東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~ 作:ディーン・グローリー
《1》
現在、幻想郷は紅い霧に覆われており、太陽の陽射しも遮られている。おかげで不気味な上、肌寒い。
一護と霊夢はその異変を解決するべく調査に向かっている。
霊夢の勘では湖の方向が怪しいらしく二人は現在、湖に向かうため薄暗い森を歩いているのだ。
そんな中、一護はある事を思い出したかのように口を開いた。
「そういや妖怪ってどの程度の規模まで異変を起こせるんだ?」
こんな紅い霧を幻想郷中に覆わせているのだ。初見の一護は魂消たが、霊夢はそれ程までに駭然としていなかったため、規模的にこの程度クラスは今まで何回と解決していったと見るのが自然だろう。
故に気になった。
そんな質問に霊夢は軽い感じで、
「そうね、まぁこれ規模は数える程しか解決してないけど、小さい規模なら結構あるわよ」
「そいつは随分、頼もしいな。つか、異変って今まで何回くらい解決してきたんだ?」
「さぁ、それは神社にある筆録書を見ないと分からないわ」
「筆録書?」
「ええ、今まで歴代の博麗の巫女が解決してきた異変を記した記録書よ。どんな小さい異変でも、仕来りと言う形で書き留められているわ」
「へぇ、少し興味あるな」
今までどんな異変が起きたのか、少し見たくなってきた。
それにもしかしたら、博麗大結界の異変に関する似たような異変が過去にもあったかもしれない。
故に、それを参考に解決への兆しが降り注ぐかもしれないのだ。見る価値はあるだろう。
「まぁ見たかったら帰った後、適当に見て良いわよ。見られて困るような物でもないし」
「ああ、そうさせてもらう」
何て他愛の無い会話を繰り広げる。
「あ、そういや霊夢って何代目の博麗になるんだ?」
博麗とは、代々幻想郷に起こる異変を解決してきた者を指す。
故に結構続いていてもおかしくはない。
「私で14代目よ。博麗14代目巫女、博麗霊夢。と言っても、正式には7代目なんだけどね」
「は、それってどういうことだよ?」
「そもそも博麗ってのは、幻想郷の法のようなものなの」
「法……それってつまり」
「簡単に言うと――」
霊夢が端的に博麗のことについて言おうとした瞬間、二人の目の前に一人の少女が現れた。
金髪のショートボブに深紅の瞳。その左側頭部には赤いリボンが結ばれており、身長は低めで、白黒の洋服を身につけ、スカートはロングの、一般的服装。
その少女が両手を広げて現れたのである。
おかげで少し驚いた上、大切な部分を聞き損ねた。
「……誰だ、テメェ?」
一護は少し睨みつけて言う。
この少女からは人間とは違う、何かを感じる。それが故、警戒しなければならない。
「宵闇の妖怪 ルーミア。あなたは食べてもいい人間なのかー?」
何やら、自己紹介をした後にとんでもない事を言い出した少女。この時点で、もう人間では無いだろう。
人間はこんな冗句を言わない。
言うとしたら狂人くらいだ。
「ダメなんじゃねぇのか……」
一護はとりあえず冷静に言い返す。
「えーダメなのー」
ルーミアはあからさまに残念な顔をする。
食べても良い人間と聞かれて、ああ良いですよと答える人間なんて、死にたがりだけだ。
「ああ、すまねーな」
一護はそういうと足早にその場から立ち去る。目の前の少女とはあまり深く関わらないほうがいいと踏んだ。
霊夢は一護に追い越されると「ちょっと一護、まちなさい」と言い、一護の後を追う。
残されたルーミアは霊夢の言葉を聞き、
「イチゴ……」
脳内に赤い果実の苺がホワンホワンと浮かび上がる。
一体、何の誤算をしたのか、
「やっぱり食べてもいい人間なんじゃない!」
