般若と龍と女神のドタバタ騒動記   作:アリアンキング

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サブストーリー028 鍋の如く温かく 開始

真島「イラついて缶を蹴ったら、目の前にいた女の子に当たってしもうた。とりあえず、謝らんとな。面倒な事にならんといいが…」


今回は真島さんのドタバタ劇です。それではどうぞ


サブストーリー028 鍋の如く温かく

10月 神室町某所

 

 残暑も過ぎて肌寒くなった頃。真島はこの日も一人で神室町を闊歩していた。

 無論、サボっている訳でなく、季節の変わり目に変化する流行商品やニーズを調べる為であった。しかし、どの店も似たような物ばかりで成果は芳しく無かった。その事でイラついていた真島は道端に落ちていた空き缶を思いっきり蹴り飛ばした。

 

 

 空き缶は放物線を描いて飛んで行き、目の前にいた少女の頭へ落ちていく。カーンという心地良い音が響いた後、少女は頭を抑えてに座り込む。その一部始終を見ていた真島はばつの悪い顔で少女の傍へ駆け寄った。

 

虫の居所が悪いとはいえ、流石に無関係の人へ危害を与えて立ち去る様な事は出来ない。真島は少女へ謝る為におずおずと声をかけた。

 

 

「すまんのう。…嬢ちゃん大丈夫か?怪我とかしてへんか?」

「いたた~ ちょっと、あんたぁ!! いきなり何をするのよ。って、あれ?真島さん」

「うん?何や、にこちゃんやないか。こんな路地で何しとるんや?この辺は物騒な場所やし、一人でうろつくんはあかんで」

「え?そ、そうなの?忠告ありがとう。でも此処で真島さんに会えたのはツイてるわ。ねえ…少しばかり協力して欲しい事があるのだけれど…聞いてもらっていいかしら?」

 

 

 自分が缶を当ててしまった相手は矢澤にこであった。以前、ゲームセンターで会ったきりだが、特徴的な髪型と背丈で真島は思い出す事が出来た。最初こそ、にこは勢いよく振り向いて怒りを露わにしたが、相手が真島と知ると驚いた表情を見せる。真島の姿を見てにこはある提案を思い付く。今日、神室町に来た目的の為で街に詳しい人物の協力は必要になるだろう。そうとなれば善は急げとにこは早速、話を切り出した。

 

 

 反応が無い事に何処か怪我をしたんじゃないかと真島は心配するが、コロッとした表情で話を持ちかけてくる姿に杞憂だとホッと胸を撫で下ろす。八つ当たりした負い目もあり、また何か面白そうな事が起きそうな予感がすると感じた真島はにこの話を聞く事に決めた。

 

 

「協力?それは…別にええけど、一体何をして欲しいんや?」

「…実はね。この間、伝説と呼ばれたアイドルが神室町にいるらしいのよ。それを探すのを手伝って欲しいの」

「ほう 伝説のアイドルなぁ。それは一体、誰なんや?まさか、T-SETの事か?以前、神室町に来たアイドルがそんなユニットやったのう」

「そうなの?だけど、探しているのは別のアイドルよ。あっ、そのアイドルの名前は澤村遥というの。デビューした頃、人気のユニットT-SETをアイドル対決で倒したという偉業をやってのけたのよ」

「成程のう。遥ちゃんも可愛い顔の割にやるのう。せやけど、T-SETとそないな因縁があったのは驚きや」

「そうよね。普通はまず敵う相手じゃないし……。ねえ、真島さん 今、遥ちゃんって言った?」

 

 

 話が盛り上がる中、真島の言葉に違和感を覚えたにこがゆっくりと真島に尋ねる。突然、雰囲気が変わったにこの様子に戸惑いながらも真島は質問に答えた。

 

 

「ああ 確かに言うたで。せやけど、それがどないしたんや?」

「どうしたもないわよ。今、可愛い顔と言ったわね。もしかして見た事あるの?」

「あるで。今は桐生ちゃんと一緒に住んどるからのう。確か、家も近いし寄っていかへんか?」

「勿論と言いたいけど、いきなり尋ねて大丈夫かしら?迷惑になる事はしたくないし…」

「大丈夫や。にこちゃん、遥ちゃんに会いたくて神室町に来たんやろ?それに遥ちゃんと友達になれるかもしれへんしな」

「伝説のアイドルと友達かぁ~ そうなれたら最高ね。………。決めた。真島さん 桐生さんの家に案内お願いします」

「ええで。ほな、いこか」

 

 

