般若と龍と女神のドタバタ騒動記   作:アリアンキング

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今回は理事長と桐生さんのお話です。

サブストーリー006 娘を想う親二人 開始
桐生「遥から電話があり、暫く帰って来なくていいと言われた。最初は怒らせたと思ったが、孤児院の仕事を覚える為だったようだ」

それではどうぞ。


サブストーリー006 娘を想う親二人

神室町にあるホテルの一室で桐生一馬は電話をしていた。電話の相手は沖縄にいる遥である。そして、遥から言われた一言に驚きの言葉を失った。

 

 

無言になった桐生を心配した遥の自分を呼ぶ声で我に返り、慌てて言葉を返す。

 

 

 

「…なぁ。遥 もう一度言ってくれないか?さっきは何かの冗談だよな?」

「もう~ おじさんってば、ちゃんと聞いててよ。おじさんは暫く、沖縄に帰って来なくてもいいよ」

 

 

 

やはり、自分の聞き間違えではない。まさか、大切な家族であり、娘ともいえる者から帰って来るなと言われるなど思っていなかった。それ故 感じた衝撃は計り知れない。そして、桐生は声を震わせながら遥に事情を尋ねた。

 

 

 

「どうして‥いきなり、そんな事を言うんだ?俺は遥を怒らせるような事をしたのか?もし、そうならはっきりと言ってくれ」

 

 

桐生はそう言いながら、自分が遥を怒らせる原因を思い返していた。だが、そんなものはいくら考えても思い浮かばない。

 

 

(何故、遥はあんな事を言ったんだ?もしかして、旅行へ行く前日に食べたプリンの事で怒ってるのか?いや、数年前ならまだしも、高校生になった遥がその程度で怒る筈はない。まさか、反抗期か?年頃の娘は父親を嫌うと言うし、それで俺が嫌になって帰って来るなと言ったのかもしれない。この日がとうとう来てしまったのか)

 

 

遥を怒らせた原因を考えていたが、途中から親ばか全開の思考になっている事に当然ながら、桐生は気付いていない。

 

 

「…‥ぷっ、あはははははは。おじさん、何か勘違いしてるでしょ?帰って来なくていいと言ったのは以前、ヒマワリに代理で園長をしていた先生がアサガオに来てるからだよ。それで事情を説明したら、おじさんの代理をやってくれると言ってくれたんだ。私も手伝うし、詳しい事は電話でおじさんの指示を聞けば済むからって、おじさん話を聞いてる?」

「ああ 聞いてるぞ。だが、いくら何でも二人に任せっきりというのはなぁ。先生に迷惑を掛ける事になるんじゃないか?」

「私もそう思ったんだけどね。考えてみたら私はアサガオに残るんだから、今のうちに孤児院の仕事を覚えた方がいいんじゃないかと先生に言われたの。それでやってみたくなったんだ。やっぱり…駄目かな?」

 

 

遥の言葉を聞いて、桐生は優しい笑みを知らずに浮かべる。まだ子供だと思っていたが、いつの間にか大人になっていたようだ。その事が嬉しくもありまた寂しくもあった。

 

だけど、桐生は自分の道を進もうとする遥の背中を押す事にした。

 

「解った。お前がやりたいようにやってみろ。だが、これだけは約束してくれ。決して、無茶はするなよ。それと何かあったら、すぐ俺に連絡してくれ」

「うん。ありがとう。何かあったら、必ず連絡するね。それじゃあ、おじさんも旅行を楽しんでね。折角、神室町に来たんだから」

「ああ 分かった。思う存分堪能させてもらうぜ」

「うん また電話するね」

「じゃあな いつでも電話待ってるぜ」

 

その言葉を最後に電話が切れる。桐生は受話器を元の場所に戻し、ベッドに腰かけて一息吐いた。

 

 

桐生は窓の風景を見ながら、先程の会話を思い返す。

 

 

(一緒にいるから孤児院の仕事を覚えるか… 以前も似たような事があった。確か、遥がアイドルをする為に大阪へ行った時だったか。あの時と今は違うとはいえ、遥をあの場所に縛り付けて良いのだろうか?遥だって、やりたい事や夢もあるだろうし、出来る事なら何でもやらせてやりたい。風間のおやっさん、由美、俺はこんな時どうしたらいいんだろう?何を言ってやれば良い?‥…考えても答えは出るわけないか。街をぶらついて気分を変えた方がいいな)

 

 

考えれば考える程、気分が落ち込んでいくのを感じた桐生は気分転換をする為に神室町へと繰り出した。

 

 

