東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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消したはずのデータが見つかったので、なるべく更新が早くなるかもです。


第5斬【香霖堂と文々。新聞】

 ――夢を見た。

 死んだ母親が出てくる夢。

 黒崎真咲が現れた夢。

 おふくろが居た、生きていた時、生きていたはずの時の夢。

 

 一護の夢はまるで弾劾めいていて、目を逸らさずにはいられなかった。

 

 断罪、贖い、罪、罰が一護を支配していく。

 忘れたいが忘れてはいけない。それは一生の重荷となり――成長していく。

 

 

《1》

 

 朝――

 

「ん……」

 鳥の鳴き声が目覚まし時計代わりになるように、黒崎一護が目を覚ました。

 同時に太陽の日差しが、一護の顔を照らす。

 ポカポカとした光と共に、目を突き刺すような光。

 ゆっくりと、上半身を起こす。同時に背伸びし、目をこする。

 ……夢、か……

 一護は布団の中で目を覚ました。いつもとは違う部屋。いつもと違う部屋の匂い。いつもと違う布団。いつもと違う要素が盛り沢山な部屋だ。

 

「朝……か」

 

 呆けた頭を起こすように布団からのそりと立ち上がり、縁側に出る。

 快晴と言って良いほどの蒼天。日光が暑さを作り上げ、それが風に乗ってやってくる。

 季節は夏……とここの神社の主である博麗霊夢は言っていた。

 確かに夏だろう。この暑さと、夏の証拠であるセミの鳴き声なんかも確認できる。初夏と言ったところだろうか。夏はこれからだ的な感じだ。

 

「……そっか、俺、幻想郷ってところに来たんだな」

 

 呆けた頭が徐々に覚醒し、状況を軽く理解する。

 思い出す。昨日のこと。幻想入りし、妖怪に襲われ、霊夢に助けてもらい、神社に居候させてもらい、魔理沙と言う友達ができ、弾幕ごっこをして、能力を習得し、一日を終えた。

 これほど濃厚な一日は他にないだろう。

 死神時代でもあったかどうかすら分からないくらいだ。

 ――夢を見た。

 不意に一護はそう思った。

 夢の中におふくろが出てきた。別に出てきても、それ程気にはしないけど、何だろう……この不快感は。おふくろを見て不快な気分になった事など一度も無いはずだ。

 それなのに、この感覚は一体……。

 自分でも腹が立ってきた。おふくろに対する自分に対してだ。

 ……と、そんなことを考えていると唐突に、

 

「起きた~一護」

 

 霊夢が襖を開けて入ってきた。

 一護は後ろを振り返り、定番の朝のご挨拶をする。

 

「おはよう霊夢。朝は早いんだな」

 

 自分は今起きたところだが、明らか霊夢はその前から起きていたのだろう。既に巫女装束になっており、寝起きとは思えない目つきだ。

 

「一応神社の神主よ。日の出る前に起きる習慣くらいはついているわ」

「そうか」

 

 まぁそうだろう。神社の人は朝が早いと聞いたことがあるし。

 

「起きたんなら顔を洗ってきなさい。朝餉の準備が出来てるから」

「おう、分かった」

 

 一護は朝の支度を始めた。

 

   *

 

 朝食の後、一護と霊夢は居間でお茶を啜っていた。

 そして不意に、と言うより昨日行く予定だった場所を思い出した。

 

「今日は一護の着物を買いに行かないといけなかったわね」

 

 そう、一護はいきなり幻想入りしたため、自分の服が全くないのだ。故、今日中にこれからの衣服を購入しなければ明日から色々と大変なことになる。

 

「そうだな、確か香霖堂ってとこに買いに行くんだっけ?」

「ええ。お金はいずれ返してくれると良いから」

「あ、ああ。分かってるよ」

 

 お金の面は誰よりもしっかりしているようだ。

 まぁ仕方のない話だ。前述で言った通り、一護は代行証以外何も持ってきていない。だから金銭面は霊夢に頼るしかないのだ。勿論、後でしっかり返す約束のもとで。

 

「んじゃ、やることもないし、早く行こうかしら。先に外に出て待ってて」

「……なぁ、その香霖堂ってとこにはどうやって向かうんだ?」

 

