Tales of Zero【テイルズオブゼロ 無から始まるRPG】   作:フルカラー

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第51話「憤る筆先」 語り:ミッシェル

 芸術の町バレンテータルを飛び立ち、現在は空の上。目下には、ひたすら海原が広がっている。このまま真っ直ぐに北上していくと、次の目的地であるエグゾアテクノロジーベースへ辿り着けるのだ。

 風を切る大翼機(たいよくき)ザルヴァルグの機内では、まさきがワージュに目線を合わせ、何かを伝達しようとしていた。

 

「時に、殿下。念のためクリスミッドの首都リグコードラに、スメラギ武士団の隠密部隊を送り込みました。万が一の危険が迫れば、この通信機によってすぐに連絡が参ります……」

 

「まさきさん、ありがとう! これで少し気が楽になるよ」

 

 ワージュを安心させたのは、まさきの手のひらに収まるサイズの薄い直方体。色は黒で枠組みは赤く、ボタンがいくつか張り付いただけのシンプルな見た目だ。あとは、音声をやりとりするために網目状の小さな穴が開いているくらいか。

 

「隠密部隊に恵んでやったヤツは、俺が何個か作った貴重な通信機の中でも、とぉ~っても高性能なヤツなんだぜ。これなら、どんだけ遠くても連絡できるってわけさ。感謝しとけよ~?」

 

 操縦席からアシュトンの恩着せがましさが、ぬるりと流れ込んできた。どんな顔をしているのか見なくてもわかってしまう。

 誰も彼に感謝する気配のないまま、ソシアがまさきに訊く。

 

「いつ送り込んだんですか?」

 

「姫が里へ戻られた後、国境城壁リゾルベルリに立ち寄ったであろう? そこで姫を捜索していた隠密部隊と邂逅(かいこう)し、事情を伝えて新たな令を下していたのだ。あそこで邂逅しなかったとすれば、彼らは姫とすれ違ったことに気付かず、砂漠へ足を踏み入れていたことであろう……」

 

「隠密部隊の皆さん、不憫なことにならなくて良かったですね」

 

 無駄足になるとも知らずあの暑い砂漠を渡っていたらと考えると、相当かわいそうである。回避できて幸いだ。……が、ソシアは気付く。

 

「でもクリスミッドに送り込んだということは、どのみち砂漠を渡ったんじゃ……」

 

「皆まで言うな……」

 

 彼らに対して申し訳ないのだろう、まさきは目を伏せた。結局どっちに転ぼうとも、砂漠の酷暑を体感する羽目になっていたようだ。過酷な運命である。

 まさき達の会話にオチがつく傍らで、あたしは緊張していた。今一度、全員に伝えたいことがあるからだ。

 

「みんな、ちょっといいかしら。お願いがあるの。……もしテクノロジーベースにメリエルが居たら、助けるのを優先させて」

 

 すると皆は「何を今更」と言わんばかりに、表情を緩ませた。

 

「そりゃあもちろん! でも洗脳を解くには、特殊な装置を動かさなきゃいけないんだよな? 俺達に出来るのか心配だよ……。それに、ボルストは『メリエルを取り戻すきっかけが見つかるはずだ』って言ってたけど、見つからないかもしれないし」

 

 そう。ゾルクが悩むとおりの問題がある。そしてジーレイが補足とダメ押しを入れる。

 

「ボルストの言葉は『テクノロジーベースに行き、助ける方法を自分達で見つけ出せ』という意味合いが強いです。洗脳装置については、あのナスターの手製でしょうからね。操作方法は不明であり、そもそも本人しか操作できないよう仕掛けが施されていると考えるのが妥当です」

 

 あたしも彼らと同じところまで考えていた。装置の使用を前提としていてはメリエルを助けられない。ならばボルストの真意に沿い、自分なりのやり方で進むのみ。

 

「でもあたしは諦めないわ。装置が使えなくても、方法が全く無いわけじゃないもの。ちょーっと危険な賭けになっちゃうかもだけど、もうジーレイにはサポートお願いしてるし、なんとかなるはず!」

 

「……やれやれ。やはりあの手でいくのですね。僕がサポートしたところで分の悪い賭けであることに変わりありませんが、ミッシェルがそれでいいと言うのならただ従うのみです」

 

 気が進まない、と表情を曇らせるジーレイ。不明確な物事を嫌う彼にとったら、気が進まなくて当然ではある。

 

「どういう方法で救うんだ?」

 

 ゾルクの問いへ、明るく振る舞いながら答える。

 

「ジーレイの魔術でメリエルの動きを止めてもらって、あとはただひたすら説得するの。ストレートに真正面からね! 初めてメリエルと再会した時、あたしの呼びかけで洗脳が揺らいでたから効果は確実にあるわ」

 

「なんだそりゃ。どんな方法かと思えば、運任せじゃねぇか。可能性は恐ろしく低いだろうに。呆れたぜ……」

 

