今回はμ's&A-RISEと桐生さん達が年越しパーティをする話です。
無礼講をダシに真島さんが桐生さんのマル秘ネタをぶちまけます。
それではどうぞ
12月31日 大晦日 1年の終わりを迎えるこの日、桐生は神室町を当ても無くぶらついていた。
本来なら家にいてゆっくりと寛ぐつもりであったが、掃除をするからと外に追い出されたのだ。寒い中、外に出たくない事もあり、桐生も手伝うと申し出たものの。私だけで大丈夫とやんわりと断られてしまった。
こうなると遥は頑として引かない。仕方無いと桐生は素直に外へ出かける事にした。家を出る際、桐生は掃除中の遥に声をかける。
「そうだ。何か必要な物はあるか? あるならついでに買ってくるぜ」
「うーん 特に無いよ。寒い日に外へ出して悪いけど、掃除は1時間くらいで終わるだろうし、何処かで時間を潰しておいてよ」
「ああ 分かった。俺こそ、手伝わなくて悪いな」
「ううん 気にしないでよ。掃除が終わったら電話するからそれまでゆっくりしてね」
「わかった。それじゃ行ってくるぜ」
そういう経緯で街に来た桐生。時間を潰そうと馴染である喫茶アルプスへ向かう。
しかし喫茶店は想像以上に混雑していた。店内では大勢の客にバタバタと動く店員の様子が見て取れた。この様子ではとても長居出来そうな状況ではない。その後、行き付けの店へ何度か足を運ぶがやはり何処も混みあっていた。もう帰ろうと思い、家へ歩き出したその時。桐生の携帯が鳴り出した。画面を見ると相手は遥からであり、そういえば掃除が終わったら連絡すると言っていたのを思い出す。電話が来たという事は知らない内に1時間が過ぎていたのだろう。
当ても無く街を彷徨う桐生には、この連絡は何よりも救いだと電話に出た。
『もしもし 連絡が遅くなってごめんね。大掃除は終わったよ。今、おじさんは何処にいるの?』
「いや、気にするな。今いる場所か?今は…劇場通りだ。すぐ戻る」
『ううん 寧ろ都合がいいよ。今から中道通りまで来て欲しいだけど、いいかな?』
「中道通り?別に大丈夫だが…何かあるのか?」
『それは来てからのお楽しみだよ。じゃあ、中道通りで待ってるから』
それだけを言うと遥は電話を切った。急な出来事に戸惑いを隠せない桐生だが、先程の遥の来てからのお楽しみ…この言葉が何を意味するのか?考えてみるものの検討が付かない。此処で考えていても答えは出る筈もなく、桐生は遥が待つ中道通りへ向かう事にした。
10分程歩いて桐生は中道通りへ辿り着く。何処にいるのかと目的の人物を探すが、いつもより大勢の人で賑わっており中々見つけられずにいた。埒が明かないと居場所を聞く為、電話を取り出したその時…背後から肩を掴まれた。街で自分が絡まれるのは良くある事で普段ならば、相手を諌める程度で終わらせていたが、今の桐生は待ち合わせ相手が見つからない事もあり、苛ついていた。邪魔をする無粋な奴にお灸を据えようと振り向いた桐生は肩を掴む者の正体に驚きを隠せなかった。
「ま、真島の兄さん……。今日は何か用ですか?」
「何って、俺はお前を探していたんや。遥ちゃんに頼まれてのう。見つかるか不安やったが、見慣れた後ろ姿を見つけた訳や」
「そうだったんですか」
「ああ。さて、桐生ちゃんも無事に見つかった事や。ほな、遥ちゃんの所へ行くで」
言うべき事を言うと真島は足早に歩き出した。何かと自分に絡んで来る相手故、また無茶を言われるのかと身構えていた桐生だったが、特に何事も無くホッと胸を撫で下ろすと真島の後を追って桐生も歩き出した。