 無性に嫌な予感がした一護は、一応聞いておくことにした。

 

「え、飛んでいくけど」

「やっぱり……」

 

 一護は溜息をつきながら縁側から外に出た。

 霊夢は霊夢で部屋の奥に入る。

 

 

「さて、どうしたものか」

 

 一護は悩む。

 このままだとまた半端ない距離を走らされる。恐らくだが昨日以上の距離になるだろう。

 いくら能力で補正を加えても限度ってものが存在する。

 地面の魂を引き出しても、あくまでアクションを起こすのは一護本人であり、疲れるのも一護だ。

 

(……魂を引き出すか。そう言えば死神は霊子を足場にして空中に立ってんだよな。だったら、俺の能力を応用すれば、どうにかなるんじゃねぇのか)

 

 万象全てに微小ながら魂は宿っている。それは勿論、空中にも宿っているということだ。

 なら――

 

「空中の霊子を引き出し、使役する」

 

 瞬間、一護の足元から妙な光が迸る。これは一護が能力を使用した証左である。

 

「……」

 

 そして自分の目の前の空中に踏み台を作る感覚で、片足を置く。

 トン……と、簡単に上手くいった。

 

「よっと」

 

 一護は更に足場を作る感覚で、空中に両足で立つ。これでまるで一護は空中に立っているかのようになった。

 ちなみに何故、こんな簡単にできたかというと、死神時代も同じ感覚で空中に立っていたおかげだ。死神の力を失っても、あの時の感覚が骨の髄まで染み付いているのだ。

 

(これなら霊夢に置いていかれることはなくなるな)

 

 一安心。

 あの時の体験はもうしたくない一護である。

 

「へぇ、もうそこまで能力を使えるようになってるのね。ちょっと驚いたわ」

 

 ちょうど良いとこに、霊夢がやって来た。

 若干驚いた様子で一護の姿を見ている。

 

「これでお前に置いていかれずに済むぜ」

「失礼な言い方ね。私がいつ一護を置いてったのよ」

「昨日のことを既に忘れているだと」

「それじゃあ、行くわよ」

 

 一護の文句など知らん霊夢は、空中に浮遊し香霖堂に向かうこととなった。

 

 

《2》

 

「……此処が、香霖堂なのか?」

「そうよ」

「物置じゃねぇよな」

「言いたいことは分かるわ。けど此処が正真正銘の香霖堂よ」

 

 その証拠に香霖堂と言う看板が粉飾されている。

 目の前にやや小さい雑貨店のような店がある。骨董店にも見えなくも無い。見方を変えれば物置だ。

 店前には外の世界に有るような物が置かれている。古い看板や道路標識、軽トラ、カーネル・サンダース像まで置いてある。

 

(……不気味だな、ここまでくると)

 

 そして一護は一通り見渡した後、ある事に気付いた。

 

「つうかこれ、全部外の世界のものだろ!?」

「あら、言ってなかったかしら? 香霖堂は幻想郷の物はもちろん、外の世界の物も取り扱ってるのよ」

「初耳だな」

 

 きっぱりと言う一護。

 

「とりあえず中に入るわよ」

 

 霊夢の言葉に二人は店内に入る。

 

 

 店の中は店と呼ぶには余りにも煩雑に物が散りばめられており、本当に商売する気あるのかと疑いたくなるような店内である。

 奥のほうにカウンターが有り、一人の男性と一人の少女が話している。どうやら、一護と霊夢には気付いていないようだ。

 

(客が一人……つか結構散らかってもいるな。大丈夫なのか、この店?)

 

 一護は店に対して少し不満を覚える。

 売上とか大丈夫なのだろうか?

