サブストーリー026 健康の一歩は食事から 開始
今回は海未と真島さんのドタバタ劇です。それではどうぞ
深夜、事務所に一人残り真島は書類処理に勤しんでいた。そして最後の一枚を片づけると溜まった疲れを押し出す様に深く息を吐き出した。
「はぁ~ やっと終わったわ。さて、街に繰り出すとするかいのう。何処かで一杯やるとしよか」
そう呟いて、時計を見て真島は唖然とした。無理も無い、体感では20時くらいと思っていたが、既に時刻は23時を回っていた。当然ながらこの時間ではバーは勿論、居酒屋も閉店しているだろう。折角の楽しみが無くなった事を悟り、真島は何とも言えない徒労感に襲われた。
「ちっ、これだから書類仕事は嫌なんや。しゃーない。今日は大人しく帰るとするか。明日、出勤したら俺に仕事を押し付けて帰った西田は…折檻決定や」
溜まった鬱憤を晴らす相手も決めた後、真島は帰路に着く為、事務所を出ていった。その前に何処かの店で何か弁当を買って行こうと歩き出した時、懐に入れていた携帯が震えた。こんな時に一体、誰や?と顔を顰めるが液晶の名前を見て、表情を変えた。
「ん?海未ちゃんからのメールや。あの真面目な子がこないな時間に送ってくるとは珍しいの~ 何か遭ったんやろか?」
もしかしたら緊急の用かもしれない。そう思った真島はボタンを押して中身を確認すると、そこに書かれている内容に驚き、目を瞠る。メールには『夜分遅くに申し訳ありません。実は真島さんに相談したい事があるんです。もし、宜しければ明日の夕方、穂乃果の家で会えませんか? お返事待ってます』とあった。
明日の夕方とは早急だが、それ程までに切羽詰まっているのだろう。当然、真島の答えは決まっており、『分った。ほな、明日の夕方にそっちへ行く。大船に乗った気でおりや』と返信した。その後、海未からお礼と急な要件への謝罪を書いたメールが送られてきた。
(ふっ、相変わらず律儀な子や。しかし、ホンマに何が遭ったんやろか?ま、明日になれば分かるか。弁当を買って帰るとするか)
当初の予定通り、弁当を購入した真島は帰路についた。
翌日の夕方 真島は海未との約束通り、穂乃果の家へ向かっていた。いつも変わらぬ道を通り、穂むらへ到着すると引き戸を開けて中へ入ると店番をしていた穂乃果の母の挨拶が飛んできた。
「いらっしゃい。あら?真島さんお久しぶり。此処暫く来なかったけど、忙しかったのかしら?」
「おう。そうなんや。俺も美味い和菓子が食いたくて来たんや。まあ、今日はある用事の為でもあるんやけどな」
「用事? ああ…あの事かしらね。海未ちゃんなら穂乃果の部屋にいるわ。それと包む和菓子は何にします?」
「ほな、いつもの10個頼む。それと少しお邪魔するけど、ええやろか?そない長居はせえへんから」
「ええ。構いませんよ」
「‥‥おおきに。せやけど、奥さんもそうやが旦那さんは気にしてるんやないんか?」
「え?何がです?」
「そら、俺が穂乃果ちゃんの部屋へ入る事や。いくら顔見知りちゅうても年頃の娘にいい歳した男が入る事に抵抗を覚えとるんちゃうか? 聞いた話やと、桐生ちゃんも偶に来ては部屋に入る事もある様やないか」
惚けた表情で聞き返す穂乃果の母へ真島は些か、呆れた様子で言葉を返す。そう、いくら顔見知りでも真島と穂乃果達とは年齢の差がある上に性別の差もある。それ以前に自分は極道。本来ならこんな風に会話する事がありえないのである。
暫く沈黙が続き、張り詰めた空気の中。穂乃果の母は優しく笑みを浮かべた後、静かに口を開き言葉を紡ぐ。
「…普通なら娘の部屋に入る事に対して抵抗は覚えるでしょうね。だけど、私は心配をしてないわ。理由になってないけど、真島さんや桐生さんだから。それが答えかしらね」
「ホンマに理由になってへん。せやけど、信用されてるのは分かった。それは嬉しい事やな」
「今日はらしくないですね。まあ、他に理由があるとしたら…邪な事を考える人はこんな事を面と向かって言わない。それもあるわね」
「成程のう。何や、そう言われると少し照れ臭いわ。まあ、本音を聞けて良かったわ。ほな、お邪魔させてもらうで」
「どうぞ。お菓子は出来たてを包んでおくわね」
「ありがとう。楽しみにしてるで」