「そういや、桐生ちゃんは何をしとったんや?今日は大晦日やし、やる事も仰山あるんと違うか?」
「ああ。最初こそ、俺も遥と大掃除をするつもりだったが、本人が一人でいいから外に出てと言われてな。一人で街をぶらついていたんだ」
「ふっ 要は厄介払いをされた訳やな。情けないの~」
「……。そういう兄さんはどうなんだ?神室町ヒルズも今日は人でごった返しているだろう。肝心のオーナーが此処で油を売ってる暇はない筈だぜ?」
「何や?それは俺が役に立たんから追い出されたと言いたいんか?」
桐生の言葉に真島は不機嫌そうな顔で桐生を睨んだ。それを見て、藪蛇を突いてしまったと後悔するがあとの祭りだ。素直に謝ろうとした時、「あっ 桐生さん発見~ 遥ちゃんが待ってるよ」と明るい声が聞こえてきた。声の方を見ると走って来たのか息を切らせ、頬を赤く染めた穂乃果が立っていた。
「...お前。何で此処に?」
「何でって… 今日は大晦日でしょ?だからμ'sの皆と年越しパーティをやる事になったんだ。それで桐生さんと遥ちゃんを迎えに来たんだよ」
「そうなのか。いや、それ以前にどうしてお前が遥の事を知ってるんだ?確か、遥とお前は会った事が無いだろう」
穂乃果の言動に疑問を覚えた桐生は穂乃果に問い掛けた。μ'sのメンバーで遥と面識があるのは花陽とにこだけで他のメンバーは知らない筈なのだ。それは真島も同じらしく、穂乃果と桐生を静かに見ていた。そんな穂乃果は何処か楽しそうに桐生の問いに答える。
「ああ。実は花陽ちゃんとにこちゃんから聞いたんだ。伝説と言われるアイドルが神室町にいるって事。それを聞いたら私もそうだけど、他の皆も会いたくなってさ。誘うのはにこちゃんにお願いして私が迎えに来たんだよ」
「そうだったのか。だから、遥は俺に中道通りへ来いと言ったんだな。だが、そんな事しなくても普通に連絡したらいいんじゃないか?」
「もう… それだと面白くないでしょ。桐生さん、サプライズって知らないの?」
「穂乃果ちゃんの言う通りや。そういう桐生ちゃんの頭が固い所、治した方がええで。これには遥ちゃんも苦労するやろ?なあ、遥ちゃん」
「うーん 確かに話が通じない所もあるかなぁ」
「……。この話はもういいだろう。それで年越しパーティは何処でやるんだ?」
穂乃果と真島に続いて遥まで二人の味方になった以上、自分が何を弁明しても勝ち目はない。一番厄介なのが真島だ。このままだと余計な事を口走りかねない。それを危惧した桐生は話題を変えようと穂乃果に本題を切り出した。
「あ、まだ言ってなかったね。場所は家の近くにある神社だよ。そこで各自で料理を持参してやるんだよ」
「成程な。遥が包みを持ってるのはそういう事か」
「うん。掃除と一緒にやってたからあまり大した物は作れなかったけど、自信はあるよ」
「ほう~ それは楽しみやな。遥ちゃんの料理、期待しとるで」
「それで俺と真島の兄さんは何をすればいいんだ?誘ってもらって、何もしないのは悪いからな」
「せやな… そうや。良い事を思い付いた」
「良い事?」
「それは後のお楽しみや。ほな、俺と桐生ちゃんはその準備をするから二人は先に行っててくれや」
「分かった。じゃあ、行こうか遥ちゃん」
「うん」
「ところで真島の兄さん。準備とは一体、何をするんだ?」
楽しそうに去っていく二人を見送った後、件の準備が何なのか検討が付かない桐生は真島に問い掛けた。桐生の言葉に真島は呆れた顔で桐生に視線をやる。元々、鈍感な男であったが此処まで察しが悪いとは思ってもいなかった。そんな気持ちを吐き出す様に深い溜息をした後、真島は説明するべく口を開いた。
