桐生「街中で花陽を見つけた。とりあえず、声をかけてみよう」
今回は遥メインのお話です。それではどうぞ
毎日、大勢の人が行き交う神室町。
この日、そんな街中にある少女の姿が在った。少女は景観が変わった街を見て、微笑みと共にポツリと呟きを洩らす。
「……やっと着いたよ。此処に来るのも久しぶりだなぁ。さて、おじさんとの待ち合わせ場所に行かなきゃ」
そう、桐生にとって何よりも大事な家族。澤村遥である。沖縄にいる彼女が何故、此処にいるのか。それは以前に電話で交わした桐生の話から始まる。
数日前、神室町。雲一つ無い青空の下、桐生は街を散策していた。連日続いた寒波も過ぎ、暖かくなった事もあり、久しぶりに吸う外の空気を存分に味わう。
「今日はいい天気だな。こんな日は外を歩かねえと損だな。さて、街に来たはいいが…何処へ行ったもんかな。ん?あいつは…」
何処に行こうか思案していた矢先、見知った姿を見つけた。自分からは後ろ姿しか見えないが、背格好と髪型からその人物が誰なのかはすぐに解った。
(あれは花陽か。一体、こんな所で何をしてるんだ?まあ、それは聞いてみないと解らないな。よし、声を掛けてみよう)
そう決めた桐生は花陽へ歩み寄り、肩に手を掛けて話しかける。
「おい。こんな所で何をしてるんだ?」
「ひ、ひぃぃぃっ!? な、何ですか?私は何も悪い事はしてませんよぉ~ って、あれ?き、桐生さん」
「ああ 俺だ。何もそう驚く事も無いだろう」
「ご、ごめんなさい。でも、いきなり声を掛けたら誰だって驚きますよ」
「そうか?まあ、物騒な奴もいる街だ。確かにそうなのかもしれねえな。それはそうと、花陽は此処で何をしてるんだ?」
話題を変えるべく、桐生は何気無い素振りで花陽に尋ねた。すると先程と違い、鋭い目で桐生に迫ると力強く語り始めた。
「あ、今日は街にアイドルグッズを買いに来たんです。何でもデビュー当時から人気があったアイドルのT-SETを打ち負かした伝説のアイドル。澤村遥のグッズです」
「何?遥だと……。お前、あいつを知っているのか?」
「勿論です。私はアイドルの情報を欠かさずにチェックしていますからね。そのおかげで神室町に澤村遥のグッズがある事を知ったんです」
「そうだったのか。しかし、花陽はアイドルの事になると人が変わるなぁ」
「うっ。す、すみません。あ、そういえば桐生さん…さっき、あいつを知ってるのか?と言ってましたね。もしかして遥さんの事、桐生さんも知ってるんですか?」
桐生の指摘を誤魔化す為か、花陽は話題を変える事にした。内心、桐生の言葉が気になっていたのだ。その花陽の問いに桐生は懐かしそうな顔を浮かべ、静かに口を開く。
「ああ。よく知ってるぜ。何せ、俺はあいつの親代わりだからな。今は沖縄でアサガオの仕事をしている。うん?どうしたんだ?そんなに震えて…何処か具合でも悪いの「桐生さん!!」な、何だ?」
「いきなり大声出してごめんなさい。でも、本当なんですか?今の話…」
「ああ。本当だ。だが、それがどうしたんだ?」
何故、興奮しているのか。その理由が解らない桐生は尋ねた。すると、花陽はまたもや同じ形相で桐生に詰め寄って来た。それには流石の桐生も気圧され、思わず冷や汗を掻く。
「どうしたんだ?ではありません。遥さんと言えば、先程も言った通り。伝説のアイドルと呼ばれた存在です。そんな遥さんと身近な存在が今、此処にいる。興奮するのは無理も無いですよ」
「そ、そうか。まさか、遥がそこまで凄いとは知らなかったな。……そうだ、それだったら、お前も遥と会ってみたらどうだ?」
「え?ほ、ほほほ本当ですか?嘘じゃないですよね?そうだとしたら私は怒りますよ」
「…嘘じゃねえ。ただ、あいつも忙しいからな。すぐには無理だがな」
さらに息を荒くする花陽を宥めて、桐生は遥に会わせると約束をした。花陽も桐生が出鱈目や嘘を吐く様な人ではない。それを花陽も知っている為、素直に引き下がる事にした。
