般若と龍と女神のドタバタ騒動記   作:アリアンキング

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サブストーリー011 静かな夜に男達は語り合う 開始

桐生「ある場所で真島の兄さんと再会した。また、一波乱あると思ったが意外な事に酒の席に誘われた。断る理由もないので俺はついて行く事を決めた」



今回は真島さんと桐生さんが再会したところから始まります。
それとゲストキャラが三人登場します。

それではどうぞ


サブストーリー011 静かな夜に男達は語り合う

神室町の中道通り そこに二人の男の姿があった。

一人は堂島の龍の異名を持ち、伝説の男と呼ばれた桐生一馬 もう一人は嶋野の狂犬と恐れられた真島吾郎である。

 

思わぬ人物の再会に二人は言葉も無く、お互いを見つめていた。二人が醸し出す雰囲気に圧倒されたのだろう…中道通りの通行人は触らぬ神に祟りなしと二人を避けて通り過ぎていく。

 

東城会の極道達が収める神室町では極道同士の諍いは日常茶飯事である。それ故、こういう場面に出くわした時の対応方法を神室町で生きる住民達は熟知している。だが、近くで店を営業している者は不安で堪らなかった。

 

もし、店前で喧嘩が起きれば、当然の事だが通行人達は厄介事に巻き込まれない様にその場所を避けるだろう。そうなれば、客足が減ってしまう事になる。それ以外にも喧嘩の最中、店の看板や棚が壊されてしまうかもしれない。

 

 

この二つの出来事が重なってしまえば、店は大赤字である。損害を請求しようにも相手が相手である為、それも出来ない。しかも、最悪な事に現在、一触即発寸前の二人は神室町で名を轟かせる男達である。

 

そんな二人が衝突すれば、辺りは滅茶苦茶になってしまう。どうか、穏便に済んでくれと付近の店の店員達は祈っていた。だが、そんな店員達の祈りを無視するかの様に真島は獰猛な猛獣を連想させる笑みを浮かべ、桐生に向かって静かに歩き出した。それを見ていた周りの通行人達も緊張感から唾をのみ込む。いよいよ、戦いが始まるのかと誰もが思っていたが、真島が取った行動は予想外の事だった。

 

じりじりと近寄って真島は両手を広げると、そのまま桐生に抱きついたのだ。その行動に見物人は驚いていた。そして、抱きつかれた桐生本人も困惑の表情を浮かべている。攻撃を仕掛けてくるかと思っていたが、抱きついてくるとは想像していなかったからだ。だが、そんな事は何処吹く風で真島は嬉しそうな顔を見せ、桐生に話しかけてきた。

 

 

「久しぶりやの~ 桐生ちゃん。元気にしとったかぁ~」

「あ、ああ。俺は元気にしている。真島の兄さんも元気そうだな。それより…いい加減に離れてくれないか?その、周りの目もあるしな」

 

いきなりの事に混乱しつつも桐生は挨拶の言葉を返すと、未だに抱きついている真島にそう言った。最初こそ、驚いていた通行人達も落ち着きを取り戻し、怪訝な顔をしてこちらを見ていた。中にはひそひそと会話をしている者もいる。

 

 

その言葉で周りの視線に漸く気が付いたのか、桐生から離れると真島は何処かの店で飲もうと誘いの言葉をかける。

 

 

「…すまん。ちょっと、浮かれ取ったわ。折角、会えた事やし…何処か店に行って、楽しく酒でも飲もうや」

「いや 別に構わない。それと飲みに行くならニューセレナはどうだ?久しぶりにママさんや伊達さんに会いたいしな」

「ニューセレナか。そういや、桐生ちゃんの行きつけの店やったなぁ。まあ、桐生ちゃんと酒が飲めるならワシは別に構わへんで」

「それじゃあ、決まりだな。早速、行くとするか」

 

真島から飲みの誘いを受けた桐生は馴染みの店であるニューセレナに行こうと提案した。真島自身も久しぶりに会えた桐生と酒が飲めるならいいと特に反対する事なく、首を縦に振った。そして、話が纏り二人はニューセレナに向かって行った。

 

楽しげに去りゆく二人を見て、何事も無くて良かったと近くの店の店員達はホッと胸を撫で下ろしていた。

 

