真島「ワシに話しがあると希ちゃんからメールが来た。一体、何やろか?」
梅雨も明けて、暑い夏が来たので夏仕様の話を書きました。それではどうぞ
梅雨に入り、夏が近づいて来たある日の事。冷房が効いた事務所で真島は寛いでいた。
「は~ 最近、蒸し暑い日が多くなってきたのう。夏だから暑いんは当然やけど、こうも暑いと外を歩く気がせえへんな」
梅雨だというのに真夏と思わせるような陽射しが部屋を照らす。真島組の事務所はミレニアムタワーの一角にある為に太陽の光を諸に浴びる。それ故、夏季は室内の温度が高くなる。当初は電気代を節約しようと冷房の使用を禁止していたが、そこは組員も人間。夏の暑さにやられる者が次々と出た為に現在は使用を許可している。
何か、面白い番組が無いかと真島がテレビを付けると丁度、怪奇特集の宣伝が流れていた。驚かせようと大げさな言葉を並べているが、真島は興味が無いとテレビの電源を切ってしまった。
「はあ~ 昔ならまだしも、今の時代。あの手の奴は嘘くさいからのう。あんなもんより、お化け屋敷の方が百倍怖いわ」
ソファーに寝そべり、そうぼやいた時だった。机に置いていた真島の携帯が震え出した。いきなりの事で内心、吃驚していたが落ち着きを取り戻すと体を起こした。一体、誰からだと携帯を確認すると一件のメールが届いていた。送り主を見ると珍しい事に相手は以前、自分が力を貸した東條希からである。
(最初は穂乃果ちゃんやと思ったけど、希ちゃんからのメールとはのう。せやけど、ワシは希ちゃんにメールアドレスを教えとらんかった様な・・・まあ、ええか。それにしても何の用やろか?まさか、あの時みたいな厄介事や無いやろか?ま、それは見てみれば解る事やな)
一体、何事かと真島は頭を捻らせていたが、当然ながら答えが出る筈がない。真島はメールボックスを開いて届いたメールに目を通す。
『突然、メールを送ってごめんなさい。実は真島さんにある話が有りまして、穂乃果ちゃんに無理を言い真島さんのメールアドレスを教えてもらいました。今、神室町に来ていますので良ければ会ってお話を聞いては貰えませんか?いる場所は中道通りの喫茶店前です。お返事待ってます』
希から届いたメールにはその様に書かれていた。どうやら本人は神室町に足を運んでいるらしく、今の所は特に予定もなく、暇を持て余していた真島は希に会う事を決めると了承の返事を返した。
身支度を終えて、事務所を出ようとした時、一人の組員が声をかけて来た。
「あれ?親父、今から外出ですか?」
「おう。少しばかり野暮用があってのう」
「用事ですか…今の時間はかなり暑いですし、何だったら俺が変わりに行ってきましょうか?」
「いや、別にええ。この用事はワシが行かな意味があらへんからな。気持ちだけ受け取っておくわ」
外の暑さを気にしてだろう。組員は真島の変わりに用を請け負うと申し出た。いつもなら任せる所だが、今回の用事は自分でないと意味が無い。それ故、真島はその申し出を断った。
「…そうですか。親父なら平気でしょうけど、熱中症には気を付けて下さいね。最近、それで運ばれる奴が増えてますから」
「そうか。ま、こないに暑かったら、そうなるやろな」
「おまけに吹く風も生温かいし、夜は幽霊が出そうです」
太陽は雲に隠れているが、梅雨特有の湿気の所為で風が吹いても暑く感じさせる。その状況はまるで幽霊が現れる時に似ていたのか、組員はぽつりとそう呟いた。
「ハッ 幽霊なんぞ、いる訳あらへんやろ。アホな事を言うなや」
「それが出るみたいですよ。近頃、神室町で幽霊が徘徊してるという噂があるんです。うちの組員も見た奴がいるそうですからね」
幽霊なんていないと一蹴する真島に組員はある噂話を教えた。その話の中で組員も見たという事を聞いて、真島は興味が湧いたのか組員に詳しい事を尋ねる。
「それはホンマか?一体、何処で見たんや?」
「場所ですか?確か、天下一通りと中道通りを繋ぐ路地で見たらしいですよ。組の連中が見たのは其処ですが、他の人はピンク通りの路地で幽霊を見たという話もあります」
「ほう。違う場所でも目撃されてるんか。せやけど、路地に出るんは同じようやな」
「親父…まさか、その幽霊を探しに行くんですか?眉唾な話ですけど、万が一もあるから止めておいた方が…」
楽しげな表情で呟く真島を見て、嫌な予感を感じながらも組員は止める様に進言した。