「桐生ちゃんよ。今日は大晦日やで。この流れで大人が準備するったらお年玉しか無いやろが~ 大体、アサガオの子供達に毎年は渡しとるやろ」
「いや、それが…去年は運営を遥に任せっぱなしでな。それに今年は遥がこっちにいるし、俺がアサガオの子供達に渡さないとな。兄さん、そういう事で俺は子供達のお年玉を送金してくる。ちょっと外していいか?」
「早よ行きや。それとあと3人分、用意しいや。ええな?」
「3人?他に誰かいたか?」
突然、3人分のお年玉を用意しろと言い出した真島に桐生は尋ねた。参加するのは自分と真島を除いて9人の筈。しかし当の本人は呆れた様に溜息を吐くだけで何も言わない。流石の桐生もその真島の態度に腹が立ち、眉を顰め鋭い目で真島を睨み付けた。二人の間に重い空気が立ち込める。だが、真島は何処吹く風で桐生の問いに答えるべく、口を開く。
「誰って、A-RISEの皆に決まっとるやろ。一年の終わりやし、宴は人数が多い方が盛り上がるからのう。A-RISEの連絡は俺がしておくわ。だから、三人の分は頼んだで」
「分かった。あの三人の分は俺が用意しよう。だが、いきなり連絡して来てくれるのか?大抵は家族と過ごすものだろう」
「その時はその時や。さて、俺はツバサちゃん達に連絡しておく。桐生ちゃんは早う金を用意せい。これ以上、無駄に時間を使う訳にいかんやろ」
「そうだな。では行ってくる」
そうして真島と別れた桐生は急ぎ足でコンビニへ訪れた。幸いにも店内は空いており、手早くお金を下ろすとその場を後にする。行きと同じく急いで先程の場所に戻ると、壁に寄り掛かり一服する真島を見つけると歩み寄る。向こうも桐生に気付いて手にしていた煙草を携帯灰皿へしまう。
「こっちの用は終わった。そっちはツバサ達に連絡は取れたのか?」
「おう。運が良い事に暇だからと全員参加するそうや。三人とは神社前で落ち合う予定や」
「わかった。じゃあ、俺達も行くとするか」
「そうやな。大分、時間食ってもうたし急ぐで」
これ以上、時間を無駄に出来ないと二人はタクシーを捕まえて目的へ移動する事にした。その途中、どちらが代金を払うかで揉めたが割り勘で手打ちとなった。そんな二人の言い争いを間近で聞いていた運転手には最悪の日であった
車に揺られて移動する事、ニ十分後。支払いを済ませて二人は目的の場所である神社へ向かって歩いていた。周りには神社へ向かうであろう人達の姿があった。時刻も17時を過ぎ、陽は完全に落ちて空には暗闇が広がっていた。そんな夜空を見上げながら桐生はふと呟いた。
「そういえば穂乃果は神社で年越しと言ってたが、一体どうするんだ?周りを見る限り、神社には俺達以外の人だって来るだろうし、そんな場所で大騒ぎしたら迷惑になるんじゃないのか?」
「ああ その事なら心配無用やで。桐生ちゃんと合流する前に希ちゃんからメールが届いてな。神社の傍にある小屋で行うそうや」
「成程。それなら周りに迷惑を掛ける事は無いな。だが、その小屋は神社の物だろう。そこに部外者の俺達が入って大丈夫なのか?」
「それは問題無いそうや。気になって俺もメールで聞いたんやが、希ちゃんが神社の関係者に許可を取ってあると返事が返って来たからのう。まあ、むやみに騒いだりしなければええだけや」
「それもそうだな」
そんな話をしている内に二人は神社へ辿り着く。境内へ続く階段の前にはツバサ達の姿もあった。どうやら一足先に着いていたらしい。三人は桐生達に気付くと、パッと明るい笑顔を浮かべ話しかけて来た。
「やっと来た。もう、待ちくたびれたわよ」
「そうよ~ 女の子を待たせるなんて駄目じゃ無いの」