そんな結果が導き出された。
ルーミアは一護と食べ物の苺を何故か勘違いして、大声と共に追ってきた。
一護はそれに気付くと逃げるように走る。霊夢も霊夢で、面倒そうに一護と同じ速度で走る。
「何で追ってくんだよあいつ!?」
後ろから追ってくるルーミアを見て叫んだ。
それを霊夢が簡潔に答える。
「多分、一護と苺を間違えたんじゃない?」
「嫌な間違いだなオイッ! つかどうやって俺と苺を間違えるんだよ!」
「そんなの知らないわよ
瞬間、後ろから弾幕が飛んできた。
苺と霊夢は弾幕に気づくと、軽く躱す。あの弾幕は、明らか殺しにいっているとしか思えなかった。
「食べさせろー!」
ルーミアが大口を開けて一護に襲い掛かってきた。随分とお下品だ。
「マジかよ。クソッ、こうなりゃ弾幕勝負で決着つけてやる!」
一護は逃げるのを諦め、一気に振り返る。
「それじゃ、こいつは一護に任せるわよ」
霊夢は二人から離れる。
ちょうどここで一護の本番、命懸けの弾幕勝負を見ることができる。
今までは謂わば遊び。
異変の解決には命を落とすかもしれない仕事。ここで一護の本当の、正真正銘の力を拝見できるってものだ。
故に負けたら……
「その程度だったってことかしらね」
一護は弾幕を放ち、一旦ルーミアとの距離をとる。
ルーミアは弾幕を出してくるとは思わず、紙一重で空中に飛び避ける。
「わ~びっくりしたぁ。まさか弾幕を出してくるなんてね」
驚きの表情になりながら、空中から一護を見下して言う。
人間が弾幕を出してくるのは珍しかったのだろう。物珍しいものを見る目になっていた。
「悪ぃな。弾幕を出せるのはテメェだけじゃねぇぜ」
一護は手のひらに握り拳サイズの弾幕を見せて言った。真っ黒な野球ボールを連想させる。
「俺を食べたけりゃ、俺を倒してからにしろ」
「分かった。お望み通りあなたを斃してから、ごはんにするわ」
こうして、一護の初の本格的な弾幕勝負が始まる。
まず動いたのはルーミア。
スペルカードを取り出し唱える。
「月符『ムーンライトレイ』」
ルーミアを中心に輪っか状に広がる弾幕と二本のレーザーによる追い打ち攻撃が放たれた。
一護はそれを――全て苦もなく避ける。軌道を読み、直線上のレーザーは地面や木を抉るも一護にはかすりもしない。
ルーミアはそれを見て目を丸くする。
「どうした? この程度じゃ俺には勝てねぇぜ」
一護は余裕な笑みを浮かべながら言った。霊夢や魔理沙と比べたら、どうって事無い。
ルーミアは少し狼狽え、再びスペルを唱える。
「夜符『ナイトバード』!」
ルーミアを中心に左右交互に翼状のような感じで弾を撒き散らした。
だが一護にすれば、速さも間隙にも充分躱せるほどの弾幕だ。
「だから、この程度じゃ俺には勝てねぇって言ってんだろ!」
お返しだと言わんばかりに、一護はカードを取り出しスペルを唱える。
「黒符『月霊幻幕』!」
一護の周りに黒い三日月状の弾幕が展開された。一護はそれを飛んでくる弾幕に向かって、意図的に放った。
それにより、ルーミアが放った弾幕は全て相殺される。
「嘘……でしょ……」
信じられない光景に目を疑うルーミア。自分が放った弾幕が、難無く相殺されてしまったのだ。もはや悔しさを通り越して、絶望に値するかもしれない。
「次で決めるぜ、ルーミア」
一護は最後の弾幕を展開した。
これで終わらす……そんなつもりで展開したのだったが、
「ルーミアが、食べ物を目の前にして、負けるもんかぁー!」
ルーミアが激昂した。
その瞬間、ルーミアを中心に黒い霧のようなものが現れた。
黒い霧は紅い霧までも飲み込み、徐々に広がっていく。
「!?」
さすがの一護もそれには驚いた。
