。なら酒の席で仲を取り持ってやる。あいつらも悪い奴らじゃないよ」
不安そうにする霊夢の肩に腕を回し、勇儀はそのテーブルに合流した。
*
「よし、みんな杯は持ったね」
テーブルを囲い、総勢八人が各々酒の入ったコップを手に持つ。
そして勇儀が大きく口を開く。
「杯を乾すと書いて!」
「乾杯と読むぜ」
『乾杯っ!!』
どっかで聞いたことのある乾杯コールと共に、みんなの器を叩き合う。
同時に勇儀と魔理沙は勢いよく酒を煽り、ジョッキ一杯を一気に飲み干してしまった。
「お、やるじゃないか。お前はなかなか見所があると思ったよ」
「へっ、こっちの台詞だぜ。今日はたらふく飲ませてもらうからな」
早速、勇儀と魔理沙が意気投合。
このあと地霊殿に行くことを忘れているのではと不安になる一護であった。
「へぇ、ここの麦酒(ビール)、なかなかいけるわね。キンキンに冷えてて喉越し爽やかじゃない」
「まぁな。俺もあまり酒は飲まないが、ここの酒はどれも一級品だと思うぜ。俺が奢るから好きなだけ飲みな」
「ご厚意に甘えて、そうさせてもらうわ。ありがとう」
「ただ、この後に地霊殿に行くことだけは忘れないでくれよ」
霊夢がビールの入ったジョッキを飲みながら、スタークが横で念の為に軽く釘を刺す。
「……ねぇ、あなたはお酒を飲まないの?」
「ん?」
一護は一護で横に座っているヤマメに声をかけられた。
出会いが出会いなだけに少し警戒してしまう。
「悪いな。俺は未成年……。って通じねえよな。俺は酒が飲めないんだよ」
「弱いってこと? 変ね、弾幕勝負が強い人はお酒も強いはずなのに」
「そんな地底の常識を持ってこないでくれ」
「私に勝っておいてお酒が飲めないなんて釈然としないわね。勝者は誇らしく勝利の美酒に酔いしれるべきよ。敗北の苦汁は私が飲むから……」
「なに少し僻んだ言い方してんだよ。あれは俺の方もズルいやり方してたからノーカンで構わねえよ」
にとりが開発した支援道具を使って勝利したんだ。
自分の力だけで勝利したとは口が滑っても言えない。
「ほら、こう言ってるし。ヤマメも対抗意識をいつまでも持つのはやめた方がいいよ」
消え入りそうな声でキスメが諭す。
出会いは桶の中に入っていたので、全体像を掴めなかったが今は違う。
桶から出ている彼女は、白装束を身に纏っており桶に入っていただけあり小柄だ。そして見た目通りどこか弱々しい見た目が庇護欲をかき立てる。
しかしそれと相反するように、焼酎をストレートで飲んでいる逞しさも兼ね備えていた。
「うん、やっぱり芋焼酎は何も割らずに飲むのが至高……」
「すげぇな。それって結構、度数強いんじゃねえのか?」
「キスメは弾幕勝負は普通だけどお酒は物凄い強いんだよねー。ふっしぎー!」
「そうか、いきなりあんたがさっき言ったことと矛盾が生じたな。あんた強いわりに、可愛らしいものを飲んでるし」
「舐めないでね。意外に度数高いんだから」
ヤマメはアイスの乗ったサワーを飲みながら、幸せそうな顔をした。
「おいおい一護、お前もいい加減に飲めばいいじゃん。外の常識がどうかは知らないけど、ここは幻想郷だぜ。おつむが取れたての子供ならいざ知らず、一護も立派な一人の男だ。飲んでも誰も止めないぜ」
麦酒を飲みながら、魔理沙が一護に絡みを始める。
「悪いな。一応、俺は俺の決めたルールで生きてるからよ。酒はもう少し年を取ってからにするよ」
「そんな連れないこと言うなよー。一度飲めば病みつきだぜ」
「魔理沙、人にお酒を強要するのはよくない。一緒にいれば、それだけでいいじゃない」
魔理沙の隣に座るパルスィが助け舟にきてくれた。
ちなみにパルスィも麦酒をちびちび飲んでいる。
「えー、一緒に飲みたい乙女の心を理解してほしいぜ」
