桐生「元旦早々、真島の兄さんから呼び出されるとはな。遅れると後が怖いし、早く行くとするか」
今回は元旦の神室町でのドタバタ劇です。
それではどうぞ
大晦日の翌日 元旦の神室町に桐生の姿があった。
今日は元旦という事もあり、街には大勢の人が訪れていた。桐生が辺りを見回すとその場には着物を着た女性や紋付袴を着た男性もいれば、カジュアルな服装の若者の姿がいたりと様々な人が目に映る。今年は劇場広場で行われる催しを一目見ようとやって来た人達によって、劇場広場へ続く道は隙間もなく埋め尽くされている。
そんな人ごみの中で桐生は溜息を吐きながら、自分が人ごみに揉まれる原因を作った真島に心の中で愚痴を溢していた。早朝 真島から電話がかかって来て、劇場広場に来いと呼び出されたのだった。
(全く、今日は寒いからホテルでゆっくりしようと思っていたのに。元旦から人ごみの中を歩く羽目になるとはな・・・ 恨むぜ 真島の兄さん。しかも、早朝から遠慮なしに電話してくるんだから堪ったもんじゃないな。それにしてもアサガオの皆はどうしてるだろうか?はぁ、本当なら今頃はアサガオの子供達と遥が作った雑煮やお汁粉を食べている頃なのに。まあ、今は先を急ごう。約束の時間に遅れたら真島の兄さんがうるさいからな)
こんな事を考えても仕方がない。桐生はそう気持ちを切り替え、約束の場所へ向かう事にした。
そして人ごみの中を歩いていた桐生が、ふと路地に目をやると三人組の少女達の姿が視界に入った。一人目は片方のみ髪を結んだ明るい印象の少女。二人目は短い髪が特徴の大人しい印象を感じさせる少女。三人目は金髪を後ろで纏めた大人っぽい印象を与える少女である。
金髪の少女は何やら、焦った様子で二人の少女に何かを言っている。見ると二人の少女も焦っている様子であった。何か、問題が起きたのだろうか?その三人の少女達が気になった桐生は人ごみから抜け出ると、路地にいる三人へ声をかけた。
「すまない。少し、いいだろうか?」
「え?は、はい。私は大丈夫ですけど…貴方は一体、どちら様ですか?」
「俺は桐生という者だ。道を歩いていたら、三人を見かけてな。何やら、困っている様子だったから気になって、声をかけたんだ。良かったら話してくれないか?何か、力に慣れるかもしれないからな」
「それは助かります。ですけど、どうして見ず知らずの私達に手を貸してくれるんですか?失礼ですけど、裏があるんじゃないんですか?」
「ちょっと、雪穂。本当に失礼だよ」
「そうね。でも、雪穂ちゃんの言ってる事も一理あるわね」
「そんな!?絵里ちゃんまで・・・ この人が親切にも協力してくれると言ってくれてるのに…」
「ええ。それは分ってるわ。だけど、雪穂ちゃんの言ってる事も尤もだと思うの」
親切心には裏があるのではないか?髪の短い少女 雪穂は疑いの視線を向けて桐生にそう言葉をぶつける。その言葉を髪を結んだ少女が諌めた。そして、もう一人の金髪の少女 絵里も雪穂の言葉に賛同する。その事に髪を結んだ少女は反論するが、絵里は慣れた様子で落ち着かせると桐生に向き直って口を開いた。
「私も初対面の貴方が何故、協力をしてくれるのかが気になります。だから、正直に答えて下さい。どうして‥私達に協力をしようと思ったんですか?」
絵里は桐生の目をまっすぐ見つめて尋ねてきた。桐生自身、何も裏なんて無いのだが…確かに初対面の人間が協力を申し出てきたら、警戒されるのは無理もないだろう。このままでは話も進まない為、桐生は絵里の問い掛けに対して、素直な気持ちを吐き出した。
「確かに初対面なのに手を貸すと言ってくる人が怪しいと思う。それは当然の事だ。だが、俺はあんたらを騙したり、危害を加えようなんて思っていない。俺が手を貸すと言ったのは、困ってる人間を放っておけない性分でな。それにこの街で嫌な思いをして、あんた達に神室町を嫌いになって欲しくないというのが一番の理由だ」
