般若と龍と女神のドタバタ騒動記   作:アリアンキング

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桐生「穂むらで仕事中、100箱の饅頭を配達する事となった。頼まれた以上やるしないか」

今回は割とあっさり目に書いてみました。それとヒフミコンビが作品に初登場します。


サブストーリー030 絆はよいよい 饅頭怖い

 年が明けて元旦 あの妙な宴から翌日。

 桐生は店の名前が入ったエプロンを着用し、穂むらの店番をしていた。その最中、訪れた客。ヒデコ、フミコ、ミカの三人は最初こそ驚いたり、怯えたりしていた。だが、見た目と反して穏やかに接客する桐生に三人も次第に慣れていき、気付けば仲良く談笑する程に打ち解けていた。

 

 

 

「いやぁ さっきは怯えてごめんなさい。人は見た目で判断出来ないのは分かっていたのに…」

「気にするな。俺の見た目に関しての反応は、もう慣れてるからな」

 

 桐生は謝る少女 ヒデコにそう言った。自分が他人にどう見えるかはよく知っている。だからこそ、相手を気にさせない様にするのが一番の方法と言う事も…。

 

 

「良かった。ところで桐生さんが店番してるの?」

「そうそう。普段は穂乃果かおばさんが店番してるもんね」

「うん。偶に妹の雪穂ちゃんもやってるよね」

「そうなのか? 確かに俺も客として来る時もその二人がやっていたな。因みに俺が店番してる理由。今日は穂乃果とおかみさんは町内主催の集まりに行っていてな。だけど、それだと店が開けないから臨時で店番出来る人に俺が選ばれたんだ」

 

 

 桐生は自分が店番する理由をヒデコ達に話すと、そういう事かと納得する。それと同時に浮かんだ疑問をフミコは聞いてみた。

 

 

「でも、おばさん達はどうして桐生さんに頼んだんだろうね。失礼な言い方だけど、桐生さんも元はただのお客さんでしょ?」

「ああ。俺もそう思って、聞いたんだが…俺が信用出来るからとしか答えてくれなかったな」

「成程ね。まあ、その理由は分かる様な気もするなぁ」

「え?ミカは、分かったの?」

 

 フミコの言葉に答える桐生。二人のやり取りを見て、ミカはそう口にした。きっと、この人は嘘をつかない。いや、嘘をつけない。その類の人なんだと…。おばさん達が信用したのは間違いなく、そういう所だろうとフミコは感じていた。

 

「ほら、桐生さんってさ。私達みたいな今時の子でもちゃんと接してくれるでしょ?」

「それは客だから、当然なんじゃない? 一応、店番も任せられてる訳だし…」

「うーん そうじゃなくて、何と言って良いのかなぁ。大人の人は若い人を今時の若者って、一括りにするじゃない。でも、桐生さんは私達をしっかりと見てるって感じよ」

「あー なんとなく分かるよ。要はヒフミとしてではなく、一人として見てると言いたいんでしょ」

「そうそう。まあ、例えは何だけどそういう事」

「そんな大袈裟に言う事じゃない。それより三人は、周りからそう呼ばれているのか?」

 

 

 次第に興奮した様に自分を褒めるフミコに恥ずかしさを感じて、話題を逸らそうと振った話に反応したヒデコが食い付いてきた。

 

 

「そうなんですよ。私達が通ってる学校に以前、μ'sってスクールアイドルが在ったんです。そのメンバーに私達の友達がいて、三人で手伝っていたらいつの間にか。その子からそう呼ばれる様になっていたんです」

「…成程。今でもそう呼ばれてるのか?」

「今は普通に名前で呼んでくれるよ。只、呼ばれていた時は少し嫌だったけど…呼ばれないと寂しいなぁと思う様になったかな」

「そう感じるのは、それだけ大事な思い出になってたんだろう。どんな事も時間が経たないと気付かない物もあるからなぁ」

 

 

 桐生は何処か遠い目で言った言葉で、場がしんみりとした空気に包まれたその時。店の電話が音を立てて鳴り出した。全員が吃驚する中、一早く我に返った桐生が受話器を取ると電話先の相手に用件を尋ねた。