「悪いな。俺は魔理沙のこと乙女ってより仲間意識のほうが強ぇから、そういうのを感じたことはねえよ」
「超ショック! こう見えて、私は一護のこと男として意識してたんだぜ」
トロンとした瞳で見つめてくる魔理沙。酒が入ってるせいで頬が少し紅潮しており、どこか色気というものを感じてしまう。
一護はお茶の入ったコップを静かに飲み、
「俺は魔理沙のこと頼り甲斐のある男友達みたいだと思ってるぜ」
「これだもんよ~。パルスィ、分かるか。これが友達以上恋人未満ってやつだ。そうなったら進展はない」
「友達ならいいじゃない。それ以上、何を望むというの? それ以上を望むなんて心、妬ましいわ。嫉妬しちゃうわ」
「生き物っていうのはな、今望むものを手にしたら、次にまたその上をいく別のものを望むようになるんだぜ。例えば……店員さ~ん、この麦酒より更にグレートのアップしたものを持ってきてくれー」
「あいよー、シャンパン一丁!」←店員
「そこは友達で例えねえのかよ。しかもシャンパンって、え、グレート上げすぎじゃね?」
生一丁みたいな軽い調子で言われたらたまったものではない。まぁシャンパンも金額はピンからキリまで様々だが。
「それで、えっと、私も一護って呼んでいいのかしら?」
「構わねえよ。俺もパルスィって呼ばせてもらうぜ」
「ん、分かった。ねぇ、一護は私の友達になってくれる?」
「ああ、俺でよければ」
「あー、いま私を出しにして友達になったなー」
「お前は黙って似合わねえシャンパン飲んでろ」
出会った頃は嫉妬だ何だと、ヤバい妖気をぷんぷんさせていたが今ではそんなことはない。
「……あんた、酒が飲めなかったのか。そいつは悪いことをしたな」
ここでスタークが一護に声をかけてきた。
小さいグラスに丸い氷が入っている。琥珀色の液体が入っており、恐らくウイスキーをロックで飲んでいる。一番様になっているイケオジっぷりだ。
「ここの連中はみんな酒飲みだからよ。やることのない時は日がな一日、酒に溺れている事が多いからな」
「いいじゃない。休みの日は何をしても勝手だもの。それにここのお酒、色んな種類があるし。食べ物も美味しいわ。ほら、一護も飲みなさいよ」
「おい霊夢。お前も飲む度に俺に酒を勧めんじゃねえよ」
「けど実際、ここの酒と飯は旨い。俺も幻想入りした時は、まず飯と酒に感動したもんだ」
スタークはウイスキーを傾けながら、小皿に盛られているナッツを口に入れる。まさに絵になるとはこの事。ダンディズムを感じ取れる。
「そう言えばスタークは幻想入りした時は既に地底だったのか?」
「ああ。お陰で初っ端から戦いの連続だったよ。倒しても倒しても、そこかしこから挑んでくる妖怪がいやがる。こっちはまだこの世界が何なのかも分からねえってのに、そんなこと知ったことかと言わんばかりの攻められ方だったぜ」
「そうだったのか」
そう考えると、自分が幻想入りしたのは地上の特別何もない森で良かったと、一護はどこか安堵する。地底や妖怪の山、魔法の森などに幻想入りしていたら、命がどれだけあっても足りない。
「最終的に、勇儀が俺に戦いを挑んできた。正々堂々、真正面から挑まれてな。霊圧を失っているのも相まって、まぁボコボコにされたな」
「容赦なかったんだな」
「ああ、
「そう聞くと霊夢がマシに見える」
山の中、置いてきぼりを喰らわないため全速力で博麗神社まだ走ったのがいい思い出だ。
「おいおい、そのお陰でここまで強くなれたんだろスターク。今では私と双頭となす地底最強ぶりだよ」
「俺は別に、そこまで強くなりたいわけじゃねえよ」
快活に絡んできた勇儀。
横に座るや否や、スタークと肩に腕を回しその豊満な胸を無自覚に押し付けている。
それに対しスタークは慣れたもので、嫌な顔一つせずマイペースにウイスキーを飲んでいた。
