Tales of Zero【テイルズオブゼロ 無から始まるRPG】 作:フルカラー
「フィアレは、なんのために生まれてきたの? なんのために生きてきたの……?」
どこかもわからない草原でゴシックドレスの少女――フィアレーヌ・ブライネスが寝そべっている。全体的に薄汚れており、左肩のエグゾアエンブレムはかすれていた。
「ママとパパが……思い出せない。助けてほしいのに。教えてほしいのに……。今まで思い出そうともしなかったのは、なんで? 総司令がフィアレの頭をいじくってたから? じゃあ、世界を壊したあともフィアレだけは助けてくれるって話も……嘘だったってわけ……?」
彼女を取り巻くお友達――
「みんな、喋ってくれないんだね。なにも知らないの? それとも自分で見つけろってこと……?」
ガヴィディンの門を開く生贄にされた事実が全ての答えだが、フィアレーヌは理解しない。
苛つきと悲しみと絶望が
西から東に向けて草原をふらふらと歩き続け、見えてきたのは……薄く黄色みのかかった石造りの堅固な外壁と、町を守る立派な門だった。
小さな歩幅を保ちながら門に近付くと、門番を務める銀の鎧兜の兵士二人が呼び止めてきた。少女一人で町へ入ろうとするのを見て、迷子が帰ってきたと思ったのか、不審者だと睨んだのか。
いずれにせよフィアレーヌにとっては
「あんた達、邪魔。……
なんの抑揚も無い言葉の後、自身の目前に武闘家の霊を召喚。突撃命令を下す。強烈なタックルを受けた兵士二人は、石造りの外壁にめり込むほど叩きつけられた。
訳が分からない状況だが混乱を抑え、フィアレーヌを脅威と認識した兵士達。職務を全うするため、痛みをこらえて外壁から抜け出そうとする。しかし鎧兜が引っかかっており思うようにいかない。
「しぶといね。だったら」
兵士達は恐怖した。逃げることも立ち向かうことも出来ない自分達の前で、脅威と見なした少女が不気味な呪文を唱え始めたから。
「
紫色の冷たいオーラがフィアレーヌを取り巻く。霊術発動の前触れである。彼女の霊術は詠唱不要のものが多いが、詠唱を必要とするものは規模や威力に秀でているのだ。
兵士達は霊術の特徴どころか、霊術の存在そのものやフィアレーヌの素性も知らない。けれども、ただひとつ把握できた。――自分達の恐怖が、死の直感へと変わったことを。
「ファントムプリズン」
二人を周囲の外壁ごと幽閉するようにして、霊力で作られた
残ったのは一部分を四角に切り取られた外壁。そして薄黄色、銀色、赤色、黒色が混ざった手の平ほどの立方体だった。それは間も無く、砂のように崩れ去る。
霊術の始終を見届けた彼女は眉一つ動かさず、外壁に開いた四角い穴を眺めた。
「さ、行こ」
「あ……ママ……パパ……! フィアレのママとパパだ……!」
天が徐々に赤く染まっていく中、人の多い大通りで見つけた。藤紫色の髪の女性と、空色の眼の男性を。
男女の間で手を繋いでいるのは、赤茶色の髪と若葉色の眼の幼い男の子。外出した帰り道なのだろう、ご機嫌である。
フィアレーヌは縦巻きにカールした藤紫色のツインテールを揺らし、あの親子を空色の眼で追う。死霊魂は否定するも。
「ちがうもん……ママとパパだし! 髪と眼の色がフィアレと一緒なんだよ!? あれママとパパで合ってるもん!!」
……元々、彼女は両親を知らない人生を歩んできた。しかしそのことは、とうの前にデウスがおこなった記憶の
霊術の影響で不安定な精神に、膨大な魔力と魂を無理やり注ぎ込まれてボロボロの身体。エグゾアでの調整も受けられなくなった今、限界を迎えたフィアレーヌの心は、もう……。
「でも、なんで知らない子と一緒にいるの……?」
背後からゆっくりと親子に近付いていく。
「……ああ、そっか。あいつがフィアレから盗ったんだ……」
自身の真上に、ぼんやりと白く光る球体を生成。そして狙いを定めると。
「ママとパパを……返せ!!」
迷いなく発射した。
白い光球の正体は、
彼は両親の手をすり抜け、威力のまま吹っ飛んで街路を転がる。突然の出来事に通行人がどよめき始めた。
