Yは混乱していた。予備校帰りの下り坂、そういつもの下り坂をチャリで下り、駅に向かっている時だった。住宅街を貫くこの下り坂の突き当りには線路に沿って進む道があるがこの時間帯の交通量はそれほどでもなく、さらにT字路には安全の為にミラーも完備されていた。下り坂自体もそれほど急でもないし、たとえブレーキが壊れても足で踏ん張れば止まれないこともない。だからYもこの下り坂は安全なものと思っていた。
だが、不運なことに事故は起こる。警察車両に追いかけられた違反車両が坂道につながる一方通行を逆走してきた時、Yは自転車ごと跳ね飛ばされ、街灯の鉄の支柱に叩きつけられていた。
そして今、Yはとあるアパートの一室と思われる場所にいた。Yは辺りを見回した。猛スピードで突っ込んできた車に撥ねられ、街灯の鉄柱に叩きつけられても生きていられる人間はまずないはずだ。なのに自分が生きているということは常識的に考えて、自分は病院に運ばれ奇跡的に一命を取り留めたのだ。と、そういうシナリオがYの頭の中に浮かんだ。
「どこや・・・ここ」
しかし、何度見まわしてもここは病室には見えない。ベッドどころか家具の一つすらない・・・いや、一つだけあるとするならば部屋の隅に佇む巨大な黒い鉄球、それがあるだけだった。
また、何よりも異様なのが「瀕死の重傷を負った」はずの自分が、なぜかピンピンしているということだった。事故で負った痛みどころか、先日の突き指の後の違和感すら残っていない。
「なんやねんこれ」
Yはがっくりと肩を落とし、とりあえず帰ろうと思って後ろのドアに手をかけた。が・・・
ツルッ!
「は?」
ツルッツルッ!
「なんやこれ・・・触られへん。超電磁バリアか?」
Yの背に一瞬ひやりと汗がにじんだ。Yはベランダへと続く窓に手をかける。しかし、ここもドアノブと同じように触れることが出来ない。残るはあの球の後ろのドアだけだ。
「これ・・・何分か出られへんかったら、あの球に押しつぶされるとかちゃうやろな」
床にスイッチとか赤外線センサーとかであの球が動きだしたりしないだろうなとYは不安になった。が、黒い球はYの予想を超える動きをした。
ジジジジ!
「な、なんやのん?」
何の前触れもなく、黒い球は白いレーザーのようなもので宙を焼いてゆく。そのレーザーは立体ガラスの中に3Dモデルを描くかのように虚空に実体を呼び出した。
「ヒトが出てきよった」
~~~~
黒い球のある一室、そこは静まり返っていた。集まった男女はYを含めて8名。全員が全員この空気を破るのを恐れるように沈黙し、床に座り、壁に背を預け、他のメンバーと目を合わせないように目を伏せている。
ジジジ!
何人かはピクッ!と玉の起こす現象に困惑したように宙を凝視する。Yは一瞬顔を上げ、背後のドアノブに手を伸ばす。幾人かは玉の「描画」を無視して、Yの行動を注視したが、Yの手がドアノブを回すどころかドアに触れることさえできなかったのを見てまた目をそらした。その顔には不安と焦燥と、ほんの少し安堵が混じっていた。
「はぁ・・・」
Yはため息をつく。玉が何か作業中ならば、扉のバリアが解けるではないかという希望的観測は失敗に終わった。Yだけではない。ドアや窓の近くに座る者たちは皆、何かの拍子にこの拘束が解かれるのではと、誰よりも早く脱出できるように位置取りしていた。そして、それぞれの予想に従って脱出を試み、あるいは他人が失敗するのをみて取り残されずに済んだことに安堵しているのだった。
パキッ!パキッ!
狭い部屋の中に爪を切るような、あるいは骨を砕くような音がした。Yが、いや部屋中の人間は何か少しでも合図があれば反応できるようにしていたので、全員が全員自然と今「現れた」少女を見つめた。
少女の姿は一見すると普通だ。どこにでもいそうな少女だった。だが、その目は血走り、その視線は食い入るように黒い球に注がれていた。少女は親指の爪を噛み、その指先からは血が垂れていた。左手には血がべったりと付いた包丁を握っている。
ジジジ!
ほどなくしてもう一人この部屋に呼び出された。今度現れたのは背の高い長髪のイケメン男性モデルのような女性だった。年のほどは分からない。全身のボディーラインを見せつけるように、体を奇抜な黒いラバースーツで包み、さらにその上から艶消しのこれまた黒いラバーのような長いコートを羽織っている。ちらりと見えたコートの中には明らかに銃刀法違反になりそうなサバイバルナイフや鉤付きロープ、さらにはハンドグレネードまで入っていた。
「(なんやこいつら)」
背の高いイケメンの女性は、一人ぶつぶつと呟いている少女を一瞥すると懐からライターを取りだし、煙草に火をつけ大きく一服した。最後に現れたこの異様な二名に圧倒され、Yと他の7人は言葉を失っていた。
「あ、あの・・・」
壁に背を預けていた一人の女性が立ち上がり、煙草を吸う人に声をかけようとしたその時、
ゴーンゴーンビヨンドゴーン・・・ゲートゲートパラゲート・・・
「?!」
それまで沈黙を守っていた黒い球が異様な唸りを上げた。Yは突然の音に驚き、玉の裏側から前へと飛び出した。
ジキジキジキジキ!
振り返ったYは驚く。何かを削るような音とともに、黒い球の前面に文字が、文章が表示された。
「(パワリオワー!おお、ナムアミダブツ!モータルの命はかくも軽いものか!なんたるマッポー!しかし、ごあんしんください。あなたたちはフカツしましたキャバーン!これは実際スゴイ!これはたいへんなことだ。わかるね?だからこれから君たちは古代のグラーディエータ―のように戦ってもらいます。これは規定事項だ!決断的に武器を取りたまえ!)」
「なんやこれ・・・びっくりマーク多すぎやろ」
Yが表示された文章の意味をはかりかねている間に、その表示は消え、新たに奇妙な似顔絵と説明文が表示された。
「(君たちはこいつらをしめやかにケジメして回ってください。 キモオタ星人 特徴 キモイ くさい つよい 好きなもの ょぅι゛ょ 口癖 フーッ!フーッ!)」
「(はあ?なんやのんこれ)」
バシャ!