「……けど、ここの連中はみんな強い。あの頃より強くなった俺といても平然としてるんだからな」
「どう言う意味だよ?」
「いや、何でもねえよ」
スタークは飲み切ると、店員に同じのを一杯注文していた。
「それで、一護は何しに地底に来たの? 観光か何か?」
「言ってなかったな。俺たちは今日、地霊殿に招待されて地底に来たんだ」
「へぇ〜、あんなところの招待をわざわざ受けたんだ。物好きだね〜」
隣でメロンサワーアイス乗せを飲んでいるヤマメが尋ねてきたが、特に興味がなかったのかアイスを食べてそれ以上は何も言わない。
「ん、あそこは少し変わった妖怪が住んでるの……」
代わりにキスメがおろおろとした声音で、地霊殿について話してくれた。
「古明地さとりと、その妹である古明地こいし、後はペットとして火焔猫燐と霊烏路空がいるの」
「ああ、それはスタークから聞いてる。あの時は敵に操られて、どう言う奴らなのかは分からなかったけどな」
「えっとね、その中で古明地姉妹は相手の心が読めるの。覚(さとり)という妖怪だから」
「心が読める、か。そいつはまた凄い力だな」
「ええ、だからこそ誰も寄り付かないの。君も、自分の心が見透かされるのは嫌でしょ?」
「ああ、そうか。これで得心した。何で地霊殿って言葉を出すだけで全員が眉を顰めるか。そういうことだったのか」
「そうよ。私たちも別に嫌いってわけじゃない。けど心を読まれるのは嫌だから、誰も近づこうとしないの」
「分かった。さんきゅうな、話してくれて」
キスメに一言礼を言う。
確かに自分の心を読まれるってのは、プライバシーどころの話ではない。自分の考えや感情が筒抜けになるのは、気持ちの良いものでは決してないから。
それ故に誰も近づかないとは、なるほど納得のいく話である。
「それでも、君は会いに行くの?」
「ああ、せっかくの招待だからな。ご好意に甘えるとするぜ」
それでも一護は迷いなく言い切る。
他者の心が読めるからなんだ。そんなもの大した問題ではない。
実際に会ってみて自分がどう感じ取るか、そこが重要である。
しかしそれ以上に、キスメが焼酎ストレートを飲み続けて全く酔いを見せていないのが驚きだ。
「……こいつは、呼んで正解だったな」
一護とキスメの話を盗み聞きしていたスタークが、どこか綻んだ表情で誰に聞こえることなく呟いたのだった。
『2』
そうして地底に来ての一次会は終了した。
誤算だったのは、魔理沙が酔った勢いでパルスィ達と二次会に行ってしまったこと。
予想できなかったと言えば嘘になるが、馬が合ったらしく霊夢とスタークと一護を置いて行ってしまった。
そんな訳で3人で地霊殿へと向かった。
地霊殿と呼ばれる大きな洋風の屋敷である。
旧都の中心、灼熱地獄の跡地の真上に作られたこの屋敷を中心に、霊魂が無数に浮遊しており、死が充満していると感じる。
そんなところに建つ屋敷へと3人は足を踏み入れた。
*
3人は中へ入ると、一人の女性が出迎えてくれた。
「遠路はるばるようこそにゃ。あたいは地獄の輪禍 火焔猫燐。気軽にお燐と呼んでほしいにゃ」
紅の髪を両サイドで三つ編みにし、ゴスロリファッションのようなもので身を包む女性。頭に猫耳が生えており、猫の尻尾が二本生えている。
初対面はアレイスターに操られていた為、これが正直なところの初対面となる。
なので一護と霊夢も名乗り、中へと案内される。
中も中で霊魂が浮遊しており、悪戯はしてこないものの気にはなる。
よくこんな場所で暮らせるなと、心の底から思う。げんにお燐と呼ばれる子は全く気にしている素振りがない。
「ここは滅多に人が来ることがないから、客人は歓迎するよ。是非ともゆっくりしていってほしいにゃ」
「ええ、そんな話をさっき聞いたわ。何でも、ここの主人は他人の心が読めてしまうとか。それで誰も近寄らないって」
「その通りにゃ」