桐生も同じく絵里の目をまっすぐ見つめて、そう言った。その言葉に嘘は無いと判断したのか、絵里は頭を下げると自分の非礼を詫びる言葉を口にする。それに続いて、雪穂も頭を下げて謝罪した。
「それが手を貸してくれる理由だったんですね。それなのに桐生さんの親切心を疑ってごめんなさい」
「私もごめんなさい。先程は失礼な事を言ってしまいました」
「いいんだ。それより、何があったのか教えてくれないか?」
桐生は頭を下げる二人にそう言葉をかけて、三人に何があったのか事情を尋ねた。絵里は頭を上げると事情を話し出す。
「ええ。実は…今日、私達は街で行われる催しを見に来たんですが、人ごみを移動してる時に妹と逸れてしまったんです。それで私が妹を探しに行こうとしたら、二人に止められてしまって…」
「だって、こんな人が多いんだよ。それに私達、この街に来たのは初めてだし、土地勘が無いから逆に迷子になっちゃうよ」
「そこは私もお姉ちゃんに賛成だよ。ミイラ取りがミイラになってしまったら、本末転倒ですよ」
「…確かに二人の言う通りだな。下手に動いて、探す側が迷ったら元も子もない。妹さんとは何処で逸れたんだ?それも教えてくれないか」
大体の事情を知った桐生は絵里が妹と逸れた場所について聞いた。広い神室町を闇雲に探すより、逸れた場所を中心に探す方がいいと思ったからである。妹と逸れた場所を尋ねられて、その問いに答えようと口を開いた時、絵里はある事に気が付いた。
絵里は申し訳なさそうな表情でその事を桐生に告げる。
「そういえば、私達は自己紹介してませんでしたね。桐生さんに名前を聞いておいて自分達だけ自己紹介しないのは失礼ですし、先に自己紹介をさせて下さい」
「ん?ああ、言われてみれば三人の名前も逸れた妹の名前も知らないな。それに名前も知らずに逸れた妹を探すのは無理だからな。解った 三人の名前を聞かせてくれ」
絵里に言われて、桐生もまだ三人の名前を知らない事に気が付いた。今までの会話の中で二人の名前が出てきたが、此処は自己紹介をしてもらった方がいいだろう。桐生は絵里の発言に首を縦に振って名前を尋ねた。
最初に自己紹介を始めたのは、髪を片方だけ結んだ子だった。
「それじゃあ、まずは私から。私は高坂穂乃果と言います。よろしく桐生さん」
「ああ よろしくな。それで隣の子は穂乃果の妹なのか?」
そう呟き、桐生は穂乃果の横にいる雪穂に目を向けた。桐生の言葉に雪穂は頷くと穂乃果に続いて、自己紹介をした。
「ええ そうですよ。私は高坂雪穂です。桐生さんの言う通り、私の姉です。姉としては頼り無いですけど…」
「む~ それはどういう意味?これでも最近はしっかりしてると言われる様になったんだよ」
「最近はでしょ?結局、頼りないのは事実じゃん」
「もう!ああ言えばこう言うんだから、雪穂ってば可愛くない~」
「余計なお世話だよ。お姉ちゃんがそんな事だから、海未さんやことりさんに苦労かけるんだよ」
「ほらほら、二人共。そこまでよ。まだ自己紹介は終わってないのよ」
「うっ 確かにそうだね。ごめんなさい」
「私もごめんなさい。見苦しい所をお見せしました」
自己紹介の途中、雪穂の言葉に反応した穂乃果が食ってかかる。売り言葉に買い言葉でお互いが言い合っていると、見かねた絵里が間に入って二人を止める。諌められた二人も反省した様子で言葉を紡いだ。そして気を取り直し、絵里は自己紹介をする。
「最後は私ね。私は絢瀬絵里と言います。それと逸れた妹は亜里沙です」
「逸れたのは亜里沙という子か。さっきも聞いたが、その子とは何処で逸れたんだ?」
三人の自己紹介も終わり、桐生は本題である逸れた亜里沙の事を絵里に聞いた。絵里も記憶を辿りながら桐生の質問に答える。
「確か、私達はバスを降りてから中道通りという道を通っていたんです。それで気が付いたら、もう亜里沙がいなくなってて」
「成程。それなら、まずは中道通りから探してみよう。もしかしたら、その子を見た人がいるかもしれないからな」
