Gantz-Y-   作:Dombom

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Dosing off ― 幕間「幽霊」

「・・・」

 

 高校の屋上からY・・・いや、カンサイは隣の校舎の窓を眺めている。コの字形に並ぶ校舎の中ではいつもと変わらぬ日常が流れている。ただ、Yの席だけが空席になっている。Y・・・は2週間前、帰宅途中に交通事故に遭い、全身打撲と背骨を骨折するという瀕死の重傷を負った。そして、カンサイはあの部屋によばれた。

 カンサイは初め、自分があのオデンとかいう黒い玉に蘇生されたのだと思っていた。だが、キモオタ星人との死闘を制し、日常へと戻ってきたカンサイに突き付けられた現実は非情なものであった。

 

「・・・」

 

 むしゃりと賞味期限が切れ、破棄された菓子パンを頬張る。屋上は寒く、吹き付ける風がカンサイの短髪を掻き毟った。

 Yは死の直前にあの部屋へと呼ばれた。カンサイはそう思っていた。死んだはずのYに出会う前まで。二週間前、慌てて家を出る両親をステルスで尾行したカンサイは、病院で横たわるYを見てしまった。暴走車に轢かれ、街灯に叩きつけられたはずのYは生きており、カンサイは自分がYではなく、あのオデンと呼ばれた玉に作られた模造品に過ぎないという事実を突き付けられたのだった。

 そこからのカンサイはまさに幽霊と言ってもおかしくなかった。

 常時ステルスで街をさまよい、賞味期限切れで破棄された食料品を漁り、暗がりで不良を襲ってスーツの力で金を巻き上げ、知り合いに見られぬよう隣町のスーパー銭湯で湯を浴び、空きテナントになったビルで眠る日々・・・

 カンサイは疲弊していた。

 あの夜、無造作に命を散らした人々、人の命の軽さ、そしてその場に自分も居合わせたこと・・・さらにはいつか必ず、再びあの狩りの場に呼び出されるであろうこと・・・

 混乱したカンサイは病院を飛び出した後、病院のベッドに横たわる自分を殺そうとした。が、出来なかった。

 あのオデンが頭に仕掛けた爆弾が発動するのを恐れた訳ではない。いや、完全になかった訳ではないが、錯乱し、ほとんど正気を失っていたカンサイにとってYを殺し、なり替わった後のことはどうでもよかった。だが、出来なかった。

 集中治療棟に戻ったカンサイが見たのは、体にチューブやら電極やらを取り付けられ、痛々しい姿になっていながらも悲痛な面持ちで手を取る両親を逆に励ましているYの姿だった。

 そして思ったのだ。ああ、Yとはこいつのことで、自分ではないのだ。と。あの日の殺戮の30分がオデンにコピーされたYをカンサイへと造り替えてしまったのだと。

 

「・・・」

 

 それからカンサイは幽霊のように過ごしている。

 透明化し、窓の外のコンクリートのひさしに腰掛けて授業を聞く。手術を受けたYは順調に回復し、コルセットは必要だが麻痺などもほぼなくあと二週間もすれば車いすで登校できるだろう。だが、カンサイはあの日の夜、車に轢かれてから「死んだまま」だった・・・

 Yが巻き込まれた暴走車は別の場所で赤信号を無視し、交差する道路で走る車の流れの中を突っ切っていた。横からいきなり車が飛び出してきたことに驚いたドライバーは慌ててハンドルを切り、その場でスピン。玉突き事故が起こり、乗用車三台と原付一台を巻き込む大惨事となった。だが、被害者はまるで神隠しにでもあったように一人を除いて忽然と姿を消していた。

 事故に巻き込まれたドライバーの一人の会社員男性は数時間後、数キロ離れた場所で警官に保護されたが、事故の後のことは何も覚えていないという。精神科の医師の話では、事故の強いショックによって一時的な記憶喪失になり、また事故現場から逃げようとする防衛本能のせいで数キロ先まで逃走したのではないかという話だった。

 その男の名はカンサイも知っていた。そう、あの部屋でオデンに無様と評されつつも、あの戦いを生き抜いたもう一人の新人だった。

 

「・・・」

 

 ぞわりと身の毛がよだつ様な感覚がカンサイを襲った。時間だ。

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