あまり配慮のない霊夢の物言いにも、お燐は特に不快にも思っていないのか平然と答える。
「でも私たちのご主人はとても良い方なの。そこだけは勘違いしないでね」
「心配ねえよ。俺たちは相手の能力なんかで評価したりしねえから。実際に会って、話してみねえことには、そいつの性質ってのは見えてこないからな」
「成程ね。スタークが太鼓判を押すわけにゃ」
「そいつはどうも」
お燐は鼻歌を口ずさみながら、3人を案内している。
見た目が大きな西洋の屋敷なだけあって、中もとても広い。部屋がいくつもあり、窓ガラスの代わりにステンドグラスが張られているのが印象的である。
「今日はみんないるのか?」
「うん、みんないるよ。さとり様、こいし様、お空もね」
スタークの質問にお燐が答えている。
さとりとはアレイスターに操られていた主人で、お空も恐らくアレイスターに操られていた妖怪だろう。では、こいしとは恐らく姉妹の一人で、完全に初対面だなと一護は思った。
「ここにゃ。ご主人、客人がお越しになられたにゃ」
「ええ、入って構わないわ」
お燐は両開きの大きな扉をノックして言うと、中から少女の声が返ってきた。
そして、お燐が両開きの扉を開く。
「おお、すげえ」
その先はまさに圧巻。
まず目に入ったのは、大きな花のスタンドガラス。向こう側の壁に大きく張られており、煌びやかな光が部屋を照らしている。
そして調度品の数々は素人目にも一級品と分かるものが揃えられており、大きなテーブルが部屋の中心に設置されている。
旧都とは正反対の雰囲気に、どこか現実感が湧いてくる。
「わざわざこのような場所にお越しくださりありがとうございます」
そして一人の少女が出迎えてくれた。
「私はこの地霊殿の主人である怨霊も恐れ怯む少女 古明地さとり。お会いできて光栄です」
見た目は少女。
フリルの多くついたゆったりとした可愛らしい水色の服装を着用しており、髪型はやや癖のある薄紫色のボブヘアである。
そして一番目につくのが、閉じられた瞳のような球体。それがコードのように伸びており、彼女の胸元にある。それについて質問を飛ばしたいところだが、今は名を名乗る。
「私は楽園の巫女 博麗霊夢よ」
「俺は博麗の死神 黒崎一護だ。……なぁ、この二つ名って言わないといけないのか?」
「当たり前じゃない。初対面の相手に名乗る時はね。常識よ」
「そうなんだよな。俺が幻想入りして未だに馴染めない要素の一つだ」
二つ名があればそれも同時に名乗るのが仕来りらしいが、どうにも慣れない一護だった。
「先日は私たちのことを助けてくださったとスタークから聞きました。お礼を言わせてください。本当にありがとうございました」
「やめてくれ。別にお礼を言われるようなことをした覚えはねえよ」
「いえ、何を言っているのですか。私たちは、あなた方のお陰で助かりました。お礼を言わなければ、私の気がすみません」
「そ、そっか」
実際あれは、一護たちが原因でもあるため、正面切って受け取ることができないのだ。
「立ち話も何ですから、よろしければお座りください。大したおもてなしは出来ませんが、本日は楽しんでくだされば幸いです」
そして一護たちは、さとりに促されるがまま椅子に座る。
さとりも最後に席に着くと、これに合わせてこの部屋の扉が開かれた。
最初は沢山の料理を乗せた配膳カートを押してお燐が入ってくる。同時にもう一人、酒瓶を木製の籠に入れて別の少女が入ってきた。
あの戦いの時、お燐と一緒に操られていた少女である。
「お、お空。今日は随分と大人しいじゃねえか」
「あ、スターク。へへん、私だっていつまでも煩い子供とは違うんだよ。それより、へぇ、君たちが主人が言っていた客人だね」
お空と呼ばれた少女が、一護達に目を向ける。
