とある竜のお話 改正版 FE オリ主転生 独自解釈 独自設定あり   作:マスク@ハーメルン

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これで二部もほぼ終わりです。
長かったぁ。


とある竜のお話 第二部 六章 4 (実質14章)

 

 

 

 

 

 

 

 

火花が夜空を彩る。

地面に描かれた、いや、設置された魔法陣から噴出した【ファイアー】の光球は

夜空へと向けて勢いよく残光を刻みながら跳ね上がり、小さな山の頂ほどの高度に到達すると“弾けた”

 

 

 

緑色の無数の小さな炎の花弁で空を彩り、幾つもの炎の球が空気の間で燃え尽きながら落下していく。

さながらそれは炎で描かれた華。正に花火という名前に相応しい。

冷砂が風に乗って全身に吹き付けてくるのを鬱陶しく思いながら、イデアは何度かその結果を見て頷いた。

 

 

 

 

 

砂の上に“配置”された魔法陣。たった今、花火を打ち上げる役目を果たした赤色の円形魔法陣は緩く回転しながらまだ火花を零している。

 

 

 

 

これの名は【フレイボム】

本来ならば、戦争用に作られた魔法の道具だが、今は火球を直上へ垂直に打ち上げる発射台の役目を果たすものだ。

 

 

 

 

この【フレイボム】の通常の用途は隠蔽の術を掛けた後に、地の中に埋めておき

その上を人に順ずる体重の存在が通った時に起動し、内部に込められた炎の魔法を最大出力では城壁をも削る威力の爆発と共に勢いよく打ち出し死傷させるというもの。

出力しだいでは負傷させるだけに抑えられる所がコレが優秀な理由なのです、と【フレイボム】を遥か昔に開発していた老火竜が無表情でイデアに説明した。

 

 

 

 

 

 

あの火竜はコレの設計図を“知識の溜まり場”から掘り出してきて、イデアに具体的な花火への改造図と共に渡したのだ。

 

 

 

威力も、爆発と炎の強弱のバランスも全てが意のままに調整できるのもボムの長所の一つ。

やりようによっては、民家や城壁を吹き飛ばす程の威力を発揮もするし、他にも人や馬をあえて生かしたまま、体の一部を欠損させる程度の出力に抑えることも可能。

ファイアーの炸裂と共に発生する爆破の破壊力は重厚な鎧に身を包んだジェネラルでさえも負傷させることだろう。

 

 

 

 

 

この世界にも前の世界のモノに運用思想が似通った兵器の様なモノはあるのか、使いようによっては非常に便利だなとイデアは思いながら

常日頃自分を支えてくれる男の意外な一面を見て、ありがたく【フレイボム】の量産に移ったのだ。

改良は非常に簡単だった、元々そういった改造や大量生産されることを前提に作られた品なので、手間隙はあまり掛からない。

 

 

 

 

 

【フレイボム】の器を一個作るのに必要な魔力は最下級の【ファイアー】一発分。そして更に器として作られたボムの中にファイアーの魔法を込めて使う。

しかも一つ器を作ってしまえば、何回も魔力を込めるだけで使いまわせるという優れもの。

解除したい時はかつてモルフを“崩した”時と同じように術そのものを靴紐の様に解いてしまえばいい。

 

 

 

 

 

魔力を陣へと送り込む。器である陣に中身が注ぎ込まれ、それに付随する意思の力により炎の色が変化する。

赤から青へ、そして緑を経て、黄色になり、最後は桃色へと。

全て思い通り。色の変化に爆発の多様性、炸裂した後の火の粉の飛び散り方、全てを1から里の者達と作り上げて調整した花火用の【フレイボム】は完成だ。

 

 

 

 

一個で何度も使いまわせるボムは花火大会をするのに数百から千ほどあれば十分に足りる。

他にも里の者がどういう風に爆発させるかの企画書も作成し、今はそれを設計図代わりにボムを生産し、力を込める作業の途中だ。

どちらにせよ、最終的な調整も考えれば後1週程度で大会は実行できるだろう。

 

 

 

 

 

それはそうと……。

 

 

 

イデアは横目で自分の斜め後方に居座る者達を見る。

最初からここに居て、それでいてフレイボムの調整に一役買った者を。

 

 

 

少しばかりイデアから離れたその者達は焚き火の様に展開した【フレイボム】の周りを囲んでいた。

ボムの中央からは花火ではなく小さな火柱だけが煌々と上がっていて、本当にそれは焚き火のようでもある。

それはまだいい。砂漠の夜の寒い中、ここまで完成と調整を確認しに来たのには感謝している。

 

 

 

 

だが問題は。

 

 

 

 

 

「食うか?」

 

 

 

 

 

長身にして屈強な成人男性並の身体を器用に丸めて、加工された木の棒に芋を突き刺しながら火で炙る男……ヤアンはイデアの視線に気がついたのか

頭だけを此方に向けて視線だけで現在進行形で焼き芋へと進化を遂げつつある紫色の芋を示した。

フレイボムの火力で芋を焼きながらその人物、ヤアンは無表情だ。

彼の周囲をイデアの作品であるリンゴたちがギャーギャーと何やら叫びながら手足を露出させてキャンプファイアーでもしているつもりなのか、転がりまわっている。

 

 

 

 

何も知らない人間が見たら絶対に叫びをあげて、逃げ出すような禍々しい光景。

 

 

 

 

何の儀式だ? これは。

咄嗟に頭を過ぎるのはそんな思い。何かの魔物でも呼び出す気か、こいつらは。

こんな儀式で呼び出されたら魔物の方もたまったものではないだろうが。

 

 

 

 

だが、これはいいタイミングだ、ちょうど小腹が減ったような気分なのだ。

食事の必要はないが、様は気分の問題。食べたいから食べる、ただそれだけ。

 

 

 

 

手に火傷防止の為、術で加護を掛けた後、少しだけ黒くなっている芋を受け取り、パカッと真っ二つに割ってみる。砂漠の夜と言う氷点下の世界では、こういう暖かい食べ物は貴重だ。

よく火が通っている黄色い焼き芋の内部をじっくりと見回す。鼻をくすぐるのは甘くて何処か懐かしい香り。

メディアンが作っている作物の一つで、何処に出しても恥ずかしくない一級品の品物。

 

 

 

一口食べてみる。何度か息を吹きかけて冷ましてから。

 

 

 

 

「───」

 

 

 

 

 

感嘆の息が漏れる。甘い、だがしつこくない。それでいて歯ごたえもそこそこあり、ぼそぼそと身が崩れない。

幾らでも食べれる味と食感。地竜の作品は伊達じゃない。

 

 

 

 

「この術は便利だ」

 

 

 

 

火の放出を調整しながらヤアンは黙々と芋を焼いている。真紅の瞳を細めながら、何処までも真摯に。

ここまでこの男が集中した姿は遊戯版で遊んでいる時ぐらいにしかイデアは見たことがない。

思えば、この芋の焼き加減もいい味を出している要因の一つだろう。

 

 

 

 

 

 

本来は地雷として、他者を傷つけるための魔法を花火や焼き芋に使っていると思うと、イデアは愉快気に笑った。

こういうのもありじゃないか、と。

 

 

 

 

「当たり前さ。里の色んな魔道士が協力してくれて出来たんだから」

 

 

 

 

 

「私も協力したぞ」

 

 

 

 

 

丁度手ごろな感じに焼けた芋を火から離しててしげしげと眺めながらヤアンは言った。

ぐぅっという音が鳴ると、イデアは自らの腹を見てみる。自分ではない。

周囲のリンゴたちも否応に頭を横に振る。そもそもの話、こいつらには胃さえない。

 

 

 

イデアの視線がヤアンに向けられると彼は涼しげな顔で告げる。

 

 

 

 

 

「それも私だ」

 

 

 

 

 

芋のコゲを取ってから齧り付くと……彼の動きが止まった。

はふはふと熱の篭もった息だけを口から漏らして、何とか口内の芋を飲み込むと彼は頭を傾げる。

 

 

 

熱いな、そう零す彼にイデアは肩を竦めて笑う。

もってきた皮袋の中の水を少しずつ飲んでいくヤアンを見て呆れ混じれに言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

「焼きたてを作ったのはお前だろうに」

 

 

 

 

 

 

自分が猫舌だと知った火竜が解せぬと頭を捻り続ける光景の隣で

リンゴたちは彼の真似をして一様に解せぬと言いたげに頭を傾げて遊ぶ。

なんとも奇妙な光景だが、これも悪くないとイデアは思うと同時に、この男は何処へ進んでいるのだろうと一抹の不安を抱くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、と。イデアは無事にボムの最終調整とその効果の確認を終えて殿に帰宅すると、背伸びをして考える。

そろそろイドゥンの所に行ってみるか。ちょうど用事もなくなり、今夜は暇でしょうがない。

時間はたっぷりあるし、何か話の種を幾つか考えておくのも悪くない。

 

 

 

開けられた窓からは月夜の光が差し込み、イデアの部屋を柔らかく照らしていた。

肩に一体だけ真っ赤なリンゴが乗っており、何やら小さく鼻歌を歌っている。

 

 

 

他のりんごは全て窓際で機能を停止し、仮眠状態だ。

 

 

 

 