Yが理解する暇もなく事態は進展してゆく。今度は黒い球自体が開き、中から奇妙な黒い銃のようなものと白いケースが飛び出してきた。さらに、玉の中には人がいる。Yはもう吹っ切れていた。人がいようが、その人に触れることが出来なかろうが、この銃とケースが玉の中に入っていたのだとしたら人が入るスペースは無いだとかそんなことはどうでもよかった。
「(だからこれから君たちは古代のグラーディエータ―のように戦ってもらいます。これは規定事項だ!決断的に武器を取りたまえ!)マジやっていうんか。これ。」
Yは奥歯をかみしめた。そして自分の物と思われるケースを手にし、大きな銃と大きな銃に似た小さな銃と、奇妙なY字の銃を掴んだ。深爪の少女は何の迷いもなくケースから黒いラバーの衣服のようなものを取り出し、周囲の目を気にせず部屋の真ん中で着替えだした。Yは慌てて白いケースを開けると、そこにはやはり黒い衣服が。
ハッとしたYは、背の高い女性が小さな少女の奇行に目もくれず、黒い球の後ろのドアを開けてその中に入ったのを見た。あの女性の分のケースは玉の中には無く、あの女はここに来た時既にこの黒い服を着ていた。
「ンっだよ!クソが!知ってんじゃねーか!」
おそらくあの女とこの少女は、少なくともこの部屋の最低限の原理は掴んでいる。そう、知ってて教えなかったのだ。それは何のためか?単なる怠慢だろうか?いや、それにしてはこの部屋は異常すぎる。Yたちが生きている日常とは技術力が違いすぎる。ならば、ついてゆくしかない。
Yは、玉の裏の部屋の戸が閉まる前にその中へと身を滑り込ませた。
「あ゛ー!クソ!」
Yは舌打ちした。玉の裏の部屋、そこには見慣れぬ乗り物のようなものと、長いグリップのついた先が奇妙な鈍器が転がっていた。男性モデルのようなイケメンの女性は、何食わぬ顔でその乗り物にまたがり、コートのポケットには一本の謎鈍器を刺していた。
女性は飛び込んできたYを一瞥する。
「おい!あんた!」
Yが女性に声をかけようとした時、女性はまるで出現時の逆再生のように乗り物ごと空中へ消えて行った。扉の向こう側でも奇妙な悲鳴が聞こえた。
「(キモオタ星人狩りまで、もうあまり時間がないのか!?)」
Yは奇妙な衣服に袖を通し、その上から衣服を着て武器らしきものを両手に抱えてフルホイールマシンに飛び込んだ。それとYが戦場へと飛ばされるのはほぼ同時だった。
~~~
「ここは?」
Yが辺りを見回すと、そこは住宅街だった。この場所は知らなくもない。建売住宅の形と、街のつくりから見ていつも通っている予備校の近くの団地のどこかだろう。
「ああ、やっと出られた。なんだったんだ?」
Yが振り返るとさっきの部屋にいた7人の内男女4人、そしてあの少女が立っていた。少女は手元の機械を操作している。
「帰れるんですかね?」
「さあ?っていうか俺ら死んだんじゃねーの?」
「あ、あの。あなた方も・・・死んだんですか?」
「ああ。じゃあ、あなたも?」
4人はさっきお互いに押し黙っていたのが嘘のようにお互いに情報交換し始めた。Yは、その会話を聞きつつも、とりあえず持ってきた武器、のようなものを調べ始めた。
「(この小さいのと大きいのは銃口?の形が同じだな。小さい穴が同心円状に?細かい弾でも出すんだろうか?超近距離用の散弾銃?このY字のやつは何だ?射出口の様なものが3つ?でも弾倉は?一回限りで3発発射?分からん。このトリガが二つっていうのもよく分からないな。それにこの・・・これなんだ?丸い奴の上に菱形の切れ込み、それにこれはスイッチ?あの乗り物もよく分からんな。モニターみたいなこれはGPS?倍率と、機能切り替え?28:21、二十八分?っていうか帰ってもいいのか?)」、
Yが持ってきた品々を触っていると、4人の中の一人が声をかけてきた。
「あの、君さ。ちょっと悪いんだけど。」
「何や?」
「えっと、君ってあの二人とおんなじだったりするの?」
「っていうと?」
「いや、こんなこと初めてでさぁ、なんか銃とか持ってきちゃったんだけど。返すにはどうしたらいいのかなーなんて」
「・・・いや、知らんし。こんなん初めてやったから、なんか知ってそうなあの二人の真似してただけで」
Yがぽつりとつぶやくと、その若い男は少し焦ったように答えた。
「あ、あはは。そうなんだ。じゃ、じゃあ帰っていいのかな?」
「さあ、分からん。けど、あの玉の技術力的に下手なことは出来ひんと思う」
「でも、これなんておもちゃでしょ?なんか安っぽいし」
「分からん」
この男はYに多くを求めすぎていたようだった。自分と同じくYも何も知らないのだと知った男は、Yに勝手に希望をかけておきながらYに裏切られたと感じていたのだった。
「はーっ。話にならないね。もういいや。みんな、帰ろう!」
そう言って男は残りの3人を連れてゆこうとした。
「リア充氏ね!」
「え?」
バシャ!路地裏から出てきた何者かの影が、若い男に白い液体をぶちまけた。
「アッー!アア゛ア゛ア゛!」
のた打ち回る若い男、その体は見る見るうちにぐずぐずと溶けてゆき、若い男は死んだ。Yは全身に冷や水を浴びせられたように血の気が引いてゆくのが分かった。
「キャッ!キャアぁああアアああ!!」
目の前の非現実的な、けれど現実を目の当たりにした若い女が叫ぶ。
「(キモオタ星人!マジだった!)」
路地裏からぬっとあらわれたのは、異臭を放ち、脂ぎった髪に太ったからだ、チェックのシャツに丸渕メガネ、ポスターの様なものが突き出たリュック、はちきれそうなジーパン、そして右手には美少女フィギュア、左手は下半身の汚いイチモツを握っている。
咄嗟に銃を構え、トリガーを二度引くY。しかし、トリガーはカチカチと音を立てるだけで銃からは何も出ない。キモオタ星人は左を振り返り、委縮し始めたイチモツから手を離して背にしたリュックに刺さるポスターを抜き、信じられない速さでYに向かって振りぬいた。
「惨事は氏ね!」
「ぐあっ!(クッ!なんでや、トリガー引いたやろ!?)」
ボスター状の棒は激しく振動していた。まるで大リーガーに金属バットで殴られたような衝撃がYを襲う。吹き飛ぶY、しかし、不思議と痛みはなかった。Yは空中で一回転し、地面に足から落ちる。
「(これ、足折る!)」
ブシュ!