「……ここは大人である、この私から名乗って上げるわ。私は熱かい悩む神の火 霊烏路空。気軽にお空と呼んでほしい! よろしくね!」
お空と呼ばれた少女は、癖毛気味な長い黒髪に緑色のリボンを付けている。服装は白のブラウスに緑のスカート、背中には烏の大きな羽が生えており、上から白いマントがそれを包んでいる。
そして変わった装甲のようなものを右腕と右足につけている。
一護たちも軽く挨拶を交わし、お燐が手際よくテーブルに料理を並べていく。
料理は洋食。フレンチレストランさながらの盛り付けに、どこか背筋がピンと伸びる一護。
博麗神社ではまず出てこないーー経済的にもーー質の高い食材が使われている。
「へぇー、洋食ってやつね。紅魔館で出てきたのと似てるわね」
「そうだな。俺はいい加減、ハンバーガーやフライドポテトが恋しくなってくるぜ」
自由の国アメリカの高カロリー料理、火力と香辛料が命の中華料理が食べたくなってきた一護であった。
「テーブルマナーなどお気になさらずに。お口に合うかは分かりませんが、どうぞお召し上がりください」
さとりの言葉により、全員が食事を開始する。
「……あら、なかなか美味しいじゃない」
「ああ、普通にうまい」
一つ一つの料理名は分からないが、どれも美味しい。
「ワインもあるよ。この料理にはとても合うからオススメ!」
「そうなの? なら頂こうかしら」
木製のカゴに入っているワイン瓶を持ち、お空が霊夢のワイングラスに注ぐ。
「君もどうだい? お魚料理にはこの白ワインもオススメだよ」
「いや、悪い。俺は酒を飲めねえんだ」
「そう。なら、君のようなお子ちゃまには、この葡萄ジュースはいかが?」
「ああ、ならそれを貰うぜ」
お空が一護のグラスに葡萄ジュースを注ぐ。
食べ物も飲み物も絶品で、一護たちは舌鼓を打っていた。
(……あれ、つかこれ誰が作ったんだろう? 料理人でもいるのか? いやそれ以前にこの食材たち、どうやって手に入れたんだ?)
食事をしつつ疑問が浮いてくる最中で、さとりが口を開いた。
「えっと、どうですか? お口に合いましたでしょうか?」
「ええ、悪くないわ。このワインもなかなかいけるわね。あまりこういうの飲まないけど、とてもいけるわ」
「ああ。来た甲斐があったぜ」
「それは良かったです」
さとりの質問に答え、再び食事。
「…………」
「…………」
あれ、なぜか会話が続かないぞと、一護はしゃきしゃきのサラダを頬張りながら思った。
助け舟を出してもらおうとスタークの方を見ると、先ほどからマイペースに、ワインと目の前の皿の飯を胃袋に落としていっている。
「……えっと、さとりは他人の心が読めるんだよな? 今も読んでたりするのか?」
「い、いいえ。今は読めないようにしています」
「へぇ能力のオンオフが可能なのか」
「ええ。この第三の目を閉じてる間は、相手の心を読むことはできないの」
「そうなんだな」
出会い頭で少し気になっていた、胸元にある目のような球体。
どうやらあれが開いている間だけ、相手の心が読めるらしい。
「だから安心してください。心は決して読みませんから」
「ああ、その方が助かる」
確かに面と向かって心を読まれたら気持ちの良いものではない。
しかし読めない状態にできる上、さとりと言う子の人柄も普通にいい子なので嫌う要素はない。
「だったらさ、みんなにそれ言ったらいいじゃない。心が読まれるから嫌われてるんでしょ? 普段から読まなければいいだけの話じゃない」
「え、あー、そ、そうですね。その通りです……」
「何よ、私なにか間違ったこと言った?」
「いえ、そんなことはありません……!」
霊夢の言葉にさとりがおろおろしながら、何やら嫌な汗を流しているように見える一護。