「う、それはすまんのう。何せ、桐生ちゃんがもたもたしていたから遅れてもうたんや」
「そうなのか。それは酷いな」
「‥‥兄さん、何でも俺の所為にするのはやめてくれ。第一、遅れたのは理由があるだろう」
「何やねん ちょっとした冗談やないか。そないに必死にならんでもええやんか」
相変わらず、冗談が通じない男だと真島は内心、愚痴を溢す。年越しなら多少の事くらい、無礼講と受け流せば良い物を… そこで真島は不意にある事を思い付く。せや、今日は大晦日。一年最後の時、盛り上がりに任せて桐生ちゃんの事を色々とぶちまけてしまおう。口が滑っても無礼講で済ませればいい。
今夜は大いに楽しめそうだと真島の気分は高揚していた。さて、どんなネタをばらしてやろうかと考え始めた時、「まあまあ、此処で言い合っていても仕方ない。そろそろ私達も上に行くとしよう」と言った英玲奈の言葉に皆も賛同し、一同は境内に向かって階段を登り始めた。
長い階段を登って境内へ入ると、沢山の人が初詣や今日の夜に備えて屋台を組み立てていた。あっちこっちと世話しなく動く人を見て、一同は邪魔にならない様に隅へ移動し穂乃果達を探すが、見つからない。探しに行こうとすれば間違いなく、作業している人達の邪魔になるだろう。
さて、どうしようかと思っていると奥から歩いてくる希が見えた。これ幸いと真島は手を振るとそれに気付いた希は小走りでやってきた。
「皆…もう来てたんやね。グッドタイミングやったわ」
「おう 助かったわ。ほな、此処にいたら他の邪魔になるし、小屋まで案内頼むで」
「うん。それじゃウチに付いて来て」
そう言って、歩き出す希に付いて行くと神社の裏手に一軒の小屋があった。希の話だと巫女や神主といった神社関係者の休憩場所であり、本来は部外者は立ち入りは出来ないのだが、今回は特別に使用する許可を貰えたとの事だった。「その代わり、忙しくなる夜に出るのが条件やけどね。だから、ウチは途中で抜けるし最後まで参加出来ないのが残念やけどな」と希は言った。その話から希が信頼されている事は伺いしれた。そうでも無ければ、小屋の使用許可は下りないだろう。
「そうなんか。そんじゃ、今日のパーティは楽しくなる様に盛り上げないとのう」
「フフ それは楽しみやなぁ。期待しとるよ」
「私も楽しみだなぁ。思えば、私達も盛り上げないとね」
ツバサの言葉に傍の二人も頷いた。一見、楽しそうな雰囲気の中。桐生だけは嫌な予感を感じていた。
「皆、桐生さん達が来たよ。それにツバサさん達もね」
「「「こんばんは」」」
小屋の戸を開けると中では穂乃果達が準備をしていた。希の後ろにいるツバサ達の姿に皆、驚きを隠せずにいた。その様子にサプライズが成功したと真島は密かに喜んでいた。突然の事に固まっていたμ's達だが、一早く平静を取り戻した絵里が訳を尋ねた。
「一体、どうしてツバサさん達が此処に?」
「俺が誘ったんや。どうせ、集まるなら一人でも多い方が楽しいからのう。ま、皆を驚かそうと思ってたのもあるけどな」
「確かに驚かされたわね。それと準備はもう終わるから、真島さん達も中に入ってゆっくりして頂戴」
「ほな、お邪魔するで」
事情を知り、疑問は解けたと絵里は小屋の中へ真島達を招き入れた。それから程無くして準備も終わり、絵里の乾杯音頭で年越しパーティが始まった。
年越しパーティが始まってから小一時間が過ぎた頃。それぞれが好きな食べ物や飲み物を口にし、様々な話に花を咲かせている一同を見て、そろそろ外にも人が集まる時間やな。アレを渡すんは良い頃合いと真島は手を叩いた。いきなりの行動に驚いた皆の視線が真島へ向けられる。当の本人は注がれる視線に臆する事無く、話出した。