そして、逃げ切ることのできなった一護は黒い霧に包まれ見えなくなった。
「……何も見えねぇ」
一護の視界は闇に奪われてしまった。真っ暗な部屋の中にいるような感じだが、それとは違う。暗い部屋なら眼がそれに慣れてくるが、この空間はそう言った事が出来ない真の闇だ。
五感の中、視覚を奪われると人間は基本冷静ではいられない。見えない恐怖というものは、人に圧倒的な恐怖心を植え付けてくる。どこか東仙要の卍解である清虫終式・閻魔蟋蟀を彷彿とさせる。
「何も見えねえ。けど、他は大丈夫だな」
しかしこんな状況でも数々の修羅場をくぐってきた一護にとって、その程度のことでは恐怖に値しない。
冷静にその場を分析するのに他の五感を働かせる。
その中でルーミアの声が、一護の耳に入った。
「ルーミアにはね〝闇を操る程度の能力〟があるの。この能力を使うと、ルーミアの周りに闇を発生させることができるのよ」
随分とアバウトな言い方で、自分の能力をわざわざ語ってくれる。
「成程な。それがお前の能力って訳か」
「どう? 形勢逆転でしょ。これであなたはルーミアに弾幕を当てる事はできないわよ! 大人しく食べさせろー!」
傲慢に、威張った声調で言う。
目は見えないが、尊大に笑っているルーミアの顔が余裕で想像できる。
「ああ。たしかに視覚は使えねぇが、お前の居場所くらい分かる……ぜッ!」
一護は弾幕を展開し、一点の場所に向かって放った。
その瞬間「キャアアアアアアア!!」という、ルーミアの叫び声がし、闇が消えていった。
消えた闇から、一護と倒れ伏しているルーミアが現れる。
「終わったな」
一護は倒れているルーミアを見て言った。
ルーミアは残る力で顔を上げ、一護を見て小さく口を開いた。
「どうして、ルーミアの居場所が分かったの……?」
「そんなの簡単だ。視覚は封じれても聴覚までは封じる事はできねぇだろ。だからお前がぺちゃくちゃ喋ってる間に、声のする方を探ってたんだよ。そしてそこに向かって弾幕を放った。助かったぜ、あんたが喋ってなかったら、少しは苦戦したかもな」
一護は簡単に説明する。
ルーミアは理解したように気絶した。
こうして、初の一護の弾幕勝負は幕を閉じた。
霊夢は戦い終えた一護のとこに行く。
「随分と早く終わったわね。まぁあの程度の妖怪なら当然かな。それじゃあ先に進みましょうか」
労い一つもなしに言う。
まるで勝って当然だったかのような感じだ。
「ああ。悪い霊夢、ちょっと待ってくれ」
一護は倒れているルーミアに歩み寄る。
そして、霊夢は一護がした事に少し疑問を持った。
「何してるの一護?」
そう、一護は気絶しているルーミアを背負っていたのだ。
さっきまで自分を喰おうとしていた妖怪を、一護が背負っている。何とも注意力の無いことだ。
「このまま放っておけねぇだろ。一応、目を覚ますまで面倒みんだよ。妖怪でも見た目は少女だからな。こんなところに横になりっぱなしは危ないだろ」
まるで当然のように、当たり前のように言った。
「どういう神経してるのかしら、あんたは。起きた時、後ろから噛みつかれても知らないわよ」
霊夢は頭を掻きながら、溜め息混じりに言った。
だが同時に、一護の事が少し解った。
一護は優しい。
敵にも味方にも優しいのだ。
多分、霊夢が見た人間の中で、これほど優しい人間は居なかっただろう。もしくは単に馬鹿なんだろうとも思った。
「ほら、とっとと行こうぜ霊夢」
ルーミアを背負った一護が霊夢を追い越す。
「あ、ちょっと待ってよ!」
霊夢は我に帰り一護の横に並んで歩いた。
《2》
一護と霊夢が異変解決へと飛び出す時刻。