 

 

「はい 和菓子屋 穂むらです」

「あっ 桐生さん。いきなりで悪いけど、穂むら饅頭を100箱。配達をお願い出来る?」

「穂むら饅頭を100箱!? それだけの数を一体、何処へ配達するんですか?」

「配達先は、町内会の集会所よ。実はウチの和菓子の話をしたら、集まった人達が食べたいと言い出してね。年明けは売上も下がるし、これを逃したくないのよ。無理を言うようだけど、どうかお願いするわね」

 

 

 電話先の相手、穂乃果の母はそう言って電話を切ってしまった。まさか、店番だけでなく配達まで頼まれるとは…。予想外の事に桐生は困惑する。それに配達先が分かっていても、そこに行く道を彼は知らない上に、届けるのは100箱の饅頭と来た。顰めた顔で受話器を置く桐生にヒデコが問い掛ける。

 

 

「ねえ 桐生さん。電話に出てから怖い顔してるけど、どうしたの?」

「ん? ああ。穂乃果の母親からだったんだが、饅頭の配達を頼まれてなぁ。配達先は町内の集会所と聞いたものの。困った事に俺はその場所が解らないんだ。おまけにすぐ配達して欲しいと言われた」

「だったら、変わりに私達が届けようか? 道も知ってるから」

「申し出は嬉しいが、数は100箱だぞ。俺を含めて運んでも時間が掛かってしまう」

「1、100箱も!? 穂乃果のお母さんも無茶ぶり言うなぁ」

 

 

 事情を知るとヒデコ達も顔を顰める。手伝うと言ったが、その数を運ぶのは確かに無理がある。どうしようかと悩んでいると奥から穂乃果の父親が姿を見せた。彼は無言で店の外へ出ていき、暫くすると外から桐生達を手招きする。

 

 一体、何だと桐生達が外へ出るとそこに在ったのは一台の荷車だった。些か、古い感じではあるが作りもしっかりしており、多くの荷物を運ぶに打って付けの物だった。

 

 

「これを使えと言う事ですか?」

 

 

 そう尋ねる桐生に穂乃果の父親は力強く頷く。どうやら、奥で話を聞いて自分達の手を貸してくれたのだろう。これならば、配達は可能となる。そして店に戻ると既に穂乃果の父が饅頭を用意していた。桐生が電話を出た時から既に拵えていたらしい。その仕事の早さにも桐生は驚きを隠せずにいた。

 

 

 だが、残っている問題もある。それは店番という自分が任された仕事だ。配達をする間、当然ながら店を空ける事になる。その仕事まで穂乃果の父にやらせては彼の負担となるだろう。失礼な話だが、口下手なこの人が上手く接客出来るとは思えない。そんな事を考えていると店の戸が開く音が聞こえて振り変える。

 

 

「ねえ、お父さん。表にあった荷車、店の前に置いてたら邪魔だよ。あ、桐生さん。饅頭の用意は出来た?」

「ああ。今から配達をする所だが…。穂乃果はどうして此処に?」

「私はお母さんに言われて来たんだ。流石に一人じゃ大変だから、手伝う様にって」

 

 

 店に入って来たのは穂乃果だった。一斉に向けられる視線に戸惑うが、桐生に駆け寄ると饅頭の事を聞いてきた。その問いに答えた後、今度は桐生が穂乃果に尋ねた。すると彼女は母親に言われて来たと訳を話してくれた。

 

 お互いの事情説明が終わる頃を見計らって、ヒデコが口を挟んだ。

 

 

「あー 所で配達は良いの? そろそろ出発しないと遅くなるんじゃ…」

「そうだった。急がないと皆、饅頭を楽しみにしてるから」

「よし。それじゃ行くとしよう」

 

 

 

 

 荷車に饅頭を詰み終えると桐生は、取っ手を掴み引き始めた。その後ろからヒデコ達が押し、桐生の前に穂乃果が道案内として歩いていた。その道中、穂乃果は暇を持て余したのか。同じく手伝いをしているヒデコ達に話かけた。