 胸を張るあたしとは対照的に、アシュトンは大きな溜め息をついていた。しかし、あたしは本気である。

 

「ナスターが警戒してメリエルの洗脳を強化してるのはわかってるし、火薬の都市ヴィオで戦った時は説得する余裕すら無かったけど、呼びかければ絶対に想いは通じる。あたしとメリエルは双子で、姉妹で、たった二人の家族なんだから……!」

 

 成功への根拠は無い。しかし自信はある。この気持ちは無茶や無謀の類かもしれないが、あたしとしては、悲観して何もしないほうが嫌だ。可能性が低かろうと、だから説得の道を選んだのである。

 

「それと同時進行でね、ソシアのママの情報も調べたいと思ってるの。みんな、そっちも協力してね」

 

 不意の申し出に、彼女は驚いた。

 

「ミッシェルさん、いいんですか? 調べる内容が増えればその分、テクノロジーベースに居続けるのも大変になるのに……」

 

「もっちのろんよ♪ ソシアだって自分の目的、果たしたいでしょ?」

 

「……はい! じゃあ、お言葉に甘えたいと思います。皆さん、どうかよろしくお願いします……!」

 

 頭を下げるソシアへ、すぐに皆は快諾の声を届けてくれた。この絆があれば、きっとどうにかなるだろう。

 

「しかし、ミッシェル。メリエルがテクノロジーベースに居ること前提で話を進めているが、その保証は無い。だから、現時点ではあまり気負い過ぎないほうがいいぞ。使命の重みで潰れてはいけないからな」

 

 マリナが、彼女なりの言葉であたしを気遣ってくれている。けれど心配は無用だ。

 

「だいじょーぶ、わかってるわ。でも居ること前提で考えておくのが重要なの。心構えみたいなものよ。……それに、メリエルは必ず居るわ」

 

「何故、わかるんだ?」

 

 不思議そうに尋ねるマリナへ、微笑を返す。

 

「女の勘――いいえ、双子の直感ってヤツかしら」

 

 

 

「エグゾアテクノロジーベースが、そろそろ肉眼で見えてくるはず。……ほら、あそこだぜ」

 

 目を凝らしていたアシュトンが、フロントウインドウの先……目的地を指差す。海から太い角柱が直接生えている感じの外観だが、規模が桁違いだ。接近するにつれ、テクノロジーベースがどんどん巨大化しているかのように錯覚する。

 この壮観を目の当たりにした後、ゾルクがつまらなさそうに呟く。

 

「どうせ侵入防止の迎撃機能とか、あるんだろ? どうやって侵入しようか」

 

「ふっふっふ、心配には及ばんぜ……! この前、『安全に乗り込める』って言っただろ?」

 

 アシュトンによる、本日二度目のしたり顔が披露された。本人が操縦席についたままなので直接顔を見たわけではないが、やはり見えなくても声だけでわかってしまう。そんな彼が、中心に穴の開いたデータディスクを右手に摘んで、前を向いたまま見せびらかしてきた。

 

「テクノロジーベース進入・発着用のガイドデータだ。これさえあれば、素通りどころか堂々と着陸もできる。迎撃とは無縁で殴り込めるってわけさ」

 

「『リフから貰ったイイもの』って、それのことだったのか! そういや、リフのギルムルグはテクノロジーベースで奪ったんだもんな。ガイドデータもあって当然ってわけか」

 

「そういうこった」

 

 ゾルクは合点がいった様子である。なるほど、ありがたい話だ。が、あたしはここでひとつ疑問が湧いたので、ボソッと零した。

 

「でもアシュトンが威張ったってしょうがなくない? リフのお手柄よね、これって」

 

「『皆まで言うな……』」

 

「拙者の真似はよせ……」

 

 アシュトンによる物真似からの、まさきの静かなる指摘の早さ。皆、おかしくてたまらず吹き出してしまった。敵地へ乗り込む直前だというのに、なんという気の緩み方だろうか。……いいや、これでよかったのかもしれない。おかげで変な力が抜けて、身体の芯からリラックスできた。

 エグゾアテクノロジーベースは、もう目と鼻の先。そして空を埋め尽くす雲は、いつの間にか不機嫌そうに黒く染まり、電光を帯びていた。

 

 

 

 ‐Tales of Zero‐

 

 第51話「憤る筆先」

 

 

 

 大翼機ザルヴァルグはガイドデータによって識別信号を発信し、エグゾアテクノロジーベースの迎撃機能は作動せず。外部隔壁も自動で開き、航空機専用の発着場へ容易く侵入できた。周りには、待機中のギルムルグが何機も並んでいる。他に格納庫もあるらしく、改めて基地の規模の大きさに驚いてしまう。

 アシュトンの話だと、この基地の侵入者対策は全て対物センサーや簡易人工知能などで機械的に構築されており、人間による周辺監視はほとんど行われないのだという。海上に位置しているし、戦闘組織エグゾアの悪名高さのおかげで侵入者など元々皆無だからである。それだけ武力と技術力に自信があるが故なのか、仮想敵を舐め腐った体制だが、おかげで危な気なく事が運べた。