「確かに桐生さんが嘘を吐いた事って、無いですものね。分かりました。今日はこのまま帰るとします」
「そうか。うん?そういえば、お前は遥のグッズを買いに来たんじゃなかったのか?」
「初めはそのつもりでしたけどね。本物の遥さんに会えると約束しましたし、今回は我慢しようと思います」
「フッ そうか。そんなに楽しみにされたら、俺もしっかり約束を守らないとな。それにあいつも同年代の友達が出来るだろうからな」
「私が遥さんと友達に‥‥。遥さんと会えるだけでなく、友達になれるかもしれない。今日は最高の日です。あ、そろそろ私は行きますね。約束を忘れないで下さいよ」
「分かっている。お前も気を付けて帰れよ」
そう言葉をかける桐生へ、花陽は頷くとその場を去っていった。
そして…この日の夜、桐生は沖縄にいる遥へ電話を掛けた。何度かコールしたのち、「はい。養護施設アサガオです」と電話に出たのは遥本人であった。
「もしもし 俺だ。少し話したい事があるんだが…今、大丈夫か?」
「あ、おじさん?うん。今は平気だけど、どうかしたの?」
「実はだな…」
桐生は電話越しにいる遥へ今日起きた事を告げた。その内容に遥自身も驚いていたが、珍しく頼み事をしてきた桐生に応えるべく、その頼みを聞き入れる事にした。
「事情は分かったよ。じゃあ、私はいつ頃にそっちへ行けばいいかな?」
「……そうだな。お前の事情もあるし、二週間後くらいでどうだ?その間に俺も花陽に話を通す事も出来るしな」
「うん。二週間後だね。私はそれで大丈夫だよ」
「そうか。お前が神室町に着いたら教えてくれ。そうしたら、待ち合わせ場所で会おう」
「分かった。それで待ち合わせ場所は何処なの?」
「…そうだな。中道通りでどうだ?あそこなら人が多いから物騒な奴もいないし安全だ」
「中道通りだね。分かった。じゃあ、二週間後に会おうね」
「ああ。いきなり無理を言って悪いな。またな」
「うん。またね」
この言葉を最後に遥との電話は切れた。久しぶりに遥と話して懐かしさに浸っていた桐生だが、ハッと我に返ると再び電話を取り出して掛け始めた。相手は勿論、花陽である。恐らくこの吉報を今か今かと待っているだろう。
案の定、報告を受けた花陽は大興奮。報告よりも花陽を落ち着かせるのに時間を有したのはまた別の話…。
そして二週間後、桐生は待ち合わせ場所の中道通りで遥を待っていた。そんな桐生の横には緊張の為か、そわそわとしてる花陽の姿もあった。流石に見かねて桐生は声をかけた。
「少し落ち着け。そんな様子じゃ、遥と話す事も出来ないだろう」
「そ、そそそそう言われても…今日、あの憧れの遥さんと会うと考えると緊張しちゃって」
「おいおい。例えそうだとしても緊張し過ぎだ」
「だって、遥さんは一年で武道館に出るような伝説のアイドルなんですよ」
「お前…いや、お前達だって一年でA-RISEを超えたアイドルじゃないか」
「私達と遥さんでは比べものにならないじゃないですか」
「本当にそう思うのか?」
後ろ向きな花陽の言葉を聞いた桐生は思わず顔を顰めた。
憧れの対象と会う。この事が本人にとっては大事なのだろう。しかし、蓋を開けば花陽も遥も普通の少女と変わらない。だからこそ、アイドルでは無く普通の少女として会って欲しい。桐生の中にはそんな気持ちがあったのだ。
「確かにこれから会う遥は花陽。お前にとって特別なのかもしれない。だが、そんな遥もそこら辺にいる少女と変わらないんだ。勿論、花陽もな。それに遥がアイドルを辞める時、あいつは相当悩んで決めた事も…。だから、アイドルとか抜きにして接してやってほしい」
「……桐生さん。そうですね。 思えば、人と会うのにこれでは失礼ですものね」
「フッ どうやら落ち着いたようだな。ん?」