着地の一瞬前、なんとYの履き替えた靴からエアーが噴出し、Yは足を痛めずに着地できた。
「(痛くないし、着地も?この服すげぇ。でも軍製品?とかでも聞かんよな。これもなんたら星人の技術とかやったりするのか?)」
ボトッ!
何かの落下にYは顔をしかめた。顔に生ぬるいしぶきがかかる。血だった。飛んできたのは切り落とされた腕だ。Yの前数メートルでサラリーマン風の男が腕を切られてうずくまっていた。もう一人の男とさっき叫んでいた女は逃げ出したのかもういない。キモオタ星人は男にとどめを刺すべくポスター型の振動兵器を振りかぶっていた。
「クソ!キモオタ星人ッ!」
「キモオタ?!」
Yは駆けだす。キモオタ星人はキモオタというワードに反応したのかYの方を振り向いた。
「おらぁ!」
スカッ!
Yは力任せにキモオタ星人を殴りつける。が、あっさりと躱されてしまった。
「んんー。速さが足りませぬな。振りも大きい。見え見えですぞ」
「だまれキモオタ野郎」
「んっんー!いけませぬな!人をキモオタ呼ばわりとは!氏になされ!」
「ガッ!」
キモオタ星人はまたも素早い薙ぎ払いでYを弾き飛ばす。だが、Yは無傷だ。
「ほほーう。この手ごたえなにやら阻害される様子。強化系いや、結界系の能力ですかな?」
「(やっぱりだ。また耐えられた。でも何回も持つとは限らんよなこの服。それよりあのリーマンがヤバい。早く何とかしないと)」
「無視はいけませんな。傷つきましたぞ?」
数メートル弾き飛ばされたYに向かって歩みを進めるキモオタ星人。
「(接近戦は圧倒的に不利。じゃあ銃器はどうかって言っても何も出ないし。いや、そうか?このおもちゃみたいな服でもこの効果だ。単に使い方が間違っているだけじゃないのか?)そうか!」
ギョギョギョーン!
「!?(開いた!?なんか出たっぽい?)」
Yが銃を構えたのをめざとく見つけたキモオタ星人はさっと横に避けた。
「んんー。射線が見え見えの素人の射撃なぞ当たりませぬぞ」
「どうなんやろな(やっぱし外したか?)」
ババッバン!!
「オウフ!」
不意にキモオタ星人と背後の壁が弾けた。
「よし(やっぱ上はロックオン、下がトリガか。多重ロック可能の遅延爆破?いや、レンジでボン!的な?マイクロ波砲とかメーザー砲?ロックさえ出来ればあとは光の速さなら避けられないか)」
どさりと倒れるキモオタ星人。Yは自分がこのヒトのような生き物、あるいは奇妙な武装で人を襲う人間を殺した自分に一抹の嫌悪感を覚えた。しかし、今はそれどころではない。
「おっさん!大丈夫か!」
「ううっ痛い痛い・・・」
弱弱しく呟くサラリーマンの周りには血だまりが出来ていた。
「結ぶもの結ぶもの!!」
Yは手早くサラリーマンのベルトを引きちぎり、ちぎれた腕にぎゅっと巻きつけた。少しやりすぎた様子はあるが血はぴたりと止まっている。
「(ベルトちぎっちまった・・・怪力に衝撃バリア、それにエアーか。この服を着てるかどうかで生死が分かれるな)おい、だいじょうぶか?」
「うう・・・」
失血にはどうしたらいいのか?若い男の顔は出血で蒼白になっていた。
「(ヤバイな。顔面蒼白・・・酷いインフルで死にかけてる奴みたいだ。って血がなくなるっていうのはとりあえず脱水ってことか?)」
Yは飲むものをと鞄から清涼飲料水を取り出してリーマンに飲ませた。リーマンの鞄にもペットボトルのお茶がある。水分さえ補えば血球は足りなくても出血によるダメージはましになるかもしれない。
「ごほっごほっ!」
「おい、だいじょうぶなんか?!」
むせるリーマンは残った手で必死になにかを指差すように動かした。
「う、うしろ」
「?!」
Yは後ろを振り向く。そこにはさっき倒したはずのキモオタ星人が元気な姿で立っていた。
「んんー。覚醒イベントとは不覚をとりましたぞ。さあ、第二ラウンドです」
何食わぬ顔で立つキモオタ星人は挑発するように腕を広げた。右手にはフィギュアをもったままだ。余裕のつもりか?