 しかし、いざ侵入してしまえば流石に気付かれるだろう。エグゾア構成員が異変を察知する前にと、あたし達いつもの六人が急いで発着場に降り立つ。

 

「じゃあ予定通り、俺とワージュはこのまま飛び去るぜ。脱出したくなったら、マリナに渡した通信機で連絡してこい」

 

「みんな、くれぐれも気を付けてね」

 

 ザルヴァルグから見送る二人。危険な探索になることと脱出手段確保のため、彼らとは別行動をとることにしたのだ。

 

「ありがとう、ワージュ! アシュトン、撃ち落されないように上手く飛んでてくれよな」

 

「へっ。お前こそ、下手に飛び回ってドジ踏むんじゃねーぞ。じゃあな!」

 

 ゾルクとアシュトンの悪態を最後に、あたし達の探索が始まった。メリエル救出のヒントを必ず見つけ出す――その決意を胸に。

 

 発着場や格納庫付近は音の響く黒い鋼鉄の通路だったが、研究室の多い内部へ近づいていくと、清潔さと静音性を有した真っ白な通路へと模様が変わる。

 その他、消毒液や得体の知れない薬品の臭い、青みを帯びた妙な霧などが頻繁に漂ってきた。医療の町ランテリィネの施設と近い印象を受けるが、決して同種のものではない。明らかに毒々しく、攻撃的に感じる。研究過程で生じた毒物なのだろうか。出来る限り吸引しないよう、慎重に進んだ。

 ちなみに、国境城壁リゾルベルリであたしが描いた隠密マントだが、敵との戦闘が前提である今回の侵入作戦では使用していない。あれは身に着けた者の気配を消す効果を有した代物であり、森の中に木を隠すような使い方を想定している。町中、特に人の密集している場所での効果は絶大だが、周りに敵しかいない環境だと気配に関係なく見つかってしまい、隠密マントは役割を保てないのである。

 

 エグゾア構成員を可能な限り避け、時には戦闘を行い、入れる部屋や研究室、実験室をしらみ潰しに調べた。しかし、メリエル救出のヒントやソシアの母親の情報は一向に見つからない。

 タイムリミットが近付く。ボヤボヤしていると、敵があたし達の位置を把握して取り囲んできても不思議ではないのだ。

 

「……ミッシェルさん。これ以上、長居したら危ないと思います。お互いに手掛かりは見つかっていませんが、私はもう……構いません。あとは、ミッシェルさんに委ねます」

 

 ソシアは見切りを付けたらしく、あたしに判断を仰いだ。おそらく皆も同じ思いだろう。

 ……答えは決まっている。ここまで協力してくれた皆を、更なる危険に晒すわけにはいかない。

 

「あたしも割り切るわ。次の部屋で最後にしましょ」

 

 そう言って歩みを進めた直後。目前に、探索した中で一番大きいオートスライドドアが現れた。この物々しさ、かなり奥へとやってきた証拠だろう。ここを調べて何も無ければ、あたし達は潔く退散する。

 

「では、入るぞ」

 

 マリナがスイッチを押すと、ドアはスライドした。その内部は……。

 

「ここもやけに白い。実験室か……?」

 

 光景を見て、まさきは一瞬そう呟いたがすぐに訂正した。

 

「否、そう呼ぶには不釣り合いな広間であるな……」

 

 このスライドドアからは細い通路が長く延びており、遠く向こうのスライドドアに真っ直ぐ通じている……のだが、通路の中央には白く広大な円形の足場が存在している。そして通路の脇や広い足場の外周は、全て奈落。手摺りなど存在せず、落下すれば一溜まりもない。覗き込むことすらためらった。

 壁に設置された無数の蛍光照明も相まって、さながらデスマッチの舞台のようである。それを飾るかのように、ここにも青みを帯びた妙な霧がかかっていた。

 

「……あたし的には『大当たり』って感じね。通路が狭いし、中央まで進みましょ」

 

「戻ろうにも、ドアは動かないしな」

 

 スイッチを押しても反応なし。この部屋に閉じ込められたことをマリナが確認し――空気は即座に張り詰めた。足元や周囲に注意して中央を目指しながら、それぞれゆっくりと武器を構える。

 

 ……間違いない。これはお膳立てだ。

 

 発展途上都市メノレードでも、奴はわざわざ闘技場を選んで襲ってきた。そういう趣向でもあるのだろう。

 

 つまり、ここを訪れるまで大した危機に遭わず探索できていたのは偶然ではない。

 

 最初からこの部屋に誘導されていたのだ。

 

 奴が、

 

 あたし達を、

 

 その手で始末するために――

 

戦慄(せんりつ)(くれない)よ、かの者達を包み込め」

 

 とてもよく聞き慣れた声が、尖った敵意となって耳に辿り着く。……事前に直感が働いていた通り、それはメリエルのものだった!