「あ?アホ抜かせぇ~ ワシが幽霊如きに遅れを取ると思うんか?それに本物の幽霊に会える機会やしのう」
「そうですか。まあ親父なら相手が幽霊でも大丈夫でしょうが、気を付けて下さいね」
「おう。ほな、ワシは用事を済ませてくるさかい。あとは頼んだで」
「はい」
そう言って真島は神室町へ繰り出していった。
「メールでは中道通りの喫茶店前にいると書いてあったのう。「真島さん」ん?」
待ち合わせの場所である中道通りへやってきた真島は辺りを見回して希を姿を探していた。すると後ろから自分を呼ぶ声が聞こえ、声の方へ振り向くとそこには笑顔を浮かべる希の姿があった。。
「何や~ いきなり声をかけるなんて、吃驚するやないか。それとメール見たでぇ。何や、ワシに話したい事がある様やけど、一体どうしたんや?」
「ふふ 驚かせてごめんなさい。それと呼び出した理由ですが、実はある噂を検証したくて来たんです」
「噂?その噂って、何やねん?」
「ええ それは最近、この神室町で幽霊が出るという噂です。うちが通う大学でも話題になっていて、少し興味があるから来たんです。でも、その場所が路地と聞くから一人だと不安で誰か一緒について来てくれる人を探していたんですが、誰も首を縦に振ってくれなくて…そこで思い付いたのが」
「ワシっちゅう事か。そんなら奇遇やな。実を言うとワシもその幽霊に会うて見たくて探すつもりやったんや」
希の話を聞いて、真島は内心驚いていた。まさか、用事を済ませた後でやろうとしていた事が全く同じだとは予想していなかったから。それは希も同様で暫く、茫然としていたが真島の目的が自分と同じだと知ると希は嬉しそうな様子で言葉をかける。
「それなら噂の検証を手伝ってくれるん?い、いえ くれるんですか?」
「ん?別にワシは構わへんで。それと言い直さんでもええ。下手に飾らんと。それが希ちゃんの個性なんやからな」
「はい でも、慣れるまでは今の口調で話します。あと、真島さんは目上ですから敬語も許して下さいね」
「おう。ほな、幽霊探しと行くか。話じゃ幽霊は路地に出るそうやけど、どこの路地から当たるんや?」
幽霊探しをする前に探す場所を決める為、真島はそう切り出した。何せ、神室町には沢山の路地がある。それを一つずつ探してもキリが無いと思ったからだ。
「そうですね。うちが聞いた話やと、天下一通り付近の路地で目撃した人が多いみたいです」
「天下一通りか。ワシの組の奴の話じゃ、ピンク通りの路地にも出るみたいやで」
「ピンク通りですか…じゃあ、まずはそこから探して見ましょう」
「決まりやな。と言ってもまだ日は高いし、暗くなるまで適当に時間を潰すとするかの」
「それなら韓来に行きませんか?正直言うと、お昼を食べてへんからお腹ペコペコなんです」
「フッ せやな。そういや、ワシも腹ペコやし行くとするか。昼から食う焼肉も偶にはええからの」
希の提案に真島は笑みを浮かべ、賛成した。普通なら映画やショッピングに行こうと言うと思いきや、出た言葉が焼肉を食べたいとは真島も思っていなかった。自分の気持ちに正直で欲望に忠実な希の事を真島は穂乃果と同じくらいに気に入っていた。
しかし、この後、真島は希の食欲に青ざめる事になるのは別の話。
数十分後、韓来で食事を済ませた二人は近くの公園に来ていた。備え付けのベンチに座り、陽が沈むまで時間を潰す事にした。
「そういや、忘れていたけど…神室町に出るっちゅう幽霊はどんな見た目なんや?それを知らんと探しようが無いで」
「幽霊の見た目ですか?うちが聞いた話では中学生くらいの女の子だったようですよ。何でもベンチに座っている所を見て、ふと気付いたら一瞬で姿を消したり、路地を歩いていると後ろから後を付けて来て、振り変えると姿を消すという事もあるみたいです」
「ほー 成程のう。人によっちゃ目撃パターンが違うんか。せやけど、見た目が中学生くらいの女の子っちゅうのが唯一の手掛かりやの」
「ええ だけどもこの街じゃ、そんな見た目の女の子は大勢いますからね。姿形が解っても探すのは難しいと思いますよ。流石に見つける度に貴女、幽霊ですか?と聞く訳に行かないですし」
「それもそうやな。まあ、考えても仕方あらへんな。とりあえず、目撃情報がピンク通りと天下一通り。この二つの路地を当たるとしよか」
「はい」
幽霊探しの最終打ち合わせも終わり、この後、二人は他愛ない話で盛り上がった。そうしてる内に陽も沈み、空は暗くなっていった。
