サブストーリー003 父の願い 娘の想い 開始
真島「花粉症の診察を受ける為に、組の奴から紹介された秋葉原にある西木野病院へ向かう事になった。面倒やけど、しゃーないなぁ」
それではどうぞ。
某日 午後 真島組の事務所で真島吾郎は椅子にもたれて苦しんでいた。目から涙をボロボロと流し、呼吸も荒く誰が見ても普通ではない事が分かる。苦しむ真島を組員達も心配そうに見つめていた。その中の一人が、意を決して前に出ると真島に言葉をかける。
「親父 大丈夫ですか?」
「だめや~ わじはもうあがん もう ここまでかのう…ごんな所で座って、死ぬとは…無念やぁ どうぜやったら、戦いの中で死にだがったでぇ」
組員の言葉に真島は、いつもと違い弱音を漏らす。その姿は嶋野の狂犬と恐れられた男とは思えない程…貫禄が微塵も感じられなかった。それを見た組員もこのままでは他の者に示しが付かないと、厳しい口調で真島を叱咤する。
「しっかりして下さい!! 花粉症で人は死ぬことはありませんよ。皆も見てるんですから、シャキッとしてください」
「あぁ~ 何やどぉ お前は花粉症になっだ事が無いから…ぞんな事が言えるんや。この病気はめっちゃ辛いんやで」
「うっ そ、それは…そうですが」
花粉症の苦しみは、本人にしか解らない。真島の言葉も最もである為、叱咤した組員も返す言葉が浮ばなかった。涙を流し、荒い息を吐きながら鼻水を啜る真島の顔に妙な迫力を感じたのも理由ではあるが…
このままでは、埒があかないと組員は自分がよく利用する病院を真島に紹介した。
「それだったら、西木野病院に足を運んだらどうです?あそこは院長自ら、診察をしてくれる良い病院ですよ。自分もよくお世話になってるんです」
「ほ~ 院長が診察するとは、珍しいのう それで、病院の場所は何処や?」
「秋葉原にある住宅街の近くです。大きい建物なのですぐ分かりますよ」
「また、秋葉原にいかなあかんのかぁ~ 神室町の病院でもいいんやないか?」
組員の院長が診察をするという言葉に興味を抱いた真島が病院の場所を尋ねるが、その場所が秋葉原だと知ると…途端に興味が失せた真島はぶっきらぼうに言い放つ。
「そうは言いますけど、神室町の病院は以前、東城会が起こした騒動で緊急の患者以外は出禁を食らってますし‥柄本医院に行っても、そんな事で来るんじゃないと追い返されるのがオチですよ」
「そういや、騒動で出禁にされとったな。柄本のおっさんだったら、確かに追い返されるやろうなぁ~ はぁ しゃーないから西木野病院に行ってくるわ。一人で行くから送迎はいらんで」
「解りました。お気を付けて!それにあの病院には美人の看護婦もいますから、親父も気に入りますよ。うぐぅ!?」
組員の説明を聞き、重い腰を上げて真島は西木野病院へ行く為に事務所をあとにする。
くだらない事をほざいた組員にしっかりと制裁を与えた事は言うまでもない…
1時間後 真島は組員から渡された地図を手にして、西木野病院の前にいた。組員の言っていた通り、大きな建物であり、住宅街が広がる中…その存在感で見る者を圧倒した。
「此処が西木野病院か。近くで見ると、すごいのう~ こないな大きい病院やったら、人も仰山‥来るやろうな」
そう ぼやいて真島は院内へと足を踏み入れると案の定、中は診察を待つ人達で混みあっていた。その様子に真島は顔を顰める。
「えらい人の数やなぁ。こら 診察までかなり待たされそうや。まあ、自分が掛かるのは耳鼻科やから‥早く終わるやろ」
「あの‥耳鼻科の診察は、本日 やってないですよ」
一人言を呟いている真島にある少女が話しかける。突然の事に吃驚した真島が声の方向に振り向くと、赤い髪につり目の制服を着た少女が立っていた。
(いきなり、話し掛けるアホは誰や?吃驚するやないか~ !?…な、何やねん、この別嬪さんは‥制服を着てるから学生なんやろが、気品があるから大人っぽく見えるわ~ それにあの目や、冷ややかに人を射抜く視線を送るあの目…気に入ったで)
(ヴェエエ!?な、何?この人…私の顔をジロジロと見て、変な人。それに蛇の眼帯なんて、気味が悪いわね。声を掛けたのは失敗だったわ。それに今日は病院の手伝いもあるから、さっさと話を終わらせて立ち去るのがいいわね。そうしましょう)
じっと見つめる真島に気味の悪さを覚えた少女は、心の中で結論を出すと自分の気持ちを口にする。
「…あの、私の顔に何か付いてますか?さっきから、じっと見てますが」
「す、すまんの 何でも無いんや そういえば、耳鼻科は休みやと、言っとったけど、ホンマか?」
「ええ 本当ですよ」