「そのですね、今さらみんなの前で心を読まないようにしますって言ったところでだし、こんな暗い私が受け入れられるとも思えないし……あぅ~。無理なんです。何て言っていいか分からないんです!」
「あー、なるほどな」
心は読めないが、さとりの考えていることが簡単に読めてしまう皮肉。
恐らく数十、下手したら数百年単位で嫌われ者を続けてきた身として、今さらどんな顔してみんなに発表していいか分からないのだろう。長い年月によって培われた、さとりという人間性というか妖怪性を変えることは容易ではない。
つまりコミュニケーション能力の不足及び悲観的な考えの持ち主であるということ。
「これで分かっただろ。さとりは友達が少ないんだ。だから仲良くしてやってくれ」
スタークが隣に座る一護に、本人に聞かれないよう耳打ちした。
「あんた、友達が少ないやつに対して異様に優しくないか?」
「孤独ってやつの気持ちは、俺が誰よりも知っているからな」
「何かあんま深く聞かねえほうがよさそうな、闇の深い内容そうだな」
こういう時、魔理沙がいたらもっと気楽に会話、そして友達になれていたなと思う。人間関係を潤滑にすることが大得意だから。
「そうなのにゃ、是非ともご主人と友達になってほしいにゃ」
「そうですよー。せっかくだから友達になってあげてほしいの。私たちの一生のお願い」
「知り合ったばかりの俺らに一生のお願いを使うんじゃねえよ」
「全くね」
お燐とお空が一護と霊夢に近づき、同じく耳打ちするかのように言った。
「しょうがないにゃ。だってご主人、本当に友達が少ないのではなくいないんだにゃ」
「そうそう。能力のせいにして友達を作れないご主人なのよね」
「ご主人に飼われているペットとしては、もっと外に出て遊んでほしいんだにゃ」
「決して遅くないんです。ご主人をもっと明るくしてほしいんです」
「お、おう。そうか。つか、丸聞こえになってるけど、大丈夫か?」
「「え?」」
さとりの顔を見ると、半泣き状態になっている。同時に頬を少し膨らましているあたり、ちょっと怒ってもいるのだろう。
「にゃー! ご主人聞こえていたにゃ!?」
「聞こえていました……っ」
「うそうそ、私たち全然そんなこと思ってないから!」
「心を読まなくても分かります。ええ、分かっちゃいましたし、普段から一緒にいるんです。知ってましたとも」
さとりは若干だが怒りをぶつけている。
繊細な女の子に対して、ずけずけ物を言い過ぎだと思う一護だった。
お燐とお空が目配せで一護に助けを求めているのが分かる。軽く溜息をつきながら、助け舟を出すことにした。
「まぁ何だ。こいつらもアンタのとこを心配しての事なんだろ。あんまり目くじら立ててやるなよ。別に悪意を持って言ってるわけじゃないしさ」
「別に怒っていません。ただ、この子たちは私の不甲斐ない側面をお客人に話しすぎなんです」
「それはまぁ、そうだな。けどそれは、あんたのことを知ってほしいからだろ。健気じゃねえか。アンタもこいつらの主人なら、もっと理解してやれよ」
「……ええ、その通りですね。飼い主に噛み付くペットというのもまた、可愛いものですしね」
よしよし怒りが少しは鎮火したかな、と一護は内心ホッとし食事を摂る。
そんな頃合いだった。
「あー、お姉ちゃんが珍しく誰かとお食事してるー。なになに、まさか友達ができたとか!?」
扉を開けて、初めて見る女の子が現れた。
まさに瓜二つ。格好も似ている。どう見ても話にあった妹の古明地こいしだろう。
さとりが薄紫色の髪色なら、こいしは薄緑色の髪色。黄色いリボンのついた黒い帽子を軽く被っており、服は全体的に上は黄色、下は緑である。そして同じく第三の目と言われている球体もあった。
「こら、こいし。お客様の前で大きな声を出すなんて、はしたないですよ」
「なーんだ、お客だったの。ま、お姉ちゃんに友達なんてできっこないよね〜」
「…………」