ホテルから街にやって来た桐生だったが、当てもなくぶらついていた。1時間程歩いていると、中道通りへ続く道の前で喫茶アルプスのチラシを配っている店員が目に入る。

 

桐生は腕時計で時間を確認すると時刻は12時を回っており、折角だから喫茶アルプスに向かう事にした。

 

中道通りを進み、喫茶アルプスが見えてきた時、ある女性がオープンテラスに座っていた。その女性は黒のシャツに白のスーツを着ており、見るからにやり手のキャリアウーマンといった感じである。桐生が女性の横を通り、店内に入ろうとした時、女性の呟きが耳に入ってきた。

 

「この遥ちゃんという子は可愛いわね。アイドルとして、これからという時に辞めてしまうなんて勿体ないわ。縁があれば、うちの学校に来て欲しいわね」

「!?…‥すまない。少し、話を聞かせてもらっていいだろうか?」

「え?え、ええ 構いませんよ。立ち話も何ですから、相席でよければお掛け下さいな」

 

 

女性の呟きに聞き覚えのある名前が出て、桐生は女性に話しかけた。座っていた女性も最初は驚いた様子を見せたが、柔らかい微笑みを浮かべると目の前の席に座るように勧めた。

 

「ありがとう。俺は桐生と言う者だ。先程、遥という子をうちの学校に来て欲しいと言っていたが、あれはどういう事だろうか?」

「ご丁寧にどうも。私は南と言います。それと桐生さんの質問ですが、そのまんまの意味ですよ。私は音ノ木坂学院という女子校の理事長をしていましてね。それでうちの学校に来て欲しいと言ったんですよ。それにしても、女性の話を盗み聞きするなんて、いい趣味とは言えませんね」

「それは申し訳ない。つい、知った名前を聞いて気になってしまってな」

 

 

桐生の質問に答えると理事長はやんわりと注意する。それを聞いて、桐生は素直に謝った。

そして、今度は理事長が桐生の言葉に疑問を覚えて質問を投げ掛ける。

 

「そうだったんですか。ああ その前に何か注文をされてはどうでしょう。折角ですから、ご馳走するわよ」

「いや 会って間もない人にそこまでしてもらうわけにはいかない」

「あら 女性に恥を掻かせるんですか?桐生さんはひどい人ねぇ」

 

 

理事長は悲しそうな顔をして、その言葉を吐く。その言葉を聞いた周りにいる人達は桐生に冷たい視線を向けた。詳しい事情を知らない者がこの状況だけを見れば、桐生が理事長を脅している様にしか見えないから無理もないだろう。

 

「お、おい 一体、何を言い出すんだ。それじゃあ、俺が悪者じゃないか」

「それなら、私の顔を立ててご馳走させてくださいな」

「…解った。それじゃあ、一杯だけご馳走になるぜ」

 

 

 

理事長の強引さに桐生は折れて、席に座ると一杯のコーヒーを注文した。数分後に運ばれてきたコーヒーを一口飲むとある事を尋ねた。

 

 

「そういえば、南さんは音ノ木坂で理事長をしてると言っていたな。それなら、東條希という名前に聞き覚えはないか?」

「ええ 知っているわよ。うちの生徒でしたからね。それより、桐生さんは何処で彼女の名前を知ったのかしら?」

 

桐生の言葉を聞き、理事長は眉間に皺を寄せて険しい顔をする。卒業したとはいえ、自分の学校に通っていた大事な生徒の名前を知っている桐生に警戒心が生まれていた。もしや、よからぬ事を企んでいるのではないか?ありとあらゆる疑問が理事長の心の中に浮かんでくる。

 

「ああ 実はこの間、本人から街の案内を頼まれてな。この街は初めてで道が解らないから、自分が探してる店まで連れて行ってくれないかとな。名前はその時に聞いたんだ。それにスクールアイドルをやっていた事もな」

「そうだったの。桐生さんには、世話を掛けてしまいましたね。どうも ありがとうございます。私からも礼をいしますわ」

「いや いいんだ。俺自身も楽しかったからな。それと、遥を音ノ木坂に来て欲しいのはスクールアイドルの為でもあったのか?僅かな間だが、遥もアイドルをやっていたからな」

 

 

理事長は事情を知ると、表情を和らげ桐生に礼をした。それをやんわりと受け止めると、今度は桐生が理事長に疑問を投げ掛ける。

 

「…そうねえ~ それもあるのだけど、私としては音ノ木坂に来て、もっと充実した学生生活を送って欲しいと思ったからなのよ。アイドルという職業をやっていると周りから妬まれたりするでしょう?」