 と、よく見ると男性と話している少女に見覚えがあった。

 見覚えどうこうというより、昨日会った、

 

「霖之助さん、ちょっと良い?」

 

 霊夢はカウンターの方に歩み寄り、男性に声を掛ける。

 どうやら男性の名前は霖之助というらしい。店の名前の由来が直ぐに分かる。

 そして霊夢の声に、カウンターの二人がようやく一護と霊夢に気付いた。

 

「やぁ、いらっしゃい霊夢。久しぶりだね」

 

 男性店員が気さくな態度で接客する。

 霖之助――白髪のショートボブにアホ毛。黒と青のツートンカーラーをしたつなぎのような服装で、首には黒いチョーカーを付けている。

 片方の少女は、

 

「お、ライムにイチゴ」

「「誰がライムとイチゴだ!」」

 

 いきなりボケを入れてきた。

 正体は霧雨魔理沙だ。

 

「ん、君は?」

 

 店員は霊夢のやや後ろに立つ一護に目を向ける。

 一護はまるで反射的に、

 

「あっ、俺は黒崎一護。あんたがここの店主の?」

「ああ。僕は森近 霖之助。そうか、君が魔理沙が言っていた黒崎一護君か」

 

 お互い自己紹介をする。

 その前に魔理沙が既に、霖之助に一護の事を話していたらしい。ちゃんと事実だけを話したのかは不明だが。

 

「いやぁ、こんな汚い店で悪いね。来る客が限られているもので」

 

 自分の店の悪さを軽く陳謝する。

 確かにこのような店は、変わった常連客くらいしか来ないだろう。

 

「それで、どんな物が入用だい?」

「男物の服と下着なんだけど」

 

 女性の前であまり下着という単語は使いたくないなと思った一護。

 それにこんな店に衣服があるのだろうかが心配だ。

 

「それなら、あっちの方の棚にあるよ」

「どうも」

 

 指定された棚の方に歩み寄り見てみると、確かに様々な衣服が陳列していた。

 外の世界でよく見る服も陳列している。てか、それの方が多い。

 とりあえず一護は陳列されている服や下着を見渡す。

 色んな種類の服が沢山有り、サイズが合いそうな服を手に取る。あまり派手すぎず、地味過ぎない服が良いだろう。

 と、そこに霊夢が近づいてきた。

 

「どう、似合いそうなのある?」

「いや、まだだけど。とりあえず四着くらい有ったら良いか?」

「そうね。そのくらいが妥当じゃない。で、どんなのにするの?」

 

 霊夢も一護と一緒に棚に陳列されている服を見る。物珍しいのが多いのか、少し興味ありげに見渡していく。

 

「そうだな。動きやすい服なら何でも良いつもりだけど」

「動きやすい服ねぇ」

 

 霊夢は動きやすい服を探し出す。どうやら手伝ってくれるみたいだ。

 その間に一護は下着を探す。これだけは手伝ってもらうと恥ずかしいので早めに選ぶことにした。

 

「……にしても外の世界の人間って変わったものを着るのね」

「俺からしたらお前たちの方が変わってるんだよ。巫女服とは魔法使いっぽい服とか、外の世界ではほとんどコスプレってやつになるんだよ」

「コスプレ?」

 

 一護は下着があるところをゴソゴソと漁りつつ、

 

「ああ、俺も詳しくは知らねえけど、普段しない特別な格好、みたいな感じだ」

 

 例としてアニメの服なんかがあるが、そういっても伝わらないだろう。

 

「ふ~ん、特別ね。そうだ、何かこう艶っぽい服を着たら参拝者が増えたりするのかしら?」

「元が艶っぽくないから無理だろ」

 

 何て返した瞬間、いい一発を頂いた。

 

「……いてぇ、つか自分を売る真似は好きじゃねえんだよ。お前はそういった奴を目当てで巫女をやりたいのか?」

「え、ち、違うわよ。そんな訳ないじゃない」

「だったら、そんなことせず巫女として堂々と胸を張って言えることをしろよ」

「そうね、分かったわよ」

「ああ、お前ならできると俺は思うからよ」

 

 と、霊夢の方を見ていった時、彼女の顔が不快なものを見る目になった。

 

「……あんた、そういう趣味があるの?」

 

 その手にはフリルの付いた純白の――女性用のパンツがガッシリ握られていた。

 

「ち、違う! そうじゃねえ!」

 

 何か決まらない一護であった。

 

   *

 

 数十分後、一護は数枚の服と下着を持ちカウンターに向かった。

 香霖堂は普通の店と違って商品を価格交渉し値段を決めるらしい。

 一護にはそれほど交渉術は無いが、幻想入りしてしまった一護の為に値段を安くしてくれた。客に優しい店である。前言撤回だ。

 

「ありがとな、霖之助さん」

 

 安くしてもらった事に対し、一護は霖之助にお礼を言う。

 