魔法の森という常に禍々しい妖気で溢れており、人間はおろか妖怪ですら近づかない危険な森がある。日光すら通さない原生林で覆われており、環境が環境だけに未知のキノコやそれに伴う胞子が宙を舞っている。人や妖怪ですら足を踏み入れない危険域なのだ。
そんな危険な魔法の森に、一軒の家がある。
レンガ作りの家で、煙突まである。どこか西洋の家を連想させ、幻想郷にはあまり似つかわしくない家だ。
そこに幻想郷の魔女――霧雨魔理沙が住んでいるのだ。
「何だ、この紅い霧は?」
魔理沙は家の窓から顔を出し、幻想郷に充満している紅い霧に目を丸くする。
そして直感的に、
「これは、異変か。だったら霊夢も動き出しているな。私もこうしちゃいられないぜ」
異変と気づき、部屋にある箒を手に持つ。
「……うーん、せっかくだし新作の回復丸も持っていくか」
ついでとばかりに、この前作った丸薬も紙に包みポケットに突っ込む。
こうして、魔理沙も異変解決に参戦する。
*
現時刻……目の前に立ちふさがったルーミアを倒し、背負ったあとの時刻。
黒崎一護と博麗霊夢は湖のある先へと歩んでいた。
「……月が出始めたわね」
空を仰ぎ見上げながら、木々を縫うように大きい月が顔を出していた。
しかし紅い霧のせいか、月がとても赤く不気味な色をしている。
「ああ、そうだな」
一護も空を見上げて、赤く血のように輝く月を見る。
まるで自分が異世界へ急に移転したような錯覚に襲われる。
「急ごうぜ、霊夢。何か嫌な〝感じ〟がする」
そういうと一護はそそくさとルーミアを背負いながら歩いていく。
「ちょっ、どうしたのよ一護!?」
霊夢は訳も分からず足早に歩く一護についていく。
一護は紅い月を見て嫌な感じがしたのだろうか。
それとも――
「私の気配を察したか」
木の陰から、一人の男が現れる。
紅い霧で尚且つ木の暗い影から現れたせいで、姿が全く見えない。
その影は、一護と霊夢が向かった先を見つめる。だが勿論二人は既に居なく、紅い霧と森林しか目に映らない。
「成程……面白い。黒崎一護、やはり君を〝幻想郷に導いて正解だったよ〟」
そして影が紅い霧に溶け込むように姿を消した。
*
「湖か……」
一護と霊夢はようやく湖に着いた。
広大な湖らしく向こう岸が紅い霧のせいで全く見えない。
「ここからは飛んで行くわよ」
霊夢が身体をフワリと浮かせて言う。
「ああ」
一護も空気中の魂を使い空中に立つ。
ここより先に、この紅い霧を引き起こした犯人がいるかもしれない。
故、解決へのカウントダウンが始まると思っていた矢先――
一護目掛けて、氷の塊が飛来してきた。
それを凄まじい反射力で躱しきる。
もし被弾していたら痛かったろう。
「誰だ!?」
一護は飛んできた方向に向かって叫ぶ。
瞬間、濃厚な霧の奥から少女のような甲高い声が帰ってきた。
「あたいの縄張り入ろうなんて100億光年早いわよ!」
「光年は距離の単位だバカ!」
思わず突っ込む一護。
これは平子に鍛えられた証拠だろう。
「バ、バ、バカですってぇぇぇ! この最強のあたいに向かってよくもほざいたな!」
最強? なにやら意味の分からない怒声だ。
そして紅い霧から一人の少女が二人の前に現れた。
髪は水色で、ふわふわのウェーヴがかかったセミショートヘアーに青い瞳。背中には氷の結晶に似た大きな羽を六枚持ち、頭の後ろに青い大きなリボンを付けている。 服装は白のシャツの上から青いワンピースを着用し、首元には赤いリボンが巻かれている。
その少女が一護に人差し指を向け口を開いた。
「よくも、あたいに対してバカって言ったわね! バカって言う方がバカなんだから! このバーカ!」
少女は氷の弾幕を展開する。
「バカにバカって言って何が悪いんだよ」
「またバカって言ったわね! もう許さない、後悔しても遅いんだから!