「さあ、せっかくそちらも剣をお持ちのようです。一騎打ちと行きましょう」
「・・・(剣?ってなんだ。この鈍器か?たしかにグリップが・・・!柄と鍔か?!それにこのスイッチ!)」
Yはおぼつかない手でグリップをつかみ、スイッチを押した。すると、何の金属で出来ているのか分からない黒い刃が生えてきた。明らかにグリップには収まるような長さではない。しかも、長さはスイッチを押す時間によって調整できるらしかった。スイッチの奥側と手前側のどちらを押すかで伸縮は自在のようだ。
「これ、剣やったんやな。助かったわ。使い方わからんかったんよ」
「ふむ、それは敵に塩を送ったということですな。テラ紳士!しかし、貴殿。ニッチなキャラ設定ですな」
「・・・(うぜぇ)」
カチャッ!
「(剣の使い方はあんまし分かんねぇ。でもまあこれも結構丈夫に出来てるだろうからポッキリ逝ったりしない・・・はず。折れてもまたカッターみたいに伸ばせばいいし。でもなるだけ早く決めないとリーマンの兄ちゃんがヤバい)」
~~~
「ンアッガ!(クソ!何回切lりゃいいんや!)」
Yが受けた打撃は既に5発。それでも、戦いの中でスピードに慣れてきたYはスーツの補助もあってキモオタ星人についてゆくことが出来た。Yが切りつけた回数は3回、キモオタ星人は何故か左側からの攻撃に弱かった。だが、切っても切ってもキモオタ星人はスライムのように再生してくる。Yは限界が近かった。
「フーッ!フーッ!なかなかしぶといですな」
キュウウゥン・・・
「!?」
ガクリとYは体から力が抜けるような感覚に襲われた。さっきまで感じられなかった剣の重さが腕にのしかかってくる。
「ほう。いよいよMP切れですかな」
「クッ!(スーツが?!こいつが言うてるみたいにMP切れなんか?っていうかキモオタ星人強すぎやろ。何か弱点とかないのんか!)」
「いいですぞ。その悔しそうな顔。絶対的な強者というのは気持ちがいいですな」
ヒュガ!
「ガッ!」
急に伸びたブレードがキモオタ星人のにやけた脳天を貫いた。咄嗟の判断でYはソードの柄についたスイッチを押したのだ。
「んんー。あぶないあぶない。こちらもギリギリですぞ。惜しかったですな」
「クソ、何やねんお前!」
キモオタ星人は刃が刺さったままの頭をYに向けて強烈な力で押し付ける。スーツの力を失ったYは柄を握って自分を押し倒そうとするキモオタ星人を止めるのが精いっぱいで、身動きが取れない。
「ンフフ。ぶっかけプレイですぞ」
キモオタ星人はポスター型の振動兵器を捨て、ムクムクと膨張するイチモツに左手をかけた。
「クソデブが!(剣を離したら押しつぶされ、早く何とかしないとさっきの若い男みたいに無残なことに。それだけはいやだ)」
「ウッ!イキますぞ!」
「(万事休す!?)」
ギョギョギョーン!
「?!」
「なんですと!」
「きたねぇもん・・・みせんな」
息も絶え絶えな若いサラリーマンは先ほど溶かされた若い男が落とした銃を構えていた。
「くっもうちょっとで、あふぅ!」
バババン!
キモオタ星人の脂ぎった体が弾けた。Yは咄嗟に顔を庇う。
「はぁーっはぁーっ」
「大丈夫かおっさん」
「大丈夫じゃないし、おっさんじゃない」
リーマンは肩で息をしているが、顔色は少しましになったかもしれない。
「やったのか?」
「・・・いや。」
キーキー!
飛び散った血と脂の塊の中から、キモオタ星人が戦闘中決して離そうとしなかったフィギュアが這い出してきた。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花ってな。タネが分かればつまらないもんだな」
キー!アガガッ!グゥ・・・
「踏み付けだけだと再生するか?」
ギョーン!
「(なるほど。後生大事に右手に持ってたやつの方が本体で、キモイ方は回数制限の再生持ち高機動のヒューマノイドってことか。左からの攻撃に弱いのも納得やな。あのデブッぱらやったら左側は見えへんもんな)」
ババン!
「これで終わりなのか?」
ピッピッ!
「いや・・・まだ5体もいるっぽい。」
「俺、死ぬのかな」
ヒュイイイ!
力を失っていたスーツに再び活力が戻る。どうやらこのスーツにも耐久力の様なものがあり、酷使しすぎると一時的に機能がマヒするらしい。だが、しばらく安静にしておけばある程度は回復するようだ。
「いや、とりあえずおぶってくわ。このレーダーがあればあいつらを避けられそうやし」
「すまない。止血してくれたりとか助かる」
「いや、ええねんて。さっき助けてくれたやん。お互いさまや。しっかしほんとうに宇宙人が居るとは・・・」
~~~
ピンポロパンポンピンポロパンポン!
「・・・なあおっさん」
「・・・アラーム?かな?正直弱ってるのにこの音はキツイ」
「なんやおかしない?道歩いてる人こっちに全然気づかへんし」
「ああ。やっぱ俺たち死んでるのかな」
「いや、死んでるんやったらあんたみたいに死にかけへんって」
「ああ。そうだな」
ガサッ!
「!?」
サラリーマンを背負ったYは不意に揺れた茂みに驚き、飛びのいた。
「あ、ああ。」
出てきたのは先ほど逃げた女性だった。
「なんや。あんたか。どないしたんな」
「あ、あたま。あたまがパーンって」
「は?」
女性の指差す数メートル先、そこにはさっき逃げ出したもう一人の男が横たわっていた。何かに吹き飛ばされたように頭がない。
「キモオタ星人・・・か?」
「あんま無理すんな。なあ、なにがあったんや?」
「あ、ああ。逃げてて、逃げてて頭から音、音がして。大きくなったと思ったら、バン!って止めようって言ったのに。私、私じゃない!あああああああ!!!」
「おい!ちょっと!」
錯乱し、前後不覚になったその女性は遮二無二駆け出した。そして幾歩も進まぬうち、その頭が破裂した。
「おいおいおい!!なんやこれ!(頭に爆弾?シャレにならへんで!)」
ギリッ!