「参ったのう~ 今日は花粉症が酷くて、何とかしてもらいたかったんやが」
「それでしたら、内科に掛かってはどうですか?今日の診察は院長が担当してますし、診察を受ければ、薬も処方されますからね。それじゃあ、私はこれで失礼します」
「教えてくれて、おおきにな‥足止めして、すまんの~」
頭を下げて少女が、立ち去ろうとした時…真島は少女を呼び止めて、名前を尋ねた。
「ちょっと待った。そうや ワシは真島吾郎という者や まだ、名前を言って無かったの。 嬢ちゃんの名前は何て言うんや?」
「名前ですか?私は真姫と言います。今度こそ、良いですか?急いでますので」
真島の呼び掛けに足を止めて答えると、すたすたと足早に立ち去る。自分の気持ちをはっきりと言う真姫に、真島は好感を抱いていた。やがて、その姿が見えなくなると真島は本来の目的を果たす為に受付に向かい、カウンターにいる事務員に話しかけた。
「もし 今日は内科に掛かりたいやが、まだ 受付はしてるやろか?」
「はい 午後の受付は開始したばかりですので、丁度良かったですね。それに今日は院長自ら、診察をする日なんですよ」
「ほ~ 身内やさっき会ったばかりの女の子も院長が診察すると聞いたが、ホンマやったんやなぁ」
「そうなんですよ。それがこの病院の自慢です。それでは、この診察届けに名前と症状を書いて、掛かりたい科に丸を付けたら、すぐ横のポストに投函して下さい。診察室は奥の方で3番の部屋の前でお待ち下さいね」
事務員に言われて、奥の方に行くと3の数字が書かれたドアが目に映る。部屋の前にある椅子に腰を下ろすと、真島は辺りを見回す。内科の診察室の前には、思っていたよりも人はいなかった。
(どうやら、病院の待合室におったのは午前の診察が終わって‥会計を待っとった人達やったんやなぁ。これなら、診察もすぐに済んで、早く帰れそうやな)
辺りを見ていた真島は、心の中でそう結論付ける。そんな時、診察室から診察を終えたと思われる老婆と娘が出てきた。その二人に目をやると、二人の会話が耳に入る。
「そういえば、今日は院長さんは変わってたねぇ。いつもと違って、妙な喋り方だったからねぇ~」
「そうね。だけど、あんな院長さんも面白いと思うよ」
二人はそんな会話をしながら、立ち去っていった。二人の会話を聞いて、真島は少し混乱していた。
(今日は変わってる?妙な喋り方やと? 院長が診察するというだけでも驚きなんやが、これ以上に驚く事があるんかいな?…あかん 少し、混乱してきたわ)
「真島吾郎さん 3番の部屋にお入り下さい」
「お?もう呼ばれたか。早いのう~ さて、院長がどんな人か楽しみやな」
混乱していた真島だったが、自分を呼ぶアナウンスを聞いて、診察室に向かう。うだうだ考えるよりも自身の目で確かめた方が早いと、真島は思ったからだ。
「こんにちは そこの椅子にお掛けになって下さい。今日はどうされました?」
診察室に入ると、眼鏡をかけた40代くらいの医者がおり、真島に座るように促すと症状を尋ねる。言われるままに椅子へ座って、医者の後ろに視線をやると、先程会った少女…真姫が目に映った。真姫の方も真島に気付いたのか、驚いた表情を浮べている。
「おや?どうかしたんですか?」
「あ、ああ 後ろにいる女の子にさっき、今日は耳鼻科が休みだと親切に教えてもらったんや。この病院では、学生も雇っとるんか?」
「そうでしたか。いえ、彼女は私の娘ですよ。将来の為に時折、病院の手伝いをさせてるんです。それで今日はどうしました?」
驚く真島が医者に質問するが、医者は笑みを浮かべて真島の疑問にあっさり答えた。
そして改めて症状を尋ねる。
「そうやったんやな。今日は花粉症が酷くてのう~ 目からは涙がボロボロ出るし、鼻水が止まらなくて困っとるんや」
「それは大変でしたね。それじゃあ、大人用の目薬と鼻水を抑える薬を出しときますね。ですが、内科では詳しい診断は出来ませんので後日、耳鼻科に掛かって下さいね。お大事に」
「ありがとさん。ほな 失礼するで」
そう告げて、真島は診察室をあとにした。その足で病院の外にある喫煙所で一服しながら、診察室にいた真姫の事を思い返していた。
(まさか、真姫ちゃんが病院の手伝いをしていたとはなぁ~ それにあの医者は自分の娘と言うとったな‥確か、今日は院長が診察する日やと、聞いたな…!!? という事は、真姫ちゃんは院長の娘やったんか。成程のう。何処か気品を感じると思った理由が分かったでぇ~ そういえば、将来の為と院長さんが言った時、少し‥落ち込んだような顔しとったな。あれはどういう事なんやろか?)