手も足も首も有り得ない方向に曲がった男の子へ、両親が駆け寄る。何か叫んでいるが、
「なんでそいつをかばうの!!」
この問いへ、想像もできない返事が。
「ばけもの……? 消えろ……? なんで、ママとパパが、フィアレに、そんなこと言うの? ……なんで? なんで!? なんで!!」
彼女の
血溜まりの上で、動かない男の子に寄り添い涙ながらに激昂する両親には……無慈悲が訪れることになる。
「もうママもパパも知らない!! いらないっ!!」
あの両親の激昂を凌駕するほどの激情がフィアレーヌの正面で形を成した。数多の
「
撃ち放たれた巨大火炎球は容易く親子に届き、大規模の爆発を起こした。通行人や野次馬はおろか建造物も焼き、大通りは騒然となる。
「
周囲などお構いなしに、フィアレーヌは
惨殺の後、彼女は天啓を得たかのように呟く。
「こんな世界、壊そう。総司令が壊す前に、フィアレがぜんぶ壊しちゃおう……! きっとフィアレは、世界を壊すために生まれてきたんだよ……!!」
そのための方法を、言葉にしながら選定。
「どうしたら壊せるんだろ……。とにかくめちゃくちゃ殺せばいいかな? だったら、みんな殺して……みんなフィアレのお友達にしてやる!!」
混沌を招く霊術を唱え、実行に移した。
「心、魂、
‐Tales of Zero‐
第60話「独り」
俺達はケンヴィクス王国の首都オークヌスに、たった今到着した。夜となり街路灯が辺りを明るくしている。
しかし普段の穏やかな夜ではない。首都は大混乱の
街路灯よりも町中を照らしているのは、轟々と家屋を燃やす炎。離れた街路に横たわる多くの怪我人を発見しやすいほどだ。……中には、事切れた人もまじっていた。
「炎は着陸前から見えていましたが、ここまでとは……」
「あんたが落ち込むこたぁねぇよ。……しっかし、なんでこんな大惨事になってんだろうな?」
惨状を目の当たりにし、ジーレイは弱く零した。胸騒ぎを覚えた本人であるためか、間に合わなかったことが誰よりも悔しいのだろう。アシュトンは彼の気持ちを汲み、軽く肩を叩いた。
ケンヴィクス王国軍は出動済みのようで、各所で住民救助にあたっている。ならば俺達も、と付近で瓦礫の下敷きになっている人のもとへ急いだ。状況把握はまだだが、人命優先である。
「力作業はゾルクさん達に任せて、私達は治癒に専念しましょう!」
「りょーかい!」
「承知いたしました!」
ソシア、ミッシェル、みつね姫が救急処置を買って出た。男手で救出した怪我人達は、開けた安全な場所に集められていく。
「
「ラブリーな妖精さん! 看護しまくっちゃって♪ ナース!」
「
ソシアは服の胸部に備わった緑色のビットに念を込め、
ミッシェルは
みつね姫は
それぞれ得意の方法で、俺達が集め続ける怪我人を片っ端から回復。そして全員の努力の甲斐あり、この辺りでの救助活動は終わった。動けるようになった住民は次々に避難していく。
「アタイ達は向こうを見てくるよ!」
リフ達『漆黒の翼』の三人は、他に要救助者がいないか探すため別行動を開始。残った俺達は消火活動の手伝いに入ろうとした。
……が、その前に見つけてしまう。見つかるはずのないものを。
「あれは……! ひょっとしてフィアレーヌの!?」
「間違いありません。霊術の波長を感じます」
ジーレイはすぐに肯定した。
俺が捉えたのは、燃え盛る家屋の向こうからゆらゆらと不安定に現れた、人間の上半身を象った白い影――フィアレーヌがよく召喚していた霊だった。
しかも一つや二つではなく群れを成している。霊に物理攻撃は効く上、耐久力も無いが、そのとてつもない数は脅威と呼ぶ他ない。
死霊軍団は俺達に気付き、じりじりと迫る。視界から逃さず、まさきが述べる。
「あの霊能娘の仕業だとすれば、オークヌスの惨状にも合点がいく。しかし、奴はデウスと共にガヴィディンの門をくぐったはず……」
「確かに疑問だが、まずは霊を打ち消さなければ!」
マリナの言葉を受け、全員が武器を手に取った。
「にしても数が多すぎるな。こうなったら俺が壁になる!