 

 

 

 

数分後 天下一通りにやってきた二人はニューセレナがあるビルの前にいた。二人はエレベーターに乗り込み、2階で降りると店のドアを開けて中へ入ると店を営業しているママが笑顔で言葉をかけてきた。

 

「いらっしゃい。あら、桐生さんじゃない。顔を見せるのは久しぶりね」

「ああ そうだな。前に来たのは数年前だったからな」

「そうね。それと今日は真島さんと一緒なのね」

「おう さっき、中道通りでばったりと再会してのう。それで酒を飲もうと此処へ来たんや」

「そうだったの。それじゃあ、今日は楽しんでいってね。それと二人は何を飲むの?」

「ワシはウイスキーを頼む」

「俺も真島の兄さんと同じでいい」

「解ったわ。すぐに用意するわ」

 

ママは二人から注文を聞くと、酒の用意をする為に店の奥へ引っ込んでいく。その姿を見ながら、カウンターの席に腰を下ろす。そんな時、後ろから二人に声をかけてくる者がいた。

 

「いや~ お久しぶりですね。まさか、此処でお二人に会うとは思ってませんでしたよ」

 

唐突に声をかけられて驚いた二人が振り向くと、そこには赤いスーツを着た男が笑みを浮かべて座っていた。

その男の名は秋山駿。神室町と大阪で『スカイファイナンス』という金融会社を経営しており、桐生達とも協力した事もある。

 

「お前は…秋山じゃないか。どうして、此処にいるんだ?」

「どうしてって、理由は一つしかないじゃないですか。二人と同じように酒を飲む為ですよ」

「さよか。せやけど、お前さんは自分の店を持っとったよな?そっちには顔を出さんでええんか?」

「ああ そちらの方には既に顔を出して、スタッフに指示を与えてますからね。店のスタッフで手に負えないトラブルが起きない限りは大丈夫ですよ」

 

秋山は二人の質問に答えた後、今度は秋山が二人に質問をした。

 

「それはそうとして、二人はどうして此処に?まさか、また東城会絡みの厄介事ですか?」

 

そう尋ねた秋山はまたもや、神室町が揺れる騒動が起きるのではと不安を感じていた。

 

本人が望んで起こしてる訳ではないが、桐生が神室町に来るときは総じて厄介事が起きているからである。

 

「いや、今回はただの旅行で来たんだ。だが、その言い方だと、俺が厄介事を持ち込んでる様に聞こえるな」

「あ、いや、その‥別にそういうつもりで言った訳じゃ‥」

 

秋山の言葉に引っ掛かりを覚えた桐生に突っ込まれて、どう言葉を返そうかと秋山が頭を悩ませていると注文されたお酒を持ってやって来た。

 

「お待ちどうさま。あら、どうしたの?まさか、二人共 秋山さんに絡んでいたんじゃないでしょうね?」

 

困った様子の秋山を見て、絡まれていると思ったママは二人を問い詰める。

無論、それはママの誤解だが、ママは桐生と真島が秋山と知り合いだと知らない。

 

「いや、違いますよ。ママさん。実は桐生さんと真島さんとは知り合いでしてね。偶然、会ったから話をしていたんですよ」

「まあ、そうだったの。てっきり、二人に絡まれてると思ってたわ。二人共 ごめんなさいね」

 

秋山の言葉で自分が誤解をしていた事に気付いたママは二人に謝った。

 

「いや いいんだ。気にしないでくれ」

「そうやで。まあ、桐生ちゃんの人相はおっかないからのう。ママさんが誤解するのも無理ないで」

「何だと?そういう意味では真島の兄さんも同じだろう」

「それはどういう意味やねん?ワシの方が人相悪いと言ってるんか」

「まあまあ、二人共。折角、こうして会えた訳ですし、楽しくやりましょうよ。ね?ママさん」

「そうね。折角、こうして知り合いと会えたんですもの。喧嘩するなんて駄目よ」

「確かにそうだな。すまない」

「せやな、酒は楽しく飲んでなんぼやからな」

 

二人を宥める秋山にママも協力をして、二人を諌めるように言葉を投げ掛ける。桐生と真島もママの言葉を受け入れて素直に頷いた。

 