イデアはふと思いつく。

あのテュルバンとの戦いの際に起こった出来事……もっというなら、テュルバンを潰してからの思考の時間の時に起こった出来事を。

首に掛けられた鱗を撫でてみる。鮮やかな紫色……本で読んだ魔竜のモノと同一の色へと変化をした鱗はツルツルとしていて、金属の様な光沢を放っている。

 

 

 

 

何度か触り心地を確かめてから手を離し、眼の前に持ってきてじっくりと眺めてみた。

肩に乗っていたリンゴが乗り出してじぃっとイデアと同じように鱗を観察する。

 

 

 

 

あの時、この鱗は光っていた。必死に、小さな光を放ちながら自分と言う存在を主張していたのだ。

あれは一体なんだったんだろうか? アレ以来この鱗は全くうんともすんとも言わない。

覇者の剣の柄を触り、片手で持ち上げて鱗と並べる。

 

 

 

 

 

神竜。

 

 

 

 

 

自分を胸中で指差し、その指を別の場所へと向ける。

 

 

 

 

 

魔竜。

 

 

 

 

 

 

鱗へと意識を向けて、思う。変化した神竜。モルフを創造するのと同じように戦闘竜を作り出す竜。

一個の完成された戦闘の為だけの命を延々と作り出すその役割はまるでそういった道具だ。

もちろん、イドゥンを道具だなどどほざいた者がいたら、無尽蔵の地獄を見せてやるが。

 

 

 

 

 

幸いな事にもはやその存在は全てこの世にはいない。全てあの戦役で死んでしまったのだから。

それに神竜だろうと魔竜だろうと自分にとって大した違いなどない。

魔竜よりも遥かにおぞましい存在に変貌を遂げようとしていた自分にとっては、魔竜は可愛いものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

大方戦闘竜の製造は強制されたのだろうとイデアは思っている。それは戦役から10年を経て確信に昇華させた答え。

幾らナーガに捨てられて気が動転していたとはいえ、彼女が自分から進んで戦争に参加するとは考えづらい。

そして竜族の術には思考を封じ込める、心の揺らぎを抑える術があるのだ。

外部からソレを破るのは簡単なのだが、自分の意思で術を破るのは相当に困難なモノが。

 

 

 

 

あのアクレイアでイデアが神将の像の前で男に使った術はそれのちょっとした応用だ。

 

 

 

 

馬鹿なことをしたと思う。嘲笑もなく、嘲りも感じずにイデアは淡々と断じた。

何も判っていない。イドゥンから心を奪ったであろう存在は何も判っていない、どうしようもない痴愚だと。

馬鹿だろと心から言葉を突き刺してやるとイデアは首を振った。

 

 

 

 

神竜の力の原動力をわかっていない。竜の絶大な力の源であるエーギルとは何か、よく考えてみるといい。

感情の強さ、意思の強さこそがエーギルの輝きに比例するというのに。

比類なき強さを発揮させるのに必要なのは正にせよ負にせよ、莫大な感情の渦。

 

 

 

 

 

 

強い願いと感情の揺らぎが胸の内の“太陽”を爆発させる燃料。それさえあれば本物の太陽の様に凄まじい活力を生み出す。

それを断たせるということは、剣士から剣と腕を奪い取り、画家から視力を奪い去るようなもの。

つまるところ、神竜の力の源泉をなくしてしまったのでは、改造神竜たる魔竜はその真価を発揮することは出来ない。

 

 

 

 

 

 

言われた通りに動くだけの人形のような魔竜など何だというのだ。さぞや人は呆気に取られただろう。

殿に攻め入って、そこにいた魔竜が……。

 

 

 

 

 

不意に脳裏を映像が飛んでいく。テュルバンのアルマーズを覗き見た時に映った絵が。

思い起こす。あの絶叫を。柔らかい草原の風の様であり、その実確たる信念を宿した女性の声を。

悲痛な色で、懇願の言葉を紡ぐあの声は一体誰のだったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

ふぅと白い息を吐いて感情を逃がすと次に覇者の剣に視線を向ける。

 

 

 

 

 

始祖竜。

 

 

 

 

 

 

言うまでもない。神竜と対極の位置に属する竜。

一時的にだが、この存在を取り込み同化したことで、イデアは朧に一つ判ったことがある。

何故始祖は強いのか。始祖と神の戦争で、なぜ始祖は神と互角以上の戦いを繰り広げ、魔竜とさえも争えたのか。

 

 

 

 

始祖の強さの理由が何となく理解できた。

あの熱に浮かされたような力に酔った状態を思えば思うほど、あの時の自分は始祖に近づいていたのだろう。

 

 

 

 

始祖は恐怖を超える。始祖は禁忌を恐れない。

始祖は感情を爆発させ、エーギルの桁を跳ね上げることに、制御できないという恐れを抱かないのだ。

だがそれは勇気じゃない。イデアは小さく断ずる。違う、それは単なる無謀だと。

 

 

 

 

現に始祖は敗れたではないか。滅んで自我も意識も身体も、何もかも全てを失いこんな一本の剣になっている。

これが始祖の末路だ。感情が枯渇したのか、それとも自分の感情と力に飲まれたのか、はたまたナーガによって滅ぼされた結果がこのざまなのか。

はたまた“始祖”という概念そのものがこの剣の形をとっているのか。

 

 

 

もしくはその全てか。仮に神竜に勝っていたとしても、今度は始祖同士での頂点を巡る争いが起こっていたかもしれない。

クックと喉の奥でイデアは笑った。それではまるで人間のようじゃないか、と。

 

 

 

 

 

髪の毛を小さく引っ張られる感じがして、イデアは肩に乗っているリンゴを見る。

剣を腰に戻し、鱗から手を離す。リンゴが何やら興奮した様子でしきりにイデアの髪を引っ張り、そのまま飛び降りた。

何をしたいんだ? 自分の被造物の内部にエーギルを流し、その思考を“読む”とイデアの頬が笑みを作る。

 

 

 

 

ゴロゴロと球体故に床を暫く転がってから止まったリンゴは何とか体制を立て直すと扉に向ってはねていく。

扉は閉まっているので、その前でゴロゴロと左右に転がるとしきりに開けろという念をイデアへと飛ばし始めた。

 

 

 

 

近場にメディアンにあげたあのリンゴが来ている。会いたい、久しぶりに会いたい。

言葉にせずとも伝わる感情を受け流しつつ、イデアは微笑みつつ扉を開けた。

木製の扉がぎぃという掠れた音と共に開閉し、廊下の冷えた空気が部屋に流れ込んでくる。

 

 

 

 

飛び出すように転がり出て行くリンゴの後を大股でゆっくりとついて行くと、やがては殿から出てしまった。

雲ひとつない荒涼とした夜空に、真っ青な三日月、遠くから不気味に木霊するのは砂嵐の轟音。

そこに黄金のリンゴはいた。何やら月夜の光を反射してキラキラと輝いているのが無駄に神々しい。

 

 

 

 

そしてそのリンゴをここまで運んできたのか、ソルトもいる。

全身を暖かい毛布の様な厚手の服でぐるぐる巻きにした彼を見てイデアは少しばかり非難するような視線を向けた。

病み上がりなのにあんまり夜風にあたるのは感心しないなと思いながらイデアは声を掛ける。

 

 

 

 

 

 

「お前か。どうしたんだ、こんな時間に」

 

 

 

 

 

 

「えっと、こいつがどうにも騒がしくて……」

 

 

 

 

 

肩に乗っかっていた黄金リンゴが飛び降り、イデアの足元に擦り寄って、そのまま甘える子猫の様に頬ずりを始める。

自らの造物主に対して親愛の情を向けてくる黄金リンゴにイデアは屈みこむと、両手で掴みあげ、赤リンゴの傍へと降ろしてやった。

ギャーギャー喚きながら再開を喜ぶモルフに夜なのだから静かにしろと念で命じておくと、リンゴたちはしゅんっと黙りこくってしまう。

 

 

 

 

ふーとソルトが真っ白な息を吐く。彼の全身を包んでいる茶色い毛布の様な服を“眼”で見ると、そこに掛けられたメディアンの術が見えてしまい微笑ましい気分になる。

なんともまぁ、贅沢な一品だ。感想はその一言につきる。

自動で持ち主の体温を最良の状態に保ち、それでいて泥や埃、その他諸々の汚れを受け付けない品など、エトルリアの貴族でも所持してる者はいないだろう。

 

 

 

だがそれにしも問題はリンゴ達。薄々思うのだが……自分はあの食用モルフにあんな自我を与えたか? と。

生命を作るということは、一種の親になることなのかもしれない。

ならば作り出された子供が親の予想を超えるということも珍しくはないのか、そうイデアは思った。

 

 

 

 

 

 

「……それ、食用なんだけどなぁ……食べるモノのはずなのに、何時の間にか飼い犬みたいになるとは」

 

 

 

 

 

ポツリとイデアが呟くとソルトの顔が真っ青に染まる。先ほどまで黙り込んでいたリンゴ達が命令さえ忘れて全力で騒ぎ出し、騒音を発する。

いやだぁああと涙ながらに叫んでいるようにも聞こえる二重の絶叫。

とんでもないとソルトが首を何度も横に振ると、黄金色のリンゴをがしっと胸に抱きしめて、イデアから庇うように腕で隠す。

 

 

 

 

 

 

「やめてください! こいつは僕の友達なんです!!」

 

 

 

 

 