Yは歯をかみしめた。
「グラーディエータ―・・・あの玉の言うことを聞かんかったら死ぬ。敵と戦って殺されても死ぬ。逃げ場はない。そういうことなんやな」
~~~
「おっさんここで隠れとき。ほら、ホットのお茶とポカリ。辛いやろうけど多分あいつら倒したら病院いけるやろうから」
「ああ」
がんばれと声をかけるサラリーマンを背に、Yは駆けだした。レーダーに映る敵影は4。一番近くのは・・・
「(あの家?!ええい!どうせ見えてないんだろ?!)」
ダンッ!
強化された脚力がYを空中に運ぶ。Yは開け放たれた民家の窓に吸い込まれるように飛び込んだ。
~~~
「侵入者発見。排除開始」
「お前も『星人』か?人間やないんやな?!」
どこかデフォルメされた特殊部隊員のような恰好をした男がアサルトライフルのような銃器を構えた。腕章にはNEET-自宅警備員-と書かれている。
ドドドドドドド!
「(弱点は、本体はどこや?)」
いきなり発砲してきたNEET星人の射角外に逃げるように、Yは狭い屋内の壁を蹴って移動する。
「(確かに、射線さえ見切れば避けられへんこともない!けどあのライフル何発撃ってるんや弾切れなしか?!)」
ドゴッ!
避け回りつつ一撃を加えようとしていたYは、突然の衝撃にたじろいだ。YとNEET星人が戦いを繰り広げていた部屋の壁が弾け、辺りがもうもうとした砂ぼこりに満たされる。
ビシッ!ビシッ!
「グッ!(なんやなんや?!一体)」
銃弾が制服を貫いてスーツに達する。弾丸はスーツを貫くことはなかったが、少なくない衝撃がYの内臓を揺らした。もうもうと煙が舞う中、NEET星人はYに狙いをつけた。
ガンッ!
「(あれは?!)」
しかし、NEET星人はYを撃つことは出来なかった。土煙の中から飛び出してきた黒い影がNEET星人を殴り飛ばした。NEET星人の首がヘルメットごと千切れとんだ。
「おま、お前は・・・さっきの」
NEET星人を殴り飛ばしたのは先ほどあの部屋で爪を噛み、血濡れの包丁を掴んでいた少女だった。千切れとんだNEET星人の頭はドロリと溶け、体にくっつくべく流れ出し始めた。
「おい!キモオタ星人はなんか人形みたいなちっさい奴らや!人型の奴らは再生する操り人形やで!本体をねら・・・」
Yに向かって振り向く少女はまるで壁に穴をあけただけのような顔をしていた。無表情というだけではない。その向こうに、壁の向こうにはもっとおぞましいものがたぎっているようだった。
「で?」
ドゴッ!ドゴッ!
「・・・(こいつ、なんなん。確かに再生する前に殴れば、再生する以上の攻撃を加え続ければ相手は何も出来ひんし、その内本体に当たるんやろうけど。)」
戦慄するYをよそに、少女は肉塊になってもまだ再生を続けるNEET星人を殴り続けていた。星人よりも少女が怖くなったYはさっさとその場を後にした。
「(まだ4つともActiveって、一つはあのリーマンの方に!?反応が消えた?)とりあえず戻るか?」
~~~
ダッ!
「よ、よぉ・・・」
「おいおい。大丈夫かよおっさん」
「だめ・・・かも」
帰ってみるとおっさんは体のあちこちが切り裂かれたようになっていた。その原因はYにもすぐ分かった。
「倒したんか?たった一人でスーツも無しに?」
「あ、ああ。握手券の・・・余りのCD投げつけてくる・・・オタク野郎なんてこれでイチコロだ・・・」
サラリーマンの脇には銃で粉々に砕かれたフィギュアを集めようとしているかのように息絶えたキモオタ星人のボディが横たわっていた。リーマンの腹には何枚かのディスクが突き刺さっていた。
「すまんかった(ここに残っていれば・・・こんなことには)」
「いや、仕方ないよ。こればっかりは。っくゴホッ!ゴホ!・・・早く残りのも始末してきてくれ」
「ああ。分かった」
~~~
残るキモオタ星人は3匹だったが、Yが移動している最中に2つの反応が消えた。後一匹。
ドーン!
「?!(あそこは?最初のキモオタ星人が出てきた辺り?)」
最後のターゲットに向かうYの視線の先、およそ100メートル先の民家が爆発した。爆炎を上げる民家のそばから黒い影が飛び出してきた。
「あんたらは!・・・クッ!」
Yは喉元から出かかった言葉を飲み込んだ。知っていたとしても彼女達もYやあのサラリーマンと同じく、命を他人に握られたグラディエーターなのだ。なぜ初めに説明してくれなかったのだと、文句を言うべきなのは彼女達へではない。
燃える民家の火を受けて、飛び出してきた長身の女性は黒いコートをマントのようにたなびかせた凛々しい戦神の彫刻のようだった。
「来るよ」
と女性はコートから二本のダガーナイフを抜いて構えた。
「・・・(マジかよ)」
Yは小型銃と刃を短めにした刀を逆手に構える。
ギギギギィ・・・バタン!
焼けた民家の扉がこちら側に倒れ、中から人影が現れた。
「(さっきの爆発は大方この女の多分何発かの手榴弾・・・やと思うけど・・・こいつ再生にしても強すぎへんくないか?それに見た目が今までで一番ヤバイ)」
「おおおお・・・」
民家から出てきたのは裸にエプロンだけの少女のような星人だった。その乳房は異様に大きく。そしてその股間には本来あるはずのない巨大なイチモツがそそり立っていた。Yは腹の底から湧いてくる嫌悪感に思わず吐きそうになった。
「おおおちんぽぉ・・・」
「キモッ・・・」
ふとYの口をついて出たのは嫌悪の言葉だった。
「どーして?」
「?!」
最後のキモオタ星人はYの目の前まで来ていた。Yは全く反応できなかった。
「どーして?」
ゾクッ!