 真島の言葉に暫し、悩んでいたにこだったが、桐生の家を尋ねる事を決めて真島へ案内を申し出た。その言葉を待っていた真島もにこの願いを受け入れるのは当然であった。案内の道中、気になっていた事を真島はにこへ聞いてみる事にした。

 

 

「そういや、さっきから気になってたんやが…にこちゃんはどうしてアイドルを追いかけてるんや?やっぱ、あれか?自分もアイドルだから他のアイドルが気になるっちゅう事か?」

「ううん そうじゃないわ。単に私が好きでやってるのよ。それに私はスクールアイドルだったから、アマチュアよ。プロのアイドルだった澤村遥には敵いっこないわよ」

 

 

 真島の問いに、にこは些か表情を曇らせ答える様子に真島は何か引っ掛かる物を覚えた。それを確かめようと真島が言葉を発するよりも先に、今度は力強い表情でにこは言葉を続けた。

 

 

「でもね。だから、私は知りたいのよ。デビューした当時、勝ち目のない相手にどんな気持ちで挑んだのか。そして勝つためにどんな努力をして来たのかをね。私も以前、A-RISEという勝ち目の無い相手に挑んで勝った。だけど、それは私だけじゃなくてμ'sの皆がいたからよ。しかし、澤村遥は周りのサポートがあったとはいえ、戦う時は一人だった。故に私は知りたいの。どうして頂点に行けたのか」

「……。成程のう。まあ、会いたい理由は分かった。せやけど、にこちゃんが望んでる答えは聞けるか解らへんで」

「そうかもしれない。でも、どんな答えでも聞かないと分からないわ。それはそうと…真島さんは何をしてたの?缶を蹴飛ばすくらいだったし、何か嫌な事があったんでしょ?」

「ああ 実は…流行の品を調べていた最中やったんや。季節毎に客のニーズも変わるし、流行に合わせんと客足も遠のくからのう。せや、にこちゃんは今の時期、何が流行ってるのか知らへんか?こういう物があれば良いとか、あれがあったら良いとか。そういう物や」

「うーん あれば良い物かぁ。特に無いけど……。 あっ、宅配サービスはどう?距離が遠くて行けない人や時間が無くて行けない人の為にさ」

「成程。確かにそういった事情の人もおるし、宅配サービスならニーズに応えられるな。にこちゃん、ありがとさん。聞いて正解やった。それでもう一つ聞きたいんやけど…ええか?」

「いいわよ。何かしら?」

 

 

 

 にこの提案が切っ掛けで新しいサービスが生まれる事になったが、まだ流行の品を調べるという課題が残っている。それが解らなければ、いくら新しいサービスをやっても売り上げは上がる事はない。

 

 

 

 故に質問の内容を変えて真島はにこへ聞く事にした。

 

 

 

 

「今、にこちゃん達の間でどんな物が流行ってるんや?新サービスを始める以上は流行の品を知っとかないとあかんからのう。にこちゃんは何か知らへんか?」

「うーん 流行の品かぁ。私が聞いた話だと鍋が流行ってるみたいよ」

「鍋か… せやけど、それは寒い時期の今は普通じゃあらへんか?」

「それもあるけど、今は女性が一人でも出来る鍋があるのよ。カロリー控えめの豆乳鍋とかね。だからそれに必要な食材一式のセットとかを格安で販売してみるのはどう?それを宅配サービスでやれば女性の利用客を増やせるんじゃない?鍋物はこの時期、かなり売れるだろうから」

「それはええ提案やな。確かに女性の客も増やせるのう。にこちゃん、ありがとうな」

「どういたしまして。あれ?あそこにいるの桐生さんじゃない?」

「おお ホンマや。おーい 桐生ちゃ~ん」

 

 

 にこが指さす方を見ると、確かに桐生の姿があった。それを見た真島は手を振って呼び掛けると桐生は若干、顔を引き攣らせて真島へ視線をやった。無論、それに気付いた真島はムッとした顔で桐生へ詰め寄った。

 

 

「何やねん。その顔は…。俺が声を掛けたらあかんのか?」

「い、いや。そんな事はない。ただ、少し驚いただけだ。所で真島の兄さんは何故、にこと一緒にいるんだ?言っちゃ何だが…兄さんが女好きでも見境い無いのはどうかと思うぜ」

「アホ。そんなんちゃうわ。てか、お前は俺を何やと思ってるんや。いくら何でもにこちゃんに手は出せへん。大人の女と分かっているが、見た目は小学生やしな」

「悪かったわね。見た目が小学生で」

 

 

 途中から小声で話していた二人だが、にこの耳には全て聞こえていた。鋭い目つきで怒りを隠そうとしないにこに二人が取った行動は謝る事だった。この場合、怒る女性に言い訳は悪手である。二人は過去の経験からそれを知っていた。