真島が真姫の事を考えていると、今度は会計の為に自分を呼ぶアナウンスが聞こえた。
「真島吾郎さん 会計窓口までお越し下さい」
「診察も早かったが、会計の呼び出しもえらい早いなぁ。ほな 行くかな」
口に咥えていた煙草を灰皿へ入れると、受付ロビーに向かう。
「真島様ですね。本日は初診の様ですが、保険証はお持ちでしょうか?そうでない場合は、診察料金が高くなります」
「保険証は持っとらんなぁ。それだと、いくらになるんや?」
「そうですか。それでは、本日の料金は5千円となります」
「ほんなら、これで頼むわ」
真島は、そう言って財布から1万円を取り出すと事務員に手渡した。
「はい 1万円からお預かり致します。お釣りは5千円のお返しとなります。こちらは診察の領収書と処方箋となっております。それではお大事に」
会計を済ませた真島は、薬局で薬を受け取る為に訪れる。
ここでも人が少なく、椅子に座っていると数分後に自分の名が呼ばれた。
受付で薬代を支払うと処方された薬を手にして、自動ドアを抜けて外へ出て行く。
「真島さーん ちょっと、待ってぇ~」
今日の用事を済ませて帰路に就く真島が道を歩いていると、自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
振り返ると遠くから走ってくる真姫の姿が見えた。
たったったと軽快な足音を立てて、自分の元までたどり着くと、はぁはぁと息が乱していた。
どうやら、自分を探して走り回っていたようだ…
「どうしたんや?そないに慌てて、ワシに何か用でもあるんか?」
「そ、そうよ。真島さんに聞いて欲しい話があるのよ」
「ワシに聞きたい事?一体なんやろか?」
「真島さんは高坂穂乃果という名前に聞き覚えはありますか?ある時、穂乃果達から貴方の事を聞いたんですが」
「おお あるでぇ~ 確か、和菓子屋の娘さんで元気いっぱいの女の子やったな。それと真姫ちゃんは穂乃果ちゃんと友達なんか?」
真姫から穂乃果の事を尋ねられ、真島は先日の騒動を思い出した。そして、真姫が穂乃果を知ってる事に驚き、今度は真島が質問する。
「…ええ 大事な友達で大切な仲間でした」
「でした?今は違うんか?」
「いえ、そういう意味じゃないんです。穂乃果とは今でも大事な友達ですが、そう言ったのは私が穂乃果達とスクールアイドルをやっていたから…」
「そうやったんか」
「はい そうなんです。実は‥以前、元メンバーで同級生の子から また一緒にスクールアイドルをやらないかと誘われたんです」
真姫は重い口を開くと、自分の悩みを語った。
それはある夜 花陽の電話から始まりを告げる。
「え?もう一度、スクールアイドルをやらないかって?」
「うん 私と凛ちゃんと真姫ちゃんの三人で、スクールアイドルをやりたいんだ。駄目かな?」
「そんな事を言われたって、いきなりすぎるわよ。それに今までの活動だって、両親に無理を言ってたのよ。2年生になったら、医者の勉強に専念すると約束したから許して貰ってたのよ」
「そうなんだ… だけど、聞いて真姫ちゃん。スクールアイドルと言ったけど、ラブライブ!とかは参加しないし、あくまで部活の範囲内でやろうと思ってるんだ。だから、少し考えて見てくれないかな?私が無理を言ってるのは解ってるけど、お願い…」
「話は…解ったわ。だけど、考える時間を頂戴」
真姫はその一言を言うと、電話を切る。自室のベッドに腰をかけて、真姫はその晩…花陽から誘われた事で一睡も出来なかった。その話を聞いていた真島は、重い口を開くと真姫へ問いかける。
「話は分かった。それで真姫ちゃんは…どうしたいんや?」
「どうしたいって、それが解らないから貴方に相談を「ちゃう」え?」
「確かに…真姫ちゃんは、悩みに悩んでいたんやろな。初対面のワシに相談するくらいやったやからなぁ~ せやけど、その答えは真姫ちゃん自身で出さなあかんのや。真姫ちゃんの本心はどうなんや?」