いち早く発動したのは、しばらくの間ビットの魔力で身体をコーティングし、
「
次に繋いだのは、無創剣の腹を強く押し出し、目前に魔力の壁を生み出す剣技である。
壁は一定時間、その場に残る性質を持つ。連発することによって壁を広げていき、死霊軍団をその場に留めた。
しかし向こうの攻撃は多種多様であり、魔力の壁の隙間を器用に抜けるものも。壁役を引き受けた俺は狙われ放題となったが、
「回復の役目は私が! ヒール!」
加えて、ソシアが治癒に徹してくれるので倒れることもない。あとは痛みに耐えるのみ。
「みんな! 今の内に畳み掛けるんだ!」
俺は号令をかけたが、それより先に。
「これぞ
まさきが行動開始していた。
気を集中して真空の刃を身に従えると、魔力の壁を跳び越えて死霊軍団の真っ只中に降り立った。
「
袋叩きに遭うのでは、という懸念など微塵も抱かせなかった。
そして
「
今度は連続突きを繰り出し、刀を真っ直ぐ天に掲げる。その直後。
「
刀身に落雷を受け、余波の雷撃で周囲の霊を一斉に貫いた。
落雷はビットの魔力で作り出したものであり、まさき本人に影響は無い。それでいて全方位に雷撃を浴びせられる。
向こうもやられっぱなしではない。俺への攻撃をやめ、魔力の壁を乗り越えようとする霊が現れる。
けれども、それはマリナが見逃さなかった。
「迎え撃つ! スナイパーサイト!」
二丁拳銃内のビットに念を込め、自らの命中力と集中力を上昇させると。
「サイクロンブラスター!!」
左右の銃身を重ね、横倒れの大きな竜巻を生み出した。壁から身を乗り出した霊は
「討ち漏らしは、お任せあれ。
ジーレイは詠唱を必要としない接近戦用の魔術を選択。開いた魔本の背を手の平に密着させ、ページ側から刃を模した衝撃波を生み出した。剣のように素早く振り回し、魔力の壁を乗り越えてきた霊を淡々と斬り裂く。
「
ミッシェルも、近付いてくる霊達を相手取る。
「
しっかりと地を踏み、自身の頭上で大筆を回転させ、絵具の竜巻を纏った。マリナのサイクロンブラスターほどではないにしろ充分な威力があり、どの霊も巻き込まれ、弾かれ、静かに消える。
「かーらーのー!」
油断せず、次の技に連携。
「
踏み込みながら大筆を槍のように操って前進し、連続攻撃を仕掛ける。間合いを詰めてきた霊の群れを、文字通り叩きのめしていった。
並外れた数の死霊軍団だったが、掃討完了までに思ったほどの時間はかからなかった。チームワークの勝利と言えるだろう。
首都オークヌスを滅茶苦茶にしている霊は、まだどこかに残っているかもしれない。そして霊による被害を完全に食い止めるためには、術者であるフィアレーヌの居場所を突き止める必要がある。
「王国軍は救助で手一杯かもしれない。私達でフィアレーヌを探そう。奴が健在である限り、霊は際限なく召喚されるからな」
マリナの提案に皆、賛同。
動き出そうとした、その瞬間――
「探さなくていいよ」
「ここにいるから」
――全く違う方向から、全く同じ声が。
「フィ、フィアレーヌ!? いつからそこに……っていうか、二人いる!?」
俺は左右を何度も見た。
完全同一のゴシックドレスを着た少女が二人、片方は家屋の炎に照らされ、もう片方は夜の闇に馴染んでいる。
どちらも、さっきまで目に映っていた場所であり誰もいなかったはずなのだが……。
「これも霊術の一種、と考えるのが妥当でしょうか」
鋭い眼差しとなったジーレイが眼鏡の位置を正す。一人でも厄介な霊術師が分身できると知り、気を引き締めたのだ。
左右のフィアレーヌが、不快感を
「救世主達、いつも急に現れてフィアレの邪魔するよね。ここの人間、助けちゃだめじゃん」
「とどめ刺さないで、ほっとけば苦しみながら死ぬ程度に、わざわざ痛めつけたのに」
さらりと明かされた残虐なる行為。当然ながら俺は怒りに震え、拳を握った。
「どうして……この町を襲ったんだ!!」
彼女は素直に答える。
「……ぜんぶ壊すって」
「決めたから」