「どういたしまして。また来てください」

「ああ。必ず来るぜ」

 

 一護と霊夢は店を出て行った。

 そんな中、魔理沙は魔理沙で同じく陳列されている衣服を見ていた。

 

「改めて見ると色んな着物があるな」

 

 魔理沙は色々な服を見ながら感心したように言う。

 

「そうだね。で、君はいつになったら帰るんだい」

 

 霖之助もあくまで商売。

 完全に冷やかしである魔理沙には若干だけ困っている。話し相手と言うより、友達としては大切だが、それはそれで別の話。

 

「おお、なんか凄い着物発見だぜ」

 

 魔理沙は霖之助の話を無視し、棚の奥から一着の着物を取り出し広げた。

 全身黒い着物で、セットになるように下には純白の長襦袢がある。

 それはまるで……

 

「――おっと、そういや今日は人里で用事があるんだったぜ」

 

 魔理沙は不図、思い出したかのように言う。

 そして着物を棚に置き「じゃあな香霖」と言い店から出て行った。

 

「全く、慌ただしいな」

 

 霖之助は慌てて出ていく魔理沙を見ながら呟いた。

 同時に魔理沙が無造作に置いた着物を自然と見る。

 

(そういえば、この着物……いつから此処に有るんだっけ?)

 

 黒い着物を手に取り記憶に検索をかけた。

 だが、思い出すのが面倒になったので着物を畳んで棚に戻す。まぁ店には適当に拾ってきたものや、売られた物が多々あるので忘れていても仕方ない。

 

 そして今日は特に何も無く一日が過ぎ去った。

 

 

《3》

 どうして私は、閉じ込められてるの?

 どうして私は、一人なの?

 どうして私は、私じゃなくなるの?

 私って、何なの?

 生きるって何?

 私は、生きている意味ってあるの?

 私は……

 

   *

 

 暗い微睡みから、朝日に照らされ一護は目を覚ます。

 今日も今日とて小鳥の鳴き声が聞こえ、優しい風が緑を揺らす。

 重い上半身を布団から起こし、大きな欠伸を上げる。疲れがまだまだ取れていないのかな?

 

 ――何だったんだ? 今の夢。

 

 また変な夢を見た。

 一護は起き上がるよりも先に、その疑問が浮上した。

 曖昧模糊な夢だった為、あまり覚えていない。だが、少しは記憶に残滓の如く存在している。

 誰かが自分に語りかけていた。何処か悲しみの孕んだ声音で、まるで自分に助けを求めてきているような感じだと、直感だがそんな気がした。

 私は……一体あの続きは何だったのだろうか?

 悩んだところで解決はしないが、その謎が頭にへばり付いて無くならない。

 まぁそもそも夢の内容を鮮明に覚えている方がおかしいだろう。悩むだけ無駄だし、あくまで夢なのだ。別に現実には何の因果も齎さないだろう。

 一護は布団から起き上り、縁側に出る。

 そこから外に出て、井戸へと向かう。夏なので寝起きは多少汗をかく。しかも外は太陽の熱気が支配しているため熱い。その垂れてくる汗を井戸の冷たい水で洗い流す。ここには水道と言う物がないため、いちいち外まで行かないといけないのが不便だ。

 

「ふぅ……」

 

 一護は空を仰ぎ見る。

 太陽がかんかんに照っており、心地よい風が吹いている。

 濡れた顔に暖かい風が吹きつけ、気持ち良くてならない。

 この暑い中、井戸の冷たい水はかなり最高だ。

 ……だが心が落ち着かない。

 あの妙な夢のせいだ。

 昨日はおふくろの夢を見た。そして次はよく分からない夢。何か関係でもあるのだろうか。それとも、何らかの形で一護に降りかかるのだろうか。全く理解できない。

 そんなことを考えていると……

 

「一護~! 顔を洗ったんなら早く居間に来なさい。朝餉ができているから」

 

 いつの間にか縁側に立っていた霊夢が、一護に呼びかけた。

 とりあえず考えるのは止め、

 

「ああ、分かった!」

 

 と言い居間へと向かった。

 

   *

 

 朝食を食べ終えた一護は、縁側に座り呆けている。

 と言うより、夢のことで頭が一杯だった。

 