「さて暗くなってきたし、そろそろ行くとしよか」
「そうですね。最初はピンク通りの路地から当たりましょう。此処から近いですから」
「それもそうやな。一応、言っとくがピンク通りを歩く時はワシから逸れんようにな」
「はい 解りました」
目撃場所の一つであるピンク通りへやって来た二人。此処の路地はビルの間にある為、昼間でも薄暗く、夜は更に暗い。煌びやかなネオンの光がある表とは違い、ビルの窓から差し込む光以外は無い。その事が何とも言えない不気味さを醸し出している。
「…この路地。ワシは何度も通ってるが、今回は何とも不気味に感じるのう」
「ええ 確かに。こんな場所なら幽霊が現れるのも解ります」
「ま、怖がってもしゃーない。いくで」
「はい」
希にそう言葉をかけて、真島は暗い路地へと進んでいった。希を勇気付ける為に言った言葉であるが、まるで自分に言い聞かせてる様にも見える。そんな真島に希は微笑を浮かべると後を付いて行った。
「外から見た時もそうやったけど、中を進むとこらまた不気味やのう。せやけど、幽霊以前に人っ子一人おらんの」
「そうですね。表の道は人が大勢なのに路地は別世界みたいですね」
「ほんまやな。ん?あれは…希ちゃん、こっちや」
路地を探索していると真島は何かを見つけた。その正体にいち早く気付いた真島は希の手を取って、近くの暗がりへと引張っていった。咄嗟の事で希自身も何が何だか分かっていなかったが、真島の焦った様子から尋常じゃない事が起きているのは察知した。
暗がりに隠れてから数秒後、コツコツと足音を立てて何者かが通り過ぎて行った。幸いにもその人物は二人に気付く事なく、路地を後にした。謎の人物が完全に立ち去ったのを確認した真島がホッと一息を吐いて、「ふう 危なかったわぁ」と一言呟いた。
「一体、さっきの人は誰やったん?何か、すごい焦ってたけど…」
頃合いを見て、希は真島に尋ねた。驚きの為か、本人も知らずといつもの口調に戻っていた。
「ああ 実はあいつ、この界隈で幅利かせとる密売人や。組の奴の話では結構、物騒な奴と聞いとる」
「そうやった…そうだったんですね。でも、見つからずに済んで良かったわ」
「せやな。また戻ってくるかもしれへん。残念やが、此処での探索は中止して切り上げよう」
「はい」
真島の提案に希は首を縦に振る。基本、怖い物が無さそうな真島が物騒と言わせた相手に希は密かに恐怖を感じていたからだ。二人は急いで路地を後にした。
「さて、残ってる路地は天下一通りやな。人通りが多いあそこで幽霊に会えるんかのう」
「どうでしょう?でも、幽霊に時間と場所は関係ないみたいやし、多分会えるかもしれないですね」
「ほう。昔やと、幽霊が出るんは暗い時と人がいない場所がお決まりやったけど、今は違うんやな」
「とりあえず、駄目元で行ってみましょう」
「そうやな。まずは行動あるのみや」
出る出ないと話していても結論は出ない。二人はもう一つの目撃場所である天下一通りへ向かう事にした。
「やって来たけど、やはり人が多いのう」
「ええ この人の多さだと探索以前の問題ですね」
天下一通りでは仕事を終えたサラリーマンや塾帰りの学生で溢れていた。路地でも人を待ってる者や飲み会の集まりとおぼしき集団が目に映る。先程までいた路地とは全く雰囲気が異なり、この場所に幽霊が現れるとは思えなかった。
「はあ、この様子で探すのは無理やな」
「そうですね。今回は諦めましょう」
「せやな。そうや、折角やし、今から夕飯を食いに行こうで」
「いいですね。丁度、お腹も空きましたし、行きましょう「あの…」ん?」
幽霊探しを断念した後、真島が夕飯に誘った。希自身もお腹が空いていた事もあり、真島の誘いに返事を返した時、声をかけられた。振り向いた先にいたのは中学生くらいだろうか、制服を着た女の子が立っていた。何かあったのか、少女は困った様な表情を浮かべている。
「どうしたん?ウチ等に何かご用かな?」
最初に声をかけてから、何の言葉を発しない少女に希は優しく問いかける。すると暫しの間、俯いていた少女は顔を上げて、事情を話し始めた。
「実は…ある店を探しているんですけど、場所が解らず迷ってしまって」
「何や、嬢ちゃんは迷子なんか。それで探してる店は何ていう名前なんや?」
