真島「暇つぶしに来たゲームセンターのクレーンゲームで困ってる少女を見つけた。折角やし、手を貸したるか」
今回はゲームセンターで起こるドタバタ劇です。
それではどうぞ。
この日 真島は暇を持て余していた。いつも怠けてやっていた書類仕事を今日だけは真面目に取り組み、あっさりと終わらせたからである。
(何や、気付いたらもう仕事はお終いか。久しぶりに気合入れてやったのにのう~ ま、これであとはのんびり出来るからええか。外の空気も吸いたいし、街へ繰り出そう。おっと、その前にメモを残しておかんとな。黙っていくと西田の奴が怒るからな)
普段は大人しく臆病な性格をしている男だが、そんな西田も仕事の事になるといつも小言を言ってくる。当然、小言を言う奴にはお仕置きという名の制裁を加えてやる所なのだが…それを言う時の西田は真島も逆らえない。
(思えば、あいつも以前より貫禄が出てきた感じがするのう。ここ最近、あいつに相談する奴も増えたと聞いとる。この調子ならあいつもそう遠くない内に自分の組を持つようになるかもしれへんな。お?噂をすれば影や。どうせやし、一声かけておくか)
「おう 西田。丁度良い所におったわ。少しの間、俺は出かけてくるで」
「え?で、出かけるって、まだ仕事があるじゃないですか」
「それやが、俺の仕事は全部終わったで」
「本当ですかぁ?サボリ癖がある親父が仕事を真面目にやるなんて…明日は台風が来るかも」
何かと理由を付けて、仕事をサボる真島が今日に限って終わらせている。それが信じられず、西田は小声でポツリと呟いた。
「ん?何か言うたか?」
「い、いえ 何も言ってません。それで出かけるのは分りましたけど、何処へ行くんすか?」
「…行く場所か。まあ、特に考えてへん。せやから適当にぶらつくつもりや」
「そうですか。一応、携帯の電源は入れておいて下さいよ。連絡付かないと何かあった時に大変ですから」
「言われんでも解っとるわ。ほな、行ってくるで」
「はい いってらっしゃい」
自分の呟きを何とか誤魔化せた。去りゆく真島の背を見送り、西田がホッと胸を撫で下ろした時だった。突如、真島は振り変えって「せや、一つ言い忘れとった。お前のお仕置きは俺が帰ってからや。逃げたら承知せえへんぞ」そう言葉を残すと、今度こそ去って行った。
去り際、項垂れている西田を目にした真島はやはり、あいつが組を背負うのはまだまだ先だと溜息を吐いた。
その後、トイレで号泣している西田の姿が目撃されたが、いつもの事だと組員は放置していた。
一月前は容赦なく、日光を照らしていた太陽も今は穏やかな顔を覗かせている。知らない内に訪れていた変化に真島は目を細めて空を見つめていた。
(久しぶりに外へ出て気付いたが、暑さは大分和らいで来たな。まあ、9月やから当然やな。思えば、今年の夏もあっさりと過ぎて行ったわ。心なしか、気候からも秋の気配を感じる様になったしのう。…あかん こないな事を考えてたら気分が沈む一方や。こういう時はカラオケやな。ヒトカラは好かんが、それでも思う存分歌えば、沈んだ気分も盛り上がるやろ)
過ぎ去る夏に想いを馳せている内に沈んだ気分を発散するべく、真島はカラオケ店へ向かう事にした。
街を歩く事、数十分。目的のカラオケ店へやって来て、さあ存分に歌おうと思っていた真島の目に入って来たのは『本日 休業』と書かれた一枚の札。どうやら、運が悪い事に真島が利用する店は休みだった。
「何やねん。折角、来たのに今日は休みなんか。全く、余計に気分が沈むわ」
楽しみにしていた分、それが出来ない時の衝撃は大きい。それは真島も同じで店の前でぼやいていたが、此処にいても仕方無い。そう気持ちを切り変えて真島はその場をあとにした。
次に真島が足を向けた場所。それはホテル街にあるバッティングセンターだった。普段から利用する事もあり、休業する日も把握している。一刻も早く店で思いっきり体を動かして発散したい。
ただそれだけを考えて真島は他に目をやる事無く、目的の場所へ歩みを進める。しかし、悪い事は重なるもの。バッティングセンターに到着した真島の目に入ったのは『現在、改装中』と書かれた札。一度ならず、二度までも楽しみが潰された。その事で真島の気分は最悪であった。
「何やねんな。カラオケに続いて、此処も休みか。全く、今日はホンマについてへんわ」
二度の不運に苛立ち、顔を顰めて真島は愚痴を溢していた。この際、ボーリングに行こうかと思ったが二度ある事は三度ある。足を運んだ所で店に入れず仕舞いで終わるのがオチだろう。
