般若と龍と女神のドタバタ騒動記   作:アリアンキング

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今回は真島さんのドタバタ劇です。


過去作で登場したあの人の出番もあるのででお楽しみに


サブストーリー031 南からの訪問者

 神室ヒルズ内 真島組の事務所 

 自室にて、真島は書類仕事に追われていた。とは言っても大凡の書類は既に終わっており、今は椅子に凭れて一息吐いている所である。ずっと書類を睨んでいた所為もあり、疲れが溜まった目を指で揉んでみるが…余り効果は無い。

 

 

 思えば体も訛っている事だし、久しぶりにバッティングセンターでも行こうか?と真島が考えているとドアをノックと共に「親父、西田です。いらっしゃいますか?」と尋ねる声が聞こえて、真島はドアに向かって返事を返した。

 

 

「いるで。入れや」

「…失礼します。親父、大丈夫ですか?」

「あ? そりゃ、どういう意味や?」

「いや、何か…大分、疲れている様ですからね」

「ほうか? 別に疲れてはおらんで。ただ、ずーーっと座っておったから、体を動かしたいとは思っとるけどなぁ」

「そうですか。思えば、3ヶ月は事務所に缶詰ですもんね。そうだ! 親父、今日から暫く休んでください。その間、俺達が仕事をやっておきますから」

 

 

 いつもは仕事をして下さいと厳しい西田が、珍しく休むように言って来た。確かに体が訛っているとはいえ、別段疲れは感じていない。だが、折角休みを貰ったのだ。此処は素直に甘える事にしよう。真島は久しぶりに繰り出す神室町に浮かれていた。だからこそ、彼は気付いていない。本来なら真島は西田から休みの許可を貰わずとも休めるのだが、閉鎖的な空間にいた所為で些か判断力が落ちていた。無論、あとでその事に気付いた真島によって、西田がお仕置きされたのは別の話である。

 

 

 

 

「ほー 久しぶりの神室町もええもんやなぁ。部屋にいたから気付かんかったけど、随分と暖かくなったものやな」

 

 

 燦々と降り注ぐ陽を浴びながら、真島は呟いた。とりあえず、何か食べに行こう。行き付けの蕎麦屋へ向かう為、通りに出た時。真島は一人の少女に気が付いた。その少女は不安気な表情でキョロキョロと見回していた。少女の様子からして、都会の空気に困惑している様に感じた。そんな困っている姿を見てしまっては、放って置く訳にもいかない。真島は話を聞こうと少女へと歩み寄っていった。

 

 

「なぁ。自分、何か困っとる様やけど、どうしたんや?」

「え? あの… 申し訳無いですが、どちら様ですか?」

「お、そうやった。俺は真島というもんや。それであんたは?」

「私は名嘉原咲といいます。実は…友達に誘われて沖縄から来たんですが、迷ってしまって困ってるんです。携帯に送られた地図では、待ち合わせ場所はこの付近というのは分かっているんですけど…」

「そうやったんか。そら、難儀やのう。せや、良かったら俺も手を貸そうか? 俺も暇しとったし、街に詳しいから助けになれる筈や」

 

 

 咲と名乗る少女は苦笑して、今の状況を口にした。それに釣られて真島の顔にも笑みが浮かぶ。案の定、彼女は迷っていた様だ。此処で会ったのも何かの縁。真島は咲の助けになればと、手を差し伸べた。

 

 

突然の真島の申し出に咲は戸惑う。しかし、真っ直ぐ自分を見る目に嘘は無い。その目は昔、自分を守ってくれた人に良く似ている。初めて会う人だけど、彼は信用出来る。そう確信した咲はにこりと笑うと真島の手を借りる事に決めた。

 

 

「…良いんですか? それじゃあ、案内お願いします」

「おう。任せておきや。あと別に頭を下げんでええ。俺が好きでやる事や」

 

 深く頭を下げる咲に、真島は頭を上げてくれと言った。口にした様に手を貸すのは自分の意思であり、そんな事をさせる為ではない。何より、自分の見た目では他人から脅してる様にも映ってしまう。余計な騒動になれば、咲に迷惑が掛かるだろうし、自分もトラブルに巻き込まれたくはない。

 

「いえ。親切にしてくれる人には礼儀を尽くせ。父からそれは厳しく言われてますから」

 

 だが、真島の胸中とは別に咲はまたにこりと笑うと、真島にそう言った。その態度に真島も素直に感心する。全員とは言わないが、大抵の若者は礼節を欠く者が多い。そんな中、しっかりと芯を持つ咲に真島は好感を抱いた。

 

 

「ほうか。立派な親父さんがおるんやな。咲ちゃんみたいな子を持って、その人も鼻が高いやろうな」

「ええ。昔気質の人だけど、誰よりも人に優しいから…地元の人からも頼りにされてるんです」

「そりゃ凄い事やな。おっと、そういや咲ちゃんは何処に行く予定だったんや? 確か友達と会うと言うとったけど…」

 