会話が終わると同時に件の人物。澤村遥の姿を目に捉えた。遥も桐生に気付き、笑みを浮かべると小走りでやってきた。桐生も同様に笑みを浮かべると手を振って、迎えた。
「おじさん 久しぶりだね。元気にしてた?」
「ああ。お前の方こそな。アサガオの皆も元気にしてるか?」
「うん。皆も元気にしてるよ。それでおじさんが言ってた子は何処?」
「それならすぐ傍にいるぜ」
遥の言葉に桐生は隣にいる花陽へ視線を向けた。いきなり二人の視線を向けられ、萎縮する花陽だったが、桐生に言われた言葉を思い出して花陽は遥へ手を伸ばし自己紹介を始めた。
「初めまして。小泉花陽と言います。今日、遥さんと会うのを楽しみにしてました」
「花陽さんだね。私は澤村遥。実を言うと私も会うのを楽しみにしてたんだ。それと私は遥でいいよ。年もそう変わらない事だし」
「あ、それなら私も花陽でいいです」
「うん 分かった。それなら花陽ちゃんと呼ぶね」
「はい、なら私は遥ちゃんと呼びますね」
お互いの自己紹介を終えた後、遥は花陽の手を握り握手をする。先程の花陽の様子からどうなる事かと心配していた桐生だったが、それは杞憂だったようだ。そんな時、遥は桐生にある提案を口にする。
「ねえ、おじさん。私はこれから花陽と一緒に神室ヒルズに行くけど、良いかな?」
「二人でか?まあ、それは構わねえが、変な奴には気を付けろよ」
「分かってるよ。それじゃあ、行ってくるね」
「行ってきます」
「ああ。俺は近くの喫茶店にいる。戻る時は教えてくれ」
「「はい」」
息ピッタリで元気な返事を返すと、二人はゆっくりと歩いていく姿を見送った後、桐生は馴染みの喫茶店へと入っていった。
神室ヒルズへの道中、遥は花陽に話しかける。桐生からの説明では花陽は自分がアイドルだと知っている。だが、思えば自分がアイドルをやっていたのは地方での事だ。如何な都会といえど、地方で放送されてる番組を見てる筈がない。それ故に遥はアイドルの自分を何処で知ったのか気になっていたのだ。
「ねえ 花陽ちゃんは何処で私の事を知ったの?やっぱり、あの武道館での中継かな?」
「遥ちゃんの事はその前から知ってましたよ。私、アイドルが好きで雑誌やネットで情報を集めていたんです」
「そうだったんだ。じゃあ、大阪のテレビに出た事も知ってる?」
「勿論です。T-SETとのダンス対決を観た時、思わず熱くなりましたよ。そうそう。つい先日にT-SETの二人に会いましたよ。テレビで見たよりも可愛くてテンションが上がりましたよ。おまけにサインも貰って、握手もしてもらいました」
「へー 花陽ちゃん、あの二人に会ったんだ。どう?二人は元気そうだった?」
「はい。私が見た時は元気そうでしたよ。でも、実際は疲れてるのかも…」
「うん。アイドルって、あちこち移動とかするし、色んな人達と会ったりするから」
「それでいて、いつも笑顔で皆を楽しませる。それがすごいです」
遥の言葉にアイドルは凄いと頷く花陽に、ふと疑問が浮んだ遥は花陽にそれを尋ねた。
「あれ?でも、花陽ちゃんもアイドルだっておじさんから聞いたよ。確か、何かの大会でも優勝したともね」
「ああ。確かにアイドルはやってましたけど、それはスクールアイドルですよ。遥ちゃんやT-SETとは比べたら駄目です」
「そんな事ないよ。花陽ちゃんも十分に可愛いよ。だから、自分を否定しちゃ駄目だよ」
「遥ちゃん。うん、そうだね。そういえば、少し前にも同じ事を桐生さんに言われました」
「フフ そうだったんだ。あ、神室ヒルズが見えてきた。近くで見るとやっぱり大きいね」
「うん。私も此処に来るのは初めてだよ。一体、何があるのか楽しみです」
「私も。じゃあ、行こうか」
「はい」
高く聳える神室ヒルズを見上げていた二人は、ゆっくりと神室町ヒルズへ入っていく。予想通り中は広く、大勢の人で賑わっていた。その人混みをくぐり抜け、案内板の所に向うとどのフロアに行くかの相談を始めた。