友を庇うという感動的な光景なのに、何故か喜劇染みているのは友がリンゴのせいか、それともソルトの表現力が高いせいか。

 

 

 

 

黄金色に輝くリンゴが友達だと息子が叫んでいる所を見たらメディアンはどうなるのだろうか、そうイデアは思った。

イデアがリンゴへと眼を向けて、そこから流れ込んでくる思念とリンゴの記憶を読み取ると

知らず知らずの内に神竜の眼には憐憫の念が浮かびあがり、生暖かい微笑と共に首をかしげた。

 

 

 

 

 

 

……病気の時、見られちゃったんだな。

 

 

 

 

 

男として幾ら相手が母とは言え、かなり心に傷を負ったことだろう。

更に深くリンゴの記憶を読もうと思い……やめた。他人の家庭を覗く趣味などない。

ただ一つ、朧気に浮かんだ彼の家庭のイメージは幾らかリンゴの脚色が入っているとはいえ、とても暖かい家庭だということ。

そこに一抹の嫉妬と羨望、そして祝福を覚えたイデアは言葉を発する。

 

 

 

 

 

 

 

「そいつはメディアンにあげたもので、彼女からお前に渡ったなら、俺にそれをどうこうする権利なんてないよ」

 

 

 

 

 

 

さすがにリンゴと友達になるとは思わなかったけど。どちらにせよ、大事に扱ってくれるなら製作者としては何も文句などない。

満面の笑みでリンゴと笑いあうソルトという図はなんとも言いがたいが、微笑ましくもある。

 

 

 

 

「そういえばメディアンはどうしたんだ、お前が夜一人で出歩くことを許可したのか?」

 

 

 

 

 

「母さんは、今夜は用事があるみたいでちょっと外周の畑の方に行ってます。何でも新しい食べ物を豆と小麦から作るんだ、とか」

 

 

 

 

 

最近味噌だけでは物足りなくなったあの地竜は豆や小麦から新しい何かを作るために色々とやっているらしいという事を

息子から教えられたイデアは、彼女が最近提出してきた許可を求める書類の中に

タルや豆などを醗酵させたりするのに使用する小屋の建築の許可を求める資料があったのを思い出す。

 

 

 

 

今度は何を作るつもりなのか。チョコといい味噌といい、彼女の作るものは色々と独創的だ。

 

 

 

 

「完全に出来るのには寝かせる時間も含めて1年は掛かるとか言ってましたね」

 

 

 

 

 

1年なんて竜族からすればあっという間なんだろうなぁと続けるソルトにイデアは少しだけ視線を細めた。

じわりと胸の中で何かが動いたのを感じ、頭を少しだけ揺らす。

 

 

 

この後の予定を考えて……降ってわいた考えにイデアは自分でも判らないほどに混乱を覚える。

考える時間は一瞬。だが……答えを出すとイデアはすぐに喋った。

 

 

 

 

 

「……なぁ、ソルト。ちょっと今晩、時間あいてるか?」

 

 

 

 

 

 

きょとんとした顔でイデアを見つめると、ソルトは答えた。

抱きしめていたリンゴを放すと、紅いリンゴと一緒に殿の中へと走り去っていく。

 

 

 

 

 

「ええ、一晩ぐらいなら大丈夫ですよ。……何か僕の力が必要なんですか?」

 

 

 

 

「いや、そういう訳じゃない……ちょっと……うーん」

 

 

 

 

 

 

妙に口の回転が悪い自分を呪いつつ、イデアは唸りつつ頭を傾げて思う。

何と言えばいいのだろうか、上手く自分の感情を表現する言葉が出てこない。

結局口から出たのは他愛もない、何の飾り気も施されないありふれた言葉だった。

 

 

 

 

 

「少し……ついてきて欲しいんだ。朝方までには絶対に帰れる。 メディアンには俺から言っておくよ、そういう術も使えるからさ」

 

 

 

 

 

イデアの言葉に眼を瞬かせると、ソルトは小さく笑う。暖かく、友に向けるような親しみに満ちた笑顔。

 

 

 

 

 

「イデア様。そんな事言わなくても僕は貴方が来いって言ったなら、付いていきますよ」

 

 

 

 

 

うーとイデアが小さく唸ると、頭を掻く。どうにも子供扱いされたような気がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

「武器とかは必要ですか?」

 

 

 

 

 

 

「いや、武器はいらない。敵とかと戦う訳じゃないんだ」

 

 

 

 

 

何だろう? そう言いたげな視線を送ってくるソルトにイデアはようやく相応しい言葉を見つけて発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、家族に会いに行くだけさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが胸の中で吹っ切れた清々しい感情と共にイデアは無邪気な笑顔を見せてそう言い放った。

ソルトはその笑顔を見て、急に眼の前の神竜が若返って、幼子の様な雰囲気を出しているのを感じ、それが楽しくて小さく笑って答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世の中には、自分の想像を絶するモノがあるということを改めてソルトは思い知った。

母に竜を持ち、友や知り合いにも多くの竜やその血を受けついだ者がいる自分は

外の世界の人間よりも多少は超越的なモノと触れ合う機会が多いと思っていたが、この場所は彼の想像を遥かに超えている。

 

 

 

 

 

イデアに誘われ、転移の光と共に空間を越えた彼は次の瞬間、巨大な魔都の入り口の前に立っていた。

人智の及ばない、絶大な存在が作り出した芸術の前にちっぽけな人間は晒されていたのだ。

 

 

 

 

 

ここはかつての【竜殿】、その入り口。

 

 

 

 

風が吹きすさぶ。山間特有の、天から直接冷気を流し込むような突き刺す寒風。

思わず身体を縮めると同時に、纏っていた衣服が込められた魔力によってソルトの体温を調整していく。

身体の芯から熱が灯されていくのを心地いいと思いながら、ソルトは眼前の建物……竜殿の入り口を首を大きく動かして観察。

 

 

 

 

天に浮かぶのは朧な、蜃気楼の様に幾つも、さながら湖面に映り込み揺れているように不規則に左右に振動する蒼い月。

ここはかつて人竜戦役の最後の戦いがあった地、神将と竜族たちの激戦区。この場所から古い“秩序”は崩れていったと母に教えられた。

 

 

 

 

そして母の故郷でもあると。

 

 

 

 

異様な雰囲気だった。竜の神々しさとその叡智、積み重ねてきた途方もない時間を形としてこの世に顕現させたような巨大な建物。

入り口の時点で既にその大きさは、母であるメディアンが竜化してでも何とか通れそうな程に大きい。

それも当たり前か、この建築物は竜族が自分たちの大きさに合わせて創造したものなのだから。

 

 

 

 

 

微かに漂うのは死の匂い。10年も以前に行われた戦いの残り香はまだこの世界に染み付いている。

ただの人間の自分など、この地には相応しくない。そう、眼前の真っ黒な闇を孕む【竜殿】は自分を拒絶しているようにも見えて足が動かない。

 

 

 

 

そんなソルトを見て、イデアは気さくに笑った。彼の腕を取り、多少無理やりにでも入り口へと引っ張る。

 

 

 

 

「この建物は、名目上はもう俺のモノなんだ。家主の俺が入って良いって言ってるんだから、遠慮はいらないよ」

 

 

 

 

 

殿の入り口が鮮やかに黄金色の輝きで彩られ、壁が発光を始める。主であるイデアの力に反応し、殿が鼓動を開始。

魔力を持たない彼でさえも判るほどの力の奔流が【殿】の中で巻き起こる。

壁や床が眼に優しい柔らかな光を湛えて胎動し、主の友を歓迎するように点滅。

 

 

 

 

 

 

意を決して踏み出す。殿の入り口から漏れ出る冷たい空気は仄かに血潮の匂いが混じってる、それは人のものか、それとも竜のモノか。

 

 

 

 

 

 

「イデア様は里に来る前はここで過ごされたのですか?」

 

 

 

 

 

 

自らの少し前を歩く竜へと訪ねると、イデアは何処か機嫌が良さそうな空気と共に振り返り、語った。

視線にほんの僅かな過去への羨望を込めながら。

 

 

 

 

 

「そうだよ。産まれてから10年……と、ちょっとかな、それぐらいの時間をここで過ごしたんだ」

 

 

 

 

 

 

最も、余り自分の部屋から外には出なかったけど。そう言いつつイデアは迷うことなく進んでいく。

神竜が一歩進むたびに、殿が鼓動するように微弱に振るえ、彼の足元、隣接する壁、巨木の様な柱、その全てが発光し、複雑怪奇な竜族文字を蒼く表面に映し出している。

 

 

 

 

 

「……何か、凄く建物が震えてるような感じがするんですけど」

 

 

 

 

 

害意はないと言っても、地震の様に建物そのものが打ち震える様は不気味極まりない。

いや、何となくではあるが、地震とは違う感じがする。

直感的に思ったのは、竜化した母の心臓。あれのような鼓動だ。

 

 

 

一回脈を刻むたびに流し出される力の総量はもはや計測することさえ叶わない。

 

 

 

 

 

 

「この【殿】は神竜の力によって動く一種の生き物みたいな存在でね、俺が入ってくるといつもこうやって動き出す。どちらにせよ、お前に害は絶対にないから気にしなくても大丈夫だ」

 

 

 

 

 

 