「驚かせてすまんのう。まだ少し早いが、今からお年玉を渡すで」
「もう渡すのか?いくら何でも早すぎないか?」
「あっ、もしかしてウチの所為?仕事で途中抜けなあかんし」
二人のやり取りを聞き、思い当たる節があるのか。申し訳なさそうにしている希に桐生は慌てた様子でそんな事は無いと弁解する。余計な事をするなと、ジト目で桐生を見た後で暗くなった雰囲気を払拭するべく、明るく集まった者達にお年玉を渡していく。受け取ったポチ袋を手に皆一様に目を輝かせる。
そして中身が気になったのか。一層、キラキラした目で開けても良いかと見つめる。そんな穂乃果にはしたないと海未が叱るが、本人も気になっている様でチラチラと手にした袋に視線をやっている。
「気にせんで。皆も遠慮せんと開けてええで」
「本当!? やったぁ」
真島の一言が切っ掛けで穂乃果を始めに他の皆も続いて袋の中身を見る。中身を取り出して数を数えているとある事に気付いたにこが些か困った風に呟く。
「あの… 中に6万も入ってるけど、これは多すぎじゃない? 幾ら何でもこんなに貰って良いの?」
「おう 勿論や。それはにこちゃんの兄弟分も入っとるからのう。あとでにこちゃんから渡したりや」
「あ、私も額が多いのはそれが理由なんだ。てっきり、特別サービスかと思ってた」
「流石にそれは無いでしょう。言っときますけど、貰ったお金はしっかり雪穂ちゃんに渡すのよ。穂乃果」
穂乃果の言動に突っ込みを入れながらも釘を刺す海未に対して、穂乃果は「勿論だよ」と返した。だが、言わなければ独り占めしていただろう。
「それとお楽しみはまだあるでぇ」
「お楽しみ? 他に何かあるの?」
「おう。それは桐生ちゃんのマル秘ネタ話や」
「……!!」
「マル秘ネタ?面白そうね。一体、どんな話なの?」
真島の唐突な発言に真姫が食い付いた。他の皆も真島の話に興味を抱く中、桐生だけは渋い顔していた。それも当然でこの男は面白ければいいと理由だけど、人の秘密を笑い話にする事がある。
昔、自分が極道だった時も幾度か恥ずかしい秘密をばらされて肩身が狭い思いした事があったのだ。
「に、兄さん。今、そんな事を言わなくても良いんじゃないのか?折角、楽しい席にいるんだ。もっと楽しい話をした方がいいと思うぜ」
「何言ってんねん。これ以上に面白い話は無いやろ。それとも都合が悪い事でもあるんか?」
「ぐっ、そ、それは無いが…兄さんの場合は変に話を捏造するじゃないか」
「捏造って、俺がそないな事をすると思うんか?第一、マル秘ネタと言っても恥ずかしネタとは限らんやろうが」
「確かにそうよね。何で桐生さん…そんなに必死になってるの?」
何気なく聞いてくるツバサに桐生は返す言葉が無かった。否定する程に己の首を絞めているのも理解している。しかし、あの真島の事だ。きっと話す内容は自分を貶める物に違いないと確信していた。その証拠に真島はニヤニヤと笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「まあ、桐生ちゃんが嫌なら仕方無いのう。流石に嫌がる相手を無視する訳にいかんからのう」
「そうですね。気になるけど、嫌がる事は駄目ですね」
気落ちして呟く真島の言葉にツバサも頷いた。先程と違い、楽しい空気は途端に盛り下がっていくのをひしひしと桐生は感じていた。その原因を作ったのは自分だ。この雰囲気の中、流石に桐生も折れざるをえなかった。