 

 

 父親の話題になった途端、顔を輝かせて咲は饒舌に語った。その様子からして、彼女にとっては自慢の父親なのだろう。もう少し聞いて上げたい所だが、友達と会うという用事に遅れては本末転倒だと…真島は話を戻した。言われた咲もハッと我に返り、一言謝ってから真島の質問に答え始めた。

 

 

「友達と会う場所ですが、確か…中道通りと言ってました。あそこなら人が多いし、慣れてない私も安全だからと…」

「中道通りか。それならすぐ近くや。奇遇な事に、俺もそこで飯食おうと思っていた所や。ほな、一緒に行くとするかの」

「そうだったんですね。じゃあ、案内お願いします」

 

 

 咲から友人と会う場所を聞き出し、真島は彼女を連れて目的の場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 目的の場所への道中、無言で移動するのも何だと…咲の友人について尋ねてみる事にした。

 

 

「そういや、咲ちゃんの友達って…どんな子達なんや?遥々、沖縄から来るくらいや。仲もええんやろう?」

「…実を言うとその友達と会うのは今日が初なんです。会話の方はメールやチャットを通じて何度かやり取りをしてたんです。それで最近、東京へ遊びに来ないかと誘われたので思い切ってやって来たって訳なんですよ」

「…何や、一度も会った事ないのに来たんか。失礼な事やが、咲ちゃんは騙されてるんとちゃうか?中には人の心に付け込んで悪さを働く奴が多いんやで」

 

 

 この話を聞いた真島は思わず耳を疑った。まさか、会った事のない人を尋ねて沖縄からやって来たとは想像もして無かった。此処、神室町でもメールやチャットを利用して悪事を働く輩が大勢いる。もしかしたら、咲もそういった類の連中に弄ばれている。そう感じるのも仕方が無い事だろう。

 

「まあ…真島さんの言ってる事も分かります。けど、その心配は大丈夫ですよ。悪戯と分かったら面倒になる前に縁を切りますから」

「…ある程度は覚悟しとるんやな。ま、そうじゃないと沖縄から来たりはせんか」

 

 

 

 心配する真島を余所にあっさりと言葉を返す咲を見て、心配は杞憂だと悟った。本人も騙されている場合も考えてはいた様だった。まあ、そうでなければ東京まで来るわけも無い。要らぬお節介だったと真島はこの事に口を出すのを止めた。

 

 

 

 そうして二人は目的地の中道通りに到着した。昼時とあって、通りは大勢の人達で賑わっている。この中から咲の友人を探すとなれば、相当に骨が折れるだろう。下手に動いて行き違いになっても面倒だ。真島はこの後、どうするかを咲と相談する事にした。

 

 

「やはり昼時は人が多いのう。そうや、会う友人にメールしたらどうや? この人の多さや…下手に動くよりも相手が来るのを待つ方が確実やからな」

「確かにそうですね。分かりました。ちょっと連絡入れてみます」

 

 

 

 真島の言葉も尤もだと、咲は素直に頷くと携帯を操作してメールを送るとすぐに返事が返って来て、今から咲がいる場所に向かっているとの事だった。咲はその話を真島に伝えた。それならもう大丈夫だと、咲と別れようとした時、「あれ?真島さん…此処で何してるの?」と聞き慣れた声が響き、振り変えるとそこにツバサ達の姿があった。思わぬ人物の登場に驚く咲を見据えながら、真島はツバサに言葉を返す。

 

 

「…ああ。俺は人助けの最中や。何でも遠路から友人に会う為、来た子がいてな。初めて来た土地で困ってたからのう。友人と会う場所まで案内した所や」

「どうも初めまして! 私、名嘉原咲です。はい 真島さんの親切に助かってます」

 

 

 真島の言葉に続き、咲はツバサ達に自己紹介をした後で彼のフォローをする。自分は真島が親切な人と理解しているが、他者からは見た目が怖い人。そう誤解されるのは、避けたい。そう思っての言葉だった。

 

 

 

「そうだったの。あ、自己紹介がまだだったわね。私は綺羅ツバサ。それで後ろの二人が…」

「わたしは優木あんじゅ。宜しくね」

「自分は藤堂英玲奈だ。ツバサは強引だが…悪い奴じゃない。どうか仲良くしてやってくれ」

「は、はい。此方こそ…。あの、もしかして皆さん。A-RISEの… むぐ」

 

 

 

 三人の紹介が終わった後、咲はある事を口にした時。ツバサによって口を塞がれてしまった。突然の行動に驚き、固まる咲に気付いたツバサは…罰が悪そうに謝った後で手を離した。

 

 