「確かにそうだな。人は自分に無い物を持っている人に嫉妬するからな」

「ええ だから、学校での生活は本人にとって、苦痛と感じる事もあったでしょうね」

「成程な。それでアマチュアとはいえ、アイドルがいる音ノ木坂に来て欲しいと思った訳か」

 

桐生は理事長の話を聞いて納得した。あの時、呟いた言葉もつい口から出たのだろう。理事長は時計に目をやり時間を確認すると、桐生に向かって言葉をかける。

 

「そろそろお暇しますね。代金は言った通り私が払っておきますわ」

「ああ こちらこそ。それと…今日の夜にまた会えないか?まだ、話したい事が…いや 何でも無い。今の言葉は忘れてくれ」

「あら そこまで言っておいて、何でも無いという事はないでしょう?夜には仕事が終わるから私としては構いませんよ。こちらも聞きたい事がありますからね。ただし、変な事はしないという条件付きですよ」

「勿論だ。それでは、今日の夜 19時にミレニアムタワー前で待っていてくれ」

「解りました。19時にミレニアムタワー前ですね。それでは失礼します」

 

 

再び会う約束をして、二人は別れた。

 

 

 

数時間後 ミレニアムタワー前に桐生の姿があった。約束の時間まで10分以上あるが、誘った自分が遅れてはいけないと余裕を持って来ていた。備え付けのベンチに座って、今日会った女性の事を考えていた。

 

 

(あの時、咄嗟に誘ってしまったが来てくれるだろうか?考えようによっては口説いてる様に思っただろうし、その場を離れる為に口約束だけをしたのかもしれない。だけど、あの人は嘘を吐いてる様には見えなかった。…まあ、時間になれば分かるな)

 

 

約束の時間が訪れ、仕事を終えたサラリーマンや店の宣伝をしてるキャッチで溢れる道を見回しながら、桐生は理事長の姿を探していた。しかし、自分が待っている人物の姿は一向に来る気配はない。

 

「やっぱり、来るわけないか。考えてみたら、初対面の人間の誘いに乗るのはおかしいからな。所詮、口約束の約束なんて「私は守りますよ」え?」

 

自分の独り言に重ねるように発せられた言葉に驚き、桐生が振り向いた先には理事長の姿があった。

 

「遅れて申し訳ありません。少し、仕事に手間取ってしまいましてね。待たせたかしら?」

「いや、そんな事はない。こう言っては失礼だが、来てくれるとは思っていなかった」

「そう。さっきも言ったけど、私は口約束でも守るわよ。生徒にも約束を守るように言ってる私が守らないと示しが付かないでしょう?」

 

桐生の言葉に理事長はそう返した。教育に携わる者としての信念がその言葉に込められている。それを感じ取り、この女性に対して尊敬の感情を抱いた。

 

 

「ああ そうだな。それじゃあ、何処か落ち着ける場所に行くとしようか。ここで立ち話も何だからなぁ」

「そうね。ところで何処に行くのかしら?」

「そうだな…そういえば、この近くの路地に俺がよく行くバーがあるんだ。その店に行くとしよう。それにそこのマスターとは顔見知りだから、顔も利くからな」

「あら 素敵ね。それじゃあ、エスコートをお願いするわ」

「美人にそう言われては気が抜けないな。しっかりとエスコートさせてもらうぜ」

 

桐生の台詞に思わず、理事長は赤面する。だが、朴念仁と周りから言われる桐生は当然ながら、その事に気付いてはいなかった。

 

二人は人でごった返す路地を通り、桐生はいきつけの店であるバンタムに案内した。店の戸をくぐるといつも通り店内は酒を飲みに来た客で賑わっている。カウンターにいるマスターが桐生に気付き、明るい笑顔を向けて挨拶をしてきた。

 

「やあ これは桐生さん。ようこそ いらっしゃいました。今日は美味しいウイスキーが入荷したところですよ。おや?そちらの女性は誰です?桐生さんのお知り合いですかな?」

「まあ そんな所だ。それより、今日はこの人とゆっくり話がしたい。奥の席は空いてるか?」

「ええ 丁度、二人用の席が空いてますよ。それと飲み物はテーブルまで運びますので注文を聞いて宜しいですか?」

マスターは気を使い、二人がゆっくりと話が出来るように計らってくらた。桐生はウイスキー 理事長は焼酎を注文した後、奥の席に向かっていった。

 

「いい雰囲気の店ね。マスターも気が利く人だし、これからは私もこの店に足を運ぼうかしらね」

「気に入ってくれて、何よりだ。この店が繁盛してるのは、酒の質もあるがマスターの人柄に惹かれて来る人も多いからなぁ。俺もその一人だ」

席に着き、店内を見渡し理事長は店の賛辞を口にする。桐生も自分が気に入っている店を褒められて、嬉しそうな表情を見せる。

 

