東方幻想斬~BLEACH the fantasy time of end~ 作:ディーン・グローリー
黒崎一護と博麗霊夢はチルノの情報を元に、湖の先にある紅い館へと向かっている。
そこでは恐らくこれから凄まじい激戦が待ち受けているのだろうが、そんなものは覚悟の上だ。
相手はこの幻想郷に紅い霧を隙間なく侵食し尽くしている。幻想郷が一つの世界なら世界規模の異変と言っても過言ではない。
故に相手もそれに連なる猛者に違いない。
半端な覚悟で挑んではいけない、死を覚悟しなければいけない大異変。
恐らく常人の精神の持ち主なら足が竦んで挑むことすらままならないだろう。幻想入りした人間は時々稀有な力を持つことがあると、霊夢は語っていた。
しかし例えどれほどの異能を携えていても、使う者の精神と肉体力が無ければ、それは宝の持ち腐れであり、ただの無意味な能力と化してしまう。
例えば相手が音速以上の相手で、自分は発動系の反則クラスの能力を持っていたとする。しかし自分は能力に頼りっぱなしで一切身体力には自信がない。
それ故、発動する前に音速以上に動く相手に八つ裂きにされる。
例えば相手の殺気は比喩表現ではなく本当に相手を殺せるほどあると仮定する。これも同じように、例え自分に反則級のチート能力があっても、能力に頼りっぱなしだとそれだけで殺されるか戦意喪失だろう。
戦いは甘くない。
下手に打てば次の刹那には死ぬ。
それを覚悟した上で、黒崎一護は向かっている。
上述通り、下手な人間ならこんな異変はまず恐怖などの負の概念が働き挑むことすらしないだろう。
だが一護は死神時代に培ってきた身体力と精神力がある。
故に成せる所業。
敵がどれだけ強力だろうとも、過去に戦闘で踏んできた場数なら、霊夢にも負けない……そんな思いが円環していた。
「そういや霊夢。一つ聞きたいんだけどよ」
そんな覚悟を内に内包した一護が、飛行中に霊夢に声をかける。
「チルノが一護もって言ってたろ。それって俺たち以外にも誰かが紅い館に向かったってことだよな」
「ええ、そうね。私たちに以外にもこの異変に動き出している奴が居ても、何らおかしくはないわ」
そう霊夢は答えた。
つまり一護たち以外にも誰かがこの異変の解決に向かっているということだ。
瞬間、そいつらの安否を心配したが、こんな大異変に挑む奴だ。
故に実力者と測るのが適切だろう。
「さぁて、見えてきたわよ」
一護が向かった者のことを考えている間に、次なるステージ――恐らくラストダンジョンが目前へと迫っていた。
此処からではよくわからないが、確かに紅い尖んがりが見える。
恐らくあれが館。
幻想郷には不釣りあいな西洋の大きな館だ。
*
「……で、何で俺達は隠れてんだ霊夢?」
とりあえず紅い館の門前まで来たは良いが、どう侵入するか迷っていた。
いったん近くの木々に覆われている森林の中に身を潜めている。
「まぁ、ちょっとややこしそうな相手が門前にいるからね」
声を潜ましながら、門前に立つ女性を見る。
門番なのだろうか、常に門の前に一つの壁となり君臨している。
華人服とチャイナドレスを足して2で割ったような淡い緑色を主体とした衣装。髪は赤く腰まで伸ばしたストレートヘアー。側頭部を編み上げてリボンを付けて垂らしている。 目の色は青がかった灰色。
そんな女性からは、どこか強烈な何かを感じる。
妖気とも、どこか判然としない力。
見ただけで分かる。
あの女は強い。ルーミア、チルノなんかでは足元にも及ばないくらいに。
故に強行突破は得策ではないが故、こうして作戦を建てるために隠れているのだろう。
「さぁて、仕方ない。こうなれば私か一護があの女を相手するしかないわね」
まぁ作戦上、それが一番だろう。
例えあの女の目を盗んで侵入できても、館内で騒ぎを起こせばあの女もやって来る恐れがある。それでは困る。あの女は目視しただけで強さが分かるほどの実力者。そんな奴が加勢に入ってきたら、悪夢も良いとこだ。
