真島「何やら、真剣な様子の花陽ちゃんを見つけた。面白そうやし、声をかけてみるかの」
今回は真島さんと花陽のドタバタ劇です。
ある日の神室町。雲一つない晴天の下 真島はのんびりと街を当てもなくぶらぶらと散歩と洒落込んでいた。今日は面倒な書類仕事が無い事もあり、十八番の歌を口遊む程、真島は上機嫌であった。
そんな真島が不意に道端へ目を向けると、小泉花陽の姿を見つけた。当の花陽は何やら真剣な様子で携帯を睨んでいる。
本来なら邪魔したらいけないと立ち去る所だろう。だが、普段は大人しい感じの花陽が見せないであろう顔を見せている。それが逆に真島の好奇心を擽り、興味を抱かせる結果となった。
そんな花陽に楽しげな様子で足早に近付くと、真島は声をかける。
「よう 久しぶりやな!こんな所で何をしとるんや?しかも、そないな怖い顔をして…花陽ちゃんらしくないで」
「すみません。私は今忙しいんです。要件なら後で… あれ?真島さんじゃないですか。こんな所で何をしてるんですか?」
「何って…それはこちらの台詞やで。何や、怖い顔して携帯を見とったから何か厄介事かと思もうての。それで声をかけたんや」
普段と違う花陽の言葉に一瞬、気圧された真島だったが...すぐにいつもの花陽に戻った後、真島は訳を説明した。
「あっ、そうだったんですね。そうとは知らず、失礼しました」
「別にええ。せやけど、花陽ちゃんは何をしとったんや?えらい真剣な顔してたが...」
「ええ。実はこの街であるアイドルを探していたんです。だけど、広いこの街で一人探すのは厳しくて…何とか、情報を集めようと携帯を見ていたんですよ」
花陽は困った顔をして、自分がやっていた事を真島に教えた。その後、花陽はある提案を思い付く。そして頭を下げると花陽は真島へ自身の想いを正面からぶつける事にした。
「そうだ。真島さんはこの街に詳しいですよね?無理を言って申し訳ないですけど、どうか 私に協力して下さい。お願いします」
「...ええで。何を探してるのか知らんけど、花陽ちゃんにそこまでされたら断れへんからな。そんで、探してるのは何や?それを教えてくれや」
(大人しいだけの子かと思っていたが、自分の気持ちをしっかりと言える子やったんやな。正直な所もええ。そんな子にここまでされたら断るなんて出来へんな)
「本当ですか。ありがとうございます」
真っ直ぐ言葉をぶつけてくる花陽を見て、真島は心の中でそう考えていた。そして真島の返事を聞いた花陽は明るい表情で再び頭を下げて、お礼を言う。
「礼を言うんはまだ早いで。それでさっきも言うたが、花陽ちゃんが探してる物を教えてくれや」
「あっ、そ、そうでした。私が探してるのはT-SETです。噂ではこの街でT-SETのイベントがあるらしいんです。それで神室町へやって来たんですが、探しても一人じゃどうにもならなくて…」
「それで街に詳しい俺にお願いしたっちゅう訳か。話は分かった。そういう事やったら、朝飯前や」
「はい。頼りにしてます。一応、天下一通りは一通り探して見たので、次は泰平通を探してみます」
「それじゃあ...俺は中道通りを探してみるかのう」
「そうだ。その前にお互いの携帯番号を交換しませんか?何か分かったら、すぐ連絡出来ますから」
「そうやな。確かに見つけても知らせる術が無いと意味ないからのう」
「これでよしと。じゃあ、私は泰平通りに行ってきます」
「おう。あそこは酔っ払いも多いから気を付けるんやで」
話し合いの結果、花陽は泰平通り。真島は中道通りを探す事に決まった。そして花陽の提案でお互いの携帯番号を教えた後、二人は目的の物を探す為に別行動を開始する。
しかし、花陽はこの時...真島がある勘違いをしている事に気付いてはいなかった。
花陽と別れた後、その足で真島は中道通りへ訪れていた。普段は人で混雑している場所だが、幸いにもお昼前という事もあり、人の数は少ない。
「今日は空いてるようやな。これなら探すのも幾分楽そうやな。ん?」
そして通りを見渡すと喫茶アルプスの前で店長が声を張り上げ、何やら宣伝をしている姿が目に入った。それを見た真島は渡りに船だと、軽快な足取りでマスターの元へ向かうと声をかける。
「おう。マスター。今日はえらい景気が良さそうやんか。何の宣伝をしとったんや?」
「おや?真島さんじゃないですか。今、やっていたのは本日のお得メニューの宣伝ですよ」
自分に話しかけてきた真島に気付くと、店長は人の良さそうな笑顔でやっていた事を教えた。店長がやっていた事を知った真島だが、新たに浮かんできた疑問を投げかける。