Yはこの異様な存在に、まるで蛇に睨まれた蛙のようになすすべなく圧倒された。Yは死を感じた。
「だ、だって。おかしいやろ。お、女の子にちんちんやて」
「えー?でも男の娘っていうんだよ?大人気なんだよ?」
最後のキモオタ星人、男の娘星人はいきり立ったイチモツをYに摺りつけてきた。ゴクリとYは唾を飲んだ。恐怖感でのどがカラカラだった。しかし、話し続けなければ殺されるという確信もあった。
「でも見た目は、見た目は女の子やんか。それやのに男やて・・・いい訳やろ?女の子が怖いから、見た目女の子でも男やから大丈夫って。結局はホ・・・」
男の娘星人の顔が歪み、イチモツがピクビクと痙攣し始めた。
「(終わった)」
ド・・・ドガ!ドビュッジューゥ!
「?!」
男の娘星人は吹き飛ばされていた。さっきまで男の娘星人がいた場所にはスーツを着た少女が立っていた。男の娘星人が放った汚物はYの左のアスファルトをドロドロに溶かしていた。
「あっ!」
ダン!
Yが少女に礼を言う前に少女は男の娘星人に飛び込み、さらに打撃を加えようとする。
スカッ!
「ひどいなぁ顔に傷がついちゃう」
しかし、少女の拳は男の娘星人には届かない。男の娘星人はまるでワープでもするように少女の連撃を躱してゆく。
スカッ!スカッ!スカッ!
最初に当たったのが嘘のように少女の拳は空を切る。
「クソッ!」
ギョーンギョーン!
Yはワープする男の娘星人の移動直後を狙って小型銃を連射する。当たるとは思っていない。責めてけん制できればという思いであった。
ババン!
「あうっ!」
「効いた?!」
ドゴッ!ヒュンヒュン!
Yの一撃に加えて少女の拳が男の娘星人を殴り飛ばす。だが、追撃は全て躱されてしまった。どうやら完全に回避できるのは一方向からの攻撃のみらしかった。
ブオン!キュキュキュ!!
「なっ!」
ドゴン!
Yが驚くのも無理はなかった。先ほどから姿をくらましていた長身の女性が戻ってきたのだ。それも、わざわざ気付かれないように塀を乗り越えて。ホイールバイクに乗って。
「うっ!アガガが!」
まさかのひき逃げアタックに、さしもの男の娘星人もノーダメージでは済まないようで、タイヤに押しつぶされ醜く歪んだ顔のまま立ち上がった。
「(チャンス!)ッつらぁ!!」
スパァン!
間髪入れずYが引き伸ばした刀で男の娘星人の胴体を切り裂く。男の娘星人の切り裂かれた胴体がYの方を向く。
ドドン!!
バランスを崩した男の娘星人に少女が連撃を叩きこむ。男の娘星人の目が少女を捉える。
ブゥン!!
恐るべきライディングテクニックで長身の女性が男の娘星人の上でバイクをスピンさせる。男の娘星人はミンチにされた腹を切り捨てて再生を始めた。Yの方は見ていない。
「決まれ!」
Yの剣が男の娘星人を薙ぐ。しかし、男の娘星人の姿が掻き消えた。
キーン!
剣が急に軽くなり、撥ね飛んだ切っ先が家の塀に突き刺さった。
「え?(なんで?)」
Yは吹き飛ばされていた。男の娘星人の姿がYの居た場所のすぐ手前に現れる。
「う!ぐぅ・・・」
顎の骨が折れ、頭がくらくらした。見れば刀の刀身が虫食い状に溶けていた。切ったはずが、刀身を溶かされて切られていたのだ。
「うげ・・・オベェ!ぐほっ!ゲッハ・・・」
辺りがグルグル回り、Yは言い知れぬ痛みと不快感に辺りに吐しゃ物を撒き散らしながらのた打ち回った。
キュゥウウウン!ドロッ・・・
「(スーツが・・・一撃で。顎も首もいてぇ。何が?)」
Yは焦点の定まらない眼で残った男の娘星人と戦う二人を見る。男の娘星人はその全身に白濁液を纏っていた。少女は右手と両足を白濁液にやられ、左手で体を支えるので精一杯のようだった。長身の美女は溶断されたバイクから下りて二丁銃で片方に注意を集めつつ、もう片方で攻撃というローテーションを組んでいた。だが男の娘星人に与えるダメージは回復量に全く追いついておらず、ジリ貧どころかあと数秒も持たなそうだった。
「(うっ!何か・・・なんとかせんと)」
Yは辺りを見ると、そこにはYの乗って来たバイクとY字型の銃。Yはここが最初のキモオタ星人が襲ってきた場所だったということを思い出した。
「やるしか。」
もう一丁の銃の効果は分からない。だが、あの美女が持ちこたえられる時間はもう無い。チャンスは一度きりだ。
「ロック!ロック!・・・発射!」
ギョーン!キュイン!
Yがトリガを引くと同時に、特異な銃からは光のワイヤで繋がれた3つの実体弾が飛び出した。美女の腕が男の娘星人の白濁液で銃ごと溶かされる。男の娘星人が美女にとどめを刺そうとしたその時
ババン!
男の娘星人の背中がはじけ飛ぶ。が、すぐに再生してしまった。しかし、さっきまで持ちこたえていた美女もさる者で、Yが放ったワイヤ弾をみると男の娘星人の隙を突き、溶かされていない方の腕で男の娘星人の顔めがけて連射した。
ギョギョーン!キュキュン!バババン!
美女の連射に合わせてワイヤ弾が男の娘星人に巻きつき、抵抗しようとする男の娘星人の顔が破裂した。
「おおおおお!!」
起動させたバイクに飛び乗ったYは二重に男の娘星人を拘束すべく特異な銃のトリガを引いた。
ギョゥン!