答えが出せない真姫に真島は少厳しい口調で言葉を投げかける。その言葉を聞き‥真姫は暫く俯いていたが、顔を上げると凛とした表情を浮かんでいた。そして自分の本心からの気持ちを大きな声で吐き出す。
「私は…まだ、音楽を辞めたくない。私の作った曲で皆を楽しませたい。そして、花陽達とスクールアイドルがやりたい」
「なんや。自分の中で答えは決まっていたんやないかぁ~ まあ、勉強も大事やけど、やりたい事をやるんも学生の本分やで」
「確かに…やりたいからやる。私はそれを忘れていたのかもしれません。家に帰ったら、両親に自分の気持ちをぶつけてみるわ。今日はありがとうございました」
一礼してお礼を言い、去ろうとする真姫に真島は激励の言葉をかける。
「おう しっかりと青春を謳歌するんやで」
その言葉を聞き真姫は、真島へ振り返る。
そして満面の笑みを浮かべ、再び一礼をすると去っていった。
真姫の姿が見えなくなると、真島は口を開き、一言呟く。
「なぁ、真姫の親父さん…そろそろ、出てきたらどうや?ずっと、聞いておったんやろ?」
「やっぱり、気付いていたんですね」
そう言って、道の角から真姫の父親が姿を見せた。
「まあ、職業柄‥人の気配に敏感やからなぁ。それより、真姫ちゃんの気持ちを聞いてたんやろ?親父さんはどう思ってるんや?」
「私としては、真姫には医学の勉強をして、医者になる為の経験を積んで欲しい。だけど、あの子のあんな姿を見て、私はあの子のやりたい事を応援しようと思ってます。医学の勉強はいつでも出来ますが、貴方が真姫に言ったやりたい事をやるのも学生の本分という言葉も理解も出来ますから」
「そうやな。それに真姫ちゃんの音楽があれば、病気で心が弱ってる患者も救う医者になるやろうしなぁ」
「心を救う医者ですか… 確かに真姫ならそれが出来そうですね」
真島の言葉に、真姫の父親も頷いた。
そして、ある疑問が頭に浮かんだ真姫の父親は、真島に詰め寄って尋ねる。
「気になっていたのですが…真島さんと真姫はどんな関係ですかな?去り際には笑顔まで見せてましたね」
「ちょい、待ちや ワシは真姫ちゃんの相談を聞いただけやで。親父さんが考えてるような事は何もないでぇ~ まあ、真姫ちゃんは別嬪やからなぁ 今から唾を付けておくのもええな」
「な、何ですってぇぇぇぇっ!! 子供に手を出すなんて、貴方は最低ですね」
「こらこら 人に向かって、最低なんて、そう簡単に言ったらあかんでぇ~ それに人聞きの悪い事を言うなや。ワシが誤解されるやんか」
「あ、すみません。少し、取り乱しましたね」
「別に気にしとらんから‥別にええで それより、真姫ちゃんの気持ちも考えんといかんで。他人のワシが言う事やないけどな」
「そんな事はありません。貴方のおかげで真姫の本心を知る事が出来ましたからね。私も真姫ともう少し向き合って行きますよ。真島さん…それでは、私は仕事があるので失礼します」
真島に深く頭を下げ、静かな足取りで去って行った。
後ろ姿を真島は静かに見つめながら、今日‥出会った二人の父娘の事を考えていた。
(やれやれ 父娘揃って、面倒な二人やのう~ せやけど、真姫ちゃんの悩みも解決したし、親父さんも真姫ちゃんの気持ちを知れた事やし、一件落着やな。はぁ 花粉症の診察を受けに来ただけやのに…えらい一日やったなぁ。折角やから、穗むらで饅頭でも買うて行くかいのう。疲れた時は甘いものが一番やな)
そして、真島は穂むらに向かって、住宅街をのんびりと歩いて行った。
サブストーリー003 父の願い 娘の想い 完
真島「病院の帰りに、院長の娘と親父さんから相談されるとは意外やった。せやけど、二人は自分の気持ちに気付いて、悩みも解決したようで一件落着やな」
今回は少し真面目な話にしてみました。
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