 

「どこだ!!」

 

 叫び、ゾルクは辺りを見回したが、あたし達以外には誰もいない。声の出所も不明である。

 見えず戸惑う中、更に動揺する事象が。

 

「受けなさい!」

 

「目の前!?」

 

 ソシアが驚くと同時に、皆が『それ』を目の当たりにした。

 ――真紅の長髪をなびかせ、髪と同じ色のバトルドレスを身に纏った妖艶な姿。音も無く、メリエルが急に出現したのだ。身の丈に匹敵するほど巨大な筆を操りながら。

 紅く輝く何かを真下に描いていた様子だが、位置は大胆にも至近距離。通常ならば、筆術(ひつじゅつ)の詠唱中に敵との間合いが詰まるなど、あってはならないこと。しかし今回は意味のある接近だった。何故なら、このタイミングを以て……。

 

「ブラッディ・フルムーン!!」

 

 自身の大技、秘奥義を描き終えたからである。筆術の名を言い放つメリエルは、大筆(たいひつ)の石突き部分を堂々と床に突き立てた。

 彼女が描き上げたのは、紅の光を放つ妖しき満月。広大な足場の大半を覆う、十分過ぎる効果範囲を有している。避けることなど出来るはずもなく、全員が紅い光に包まれてしまった。肉体に浸透して神経に達するかのような鋭い痛みが何度も襲い、容赦なく体力を奪う。

 ……この、突然の秘奥義を皮切りにして、戦いは開幕したのだった。

 

「私に敵うわけがないわ」

 

 メリエルの秘奥義が効果を発揮し終えた頃には、あたし達も床に伏せて息絶えることに。

 

「……あら」

 

 なるかもしれなかった。

 

「まだ立っているの? ……全く、さすが救世主一行ね。しぶとさだけは褒めてあげる」

 

 不愉快そうに、メリエルは賛辞を送った。

 

「リザレクション、ギリギリセーフだったみたいね……! ま、死ぬほど痛かったことには変わりないんだけど」

 

「死ななきゃ安いさ。ありがとう、ミッシェル……!」

 

 ゾルクを筆頭に皆、肩で息をしているが、戦闘不能にはなっていない。メリエルが秘奥義を放つ直前で、あたしが全体回復の筆術リザレクションを描いていたからだ。リザレクション発動のために描いた魔法陣は紅い満月に上手く隠れ、おかげでメリエルに悟られることなく、ある程度は体力を回復できた。

 アドリブでここまで対応できたことに、自分でも驚きである。それだけ力量が上がっているのだとしたら……湧いてくる。メリエルを救う自信が。

 

「また転送魔法陣か! フレソウムの館といい、闘技場といい、ケンヴィクス城といい……毎度これに邪魔されているな。(はらわた)が煮えくり返りそうだ」

 

 不意を突かれたせいですぐに答えを出せなかったが、メリエルが突然に現れたカラクリは転送魔法陣以外では説明できない。この技術、はっきり言って小賢し過ぎる。マリナが歯噛みするのも大いに頷ける。

 

「ごめんなさいね。でも便利なものがあれば誰だって使うでしょう? 少なくとも……」

 

 メリエルは、戯れの言葉と共に。

 

「私は使ったわ」

 

 大筆を操って筆術を行使する。青の線で「水」の文字を描く術、ブルーカレントだ。激流を生み出して前方を攻撃する単純な下級筆術だが、奈落に落ちたら即死となる今の状況では、ひたすら脅威でしかない。呑まれたら終わりだ。皆、防御や反撃よりも激流の回避を優先した。

 ……畳み掛けるように、新たな声が聞こえる。

 

「現代技術の限界により、連続使用は出来ませんがねぇ。奇襲や撤退行動へ用いる分には、何一つ問題ありませぇん。ボクが生んだ最高傑作のひとつですよぉ」

 

 直後、天井が左右に割れていき、帯電する黒雲の空が広間いっぱいに露出した。ここはテクノロジーベースの最上階だったのだ。空は暗いが、蛍光照明のおかげで視界に問題は無い。

 そして頭上から、あたしが最も……最も憎んでいる六幹部の男が、ひらりと落ちてきた。

 

「あらかじめ……お伝えしておきますが、アナタ方の目的はお察ししています。残念ですが、メリエルは解放しませんよぉ? こんな基地に乗り込むとしたら、それくらいの理由しかありませんからねぇ」

 

 ねっとりとした、耳障りな喋りが続く。

 

「ボクは洗脳技術に絶対の自信がございまぁす。先ほどもメリエルに最新の洗脳を施したばかり。こうして大っぴらに洗脳を話題に出していますが、彼女には何の影響もないでしょぉう? あとは所縁(ゆかり)のある者との接触による試験のみ。家族や縁者(えんじゃ)の影響で洗脳が揺らぐ……というジンクスは本日限りで払拭させていただきまぁす」