場が落ち着いた時、そのタイミングを計っていたかのように店のドアが開き、二人の来客が訪れた。ママは店にやって来た客にお決まりの挨拶をする。三人もそちらの方に目をやると、入って来た人物を見て三人は驚きの表情を浮かべる。店にやって来た二人の人物も三人と同じように驚きの表情を浮かべていた。

 

一人は伊達真。昔、桐生と一緒に行動をした刑事である。100億を廻る騒動の後、刑事を辞めることになったが…その後 警視監が起こした事件を暴き、刑事として復職している。

 

もう一人は谷村正義。伊達と同じく刑事である。以前は勤務中に麻雀をしたり、違法な営業をしている店から賄賂を受け取ったりして神室町のダニと呼ばれていたが、伊達同様に警視監が起こした事件解決を解決した事で現在は、伊達と同じ捜査一課で仕事をしている。

 

真島や秋山に続いて、思わぬ者達との再会を嬉しく思い桐生が言葉をかける。

 

「久しぶりだな 伊達さん。それに谷村も」

「お前、桐生じゃねえか!?どうして此処にいるんだ?まさか、また厄介事でも起きたのか?」

「いや、ちょっとした旅行で来てるんだ。それにしても秋山といい、伊達さんといい どうして俺を疫病神みたいに言うんだ?」

「桐生さんが神室町に来た時はいつも騒動が起きてますからね。ま、今回はそういう訳じゃないようですけどね。そうだ。折角ですから、皆で飲みましょうよ。面白い話もありますし」

「そうだな。久しぶりに再会したんだ。こんな話するより、今日はとことん飲もうぜ」

「いいですねぇ。こういう風に集まる事はそうそう無いですし、今日はパーッとやりましょう」

「おっ 自分、ノリがええやんか。気に入ったでぇ」

「ああ そうだな。今日はとことん付き合うぜ」

 

谷村の提案に乗る形で伊達がその場にいる桐生達に呼びかける。それに真島と秋山が賛同し、場の空気が盛り上がっていく。そんな雰囲気に充てられたのか、桐生も楽しそうな表情を浮かべると皆が座っているカウンター席に歩み寄って行った。

 

 

 

「そういや、何や‥面白い話があると、そこの兄ちゃんが言うとったな?それは一体何なんや?」

 

カウンターに腰かけて、注文したウイスキーを飲みながら真島は先程の話を谷村に尋ねる。声をかけられた谷村は待ってましたと言わんばかりの表情で喜々として、その事を話し始める。

 

 

「ああ その話ですか。実は今日、千両通りに仕事で行った時の事なんですけどね。その店の前で凄いダンスを踊るトマトの着ぐるみを見たんですよ」

「ほ~ そうなんか。せやけど、それの何処が面白いや?」

「まあ、最後まで聞いて下さいよ。それだけじゃなくて、その店ではね。あの有名なスクールアイドル”μ's”のメンバーである西木野真姫という子が宣伝をしていたんです」

「何やと…真姫ちゃんが宣伝?それはほんまか?」

「ええ 本当ですよ。それよりも真姫ちゃんって、真島さんはその子の事を知ってるんですか?」

「ああ 知っとるで。以前、花粉症の事で行った病院で会っての。そこで悩みを相談されたんや。それが切欠になってな。時々、メールでやり取りもするし、ハロウィンパーティに呼ばれた事もあるで」

 

 

真島の反応を見て、真姫の事を知っているのかと聞いてきた谷村に真島はそう答えた。隣で話を聞いていた桐生は二人の会話に出てきたμ'sと真姫という二つの言葉に聞き覚えがあった。もしかしたらと思った桐生は真姫という子の事を真島に尋ねる。

 

「所で真島の兄さんが言ってる真姫という子だが、その子は赤い髪をした女の子の事じゃないのか?」

「ん?ああ そうや。せやけど、どうして真姫ちゃんの容姿を知っとるんや?」

「確かにそうですね。こう言っては何ですけど、桐生さんはアイドルとかに興味無さそうですからね」

 

桐生の疑問に答えると今度は真島が真姫の容姿を知っている桐生に質問を返す。その会話に興味を示した谷村が便乗してきた。まさか、アイドル等に興味が無さそうな桐生がスクールアイドルである真姫を知っているとは思っていなかったからだ。