所々に散乱する瓦礫を乗り越え、紫の光で彩られた道を進んでいく。

しばらく進むと二人は巨大な回廊へと足を踏み入れた。

余りにも巨大な回廊。開けた平原の様な横幅に、天の高さはもはや目視することさえ叶わない程の地。

 

 

 

光源は壁や床だけという日の光さえ入らない場所。

 

 

 

 

「お前は【殿】の事をメディアンから聞いたことはあるか?」

 

 

 

 

 

「……何度かは、最も母さんは戦役が始まる少し前からはほとんど寄り付かなくなってたみたいですけど」

 

 

 

 

 

 

大戦直前時には殿の空気が変わっていたと語る母を思い出す。

先代の長に従う者達と、彼に反抗的な態度を見せて積極的に交戦論を主張する竜の派閥との間で水面下で争いが起こっていたと母は言っていた。

地竜族として、竜の中でもかなり強い部類に入る母はそういった争いごとは嫌いらしく、巻き込まれるのを避けたのだ。

 

 

 

 

今となっては全てが過去の話だが。もう何もかもが遅い。

時々母が竜族についての昔話を語ってくれる時、ふとした拍子にその顔に影が入るのをソルトは知っていた。

 

 

 

 

 

気持ちを入れ替えてソルトはもう一度回りを見渡す。

延々と何処までも続く果ての見えない回廊の果てを見据えて、彼はふぅと溜め息を吐く。

大きいなぁ、いや、そもそもここってどんな用途で作られたんだろう。

頭を回転させてこの場所が何に使われるかを考えて遊ぶ。

 

 

 

 

 

 

本で見たことのある神殿と言う建築物にそっくりな風貌だと思う。

神を祀り、お祈りを捧げる為に人間がよく作る建物。

 

 

 

 

 

昔はエレブの各地に竜を祀るための神殿は多数あったらしいが、今ではエリミーヌ教がそれに取って代わっている。

ならばだ。竜の本拠地である竜殿の地下に作られたこの施設は何の役目を果たすのだろうか。

 

 

 

 

 

竜にとっての神とは……?  

 

 

 

 

 

物珍しそうな目でソルトはイデアの背を見た。

神竜。文字通り神の如き力を以ってこの殿を支配する超越種の中でも次元違いの種。

ならば、ここはイデアにとってどんな場所なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「イデア様……ここは、何を行う場所だったんですか?」

 

 

 

 

 

どうしようもなく気になってしまい、思わず問いを発してからソルトはしまったと思った。

今、自分はイデアという男の根源的な部分へと足を踏み入れているのではないか、迂闊な事をしてしまったら、彼との関係が拗れるかもしれない。

そんな恐怖感を噛み締めながら返答を待つと、イデアは頭だけで小さく振り返ってはにかむ様に笑った。

 

 

 

 

 

「俺もここについては詳しく判らないんだけど……多分、ここは竜が産まれる為の場所だな。……俺達もここで産まれたんだ」

 

 

 

 

 

 

イデアが視線を遠くへと飛ばす。最も自分が満ち足りていた時間、楽しかった時期を見る。

母さんみたいだ。ソルトはその眼に見覚えがある。メディアンが自分と過ごしていた過去を感傷と共に振り返る時に見せる眼。

今を見ていない眼、その瞳は心の中にだけ存在する輝かしい記憶を眺めている。

 

 

 

 

 

 

それほどイデアにとって大切な存在、先の言葉を借りるならば、イデアの家族がここにはいる。

慎重に、繊細に、割れ物を扱うように精神を研ぎ澄ませると歩を進める。

 

 

 

 

 

四半時ほど発光する石畳の道を辿っていくと、やがて一つの祭壇の姿が映る。

祭壇はそこだけが爛々と輝いており、それなりの距離があるにも関わらず人間の眼でも遠くから認識できるほどに眩しい。

 

 

 

 

 

山登りでもしているような傾斜と長さを持つ階段を昇りきり、小さく息を吐き出した少年は祭壇の上部を見渡して……気がついた。

何かが奥に……あれは、水晶? 丁度馬車一台分ほどの面積が凍り付いていて、殿の光を反射している。

妙な結晶だ、ソルトが知る氷や水晶とは何かが違う。

 

 

 

 

 

 

まるで空間そのものが凍り付いているようだ。

そこに向ってイデアが無言で歩いていくと、無意識にその数歩後ろを付いていく。

段々はっきりと水晶の形状が判って来るに連れて……息を呑む。

 

 

 

 

 

 

中に、何か、いや、違う、誰かが入っている。

重ねて数歩近づき、今度こそソルトは驚愕した。

 

 

 

唇が震え、意識が呆然とし、思わず呟くほどに。

 

 

 

 

 

 

「イデア様……?」

 

 

 

 

 

 

いや、違うとすぐに頭は認識する。イデアは眼の前にいるし、何より朧に判る髪の色や長さが違うし、体格も少し違う。

となると……この人? それとも竜か? 彼女がイデアの言っていた家族?

何を言えばいいのか、どう行動すればいいのか、何が最も正しいのか、全てが判らずに行動を停止させるしかない。

 

 

 

 

 

「…………似ていますね」

 

 

 

 

 

瓜二つという程ではないが、それでも結晶の中の少女はイデアとよく似ている。

閉じられた瞳、顔の造形、纏っている空気の様なものまでも。

 

 

 

 

 

 

「双子の姉だからね……魔竜の事は知ってるだろう? 彼女──俺の姉のことだよ」

 

 

 

 

 

 

 

姉……そうか、そういえばと回想する。神竜と近い種である竜……。

【魔竜】のことを。外界からイデアが持って来た書物、戦争関連のソレに記された存在の記述を。

確か本には無尽蔵に竜を作り出し、それら全てを支配する竜の王だと書かれていた。

 

 

 

 

 

そして母はその事柄を幾つか修正するように教えてくれたっけ。

魔竜は竜の王なんかじゃないよ、いや、そもそも人間でソレを知っている人なんて恐らくほとんどいないだろう。

同時に母は悲しそうな顔をして言っていた、ほんの小さなすれ違いが、あの悲しい竜を産んでしまったのだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

改めて食い入るように少女を見てみる。

こんな小さな子が【魔竜】なのか。この少女があそこまで人間達に悪の権化の如く描かれていたのか。

全く、困ったものだ。内心でソルトは肩を竦めた。

 

 

 

 

 

幾らなんでも無理があるだろう、どれほど事実を捻じ曲げたのか想像もつかない。

姉が封じられた結晶に竜がそっと手を触れさせる。愛しむ様に、撫でる様に指で表面を辿った。

 

 

 

 

 

 

 

近くにいるのに触れられないその光景を見て、少年は少しだけ胸がざわつくのを呆然と感じる。

石畳の上を音を立てて歩き、イデアの横に並ぶ。

最初に少女を見て、次にイデアの顔を見比べ、似ていることを再び実感。

 

 

 

 

 

 

「生きて……いるんですよね、この方は」

 

 

 

 

「生きているさ、とりあえずの問題はこの封印なんだけど」

 

 

 

 

 

解けない、今の所色々やってるんだが中々進展できない。

続けられた言葉に少年は心をはっきりと揺さぶられた。

大切な家族と触れ合えない。すぐ傍に居るのに、話す事さえも出来ない。

 

 

 

それは語呂の少ない自分では上手く表現できないが……とても悲しいことだと思った。

 

 

 

 

隣のイデアの視線を感じ、頭を動かすとイデアが自分に向き直って、眼を見つめてくる。

紅と蒼の眼に自分の顔が映っていた。

 

 

 

 

「もう一度お前に謝らせて欲しい。俺がアルマーズを手に入れたかったのは、里の為じゃない、姉さんを助ける為だった……私事に巻き込んで……ごめん」

 

 

 

 

 

小さく、しかしはっきりと頭を下げて謝罪する竜に人間は頭を掻いて、苦笑を浮かべた。

紫色の髪が揺れる。

 

 

 

 

 

「謝ることなんてないんですよ……僕はあの時“貴方の力になりたい”って言ったじゃないですか。

 長であるイデア様と家族として姉を助けたいイデア様、どっちにだって僕は自分の意思で協力するんだから、謝罪なんてされたら……それこそ困ります」

 

 

 

 

 

少年の言葉に硬直したイデアの隣に並ぶと、ソルトは悪戯でもするような表情を浮かべて一言。

 

 

 

 

 

「背、抜かしちゃいましたね」

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

ちょうどイデアの頭はソルトの肩ぐらいにあり、イデアがソルトを見上げる形となる。

いつの間にそんなに伸びたんだ──イデアの心の呟きが聞こえた様な感じがして面白い。

くっと、たまらず笑い出すと、釣られて竜も笑う。空虚な殿の中に二人の笑いだけが木霊していく。

 

 

 

 

 

一通り笑い終えて場を仕切りなおすと、ソルトは声をあげた。

視線が結晶に向けられ、息を大きく吸う。

 

 

 

 

 

「……一つだけ、聞いていいですか?」

 

 

 

 

 

「何だ?」

 

 

 

 

 

 

一泊。意を決して彼は問いを投げかけた。

吐き出される息が白く虚空を染める。

 

 

 

 

 

 

「どうして僕にこの方を見せたのですか?」

 

 

 

 

 

イデアが沈黙し、眼を伏せさせ、言葉を捜すように視線を泳がせた。

 

 

 

 

 

 

「何でだろう」

 

 

 

 

 

