真島「街で遭遇した希ちゃんと河童を探す事になってもうた。どうなる事やら」
今回は希と真島さんのドタバタ劇です。
ではどうぞ
ある日の昼 神室町ヒルズの自室で真島は一人でテレビを視ていた。その番組は世界に存在する不思議生物特集。こういった物に普段は欠片も興味を示さない真島だが、特に面白い番組も無く仕方無くそれを観る事にした。
『衝撃スクープ。沼を泳ぐ伝説の生物。河童は実在した』
「…あほらし。どうせ、テレビのヤラセやろ。実在するんやったら今頃、世間は大騒ぎしとるわ」
画面に沼を泳ぐ河童の映像が流され、それを見た真島は鼻で笑い飛ばした。映像には確かに河童らしきものが映っているが、水中にいる影のみで信憑性は無い。これで実在するとは言われても信じる事は出来ないだろう。
「ちっ。暇つぶしになると思っておったが、つまらんのう。こないなもの見てもしゃーないし、街に繰り出すとするか」
そうと決めたら即行動。真島は出かける為に身支度を開始した。無論、自分がいると思わせる工作としてテレビを点けておくのは忘れない。真島が部屋を出る直後、「河童はいるよ。沼に限らず、何処にでもね」とゲストの言葉が木霊する。
「ふん。そうやったら、俺の前にも出てこいや。そうしたら信じたる」
テレビに捻くれた一言を残して真島は部屋を出て行った。
街を繰り出した後、真島は当ても無く彷徨っていた。普段から通っているバッティングセンターは三ヶ日の為か開いておらず、馴染みの店も昼間は閉まっている。折角、街へ来てみれば特に暇を潰す場所が見つからない。真冬という事もあり、体も冷えている。当てもなく歩くよりも何処かで暖を取ろう。
「ん?あれは…」
そう決めて真島は近くにある店に行こうとした時、目の前の道から歩いてくる希の姿を見つけた。何やら難しい顔をしていたが、希も真島に気付くとパッと、顔を明かるくして此方に駆け寄ってきた。
(どないしたんや?悩んでいたと思ったら、急に笑顔になりおった。何やら嫌な予感するのう。逃げようにも向こうも気付いている以上、それは出来へんな。変な事に巻き込まれなきゃええけど…)
「こんにちは 真島さん。良い所に来てくれて助かったわ」
「おう。良い所に来たって、一体何があったんや?何や、難しい顔しとったな」
「うん。今日、噂のものを探しに来たんや。でも、一向に手掛かりが掴めなくて困っておったんよ」
「噂やと?どんな噂や?」
「聞いたら驚くよ。それは神室町に存在するという幻の河童や」
「……!何やて!?」
希の言葉に真島は驚きを隠せずにいた。まさか此処で河童という名前を聞くと思っておらず、自分の聞き違いかもしれない。深呼吸して冷静さを取り戻し、真島は意を決して希に尋ねた。
「なぁ。一つ聞きたいんやけど、それは雨の日に着る物か?」
「それは合羽やろ。ウチが言ってるのは妖怪の河童の方や」
「……。本気で言うとる?」
「勿論や」
こうなる予感はしていたが、希の返答に真島はガックリと肩を落とした。見る限り、希は自分を揶揄ってる訳では無さそうだ。昔、桐生から自分は読めない人と言われたが、その自分は希の考えてる事が読めずにいた。
(そうか。桐生ちゃんも今の俺と同じ気分やったんやな。確かに考えが読めん人と話すのは疲れるわ~ せやけど、どうするか。この流れやと、以前の幽霊探しの時みたいに協力してくれと言われるやろな。はぁ、どないしよう…)
「それで本題に入るんやけど、ウチと一緒に探すの手伝って欲しいんや。街の裏側にも真島さんは詳しそうやし」
「ちょい待ちぃ。いくら何でも河童の場所なんて知らんわ。第一、存在するかは別として河童がこの街にいる訳ないやろ」
「ウチも最初はそう思っとんたんよ。でも調べてみたら、目撃した人が何人もいるんよ」
「……。嘘やろ?」
「本当や」
「はぁ、分かった。こうまで言い切られたら俺の負けや。河童探しに協力したる」
一切の迷いなく、河童はいると断言した希に真島はついに折れた。どの道、彼女は一人でも探しに行くだろう。物騒な街に一人で行動させて何か起きたら、後味が悪い。それなら自分と行動する方がいい。そう考えての決断だった。
「そんで。河童を探すんはええけど、目撃者ってのは誰なんや?さっきも言うたが、この街で河童が居そうな場所ついては俺も検討つかへんからのう」
「言うなら大勢やね。何せ目撃談が多いからウチも断定は出来へん。ただ、目撃場所は七福通りの公園らしいんよ」
「七福通りの公園か。その公園には下水に繋がるマンホールがあった筈や」
「下水道……。それや。きっと、河童は下水に潜んでいるかも」
「……。まあ、関係あるか知らんが、行ってみない事には始まらんで」
「そうやね。じゃあ、その公園に行ってみよう」