 

 語尾を妙に間延びさせた独特な口調、土色の癖毛、漆黒の白衣、銀色の垂れ目、三日月型の口。極めつけは、肩から先が機械義手と化している両腕。こんな人物、あたしは一人しか知らない。

 そして洗脳については大方、当初の予想通り。性懲りもなくメリエルを手駒として戦闘に参加させるその姿勢、ひたすら嫌悪感を抱く。あたしの説得で、必ず奴の洗脳を上回ってやる。

 

「僕達を侮った上での不敵な解説、非常にありがたい。それでは返礼いたしましょう。……貫きなさい、アイスバーン」

 

 魔本を輝かせたジーレイが男の着地点を狙い、床から鋭利な氷柱を幾つも生やす。しかし男はギリギリで飛び上がり、貫通を免れてしまった。

 

「おぉっと、この不意打ちには焦りましたぁ! 相当ご立腹のようですね、魔皇帝殿。奇襲されて悔しかったのですかぁ?」

 

 焦ったと口では言いつつ、三日月口の笑顔は絶やさない。本当は煽っているだけである。だがジーレイは平静な素振りで返答した。

 

「それだけならば、他者の情に振り回されない分まだマシなのですが。……この気持ち、ついに僕もゾルク達に感化されてしまったらしい。実に僕らしくない……しかし」

 

 次の魔術を準備する傍らで。

 

「仲間の家族を取り戻す時くらいは、このような心情になるのも悪くありませんね」

 

 眼鏡の奥から覗く形相は、憤激するオーガかドラゴンの如き気迫を纏っていた。

 

「あのジーレイさんが、燃えている……」

 

 意外も意外。異様なジーレイの様子を受けて、ソシアは目を丸くした。平静なのは素振りだけだったようだ。普段は冷徹気味なジーレイがそう言ってくれたことに、あたしとしても面食らい……勇気を貰った。

 

旋空特攻筆(せんくうとっこうひつ)!!」

 

虚空衝(こくうしょう)!!」

 

 向こうでは。大筆を前面で風車のように回転させながらの突撃と、両手剣の腹を押し出すことにより生成された魔力壁が、激しくぶつかる。メリエルとゾルクが競り合っているのだ。こちらも遅れを取らないよう、気合いを入れなければ。まずは大きく息を吸い……。

 

「ナスタァァァァァッ!!」

 

「ひぅっ!?」

 

 腹の底からひねり出した絶叫は、奴を始めとして全員の行動を中断させた。

 そんなことなどお構いなしに、続けて怒鳴りつける。

 

「こんなにでっかくて真っ白いキャンバス、用意してくれてありがとね!! お礼に全部あたし色で染め上げて、メリエルを取り返しちゃうんだから!! 逃げ出すんじゃないわよ!!」

 

 トラウマからの脱却、ナスターへの報復、そして何よりメリエルの救出。全ての想いは、握った大筆に改めて込め直した。

 

「何をおっしゃるかと思えば、部屋への感謝ですか? どうでもいいのですが……。まあ、ご心配なくぅ。今回、ボクは転送魔法陣に頼るつもりなどありませんので。いたぶって、いたぶって、いたぶり抜いた上で、実験材料にして差し上げますよぉ! アナタ方、全員ね!!」

 

 両の義手を大きく広げ、ナスターがあたしに迫る。相変わらずの、技術研究者らしからぬ異様なスピードで急接近。喰らいつくかのように義手を伸ばしてきた。それを大筆で薙ぎ払うと、わざと高圧的な態度を見せつける。

 

「なんでもかんでも実験材料にしちゃうの? ホント、目的のためなら何だってするのね! メリエルを誘拐して家族を皆殺しにした部隊を思い出して、反吐が出るわ。どうせあの部隊も、あなたが差し向けたんじゃないの?」

 

 これを聞いたナスターは、嬉々として返答。

 

「おお、よく気付きましたねぇ! 思えばあの日、部隊にエンシェントの欠片も回収させておけば二度手間にならなかったのですが……。当時はまだ不要でしたし、正確な解除方法を調べていなかったので仕方ありませんでしたぁ。まあ当初の目的通り、最高の人材である筆術師(ひつじゅつし)メリエルを入手できたので、問題は一切なかったのですがねぇ。いやぁ……思い出しますよぉ、入手したあの日の興奮を!」

 

「……やっぱりね。どうせそうだろうと勘付いてたわよ、このひとでなし!! あと、聞いてないことまでベラベラ答えなくていいから! 喋りが早口だし、気持ち悪いのよ!!」

 

 故意かと思ってしまうくらい、奴は神経を逆撫でしてくる。温厚なあたしに口汚く罵らせるとは、やってくれるではないか。……でも落ち着け。今はまだ平常心を保つのだ。でなければ、メリエルを救出するタイミングが来た時に集中できないから。

 がむしゃらに大筆と義手をぶつけ合って気を紛らわせようとするが、ナスターの早口は止まらない。

 