こういう嫌な予感は何故か的中するからだ。
やる事が無くなって、これから何をしようか。それを考えながら真島は時計を見ると時刻は12時を回っている。どうやら街を歩いている内に時間が経っていた。
(お?もう12時を過ぎてるんか。街中歩きまわって腹も減ったし、飯でも食いに行くか。此処から近い店は…確か韓来やな。肉を沢山食えば、気分も落ち着くやろ。よし。善は急げや)
先程の苛立ちも空腹なのが理由だったのだろう。昼食を取るべく、真島は韓来へ向かっていった。
数十分後 焼肉を存分に堪能した真島が店から出てくる。どうやら思う存分に食事をした事で気分は回復したのか。誰から見ても満足した表情を浮かべている。
「ふう~ 食った食った。さて、腹も膨れた所でこれから何をしようか。しかし、カラオケもバッティングセンターも休みやったしのう。他に暇を潰せそうな場所は…‥。そうや、ゲームセンターでも行くとするか。あそこなら流石に休みという事は無いやろ。確か、ゲームセンターは中道通りと劇場広場やったな。此処から近いのは…中道通りやな。よし善は急げやな。早速行くとするか」
食事を済ませ、またもや出来た暇を潰そうと真島が頭を捻っていると偶然、ビルに飾られているゲームセンターの看板が目に飛び込んで来た。他の店と違い、ゲームセンターが休む事は まず無い。思えば真島がゲームセンターに足を運ぶの20年振りだが、自分でも遊べるゲームは何かあるだろう。それについては行ってみないと解らない。真島は腹ごしらえの散歩も兼ねて、中道通りにあるゲームセンターへ向かう事にした。
「他の店が出来たり、街並みが変わってもこの手の店は変わらんなぁ」
目的の場所に着いた真島は久しぶりに訪れたゲームセンターを懐かしい思いで見つめポツリと呟いた。およそ20年前。自分が大阪にいた頃は良く通っていた。その時はスコアの更新や仲良くなった店員と勝負したのは今となってはいい思い出だ。
「さて、此処で突っ立っていてもしゃーない。中に入るとするか」
懐かしい思い出を胸に真島は意気揚々とゲームセンターの中へ足を踏み入れた。ドアを潜った先で真島を出迎えたのは店特有の騒音だった。初めて入った時はこの騒音に驚いたものだが、現在は普通に受け入れている。これも時代の流れかと、またもやしんみりとした気持ちを抱いたが、真島は頭を振ってその気持ちを振り払う。
そう 此処には遊びに来たのだ。センチメンタルに浸る場合ではない。気持ちを切り変えて真島は遊ぶゲームを探して始めた。
「ほ~ 知らん間に色んなゲームが増えたのう。どのゲームも面白そうやし、どれをやろうか迷うな」
「もうっっ!! また失敗した~」
遊ぶゲームを決められずに店内をぶらついている最中、クレーンゲームの前で叫ぶ少女を見つけた。余程、悔しかったのか。その少女は俯き震えていた。先程の叫びといい、その様子からして景品の中に相当、欲しい物があったのだろう。
(何や、景品が取れんで悔しがっとるようやの。確かにこの手のゲームは小学生には難しい。しかし、この光景…前に見たような気がする。……! 思い出した。そういえば、以前に大阪で人形が欲しがる子がおったな。それで俺が変わりに景品を取ってやったっけな。せや、此処は一丁、俺が助太刀したろ)
悔しさに震える少女の力となるべく、真島は少女の元へ向かって行くと声をかける。
「なあ 嬢ちゃん。良かったら、欲しい景品は俺が取ってやろうか?」
「え?ほ、本当に……って、あんた誰よ」
「おっとすまん。名前を言うのが先やな。俺は真島吾郎というもんや。見た目は怖いが怪しいもんちゃうで」
「そ、そう。私は矢澤にこよ。それで真島さんは私に何の用?生憎だけど、変な誘いはお断りよ」
「そんなんちゃう。実はさっき、景品が取れんで悔しがっとる所を目撃してな。それで声を掛けたっちゅう訳や」
「…事情は解ったわ。心遣いは嬉しいけど、さっきのプレイでお金を大分使っちゃったのよ。これ以上、使ったら帰れなくなるから別にいいわ。流石に会って間もない人に出して貰う訳にいかないもの」
にこが言った言葉に真島は最近の小学生は随分としっかりしていると感心していた。だが、自分も手助けすると決めて声を掛けた手前、はい そうですかと去る訳にはいかない。
真島は優しい声でにこへ更に言葉をかける。
「嬢ちゃん 小学生なのに随分としっかりしてるのう。だけどな、時には人に頼る事も大事やで。せやから俺「ちょっと、誰が小学生なのよ。私はこう見えても現役の大学生よ」え?何やって?すまん もう一度、言ってくれへんか」