あ、ヤバい。さとりのこめかみに青筋がピクついているぞと、一護は悟った。
「あ、スターク。こんにちわー」
「おうこいし。いつも通り元気だな。今日もどっか行ってたのか?」
「うん、ちょっと地上にね。で、で、そっちの2人はお知り合い?」
「ああ、紹介するよ」
スタークが一護と霊夢に視線を送り、一護は椅子から立ち上がる。
「俺は黒崎一護。さとりの紹介を受けて来たんだ。よろしくな」
「私は博麗神社の巫女 博麗霊夢よ。ちょっと一護、二つ名を言い忘れてるわよ」
「いや、やっぱ慣れねえよコレ。悪いな」
「はいはーい! 私は閉じた恋の瞳 古明地こいしだよ! よろしくねっ!」
「お、おう」
距離感を近づけてくるこいしに、一護は少したちろぐ。
姉のさとりと違い、妹のこいしは明るい。明暗別れると言うが、ここまで如実なのはまた珍しいだろう。
「なになに、みんなでご飯たべてるの! 私も食べる! お燐、私の分も!」
「は、はいにゃ!」
お燐が慌てて食事の準備を始める。
「全く、少しはお上品には出来ないのかしら? お恥ずかしい妹で申し訳ないです」
「元気でいいじゃねえか。妹はあれくらい明るい方がいいと思うぜ」
「そう仰ってもらえると有り難いですが」
「それに、まだ少しの間しかいねえが、俺はここを気に入ったぜ。みんな、いい奴らじゃねえか」
さとりにこいし、お燐にお空、まだ会って間もないが、悪い奴らじゃないのは確かだ。
「……面白い人ですね。この地霊殿を気に入ってくださるなんて、変わってます」
「変わってねえよ。なぁ霊夢?」
「え? 別に私は何とも。けど、ここの料理とお酒は気に入ったわ」
「よく見ると巫女服で洋食とワインって、すげぇ違和感だな」
一護はワインを飲む霊夢を見て、ふと思った。
寝巻きや巫女服は見ても、一般的な私服のようなものを着ている霊夢は見たことないと。実際、巫女服が私服のようなものだから致し方ないが。
「ねえ二人はお姉ちゃんのお友達じゃないんでしょ? じゃあさ、お友達になってあげてよ」
「こいし、お客人を困らせること言わないの」
「えー、だってお姉ちゃんいつも一人じゃない。引きこもりじゃない」
「少し黙りなさい」
こいしとさとりの話を聞き、一護は少しキョトンとした表情となり口を開く。
「あー、何だ。俺はもうみんなのこと友達だと思ってるぜ」
「え?」
それを聞いて、さとりもキョトンとした顔になった。
「いや、こうして一緒に飯食って駄弁ってる。俺からすれば、それだけでもう友達になったつもりだぜ。なぁ霊夢」
「何で私に振るのよ。まぁそうね、いいんじゃない。さっきも言ったけど、私もここが気に入りつつあるしね」
「だよねだよね! やったねお姉ちゃん! これでお友達が二人も増えたよ!」
「え、あ……えっ、待ってくださいっ」
急な展開に頭が追いつかないさとりはおろおろとし、
「えっと、そもそもお友達とは何ですか?」
「そっからなのか」
友達がいないと言われるだけのことはある。
「流石だよ、あんたら。さとりとこんな早くに打ち解けてくれるなんてな。連れてきて正解だった」
横合いからスタークが口を挟んできた。
「こういうのをなんて言うんだ? 塞翁が馬、怪我の功名、災いを転じて福と成す……まぁ言い方なんて何でもいい。良かっよ、さとりの友達になってくれて」
「良かったにゃ、主人おめでとうだにゃー!」
「これはお祝いですね! 言われずとも分かりますよ!」
「お姉ちゃんおめでとう! やっとお友達ができたね!」
「何ですかコレ。私、少し馬鹿にされてませんか?」
喜んでいいのか、怒っていいのか、判然としない。
「ねぇねぇじゃあさ、こいしとも友達になってよ! いっぱい遊んでほしいな!」
「ああ、俺たちでよければ構わねえよ」
「ええ、意外にここ居心地いいし」