「わ~ 色んなフロアがあって、どこに行くか迷うな~」
「それなら女性服があるエリアに行ってみたいな。遥ちゃんの選ぶ服とか知りたいし」
「なら決まりだね。早速行こう」
花陽の提案で女性服エリアに行く事を決めた後、二人は並んでエスカレーターに乗り込んだ。程なく着いた三階では、若者向けは勿論の事。あらゆる年代の衣服が陳列していた。その品揃えの多さは二人を驚かせたのは言うまでもない。あちこちに視線をやる花陽を余所に遥は内心、真島の経営手腕に関心していた。
「す、すごいね。品が多いと分かってはいたけど、ここまでなんて…」
「うん。それに真島のおじさんがオーナーだし、あの人は妥協はしないから」
「そ、そう。だけど、色んな服があるのは嬉しいな。自分に合う服って、見つけにくいから」
「あ、それは分かるなぁ。そういうのって、探すの大変だもんね」
「うん。でも、此処なら自分の欲しい服がありそうだよね」
「よーし。何か気合入ってきた。さ、今日は思う存分に買い物を楽しもう」
「おお~」
遥の言葉で気合が入ったのだろう。花陽も手を上げてそれに答えた。その後、二人はお互いに似合う服を選びあった。その様子は誰が見ても親友だと思う程である。
それから数十分後、吟味を重ねて漸く二人は購入する服を決めた。花陽が遥に選んだ服はアサガオが刺繍された白のシャツ。最初こそ、気に入ってくれるか不安だった。だけど、飾り気がある服よりもシンプルな服を好む遥は嬉しそうに花陽が選んでくれた服を受けとった。
そして遥が花陽の為に選んだ服。それは花陽とは対照にヒマワリが刺繍された服であった。遥がこの服を選んだ理由、それは遥にとって花陽は大事な友達。そんな想いが心の中に生まれていた。だからこそ、自分と桐生に縁があるヒマワリを選んだ。これからも仲良くしたい。そういう気持ちも混めて…
その後、二人は会計を済ませて神室町ヒルズから出ると外は薄暗くなっており、どうやら服選びに夢中で時間が過ぎていたようだ。その事に二人が慌てて中道通りへ戻ろうとした時、「漸く出てきたか。待ちくたびれたぞ」と疲れた声で呟きながら桐生が近寄ってきた。
「あ、おじさん。遅くなってごめんなさい」
「私の方こそ、ごめんなさい。買い物に夢中で時間を確認してませんでした」
「……そうだったのか。いや、別に怒ってる訳じゃない。それで買い物は楽しかったか?」
「うん。とても楽しかったよ。花陽ちゃんに素敵な服を選んで貰ったんだ」
「遥ちゃんが喜んでくれて良かった。私も選んで貰った服、大事にするね」
「フッ 存分に羽を伸ばせたようだな。遥、お前は今日、俺の所に泊まって行くんだろ?」
「……その事だけど、私は暫く此処にいるつもりだよ。ま、一週間くらいかな」
「そうか。まあ、俺もゆっくりと話がしたいからな。丁度良かった」
「あ、遥ちゃん。暫くいるならまた会いましょうよ」
「うん、勿論だよ。私も花陽ちゃんとまた遊びたいもん」
「話は纏ったな。さて、俺は花陽をタクシー乗り場まで送るとしよう」
「ありがとうございます。宜しくお願いします」
こうして三人は並んで歩き出す。目的地に辿り着くまでの間、仲良く会話をする二人を桐生は暖かい眼差しで見つめていた。今思えば花陽と遥を会わせて良かったと、桐生は心から感じていた。きっと、花陽は遥の良い友達となるだろう。その事は桐生にとっても一番嬉しい事実だった。
これを切欠に遥に友達が出来ます様に。桐生は空を見上げて、静かに願っていた。
サブストーリー025 友達が出来た日 完
桐生「花陽が遥と会いたいと言った時はどうなるかと思ったが、まさか友達になるとはな。フッ、遥の喜んだ顔を見れて良かったぜ」
1ヶ月程、間が空きましたが漸く更新出来ました。
宜しければ、是非とも感想を下さい。お願いします。