 

「…実は今日、さっき谷村が言っていた千両通りの店で偶然、会ったんだ。その店は開店したばかりだが、満席でな。それで相席する場所にいたのが真姫達だったんだ」

「え?真姫達という事は他にμ'sのメンバーがいたという事ですよね?それは誰だったんです?」

 

その話を聞いて、興奮した様に聞いてくる谷村に戸惑いながらも桐生は答えた。

 

「あ、ああ。他にいたのは凛と花陽だ。花陽とは以前にも会った事があってな。まさか、その店で再会するとは思って無かった」

「何や、桐生ちゃんは真姫ちゃんだけでなく、花陽ちゃんと凛ちゃんとも会ったんか。しかも、花陽ちゃんと以前も会ってたとは驚いたで」

「確かに桐生さんがその子達と会っていた事も意外ですけど、俺としては真島さんがその子達とどうやって、知り合ったのかが気になりますけどね」

「言われてみると、そうだな。二人共、アイドルとかそういうものに縁が無さそうだしよ」

 

三人の会話を静かに聞いていた秋山と伊達も口を挟む。お互い、縁の無さそうなアイドルをやっている子に出会った経緯が気になっていた。その事を聞かれた真島とその時の事を思い返しながら話し出す。

 

「ワシがμ'sの子達と出会った経緯かぁ。確か、初めは秋葉原の住宅街に美味いと評判の和菓子屋があると組の奴から聞いてのう。そんで買いに行ったんや。それで道に迷った時にある三人組に出会って、その子達に道を聞いたらその中の一人が和菓子屋の娘さんでな。和菓子屋の場所を教えてくれたんや。ついでにお勧めの和菓子もな」

「へ~ そうなんですか。ちなみにその三人組って、高坂穂乃果 園田海未 南ことりと言うんじゃないですか?」

「そや、良く解ったな。てか、自分 妙に詳しいのう。もしかして、μ'sのファンなんか?」

「ええ 実はそうなんですよ。非番の時、暇つぶしに秋葉原をぶらついていたら…μ'sが路上ライブをやってるのを見ましてね。彼女達の歌や踊りにすっかり魅了されて、それでファンになったんです」

 

興奮して話に食い付く様子からもしやと思い、真島が尋ねると谷村は自分がμ'sのファンである事をすんなりと認めた。そんな谷村に伊達が言葉を投げ掛ける。

 

「ほう。芸能人とかに興味がねえと言ってたお前がそこまで褒めるとはなぁ。その…ミューなんたらとかいうアイドルは相当凄いんだな」

「そうなんです!彼女達は凄いですよ。アイドルと名乗ってますけど、彼女達はプロではない。だけど、歌も踊りもプロ顔負けですからね。それと、名前はミューなんたらじゃなくてμ'sですよ」

「そ、そうか。μ'sってのは凄いな」

 

話に混ざって来た伊達にμ'sの魅力を熱弁する谷村に伊達は若干、引いていた。勿論、人の趣味にとやかく言うつもりはない。だが、普段と違う彼の姿を見て、そこまで人を夢中にさせるμ'sに伊達も興味を抱いていた。

 

「それで桐生 お前の方はどういう経緯でその子達と会ったんだ?」

「ああ さっきも言ったが俺が初めて会ったのは花陽だ。偶々、神室町を歩いていたら道に迷ってる花陽がいてな。何やら、困っているみたいだったし、放っておけずに俺が道案内をしてやったんだ」

「フッ お人好しなのは相変わらずの様だな。そんなお前の事だ。さっき、話に出た子以外にも会った事があるんじゃないのか?」

 

何年経っても変わらない桐生にお人好しぶりを伊達は感心していた。そして、何かしらと騒動に巻き込まれやすいのが桐生である。伊達は他にも会った子がいるのではと桐生に尋ねた。

 

「伊達さんには敵わないな。確かに他にも会った事がある子がいるぜ。名前は東條希という子で街の案内を頼まれた事があるんだ」

「成程な。しかし、道に迷っていた花陽という子はまだしもだがよ。その子はお前に街を案内してくれだなんて変わってるな。こういう言っては何だが、お前は人相が悪いからな」