」
バカな少女は展開していた氷の弾幕を放ってきた。
一護は透かさずそれを跳躍し避ける。
「テメェ、危ねぇじゃねえか!」
「あたいにバカって言うからよ。今すぐあんたを冷凍保存してやるわ!」
どうやらバカと言われる事が相当嫌いのようだ。
そんな少女を見かねて、急に一人の少女が割って入った。
「チルノちゃん、落ち着いて。今はそんなことをしている場合じゃないよ」
バカな少女が弾幕を放とうとした途端、1人の少女が仲裁に入った。
少女は髪色は緑、左側頭部をサイドテールにまとめ、黄色いリボンをつけている。服は白のシャツに青いワンピースを着用し、首からは黄色いネクタイを付け、背中には虫とも鳥ともつかない縁のついた一対の羽が生えている。
チルノは咄嗟に弾幕を放つのをやめ、
「このツンツン頭が悪いのよ! あたいのことを何回もバカバカって言うから!」
一護を指差して言う。
「え……?」
緑の髪の少女がこちらを向いてきた。
「あ、えっと、チルノちゃんが大変ご迷惑をおかけしました!」
そう言って、バカ少女が頭を下げるはずなのに、この少女が頭を下げて謝罪を入れた。
もはや一見して分かる。
これは完全に親と子だと。
「ちょっと大ちゃん、何勝手に謝ってんのよ! あいつは私をバカにした悪者よ」
「そうやってチルノちゃんは直ぐに暴力で訴えかけようとするから駄目なんだよ。少しは自制して、抑えなくちゃ」
「うるさいうるさいうるさい!」
バカ少女は言うことを聞かない。
溜息をつきながら、緑髪の少女は一護の方を向き、
「えっと、私は大妖精と言います」
名乗る。
その慇懃な態度に一護も半反射的に、
「俺は黒崎一護。よろしく」
自分も名乗る。
どうやらバカな少女と違って、礼儀正しさが次元違いのようだ。
「ほら、チルノちゃんも自己紹介して」
「嫌よ。こんな奴に自己紹介なんてしたくない」
「もう、チルノちゃん」
呆れる大妖精。
自己紹介しなくても、もうバカな少女の名前は大妖精のおかげでチルノだと分かった。
「そんなことより、こいつを早く冷凍保存したいのよ! どいてくれる大ちゃん」
「だからチルノちゃん。もっと人様のことをよく考えて……」
「良いぜ。できるもんならやってみろよ、バカ」
一護が大妖精とバカな少女チルノとの会話に割って入り――大妖精の発言を制止し――チルノを少し挑発する。
チルノは「カッチーン」と言い氷の弾幕を展開する。
「もう完全パーフェクトに怒ったわ。あんたなんか一瞬で海の藻屑にしてやる!」
「残念だな。此処は海じゃねーぞバカ」
「きーっ! あたいは難しいことが大ッ嫌いなのよ!」
「それって遠回しに自分はバカですって言っているようなもんだぜ」
「くらえー!」
チルノは一護の言葉を無視し、展開していた氷の弾幕を一気に放つ。一発被弾しても痛いで済むだろうが、何十発ときたら痛いでは済まない。
故に一護は氷の弾幕を全て紙一重で回避していく。
同時にいちごは針の穴をくぐり抜けるように、霊夢のとこまでいく。
「悪い霊夢。ルーミアを預かってくれ」
そう言い、背負っているルーミアを霊夢に任せる。
「早くしてね。こんな茶番」
ルーミアを預かると、霊夢は呆れながら陸地に戻る。
一護は高速移動でチルノの前に行く。大妖精は二人を止めるのは無理と判断したのかチルノから離れていた。
「んじゃ、始めようぜ」
手のひらに小さい弾幕を出し、戦いの宣告をする。
「そんな弾であたいを倒そうなんて100億万光年早いわよ!」
バカなことをいうチルノがカードを取り出す。
「氷符『アイシクルフォール』!」
チルノがスペルを唱えた瞬間、氷柱型の弾幕が横に広がり一護の方に飛んでいった。