Y字型の銃は唸りを上げるも、光のワイヤ弾は発射されなかった。
「!?二発は出えへんのか?!」
「ウウウオオオオオオオチンチンランドォ!!」
男の娘星人は既に光のワイヤを溶かし始め、弱ったワイヤを引きちぎろうともがいていた。
「っでもくらえ!!」
Yはバイクから身を乗り出し、構えた剣を縛り上げられた男の娘星人めがけて投げつけた。Yには不思議と確信があった。
ヒョウッ!
「ガッ!ぐぅ・・・」
投げつけられた剣は男の娘星人の胸を大穴を開けて貫通し、汚い脂肪を飛び散らせた。男の娘星人の頭は既に光に分解されて転送され始めていた。
「(縛り上げてどっかに送ってんのか?せやけどまだあいつの本体をしとめてへん!!出てくるはず!!)」
Yはさらにホイールを加速させる。
「おふぅ・・・」
がくりと男の娘星人の体から力が抜け、首の断面から醜い小人が飛び出した。
「!(逃がすか)」
Yはバイクのアクセルをふかし、フルスロットルで男の娘星人の抜け殻を駆けあがった。
「死にさらせ!!」
「ギャギィ!!」
高速回転するタイヤに触れた男の娘星人の本体はバラバラに弾けた。そしてその破片は抜け殻同様仲良くどこかへ転送されていった。
「・・・立てるか?」
「ああ。僕は大丈夫だよ。」
Yは片腕を失い、残った方の手で傷口を抑える美女に声をかけた。少女もうめき声ひとつ上げずに残った片手で器用に止血していた。
「大丈夫って。大丈夫やないやん・・・チッ!あのアホ顎砕きよってくれよったさかいに目え回るわ。病院行かんと。あんたもあの子も。そもそもあんたらのお蔭で勝てたようなもんやし・・・はよ手当せんと」
「ふふっ!」
「なにがおかしいねん?(手ぇ溶けて出血し続けとる人間が何でこうも落ち着いてられんねん?あの子にしても平気で突っ込んでいくし。こいつらやっぱり不気味やわ)」
「ああ。君は知らないのか。これぐらいの傷、いや、ミッション終了時に死んでなければ。どんな傷でも治してくれるのさ。あの黒い玉はね」
「・・・マジで?!っていうかあんたら初めっから知っとったんやろ?何で教えてくれへんかったんな!」
~~~
ジジジジ・・・
「ここは?あれ?俺・・・あれ?」
「ああ、おっさん生きとってんな」
Yは生き残ったサラリーマンに声をかけた。
「あれ?俺って腕切られて・・・キモオタ星人のディスクで?あれ?」
「ああ、なんかキモオタ星人全滅させたときに生き残っとったら怪我とか直してくれるらしいで。ちょっと記憶が飛んだりするらしいんやけど(結局集められた10人の内帰って来たんは4人。新参8人で二人・・・しかもあのリーマンは半死半生やった・・・こんなん・・・)」
「え?君は・・・あ。そうなんだ」
サラリーマンはまだ混乱している様子だが、仕方がない。Yはとりあえず生き残れたことに感謝した。そしてチラリと手足の復活した二人の先駆者を見た。
~~~
『だって、人が増えると邪魔だし。点が分散するでしょ?』
『てん?は分からんけど、人の命がかかってるんやろ?それに今回みたいにアンタらだけやったらやられとったやんか!』
『はぁ。分かってないね。僕が言いたいのはさ、弱い奴はいらないってことなの。それに君みたいなのは勝手に生き残ってくれるでしょ?だから、僕たちがどうこうする義理はない訳。わかるかな?』
『・・・』
~~~
ちりり~ん
「(オツカレサマドスエ。それでは採点を始めるドスエ)採点・・・」
「採点?」
リーマンがYに尋ねる。Yはリーマンが分かるように二人の女に視線を移して答えた。
「斃した星人に応じて点数をくれるんやって。」
「ふーん。」
ジキジキジキ
「(ブザマ 8てん 弱過ぎドスエ)」
「無様?って俺か?」
「(ヤンデレ 1八点 うわょぅι゛ょつよい 合ケぃ 93てん。 ヤンデレ?あの子か。18点で合計93?っていうことはこの子5回ぐらいもここに来とるっちゅうことか?)」
「・・・」
少女は既にあのラバースーツを脱ぎ捨てて普通の衣服に着替えていた。ラバースーツはケースに戻し、黒い玉の後ろにしまっている。
「(カンサイ 参ⅢteN グラデエーター=サン? goけい 33てん。 何かムカつく・・・けど33点?あの子より高い。ってか何点がゴール?死ぬまでハイスコアを目指せとかやないやろな?)」
「なあ、この点数っていうのは何なんだ?あんたら知ってるんだろ?」
そう問いかけるリーマンをちらと見たイケメンの女性は、黒いジャケットに突っ込んでいた手を抜いて玉を指差した。
「(イケメソ 二6テン 流石ドスエ ごう計 百19てん 百点めぬー。) 百点メニュー?」
ジリジリジリ
そうこうするうちに玉の表示が変わった。
「1.記憶を消されて解放?ってことは100点取るまで帰られないってことか?」
「今回はこれで終わりだよ。」
と若い男の疑問に長身の女性が答えた。メニューには解放、そしてメモリーからの再生、そして強化武器を手に入れてもう一度と書かれていた。Yは、いやカンサイはイケメン女性を見上げた。
「3番だよオデン。3番にしてくれ」
「解放を・・・選ばないのか?」
リーマンが美女に尋ねるが、美女はあからさまにがっかりしたという様子で答えた。
「はぁ?どうしてこんな面白いの止めなきゃいけないのさ?」
~~~
『終わったからもうそろそろオデンに呼び出されるはずさ』
『おでん?』
『ん?ああ。あの黒い玉のことだよ』
ジジジジ・・・
少女が消えてゆく。美女は出血も気にせず煙草をくゆらせていた
『死んだ戦士が集められて、夜な夜な戦わされる。ヴァルハラみたいだろう?だからあの黒い玉はオーディンなのさ。でもオーディンというにはアレだし、オデンっていうことさ』