「いや…別に駄目という訳じゃない。只、いきなりだったから驚いただけさ」
「そうやったんか。ほな、本人の許可も下りたし話すとするかのう」
「良かった。どんな話か楽しみだよ」
「せやな。何の話をしようか」
桐生が折れた途端、真島は楽しそうに話す内容を考え始めた。その変わり身の早さにしてやられたと桐生は思うがあとの祭りだ。こうなったらどうにでもなれと桐生は傍観する事にした。
「そうや。桐生ちゃんが映画撮影に出た時の話にするかのう」
「映画撮影!?一体、何があったの?」
「俺が人伝に聞いた話なんやけど、街をぶらついてた所に映画に出ないかと誘われたらしくてな。本人は最初こそ、断っていたけど…桐生ちゃん、何だかんだでお人好しやからな。最後は押し切られる形で協力する事になったんや」
「へえ。確かに桐生さん。渋いし、映画俳優とか似合ってそうだよね」
「せやろ。桐生ちゃんをスカウトした人も同じ理由だったと思うで。そんでな、衣装に着替えて台本を渡されて撮影は唐突に始まったんや。当然、経験の無い素人のやる事や。上手くいかんでお払い箱になるかと思いきや、驚く事に演技も上手で一発で成功したそうや」
「え?経験が無いのに一発OKだったの。凄いじゃない」
真島の話に黙って聞いていたにこが驚きの声を上げる。一同もそれは同じで感嘆の視線を桐生に向けていた。だが、本人は話の内容に首を捻らせる。自分の事だ。覚えがあるが、自身に振り掛かるトラブルの多さに桐生はいつの話だったか思い出せずにいた。そうしている間にも真島の話は続いていく。
「そんで撮影も終わり、着替えている最中。同じ現場にいるキャストが桐生ちゃんを見た瞬間、皆怯えだしたんや」
「ああ。あの時の話か。まあ、あれは偶然が重なった出来事だったからなぁ」
「お、思い出したか。あの話を聞いた時は盛大に笑ったで」
「もう 最後は何があったの?分かる様に話してよ」
「実はのう。その映画は任侠物でな。協力を頼んだのが元極道の桐生ちゃんだったんや。知らんとはいえ、タメ口や上から目線で言ってたらしくての。正体を知って報復されると思ったやろな」
オチを聞いて、苦笑いを浮かべてそれはそうだろうと全員が思った。まさか、極道役の人が本当に極道だったなんて分かった時は誰もが恐れるのは無理も無い。それが初対面なら尚更である。話を聞いて笑えるのは桐生さんが些細な事で怒る人では無いと知ってるからである。
「結局の所、その映画はお蔵入りになったらしいがな。まあ、無理も無い事やけどな」
「そうだったんだ。桐生さんが出た映画、観ようと思ったのに残念」
「どの道、シーンは挿げ替えられたと思うぞ。映画の大事なシーンに出てるのが素人じゃ、格好が付かないからな」
「せやな。俺としてはごろつき相手に殺陣する所を見たい所やけどな」
「勘弁してくれ」
深い溜息と共にぼやいた時、戸を叩く音のあとで「希ちゃん。そろそろ仕事の時間だよ」と呼ぶ声が聞こえた。
どうやら、楽しい宴も終わりが来た様だった。
「それじゃ、私達も此処を出ましょう」
「そうですね。良い頃合いですし」
「ほな。続きは外でやるかのう。屋台巡りをした後で鐘でも付いて締めといこか」
「賛成。皆で屋台巡りも楽しいからね」
片付けを済ませ、一同は小屋を後にする。その後、屋台巡りをし、除夜の鐘を皆で鳴らして真島達の一年はこうして幕を閉じたのである。
大分、間が空いて久しぶりの投稿となりました。
今後はもう少し短い間隔で投稿して行きたいと思っています。
宜しければ感想をお待ちしております。また誤字脱字がありましたら、お手数ですがご報告お願いします。