「んじゃ、ここは俺が行くぜ。ああ心配すんな。俺は負けない」
「分かった。じゃああいつはあんたに任せるわね」
と、作戦が決まった瞬間だった。
「そこの子ネズミども。いい加減出てきたらどうですか?」
門前に立つ女が、門から離れた地に隠れる一護と霊夢の方に向かって口を開いた。
どうやら感づかれていたらしい。
故に、それが始まりの号砲と化した。
「行くぞ霊夢!」
一護が木陰から勢いよく飛び出す。
それに続くように霊夢も飛び出し、二人で弾幕を展開する。
門番の女性は弾幕を見るや否や、臨戦態勢に入った。
だが狙うはその女性ではなく、女性の背後にある門。
「ッ!」
瞬間、一護と霊夢の弾幕が門を破壊した。
門を狙われるのは予想外だったのか、女は不愉快な顔をし霊夢たちの迎撃に入るも……
「させるかよ!」
一護が突入する霊夢を守るように女の半歩先に弾幕を被弾させる。
それにより反射的に動きを止めた。故にその隙を狙い、一気に霊夢が紅い館の中へと侵入する。作戦は成功といったところだ。
「あーあ、また咲夜さんに叱られる。もう、どう責任とってくれるんですか?」
女が呆れ半分、自嘲半分で言うと一護と対峙する形で向き合う。
「悪いな、ちょっと俺と付き合ってもらうぜ。強引で笑いが、あんたに拒否権はない」
「これはもう追いかけたところで、私が罰を受けるは十中八九ですね。だから、ああもう……あなた、無事では済まないと思ってくださいね」
むしゃくしゃしているのか、面倒事を片付けるのが嫌なのか判然としない気持ちを漏洩させている。
確かにいきなり現れた二人組に、自分の主の城である門を破壊され侵入されたとあっちゃ、そんな気分となっても仕方ない。
「そっちの方が話が早くて良いな。……っと、まるで霊夢みてえな台詞を言っちまったか。随分と気が伝染っちまってるらしい」
一護は既に臨戦態勢。
だから既にこの時点で戦いがいつ始まってもおかしくない状況となっている。
「では、主の任として、今からあなたを排除します。悪く思わないでくださいね、狼藉者!」
刹那だった。
女は一気に一護へと跳ぶ。一回の踏み込みで、数メートル離れている一護まで軽く跳んでくるほどの脚力だ。
それに向けて黒い弾幕を一気に女目掛けて、一護は放った。
真正面から突っ込んでくるのは、謂わば弾幕を当ててくださいと言っているのと同義だ。そう思った一護だったが、
「私を甘く見ないことをお勧めします!」
目を疑った。
拳二つで、一護の弾幕を全て掻き消していったのだ。
弾幕やレーザーで相殺したりするのは幾度となく見てきたが、拳という身体の部分で弾幕を防がれたのは初めてだった。
「ッ!」
一護は後方に跳び、距離を稼ぐ。
同時にスペルも唱えた。
「黒符『月霊幻幕』!」
放たれるは三日月形の黒い弾幕。それはまるで極小の月牙天衝であり、一気に女に吸い込まれるようにして発射される。
しかし、それすらも女にとっては、
「効きませんよ。この程度で舐めているのですか!?」
砕き、破壊し、覆滅する。
女にとって弾幕など意に介す必要なし。
「マジかよ。くそッ!」
再び弾幕を張り、移動しようとするも、
「逃がしませんよ! 華符『セラギネラ9』」
拡散するは無数の弾幕。
それは一護の放った弾幕を全て相殺していくほどの数だった。
その一瞬の間隙を狙い、美鈴は一護との間合いを詰める。
「しま――ッ!」
避けるか防御かを決める間に、女の拳が一護の腹部を抉り飛ばした。
「ガァッ!」
痛みのあまり苦痛の声を上げ、そのまま血反吐を飛ばしながら勢いよく吹っ飛ばされた。
今の一撃は、内蔵をいくつか潰されていても全くおかしくはない。いや、血反吐を吐いた時点でいくつか傷はいっただろう。
(こいつ……一体、何者だよ……ッ!?)