「何だったんだよ、あの夢」

 

 どうしても気になるが、どうしても思い出せない。

 おふくろの夢の後だからだろうか、どうも肝要に受け取ってしまう。本来なら蚊帳の外にでもやるのだが。

 

「……また、見るのかな?」

 

 何て思ってしまった。

 二日続いて変な夢を見たんだ。そう思って仕方ないだろう。

 そこに御盆を持った霊夢が一護の横に座る。 お盆の上にはお茶の入った湯呑みが二つあり、一つを一護に差し出す。

 

「はい一護」

「おう、ありがとう」

 

 一護は湯呑を啜り、夢のことで考えるのは止めた。それに考えたところで解決する訳が無い。

 

「なぁ霊夢。博麗大結界の方はどうなったんだ?」

 

 ふと頭を過ぎったので聞いてみる。

 

「全く進歩なし。原因も何もまだ調査中よ」

「そうか、難題なんだな」

「そんなレベルの話じゃないんだけどね。ここまで原因不明だと、逆に怖いくらいよ。難題と言うより、まるで解けない問題をさせられている気分だわ」

 

 外の世界風に言うならフェルマーの最終定理か。存在しない異変の存在を解こうとしている感覚に等しい。

 それ程までに、今回の異変は未知過ぎると言う訳だ。

 

「そんじゃあ、俺が帰れるのもまだまだ先になるかもしれないな」

「もしかしたら永遠になっちゃうかもね」

 

 何て、悪い冗談を言う霊夢。

 だが、笑い話で済まないのが現状なのだ。

 

「まぁそんなことは置いといて」

「置いとくなよ。ちゃんと厳重に収納しとけ」

「朝から妙に元気なかったけど、何かあったわけ?」

 

 一護の言葉を無視し、同時に痛いところを突かれた。

 心配した霊夢は何となく聞いてみると、

 

「何でもねぇよ。ちょっと嫌な夢を見ただけだ」

「そう、なら良いけど」

 

 漠然と答えた一護に対し、やや不満があるが気にしないことにした。

 本気で何かあったら相談なりなんなりしてくると思ったからだ。

 

「……なぁ霊夢、そう言えば聞くの忘れてたけど、この神社では一人暮らしなのか?」

 

 本当に聞くのが遅い。

 一護がここに来てから、居て当たり前の存在を目にしていないのだ。外とは常識が違うため、そこまで順応していたから気にしなかったが今になって気になった。

 

「ええそうよ。それが何か?」

「いや、両親とか居ないのかなって思ってさ」

 

 両親……そう、霊夢はまだ幼い。外見年齢なら15歳くらいだろう。

 そのくらいの年齢なら両親と一緒に暮らしていてもおかしくない。だがその両親が見当たらない。神社で一人で修行中と言う憶測もあるが、どうも解せない点が多々あるのだ。

 

「…………」

 

 その質問に対し、霊夢が黙ってしまった。

 まるで触れてはならないことを聞いてしまった感覚。

 一護は反射的に戸惑った末、謝る。

 

「わ、悪い。何か、悪いこと聞いちまったか?」

「いや、別に構わないわよ。疑問に思って当たり前だしね」

 

 霊夢はどこか悲しみが滲み出ている声音で言う。

 

「私の両親はね、ここには居ないの」

「ここ……?」

 

 そのここが指すのは博麗神社になのか、幻想郷になのか……それとも、この世になのか。

 霊夢はその続きを淡々と述べるように紡ぐ。

 

「そうよ。もう居ないの。私の母様と父様は――」

 

 と、霊夢が言おうとした瞬間、

 

 強い風が、風切り音を上げながら吹雪いた。

 

 突然の強風に、一護と霊夢は驚く。勿論、それのせいで霊夢の先がちょうど良い感じに鎖され、聞くことができなくなった。

 

「痛ッ!」

 

 同時に一護は、風により舞った砂埃が目に入り、両目を両手でこする。

 

「ちょっと文、砂埃を上げないでくれるかしら」

 

 霊夢は砂埃を喰らうことなく、風を起こさせた者に文句を言った。

 

「アハハハハ、すみませんね~。私も結構風力を弱めたつもりだったんですけど、なかなか上手くいかないものですね」

 