「アナタの生存を知ったのは後日調査の際でしたが、脅威として見ていなかったのでわざと放置していましたぁ。が、まさかテクノロジーベースまでボクの邪魔をしに来る存在になるとは、想像もしませんでしたよぉ」

 

「少しは『復讐されるかも』とか頭に浮かばないわけ? 脳みそが研究に偏り過ぎなんじゃないの!?」

 

「ボクを褒めても、攻撃以外は出ませんよぉ?」

 

「誰が褒めるか! ほんっとムカつく! そのヘンテコな義手、また絵具まみれにして壊してあげるから!!」

 

「あぁ、闘技場でのことですか? あの時は総司令の命令によって手加減しなければならなかったので、メリエル調教用の義手でお相手していたのです。故障など想定内だったのですよぉ。今回は実戦用の義手を装備しているので、悪しからずぅ。ついでに、あの時の借りは返させていただきまぁす」

 

「…………ああもうっ!! ほんっっっとムカつく!!」

 

 ……いけない、これでは奴のペースだ。戦いながら無益な会話を続けるなど、頭がどうかしていた。

 あたしは我に返り、ナスターから離れようとする。けれどもこの男は執拗に攻撃を繰り返す。ふざけた態度で誤魔化しているが、あたしがメリエルに近づくことを恐れているのかもしれない。

 膠着(こうちゃく)状態が続く中、割って入る人物が。

 

「話には聞いていたが、狂鋼(きょうこう)のナスター……既に度し難い……」

 

 まさきである。握った刀で一閃、義手を弾く。大きな隙が生じ、あたしはやっと逃げることができた。

 

「おやぁ? そういえば、お初にお目にかかりますねぇ。スメラギ武士団のトップ、蒼蓮まさき! 報告書によって多少は把握していますが、やはり実物を拝まなければ詳細はわからないものです。もちろん、データ採取後は身柄を確保いたしますよぉ。アナタはどのパーツを提供してくださるのですかぁ? 心臓? 眼球? それとも」

 

「もうよい……」

 

 ただそれだけを述べ、まさきは斬りかかった。早口で捲くし立てるナスターに辟易(へきえき)したらしい。

 

「いけずですねぇ」

 

 それを物ともせず、側転でかわす余裕と実力がある。性格同様、一筋縄ではいかない。

 

「でしたら、ターゲットを変更しましょうかぁ!」

 

 奴が振り返った先には、メリエル足止めのために弓を構えるソシアの姿が。彼女を捉えた途端、また俊足を披露する。

 

「!! 間合いが詰まる……!」

 

 ソシアは視線を左に移し、ナスターの接近を確認。しかし回避行動を取らない。あまつさえ奴に背を向けてしまった。それを「しめた」と思ったのか、刃状に変形した右の義手が揚々と彼女に届こうとする。

 

「マシンソー……」

 

 だが、右義手の刃は何も斬り裂かなかった。

 

「来ないで!!」

 

「へぐっ!?」

 

 ソシアが繰り出したのは、左足を軸にして右足を突き出すバックキックだった。あえて一瞬だけ背中を見せることで意表を突き、刃を避けて見事にナスターの腹部へ命中。蹴り飛ばすことに成功した。

 背を床につけたナスターへ、すかさず弓技を見舞う。

 

百花閃(ひゃっかせん)!」

 

 放たれた矢は、風を纏って無数の花弁を散らしている。それは花吹雪となってナスターを巻き込み、華麗に斬り刻んだ。

 

「マリナさんから教わった脚技、後光(ごこう)のお味はいかがでしたか? 以前みたいに耳元で気色悪い発言ができるとは思わないでください。それと私もミッシェルさんと同じで、あなたが大嫌いです。早く消えて」

 

「まったく……。アナタにそこまで嫌われる覚えなどありませんがねぇ。ボクはいつだって真剣で、自分に正直なだけですよぉ?」

 

 ひどく冷め切ったソシアに対して怪訝な表情を浮かべながら、簡単に起き上がるナスター。それほどのダメージにはならなかったらしい。

 

「飽くなき研究と実験のためにねぇ! マシンチェーンソー!!」

 

 今度は、両の義手を大型チェーンソーに変形させた。鎖鋸(くさりのこ)が、エンジンから動力を得て荒々しく回転している。まともに受ければ身体など簡単に切断されるだろう。ソシアはバックステップを挟み、己の間合いで矢を放つ。それに乗じて、まさきもナスターへ駆けるのだった。

 ……それにしても明らかに無理のある変形をしたように見えたが、一体どういう仕組みになっているのか、その義手は。やはりヘンテコである。

 

 ソシアとまさきがナスターを相手取る間に、あたしは筆術を描いて仲間の身体能力を強化した。さあ行くぞと、皆でメリエルを取り囲もうとする。

 

「当たったら、ちょーっと熱いかもだけど我慢してね!」

 