 

桐生の話を聞いて、伊達は思っていた事を口に出す。弱い者には手を出さず、寧ろ自分から弱い人の為に進んで助けに行く男だと伊達は知っている。だが、知らない人からしたら人相の悪い桐生はそのつもりが無くとも相手を威圧してしまう。だからこそ、自分から進んで案内を頼んで来た希が変わり者だと伊達は感じていた。

 

そう言った伊達に桐生がこう言葉を返す。

 

「ああ 最初は俺もそう思っていたんだ。大抵の人は俺を見て、怯える事が多いからな。実を言うと希は俺が花陽を脅してると勘違いしていたらしい。だが、花陽が事情を説明してくれたようで俺を恐れる事なく話しかけてきたというわけだ」

「そういう事か。お前の人望の凄さには驚かされてばかりだな」

「フッ そんな伊達さんだって、色んな人に慕われてるじゃないか」

「そうだな。まだまだ、ケツの青いひよっ子だがよ。まあ、慕われるのは悪い気はしねえな」

「ひよっ子なのは認めますけど、ケツが青いってのは余計ですよ」

 

伊達の言葉で不貞腐れた顔をする谷村を見て、桐生と伊達は笑みを溢す。

そんな時、今まで黙って話を聞いていたママが楽しそうな雰囲気に釣られてか会話に混ざり込んで来た。

 

「ちょっと聞きたいのだけれど、そのμ'sには背が小さくて髪を左右に束ねてる子はいるかしら?」

「あ、いますよ。それは矢澤にこという子です。それにしてもママさんもμ'sの事を知っていたんですね」

 

ママの質問に答えた谷村はママがμ'sを知っていた事を驚いていた。そんな谷村にママは街で起きたある事を話し始めた。

 

 

「いえ、私はμ'sの事はよく知らないわ。ただ、つい先日、買い出しで街を歩いていたらその子が私に声をかけてきたの」

「それが矢澤にこだったという訳ですか。一体、どんな話をしたんです?」

 

自分の話に食い付いてくる谷村に苦笑い浮かべながら、ママは話を続ける。

 

「それで話を聞くとね。買い物を終えて店から出てきたら、外で待ってる筈の弟さんがいなくなったらしいわ。それでその子を見てないかと聞いてきたのだけど、私は見てないと答えたら落ち込んだ様子でお礼を言って走り去っていったの。あの後、どうなったのかは解らないけれど」

 

ママの話を聞いていた秋山は秘書である花から聞いた事件を思い出して、ママに教えた。

 

「そんな事があったのか。それと以前に神室町で店の外で待ってる子供が誘拐される事件があったと花ちゃんから聞いたよ」

「そういえば、そんな事件が起きたとテレビでやってたわね。まさか、その子の弟さんも誘拐されたとか」

「心配しなくても大丈夫ですよ。その犯人はすぐに捕まったし、その子が誘拐されたという通報は来てませんからね」

「そうなの。それならよかったわ」

秋山の話を聞き、不安な表情を浮かべてそう呟くママに谷村は明るい様子でそう言った。その言葉を聞いて、ママもホッとした様子を見せる中、一人だけ浮かない顔をしている男がいた。その様子に気付いた秋山が声をかける。

 

「おや?桐生さん 浮かない顔してどうしたんですか?もしかして、具合でも悪いんですか?」

「え?あ、いや 何でもない。所で秋山の方は何か、変わった話は無いのか?」

 

話しかけてきた秋山に桐生は誤魔化すように話題を逸らした。その事を不審に思いながらも秋山は身近にあった事を話し出す。

 

 

「うーん 変わった事ですかぁ。何か、あったかな…あ、そういえば、ついこの間にすごく綺麗な女性がスカイファイナンスに来たんですよ」

「お、そうなんか?あんたの所に金を借りに来るとは、物好きな人もおるもんやな」

「物好きって…確かに変わってるけど、うちはまともな会社ですよ」

「ま、そないな事はどうでもええ。それより、続きをはよしいや」

「どうでもいいって…まあ、いいか。それでその人は音ノ木坂という学校の理事長をやってましてね。娘の為に金を貸して欲しいと言って来たんですよ」

 