 誰か、女の声が一護の耳に入った。

 だが残念なことに、一護の目はやられた為、全く見えない。

 

「自分の力も制御できないって、三流も良いとこよね」

「ちょっと霊夢さん、私はこう見えても一流の鴉天狗ですよ。舐めてもらっちゃ困りますね」

「はいはい、自称でしょ」

 

 二人が話す中、一護は目をこすりながら、潤んだ瞳で開眼した。

 そこには一人の少女が目の前に立っていた。

 服装はシンプルに黒いフリルの付いたミニスカートと白いフォーマルな半袖シャツ、赤い靴は底が天狗のゲタのように高くなっている。黒のボブの髪型で、その頭の上には赤い山伏風の帽子をかぶっており、首からはカメラを掛けている。

 

「……誰だ、あんた?」

 

 少女はその声に気づき、霊夢の横に座る一護の方に目をやる。

 そして営業スマイルよろしく、満面な笑みで少女が答えた。

 

「私は清く正しく生きる伝統の幻想ブン屋 射命丸文です。以後お見知りおきよ」

 

 文はペコリと頭を下げ、自己紹介をした。

 

「ど、どうも……あ、俺は黒崎一護。よろしく」

 

 予想以上に礼儀正しい慇懃な態度に驚き、一護も自己紹介を行う。

 

「はい、よろしく」

 

 と言って、一護の手を握り握手を交わす。

 そこで一護はふと思った。

 

「あれ、お前って妖怪か?」

 

 鴉天狗と言う単語に一護は反応したのだ。

 

「そうですよ。妖怪の山に住む鴉天狗です」

 

 一護はそれを聞いて少し驚いた。

 妖怪は初日に遭ったような奴ばっかだと思ったが、こういう奴も居るのかと。

 

「そして新聞記者も勤めています」

「新聞記者?」

「はい、新聞記者です。文々。新聞と言うのを読んだ記憶はありませんか?」

「いや、一度もないけど」

 

 新聞と言うからには、外と同じような感じのものだろう。

 そんなものは幻想郷に来てから一度も見たことはない。

 

「そうですか、なら次に出す新聞は必ず拝見してくださいね」

「あ、ああ分かった」

 

 文の妙なテンションと逼迫感に押される一護。

 ある意味、記者に向いているかもしれない。質問攻めなど得意そうだ。

 

「それではそろそろ本題に入りますね」

 

 言うと、文は手帳と鉛筆を取り出した。

 これは取材が始まる展開だと、一護は直ぐに悟る。

 

「単刀直入に申し上げます。黒崎一護さん、ちょっと取材と撮影にご協力してもらえませんか?」

 

 予想的中。

 やはり取材が始まろうとしていた。

 

「いや、そういう取材とか、あまり好きじゃねぇんだよ。断っても構わねぇか?」

「そうですか、残念です。仕方ありません、私の独断で記事を書かせて頂きましょう」

「え?」

「黒崎一護さんは巫女好きの少女愛好家(ロリコン)であられると……」

「ふざけんな!」

 

 と怒鳴る一護。

 そんなことを書かれた日には、もう外を出ることはできない。

 

「なら、取材……受けて頂けますか?」

 

 悪い笑みを浮かべながら、脅迫にも似た形で言葉を吐く。

 こんな記者、この世を探してもいないだろう。いや、居るかもしれないがここまで露呈して言う奴は少ない。

 一護は溜息をつき、

 

「分かったよ。受けりゃいいんだろ受けりゃ!」

 

 もうやけくそ気分で受けることとなった。

 脅迫に弱い一護である。

 

「ありがとうございます! これで久しぶりにしっかりとした記事が書けますよ」

「久しぶりにしっかりとした記事が書ける? まさかあんた、普段から色々捏造した記事を書いたりしてねえだろうな?」

「……ささ、取材を始めますよ!」

「人の質問に答えろよ!」

「失礼ですね。こう見えて私は嘘など書きません。ちょっと脚色しちゃうことも、たまにはありますが。嘘は書きませんとも!」

「その脚色が怖いんだが……まぁいいや。早くしてくれよ」

「ええ、勿論!」

 

 こうして、嫌々ながらも取材が開始された。

 

   *

 