だがその程度の弾幕など、一護にとっては目を閉じていても避けられる。一瞬でそのスペルを分析し、法則を見つけ、効率良く動いた。
「正面ががら空きだぜ」
一護は手のひらに出しておいた小さい弾幕をチルノにぶつける。
チルノは「くっ!」と、少し苦悶の声を上げ後退った。小さく霊力すらほとんど篭っていない弾にはダメージは無に等しい。
しかしチルノの場合は油断していたのもあり、驚きがかなり大きい。
「どうした? 威張ってたわりに全然弱いじゃねぇか」
「何だとぉ! 今のはほんの腕試しよ! これからが本番なんだから!」
チルノは再びカードを取り出しスペルを唱える。
「凍符『パーフェクトフリーズ』!」
チルノを中心に無造作に弾幕がばら撒かれる。
確かに先のスペルに比べると弾の量や速さは別格なくらいレベルが違う。
だが、
「がむしゃらに弾幕を放っても当たんねぇぞ」
一護は無造作に放たれた弾幕を避ける。
無造作に放たれる弾幕は法則性がないだけに避けづらいし、分析の余地すらできない。しかしそんなものが通用するのは三流までだ。
戦闘に関して一護はエキスパート。故に並外れた動体視力によって軽く躱される。
「この最強のあたいがそんなことだけをする訳ないでしょ。さぁ凍りなさい!」
瞬間、チルノの放った弾幕が全て凍て付いて固まった。
「何!?」
急に弾幕が全て固まったせいで、一護は驚きのあまり一瞬の隙が生じる。
そこを目掛けてチルノが大量の弾幕を放出した。
「チッ」
一護も黒い弾幕を展開し、先に周りで固まっている弾幕を次々に相殺し逃げ道を作り、放出された弾幕から何とか逃れる。この間、わずか一秒。
だが予想外だったのは、チルノが再び無造作に弾幕をバラ撒き、固まらせたことだ。
これにより再び一護は逃げ道がなくなった。
「最強のあたいは抜かり無しよ!」
再び、次は時間を全く与えず無数の弾幕を一護に殺到させる。
一護は微動だにせずチルノの放ってきた弾幕に飲まれ爆散した。
耳を穿つ被弾音に爆風が起こり一護の姿が確認できない。
「やっぱり、あたいったら最強ね!」
チルノは一護に勝って嬉しいのか、かなりの笑顔だ。
しかしこの笑顔は一瞬でかき消された。
何故なら――その瞬間、爆発で起きた煙がまるで扇風機に掻き消されるかのように消えていったからだ。
「え、何!?」
チルノから笑顔が消え、驚愕したように口と目を大きく開いた。
「何勝った気でいんだ。俺は負けちゃいねぇぜ」
そこから無傷の一護が現れた。
しかも片手に代行証が握られており、そこから黒い霊圧が卍型のようになり放出している。
「何よ……それ?」
チルノは少し後退りながら、目の前に今まで見たことのない妙な力を見る。
それに対し、一護はスペルカードを出し唱えた。
「こいつは、俺の最強のスペルだ。黒斬『月牙天衝』!」
カードが光の粒になり代行証に吸収された。
そして一護がチルノに向かって代行証を振った瞬間、卍型の霊圧が歯車のように回転しチルノ目掛けて飛んでいった。
「そんな……。くっ、最強のあたいが負ける訳がないのよ!」
負けじと、チルノもスペルカードを取り出し唱える。
「雪符『ダイアモンドブリザード』!」
瞬間、前方に無数の弾幕が放出された。
数や威力は恐らくチルノのスペルの中でも最上級。
しかし一護の月牙天衝の前では無に等しい。
チルノが精一杯に放った弾幕は無残にもかき消されていき、チルノの方に飛ぶ。
「そんな……あたいが……!」
チルノが諦め、怖いと言う感情が働き両腕で顔を覆い目を瞑る。
……が、何も起こらない。
痛みが感じないどころか、当たっていない……どうして?