真島の痛烈なツッコミに若干、落ち込みながら秋山は続きを話す。その内容にまたもや、ある男が反応して顔を顰めていた。そうとは知らずに真島がさらに突っ込んで話を聞いていく。

 

「ほう、娘の為にのう。そんで、お前さんはその親にどんなテストをやらせんたんや?」

「ええ それでやらせるテストの為にその人を調べたら、娘さんがアイドル活動をしている事が解りましてね。私がその人に出したテストの内容というのが、現役アイドル又は元アイドルが身内にいる人と知り合いになるというものです」

 

秋山の言葉で桐生は更に顔を顰める。先程から様子がおかしい桐生に溜まらず秋山が問い詰める。

 

「桐生さん さっきから変ですよ。ママの時といい俺の時といい、妙に反応してますね。もしかして、何か隠している事があるんじゃないんですか」

「な、何を言ってるんだ。そんな事ある訳ないだろう」

 

誰が見ても秋山の言葉で桐生が動揺しているのは丸分かりだった。そして、この場にいる者達はそれを見逃す程、優しくはない。皆はそれぞれの言葉で桐生を責めたてていく。

 

「怪しいのう。そないに動揺してたら、自分は隠し事をしてますと言ってるようなもんやで」

「そうだぞ。それに長い付き合いの俺にも言えないのか?お前も冷たくなったな」

「会った時は噂以上に心が広い男と思ってましたけど、意外に桐生さんも心が狭いんですね」

「その通りですね。伝説と言われた男も蓋を開けば、こんな感じなんだなぁ」

「ええ 折角、楽しく盛り上がってるのに水を差す様な真似をしちゃ駄目よ」

「ぐっ…皆、揃いも揃ってそこまで言う事はないだろう。いくら何でもあんまりじゃないか」

 

それぞれが言い放つ言葉は桐生の心を容赦なく抉っていく。流石に我慢が出来なくなったのか、ムッとした表情で言い返した。桐生と付き合いが浅い者はやり過ぎたかなと思い反省をするが、桐生と付き合いが長い真島と伊達は何処吹く風でさらに桐生を追及する。

 

「ほなら、素直に白状しいや。下手に隠すからこういう事になるんやで」

「全くだ。恩着せがましい言い方になるけど、危ない橋を渡って手に入れた情報を隠さずに教えたじゃねえか。それなのにお前は隠し事をするたぁ見損なったぞ桐生~」

 

酒が入っているがシラフを保っている真島と違って、伊達の方は完全に酔っぱらっている。こうなった人間に逆らうのは場を拗らせるだけである。そうなれば、面倒な事になると思った真島が小声で桐生に囁く。

 

「伊達のおっさんは完全に酔っとるで。こうなると後が面倒や。散々、好き勝手言ってたワシが言えた事やないけど、素直に言った方がええ」

「ああ そうだな。解ったよ。全部、話すぜ」

 

酔っ払いに逆らうのは得策ではない事を桐生も知っている。それ故、真島の提案を受け入れて桐生は隠している事を話すと決めた。だが、桐生は大事な事を忘れている。

 

この場にいる者は皆、一癖も二癖もある連中である事を…

 

その言葉を聞いた真島はニヤリと笑って、その場にいる皆に向かって言葉を発した。

 

 

 

 

「皆、聞いとったか?桐生ちゃんは素直に白状するそうやで」

「おっ やっと、腹を決めたか。全く、余計な手間を取らせやがる」

「な、これはどういう事だ?まさか、さっきのは伊達さんと真島の兄さんの演技だったのか」

「やっと、気付いたんか。あっさりと引っかかる桐生ちゃんを見て、笑いを堪えるのが大変やったで」

「まあ、悪く思うなよ。頑固なお前はこうでもしないと話さないだろ。下手な抵抗してないでさっさと吐いて、楽になれよ」

 

先程と違いしっかりとした口調で伊達は話している姿を見て、自分が一杯食わされた事を知る。言い逃れをしようにも全部話すと言った以上、あとの祭りである。深い溜息を一つ吐き、観念した桐生は洗いざらい話す事にした。

 

「解った。じゃあ、まずはにこの事から話すとしよう。あの日、俺は寒くなってきた事もあって、防寒着を買いに街へ繰り出したんだ。その道中に小さい男の子を連れた女の子に会ったんだ」