「解りました。二人もそれでいい?」
「うん。穂乃果は特に意見は無いよ。早く、見つけるなら桐生さんの提案がいいと思う」
「そうだね。街全体を探す訳に行かないですから」
「善は急げだ。早速、行くとしよう」
絵里の話を聞いて、桐生は中道通りを探そうと提案した。三人も桐生の提案に賛成した事で話が纏り、4人は亜里沙を探す為に中道通りへ向かっていった。
一方、その頃 真島は桐生との待ち合わせ場所である劇場広場へ向かう為、泰平通りを歩いていた。その道も人ごみで溢れていたが、真島の姿を見た通行人が避けていく。素肌にパイソン柄のジャケット、黒革のズボンに蛇の模様が入った眼帯。そんな格好をしてる人を見れば、通行人の行動は当然といえる。最も、通行人を恐れさせているのは素肌から覗く入れ墨が一番の原因だろう。
そんな通行人の事など、何処吹く風といった様子で進む彼の目にある少女が目に映る。その少女は困った顔で辺りをキョロキョロと見回している。そして、不意に少女と目が合うとその子はこちらへ駆け寄り声をかけてきた。
「あの、すみません。ちょっと聞きたいんですけど、いいですか?」
「ええで。せやから、少し落ち着きや。早口過ぎて聞き取り辛いで」
焦っている為か、やや早口で言葉を紡ぐ少女に真島はそう言葉を返す。
「は、はい。そうですね。ごめんなさい」
「別に怒っとるわけやないから謝る必要は無いで。そんで、聞きたい事って何なんや?」
「あ、実は人と逸れてしまったんです。それで探していたら、余計に迷ってしまって…」
「そうやったんか。その逸れた人達とは何処に行くつもりやったんや?」
話を聞くと逸れてしまった連れを探していたら、完全に迷子になったようだ。そんな少女に真島は何処に行くのかを聞いた。それが分かれば、街を把握してる自分が案内する事が出来るからだ。
「行く予定の場所ですか?ええと、確か…劇場広場って、お姉ちゃんが言ってました。そこでやる催しを見に行こうと皆でこの街に来たんです」
「ほう 劇場広場か。それは奇遇やのう。ワシもそこに行く所やで。そや、どうせなら一緒に行かへんか?もしかしたら、嬢ちゃんの連れもそこにいるかもしれんしの」
「いいんですか?それでしたら、道案内をよろしくお願いします」
偶然にも目的地が一緒という事もあり、真島は少女にそう提案した。少女も渡りに船ばかりに真島の提案を受け入れて一緒に行動する事を決めた。
「さよか。ほな、行くとするかの。そうや、まだ名前を言っとらんかったな。ワシは真島吾郎や。嬢ちゃんの名前は?」
「私の名前ですか?私は絢瀬亜里沙と言います。今日は私の姉と友達の姉妹と来たんです」
「そうやったんか。そんで亜里沙ちゃん、そのお姉さんや姉妹はどういう子達なんや?」
お互いの紹介が終わり、会話の中に出てきた姉妹や姉の事を尋ねると亜里沙は満面の笑顔で語り出す。
「今日、一緒に来た姉妹は姉の高坂穂乃果さんとその妹で友達の雪穂。あとは私のお姉ちゃんの絢瀬絵里です。それと私の姉と穂乃果さんはスクールアイドルもやっていたんですよ」
「何や?今日、一緒に来た人の中に穂乃果ちゃんと雪穂ちゃんもいるんかいな」
「え?真島さん。穂乃果さんと雪穂を知ってるんですか?一体、何処で会ったんです?」
真島の言葉に亜里沙は目を見開き、驚いていた。まさか、二人の事を知ってる人に会うとは予想もしていなかったからである。そして自分が好きな人を知ってる事が嬉しかったのか、亜里沙は興奮した様子で質問を真島に質問を投げかけた。
そんな亜里沙に真島も驚き、心の中である事をぼやいていた。
(しかし、最初は大人しそうに見えたが…この子はグイグイと来るのう。まるで穂乃果ちゃんみたいやな。まあ、本人も穂乃果ちゃんの事が好きそうやし、知らない所でいい具合に影響もあるんやろうな。せやけど、あの2人を知っとるだけやなく、亜里沙ちゃんのお姉さんもスクールアイドルをやっていたとは世間は狭いで)