 

 

「すまん。別に馬鹿にしとる訳やないで」

「俺の方こそ…すまない。そうだ 今日は鍋をやるんだが、二人も参加していかないか。こういうのは人が多い方が楽しいからな。それに二人も何か用が在ってきたんだろ?」

「ええ。でも、本当にいいの?」

「ああ 別に構わないぜ。にこが参加してくれたら、遥も話が弾むだろうしな」

「そうだよ。私もにこさんと話がしてみたいしね。一緒に鍋パーティやろうよ」

「うん、私も遥さんと話がしたいし、参加させてもらいます」

「そうこなくっちゃ。それと気を使わなくてもいいよ。あと私は遥と呼んで、さん付けされるのは慣れてないから」

「ええ 分かったわ。それじゃあ、私の事もにこでいいわ」

 

 

 桐生から鍋の誘いに参加するか迷っていたにこだが、唐突に現れた遥の誘いで参加する事を決めた。そんなにこは遥とすんなり打ち解けた事に内心驚いていた。澤村遥の存在はにこにとって憧れの人物である。μ'sとして活動していた頃、同じく憧れのA-RISEと会った時は緊張しっぱなしだった。だけど、遥と話す時は素直に慣れた。恐らくこれが澤村遥の魅力なのだろう。にこは改めて彼女が伝説のアイドルと呼ばれた訳を思い知った。

 

 

「おお にこちゃんも遥ちゃんと打ち解けた様やな。俺も桐生ちゃんと話しながら鍋を突けるのは最高やな」

「……。そうなると追加の材料を用意しないとな。遥、悪いが買い出しに行って来てくれないか。俺は料理の準備をしておくから」

「分かった。あ、それならにこちゃんも一緒に行かない?一人で行くより、二人の方が楽しいから」

「そうね。ご馳走になる以上、それくらいはやらないとだものね」

「やったぁ。じゃあ、ちょっと行ってくるね」

 

 

 桐生から買い出し用の代金を受け取ると二人は最寄りのスーパーへ向かった。歩き出して間もなく、遥が話しかけてきた。

 

 

「お客さんなのに買い物に付き合わせてごめんね。強引だけど、二人になる方法はこれしか思い付かなくて」

「気にしなくていいわ。さっきも言ったけど、ご馳走になるんだもん。それに二人っきりになれたのは私にも好都合だったから」

「…?それはどういう事?」

「ああ 別に変な意味はないわ。ただ、聞きたい事があったからよ」

 

 

 にこの言葉で困惑の表情を浮かべる遥を見て、にこは慌てた様子で弁明をした。にこが遥に聞く事はある意味では遥の傷に触れる事でもある。それ故、遥の機嫌を損ねては元も子もない。だが、それはにこの杞憂だった。遥は柔らかな笑顔を見せると快くにこの言葉に頷いた。

 

「聞きたい事? 私に答えられる事なら良いけど…何が聞きたいの?」

「……うん。それはね… 遥ちゃんが伝説のアイドルと呼ばれるに至った秘訣、それが知りたいのよ。デビュー間もない当時に人気も実力もあったユニット T-SETを超えるなんて普通は無理だもの」

「……。質問の答えだけど、私は何もしてないよ。レッスンは厳しかったし、自分から飛び込んだ世界から逃げようと考えた事もあった。でもね。それでも続ける事が出来たのはおじさんやアサガオの皆がいたからかな。ファンの応援も嬉しかったのもあるけど、やっぱり楽しむ事。それが何よりの秘訣だと私は思ってる」

「……。そう それが遥ちゃんの答えなのね」

「ごめんね。にこちゃんの参考にならなくて。だけど、にこちゃんのアイドルに対する熱意は私も好きだよ。ステージで踊ってるにこちゃん、とても輝いていたよね」

「いいのよ。って、私がアイドルだった事を知ってたの?まだ言って無かったわよね」

「実は先日、街で会った花陽ちゃんから教えてもらったの。花陽ちゃんが言うにはにこちゃんは自分と同じくアイドルに目が無いからきっと、神室町に私を探しに来る筈だって。もし会えたら質問責めにするかもとも言ってたよ」

「そ、そう。花陽がそんな事を…。私の行動を花陽が予想してたのが少し癪ね。まあ、聞きたい事を聞けたからいいわ」

「質問はもういいの?他に聞きたい事があるんじゃない?……例えば、私が引退した時の事とか」

「……。気にならないと言えば嘘になるわ。でも、言いたくない事を聞くつもりはないわよ。誰でも触れて欲しくない事はあるものね」

 