『なんであんときは何も言わんかったのに』
『どうせ生き残らない奴にいっても意味がないだろ?僕は暇じゃないんだよ』
~~~
さっさと帰ってしまった二人を見送り、カンサイとリーマンは話し合っていた。
「あの背の高い女の人が言うんは、ここに呼び出されんのは大体月に二回ぐらい。このスーツは専用で一着しか支給されへんから無くさんようにすること。ってことは多分他人のは使えんっていう意味なんやろな」
若いサラリーマンはすこし思案した後、手元の銃を眺めた。
「じゃあ、ここの武器は持ち出してもいいってことなのか?」
「そうらしいけど。使ってるところを他人に見られたり・・・ここに関わることをしゃべったりしたら頭パーンってなるらしい」
「ああ・・・」
一緒にこの部屋に来た二人が死んだ光景を思い出したのか、リーマンはうなだれる。
「けどな・・・」
スゥ・・・
「え?きえってうわ!」
バチバチ・・・
カンサイは透明化し、リーマンの頬を叩いた。リーマンは一瞬何をされたのか理解できなかったようでキョトンとしている。
「何かこのモニターの機械で姿消せるらしいから、使えんこともないんやって。逆に戦闘中に一般人に見られてもアウトらしいから間違えて押さんようにせんといかんけど」
「お、おお。すごいなコレ。どこが作ったんだこんなの?米軍?」
と、銃にロット番号とかがないか調べるリーマンにカンサイが声をかける。
「・・・案外これ作ったんも星人、やったりして」
サラリーマンの顔がさっと陰った。これだけの技術、今の人類の一般的な科学力ではあり得ないと悟ったらしかった。
「死に掛けの人類を使って、邪魔な同業者を排除してるってことか?」
「わからん。正直分からんことだらけや。けど・・・」
「けど?」
「次に備えて鍛えといたほうがええと思う」
「・・・確かにそうだな」
~~~
「じゃあな。ぶっさん」
「ブっさんって何だよ」
「いや、ブザマのぶっさん」
「ちょっ!ちょっと!待て!」
「ほなさいなら!」
制止しようとするぶっさんをよそに、早速透明化したカンサイは夜の住宅地を駆けていた。今日はいろいろなことがあったが、とにかく早く帰ろう。持ち帰った武器について調べるのはまた今度にしようと、鞄に入れた短銃と剣そして捕獲銃を揺らした。
~~~
「ひゅー(このスーツすげぇ!車と並んで走れる!)っとと」
カンサイはあの凄惨な戦いの後だというのに上気していた。あるいはあの戦いの異常さが受け入れられなかったために、自分をあの戦いの思い出から遠ざけようとしていたのかもしれなかった。
「とうちゃーく。ってあれ?」
いつもの電車で帰る時間から遅れること30分ほど。いつも同じ時間に帰っていたカンサイだったので、家族がそろそろ心配しだしているのではと気になっていた。家の前の曲がり角でステルスを解除しようとした時、家のシャッターが開いたのを見た。出てきたセダンタイプの乗用車には両親が同乗している。
「(こんな時間に?なんだ?)おーい!ってステルスだったか」
車は焦ったようにシャッターが閉まりきらないうちに発信してしまった。
「ちょ、ちょっと!クソ!ケータイは轢かれた時に時に落としたんやった。あーもう!」
車はどんどんと進み、走り出したカンサイに次第に距離を開けてゆく。何とか信号のお蔭で見失わずに済んでいるが、カンサイ自身の体力が持たなくなってきた。息を切らし、走るのを止めたカンサイがそろそろ帰ろうか思っていた時、車は角を曲がり、大きめの駐車場に入って行った。
「はぁーっはぁーっ・・・あ、どっかの車の上に乗ればよかったやん」
カンサイは車から降りて慌てて走ってゆく家族を追いかけた。
~~~
「救急入口?病院やん」
家族に追いついたカンサイはステルスを解こうとしたが、ふと自分が急に現れればおかしなことになると気付いて止めた。
「先生!うちの子は!」
「落ち着いてください。命に別状はありません。」
長身のほおがこけた医者に、カンサイの両親は詰め寄った。医師は毅然とした様子で両親に答えた。
「(うちの子?命に別状?一体何の?)」
医師に連れられてゆく両親の後を透明化したままカンサイは付いてゆく。そしてカンサイは、来なければよかったと・・・後悔した。
「全身打撲と、椎弓、脊椎骨の脊髄神経を守っている部分ですが、そこが数か所折れています。CT上では今のところ脳に傷害は見られませんし、エコーでは大きな出血は見られません。容体も安定しています。」
「助かるんですか?!」
「今のところは命に別状はありません。ただ、まだ予断を許さない状況ですし、脊椎に関しては手術が必要です。追って説明いたしますが、下肢に麻痺が残るかもしれません。」
「でも、大丈夫なんですよね?!」
「ええ。今のところは」
『そんな、しんぱいせんくても・・・げんき、やし・・・』
「ああ!大丈夫なんやな?!撥ねられたって聞いた時は!」
両親が酸素マスクをしてベッドで横たわる自分の手を握る。両親の背後に立つ透明の自分ではなく、事故に遭った自分の手を。
「うそや・・・うそやこんなん・・・」
自分はあのオデンとかいう黒い玉のおかげで助かったはず・・・じゃあ今目の前のベッドに横たわっているのは?幽霊なのは自分なのでは?そもそも自分は誰なのだと、カンサイは足元がガラガラと音を立てて崩れてゆくような言い知れぬ恐怖に思わず後ずさった。
ドン!
「ん?なんだ」
後ずさりするカンサイの肩が手術の説明に来た医師に当たる。首をかしげる医師の脇をカンサイは逃げるように駆け抜けた・・・
キモオタ星人 8点
ニート星人 10点
男の娘星人 25点