何はともあれ、行動しなくては真実が解らない。二人は河童が目撃された児童公園に向かう事にした。その道中、以前から気になっていた事があった真島はこの際に尋ねてみた。
「前もそうやったが、希ちゃんはこの手の話が好きなんか?幽霊や妖怪とか」
「うん。ウチはこういうの好きなんよ。まあ、変わってるのは自分でも理解はしとるよ」
「まあ、普通はそうやろな。せやけど、同じ趣味の人とかも大学にはいるやろ?」
「それが無いんよ。オカルト系のサークルは在ったようやけど、やっぱり人が来ないみたい」
「ほうか。ほな、希ちゃんの友達はどうなんや?こう言うたらあれやが、類は友を呼ぶで同じ趣味の子はおらへんのか?」
「残念ながらいないんよ。エリチは暗い場所が苦手だし、にこっちはこの手の事に興味が無いからね。だから一人で来たんよ。でも、偶然にも真島さんに会えて良かったわ」
「そういう事やったんか。余計なお世話やと思うが、程々にせんと希ちゃんも周りから孤立してまうで」
「そうやね。ウチもそれは分かってるんよ。だけど、こういうのって何処かロマンを感じへん?」
「……。ロマンか。確かに信じてる人は感じるやろな」
「ウチは初めから存在しないと思ってたら、見つからへんと思うんよ」
「まあ、そうやな」
自分が信じなければ、見つからない。希の言葉には説得力もあるが、真島はやはり信じられないでいた。幽霊はともかく、流石に河童が存在するとは思えない。これが他の人なら突っ撥ねる所だが、希にそれをやる訳にいかない。
真島も内心では信じてないが、それでも付き合うのには以前、幽霊と遭遇した事が理由であった。希と一緒ならもしかしてが起きるのでは?そんな思いがあるのも事実である。
「ほれ。あそこが児童公園や。せやけど、どうするんや?希ちゃんが聞いた話やと、河童は下水道におるという事やろ。まさか、下水に降りるんか?」
「…それは決まってるやん。一応、この為に合羽を持ってきてあるんよ。はい これが真島さんの分や」
「ほ、ほう。えらい準備がええの。って、ちょい待ちや。何で俺の分まであるんや」
予想を超えた行動に真島は顔を引き攣らせた。まさか、希は自分の行動を逐一把握していたのでは?と在りえない想像が脳内を過るが頭を振って打ち消し、希に説明を求めた。
「そ、それは…最後の手段として真島さんを頼るつもりやったんよ。ただ、どういう顔して会いに行けばいいのか悩んでいたら、真島さんの方から来てくれた形になったんや」
「……。妙な偶然も在ったもんやな。じゃあ、まずは俺が先に降りるから希ちゃんは後か来や」
「はい。でも、降りる最中は上を見たらあかんよ」
「勘弁してや。ほな、行くで」
希が持って来た合羽を羽織ると真島はマンホールの梯子を下りていく。中は下水だけあって、漂う悪臭が鼻を刺激する。本当にこんな所に河童なんぞいるのか?心中でぼやきながら真島は薄暗い通路を見回すと奥の方で動く影に気付いた。最初は此処を根城しているホームレスかと思ったが、それにしては挙動がおかしい。
もしかすると相手は不審者かもしれない。そうだとしたら、厄介だと真島はその相手に近づいていく。傍から見れば真島の格好も不審者そのものという事を棚に上げている。
「おう。さっきからそこで何しとるんや?」
「……!?」
「あ、待てや」
「どうしたん?」
「今、そこに怪しい奴がおった。俺はそいつを追う。希ちゃんは危ないから此処で待っとき」
「う、うん。真島さんも気を付けて」
希に一言残し、真島は突然逃げ出した不審者の追跡を開始する。運が良い事に下水は一本道だった為、相手の姿をすぐに見つける事が出来た。相手の速さはそれ程でもないが、ぬるぬると滑る地面によって、思うように走れない。それ故、相手との距離は中々縮まらずにいた。
(ちっ、ぬるぬる滑る所為で上手く走る事が出来ん。それは相手も同じやが、このままじゃ埒があかん。何か投げる物があればええんやが…お、此処から一本道や、よっしゃ、一気に行くでぇ)
相手を捕まえるにはチャンスだと、真島は全速力で相手に迫る。相手もそれに気付いたのか、走る速度を速めて距離を離す。しかし、その行為が不幸な事に真島の闘争心へ火を点ける形となってしまった。歪んだ笑みを浮かべ、舌なめずりをする様はまさに狂犬そのものである。
「ほう~ ええ度胸しとるやんか。絶対捕まえたるでぇ」
狂気を孕んだその呟きは相手の耳に届いたのだろう。些か、相手の気配に焦りが見て取れた。そして更なる不運が相手を襲った。湿った地面で足を滑らせて、勢いよく倒れ込んでしまった。
その隙を真島が見逃す筈はなく、倒れた相手に飛び掛かり抑え込んだ。
「捕まえたで。さあ、観念しておどれの面を拝ませてもらうで……って、お前は西田やないか。こんな所で何してんねん。しかも河童の変装までして」