「あ、それが矢澤にこだったんですね」

「ああ そうだ」

「そうなんか。そんで、話に出てきた小さい男の子は誰なんや?」

「ああ、その子は虎太郎という。小さくとも大人に負けない勇気を持ってる子だ」

 

 

 

 

 

桐生は姉の為に立ち向かう虎太郎の姿を思い浮かべて、そう言った。珍しく嬉しそうに話す桐生を見て、真島が尋ねる。

 

「ほう。桐生ちゃんがそこまで言うとは珍しいのう。その子は一体、何をしたんや?はよ、続きを教えてや」

「ああ そうだな。その後、防寒具を買って帰ろうとしたら…店先に一人で立っている虎太郎を見かけてな。俺は交番に連れて行く事にしたんだ。その朝にテレビのニュースで神室町の誘拐事件を知っていたからな」

「ああ あの時、あの子が探していたのはその男の子だったのね。てっきり、誘拐事件が起きたと思ったもの」

「これは驚いた。奇妙な偶然もあるんだなぁ。道理でその通報が無かったわけだよ」

 

桐生の話を聞いてママと谷村は驚いていた。まさか、こんな所で話が繋がるとは思っていなかったからだ。

 

「それで交番に連れて行く途中で姉であるにこが追い付いてな。本人も俺が虎太郎を誘拐したと思っていたよ。きちんと説明して誤解は解く事が出来たが、その話をしてる最中に虎太郎が姿を消してしまってな。今度はにこと一緒に探す羽目になったんだ」

「あらま、それは一大事ですね。それで虎太郎くんは見つかったんです?」

 

桐生の話にハラハラしながらも続きを促すママに桐生は話を続ける。

 

「ああ 付近の店や通行人に聞いて回っていたら、路地に入って行くの見たと教えてくれた人がいたんだ。それでその路地で虎太郎を見つけたが、あろうことかチンピラに絡まれていてな。それを見たにこが間に入っていってな。虎太郎を連れて行こうとしたにこをチンピラが平手打ちしたんだ」

「そうやったんか。そないな事するとは、そいつらは男の風上にも置けんの。それで桐生ちゃんが助けに入ったっちゅう訳やな」

「まあな。だけど、俺より先に虎太郎がにこを殴った奴に蹴りを入れたんだ。自分の姉に酷い事をする奴らを虎太郎は許せなかったんだろう」

「ほう。そないな事をしたんか。その坊主は度胸あるのう」

「本当ね。だけど、その子はそんな事して大丈夫だったの?」

 

虎太郎の行動に感心する真島の横でママは心配そうに桐生へ尋ねた。

 

「案の定、チンピラは逆上して虎太郎を殴ろうとした。だが、間一髪の所で間に合って虎太郎に怪我はなかった。にこの方も頬が少し腫れていたが、幸いにも大事はなかった」

「それはよかった。それにしても酷い奴らだな。そいつらの特徴を教えてくれます?おれがしょっ引いてやりますよ」

「バカ!警察が私情を挟むんじゃない。そんな事をしたら、承知しねえぞ」

「じょ、冗談ですよ。本気でやるわけないじゃないですか」

「フッ まあ、そいつらにはお灸を据えておいたからな。心配はいらねえさ」

 

憤慨して逮捕してやると息巻く谷村に伊達は注意をする。そんな二人を見て、桐生は笑いながらそう言うと伊達は頭を抱えてこう呟いた。

 

「全く、お前ら二人して血の気が多いんだよ。まあ、女や小さい子供に手を上げるような奴は俺も許せねえけどよ」

「俺が隠していた事はこれだけだ。この話はもう終わりでいいだろう?」

「いや、まだあるでしょう。ママの話に反応した理由は解りましたけどね。俺の話に反応した理由を聞くまでは終わりませんよ」

 

自分が隠していた出来事を話し終わり、一息吐く桐生に秋山はそう告げた。一つの疑問は解けたが、もう一つの疑問が残っている。その事は秋山の中でモヤモヤとして残っていた。

 

「そういや、お前さんの話を聞いた時も妙な反応しとったな。桐生ちゃんはまだ、隠してる事があるんとちゃうか?」

 