「ほー そうやったんか。せやけど...そういった仕事は普通、バイトとかがやるもんなんちゃうんか?何で店長がやってんねん」
「その事ですか?まあ、本来はバイト等の仕事ですけどね。最近は店長も表に出てくる事が多いです。それに以外と楽しいんですよ。バイトの若い子達とコミュニケーションを取る機会も出来ますからね」
「そうか。まあ、バイトも同じ店で働く仲間やからな~ そういうのも大事なんかもしれへん。ところで宣伝してたメニューは何なんや?」
「ああ それですか?それは時間限定のティーセットメニューですよ。朝は6時から8時。昼は12時から14時に行っています。今は丁度お昼ですし、真島さんもどうです?美味しいフードとアルブス自慢の紅茶やコーヒーを同時に楽しめるセットですよ」
店長と会話の中、真島は宣伝してたメニューが気になって尋ねた。聞かれた店長も待ってましたと言わんばかりの様子で真島に答える。しかし、真島は店長が言ったある言葉に注目する。
(...ティーセットやと?そういや、花陽ちゃんが探していたのもティーセットやったな。もしかして、これの事かともしれへん。探し物は意外な所にあるもんやからな。花陽ちゃんに連絡してみよか)
「妙に腹が減ると思ったら、もうお昼やったんやな。折角だし、食っていくとするか」
「ありがとうございます。それでは中へどうぞ」
「おう。せやけど、その前に電話しないとあかん人がおるんや。それを済ませてからやな。それまでやってるとええけど...」
「そうでしたか。まあ、時間はまだありますから大丈夫ですよ」
「さよか。ほな、ちょっと電話してくるわ」
真島は電話を取り出すと、花陽に電話をかけた。かけて数コールもしない内に花陽が電話に出た。
「もしもし、真島さん。連絡をしてきたという事はT-SETが見つかったんですか?」
「おう。一応、ティーセットは見つけたで。場所は喫茶アルプスという店や」
「喫茶アルプスですね?分かりました。今からそちらへ向かいます」
こう言い残して花陽は電話を切った。そして数分後、駆け足で花陽がやってきた。
「…ハァ、ハァ、お待たせして…すみません。それでT-SETは何処ですか?」
「ああ それなら...あそこや。まさか、こないな所にティーセットがあるとはのう」
息を切らして尋ねる花陽に真島はある場所を指さして答える。それを聞いて、自分が探していた者がすぐ傍にいる。その事に花陽は目を輝かせ、指差す方を見た瞬間。喜びの表情は落胆の表情へ変わった。
「…あれ、何ですか?」
「うん?何って、ティーセットやないか」
「あの~ 申し訳ないですが、私が探してるのは別のT-SETなんです」
「何や。これや無かったんか。そら すまなかったの」
「い、いえ 私の方も協力してもらってるのにごめんなさい」
すまんと謝る真島を見て、花陽は慌てた様子で言葉を返す。コロコロと表情を変える花陽の様子がおかしかったのか。真島は溜まらず、笑いを溢した。
「フッ、別に気にしてへん。それより、探し物の続きと行こうやないか」
「そうですね。私も泰平通りを見て回りましたが、これといった情報はありませんでした」
「ほうか。なら、他の場所を探して見るかの。見て回ったのは天下一通り、泰平通り、中道通りやから...そうや 次は劇場通りと公園通りを探してみよか」
「はい じゃあ、私は劇場通りを当たってみます。あそこはよく通るので土地勘がありますから」
「分かった。ほな、俺は公園通りを探してみるわ。それと花陽ちゃん。折角やし、飯でも食わへんか?丁度、アルプスでお得なセットをやっとるようやで」
二人で話し合い、次に探す場所を決めた後、真島は花陽を食事に誘う。昼時でもあり、周りでも昼食を取ろうとする通行人が増えて来ていた。
「ごめんなさい 真島さん。実を言うと、お昼はさっき食べたばかりなんです」
「そりゃ、タイミングが悪かったの。それと花陽ちゃんはもう行くんか?」
「ええ 出来るだけ、早い方がいいですからね。真島さんはお昼を食べてからでも良いですよ。空腹で街を歩かせるのは悪いですし」
「さよか。せやけど、飯はいつでも食えるからの。ま、今は花陽ちゃんの探し物が優先や」
「ありがとうございます。それじゃあ、私は劇場通りへ行ってみますね」
満面の笑顔で花陽は真島にお礼を言うや否や、さっき同様に駆け足で劇場通りへ向かって行った。
「やれやれ。思っていたより、花陽ちゃんはお転婆な子やのう」