お礼の言葉を言って、真島は穂むらの二階へ上がっていった。廊下に出ると奥から数人の話声が聞こえ、その中には海未とことりの声も混ざっている。どうやら、いつもの三人が揃っていている様だ。部屋の前に立つと戸を軽くノックして声をかけた。万が一、着替えをしていたら洒落にならない。その可能性も考慮しての行動だった。
「おう。真島やけど。ちと部屋にお邪魔してええか?」
「あ、真島さん。どうぞ~」
「お邪魔するで~」
許可を得て、部屋に入るとお菓子を食べて談笑していた穂乃果達の姿があった。海未とことりは真島を見ると挨拶をしてきた。
「こんばんは。いや、こんにちは?まあ、いいよね。お久しぶり真島さん」
「夕方の五時を回ってますからこんばんはでは?」
「どっちでもええやろ。して、昨夜のメールの件やが…。一体、何があったんや?海未ちゃん」
「そうですね。実は昨夜……」
真島に問いに海未は俯き、ゆっくりとした口調で事情を話し出した。その様子から相当、深刻な話なのかと真島も真剣な表情で話に耳を傾けた。しかし、話の内容は真島の想像とは違っていた。最初こそ、真面目に聞いていた真島だったが、次第に呆れた表情へと変わる。
そして海未が全て話を終えると真島は溜息混じりに口を開く。
「何や、深刻そうやったからどんな事かと思っていたら…食事の好みの事やったんか。はぁ~ 心配してた俺がアホみたいやないか」
「な、何を言ってるんですか。日本人と言えば主食は米。それを食べずに毎朝、パンを食べるなんてありえません。それに昨今の日本人による日本離れは深刻でしょう。食事だけでなく、あらゆる文化も消えていってると聞きますよ」
「ま、まあ。確かにテレビでもそう言っておったな。けど、寂しい事やが、それも時代の流れとちゃうんか?残すべきものは自然と残るやろ」
「そういう事ではありません。問題は穂乃果がパンばかりを食べてる事です。何も食べるなと言いませんが、聞いた話ではここ毎日が三食ともパンだとか。それでは栄養が偏ってしまいます」
海未は真島の顔を見つめ、真剣な様子で言葉を連ねる。その勢いに圧倒されたのもあるが、海未の言葉に真島は押し黙る。ちらっと穂乃果を見ると彼女は冷や汗を浮かべばつの悪そうな顔をしていた。どうやら海未の話は真実らしい。その事に深く溜息を吐くと真島は海未に問い掛ける。
「そら、体に悪いな。流石に毎日三食ともパンはアカン。てか、穂乃果ちゃんはそんな食生活を送って飽きたりせえへんのか?」
「ううん。全然、飽きないよ。だって、私が好きで食べてるんだもん」
「せやけど、流石に同じものは駄目やと思うで。食生活の偏りは甘く見てると怖いからのう」
「そうですよ。明日から穂乃果のメニューは私が考えます。良いですね」
「え?ち、ちょっと待って。何で海未ちゃんが穂乃果の食べる物を決めるのさ!」
「何を言ってるんですか。当然でしょう?こうでもしないと貴女はパンばかり食べるに決まってます。これを機に規則正しい食生活を覚えるべきです」
海未の宣言に慌てて弁解をする穂乃果だが、海未はそれを一蹴して正論で握り潰した。言ってる事も尤も故、穂乃果も反論する事は出来なかった。暗い表情で沈黙する穂乃果を見ながら今度は真島が海未に尋ねた。
「食事メニュー考えると言うても、一体どんな風にするんや?まさか、海未ちゃんが穂乃果ちゃん家に作りに行く訳やないよな?」
「可能ならそうしたいですが…流石に難しいですね。そうだ!折角ですし、真島さんの意見も聞かせて下さい。真島さんは普段、どんな食生活をしてるんですか?」
海未の発言に真島は藪蛇を突いたと後悔した。独り身である真島の食生活は大方、出前やコンビニ弁当等であった。もし素直に言えば海未の性格上、自分にも飛び火する事は明白だ。未だ、応えない真島に海未は訝しげな表情を浮かべる。これ以上の沈黙は不味いと真島は口を開くと咄嗟に思い付いた言い訳をする。
「お、俺は…‥。一応、自炊しとるで。ま、あまり料理は得意では無いけどのう」
「そうでしたか。意外ですね。てっきり、真島さんの事だから出前とかコンビニ弁当で済ませてると思ってました。見かけで判断は出来ませんね」
「そ、そうやろ。よく言われるわ」