一護は口から垂れる血を拭いながら、立ち上がる。
一発の威力が満身創痍になりかねない程の威力に等しい。
それよりも頭を抱えなければいけないのは、この女が自分の弾幕を拳で潰した事だ。正直、ただの力だけでそんなことを成せるとは思えない。何か特別な力があると考えていいだろう。
「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね」
女が立ち上がる一護を見据えながら言った。
「華人小娘 紅美鈴。さぁ、あなたも名乗りなさい侵入者。ここを攻め入る勇気に免じて名前だけは聞いてあげましょう」
「黒崎一護だ」
名乗ると同時に、一護は観察する。
美鈴と名乗った女の能力について。
多分だが、弾幕を素手で破壊するのには能力が関わっていると推測する。
故に――何かがある。ここからが本格的な戦いだ。
「では、続き行きますよ」
そのまま瞬時に間合いを詰めてきた。
「速ェッ!」
「さっきは手加減したんですよ」
地面を滑るように低空から、滝すら両断しかねない蹴りが鳩尾に――しかし一護はそれを両腕でガードしたが、勢いに負け一護の身体が宙に浮く。
そこへ更なる追い打ちをかけるように、弾丸のような右拳が一護の身体を吹っ飛ばした。
「ガァッ」
女に殴り蹴飛ばされるなんて初めての経験だ。場合によったら喜ぶ人間も居るかもだが、一護にそんな趣味などない。
(クソッ、女の打撃じゃねぇな)
死神でいうなら砕蜂か。
いや、単純な攻撃力と言う点なら砕蜂以上だ。まともに受けたら終わりだろう。
(つか、もう弾幕ごっこにすらなってねぇ。いや、こいつは遊びじゃねぇから、弾幕以外でも有りか)
元来弾幕ごっことは白黒つけたい時にする遊びや戦い。
しかし生憎とこれは死合だ。弾幕のみならず、格闘戦術で戦っても何の否にもならない。戰場に立ちながら油断だ卑怯だ笑止千万。戦いとはつまり、そういうことだ。
「ほら、まだまだ行きますよ」
ドンッ!――爆発にも似た轟音と共に、大地を揺るがしたのは踏み込みにより発生した衝撃だった。比喩では一切ない。本当に地震が起きたかと思わせるほどの体術が繰り出されたのだ。
同時に風を巻くほどの拳を一護の腹を貫かんと放たれる。
「黒符『月霊幻幕』!」
美鈴が拳を放った刹那に、一護はスペルを唱えた。
無数の黒い三日月状の弾幕が展開され、それが一気に美鈴に放たれる。
「だから――」
拳を一段と固めて、
「そんな攻撃は効かないと言ったでしょ!」
大地すら割りかねない程の一撃が、殺到する弾幕を全て吹っ飛ばした。
だが、
「成程な」
術中にはまったのは美鈴の方だった。
今の弾幕は美鈴の力の真髄を知るために過ぎない。だからよく観察できたし、直ぐに正体が分かった。
「お前の能力、それは気やそういった概念のものを操る力だろ?」
その発言により美鈴が動きを止めた。
それがなによりの証左。
「……鋭い観察眼ですね。いや、本当に賞賛に値しますよ」
たった三発目程度で見破られるとは思っていなかった。
こう見えて美鈴の能力は案外シンプルで、しかしそれながら見破りにくい能力であるはずだったのだ。
「そうです。私は〝気を使う程度の能力〟を持っている者です。能力の説明は、まぁそのままですし教える気もありませんがね!」
隠す必要はもはや皆無。
美鈴は自分の気を全身に纏い質量を増す。
それ故に今の美鈴にまともな攻撃は通じないだろう。恐らく今までの弾幕では倒せないのは瞭然であり愚問。同時に拳一発ですら、岩をも軽く粉砕する力を宿したのも間違いない。
「はあああぁぁァァッ」
怪力乱神の如く遍く総てを悉く粉砕せんと動き出す。
「ッ、まずはあの気ってやつをどうにかしねぇとな!」
気を纏った美鈴の攻撃は、物体なら完全なる破壊を顕現させる力を持つ。一発でも喰らえば、戦闘不能は免れないのは必然だ。
「黒符『月霊幻幕』!」
再三放たれる漆黒の弾幕。