「真島さん?ぼーっとしてますけど、どうかしました?」
心の中でぼやく事に気を取られていた真島に亜里沙が声をかけられ、ハッとすると亜里沙に言葉を返した。
「あ、ああ すまんの。ちょっと、ぼーっとしとったわ。ワシが二人に会ったのは、ある住宅街に美味い和菓子屋があると耳にして…買いに行った日に会ったんや。そこで少しばかり騒動が起きたんやけど…それが切欠で穂乃果ちゃんの家族とも仲ようなってな。それ以降、穗むらの常連ちゅうわけや」
「ハラショー そんな事があったんですね。それじゃあ、海未さんやことりさんにも会った事がるんですか?」
「おう、その二人も知っとるで。ワシが穂乃果ちゃん達と初めて会った時も三人一緒やったしな。仲がええのがよう分かるわ」
「三人は小さい頃から一緒だったと雪穂から聞きました。だからこそ、三人の絆も強く結ばれてるんだと思います」
「そうかもしれへんな。お、話してる内に劇場広場に着いたようやな。それにしても、すごい人ごみや。この中に亜里沙ちゃんの連れがおるかもしれんが、見つけるのは容易やないで」
会話をしている内に二人は劇場広場へ到着するが、大勢の人でごった返している。当然、その中から特定の人を見つける事は不可能だろうと思い、真島はある提案を亜里沙にする。
「そうや。ワシと一緒に見たらどないや?折角、それを見る為に来たんやからな。それに催しが終われば、人も散らばるだろうから連れも見つかりやすくなるしの。亜里沙ちゃんはどうしたい?」
「うーん 私は…催しが見たいです。今日やる獅子舞がとても楽しみでしたから。だけど、他の皆が自分を探してるのに一人だけ楽しんでいいのかな?」
真島の提案に賛成した亜里沙だったが、逸れた自分を探してる皆を差し置いて一人だけ楽しむ事に亜里沙は抵抗を感じていた。本来なら皆で見る筈だったのだから、亜里沙がそう思うは無理もない。そんな亜里沙に真島は優しく言葉をかける。
「亜里沙ちゃんは優しいのう。せやけど、ワシは一人で楽しんでもええと思うで。それに亜里沙ちゃんの好きな人達はそないな事で怒ったりしない。それは亜里沙ちゃんも分かっとる筈や。まあ、連れが見つかった時はワシも口一緒に謝ったる」
「…真島さん。はい そうですね。確かに此処まで来て、楽しまないのは勿体無いですもんね。皆にはあとで謝る事にします」
真島の言葉で踏ん切りが付いたのか、亜里沙は笑顔でそう言った。
「決まりやな。ほな、良く見える場所に行くで」
「はい 行きましょう」
「あ、そうや。今日、ワシの連れが一人来る予定やったが来てへんようやな。ちと、歩きながら電話してもええか?」
「真島さんの友達ですか?はい 良いですよ。一人でも多く一緒に見れたら、楽しそうです」
「おおきにな。ほな、電話させてもらうわ」
そうして二人は獅子舞が見やすい場所を探して、人ごみの中へ進んでいく。その最中、未だに来ていない桐生が気になった真島は亜里沙に断りを入れて、電話をかけた。
場所は変わり、桐生達は亜里沙を探して中道通りに訪れていた。大方、来ていた人は劇場広場へ移動が済んだのか、先程よりも通行人の数が減っていた。道を歩く通行人を見渡して、桐生が口を開く。
「亜里沙と逸れたのは此処だったな。どうだ?亜里沙の姿はあるか?」
「いえ、残念ながらありません。人ごみに流されて別の道へ行ったのかも」
「成程。それなら亜里沙は泰平通りにいるかもしれないな」
「それじゃあ、泰平通りに行ってみましょう」
街に足を運んだ人達の目的地は劇場広場である。もし、人ごみに流されて別の道へ行ったなら亜里沙は泰平通りにいるだろう。桐生の言葉を聞いて、絵里は泰平通りに行こうと進言した。その時、桐生の胸ポケットにある携帯が震え出す。それを手に取って見ると、液晶には真島と表示されていた。そこで桐生は真島と会う約束をしていた事を思い出した。恐らく、到着が遅い自分への不満を感じての電話だろう。