自分でも何を言っているか理解できないようにイデアは首を傾げて、困惑の視線を飛ばす。

特に大きな理由なんてない、そう言外に述べるような仕草。

 

 

 

 

 

 

 

「あえて言うなら……知って欲しかった、のかな?」

 

 

 

 

 

首を捻りつつ考え込み、もう一度水晶に、姉に視線を向けるとイデアはそのままソルトを見ない。

理解できない感情に翻弄されながら、彼は溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

「幸いなことに、俺には時間があるから彼女を助けるのに手間隙は惜しまないで済んだけど……」

 

 

 

 

 

視線が自分に向けられる。真っ赤な眼と、蒼い眼が自分を見ている。

寿命という言葉を避けて、時間と言う単語に置き換えている所にイデアの労わりを感じつつも、人間は内心で別にそんなこと気にしていないと笑った。

 

 

 

 

 

「お前は、その、なんだ。後悔しないように、ね。 世の中には取り返しの付かないこともあるからさ」

 

 

 

 

 

少年の心が微かにざわめく。自分のやりたいこと、自分に残されている時間、欲しいモノ、何をすればいいのか。

答えは朧に判っているが、決断が出来ない、勇気が足りない。

胸の中で軋みをあげながら考えを巡らせ、少年は竜の聖地で悩みに悩むのだった。

 

 

 

 

 

 

「お前が生きている内に、姉さんとあわせてあげたいなぁ……」

 

 

 

 

 

イデアのその呟きがやけに印象的に耳に焼き付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、ナバタの里は普段とは少しばかり様相が違った。

道を行き交う人々は何処か興奮した趣で、いそいそと自らの仕事に取り組んでいる。

太い木製の柱を地面に突き刺したり、何かの荷物を満載した箱を持ってきたり、中には簡易な椅子を道の端においてそこでゆったりしている者もいる。

 

 

 

 

太陽は既に地平線の彼方に沈みかけていて、辺りに暗闇が差しているというのに里の活気だけは昼間以上に溢れていた。

街のいたるところに松明や、発光する壁などが取り付けられ、その灯火によって夜の闇を跳ね除けているのだ。

 

 

 

 

ざわめかしい人ごみの中を何処で覚えたのかは定かではないが、トンボ取りだなどと騒ぎながら蹴鞠をトンボに見立てて蹴って遊ぶ子供たちが親に注意される

そんな里の道を幾つかの荷物を持ってソルトは歩いている。左肩には何本かの細い丸太、右肩にはテント用の布を纏めたモノを乗せて彼は悠々と行く。

 

 

 

 

 

草で幾重にも編みこまれた縄をぶんぶんと回して「縄跳び」などをして遊んでいる子供を見ると彼はほくそ笑みたくなる。

昔は自分もあんなことをしたっけ、確かあの時は3重飛びの更に上を目指して色々やったなぁ。

その結果、安定感を出すために重みを足した縄が勢いよく足に当たったときのあの痛さときたら……。

 

 

 

 

 

 

ぶるっと痛みを思い出して身震いし、彼は喧騒を横目で眺めつつ進んでいく。

途中、何人か、自分の同級生……母と一緒に幼少時代に勉学を習った者達とすれ違う。

皆と軽く挨拶をしながら荷物の輸送を続けると、ふと一組の男女が眼に留まる。

 

 

 

 

 

彼と彼女のことは知っている。確かあの二人は幼馴染で昔から仲がよかったはず。

記憶では、彼女は彼に対して中々素直になれなかった子で、小さい頃からよく喧嘩をしていた。

好意を抱いているのに、ついつい本音とは違う言葉が出ると嘆いていたっけ。

 

 

 

 

 

ふと、目ざといと我ながら自嘲する。気がつけば今の彼らの空気を読み、どういう関係なのかを推察してしまうのだから。

どうやら暫く見ない間にあの二人は、かなり“密接”な関係になったらしい。

以前では考えられない事に腕を組んで、仲睦まじく歩いている。

 

 

 

 

結ばれたのか。一瞬で答えを出すと、少年は意識的に視線を逸らし、興味のないふりを装いつつ、二人に会釈をしてすれ違う。

ペシペシと頬をたたかれてソルトが眼を向けると肩の荷物の上に何時の間にかリンゴが乗っていて、何かいいたげに左右に揺れて、鳴いていた。

リンゴに眼はないが、確かに存在するだろう視線だけである程度は何がいいたいか判る程には仲がいい彼は理解する。

 

 

 

 

 

 

───妬いてる? 

 

 

 

 

 

かもしれない。違うかもしれない。どうだろう? 

踊り狂う感情の渦を整理しつつ少年は頭を捻る。今の自分は満たされてこそいるが、明確に欲しいという願いもある。

彼には夢がある。彼女と並び立てるような存在になるという夢が。最初は子供の親に対する憧れから始まった願い。

 

 

 

 

何年も努力を続けて、彼女が存在している高みがどれほどの位置にあるのかを理解すればするほど彼は諦めとは対極の感情を抱くことが出来るのだ。

何度も何度も鍛錬で叩きのめされる度に彼女の強さを知って、手を伸ばして起こされるたびに優しさを実感する。

そんな彼女とずっと一緒にいられない事も知っている。母が、彼女がつい最近までは自分に人から外れた存在になってほしいと願っていた事も。

 

 

 

 

十五年程度、物心ついた時から数えれば十年ちょっとの時間だが、自分はこの世界で最もメディアンという存在を知っているという自信があった。

普段の時と仕事の時、戦闘の時ではガラリと印象を変えることも、意外と涙もろいところも、探究心旺盛なところ、大胆な様に見えるけど、実は繊細な心をもっているところ……。

 

 

 

 

 

今自分の胸で周っている感情を何となくだが理解しているからこそ、怖い。

そして決断するための時間は有限であるという事も怖い。

ふぅっと息を吐き出して深呼吸。今はこういう事をうだうだ考えても仕方が無い。

 

 

 

 

自分のやるべき事を全て果たしてから頭を巡らせよう。お世辞にも自分は頭がいいとは言えないのだから、考えるより行動あるのみ。

 

 

 

 

目的の場所…比較的広く、塗装されていない地面は砂ではなく土である──新しいテントの建設予定地にたどり着くと丸太と布を下ろす。

後は流れ作業の様にクイを地面に打ち込み、丸太で基礎の部分を作って、縄で縛った後に布を固定していくだけ。

黙々と無心で作業を続けていた彼がさて次はと思った思って回りを見渡すが、持って来た一式の道具は全て無くなっていた。

 

 

 

 

変わりに眼の前にあるのは4人は入れそうな小型のテントだけ。屋内で言う所の“壁”のない、屋根とそれを支える柱だけの吹き抜けの奴だ。

 

 

どうにも気がつけば全ての作業は終わってしまっていたようだ。後は待つだけ。

 

 

 

 

 

 

「あれ? もう終わってたのかい。手伝おうと思ったのに」

 

 

 

 

後ろから掛かる声は母のモノ。普段より幾らか声が高いのは、やはり彼女も祭りは楽しいからだろう。

振り返ると、宙に幾つもの鍋や机、食材を等浮かばせて、更には両方の手にいつも家中で使っているシンプルな構造の椅子を持っている彼女が居た。

机をテントの真ん中ぐらいの場所に宙から降ろすと、椅子を配置し、フワリと彼女は腰を降ろす。

 

 

 

 

 

両肘を机について、一息つく竜の隣の隣の椅子に座ると、リンゴが肩から飛び降りて机のど真ん中に鎮座。

ゴロゴロとくつろぐ姿を見て、親子は和んだように笑った。

笑いが収まった後に訪れるのは長い沈黙。

 

 

 

 

だが、決して場を淀ませる不快なものではなく、むしろ暖かい空気の満ちた無音の世界。

 

 

 

 

 

 

 

「母さんは、長のやる“花火”ってなんなのか、知ってる?」

 

 

 

 

「う~ん、知ってるといえば知ってるになるんだけど……アレをどう言えばいいのか」

 

 

 

 

 

一応魔道士としてイデアの使用する術が気になり、詳細を見せて欲しいと頼んだ彼女はある程度の概要を把握しているために言葉を詰まらせる。

爆発が花になる、なんてよく考え付いたものだと感嘆しつつ、ここでソレを言うべきかとどうか悩みを覚えた。

物語の先の内容を楽しみにしている者に無情にも告げてしまうような、そんな罪悪感に囚われたのだ。

 

 

 

 

 

 

「見てからのお楽しみさ。 最初はあの大きな音とかに驚くかもしれないけど、凄いモノだってのは確かだね」

 

 

 

 

 

そういわれると余計に気になる。顔にありありとそんな文字を浮かばせている息子を見てメディアンは頬を緩ませた。

顔に当たる風はそろそろ夜の冷たさを宿してきており、間もなく夜がやってくることを予感させる。

自分は大丈夫だが、息子は違うだろうと思い、言葉を続けていく。

 

 

 

 

「それはともかく、寒くないかい?」

 

 

 

 

 

「……そういえば、もう夜なんだっけ」

 

 

 

 

 

 

言われて始めて今の時間のことを思い出したソルトは自らの腕を摩った。

昼の日射対策に全身を布で覆っているとはいえ、それはあくまでも太陽光の直射を避けるためであり、寒さを温和する目的のではない。

夜の時間帯は基本は外に出ないのだが、今日だけは特別だ。

 