 

 

「そういえば、どうしてヒデコ達も一来るの?手伝ってくれるのは助かるけど…」

「うーん 特に理由は無いけど、桐生さんが困ってたからね。それに私達三人揃って、何かを手伝うのも久しぶりだし」

「そうそう。数年ぶりにヒフミトリオ復活って所よね。音ノ木坂に通ってた頃、いつも一緒だったし」

「うん。懐かしいよね。あの時は、これぞ青春という感じだったものね」

「そういや。三人はμ'sの手伝いをしてたと聞いたな。どうして手伝う事にしたんだ?」

 

 

 ヒデコ達がμ'sの手伝いをしていた事。それは聞いてはいたが、それに至る理由は知らない桐生はこの際、聞いてみる事にした。

 

 

「昔、私達が通っていた学校。当時は生徒が少なくて、廃校が決まってたんですよ。そこで穂乃果達が始めたのがスクールアイドルμ's。最初は私達もやるだけ、無駄だと思ってたんですよ」

「だけど、穂乃果ちゃん達が一所懸命、練習する姿を見て手伝おうと思ったんだよね」

「そうね。見てるだけじゃ、変わらない。それを穂乃果に教えてもらったよ」

「そうだったんだ。でも、それなのに最初のライブは結局失敗しちゃったよね」

「何言ってんの? 私達が本気で手伝おうって思ったのはその時だよ。人がいないのに諦めずライブをやりきった姿に私達は惹かれたんだからさ」

 

 

 穂乃果がやった最初のライブ。それは今思えば、大失敗だった。幕を開けば、ライブを見てる人が誰もいない。普通なら心が折られ何も出来ずに終わるだろう。しかし、それでもやりきった。その姿にヒデコ達の心を掴んでいたのだ。

 

 

「そうか。初めは大変だったんだな…。それでも諦めずに頑張ったからこそ、皆が支える事に繋がったんだな」

「うん。その後、一人また一人とメンバーも増えて、気付けば皆が応援してくれてたよ。世間じゃ、μ'sが廃校を阻止したって言うけど...私は皆のおかげだと思ってる。だって、私が頑張れたのは支えてくれる人がいたからだもん」

 

 

 

 穂乃果は笑顔でそう言った。きっと、ヒデコ達もμ'sのメンバー達はこの姿に魅力を感じ、勇気を与えていたのだろう。だからこそ、只の学生でしかない穂乃果達は廃校阻止という不可能を可能にしてみせた。

 

 

「そういえば、ふと思い出したけど…昔、今見たいに一丸となってμ'sに協力した事あったよね?」

「あったあった。確か、道が雪で塞がれた時だよね? その時、ほぼ生徒全員で雪かきしたね」

「そうそう。呼び掛けに応じてくれる人なんていないと三人でやるつもりだったのに。皆、挙って雪かきを手伝ってくれたね。あれは嬉しかったなぁ」

「それを言うなら私もだよ。実はもう最終予選に間に合わないと諦めてたけど、皆のおかげで最終予選に間にあったからね。あの時は本当にありがとうね」

 

 

 その時の事を思い出したのか。目に涙を滲ませて穂乃果はお礼を言った。ヒデコ達も同じく涙を滲ませて穂乃果に言葉を返した。そんな4人の姿を桐生は優しく見つめていた。

 

 

 そして目的の集会所まであと僅かと迫った時、集会所へ続く道は工事中であった。一応、人が通れるスペースはあるが、荷車が通れる様な広さは無い。

 

 

「この分じゃ、荷車は通れないな。仕方無い。回り道をしていくしかないな」

「それなんだけど…。集会所へ行く道は此処しか無いんだよ。周りは住宅に続く道で行き止まりだから」

「じゃあさ。全員で運ぼうよ。皆で協力すれば、問題ないって」

「そうだな。此処で立ち止まってるより、そっちの方が早いか。じゃあ、皆の力を俺に貸してくれ」

「「「「おー」」」

 

 

 そうと決まれば即行動。荷車に積まれた饅頭を桐生達は手分けして運んでいく。集会所に届けると入り口に穂乃果の母が待っていた。桐生達の姿を見て、声をかける。

 