二人からドス黒く邪悪な気配が拡散し、俺達の全身を突き抜けていく。
「みんな……」
「殺すって……!」
「「決めたから!!」」
重なった音色。
それは心の底からの叫び。
これまで交戦してきた時に持ち合わせていた愉快さや無邪気さは、欠片も含まれていない。
「何やら鬼気迫るものを感じるが、二手に分かれざるを得ぬ。マリナ、ソシアよ。拙者と共に、いざ行かん……!」
「じゃあジーレイとミッシェルは俺と一緒に、あっちのフィアレーヌを!」
人員の振り分けは滞りなく決まる。
まだ炎が立ち昇る建造物を背景に、二人のフィアレーヌとの戦いの幕が切って落とされた。
余裕を失くした彼女は何をしてくるかわからない。皆、油断せず立ち向かうと誓った。
間髪を容れず、まさき達は目前のフィアレーヌへ速攻。けれども到達する前に。
「霊念、守護の陣! ガーディアンゴースト!」
霊術が発動。彼女は周囲に、槍騎士の守護霊を幾つも漂わせた。近寄る者を迎撃する術のようで、斬撃も弾丸も弓矢も防がれてしまう。
「やはり、そう簡単に決めさせてはくれないか」
初撃が失敗に終わる可能性を、マリナは感じていたようだ。デウスから道具扱いを受けようとも
「フィアレに応え、その力を発揮せよ! サモンパーティー!」
出た。兵士の霊を数多に召喚する、彼女の得意の霊術だ。守護霊が阻んでいるため詠唱は止められなかった。
先ほど六人で打ち消した霊も、この術で召喚されたもの。何度も発動されては、たまったものではない。
「
取り囲もうと企む死霊軍団へ即座に対応したのは、ソシアだった。夜空を目指すようにジャンプし、回転。ポニーテールを
「
更に回転。高く飛び上がりつつ四方八方に矢を飛散させ、締めくくりに強力な一矢を発射した。
この奥義による矢は全て追尾性能がある。白き霊を追いかけ、次々に射抜いていった。
「ふん。それならフィアレも使えるし!
矢に対抗し、追跡能力を有した炎球を生成。それも二つ。ソシアの着地の隙を狙い、前後から挟み撃ちにしようとしたのだ。
「やらせはしない! インパクトステージ!!」
カバーするのはマリナの銃技であった。
ソシアのもとへ駆け付けた彼女は両腕を交差して発砲し、魔力弾の代わりに振動の壁を生成。二度目の発砲は両腕を伸ばして行い、壁を正反対の方向へ同時に射出した。二つの炎球はかき消されていく。
「
フィアレーヌは止まらない。振動の壁が炎球を消し切る前に、闇の力を宿す大剣士の霊を召喚した。
まだ回避行動に移れないマリナとソシアを目掛けて、暗黒の大剣は振り下ろされてしまう。
「闇ならば、光で
先に見えたのは光の曲線。
「
風より速き、まさきの剣術である。
光の環は足下から振り上げられた刀の軌跡によって成されたもの。暗黒の大剣と激しくぶつかり合った末、相殺に成功した。
マリナとソシアは分散しながら。
「拙者は流れに乗る。後は任せたぞ……!」
まさきの意図を把握する。
「
彼は一瞬で空中へと移動し、高速で縦回転斬りを繰り出しつつ急降下。着地と同時に横一閃に薙ぎ払い、縦一閃を見舞った。
この連携をまともに受けて消滅したのは……フィアレーヌを取り巻く槍騎士の守護霊だった。
「そうしなきゃフィアレを攻撃できないもんね。でも、まだまだ遠い。……サモンパーティー!」
守護霊は他にも残っている。そして煽りと共に繰り返される、白い影の召喚。まさきはフィアレーヌを目前にして、死霊軍団の相手を余儀なくされる。
「
更に、追尾する炎球の雨が夜を塗り替えるように降る。けれどもソシアが正確な連射で、霊も炎球も撃ち抜いていった。
一方、マリナは意を決して走り出し、死霊軍団の隙間をかいくぐっていく。
「
……いや、かいくぐるだけではない。風と共にすり抜けつつ蹴撃を与えている。彼女の通った後に霊が残っていないのが証拠だ。
スピードに乗ったまま守護霊をすり抜けた直後。振り向き、風を纏った連続蹴撃で追い討ちながら再びすり抜けた。守護霊は耐え切れず消えていく。
「ちっ! じゃあこれは!?