 

 

 

 

再度訪れるのは、暫しの沈黙。

生暖かい空間は居心地がよいが、同時に何とも言えない気恥ずかしさをソルトは感じる。

どうにもむず痒いのだ、胸の内側が。

 

 

 

 

 

メディアンから意識的に視線をそらしつつ、空を眺めてみて、彼はため息を漏らす。

砂漠の夜は、砂嵐などがない日は一つの芸術として成立するほどに美しい。

こんな下地の時点で完璧に等しいキャンパスに花火はどういう風に発現するのか、全くもってわからない。

 

 

 

 

 

「……【殿】に行ったんだってね、長から聞いたよ」

 

 

 

 

 

びくりと知らずに肩が跳ねた。だがすぐに気を持ち直すと、素直に頷いて答える。

そんな息子にメディアンは眼だけで笑いかけると、言葉を続けていく。

過去を見ずに、息子だけをしっかりと眼の中に写し取りながら彼女は言った。

 

 

 

 

 

 

「あそこの入り口には何度か頭を酷くぶつけたことがあってさ、それ以来竜の姿では戻らないことにしてたんだ」

 

 

 

 

 

どんな話が飛んでくるかと思いきや、とんだ失敗談を聞かされた息子は破顔し、ぐたぁと机に上半身を突っ伏す。

確かに彼女の本来の姿の巨体さを考えると殿のあの入り口でも入りきりそうにはない。

その時、ちょうどソルトの視界の端で里の外れから小さな光が空に向かって打ち上げられる。

 

 

 

 

瞬間、空に“花”が咲いた。

 

 

 

 

ドンと、一泊遅れてから空気が重低音の波によって揺れる。

反射的に机から跳ねるように身を起こし、身構える彼に竜は苦笑と共に視線を動かし、空に咲く“花”を見上げて言う。

 

 

 

 

 

 

「だから言ったでしょうに、絶対に驚くって」

 

 

 

 

 

楽しそうに、心の底からこの会話を楽しんでいる表情でメディアンはソルトを見てから、空へと眼を戻す。

 

 

 

 

 

一人と一柱の眼の先では巨大な紅蓮の炎が空中に炸裂し、さながら花弁のごとく雄大に広がっている。

花の輪郭が崩れ落ち、一つ一つの小さな火の粉となって大地へと落下していく光景さえも心を揺らす切ない何かがあった。

続けて数発、色は青、緑、黄色、これらを含んだ数色の火の玉が打ちあがり、炸裂。色とりどりかつ、大きささえも違う花が幾つも空に咲く。

 

 

 

 

 

 

 

とたん、歓声が里に響く。男と女も、老いも若いもそこに関係はない。

生まれて始めてみる圧倒的な芸術に魅力され、心を揺らされた者たちがあげる歓喜の声。

例外があるとすれば、これを作り上げた里の魔道士たちの誇らしげな、一仕事なした職人の笑みぐらいだろうか。

 

 

 

 

 

太陽が完全に地平線の彼方に没し周囲を夜が覆っていくのに比例して、花火はますます大きく、派手になっていく。

天を埋め尽くすほどの巨大な花火があがったと思えば、野花のごとき可憐な小粒の花が周囲を彩り、決して見るものを飽きさせない構図を展開。

円形だけではない、少しばかり楕円の形や、どうやって火力を調整しているのやら、四角い花火などなど、様々な火花が夜空を埋め尽くす。

 

 

 

 

 

 

 

熱気が里を覆っていく、それは人が放つものではなくもっと根本的で単純な熱量。

花火が上空で幾度も炸裂した結果起こる、熱の放射による温暖化。

いつの間にか机の上に置かれていた冷水が入っている2つの盃のうち、自分の側にあるモノを手に取って飲み干す。

 

 

 

 

 

 

 

 

何気なしに周りを見渡す。周囲にあるのは笑顔、笑顔、笑顔───。

始めてみるものに興奮を覚え、それに圧倒される者たちの顔。

 

 

 

 

 

しばらくの間、無心で花火に見入っていた彼は、ここで我に返る。

 

 

 

 

 

 

 

───凄い。

 

 

 

 

 

 

 

無意識に唇が紡いだのは、まぎれもない本心。

イデアが何かしようとしていたのは知っていたが、まさかこれほどまでとは。

エレブ広しといえど、こんなモノを見た人間は自分たちだけだという優越感と感動を噛みしめる。

 

 

 

 

 

 

 

「…………!」

 

 

 

 

 

 

顔を綻ばせながら、無邪気な子供に帰ったような気持ちで言葉さえ発さずに空を指さして、あれ、あれ、と身振り手振りで訴える。

もしも後で自分の行いを振り返ったならば、必ず顔を真っ赤にするような仕草。

 

 

 

 

 

 

 

「わかった、わかったから、少し落ち着きなって……あたしも花火も消えないからさ」

 

 

 

 

 

 

光の玉を手のひらから生み出し、それを明りの代わりにテントの内側に漂わせながらメディアンは子を見て安らかな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花火大会は完全に成功しているといっていいだろう。

万が一火災などが発生した場合の対策もあり、その際の対策計画までもしっかりと練りこまれたこの大会はイデアにとってよほど楽しみだったのだろう。

一刻ほどの間、空を彩つづけた花火は今はなく荒涼とした夜空に、ただ人々の活気だけが響き渡っている。

 

 

 

 

 

里の道のいたるところで、人々は肉を焼いたり、いい具合に焼かれたとうもろこしに特殊なタレを掛けたのをほお張ったりしている様が多い。

現在途中休憩を少しはさんでいる最中なのだ。イデアは恐らく計画の再確認や、現状の把握などを行っているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、ソルトは一人でふらふらと里の外れ、里をぐるっと囲んでいるオアシスの森林部分を歩いていた。

周囲は薄暗いが、里の明りがここまで朧に届いているのと、月夜の光があるため、完全に暗闇に閉ざされているというわけでもない。

じゃりじゃりっと足を動かすたびに鳴る音は、砂ではなく土を踏みしめる音、周りから聞こえるのは虫の鳴き声たち。

 

 

 

 

 

正直な話、少しばかりソルトは疲れてしまったのだ。花火は素晴らしいし、大勢の人間と騒ぐのは楽しいが……それでも少しばかり熱を冷ましたくなる時ぐらいはある。

今頃メディアンは里の中で大勢の教え子たちと共に宴でもしているはずだ。確か、結構な数の教え子に絡まれていたと記憶している。

 

 

 

 

 

「お前までついてこなくていいのに」

 

 

 

 

 

 

親しみと笑いが混ざった声を飛ばす対象は、肩にでんっと乗っかる黄金リンゴ。

いつの間にか家族の一員と言っても過言ではない立ち位置にいるこのモルフは、時折妙な行動をとる。

決して自分たちの不利益になるような事はしないが、どちらかといえば場を仕切りなおしたり、新たな局面に移したりしているような気がするのだ。

 

 

 

 

 

 

 

リンゴが乗っているのとは反対の肩には木で作られた水筒、干し肉やとうもろこしなどを詰めた袋を乗っけてソルトは歩く。

暫く歩いて着いたのは、いつも自分と母が鍛錬の際に使っている空き地。ちょうど周囲の木々によって太陽の光をちょうどよく遮ってくれる秘密の場所。

 

 

 

 

 

そこにある大きな岩にいつも休憩の時に座るような動作で腰を下ろすと、空を見上げる。

やはりというべきか、星空は木々の枝に囲まれてよく見えないが、花火を見る分ならば何とかなるだろうと当たりをつけて、一息。

まどろみに浸りつつ、少年は未だ興奮が冷めない体をごろんと岩の上に転がす。

 

 

 

 

 

 

背中にあたる冷たい感触が冷たい、自分の中の熱が岩へと移っていくのがじわじわと伝わってくる。

地竜の背に横になった時とは全然違うなぁと思いつつ、空を見つめていると、リンゴが顔にへばりついた。

ゴロゴロと興奮した猫の様に存在しない喉を鳴らして絡んでくるのを手でつかんで胸の上に下ろす。

 

 

 

 

おとなしく胸に鎮座するリンゴを見届けてから、天に視線を戻すとゆったりと時間を感じるように目を閉じた。

まだまだ夜は始まったばかり、しかも今日はある意味ではお祭り騒ぎの様な日で、遠くからは喧騒と熱気の気配が伝わってくる。

 

 

 

 

 

瞼の裏の闇を見つめつつ、安息に身を任せると頭の中で言葉が浮かぶ。自分の時間は有限ではないという言葉が。

後悔しない生き方とは何だろうか。決まっている、自分のやったことに責任を取る生き方だ。

そして責任を取った上で自分が、もっと言えば自分の周りの者たちを幸福にして、満足させられるような生き方。

 

 

 

 

 

 

 

難しいなぁ、そう無意識に愚痴る。どうすればいいのか。いや、知っているのだが行動に移せない。

眼を胸の上に居るリンゴに向けると、視線が交差……したような気がした。

さっきまであんなにはしゃいでいたのに、今のリンゴは何も言わず、ただ見つめてくるだけ。

 

 

 

 

ただ、何を言いたいのかは分かった。自分の勝手な妄想かもしれないが、このリンゴはきっとこういっている。

 

 

 

 

 

 

 

───好きにしろ。応援している。

 

 

 

 

 

 

 

 