真島の言葉を遮り、放たれたにこの言葉に真島は耳を疑う。にこの言葉は確実に聞こえていたが衝撃の余り、思わず聞き返してしまう。そんな真島に対し、にこは怒る事無く、懐から自分が大学生である証。学生証を取り出して真島に見せた。
にこ自身、最初の方は感情的になっていたが、自分が小学生に間違われる事が何度も遭った為か今は冷静に対応している。
「はぁ。だから、私は小学生じゃなくて大学生なの。ほら。これが証拠の学生証よ」
「おお ほんまや。人は見かけに寄らへんな」
「どうやら信じてくれた様ね。ま、こんな事は何度も起きてるから私も慣れたわ」
「ほうか。何やえらい苦労しとるのう。ほんで、こないな所で油を売っててええんか?今の時間やと、大学の勉強とかある筈やろ?」
神室町に大学生がいる事は別段珍しくはない。昼頃には休憩時間を利用して昼食を取りに来る者がいる。だが、今の時刻は14時を回っている。休憩時間も既に終わり、本来なら学生は授業を受けている筈である。気になった真島はにこに尋ねた。
「…まあ、他の人はね。だけど、私が専攻してる講義は午前中だけなのよ。だから、午後は暇になったから此処で遊んでたという訳」
「成程のう。そういう事やったんか。ところで嬢ちゃんは何の景品を狙っておったんや?さっきから気になってるし、教えてくれてもええやろ」
「ああ。狙ってたのは好きなアイドルのグッズよ。私はそのアイドルのファンでね。どうしても欲しかったのよ。それと私の事はにこでいいわ」
事情を把握した真島は別に気になっていた事を聞く。にこも特に隠す必要も無いと素直に教えた。
「さよか。最近のクレーンゲームじゃ、ぬいぐるみだけやなくてそないな物も景品になっとるんやな。そんでにこちゃんはその景品を狙ってたという事か」
「そうよ。でも、何度かやってる内に取り辛い所に移動しちゃったのよ」
真島がクレーンゲームへ目を向けると、確かにある景品は端の方に寄っている。あれではアームで掴むのは難しく、この状況を見れば誰もが諦めるだろう。だが、難しい方がやりがいはあると真島はこのゲームに挑戦する事を決めた。
「なぁ にこちゃん。さっきも言うたが、あの景品は俺が取ったろうか?」
「へ?い、いいわよ。別に…叫んでる所を見られて言えた事じゃないけど、いい歳してみっともないから「別にええんとちゃうか」え?」
にこの言葉に被せる形で真島は軽い口調で言った。驚いた顔のにこを余所に真島は言葉を続ける。
「確かにこちゃんの歳やと、そう思うのかもしれへん。せやけど、時に素直になってもいいと俺は思っとるよ。まあ、単にこれは俺のお節介やからな。それは気にせんでもええ」
「時に素直に……か。暫く、その事を忘れてたわね。うん それじゃあ、折角だから真島さんにお願いするわ。あの景品、どうか取って下さい」
「おう 任せとき」
時に素直になる。この言葉がにこの中へ染み込んで行くのを感じていた。そういえば、以前にも似たような言葉を言う人がいた。それを思い出したのは真島さんが何処となく、その人と雰囲気が同じなのだ。にこが真島の言葉をすんなりと受け入れたのはそれも理由である。
「ほんならいくでぇ。狙ってるのは左にある物やな?」
「ええ。そうよ。だけど、あれを取るのはかなり大変よ」
にこが狙っていた物。それはA-RISEの写真がプリントされたハンドタオルであった。本当なら別のゲームをやろうと来たにこが、偶然にもそれを見つけて手に入れるべくプレイした結果が先の通りであった。
「よし。まずはアームを左に寄せてと…」
真島はボタンを操作してアームを左に寄せる。景品は手前にあるのが幸いだが、景品は左側に傾いている為、アームで掴むのは不可能であった。この状況を打破する策を考えていた。
「最初はこれでええ。問題は此処からやな。うーん そうや。この手で行こう」
「何か、策があるの?それって、一体何よ?」
「まぁ焦らんと。次はこうや」
詰め寄るにこを宥めると真島は次のボタンを押した。真島の狙いはアームで傾いた景品の位置を戻す事であり、正確な操作で見事にそれを成功させた。
「凄い…傾いてた景品の向きがあっさりと戻った」
「せやろ?ま、これは序の口で本番はここからやけどな。次から取りにいくでぇ」