 肩にかけた画材鞄からあたしが取り出したのは、事前に画用紙へ描いていた爆弾の絵。

 

爆描紙(ばくびょうし)!」

 

 三枚、放物線を描くようにして多方向へ一度にばら撒いた。これも筆術の一種で、画用紙に描いた爆弾は本物のように爆発する。けれど、別に直撃は望んでいない。爆発の余波でメリエルが怯んでくれさえすればいいのだ。

 

「それが敵にかける言葉? 笑わせないで」

 

 ……駄目だ。直撃どころか余波も届かない。メリエルは画用紙の落下地点を一瞬で三箇所とも見切り、軽く避けてしまった。なびく長髪とバトルドレスが恨めしい。

 でも、まだ仲間の連携がある。

 

風塊(ふうかい)(はつ)。空虚よ弾け飛べ。……エンプティボム」

 

 ジーレイが風属性の魔術を放つ。相手の周囲の空気を圧縮し、破裂させる術だ。

 

「トマホークレイン!」

 

 マリナは、上空に発砲して弾丸を雨のように降らした。この二段構えなら、多少なりとも動きを……。

 

紫灰(しばい)驟雨(しゅうう)となりて! バイオレットレイン!!」

 

 好転を期待した瞬間。メリエルが目下に描いたのは、紫色の「墜」の文字だった。「墜」はマリナのトマホークレインを防ぐ傘となりながら上昇し、霧散。そして闇属性の雨が降り始めた。闇の雨は短時間だが猛烈な勢いで広範囲に降り注ぎ、エンプティボムの破裂の衝撃をも緩和してしまった。

 

閃空弾(せんくうだん)! いっけぇぇぇ!!」

 

 降り止みかけた闇の豪雨を、ゾルクが突進で貫通する。光に包んだ無創剣(むそうけん)で突きを繰り出しているからこそ可能な荒技であり、豪雨による視界の悪さを逆手に取った不意打ちである。――が。

 

「まだまだね。風神線(ふうじんせん)!」

 

 大筆による疾風の突きは、無創剣の先端を見失わなかった。武器に攻撃を当てられたゾルクはバランスを崩し、尻餅をついてしまう。そして闇の豪雨は止み、視界が元に戻る。

 

「これでも駄目なのかよ……!」

 

「幹部の目の前で無防備になるな!!」

 

 ゾルクの頭上スレスレを、マリナの牽制射撃が通過した。

 

「うわっ!? ご、ごめん……」

 

 彼女が言った通り、油断は死に繋がる。現に、この牽制射撃がなければゾルクは大筆の石突きで胴体を貫かれていたはずだ。回避を余儀なくされたメリエルの、不服そうな顔が物語っている。

 近接技や得意の筆術を巧みに操るメリエルは、予想以上の強さ。思うように消耗させられない。ジーレイの魔術で動きを止めるにしても、もっとメリエルの体力を奪わなければ成功しないだろう。だからあたしは、めげずに立ち向かった。

 

「あなたは敵じゃないわ! あたしの家族なの! 双子の姉妹なの! だからあたし達は、そっくりな姿をしてるの! 思い出してよ! メリエル!!」

 

「この期に及んでまだそんな妄想を……! 前にも言ったでしょう!? 私はエグゾア六幹部の一人、鮮筆(せんひつ)のメリエル! ただでさえ、出来の悪い鏡を見ている気がして不愉快な気分になるのに……! いい加減、鬱陶しいのよ!! ミッシェル・フレソウム!!」

 

 最新の洗脳を施されたと言っても、どうやらあたしのことはしっかり覚えているようだ。そして呼びかけに相当いらついたのか、メリエルは怒号を返してきた。――だがそれは、先ほどまでの余裕を失ったということ。微かでも彼女の中で何かが揺らいだ証拠だ。やはり、救う希望はあるのだ。

 ここが正念場と、また自分の画材鞄に手を突っ込む。取り出したのは、スメラギの里に伝わる十文字の小型投擲武器「手裏剣」が描かれた画用紙だ。余暇でまさきから里の話を聞かせてもらった際に「面白そうだから」と描いて投げてみたら意外と実用的だったため、術技として採用したのである。その名もわかりやすく――

 

画用手裏剣(がようしゅりけん)!!」

 

 主要武器の大筆をいったん背負うと、左手の平に乗せた五枚の画用紙を右手で滑らせ、前方に連続発射した。すると画用紙は闇のオーラを帯びて回転し、高速で飛んでいく。余裕のないメリエルは、これにどう対処するのか。

 

烈震轟筆槍(れっしんごうひつそう)!!」

 

 ……渾身の力で瞬時に大筆を振るい、思い切り床を割った。あまりの威力に飛び散る破片。手裏剣の画用紙はそれに阻まれ、敢え無くふわふわと自由落下する。見たところ、もうメリエルは激怒していない。余裕を失ったのは一瞬だけだったようだ。

 