そんな疑問と同時に目を開けると、おでこにパチンと言う音と共に、ちょっとした痛みが与えられた。
「いたっ」
チルノは額を摩り前を見る。
そこには一護が立っていた。
「これで、俺の勝ちだぜ」
「……何を、したの?」
チルノは勝ち誇った表情をしている一護に、自分の額に何をしたのかを聞く。
「でこピン」
一護は答える。
どうやら額にでこピンをされたらしい。
「え……どうして当てなかったの?」
なぜ月牙を当てなかったのか、それが不可解で仕方ない。
「月牙を当てなくても、今のでこピンで勝負はついたからだ。そっちの方が痛くなくて良いだろ」
「そんな理由で。あたいはあんたを……」
今まで喧嘩腰で罵倒しか浴びせなかった自分を、そんな形で勝利を収めた一護。
普通の相手なら怒りで、そのままチルノを倒してもおかしくはない。
「あんたじゃねぇ、黒崎一護だ」
しかしそんな疑問を云々より、一護はもう一度、チルノの台詞を無視し名乗った。
「黒崎一護……」
「そうだ。忘れんなよバカ」
チルノはバカというセリフにイラッとするが抑える。
「バカじゃなくてチルノよ!」
「そうか……分かった、チルノ」
一護はようやくチルノとちゃんと言った。
チルノは自分の名前を言ってくれて少し嬉しそうな顔をする。
故、喧々とした雰囲気もなくなり自然と仲直り(主にチルノの一方的な怒り)を果たした。
「勝負はこれで終わりで良いな」
「え、う、うん」
これにてチルノとの弾幕勝負は終わった。
*
一護は霊夢の方に行く。
そこにはルーミアも目を覚ましていたらしく、一護の姿を見ていた。
「遅かったわね一護」
下りてくる一護を見て言う霊夢。
「ああ。ちょっとな」
一護は霊夢とルーミアの前に着地し答える。
そして、霊夢の横に立つルーミアを見た。
「やっと目ぇ覚ましたのか……え~と」
一護はどうやらルーミアの名前を忘れてしまったらしい。
「ルーミアなのだ。忘れないでほしいのよ」
ルーミアは頬を膨らまし答える。
「悪ぃルーミア。えっと、此処にどうして居るかは霊夢から聞いてるか?」
「うん。一護が気絶したルーミアのことを介抱してくれたって」
霊夢はちゃんと事情を説明してくれたらしい。……まぁ当然だろう。
「ありがとう!」
ルーミアは一護に礼を言った。
まるで一護とさっきまで戦っていたことすら忘れていたかのように。
「ああ。どういたしまして」
一護はルーミアの礼に応えた。
その時、二人の少女、チルノと大妖精が三人のもとにやって来た。
「どうしたんだ二人とも?」
一護は二人に向かって聞く。
「〝一護も〟あの館を調べに来たの?」
チルノは何やらよく分からない事を聞いてくる。
「館ってなんだよ?」
「この湖の向こうに島が有って、そこに一つの紅い館があるんです」
大妖精が一護の質問に答えた。
「紅い館……ね」
霊夢が呟く。
「かなり怪しいわね」
「ああ」
怪しいどころか、もはやそこに主犯はいるだろう。
一護と霊夢が湖の方を見る。
だが勿論、紅い霧で見えない。
「凄い強い妖力を感じて、私もチルノちゃんも近づけないの」
大妖精が少し怯えた表情で言う。
チルノは黙っている。どうやらチルノ自身もそのようだが、しかし最強という矜持が、それに反するため口は開かない。
「そうか、ありがとな。教えてくれて」
一護もそれには突っ込まず、お礼を言う。
と、チルノが一護の前に立ち口を開いた。
「行くの?」
チルノが心配そうに聞いてくる。
一護は微笑み、手をチルノの頭に乗せる。まるで不安を抱かせないために。
「心配すんな。ちょっと調べに行くだけだ」
チルノの顔が少し赤くなる。
こうやって優しくされるのに慣れていないのだろう。
「もたもたしてないで行くわよ一護」
霊夢は既に空中に浮いている。
「ああ。ルーミア、お前とは此処でお別れだ」
一護はルーミアの方を見て言う。
ルーミアは少し寂しそうな表情になり、それに気付いた一護は、
「別にずっと会えねぇ訳じゃねぇんだ。この異変が解決したら、いつでも会えるからな」
「ほ、本当! 絶対だよ!」
「ああ、約束する」
一護はそういい三人に背を向け飛んだ。
「じゃあなチルノ、ルーミア、大妖精」
三人に別れを言い、霊夢と共に紅い館に向かって飛んで行った。
この後――この三人のうちに、とんでもない未来が待っているのを知らずに。