次に真島が狙ったのは景品の位置を変える事であった。先程と同じくアームを左に寄せ、今度は景品の真上に移動させた。正確な操作で移動したアームは景品を掴むとゆっくりとした動作で釣り上げる。そのまま取り出し口まで行くと思われたが、目前でアームから景品が落下してしまう。それを見たにこが残念そうな表情を浮かべる傍ら、真島は自信満々の表情を浮かべている。
そう 惜しくも落ちた様に見えたそれは全て計算の内であった。
「ああ~ あと少しなのに惜しいわね」
「いや、これでええ。次で絶対取れるから大丈夫や」
「そう。だけど、プレイ出来るのはあと1回しかないわよ」
「大丈夫や。まあ見といてや」
「分かったわ。真島さんを信じてるから」
もう後が無いのに平然としてる真島を見て、にこの心に安心感が不思議と生まれる。きっと、真島さんならやってくれる。そんな確信を抱いていた。
そして景品を取得目指して真島は最後のプレイを開始する。
残る作業は景品を取るのみ。にこが固唾を飲んで見守る中、真島は真剣な表情でボタンを静かに押した。
「ほな、行くでぇ。最後はこうや」
「ええ!? いくら何でもクレーンを左に寄せ過ぎじゃ」
「いや。大丈夫や。見てみ」
真島に言われるがまま、クレーンの方へ視線をやるとにこは目を見開き驚いた。何とアームが景品を取り出し口に押し出した。これが真島が最後に狙っていた事だったのだ。どのみち3回のプレイで景品を掴み取るのは不可能である。何度かやれば可能だろうが、それをすればにこは気を遣って、景品を受け取る事を良しとしない。
それ故、真島は3回で取得出来る方法を考え実践した結果。見事に景品を入手する事が出来た。だが、この事実に一番驚いていたのは真島本人であった。当然、いくら方法を思い付き、実行した所で成功する確率は低い。プレイしてる最中は不安で一杯だった事をにこは知らない。
「ほら。目的の景品やで」
「あ、ありがとう。まさか、あっさりと取るなんて本当に凄いわね」
「せやろ。まぁ、こんなの俺に掛かればこんなもんや」
「フフ、そうね。良かったら今度、クレーンゲームの指南をお願いしてもいい?私も真島さんの様なプレイをしてみたいもの」
「おう。ええで。機会が在る時に教えたる。ほれ、これが俺のアドレスや。この街に来る時に連絡してくれたらいつでも駆け付けるでぇ~」
真島からアドレスが書かれた紙と景品を受け取って、にこは笑顔を浮かべて言葉を返す。その笑顔に真島も嬉しさが込み上げる。
「ええ、分かったわ。遊びに来る時は連絡するわね」
「ああ。その日を楽しみにしてるで」
「あら?気付けば、もう16時を過ぎてるわね。そろそろ私は帰らないと。真島さん、今日は本当にありがとう。この景品、大事にするわ」
「フッ…。そこまで喜んでくれたのなら、俺も頑張った甲斐があったわ。大丈夫やろうが、気を付けて帰るんやで」
「心配しなくても大丈夫よ。それじゃあ、また」
「おう」
そう一言残し、にこは店を出て行く。去り際に笑顔で手を振る姿が似合っていたのはそれがにこだからだろう。去りゆくにこを見て、真島はそんな事を考えていた。
「さて、俺も帰るとするか。何だかんだで暇は潰せて、気分転換も出来たからの」
真島も帰路に着こうとした時、ポケットの中で携帯が震え出す。最初は帰りが遅い事で心配した西田からだと思っていたが、表示された名前に真島は今日一番の驚きを見せる。
何と相手はA-RISEの一人であるツバサからだった。
一体、何だと届いたメールに目を通した瞬間。真島はニヤリと笑みを浮かべる。
「ほう。ツバサちゃんも面白い事を考えるのう~ その日が来るのが今から楽しみや」
ウキウキして呟く真島が持つ携帯に表示されている内容の一文に『μ'sとの対決する準備が整いました。近い内に実行しますのでその時は真島さんも立ち合って下さい』とあった。そのメールに対する真島の返事は当然決まっている。
その日が来るのを心底楽しみにしながら、足取り軽く街を歩く真島の姿がそこにあった。
サブストーリー020 クレーンゲーム 一発勝負 完
真島「何とか景品を取る事が出来たわ。にこちゃんも喜んでくれたようで良かったわ。それにしてもツバサちゃんの考えた勝負は何やろな~ そっちの方も楽しみや」
今回の話はどうだったでしょうか?
考えてみれば、真島さんはまだにこと会っていない為、こういう形で登場させました。そして前回の桐生さんとツバサの話で出たμ'sとの勝負。次回はそれの準備回を挟んでから勝負回を予定してます。
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