「その店は神室庵というお蕎麦屋さんです。今日、家族と食べに行くんですけど、店の場所が変わっていたんです。街を探していたけど、その店が見つからなくて途方に暮れてた所、お二人を見賭けまして、それで道を聞こうと声をかけたんです」
少女の話では家族と一緒に食事をする予定だったが、店は別の場所へ移動していた。その後、探していたが、結局見つける事が出来なかったとの事だった。
「そういう事やったんか。そういえば組の奴から神室庵の場所が変わったと聞いたな。確か…昭和通りの方にあるようやで」
少女が言った店の名前に真島は覚えがあった。以前、組員の一人から店の場所が変わったと話していたのを聞いていたのだ。
「昭和通りにあるんですね!!教えてくれて、どうもありがとうございます」
「ちょい待ちや。行く前に嬢ちゃんの名前を教えてくれへんか?」
「あっ ごめんなさい。私、神城夕子です。今更ですけど、お二人のお名前は?」
真島の言葉で自己紹介をしてなかった事に気付き、少女は自身の名前を告げた。そして今度は夕子が二人に名前を尋ねる。
「おお そうやったな。ワシは真島吾郎や」
「ウチは東條希。よろしゅうな」
「真島さんに希さんですね。よろしくお願いします。それとお二人は親子ですか?」
「「え?」」
夕子の発言に驚きの余り、言葉を失っていた。そんな二人の様子など、お構いなしに夕子は更に言葉を続ける。
「フフッ だって、仲が良さそうですし、それに息もピッタリだったから」
「さよか。せやけど、ワシと希ちゃんは血の繋がりの無い他人やで。まあ、言うなら友達やな」
「へ?真島さんと希さんは友達なんですか。それはごめんなさい」
「別に謝らんでええよ。それにさん付けしなくていいよ。堅苦しいのは苦手やからね」
「そうやな。それとワシもさん付けはいらへんで。それはそうと、家族の所に行かんでええんか?今日、一緒に飯を食うんやろ?もう20時近いで」
和やかな雰囲気で会話が続く中、夕子の目的を思い出した真島は夕子に告げる。すると、夕子は途端に慌てた表情を浮かべた。
「あっ そういえば、もうこんな時間だ、急いで行かないと」
「おう。行くなら中道通りから道路沿いに行きや。そっちなら真っ直ぐ行くだけやし、何しろ安全やからな」
「はい ありがとうございます。また縁があれば、会えるといいですね」
「大丈夫や。きっと、また会える。ウチの感はよく当たるんよ」
「そうですね。また街へ来た時は今度は私が二人を探しますね。それでは失礼します」
そう言い残して夕子は目的の店へ向かっていった。その姿を見送った後、真島がぽつりと呟く。
「何や、もう幽霊を探す気は起きへんな。また今度にしよか」
「はい 私も今日は帰ろうと思います」
希も真島の意見に反対する事はなく、解散する事にした。
「そうか。じゃあ、夜も遅いしタクシー乗り場まで送るで」
「ありがとうございます。今日は振り回してしまってごめんなさい」
「別にええ。何だかんだでワシの方も楽しかったからのう」
「そうですね。また、機会を見つけて神室町を探索しましょう」
「おう。それは楽しみやな」
楽しく談笑しながら二人は去って行った時、生暖かい風が道に捨てられていた新聞を捲る。そのページにはある事故の記事が綴られていた。
『悲劇!!女子学生、轢き逃げされる。19日、道端で倒れている少女を通りすがりの通行人が発見。早急に警察、救急車を呼ぶものの少女は即死の状態であった。後に学生証から身元は地元の中学校に通う神城夕子さん(15)である事が判明。警察の必死の捜査で犯人は20代の大学生を逮捕した。犯人は飲酒をして運転しており、夕子さんを轢いた事に気付かず、そのまま走り去ったと述べている』
後日、二人はニュースでこの事故を知り、顔を青くしたのは言うまでもない。そう 二人は件の幽霊と会っていたのだから...
その後、暫くの間二人は夕子が残した「今度は私が二人を探しますね」この言葉に震える夜を過ごした。
サブストーリー018 希の神室町不思議探訪 路地の幽霊 完
「結局、噂の幽霊は見つからへんかった。見つかったのは道を聞く女の子だけやった。せやけど、道に迷った子の言葉に何処か引っかかるのう。まあ、別にええか」
今回のお話はどうだったでしょうか?夏らしい話を書けたと自分は思っています。ちなみに希が敬語の場合は真島さん、本来の口調は幽霊の少女に対してです。
もし宜しければ、一言でもいいので感想を貰えると嬉しいです。