放つも美鈴に当たると同時に弾幕そのものがその質量に耐え切れず破壊されていく。
「効きませんよ、今の私には!」
もはや美鈴は一護の弾幕など警戒に値すべきものではない。
それを知っていながらも一護は、
「あんま舐めてっと、後で痛い目みるぜ!」
弾幕を瀑布の勢いで放つ。それを無駄だと知っていながらも、向かって来る美鈴に時間的間隙を一切与えずに、美鈴全体を――まるで気を狙っているかのように被弾させ続ける。
「? ……ッ! まさか!?」
最初は一体何を無駄なことをと思ったが、刹那にそれが美鈴を襲い悟った。
そう、一護は美鈴の纏っている気を少しずつだが削いていっているのだ。
いくら相手の質量が凄まじいものでもーー自分が放つ弾幕の質量もそれには届かないがーー少しでも強力な弾幕を集中砲火すれば、美鈴の纏っている気も衰えていくだろう。
「クッ!」
美鈴は一旦動きを止め、瞬間的速度で気を再び纏おうとしたが、
「させねえ!」
狙い通りだった一護は、何の逡巡もせずにスペルを唱える。
そもそも気を全身に纏うのには集中力がいる。だからこそ美鈴は動きを止めなければいけなかった。
なぜ一護がそれを知っていたかは、謂わば経験則にも似た直感。たったそれだけの、何の根拠もないものを狙ったのだ。
「黒符『天幻月牙』!」
唱えるは今まで見せていなかったスペル。
少し前に発動したのは異変前に霊夢と模擬戦をした時だろう。あの時は霊夢にそのスペルのことを熟知されていたから躱されたが、これを初見で出されれば被弾は免れないだろう。
瞬間――美鈴の周囲の空間から四方八方と弾幕が現れた。
「何ッ!」
声を上げると同時に、囲んでいた弾幕がその中心である美鈴のもとへと殺到する。
一度逃げ遅れれば隙間がなくなるため回避は不可。しかも気を削がれた状態の美鈴は、
「クッ!」
かなりの霊力を内包させた弾幕が、美鈴を貫いた。四方八方から全身に浴びせられた弾幕は容赦なく相手に痛手を与えていく。
しかし、
「私が、この程度で負ける訳が無い!」
そんな弾幕が被弾したにも関わらず、美鈴は再び疾風の如く動く。
「嘘だろッ!」
繰り出される拳を何とか躱したものの、風を裂く蹴りが一護の横腹に決まった。
「ガッ!」
石ころのように吹っ飛ばされる一護。
痛いどころの話では済まない。今の一撃で身体に多大なダメージを請け負ったのだ。
これでは例え美鈴に勝てても、この先の戦いは不可能だろう。
「くそッ!」
苦悶の声を上げた瞬間だった。
『変われ!』
一護の中の深奥から、忌むべき裏の声が響いた。
『俺と変わればそんな奴ブッ斃してやる!』
それはこの世にはもう存在しないはずの声。
死神の力を失うと同時に残滓残らず消え去った者の声だった。
有り得ないと、一護は頭を振り前を見る。
恐らく、もう動き回る力すら残っていないだろう。故に、これが最後だ。
一護は最後の切り札である代行証を取り出す。
これが正真正銘、最後の切り札であり、破られたら一護には完全に勝ち目はなくなる。
「黒斬『月牙天衝』」
瞬間、一護の代行証に卍型の黒い霊圧が現れた。
恐らく放てば避けるなり何なりされる。だから、ここは放たず月牙の力を内包したまま、月牙の力を持つ斬撃とする。いや、斬撃とは少し違うかもしれない。
それを見た美鈴は忌憚にも似た恐怖の色が顔を覆った。
あれを喰らえば負けると、そう思ったのだろう。
「なるほど、最後の切り札というわけですか。面白い、ならこちらも全霊を以て挑むのが礼儀というもの」
だから美鈴は今持てる大質量の気で、全身ではなく一つの拳に凝縮させる。その威力は当たれば必滅の一撃になるであろう。
「悪いが、ここを通してもらうぜ。霊夢が待ってるからな」
「それはできませんよ。あなたはここで私が倒します。侵入者と侮っていましたが、なかなか良い力の持ち主です。それに敬意を表し、全力でいかせて頂きます」
「そいつは、どうも!」
そして、両者が最後の激突を下した。