東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~   作:ディーン・グローリー

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第弍章〈東方紅血鬼篇〉
第6斬【紅い霧】


 ――そこは暗く、静謐感に満ちた寂しい場所。

 窓も無く家具すら殆ど無い、石造りの酷く息苦しい部屋。まるで精神病院のように隔離された場であり、罪人を閉じ込めておく刑務所のようでもある。

 こんな場所、常人なら精神に異常をきたしてしまうかもしれないような所だ。

 故、このような場所に人間がいることなんて考えられない。どれだけ悪事を働いた罪人でも、このような場所には入れられないだろう。

 だから、そうだから――こんな場に少女が居ることがとても不自然で、かえってシュールに映ってしまう。

 床に、体育座りをして顔を伏せている10歳くらいの少女。

 悲しんでいるのか――黒崎一護はそう思った。

 現在、一護はこの夢を認識している。明晰夢というやつだろう。ただ明晰夢は自分でその世界を弄ることが可能と学問的には言われている。しかし、この夢を現状全くコントロールできない。明晰夢とは少し違うのかもしれない。

 まるで本当に自分がその場にいるような錯覚を覚えさせる夢。

 そして不意にだった。

 

 ――少女が顔を上げ、こちらを見てきたのだ。

 

 だが一護には暗くて少女の姿をよく確認できない。

 分かるのは少女の赤く輝く、宝石のような瞳。枯れ果てた、泣き泣いた瞳の色をしていた。

 一護が逡巡する前に、その少女が一護に向けて口を開いた。

 

「私を、助けて……お願い」

 

 儚く散ってしまいそうな声で、少女が一護に助けを求めた。

 何故、一護に助けを求めるのか分からない。そして、何で助けを求めているのかも分からない。

 

「……お前の名前は?」

 

 一護はふと、ほぼ無意識にそう少女に尋ねた。

 少女はその質問に少し驚き、おどおどとした雰囲気で答える。

 

「フランドール・スカーレット」

 

 ここで、一護の意識は完全に途絶えた。

 

   *

 

 朝……夏の日差しが幻想郷を覆う。

 セミの鳴き声が響き、より暑さを訴えているような気がする。

 

(……また、妙な夢を見た)

 

 今回の夢は少しだが、覚えている。

 少女が暗く牢獄のような部屋で、自分に助けを求めてきた。理由も何も分からないが……しかも夢だが、どうにも気になって仕方ない。それに起きたばかりなのに、どこか疲れが生じている。

 

「くそ、お湯でも浴びてスッキリするか」

 

 変な汗までかいた一護は、とりあえず水で流したいと思ったのでお風呂場へと向かった。

 寝起きで頭が回らず、ふわふわとした状態で脱衣室に入り衣服を脱ぐ。

 汗で少しベタついていたため、裸になっただけで少しすっきりした。タオルを腰に巻き、

 

「ふぅ、さて汗を流してっと」

 

 浴室の戸を開けようとした瞬間――

 

「…………」

「…………」

 

 逆に誰かが浴室から戸を開けてきた。

 いやもう、誰かなんて表現をしているが、そんなもの決まっている。

 博麗霊夢である。霊夢も湯を浴びていたのだろう、艶めかしく、つややかに水で濡れていた。

 霊夢は茫然と、時間が止まったかのように動かない。まだまだ未熟な果実を思わせるその体、しかし鍛えているだけあって引き締まった体が妙に艶めかしい。

 霊夢の濡れた黒髪から、水滴がポタポタと落ちていく。対して一護は嫌な汗がポタポタと落ちていった。

 

「……えっと、あの、あ~、何だ……」

 

 どうする、どうすればいいと、過去最大級に思考が回らなくなった一護は、無意識に腰に巻いたタオルを取り、

 

「ほら、使えよ」

 

 何て、朝のあまり回っていない頭でアホなことを言ってしまった。

 

「この……ヘンタイッ!!」

 

 その後、一護は赤い汗もかいてしまったのだった。

 

   *

 

 そんな早朝のやり取り(一護は土下座で徹底した謝罪)が終え、霊夢の機嫌も土下座により功を奏したのか、無事直してくれた。

 そして朝食を食べ終えた一護は、弾幕の練習に勤しむ。

 すでにスペルカードを一護は多少使えるようになっている。

 そんな弾幕の練習をする一護を霊夢は縁側からお茶を飲みながら見物していた。

 

「こんな短期間で弾幕をここまで使いこなすなんて凄いじゃない」

 

 霊夢は一護の弾幕を見て、少し感心する。正直、こんな短期間でここまで弾幕を上手く使いこなせるようになるとは、予想外に等しかった。

 一護の弾幕の色は黒くて丸い。ザコ敵が出すような感じがするのは錯覚だろうか。

 それに――

 

「不気味な弾幕よね」

「うるせーよ」

 

 一護は軽く霊夢を一喝し、スペルカードを取り出し、慣れた感じで唱える。

 

「黒符『月霊幻幕』」

 

 瞬間、一護の周囲に無数の弾幕が展開された。

 そして上空に飛ばし、意図的な操作で弾幕同士全てコントロールし、被弾させ合う。全て小さい爆発音を上げ綺麗さっぱり消滅していった。

 

「よし、こんなもんか」

 