 

「やっと来たのね。流石に100箱は大変だったでしょう?」

「いや。運ぶのはそうでもないが、此処への道が工事中でな。それで穂乃果やヒデコ達と一緒に手分けして届けに来たんだ」

「あら、そうだったの。それなら私達も手伝わないとね。今、皆に話してくるわね」

 

 

 桐生から話を聞いて、更に助っ人を呼ぶ為に穂乃果の母は集会所へ入っていった。そして数分も経たない内に大勢を引き連れてやってきた。

 

 

「皆、お饅頭を楽しみにしていたのよ。それで場所は何処かしら?」

「場所は此処から少し歩いた先の道です。饅頭を積んだ荷車は穂乃果が見張ってくれてます」

「あら、穂乃果ちゃんも手伝ってるのね。ならおばさんも頑張らないといけないわね」

「そうねえ。元はといえば、私達が無理を言っちゃったからだもの」

 

 

 集った助っ人のおばさん達を連れて、桐生達は次々と饅頭を運んでいく。ぞろぞろと列を作り、饅頭を運ぶ奇妙な集団を工事をしていた人達が怯えた様な視線を向けるが、運ぶ事に夢中のおばさん連中は気付いた様子はない。また気付いても気にも留めて無いという方が正しい。

 

 

 全ての饅頭を運び終えた後、おばさん達は桐生とヒデコ達をお茶の席に向かい入れた。当初、仕事がまだあると桐生は断るが…おばさん達の勢いに押し切られて、参加する事になった。また、既に穂むらで和菓子を堪能していたヒデコ達も断るがやはり勢いに押されて、結局参加する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時間も経ち、お茶会が終わった頃、外は夕暮れに包まれていた。一緒にいたおばさん達やヒデコ達とは、既に別れ桐生達は穂むらへ向かう道を歩く。結果として頼まれた仕事を放棄してしまったと、店に残した穂乃果の父に心の中で謝っていた。項垂れていた桐生に穂乃果の母が明かるく声を掛ける。

 

 

「仕事なら大丈夫よ。桐生さん達が饅頭を運んでる間に家へ連絡しておいたから。言うのが遅くなってごめんなさいね」

「そうなんですか? しかし、例えそうでも頼まれた以上、やり遂げる事が出来なかったのは申し訳なく感じるなぁ」

「気にしなくていいのよ。元はといえば、私達が無理言ってお願いしたんだから」

 

 

 

 ころころ笑って言う穂乃果の母に、これ以上言っても野暮だと桐生は素直にその言葉を受け入れた。そして見慣れた看板が見えてきた頃。穂乃果の母は桐生に渡したい物があるからぜひ寄ってと家に招く。

 

 

 渡す物とは、今日の仕事代だろうか? 特にこれといって働いていないのに受け取る訳にいかない。もし、そうだとしたら断ろうと桐生は思っていた。しかし、奥に行った穂乃果の母が手に持って来た物を見て、桐生は愕然とした。そう穂乃果の母が持って来たのは、台車に大量と積まれた穂むら饅頭だった。

 

 

「今日、仕事代としてお金を払いたいと思ってはいるけど、そうすると家も厳しいからね。その代わりと言っては何だけど、穂むら饅頭100箱で手打ちにしてちょうだい」

「……はい。有難く頂きます」

 

 

 悪気もなく、そう言う穂乃果の母に文句を言える筈もなく、桐生は先程の荷車を山の様な饅頭を積んで穂むらをあとにした。その後、家に帰った桐生は遥に怒られる事となる。遥の説教を受けながら、もう2度と仕事の安請け合いはしないと桐生は心に固く誓った。

 




桐生「今回、配達の中でヒデコ達と穂乃果の絆の強さを知る事が出来たな。只、饅頭は暫く食べたくないな」



今回の話。いかがだったでしょうか?

ふと浮かんだネタを即興で書いた事もあり、いつもより短めですが楽しんでくれたら嬉しいです。また感想などありましたら、一言でもいいので宜しければお願いします。
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