 

「ご、ごめんね。でも、今はフリーで来てるからさ。私達が街にいるって公にしたくないの。それに今日は友人と会う予定だし、その子にも迷惑を掛けたくないからね」

「い、いえ。私の方こそごめんなさい」

「…ツバサちゃん。その友人って、誰の事や?」

「ああ!? そうだった。さっき着いたって、メールが来てたの忘れたよ。じゃあ、真島さんまた今度…「ちょい待ちや」え?」

 

 二人の会話に引っ掛かりを覚え。ツバサに問い掛けると当人は、慌てた様子で立ち去ろうするが、真島はそんな彼女に引き止める。

 

 

 

「…済まんけど、そのメール。送ったのを誰か教えてくれへんか?」

「え? メールの相手、確か…なか何とかさんだったかな。実は漢字が難しくて読めなかったけど、到着した場所は書かれていたから名前はその時に聞けばいいかと思ってね。もういい? 早く迎えに行かないとだし」

「いや、それは必要ないだろう」

「それはどういう事?」

 

 

 説明した後、移動しようとしたツバサを今度は英玲奈が止めた。またもや制止され、少し苛立った様子でツバサは英玲奈に言葉を返した。だが、当の本人は何処吹く風で彼女にその理由を口にする。

 

 

 

「私達が会う友人なら、もうそこにいるからだ。さっき、ツバサが言った言葉で確信した。それはきっと名嘉原さんの事だとな」

「うん。私も英玲奈ちゃんに同感」

「…じゃあ、空回りしてたのは私だけ?」

 

 

 英玲奈達と真島達に視線をやりながら、ツバサがぽつりと呟くと…四人はこくりと頷くのを見て、ツバサはガクッと項垂れる。そして恥ずかしいのか。両手を顔を隠してブンブンと首を左右に振る。

 

 

 

「ま、まあ…。行き違いにならんで良かったやないか。この広い街ですれ違ったら、探すのは相当大変やからな」

「ええ。…皆さんと会えて良かったです」

「そうね。私もそう思うわ。改めて言うわね。沖縄からようこそ 咲さん」

「はい」

 

 

 

 真島のフォローで気を取り直したツバサは、パッと満面の笑顔を浮かべて咲に手を差し出した。いきなりの事でキョトンとするが、すぐに笑顔を浮かべてツバサの手を取ると握手を交わした。新しく出来た友達と楽しそうに話す咲達を見ていた。そして用が済んだと真島が立ち去ろうとした時、気付いたツバサが彼を引き止める。

 

 

 

「ねえ、良かったら真島さんも一緒にどう? 咲ちゃんと会えたのも真島さんのおかげだもん」

「ああ、それはいい提案だ。人数が多い方が盛り上がるし、何よりいてくれると頼りになる」

「そうねぇ。私も二人に賛成よ。ね、咲ちゃん」

「はい。私も皆さんと同じです。それにまだお礼もしてませんから」

「…気持ちは嬉しいけど、俺がおったら場違いやし…それに目立つやろ」

 

 

 一緒に遊ぼうとツバサ達の誘いを真島はやんわりと断る。その気持ちは嬉しかったが、咲との親睦を深める邪魔になる。真島はそう思ったからだ。この言葉に四人は顔を見合わせた後、彼女達は左右から真島の腕を掴むと引きずる様に歩き出した。その唐突な行動に困惑する真島にツバサ達はそれぞれの想いを告げた。

 

 

「…気にしないで。いざとなったら、マネージャーだと誤魔化せばいいのよ。それに私達にとっても…真島さんも友達なのよ」

「ツバサの言う通りだ。迷って悩む私達の背中を押してくれた。私達の頼れる人だしな」

「そうよ。今回の事も真島さんがいたから、私達は咲さんと会える事が出来たんだもの」

「皆さんの言う通りです。それに不思議な事に真島さんなら信頼出来る。変な言い方ですが、そう感じるんです」

「……。分かった。そこまで言われたら、断るのは失礼やな。それじゃ、厄介になるで」

 

 

 面と向かって、こうも言われてしまっては断る事が出来ない。折れて同行する事を決めた真島を見て、四人は笑顔を浮かべて喜んでいた。そして一行は咲の親睦会の為、街の中へ意気揚々と歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 




今回の話、どうだったでしょうか?

以前よりは短めですが、この続きは次回に続きます。
久しぶりにシリーズの3をプレイした事で、懐かしいと思い…彼女。名嘉原咲を登場させてみました。

また咲がどうしてA-RISEと会う事になったのか。その経緯も次回で明らかになります。


宜しければ感想を一言でも良いので、下されば執筆の活力となります。

それと本日 21時より。薮椿様の企画にて、自分が書いた作品が投稿されます。
こちらの方も宜しければ、是非読んで見て下さい。

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