「どうやら、知り合いから電話が来たようだ。少しばかり、時間を貰っていいだろうか?」
「ええ どうぞ。私達の事は気にしないで下さい」
「すまない。すぐに済ませる」
真島からの電話を無視をする訳にもいかず、桐生は絵里達に断りを入れて通話ボタンを押した。電話が繋がると不満気な真島の声が電話先から聞こえてきた。
「遅いでぇ 桐生ちゃん。今、何しとんのや?そろそろ、催しものが始まるで。早よ、来いや」
「すまない 真島の兄さん。連絡するのを忘れていた。ちょっと、ある事をしていてな。そっちに行くのはもう少し掛かりそうなんだ」
「何や?そのある事ちゅうのは?桐生ちゃんの事だから、放っておけないとか思うて厄介事に首を突っ込んだんやろ?全く、相変わらずお人好しやのう」
真島の言葉に桐生はぐうの音も出なかった。真島の言っている事はほぼ当たっていたから…
「無言という事は図星のようやな。はあ、そんで一体、どないな厄介事なんや?言うてみい」
「しかし…」
「しかしもかかしもあらへん。その厄介事が片付かんと桐生ちゃんはこっちに来られへんのやろ?せやから、ワシも協力したる。一人で抱え込まんと素直に言えや」
真島の言ってる事も尤もである。確かに問題が解決しない限り、桐生は約束の場所に行く事が出来ない。桐生自身もそれは分っているので、素直に真島の手を借りる事にした。
「恩に着るぜ 真島の兄さん。実は‥今日、真島の兄さんと見る予定の催しを見に来た人達と会ってな。話を聞くと連れの一人が逸れたらしいんだ」
「ほう そうやったんか。まあ、今日は人が仰山おるからの。で、その逸れた人の名前は?」
「ああ。逸れたのはその人の妹で名前は…絢瀬亜里沙という子だ。名前は日本人のそれだが、見た目は金髪で外国人みたいな感じだ。真島の兄さんは見てないか?」
さっきと打って変わり、今度は真島が無言になった。桐生の会話に出た名前に憶えがあるから…その人物は真島の後ろで笑顔を見せて辺りを楽しそうに眺めている。真島が茫然としていると、会話が途切れた事を不思議に思った桐生の声が聞こえた。
「どうしたんだ?真島の兄さん。さっきから黙っているが、何かあったのか?」
「あ、ああ。いや、何でもあらへん」
「…そうか。それで真島の兄さんはその子を見ていないのか?」
慌てて返事を返す真島に桐生は訝しげに思いながら、改めて尋ねた。それを尋ねられた真島は後ろにいる亜里沙を一瞥すると、意を決してあるがままを話し出す。
「その亜里沙という子なんやが…」
「ん?どうしたんだ?真島の兄さん。知っているなら勿体ぶらないで教えてくれ」
「今、ワシと一緒に劇場広場におるで。名前も同じやし、見た目も一致するから間違いあらへん」
「何!?それは本当か?その子は一体、何処で会ったんだ?」
「泰平通りや。そこを歩いていたら、その子が話しかけてきての。事情を聞くと、その子も連れと逸れたと言うとった」
「そうか。それなら今から俺も連れと一緒に劇場広場へ向かうぜ。そこで落ち合おう」
「解った。ほな、ワシはゲームセンターの前におるわ」
「ゲームセンター前だな。解った。それじゃあ、また後で」
桐生はそう言って電話を切ると、離れて待っている絵里達に電話の内容を伝える。
「待たせたな。いい報せが入ったぞ。どうやら、探してる子は俺の連れと一緒に劇場広場にいるそうだ」
「本当ですか!?良かったぁ。それじゃあ、今すぐ行きましょう」
「亜里沙ちゃんが見つかって良かったね。絵里ちゃん」
「それと桐生さんの知りあいはどんな人なんですか?」
亜里沙が見つかった事で喜ぶ絵里と穂乃果を見ながら、雪穂は亜里沙を見つけたという知り合いの事を尋ねた。その知り合いの事を言ってもいいのかと迷った桐生だが、すぐ会うのだと思って知り合いの名前を三人に教える事にした。
「ああ その知り合いは真島吾郎という人だ。見た目は怖いが、根は優しい人だから安心してくれ」