フィアレーヌの苛立ちが鳴った後、
「くっ……動けません……!」
ソシアは弓を盾のように構えたが、焼け石に水。形のない闘気による全方位攻撃は身体を痺れさせる。避けようがなく防御もままならないのだ。
その場に縛られた三人を見て、彼女は勝ち誇ったように言い放つ。
「ここからはフィアレのターンだ!」
「
……即刻、否定されるとは思っていなかっただろう。フィアレーヌは表情を歪めた。
まさきは彼女の至近距離で縛られているのだが、策はあるのか?
「
無論、あるのだ。
身動き出来ずともビットに念じ、魔力を用いて目前に水の壁を生み出した。これにより、僅かだが闘気での痺れが和らぐ。
「うそ!?」
フィアレーヌの驚愕になど構わず、水の壁を刀で突き刺して凍結。自身の前方へと鋭く尖る、大きな
「れ、
「
判断が遅れ、霊術は不発。
炎を帯びた×の字斬りが、最後の守護霊ごとフィアレーヌを襲う。そして、まさきは刀を突き出して炎を噴射。容赦なく焼き、先に守護霊が滅んだ。
まだ終わりではない。まさきはビットを一つ両断し、刀に魔力を吸収させた。秘奥義、
「詰めは誤らぬぞ。出でよ我が幻影……」
声も出せないまま焼かれ悶えるフィアレーヌを、まさきとその分身が包囲した。
「
残りの死霊軍団を縦横無尽に成敗しながら、彼女を斬り裂く。じきに分身は消えていき。
「これぞ、
本体のまさきが、焼け焦げたフィアレーヌの
「むっ!? こやつは……!」
……だが、彼女は本物ではなかった。全身が白くなった後、他の霊と同様に消滅していく。
建造物の炎が照らすのは、三人だけとなった。
「分身体でありながら本物と同等の戦闘力だったな……」
「ゾルクさん達は遠くで戦っているみたいですね。無事だといいんですが……」
戦闘を振り返り、マリナとソシアは
「祈るしかあるまい。……しかし、とある
まさきだけは戦慄に加え、悪い予感を胸中に抱えるのだった。
あちらの決着がつく、少し前。俺達の戦いも大詰めを迎えていた。
「魔を
火事場から離れ、街路灯の明かりしかない夜の町並み。そこに緑色の輝きがいくつも増える。この戦闘中に三度目の、ミッシェルの
大筆で街路に描かれた魔導着達はすぐに身を起こし、飛び跳ねながら俺達の身体に張り付いた。魔術防御力が高まり、フィアレーヌからの攻撃の威力を軽減してくれるのだ。
やはり死霊軍団を何度も召喚され、ジーレイの魔術詠唱を妨害されている状況。けれど諦めはしない。
「突き進む!