こいしがそれを聞いて太陽のような笑顔になる。
「わーっ、ありがとう! じゃあ今度、私たちがそっちに行くね!」
「ああ、そん時はこっちがおもてなしさせてもらうよ」
「やったーっ!」
「そうね、しばらくは平和そうだし。ま、煩くしなければ来ても構わないわよ」
そこでふと、さとりは思い出した。
「そういえば、彼は何者だったのですか? 私の能力を持ってしても、彼の真意を読むことはできませんでした」
彼とは、自分のことを操ったアレイスターのことだろう。
さとりは勿論、お燐もお空も操られていた為、あの時の記憶がないのだ。
「そうだな。黙っておくこともねえし、話させてもらうぜ」
そして一護は語った。
アレイスターは『神のシルベ』という刹蘭の仲間で、自分たちに「五つの試練」を与えるために出張ってきている明確な敵であること。
これまで果心居士、アレイスター、ヘカーティアの試練は突破できたこと。自分たちに試練を与えて何がしたいのか不明なため、話せるのはこれくらいである。
「『神のシルベ』か。一丁前に変な名前を付けたグループだな。そもそも神ってのは何だ? 何か信仰の対象でもいるのかね」
「神様なんて言い出したら、早苗のところも神様いるよね。あと妖怪の山にも。神様なんてひとえに言っても色々いるからね」
「どう取っていいのかは、次に会って聞けばいいさ。相手の狙いが俺たちなら、向こうから動いてくるだろうしな」
スタークや霊夢、一護が改めて疑問を口にするが、現状では氷解しないだう。
刹蘭が何のために『神のシルベ』を動かしているのかは分からないが、このさき嫌でも残りの二つの試練とも対峙するだろうし。
と、霊夢がワインを飲みつつ、
「この話はここまで。せっかくの美味しい料理がまずくなるわ」
「そうだな。俺たちもそこまで話せるようなネタは持ってないし。霊夢の言う通り、旨い飯は楽しい会話をしながら食いたいしな」
二人はそう言い合い、食事を再開した。
「……いいコンビね。あなた方は」
さとりが一護と霊夢を見据えながら、少し口元を綻ばした。
「そうなのか霊夢?」
「何で私に聞くのよ。知らないわよそんなこと」
「少し興味が出ました。失礼ですが――お二人の心を読んでみてもいいですか?」
さとりのセリフに一護と霊夢は目を見開いた。
「え、それはまたどうしてだ?」
「いえ、お二人の関係、というよりは絆というものを読んでみたいんです。単純な好奇心になりすが」
「あーそうなのか。別に俺は構わねえけど、霊夢は?」
「んー、いいんじゃない。それに本当に心が読めるのか、試してみたいしね」
若干だが、少し酔いが回り始めている霊夢も承諾した。
「なら、遠慮なく読ませてもらいます」
すると、球体の瞳がゆっくりと開いた。
深紅の瞳。それが一護と霊夢を映しこむ。全てを見透かしているかのような、心を読まれているかのように、第三の瞳が見つめてくる。
「一護さん、流石ですね」
そしてまず一護の心を読み取ったさとりが称賛した。
「固い絆で結ばれていますね。どんな時でも背中を預けられる、その信頼関係の深さは羨ましい限りです。どんな時でも頼り、頼られる関係。親友を超えた、真の仲間と思っていますね。いいですね、私にもそんな人が欲しいです」
「そ、そうか。何か、やっぱ面と向かって言われると恥ずかしいな」
「すみません」
読み取ったことに対し一言謝罪し、しかし躊躇わず次は霊夢のことを述べた。
「霊夢さんも一護さんと同じですね。お互い信頼している、とても良いことです」
「ま、まぁそうね。そろそろ付き合いも長いし……」
「ふふ、けどもう一つ別の感情もありますね。これは、ええ――一護さんに恋をしてますね」
「っっ、ちょっ!?」
「え?」
さとりが読んだ霊夢の心、それを言ったことにより、二人の今後の生活が一変するのだった。