感謝の意を込めて撫でようとすると、リンゴは拒否するように胸から飛び降りて、あっという間に暗闇の中へと転がり去ってしまう。

それと入れ替わるように自分に近づく気配を一つ認識して、ソルトは胸が跳ねた。

のそのそと起き上がり、暗闇の中の一点だけを打ち抜くように見つめてしまう。

 

 

 

 

 

休憩時間が終わり、打ち上げが再開された花火が空中で炸裂しその人物の顔を照らす。

そして天に舞う花の色は、紫。

 

 

 

 

 

 

 

「疲れちゃったのかい?」

 

 

 

 

 

メディアンは何時もと変わらない顔、いつもと変わらない口調で近づくと、ソルトの隣に腰を下ろした。

一枚の毛布を手に持ってきて、それをソルトの肩にかける。

 

 

 

 

 

「どうしたの? あっちですごい盛り上がってると思ったけど」

 

 

 

 

 

そう聞くと、竜は恥ずかしそうにそっぽを向いて髪の毛を弄りつつ答えた。

 

 

 

 

「何というか……その、疲れちゃってね、抜け出してきちゃったよ」

 

 

 

 

 

そのまま言葉を彼女は続ける。

 

 

 

 

 

 

「それに、こういう本当の意味で素晴らしい出来事は家族と一緒に水入らず見たいからさ」

 

 

 

 

 

 

 

花火がまた一つ打ちあがる。今度の形は少し歪んだ円形、真っ赤な花に僅かに混ざる緑色。

アレはリンゴの形状をした花火だ、巨大な炎のリンゴが空に浮かんでいる。

 

 

 

 

 

彼女の言葉が胸に染み込むとたまらない歓喜が押し寄せてくる。嬉しいのだ。

 

 

 

 

 

メディアンが髪の毛に手をやり、後ろで一つで結んでいた髪の毛を解く。

音もなく、キメの細かい砂の様に髪の毛が重力によって広がり彼女が息を吐いた。

天から響く轟音と閃光によって二人の顔が浮かぶ。

 

 

 

 

 

暫しの間、二人で花火を見続ける。

どれほどの時間が経ったのかは知らないが、もうそろそろ花火も終わりの空気が見えてきた頃、ソルトは沈黙を破り捨てた。

 

 

 

 

 

口が勝手に動いていく。まるで心と喉が直結したように。

 

 

 

ここで、今、この状況で、言わなければ一生自分は変わらない。確信めいた予感と共に。

心の何処かでイデアからもらった言葉が浮かんでは消えてを繰り返していく。

 

 

 

 

 

 

 

「……以前、欲しいモノがあるって言ったの、覚えてる?」

 

 

 

 

 

 

それを言い放った時、ソルトは緊張していた。普段と変わらないはずの家族の会話なのに。

手が震えない様に意識し、平然とした様子を装う。

顔を動かしたメディアンの眼が見つめてくる。真っ赤な眼、微かに発光する縦に裂けた瞳孔。

 

 

 

 

 

 

吸い込まれそうな眼を毅然と見つめ返し、彼女の言葉を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

「覚えているよ」

 

 

 

 

 

 

言葉と共に細められた竜の眼は、優し気な光を灯している。

ふざけてる様子も何もなく、ただ自然体で自分の言葉を待っていた。

 

 

 

 

 

 

「本当は、欲しい“モノ”なんて、ないんだよ。装飾品なんて僕はいらない」

 

 

 

 

 

無言で、地竜は懐に手を入れて何かを取り出す。

拳程度の大きさの、巨大なガーネットに酷似した石。

純度の高い蜂蜜を濃縮した様な色彩のソレは星空と、花火の色を映して輝いている。

 

 

 

 

 

少しだけ間を開けて竜は喋りだした。あの泣いてしまった日には告げられなかったことを。

 

 

 

 

 

 

「……あたしはね、正直な話、最初はお前を最後まで育てる気はなかったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ソルトの前に竜石を翳し、とつとつと語る。

唇の隙間から吐いた息が白く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「好奇心、だったのかな。子供を持った竜や人はたくさん見てきたし、自分なら簡単に育てられる、そしてある程度育てたら何処かの孤児院にでも預けようって思ってたのさ」

 

 

 

 

 

 

 

竜はかぶりを振った。自分の過去を悔いるように。

 

 

 

 

 

 

 

「思い返すと、最初はお前の事を本当に“装飾品”として見てたんだね。産みの親にせよ、育ての親にせよ、子供にとって親ってのは絶対的な存在なのに」

 

 

 

 

 

 

思い出すのはこの里に来た当初のイデア。ナーガに捨てられ、自暴自棄にさえなっていた子供。

あの時酒を飲んでぶちまけた彼の悲嘆と憤怒は忘れてはいない。親に捨てられた子供の嘆きは、見ているだけで辛い。

自分はそんなことをしようとしていたのだ。何が孤児院に送るだ。何がある程度育てたら、だ。

 

 

 

 

竜として無意識に人という種族の事を見下していたのかもしれないが、そんなことは今は関係ない。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

少年が竜石に触れた。仄かな熱を宿す竜石は、彼がふれるとその輝きを少しだけ弱めて点滅を始める。

これは竜としてのメディアンの力そのもの、それに触れているというのに彼女は抵抗さえせず竜石を握らせ、その上から自らの手で包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「もちろん、今はそんなことこれっぽちも思ってない。あたしは最後の最期までお前の傍に居るよ……どんな関係であろうとね」

 

 

 

 

 

 

 

龍の真っ赤な眼が爛々と光っている。内側に秘めた激情の大きさに比例するように。

100年後か、はたまた明日か、どちらにせよ絶対に逃げられない運命をその眼は見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今も欲しいかい?」

 

 

 

 

 

 

視線で示すのは二人で握りしめている竜石。地竜の力を孕む極大のエーギルの塊。

そしてこれは竜としての彼女そのもの。

少年が、答える。言葉を震えさせつつ、全身を緊張で固くしながら。

 

 

 

 

 

 

「全部──」

 

 

 

 

 

 

一泊言葉を切って、彼は息を吸いなおした。その瞳はゆらゆらと揺れている。

それは息子という立場を捨て去ることへの恐怖か、それとも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の全部をあげてもいいから、欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜が真っ直ぐな眼で彼を見つめる。彼はそれから逃げようともしなかった。

メディアンが震えた。何か言わなくては、何か、何かと必死に言葉を探そうとして……何もないことに気が付く。

つまらない問い詰めやこの場から逃げる為の言葉はそれこそ星の数ほどあるが、その全てが無意味だということに。

 

 

 

 

この必死な気持ちで言葉を絞り出した彼に対してあまりに失礼で……そしてそのすべてが自己解決してしまっているのだから。

否定の言葉が溢れる度に、悉くが自らの中で自己解決していく感覚は産まれて初めての体験だった。

 

 

 

 

 

自分は竜だ 本当の姿はあの竜の姿で、この人としての姿も仮初のもの。

 

 

 

 

 

 

それが理由で彼が自分を怖がるとでも そんな些細なことで。

竜の背中の上で昼寝までした男に何を言うのか。

 

 

 

 

 

 

寿命だって違う。あたしは老けないけど、あんたはあたしより先に死ぬのは確定し、絶対に覆せない。

そんなこと、あたしよりも遥かによくこの人は知っているし、受け入れて、見据えている。

その上でその時間を全部捧げてもいいと言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

竜と人が? 結ばれるなどありえるのか。

 

 

 

 

誰も禁じてなんていない。この里にだってそういった者達はいる。

 

 

 

 

 

 

 

平穏を装う気など当の昔に吹き飛んでいた。

心臓が破裂するほどの鼓動を刻んでいるのを感じつつ、メディアンは震える手に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今なら、まだ冗談で間に合うよ? あたしは、本気にしないし、笑って流せる」

 

 

 

 

 

 

 

酷い言葉を吐きつけたと激しく自嘲しつつも、言わなければならない。この子の人生の為にも。

世界は広い。例えこの里の中に限定してもいい女性はいっぱいいるのだから。

 

 

 

遠くで音が聞こえる。花火が炸裂する音が、閃光と共にやってきて、ソルトの顔を照らしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

一息吸ってから、少年は決定的な言葉を紡いだ。

もう親子という関係に戻れなくても構わないという覚悟を乗せて。

真っ赤な頬、潤んだ瞳、少しだけ乱れた呼吸というお世辞にも恰好よく決まっていない顔と出で立ちで少年は思いを吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────。

 

 

 

 

 

 

 

 

何と言われたのかはわからない、頭は既に沸騰していて言葉を認識できない。

だが、はっきりとその意味が分かるという矛盾。

ただ、ずっと前から知っていた。見ていたし、理解していたし、そしてある意味では自分は待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

無意識に答えた言葉は何だったか。わからない。わからない。

ただ、一つだけ思い出す。まだ、自分が彼に教えていないことがあることを。

 

 

 

 

 

 

それは人の耳では聞き取れず、人の口では発することの出来ない竜族言語の羅列。

歴史上において、彼女に関わりの深い地竜族達の極一部の存在だけが知っているモノ。

今は既にエレブに彼女を除いて無き竜族達。

 

 

 

 

 

 

少年に対して謡うように竜の口が単語を紡ぎだした。

詩人がハープと共に流す物語の内容の様に鮮やかな“音”を流麗に。

 