「お客様のお気に召して、私としても嬉しい限りです。お待たせいたしました。こちらが注文のウイスキーと焼酎となります。それと今日は私の奢りとさせてもらいます」

「おい マスター。気持ちは嬉しいが、いい酒をタダで飲むのは申し訳ない。代金はしっかりと払うぜ」

 

注文の品を運んできたマスターが穏やかな笑顔でそう呟いた。だが、桐生はマスターの好意をやんわりと断る。今日の昼に理事長にも奢られている為、流石に抵抗を感じていたからだ。

 

「いいんですよ。そちらの別嬪さんにこの店を褒めてもらったお礼です。それに桐生さんには、色々と世話になりましたからね」

「桐生さん 折角ですから、マスターのご好意に甘えましょう。ここで押し問答をしてもキリがないと思うわ。そのかわり、次に来た時は少し高いお酒を頼んであげればいいでしょう」

「…そうだな。それじゃあ、今日はご馳走になるぜ。ありがとうなマスター」

 

二人の言葉に折れた桐生はマスターの好意を受ける事にした。その言葉を聞き、マスターは満面の笑みを見せて深く一礼すると、その場を去っていった。

 

テーブルに置かれたグラスを手に取り、一口飲むと桐生はおもむろに口を開いた。

 

「昼間、貴女は俺に聞きたい事があると言っていたな。それは一体何なんだ?」

「そうそう、聞きたい事は桐生さんと遥ちゃんの関係が知りたかったのよ。桐生さんの様子だと、遥ちゃんとは深い関係にあると思っていたから」

「遥と俺の関係か…確かに深い関係と言えるな。だが、少し長い話になるけど、それでも構わないか?」

「ええ。ぜひ、聞かせて頂戴」

 

理事長は真剣な様子の桐生を見て、同じく真剣な顔で頷いた。張り詰める空気の中 桐生は静かに語り始める。

 

「詳しい経緯は省くが、あれは俺が久しぶりに神室町に来た時だったな。偶然、入ったバーで遥に出会って、それから一緒に行動する事になったんだ。その後、遥の母親が不幸に巻き込まれて亡くなってしまって、俺が引き取って面倒を見ているというわけだ」

「そう そんな事があったのね。だけど、大変じゃなかった?その子だって、貴方に懐くまで時間が掛かったでしょう?」

「いや、そうでもない。最初こそ、戸惑っていたが、すぐに打ち解けてくれたからな。それからは一緒に料理したり、時には遊園地に行ったりともしたなぁ。普段は我儘一つ言わないが、その時は思う存分楽しんでいたよ。あの時の事は俺にとってもいい思い出だ」

「いい父親をしているのね。そういえば、貴方は今何をしてるの?」

 

桐生から語られた話は理事長が想像していたより、驚くべき内容であった。二人の間には重い空気が漂っている。そんな重い空気を振り払う為 理事長は話題を変えて話しかけた。

 

「今か?今は沖縄でアサガオという孤児院を運営している。現在は遥が知人のサポートを受けて、俺の代理をしているよ」

「あら?遥ちゃんはまだ高校生でしょう?いくら、知人の助けがあるとしても遥ちゃんに任せっきりというのはどうかと思うわよ」

 

 

桐生の話を聞いて理事長は耳を疑った。教育者の性なのか、桐生にかける言葉も自然と厳しいものになっていた。

理事長の言葉を正面から受け止めて、桐生は自分の気持ちを吐き出す。

 

「ああ 確かに貴女の言う通りだろう。俺もそう思っていたからな。だが、遥は自分の口でやってみたいと…そう言ったんだ。俺と一緒にいるんだから仕事を覚える為だとも言っていた。俺としては他の子の様に…もっと、色んな所に遊びへ行ったりとか、友達と過ごしたりとか普通の生活を送って欲しいし、送らせてやりたい。だけど、あいつはそんな事には目を向けず、いつも俺の事を優先させてばかりだからな」

 

桐生の気持ちを知り、理事長はかける言葉が無かった。彼も自分の無力さを痛感している。それは同じ娘を持つ理事長も共感出来る部分があるからだ。

 

「…そう 桐生さんも色々と悩みがあるのね。そうとは知らず、きつい言い方をして悪かったわ。ごめんなさい」

「いや いいんだ。そういえば、貴女の学校にいるμ'sはどんな子達なんだ?以前、街で会った花陽と希がやっていたと言っていたが、他の子については知らないからな。良かったら、教えてくれないか?」

 