 数十分後、文の取材は無事終了し、満足そうに帰っていった。

 内容は特に変わったものはなく、一護自身少しほっとした感がある。

 

「終わったの?」

 

 そこに霊夢が襖の奥から一護のいる縁側に来た。

 取材が始まった時、霊夢は部屋の中へと戻っていった。恐らく一護の取材で自分まで質問されるのが嫌だったのだろう。

 

「ああ、少し不安だけどな」

 

 新聞記者だから少しは脚色をいれるだろうが、文の場合何やら妙な胸騒ぎがする。

 

「そう、まぁいいわ。明日の記事がある意味、楽しみだわ」

「ん?」

 

 一護は霊夢の言葉が理解できずに、一日を有意義に過ごしたのだった。

 

   *

 

 次の日の朝、いつも通り居間に行き霊夢と共に朝食を食べ始めようとする。

 そして朝食に箸をつける前に、霊夢が噂の〝文々。新聞〟という新聞を渡してきた。

 

「これに昨日の取材内容が載っているわ」

「へぇ、どんなだよ」

 

 一護は少し興味有り気に新聞を受け取る。

 見た目は外の世界の新聞と何ら変わらない。ただテレビ欄やラジオ欄などが無いだけで、書かれている事柄は変わらない。

 そこで一護は一面トップを飾るように書かれていた記事を、瞬時に見つけ出す。

 大々的に一護の写真が載せられており、一護についての簡単な紹介文などが書かれていた。そして内容を読み進めて……一護の表情が固まった。

 

「……な、な、何勝手なこと書いてんだあの女!」

 

 一護は怒りを孕んだ絶叫の声を上げる。

 新聞に書かれていた事の一部を抜粋

〔黒崎一護氏は幻想郷にやって来た戦闘狂。異常なほど好戦的で戦闘になると凶悪な笑みを浮かべる黒崎一護氏は、あの博麗の巫女と互角以上の戦いを行ったと匿名の人物から証言も受けています。黒崎一護氏は取材の時、一言こう言い残しています。強えェ奴はかかって来やがれ!

強いヤツ大募集!!〕

 

「俺は剣八じゃねぇぞ!」

 

 一護の脳裏に狂気な笑みを浮かべる剣八が現れる。あんな奴と一緒にされたくない。

 脚色どころの問題ではない。もはや捏造だ。

 

「あの野郎! 次会ったら弾幕勝負でブッ飛ばす!」

 

 一護はそう心に誓ったのだった。

 

   *

 

 勿論その新聞は色んなとこに行き渡っいる。

 

 例えば薄暗く静謐さを宿す館の中では――

「フフフ、面白い人間が来たわね。まぁ博麗に居るから、私の計画の邪魔にならなければ良いけどね」

「邪魔となる場合、私が即刻排除します、お嬢様」

 

 例えば平屋の日本屋敷では――

「あら、へぇこの男の子って〝あなたを倒した人間〟じゃない?」

「あ? ……ッ! 何でこいつが……?」

 

 例えば多数の魂魄が浮遊している広大な庭では、

「博麗のとこに外来人ですって。こういう展開って基本、何かあるのよね。面白くなりそうじゃない?」

「あまりそういうことを言わないでください」

 

 例えば竹林に囲まれる屋敷では――

「あら、この人は……あなたの話していた人じゃない? 間違ってたらごめんね」

「……黒崎一護、なぜ貴様が此処に」

 

 例えばある山の上の神社では――

「また天狗が勝手なことを書いたんでしょうか? そんな野蛮そうな人物を博麗神社に引き入れるとは思えませんね」

「別にそうであっても私達には関係ないわ。今のところはね」

 

 例えばある地底世界では、

「いいね~、強いヤツ大募集か。よし、これを機にちょっと地上に行ってみるか!」

「ハァ、面倒なこった。何でこいつが幻想郷に居るんだろうな」

「おや、あんたの知り合いかい?」

 

 例えばある寺では、

「面白い子が来よったな。ここまでくると運命やで。全く、どんな顔して会えばええんやろな」

「あなたの知り合い?」

「ボクが話した、おもろい子ですわ」

 

 各々が動き出す。あらゆる目的が交差し、混沌を生み出す。

 そうして幻想郷で異変が始まっていく。

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