「そうみたいですね。にしても真島さんが花陽ちゃんと知り合いとは意外でしたよ」
颯爽と立ち去る花陽の後ろ姿を見て、真島はポツリと一言呟いた。そんな真島達の様子を眺めていたアルプスの店長が近づいて話しかけてきた。
「ん?店長も花陽ちゃんの事を知っとるんか?」
「ええ うちの店でバイトをしてる子がμ'sのファンでしてね。最近、店でもμ'sの曲を流しているんですよ」
「そうやったんか。そうだ 店長。今、花陽ちゃんの探し物を手伝ってる最中でな。ティーセットを探しとるんや。最初、この店のティーセットやと思っていたんやけど、どうやら違う様でな。店長は何か、ティーセットに関する話を聞いておらんか?」
真島は店長に自分がやっている事を説明して、ティーセットに関する情報を知らないかと尋ねた。年齢層が違う客が来る喫茶店で働く店長なら、何かしらの噂を聞いてるかもしれない。そう考えたからである。
「うーん ティーセットに関する話ですか・・・ ああ そういえば公園通りの方で露天商が食器類を売っていたのは見ましたよ」
「ほんまか?それはいつ頃の話や?」
「今日の朝ですよ。私が出勤する際、通った時です。結構、多くの食器があったからティ―セットの類もある筈です」
「そうか。恩に切るで店長。ほな、俺は今から公園通りに行ってみるわ。せやから、時間限定のお得メニューを食べるのはまた今度になりそうや」
「いえいえ 時間限定のセットメニューは毎日やっておりますからね。いつでもいらしてください」
「フッ さり気なく宣伝とはちゃっかりしとるのう」
「ハハハ これでも商売人ですからね。そこは抜かり無しですよ。それでは私は仕事に戻るのでこれで失礼致します」
「おう 情報ありがとうさん」
お礼の言葉を言う真島に店長は静かに一礼して去っていく。それを見送り、真島も目的の公園通りへ向かって歩き出す。
真島が立ち去った後、中道通りではある二人の少女が姿を現した。するとその場は大勢の人でごった返す。そんな人達を二人の付き人が拡声器を手に制した。
「皆さん 押さないで下さーい。T-SET握手会、ご参加の方は一列にお並び下さるようお願い致します」
不幸な事に真島が立ち去った後、中道通りでは有名アイドル T-SETの握手会が始まった。
それを知らない真島は公園通りへ来ていた。アルプスの店長から聞いた通り、道には複数の露天商の姿を見かける。
「ほう~ 見た所、色んな出店があるようやの。お?どうやら、あれがそうみたいやな」
公園通りの道を歩きながら、真島は目的の露天商を探しているとそれはすぐ見つかった。
「ちょっとええか?此処で食器を売っとるようやが、ティ―セットの類は置いてるかの?」
「いらっしゃい。お探しの物はティーセットですか?それなら丁度、ワンセットありますよ。お客さん 運がいいですね。ティーセットは今あるので最後ですからね」
「そうなんか。実は俺の知り合いがティーセットを探してるんや。今、連絡して呼ぶさかい。だから、そのティーセットを取って置いて欲しいんや」
「そうでしたか。事情は解りました。この商品は売らずに取って置きましょう」
「おおきに。ほな、連絡してくるわ」
頼みを聞き入れてくれた店主にお礼を述べた後、真島は再び花陽へ電話をかけた。案の定、数コールもしない内に花陽は電話に出た。
「もしもし。電話をかけて来たという事は見つけたんですか?」
「ああ 見つけたで。とりあえず、急いで公園通りまで来てや。道は解るやろ?」
「大丈夫です!それでは今から行きますので待ってて下さいね」
そう言うと花陽は電話を切った。それから数分後 遠くから駆け足でやってくる花陽が姿を現した。
「ハァ、ハァ、お待たせしました。それでT-SETは何処ですか?」
「そないに慌てなくてもティーセットなら…ほら、そこにあるで」
「え?ある?もしかして、見つけたのはこれですか?」
真島が指し示す方向にあった紅茶用の”ティーセット”を見て、花陽は戸惑いの表情で言葉を洩らす。
「何って、ティーセットやないか。もしや、これも探してるのと違うんか?」
「言いにくい事ですが、これも私が探してるのと違います。そもそも...私が探しているのはアイドルの”T-SET”です」
「何や、花陽ちゃんが探していたのはアイドルの方やったんか。それなら先に言ってくれたらええのに」
「あっ、ごめんなさい。そういえば、肝心な事を伝え忘れていました」