「「ええ~ 知り合いって、真島さんだったの」」
「どういう事だ?二人は真島の兄さんの事を知っているのか?」
「ええ 知ってますよ。大分、前から家の和菓子屋に買いにくるんですよ。今ではうちの常連です」
「そうなんだよね。それに他の客とも仲がいいし、いつも面白い話を聞かせてくれるからね」
「背景にはそんな事があったのか。何とも奇妙な話だが、誰とも仲良くなれるのは真島の兄さんらしいな」
真島の名前を聞いて、大声を上げる二人に桐生は目を丸くして驚いていた。その事を桐生が聞くと、穂乃果と雪穂は笑みを浮かべて答えた。そして話が終わった頃を見計らって、絵里が声をかける。
「そろそろ劇場広場へ行きましょう。相手の方や亜里沙をあまり待たせる訳にいかないもの」
「そうだな。それじゃあ、行くとするか。そこまで案内するぜ」
桐生は絵里の言葉に頷くと二人が待つ場所へ三人を案内する。
数分後、劇場広場へ到着した4人は人ごみを避けて進んでいくと、ゲームセンター前で待つ真島と亜里沙の姿が目に映る。それを確認した絵里が真っ先に駆けだすと亜里沙を抱きしめた。
「見つかって良かった。もう、すごい心配したのよ」
「うん 心配させてごめんね」
「それと真島さんでしたよね?亜里沙を保護してくれてありがとうございます」
「おう 別に大した事はしてへん。まあ、ワシの方も見つかって良かったと思ってるで。それにしても逸れた連れが穂乃果ちゃん達とは驚きやで」
「それを言うならこっちもですよ。まさか、桐生さんと真島さんが知り合いだとは思いませんでした」
「本当だよ。世間は狭いよね。そうだ、折角だから今日の催しを皆で見ようよ。まだ、始まってないみたいだし」
亜里沙が逸れた皆と再会出来て喜ぶ姿を見ていた真島だったが、今度は穂乃果と雪穂に顔を向けてそう言った。そんな真島に雪穂も桐生と知り合いだった事を驚いたと言葉を返した。そんな中、穂乃果が皆で催しを見ようと彼女らしい提案を持ちかける。その提案を絵里と亜里沙は快く受け入れた。
「そうね。それがいいわね。桐生さんと真島さんにお礼もしたいからね」
「うん そうだね。やっぱり、皆と見る方が楽しいもん」
「せやな。楽しい思い出は皆で作った方がええからな」
「フッ 確かにそうだな」
「おーい 皆、こっち こっち。ここならよく見えるよ~」
「全く、お姉ちゃんたら落ち着きが無いんだから」
「そうね。でも、そこが穂乃果らしくていいと思うわ」
「うん 亜里沙もそう思う」
三人はそれぞれの言葉を残して、穂乃果の所へ走っていく。その三人を見つめながら、真島は桐生に言葉をかける
「どうや?穂乃果ちゃんはええ子やろ?あの子の笑顔は人を明るくする魅力を秘めとるからの。まあ、他の子も負けないくらいええ子やけどな」
「そうだな。確かに他にはない魅力を俺も感じるぜ。真島の兄さんがあの子の家がやってる和菓子屋に通う理由も解るような気がする」
「せやろ?まあ、穂むらの菓子が美味いのもあるんやけど、あの子の笑顔が見たいからと言うのもあるんや。それはワシ以外の客も思ってる筈やで」
「フッ そうなんだろうな。真島の兄さんの言う事も解るぜ」
「桐生さ~ん 真島さ~ん。二人も早く~ そろそろ始まるよ~」
「本人もああいうとるし、行くとするか」
「ああ そうだな。待たせるのも忍びない」
桐生と真島が話していると、遠くから二人を呼ぶ穂乃果の声が聞こえてきた。そんな穂乃果に二人は優しい笑みを浮かべると自分達を呼ぶ穂乃果に方へ歩いていった。
サブストーリー012 神室町はハラショーな人でいっぱいです 完
真島「道中で連れと逸れた少女と遭遇した。その連れが穂乃果ちゃん達で桐生ちゃんと一緒にいるとは驚きやったな。まあ、亜里沙ちゃんも逸れた人と会えてよかったわ」
今回のお話はどうだったでしょうか?
偶然に偶然が重なって、問題が円満に終わるというサブストーリーらしさをより一層、意識してみました。
皆さんの感想をお待ちしています。