 弾幕のコントロールは上々と、事務的確認のように思う。

 それを見ていた霊夢が、

 

(……本当に凄いわ。ここまで成長率が早いと、恐怖すら覚えるわね)

 

 そう評価する。

 霊夢は飲み終えた湯呑みを置き、立ち上がる。

 

「それじゃ、私と実戦練習でもしよっか?」

 

 一護はその言葉に一瞬、面食らう。

 

「少し、一護の力を試してみたくてね。良いでしょ? それに、自分の腕を確認するいい機会にもなるだろうし」

 

 霊夢はお札を出して言った。この状況は断っても意味が無いことを既に理解している一護は「ああ、良いぜ」と言い、承知した。

 一護自身もどこか霊夢とどこまで渡り合えるか、試してみたかったのもある。故、好都合でもある。

 霊夢が本殿に御札を五枚ほど貼り付け、特殊な結界を張る。

 こうすることによって、本殿に弾幕による被害はいかないのだ。

 

「さて、それじゃあ始めようか一護」

「ああ、本腰でいくぜ」

 

 両者構え、相手の目を見据え、スペルを唱える。

 

「黒符『天幻月牙』!」

 

 一護のスペル発言と同時に、弾幕ごっこが始まった。

 

   *

 

 同時刻……ある薄暗い部屋にて、一人の少女と一人の女性が居た。

 部屋はかなり広く、備えられている家具は素人目でもかなり高価な物と分かる一品ばかり。

 少女は椅子に腰を掛け、女性はその前に立っている。

 

「咲夜、計画の準備は出来ているかしら?」

 

 少女は上から目線で咲夜と言う女性に聞く。

 

「はい、お嬢様。いつでも実行に移せます」

 

 咲夜という女性は答える。どうやら二人は主従関係のようだ。

 

「そう。じゃあ、命令通りに動いてね」

「はい。承知しました」

 

 従者である女性が頭を下げると、そのまま姿を消した。

 少女は一人になると、ボソリと呟く。まるでそれが今から起こりうる真の目的かのように。

 

「あわよくば、奴等を引き摺り出せるかもしれないわ」

 

 そういうと部屋に静寂が戻った。

 

   *

 

 数十分後、一護は神社の縁側で座っていた。と言っても、上半身は仰向けに倒れているが。

 その隣には霊夢が座しており、先程と同じくお茶を啜っている。

 

「クソ……ッ、やっぱまだ勝てねぇか」

 

 悔しそうに呟く一護。

 それが耳に入った霊夢は、

 

「当たり前よ。幻想郷に来て、弾幕を覚えたばっかの奴に私が負ける訳ないでしょ」

 

 当然のように答える。

 確かに一護の成長率には天賦の才めいたものがあるが、霊夢は妖怪退治、異変解決のエキスパートだ。幻想郷に来たばかりの新参に負けることは到底ないだろう。

 

「でも、強かったわよ。そこらの妖怪じゃ太刀打ちできないくらい。やっぱりあんたの潜在能力は凄く高いわ一護」

 

 だが強いのは認めざるを得ない。

 今の一護なら軽い異変なら攻略とまではいかないが、戦闘力としては申し分ない。

 

「そうか、そいつは良かった」

 

 喜んで良いのか分からないが、一応は認められているのか、判然とはしなかったが答えた。

 その時だった――

 

 幻想郷(セカイ)が赤い紅い朱い、自然現象とは思えない〝紅い霧〟に覆われた。

 

 急に、何の予兆もなく一瞬にして、紅い霧が博麗神社を、空を全て覆い尽くしたのだ。同時に夏の太陽を隠し、陽射しが消える。

 一護と霊夢はその光景に驚愕する。まるで自分たちが異様な空間に迷い込んでしまったような錯覚をしてしまう。

 

「ッ! ……何だ、こりゃ!?」

 

 一護は立ち上がり、空を仰ぎ見る。

 赤一色の空。まるで別位相別次元の世界にいるような、妙な感覚がある。

 同様に霊夢も立ち上がり、紅い霧に包まれている世界を見る。ただし一護と違い、見ている眼は何かを思慮しているように見える。

 

「……この赤い霧から妖力を感じるわ。これは、妖怪の仕業ね」

「これが、妖怪の仕業だと?」

「ええ、そうよ」

 

 こんな大規模の異変を、妖怪が起こせるとは思えなかった一護は、驚愕に値した。

 

「まさか、結界の異変に関係してるんじゃ……」

「それは調査してみないと分からないわ」

 

 とりあえずと、霊夢は雰囲気を変え、

 

「今から異変の原因を突き止め、解決に向かうわ。それが博麗の巫女に課せられた使命だからね」

 

 言う。

 博麗の巫女は代々幻想郷で起こる異変の解決や、悪い妖怪退治が仕事であり使命。

 シンプルだが、それをクリアするのが困難なのだ。

 

「なら、俺も行くぜ。そのために弾幕を覚えたんだからな」

 

 久しぶりの感覚に一護の血が疼いた。

 死神時代の、激戦を前にする感覚へと変わる。

 

「……分かったわ。じゃあ行くわよ。あっちの裏の湖が怪しいから、調査はそこからね」

「ああ」

 

 こうして、一護と霊夢のコンビが初の共同異変解決へと向かう。

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