2度に渡る食い違いから、何か妙だと感じた真島が花陽に尋ねる。花陽も真島との食い違いに気付いたのだろう。自身が探しているのはアイドルのT-SETだと真島に教えた。
「横から口を挟んで悪いのですが、取り置きをしてるティーセットはどうなさいますか?」
二人の会話を聞いていた店主だったが、頃合いを見計らって二人に話しかけてきた。その事で自分が取り置きするよう頼んでいた事を真島は思い出した。
「ああ すまん。すっかり忘れとった。まあ迷惑をかけてもうたし、そのティーセットはワシが買うからもう暫く取り置いてや」
「解りました。それでしたらこのティーセットは取って置きますね」
「ついでに聞くが、この街でアイドルに関する情報を知らんか?知っていたら教えて欲しいんや」
店主とティーセットを買う約束をした後、真島は別のティーセットの情報を尋ねた。尋ねられた店主は暫くの間、考え込んでいるとハッと何かを思い出してある事を口にする。
「ああ 私が聞いた話ですがね。今日、中道通りで有名人の握手会が開催されるようですよ。確か、名前はT-SETとかいう名前でしたね」
「それは本当ですか?一体、そのイベントは何時頃です?詳しく教えて下さい」
店主がT-SETの名を出すと、それを聞いた花陽は凄まじい剣幕で店主に詰め寄って問い詰める。
「え?あ、ああ 開始する時間は知らないけど、お昼頃にやると聞いたような「こうしてはいられません」って、お客様!?」
「はぁ~ 人は見かけによらんもんやのう。すまん 店主。俺はあの子の後を追わなあかん。とりあえす、ティーセットの取り置きは頼んだで」
「は、はい 解りました。二人揃って、嵐みたいな人だ。やっぱり、神室町は変わってるなぁ」
放たれた矢の如く、中道通りへ全速力で向かう花陽を見て真島は溜息混じりでぼやいた。そして店主に一言だけ告げて、真島も花陽の跡を追っていった。
二人が立ち去った後、店主は一人 そう呟いてた。
あの後、中道通りに向かった花陽を追いかけていた真島だったが、意外にも花陽の足が速く中々追い付く処か、その姿を見失っていた。
「ハァハァ... ひ、人はほんまに見かけに寄らんの。あの小さい体の何処に体力があるんやか。一向に距離が縮まらへんわ」
全速力で走っている所為か、掠れた声で真島は愚痴を吐く。そんな追いかけっこをしている間に真島は中道通りへ到着した。アイドルが訪れていると聞いた為、大勢の人がいるのを予想していたが、既にアイドルは退散したのだろう。思っていたよりも人は少なかった。
「何や、思っとったよりも人がおらへん。これなら花陽ちゃんもすぐ見つかりそうやな」
その言葉通り、道路に面した道で花陽の姿を見つけた。目的のアイドルと会えなかった故か、花陽の後ろ姿は言いようのない哀愁が漂っていた。花陽がアイドルに会えなかったのは勘違いをしていた自分にも非がある。そう考えた真島はおずおずと花陽に声をかけるべく、口を開いた。
「なぁ、花陽ちゃん。その、何と言って良いか俺には分からん。せやけど、元気出し「真島さん 私、T-SETと握手しちゃいました!! それに応援ありがとうって、笑顔でそう言ってくれたんですよ。私、もう嬉しくて嬉しくて溜まりません。今日は最高の一日です」ほ、ほう。それは良かったのう」
落ち込んでいると思い、真島が慰めの言葉をかけようとした時、興奮した花陽が怒涛の勢いで言葉を発する。その勢いとテンションの高さに二の句が告げないでいる真島を見て、花陽は照れた様子で言葉を紡ぐ。
「あっ、ごめんなさい。私、アイドルの事になるといつもこうなんです」
「まあ驚きはしたけど、別に謝る事はあらへん。それと探していたアイドルと握手出来て良かったやないか」
「はい!真島さんも協力してくれてありがとうございます」
「おう 俺も花陽ちゃんの力になれて良かったで。そうや、今から喫茶アルプスに行かへんか?腹も減ってきたしの」
「そうですね。私もお腹空きましたし、行きましょう」
「ほな、お洒落なブランチと行こうか」
「はい」
そうして二人は喫茶アルプスへ向かって行った。妙な勘違いもあったが、ティーセットを廻る騒動はこうして幕を閉じた。
サブストーリー016 暴走!アイドル大好き少女 完
真島「まさか、花陽ちゃんが探していたのがアイドルのティーセットやったとはな。世の中にはややこしいモノもあるもんやな」
今回のドタバタ劇。いかがだったでしょうか?
T-SETとティーセット。文字にすると一目瞭然ですが、言葉だと伝わりにくいですよね。
宜しければ感想をお願いします。皆様の感想をお待ちしています