俺は鋼体を得た後、エメラルドローブの効果に物を言わせて突撃。
「
無創剣を横に払って空間を斬り裂き、その場に三線の
「
その間に力を込め、無創剣を街路に突き刺した。すると前方直線上に複数の落雷が生じ、打たれた霊は否応なしに消滅する。だが、まだ多勢に無勢。
そんな中、夜の闇に相応しい、おどろおどろしい空気が流れる。
「名も無き亡霊の旋嵐。理不尽なる
紫色の冷たいオーラを立ち昇らせるフィアレーヌ。勝負をつけにかかったのだ。
しかし打つ手はある。今しがた俺が霊を減らしたので、ジーレイの詠唱時間は確保できた。
「全てを飲み込む灼熱の流動。熱き
騒がしき詠唱と静かなる詠唱の後。
「スピリット・オブ・ランページ!!」
「クリムゾンヴォルケーノ」
二つの大技が激突した。
片や一挙に無数の御霊を呼び出し嵐の如く相手を袋叩きにする上級霊術、片や溶岩の津波を起こして敵を飲み込む上級魔術。どちらも町中で発動するには強大すぎる。
死霊軍団は巻き添えを食い全滅。まだ救助できていない人や、壊れていない建物にも被害が及びかねないのだが。
「
そこはミッシェルが考えていた。
海色の魔法陣を巧みに描いて拡大。陣と同じ直径の半球状の光で、二人の術の影響を受けそうな場所を全て覆う。
ターコイズグラスパーは外部からの攻撃を一切無効化する防御の筆術。これで心配はなくなった。
対決している二人は無言で術の維持に専心。無数の霊の打撃と煮え滾る溶岩が押し合い続ける。
しばらく
「フィアレの霊術が……勝てない……!?」
彼女が悟ったとおり、二つの術はせめぎ合いの末、お互いを打ち消した。
「僕としても押し切るつもりでしたが相殺どまりとは。流石は霊術師。……ですが」
「俺達は一人で戦ってるんじゃないんだ!」
ジーレイの言葉を引き継いで、俺はエンシェントビットの魔力の操作に意識を集中する。ターコイズグラスパーに守られながら、秘奥義の頃合いを密かに見計らっていたのだ。
「力を解き放つ! うおおおお!!」
背から、一対の翼を連想させる魔力噴射を開始。莫大な推進力を得て空中へと飛び上がり、フィアレーヌに狙いを定める。
「……えっ!? 来るな! 来るな!!」
霊術の相殺に動揺していた彼女は、俺の接近に気付くのが遅れた。詠唱も防御も回避も頭に浮かばない。
「必殺奥義!
待ち構えるのは、敗北のみ。
「ぎゃあああああああ!!」
小さな口は裂けんばかりに開き、絶叫が夜の首都に響く。
超高速で飛来した無創剣の切っ先は、彼女の腹部を真正面から貫通。更に俺は勢いそのまま、小柄な体躯を街路へ叩きつけながら着地した。……その直後。
「あっ!? フィアレーヌが……!」
彼女の全身は白く染まり、刺さった無創剣を通り抜けるようにして……先の霊達と同じく消えていった。
「ってことは、あっちが本物だったのね。……あ~、とりあえず疲れたわ~……」
ミッシェルは汗を拭い、一息ついた。そこへ。
「いいや、そう単純な話ではない。拙者の憂慮、的中してほしくはなかった……」
まさきが難しい顔をしながら現れる。マリナとソシアも到着した。
「みんな! 無事だったんだな!」
「ああ。だが、してやられたぞ。こっちのフィアレーヌも分身体だった」
「なんだって!?」
俺の安堵はマリナからの報せによって崩れ去る。
早く本物のフィアレーヌを見つけなければいけないのに、この広い首都のどこにいるのか見当もつかない。
悩み始めて間もなく『漆黒の翼』も合流してきた。色々あったのか息を切らしている。
「お前ら、こんなところで油売ってやがったか! こっちは霊の兵士がわんさか出まくって大変だったんだぜ!?」
「わたくし達は救助活動の
「きっと
アシュトンもみつね姫もリフも、別行動中に霊と戦っていたようだ。そして貴重な情報も運んできてくれた。これはお手柄である。
「ということはケンヴィクス城で悪さをするために、分身体を作り出したのかもしれないな」
「えっ、分身!? マリナ達もフィアレーヌに気付いてたのかい!?」
「気付くどころか、その分身体と交戦していたんだ。そして本物をどうやって探すか悩んでいたところだった。リフ、恩に着るぞ」
「い、いいってことよ! …………まだちょっとぎこちなくなっちまうけど、やっぱ、悪くないね」
マリナからの感謝に慣れきっていないのか、海賊帽で顔を隠すリフであった。
全員集合し、目的地も定まった。あとは。
「よし、ケンヴィクス城に急ごう!」
俺が先導して、燃える首都を駆け抜けるのみ。
……フィアレーヌの分身体は「みんな殺す」と発言していた。あの迫真さから察するに、想いは本物と同じはず。
最悪の事態にならないよう、ただ願った。