「あ、いや。これは事情がありまして」
「何や?言うてみい」
「は、はい。実はですね…」
眉を顰めて真島は説明を求めた。最初こそ、大人しく聞いていたものの。次第に表情が険しくなっていった。全て聞き終えた後、真島は目を向くと西田を殴り飛ばした。
「このドアホっ!いつ俺が河童に会いたいと言うたんや」
「うう。だ、だって部屋を出る時、俺の前に出てこいと言ってたから。それに…」
「…それに何やねん?」
「街で親父を尾行してた時、偶然にも親父と希ちゃんの話が聞こえてきて。それで希ちゃんの願いも叶えられたらと下水道に先回りしてたんです」
「……。全く、詰まらん事を考えるより、仕事に精出しや」
「お、親父!? い、いつものお仕置きはしないんですか?」
「何や?やって欲しいんか?」
「い、いえ。それは遠慮しときます」
「フン。いつまでそうしとるんや。はよ来んかい」
「は、はい」
数分後、真島達は希が待っている場所へ戻ってきた。真島の姿を見て、希はホッとした表情を浮かべた後、不思議な格好の見知らぬ人に首を傾げると真島へ問い掛けた。
「あ、やっと戻って来たんやね。それとその人は誰なん?」
「…ああ。このアホか。おう、自己紹介せいや」
「ど、どうも。初めまして。私は西田と言います」
「はぁ。ウチは東條希です。ところで西田さんは何で河童の格好をしとるん?」
「このアホ。俺と希ちゃんを喜ばせたくてこの格好してたそうや」
「そうやったんやね」
「すみません。余計な事をしてしまって」
「ううん。別にええんよ。まあ、ウチが変な事を言い出したのが始まりやしね」
「すまんのう。俺からも謝っておくわ。とりあえず、此処から出るで」
真島の言葉に二人は頷く。忘れていたが、此処は下水。正直、臭いと湿気が漂う場所に長居はしたくなかった。地上に出た後、三人は深く息を吸う。都会の空気も下水の空気に比べたら、新鮮で綺麗だと心から感じた。
「それじゃ、自分はこれで失礼します」
「おう。今回はお仕置きは免除したるが、変わりに泊まり込みで仕事してもらうで。遊んでた分、働けや」
「はい。しっかり働きます」
力強く返事を返し、西田は去っていった。それを見送りながら、希は口を開くと小さい声で真島に話しかけてきた。
「結局、河童はいない様やね。分かってはいたけどね」
「いや、それは解らへんで」
「え?」
「今回、蓋を開けばあいつの変装やった。せやけど、まだいないと決まった訳やない。それに信じなければ、見つからない。そやろ?」
「…真島さん」
「昔、俺もツチノコを探していた時期があったんや。今は忘れてたけど、あの頃はツチノコは存在すると信じて疑わへんかった。そんな俺を周りの連中はいつも指差して馬鹿にしてたわ」
「そんな事が…真島さんは辛くなかったん?」
「そりゃ辛かったで。正直な所、ツチノコ探しを辞めたんはそれが理由やしの。せやけど、今になって思うんや。あの時、周りを無視して続けていたら結果は変わっていたかもしれん」
「ウチには無理や。流石にそんな事をされたら逃げたくなる」
先程より、か細い声で希は真島にそう返した。真島ですら、周りの人間がする仕打ちに逃げたのだ。本来、自分は明るく振るまっているが実際は強くはない。自分が真島と同じ境遇に晒されたら、立ち直る事は出来ないだろう。しかし、真島の次の言葉が希の暗い気持ちを吹き飛ばす。
「大丈夫や。もし100人が希ちゃんを馬鹿にして笑ったとしても。俺が100人分、励まして言い返したる。きっと、絵里ちゃん達だって同じ事をする筈やで」
「……うん。そうやね。エリチ達ならそうするやろね」
「フッ どうやら元気が出た様やな。さて、何や腹が減ったのう。折角やし、パーッと焼き肉でも食いに行こか」
「おお~ それはいいアイディアやん。丁度、ウチもお腹が空いとったんよ」
「ほうか。じゃあ、善は急げや。早よ行くでぇ」
「お~」
楽しそうな雰囲気で二人は公園を去って行く。この時、微かに開いたマンホールから二人を見つめる眼差しに気付いていなかった。去り際、蓋を閉めるその手には水かきがあり、緑に染まっていた事も。
事実は小説より奇なり。幻と称される生き物は意外と近くにいるのかもしれない。
サブストーリー024 続 希の神室町不思議探訪 幻の河童 完
真島「結局、河童はおらんかった。でも、昔忘れた気持ちを思い出して楽しかったのう」
今回の話はどうだったでしょうか?
自分はこういう話が好きでテレビでやる時は大体、見てます。
存在するか解らない幻の生物。会えるとしたら、会ってみたいものですね(笑)
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