「あーもう、さすがメリエルね……。揺らいだと思っても、次の瞬間には冷静に反撃してくる。どうしようかしら」

 

「相手は二人、俺達は六人。数ではこっちが上なんだから、根気よく続ければ必ずチャンスは見つかるよ」

 

 頭を抱えたあたしを、ゾルクが慰める。……ただそれだけのことが、状況を悪化させる引き金となった。

 

「二人、ねぇ……。さて、本当に二人だけかしら?」

 

「へっ?」

 

 メリエルの不穏な一言を受け、呆けた声を出すゾルク。向こうは確かに二人だけのはずだが、転送魔法陣でまだ誰かやってくるというのだろうか。

 

「ウフフ……私の奥の手、見せてあげる」

 

 自信に満ちた「奥の手」という台詞。……聞いてすぐに思い出した。彼女の秘奥義以上の奥の手と言えば、あれしかない。

 

「いけない! みんな、メリエルを止めて!!」

 

 咄嗟の叫びに呼応し、マリナが二丁拳銃の速射を、ジーレイが速攻の下級魔術を発動した。

 

「イービルスケッチ!」

 

 が、無意味。

 二人の攻撃が到達する前に、メリエルは筆術を描き上げてしまった。思わず、あたしの口から落胆の声が零れる。

 

「間に合わなかった……!」

 

 メリエルの筆術詠唱スピードは尋常ではない。どんな上級術も、あっと言う間に描き上げてしまう。どれだけ早く気付いたところで、阻止できるはずがなかったのだ。

 神速で彼女が描いたのは「体」の文字。床で薄黒い紫に輝くそれは、どんどん立体を成していく。最終的には、緩やかな輪郭で五体をかたどった人形となり、射撃と魔術からメリエルを護る盾の役割を果たした。

 ……けれども、メリエルは単なる身代わり人形を生み出したわけではない。この筆術の真価は別にある。ここから更に変形していくのだ。

 

「あれは、もしや拙者か……!?」

 

 細部の見栄えが徐々に良くなっていく人形を見て、まさきは冷や汗を流した。……背丈に始まり、水色の長髪、白と青を基調とした鎧装束、鞘に収まった左腰の刀、肩から垂れ下がる赤の絆帯。どこをどう見ても、自分自身の姿だったからだ。違う点があるとすれば、顔面が黒く塗り潰されているところか。

 まさきの姿を完全に模した人形は抜刀し、風となった。

 

「ぐっ!? ……速い!」

 

 ゾルクは防御の構えを取ろうとしたが、腰の入った横一線の斬撃は圧倒的に速く、蒼の軽鎧に守られていない腹部を斬りつけられてしまった。この動作は、まさきが得意とする剣術、一文刃にそっくり。あたしの筆術で身体を強化していなければ、きっと致命傷になっていただろう。

 

「身体能力も術技も、本人と同等なのか……!」

 

 二丁拳銃の連射で人形を追うマリナだったが、命中する気配はまるで無い。普段は頼りになるまさきのスピードが、このような形で脅威となってしまうとは。

 ――フレソウム家が代々受け継いできた聖なる偶像『ソルフェグラッフォレーチェ』を描くのが苦手だったメリエルは、その代わりなのか、実在の人物や動植物を人形として複写し自在に操る才能にズバ抜けて秀でていた。それを極限まで練習して洗練した筆術がメリエルの奥の手、イービルスケッチなのだ。

 フレソウムの館で初めてあたしがメリエルと再会した日、館中が絵具のモンスターで溢れていたが、あれもこの筆術によるものだったのだ。……あたしが知っている限り、昔は『イービルスケッチ』などという呼称ではなかったはずだが、これもナスターに洗脳された影響なのだろうか。

 

「速攻の武士団長が敵に回ってしまうとは、恐ろしいことこの上ありません。どうせ増えるのなら、味方になっていただきたかった」

 

 冗談めいて発言するジーレイだが、表情は険しい。その発言のせいか否か、次に人形が狙ったのは彼だった。

 冷たい刃が迫り来る。――しかし数秒後にジーレイが捉えたのは、飛散する自分の血では無かった。

 

「まさき……!」

 

 水色の長い後ろ髪が、ジーレイの視界を包むように広がる。幾度となく仲間のピンチに駆けつける白き背中の、なんと頼もしいことか。

 人形と鍔迫り合いながら、まさきは伝える。

 

「拙者の足に匹敵しうるは、拙者のみ。ならば、こやつは拙者が討とう。お主達は幹部を狙うのだ。複製を増やされれば敗北必至ぞ……」

 

「おっしゃる通りですね。そちらはお任せ致します。どうかご武運を」

 

「心得た……!」

 

 ()くして、まさきは自身のイービルスケッチに。ゾルクとマリナがナスターに。あたしとジーレイとソシアがメリエルに相対する図式が出来上がるのだった。

 戦いは激化していくが、あたしは決して諦めない。必ず、必ずメリエルを……!


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