「ええ。ですから真島さんにも穂乃果のメニュー作成に協力してもらいます。自炊しているなら健康にいいメニューも知っているでしょうからね」
何とか誤魔化せたとほっと胸を撫で下ろす真島だが、次に出た海未の言葉でそれは粉々に砕かれた。まさか、自分が穂乃果のメニュー作りに手を貸す羽目になってしまった。当然、真島が出来る料理は精々、おにぎりや味噌汁が良い所だろう。極道生活では自炊する機会が無い為、仕方無い事である。
「……! ち、ちょい待ちや。自炊と言うても凝ったもんは作れへんで。出来て味噌汁やおにぎりが良い所や」
「…味噌汁とおにぎりですか。素晴らしいじゃないですか。シンプルでいて十分、健康的なメニューですよ」
「そ、そうか。まあ、人間健康が第一やからな。当然や」
「その通りです。そうだ 折角ですから今日の夜は真島さんが作ってみてはどうですか?」
「あっ それは穂乃果も賛成~ 話を聞いてたら食べたくなったよ。ねえ、真島さん。今日の夕飯におにぎりと味噌汁を作ってよ」
「うん。私も食べたいな~ 真島さん お願~い」
三人から向けられる期待の眼差しに自分の逃げ場は無い事を理解した。これ以上、言い訳を重ねても却って自分を追いつめるだけである。それなら覚悟を決めて作ってしまおう。真島はそう決意して穂乃果達の言葉に頷いた。それを見て、喜ぶ三人だったが真島は内心複雑だった。作るのがおにぎりと味噌汁とはいえ、味の良し悪しは誤魔化せない。
案の定、出来上がったおにぎりと味噌汁を食した三人は表情を曇らせた。暫しの沈黙が続いた後、海未が頬を引き攣らせて真島に問い掛ける。
「…これ、どうやって作りました?」
「ど、どうやって…そら、普通にやったに決まっとるやろ」
「私の言い方が悪かったですね。その…味付けはどの様にやりましたか?」
「そら、おにぎりには塩を鷲掴みにして握って。味噌汁には味噌を一袋や。味が濃厚でええやろ」
「良くありません。これでは塩分過多になって、却って体に悪いじゃないですか。塩は一撮み、味噌はおたま半分以下で十分なんです。真島さん...本当に自炊をしているんですか?この事は基本中の基本ですよ」
海未の言葉に真島は何も言えなかった。考えてみれば、海未の言う通りである。何も喋らず黙る真島の様子に海未が抱いていた疑問は確信へと変わった。
「...真島さん。正直に言ってください。自炊をしてるというのは嘘ですね」
「ああ。そうや。いつもはコンビニ弁当や」
もう隠すだけ無駄と真島は素直に嘘を認めた。まあ、料理の基本を知らない時点で隠しようが無いのもあった。そんな真島に海未は溜息を一つ吐くとゆっくりとした口調で話し始めた。
「そうでしたか。これで管理する人がまた増えましたね。今日から二人が食べるメニューは私が決めます。真島さんは忙しい故の事でしょうから仕方無いかもしれませんが、一食は実行して下さい」
「おう。ありがとうな」
「それと穂乃果」
「は、はい。何でしょう?」
「貴女には毎日三食。実行してもらいます」
「ええ!? そんなの酷いよ海未ちゃん。穂乃果からパンを奪わないで~」
「酷くありません。これも貴女の為を思っての事です」
「ほ、穂乃果ちゃん。ことりも応援するから頑張ろうよ」
ワイワイと騒ぐ三人を真島は静かに見つめていた。時折、振り回される事もあるが何だかんだでこの子達からパワーを貰っている。それは今後も変わる事は無いだろう。願わくば、この賑やかで暖かい日常が続いて欲しい。真島は心からそう思っていた。
尤もこの先、海未の厳しい指導によって穂乃果同様に質素な食生活を送る羽目になったのはまた別の話
サブストーリー026 健康の一歩は食事から 完
真島「海未ちゃんの問題は穂乃果ちゃんの食事の事やった。その流れで自分も食事管理されるとはのう… まあ、人に心配されるんは嬉しい事やな」
今回のお話、いかがだったでしょうか?この話自体、自分が体調を崩し掛けていた時、摂っていた食事から思い付きました。
最近、梅雨に入った事で暑い日が続きます。皆様も健康にはお気を付けて
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それと☆9評価を下さった 雷神無双さん どうもありがとうございます。