秋山の言葉でその事を思い出した真島も桐生にそう言うと桐生は動揺して言葉を詰まらせる。他の三人もそんな桐生に視線を送っていた。

 

 

自分に向けられる視線とその場の空気に耐え切れず、桐生は再び深い溜息を吐くと口を開いた。

 

「…解った。話せばいいんだろう。だから、皆もそんな風に俺を見ないでくれ」

「漸く、話す気になりましたか」

「そういう状況に追い込んでおいてよく言うぜ」

「まあ、そう言われるとそうなんですけどね。だけど、桐生さんも勿体ぶって隠すからこうなるんですよ」

 

秋山の言葉は尤もである。そう思った桐生は隠していたもう一つの出来事を話し出す。

 

「…それもそうだな。それで秋山が言っていた女性だが、実はその人とも会った事がある」

「そいつは驚いた。会った事があるならその人の名前を知ってますよね?」

「何だ、疑っているのか。名前は知らないが、苗字は知ってる。確か、南と言ってたな」

「うん?南やと。もしかして、その人はことりちゃんのオカンやったりしてな」

 

桐生と秋山の会話の中で出てきた南という言葉に真島は反応して口を挟む。そんな真島に秋山はこう返した。

 

「ええ 真島さんの言う通り、その方は南ことりちゃんという娘さんがいます。アイドルをやっている娘の親なら、アイドルに詳しいだろうと思ってアイドルが知り合いになるというテストを出したんですよ」

「そうやったんか。それにしても随分とキツイ課題を出すんやな」

「確かにキツイですけどね。それでも出来ると思ったからこのテストを出したんです。そして、見事にその日の内にテストをクリアしましたよ。だけど、その報告に来た時…その人は酒の匂いがしたんですよね。その事も桐生さんが関係してるんじゃないんですか?」

「ああ 確かにその人と酒を飲んだ事はあるぜ。あの日は喫茶アルプスに行ったら、遥の事を口にする人がいてな。思わず、声をかけたんだ。それで意気投合して、その日の夜に酒を飲む約束したんだ」

「桐生ちゃんもやるのう。初対面の人に声をかけるだけやなくて、一緒に飲むまでの仲になるとはな。まさか、その後は一線を超えてヤッてもうたんか?」

 

桐生の話を聞いていた真島は厭らしい笑みを浮かべてそう言った。だが、桐生はそんな真島を受け流すとこう答えた。

 

「いや、そんな事はしていない。俺もそういうつもりで誘った訳じゃないからな。お互い、自分の娘の事を話していただけだ。その後はそのまま別れたよ」

 

それを聞いた真島はつまらんとぼやくと興味を失くしたのか、カウンターに腰かけて酒を飲み始めた。

それを見ながら、秋山は納得した様子で桐生に言葉をかける。

 

「成程。だから、酒の匂いしたのか。漸く、合点がいきましたよ」

「まあ、話してみれば何てこともないんだがな。ただ、それを言うのが少し恥ずかしくてな」

「そういや、狭山がアメリカに行って以来、お前に女っ気は無かったからな。まあ、偶にはそういうのもいいじゃないか」

「そうですね。さて、俺の疑問も解消出来た事だし、気を取りなして飲みましょう」

「フッ そうだな。それじゃあ、再会を祝して改めて乾杯するとしよう」

 

そうして、三人はカウンターに向かっていく。

この夜 ニューセレナでは男達の笑い声が絶える事は無かった。

 

その後 楽しい酒盛りは朝まで続き、全員二日酔いに悩まされる事になる。

 

 




サブストーリー011 静かな夜に男達は語り合う 完

真島「まさか、桐生ちゃんと再会出来るとは思っておらんかった。その後、ニューセレナで伊達のおっさん達とも会うとはのう。そして、酒を飲んでμ'sの事を色々と話したな。喧嘩もええけど、こういうのも偶にはええな」


今回のお話はいかがだったでしょうか?
ゲストを交えて、今までの話をいくつか振り返る話となっています。
酒を片手に楽しくμ'sについて話す男達のドタバタ劇を持って、今年は終わりです。

未だに登場させてないキャラや二人が会った事がない子の話は来年以降に書いていきます。

読者の皆様が来年もいい年でありますように
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