 

 

 

 

 

聞こえなくともいい、意味が判らなくとも構わない。ただ、知ってほしいから。

彼女の本来の、竜としての“真の名前”を歌い上げたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレブ新暦 13年

 

 

 

 

 

 

 

 

イデアはその日、仕事を早めに切り終えると一つの場所に向かっていた。

わざわざ転移の術を使わず徒歩で里の中を歩き、沈みゆく夕日を視界に収めながら目的地へと向かう。

片手にはリンゴなどを収めたバスケットをぶら下げて、イデアは無心で歩き、やがてはメディアンの家の前で止まった。

 

 

 

 

 

 

一回だけ大きく深呼吸をすると、意を決して扉をノック。

規則正しく木製の扉を叩き、中からの返事を待つ。

 

 

 

 

 

気配が家の中で動き出し、扉の前に移動するのを“眼”で見つつ、イデアはほくそ笑んだ。

思えば、出会うのは久しぶりだ。最近は仕事などが忙しかったのだ。

そして今日来たのは一つ、彼らを祝うために。

 

 

 

 

ほどなくして扉が開かれて、家主の一人であるソルトが顔を見せるとイデアの笑みは深くなった。

 

 

 

 

 

 

「どうぞ、お待ちしていましたよ」

 

 

 

 

 

 

そう言って家の中に入るように促してくる彼は既に少年から青年へと成長を遂げている。

3年前にはイデアを抜かしていた背はさらに伸びて、今ではイデアと並ぶと親子と言われてもおかしくない程の身長差が開いていた。

温和な笑顔を浮かべ、イデアが差し出したバスケットを受け取りながらソルトはイデアを見下ろす。

 

 

 

 

ぐっと首を上にあげてかつては自分の足元にじゃれついてきていた幼子だった者を見上げてイデアは苦笑する。

 

 

 

 

 

 

「暫くあってない間に、また背が伸びたんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

 

「関節とか、いろんな所が痛い限りです」

 

 

 

 

 

 

なんて贅沢な痛みだ。

この里に来てから余り外見が変動していないイデアが取ってつけたような怒った顔でそういうと、青年は快活に笑った。

 

 

 

 

手に渡されたフルーツで満たされるバスケットを見て頭を下げつつ青年は、ソルトは喋る。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

いや、気にすることはない、

そう伝えようとしていたイデアの顔面に何かが飛びかかり竜の視界を塞ぎ、顔を、正確には何かに挟まれた頬が強く圧迫され、顔に生暖かい吐息が吐きかけられた。

まるでリンゴの皮をお湯と蜂蜜で煮た時に出てくるような甘ったるい匂いだった。

 

 

 

 

 

 

「お前も元気そうだな」

 

 

 

 

 

 

当然だ! そう言いたげに一鳴きするのはソルトの家にもはや住み込んでいると言っても言いほどに馴染んでいる黄金リンゴ。

久々に創造主に会えたのが嬉しいのか、ゴシゴシとリンゴの真ん中の胴体部分を擦り付けて叫んでいる。

 

 

 

そのたびに撒き散らされる果汁がイデアの顔を汚していくが、リンゴはそれに気が付いてない。

 

 

 

 

 

無言でイデアがリンゴを引っ張るが……取れない。

仕方ないから、このまま喋ろうと思うが、頬を圧迫されているせいで舌がうまく回らない。

そもそも、里の長の竜が顔面をリンゴに圧迫されるというのはどうだろうか。

 

 

 

 

 

リンゴの表肌を指でなぞり、エーギルを一つのイメージと共に送り込む。

バスケットの中に入れておいた果物を切るのを専用とするナイフのイメージを。

 

 

 

 

 

 

ひぎぃ! 等と汚い叫びをあげてリンゴが震えながら落下。

イデアが受け止めるとそのまま手のひらから飛び降りて部屋の奥まで全力で転がって逃走していくのを見やり、イデアはため息を吐いた。

 

 

 

 

 

気を取り直してソルトに眼を向けると青年は部屋の奥へとイデアを誘導する。

それに従って屋内の開けた空間に入ると、ソルトが用意してくれた椅子にイデアは一言断ってから座った。

目の前の食事用のテーブルの上にソルトがクッキーなどで満たされた篭と茶が入った盃を置く。

 

 

 

 

 

最後にテーブルを挟んだ正面の席にソルトが座る。

 

 

 

 

 

「そういえばメディアンはどうしたんだ? 家の中には居ないみたいだけど」

 

 

 

 

 

「少し散歩に出かけてて……。 もうちょっとしたら帰ってくるかも」

 

 

 

 

何でも新しく作っている液状の調味料の調子や、砂糖生産の為に育てている食物の様子を見てきてるんです。

そう彼はつづけた。

 

 

 

 

 

 

「…………大丈夫なのか? 余り激しい運動とかはさせないほうがいいと思うけど」

 

 

 

 

 

 

心配と不安を入り混ぜたイデアの声にソルトは頬を小さく掻くと

疲れたように、それでいて少しばかりの怒気を混ぜた声で喋る。

 

 

 

 

 

 

「自分の中に結界を張って、外部と遮断してるとか……それでも今度一回、しっかり言っとかないと」

 

 

 

 

 

 

ふぅとイデアがため息を吐いて、クッキーを手に取って一枚食べる。甘く、それでいて口に残らない味が美味しい。

お茶を飲みつつ、膝元に転がり込んできたリンゴをあやしているソルトを観察するとイデアは心が温まるのを感じ、少し笑った。

 

 

 

 

 

 

 

メディアンとソルト。竜と人の家族は月日の経過と共に思わぬ発展を遂げた。

すなわち、母と息子の関係から、一組の伴侶へ。

 

 

 

 

 

両者の関係が変わり始めたのは3年前から、いや、もっとその前からかもしれない。

判らないが、3年という時間は表面的には劇的にこの2者の関係をつくりかえると同時に、イデアは何処かで納得もしていた。

 

 

 

 

 

メディアンの3年以上前から薄々匂わせていた気配の変化。ソルトの言葉と彼女を見る眼に宿っていた熱量。

そして二人に残された時間と思いの強さを考えれば、そういう選択も十二分にありうると思ったから。

 

 

 

 

 

羨望。はっきり言ってしまえば、胸の奥底の深い場所でそれが疼いているのをイデアは自覚していた。

姉も父もエイナールも、ニニアン、ニルスさえも手元から失った自分と比べてしまったが為の感情。

だが、すぐにそんな感情は圧殺された。余りにちっぽけで愚かな感情など、消えてなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

はっきりと断言できる。自分は彼を尊敬していると。真っ直ぐに生きている彼を羨ましくも好ましいと思っている。

だからこそ、イデアは背筋を伸ばし、ソルトの眼を真っ直ぐ見据えて言葉を祝福と共に紡いだ。

 

 

 

 

 

 

「何かあったら、何でも俺に言ってくれ。他の誰でもない、この俺がお前の力になるから」

 

 

 

 

 

 

それは本心だった。自分の力になりたいと言ってくれた男への自分が出来る最大限の感謝の示し方。

言ってみた後に、少しだけ恥ずかしいモノを感じたイデアがごほんと咳払いをすると、輝くような笑みをしながら自分を見ているソルトと視線を合わせた。

 

 

 

 

 

強い眼だった。澄んだ瞳と視線を合わせるだけで背筋がピシッと引き伸ばされる。

感じるエーギルの波動は、霊山から流れる清流の如く明澄としたもの。

彼の髪の毛と同じ、すみれ色の澄んだ炎が彼のエーギルの、魂の形。

 

 

 

 

 

 

 

彼は、少年は青年になり、そして父になるのだ。

竜と人の奇妙な関係は、家族という関係はそのままに、形を変えて、ここにある。

 

 

 

 

 

 

「そうだ、まだ聞いてなかったことがあった」

 

 

 

 

 

ん? と首を傾げる友人に、イデアは前々から聞こうと思っていて聞けなかったことを口に出した。

 

 

 

 

 

 

「名前はどうするんだ? 男の子の場合と、女の子の場合でいくつか用意しておかないと」

 

 

 

 

 

「あぁ、それは……もう決まってるんですよ。どうにも彼女が言うには、“女の子だよ。名前は二人で決めよう”って言って、その後は女の子が前提として名前を固めていきましたね」

 

 

 

 

 

 

自分の内側に“眼”を使って性別を確認したという事を理解したイデアはほーっと関心の息を吐いた。

まさか“眼”をそういう風に使うとは思ってもいなかったのだ。

確かにそれならば確実に調べられるだろう。もうそこまで大きくなっているはずなのだから。

 

 

 

 

 

「で、肝心の名前だけど……聞かないほうがいいかな」

 

 

 

 

 

「……いえ、イデア様だけには伝えておきます」

 

 

 

 

 

ふふふと、誇らしい笑顔を浮かべるその様はまだまだ少年にも見える。

だが、彼もまたどこかで雰囲気が変わってきている。活発な少年から、落ち着いた青年、そして温和な大人へと。

 

 

 

 

 

竜族としての言語の意味は【知恵】【知識】そして【輝く未来】という意味の名前。

人の耳で聞き取れる部位を繋ぎあわせて彼は新しく産まれてくるであろう娘の名前を説いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

“ソフィーヤ” と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何とか原作キャラのソフィーヤ登場までこぎつけられた個人的には印象的な話です。
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