今度は桐生が暗くなった雰囲気を変える為 以前、道案内をした二人から聞いたμ'sの事を尋ねた。

 

「実は言うとね。一年前 うちの音ノ木坂学院は少子化の問題で廃校寸前まで追いやられていたのよ。そんな時にある子達が学校を救おうと立ち上がったのが始まりよ。それがμ'sなの。メンバーはリーダーの高坂穂乃果 作詞を担当していた園田海未 皆の衣装を作っていた南ことり 作曲担当の西木野真姫 メンバーであり、アイドル研究部の部長をしていた矢澤にこ そして、振り付け担当の絢瀬絵里と星空凛。桐生さんが知らない人はこの7人よね?」

 

 

理事長の説明で残りのメンバー達の事を桐生は知った。その中の一人が気になり、桐生は理事長に問いかける。

 

 

「ああ これで9人の名前が分かった。そういえば、メンバーの中に聞き覚えがある苗字があったな。もしや、貴女の娘さんか?」

「正解。桐生さんの言う通り、南ことりは私の一人娘よ」

「そうか。貴女も娘さんがいたんだな。その子は今、スクールアイドルをやっているのか?衣装を担当しているみたいだからな」

「いいえ 今はやっていないわ。もう、高校三年で進路の問題がありますからね」

「そうか。そういや、遥も今年で高校三年だな」

「あら、そうなのね。それだったら、孤児院の手伝いはいい機会じゃないの。遥ちゃんが高校三年だと、初めから言ってくれたらいいのに。桐生さんも人が悪いわね」

 

肝心な事を話さなかった桐生に向かって、理事長は若干膨れた様子でぼやく。何故、膨れているのか解らないまま、桐生は会話を続けた

 

 

「それは悪かった。俺の説明が足りてなかったな。それと貴方の娘さんはどんな進路を歩もうとしてるんだ?遥と同じ学年なら、もう決めている頃だろう?」

「そうね。娘のことりは服飾関連の仕事に就く夢を持っているわ。まあ、以前にそのチャンスがあったけど…ある事情でふいにしてしまったのよ。だけど、今はそれを叶える為に一所懸命努力をしているわよ」

「そうか。夢を叶えるのは一筋縄ではいかないが、諦めなければ叶う筈だ」

「ええ 私もそう信じているわ。だって、自慢の私の娘ですもの」

 

明るい顔でそう言う理事長の言葉には、ことりへの深い愛情を込められている。それを桐生も感じ取っていた。

 

「お互い、娘の事で苦労するなぁ。それじゃあ、改めて乾杯といくか」

「そうね。それじゃあ、乾杯」

 

お互いのグラスを軽くぶつけ合うと、二人は楽しく酒を飲み交わした。

 

 

 

2時間後 二人は約束の場所であるミレニアムタワー前にいた。

 

「今日は楽しかったわ。桐生さんのおかげでいい店も見つかったし、感謝してますわ」

「こちらこそ、楽しかったぜ。良かったら、また酒を飲みながら話したいものだな」

「それもいいわね。それなら、私の携帯の番号とメールアドレスを教えますよ。桐生さんの携帯を貸してもらっていいかしら?」

「ああ いいぜ」

 

桐生は携帯を取り出すと、理事長に手渡した。携帯を受け取ると、手慣れた様子で自身の情報を桐生の携帯に入力していく。

 

「これで良しと。桐生さんの携帯に私の連絡先を追加しておいたわ。昼間は忙しいからメールなら平気だけど、電話は無理だから覚えておいて頂戴ね」

「分かった。それじゃあ、また会える日を楽しみにしてるぜ」

「それでは、これで失礼するわね。また今度会いましょうね」

 

理事長は頭を下げて、そう言うと雑踏の中へ消えていった。

桐生はその姿が見えなくなっても、理事長が去っていた方を静かに見つめていた。

 

(まさか、初対面の女性を酒の席に誘うとはなぁ。俺も柄じゃない事をしたもんだ。それにしても、あの人が音ノ木坂の理事長とはな‥世間は狭いな。さて、今日は俺もホテルに戻るとするか)

 

神室町では思わぬ出会いをもたらす事がある。それを桐生は改めて実感し、軽い足取りでホテルへと戻っていった。




サブストーリー006 娘を想う親二人 完

桐生「今日は思わぬ人と出会った。まさか、μ'sがいた学校の理事長と酒を飲むとはな。初対面の女性を誘うなんて、俺らしくない事をしたが今思えば、誘って良かったぜ」

個人的に理事長と桐生さんの回は書いて見たい話だったのでいつも以上に気合を入れて書き上げました。

感想も待ってますのでどしどし送ってください。

一部 加筆修正をしました。
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