 

「ありがとう。本音を言うとね。あの時の事は話したくないんだ。あの日、私がやってしまった事は応援してくれたファンや支えてくれた色んな人達を裏切りなのは分かってる。でも、私は…家族と言えるおじさんと一緒にいたい。その想いだけは譲る事は出来なかったんだ。最低でしょ?」

「そんな事はないわ。寧ろ、あの場で自分の意思を言った貴女の勇気を私は尊敬する。普通は出来る事じゃないもの。だから自分を責めては駄目よ。家族を大事にする気持ちは私も解るから」

 

 

 自分の気持ちを吐露し、暗い面持で自分を卑下する遥へにこは手を取ると優しく慰めた。その言葉に遥は涙を堪える事が出来なかった。周りから何を言われても自分が悪い。そうやって、内心は己を責めていたのだろう。だが、にこの言葉はそんな遥の固い心を溶かしていく。

 

 

 μ'sに入る前、過去の出来事が原因で頑なに心を閉ざしていた。だけど、そんな自分を優しく包み込んで受け止めてくれた子がいた。今度は私がこの子を優しく包み込んで受け止めて上げたい。にこは遥をそっと抱きしめながらそんな事を考えていた。その想いはにこを通して伝わったのか。遥もにこを抱きしめて静かに嗚咽を上げる。

 

 

 それから暫くして、泣き止んだ遥の表情は先程と違いすっきりとしていた。長い間、自身が抑え込んでいた心の淀み。それを消し去る事が出来たのは…全てを受け止めてくれたにこのおかげである。そういえば、自分が感情のままに泣いたのは久しぶりだった。普段、誰かに甘える事が無い遥だが、素直に慣れたのはにこの雰囲気が何処となく、自分の母親と同じだった事に気が付いた。無論、口には出さないが…にこは遥の考えている事が解ったのか。少しだけ、口を尖らせて言葉を発した。

 

 

「言っとくけど、間違っても私をお母さんと呼ぶのは無しよ」

「え?そ、それは当然だよ。ても、どうして…そう思ったの?」

「昔、妹が小さい頃に私をお母さんと呼んだ事があったのよ。その時、妹が見せた表情を貴女もしてたわ。ま、働く母の変わりをしてたから仕方ない事だけどね。けど、言われると複雑よ」

「そうだったんだ。まあ、私もアサガオの子から言われた経験があるし、それは分かる気がするなぁ」

「……。お母さんと呼ぶのは禁止だけど、お姉さんと呼ぶのはいいわよ」

 

 

 自分でも恥ずかしいのか、にこは顔を赤くしながら遥に向かって呟いた。遥も最初はきょとんとしていたが、パッと明るい笑顔を浮かべると嬉しそうにお姉ちゃんと呼ぶとにこへ抱き付いた。突発な行動に驚くにこだったが、素直に甘えてくる遥とそれを受け止める二人の姿は何処から見ても仲の良い姉妹そのものだった。無論、見る人は立場を逆と見るのは言うまでもない。

 

 

 その後、目的である鍋の材料を買って帰ると料理を失敗して慌てる桐生と真島を見て、遥の雷が落ちた。大人の男を正座させ、説教をする遥はまるで母親の様だとにこが心の中で思っていると遥はにこへ振り向くと笑顔でこう呟いた。

 

 

「ねえ、にこちゃん。今、私をお母さんと思ったでしょ?」

「そ、そんな事ないわよ。遥の気のせいよ」

「言い訳は無用。そこに正座」

 

 

 必死に誤魔化すにこだが、遥には通じる事は無く桐生と真島の隣で正座させられて説教される羽目となる。結局、失敗の原因である真島が責任を取る形となり、真島が行き付けの店へ訪れて鍋を堪能した。寒い夜、四人の心と体は春の様にポカポカと温まっていた。

 

 そんな中で会計を済ませた真島の懐だけが寒くなったのは別の話。

 




サブストーリー028 鍋の如く温かく 完


真島「何があったか知らんが、買い物から帰って来た二人は何処かすっきりした顔やったな。どうやら、お互いの悩みが解消したようや。可愛い子は笑顔でいるんが一番やからな」


久しぶりの投稿が、年内最後の投稿となりました。大分、お待たせして申し訳ないです。一応、最近に出た龍如 極2のおかげでネタがいくつか生まれたので執筆が取れる時間次第ですが、なるべく早く投稿出来るよう頑張ります。

来年もドタバタ騒動記をどうぞよろしくお願いします。
感想の方も良ければ、書いて下さると嬉しいです。
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