「早苗、夕餉の準備が出来たから二柱を呼んできてくれないか」
「わかりましたっ!」
今日の夕餉は岩魚の塩焼き、菜の花と豆腐の味噌汁、大根と胡瓜の漬物、それに白米である。雨の中人里に行ったのはどうやら正解で、売れずに残っていた菜の花を沢山安値で頂いたのだった。
「おー、良い香り」
「文目、酒をくれ」
「今日もとっても美味しそうです」
三者三様の反応を見せながら居間に集まって来た八坂神社の面々。
洩矢諏訪子。ミジャクジ様と崇められ強力な呪いを得意とする神様である。だが、その見た目は外の世界で言うならば幼稚園生と言われても違和感はない小さな体である。
八坂神奈子。戦神八坂がその人である。オンバシラと呼ばれるとてつもなく大きな木の柱を振り回したりなどで、圧倒的な殲滅力を持つ神様である。諏訪子と神奈子が並ぶとまるで母娘のようだと文目はいつも思うのであった。
そして東風谷早苗。現人身として八坂神社の当代巫女を勤める。現代とは違ってこちらは信仰が確かに生きており、信仰を求めて日々人里で宣伝を行っているらしい。背丈は数日前に語った女の子とそう変わらないであろうか、そもそも早苗自身も一年前まで高校生であった身である。
「ほら、神奈子。これでいいか?」
「あぁそれでいいさ。ほら文目も座って」
「よし。それでは」
『いただきまーす!』
文目が幻想郷、八坂神社に移って以来夕餉の役割は文目が担っている。私がいなかったおおよそ一ヶ月どうしていたのかと聞けば、早苗が頑張っていたらしいのだが、如何せん早苗は料理は得意ではない。むしろ巫女修行の合間を見つけては外に遊びに行く彼女の事であったから、花嫁修業などは触れる暇すらなかった筈である。何度聞いても早苗ははぐらかすので神奈子の晩酌の際に聞いてみると、渋い顔をして奥の箪笥を指差すのであった。
「あぁ、白米……! それにもちもちおこげ……!」
箸に白米を取り掲げる早苗。
「早苗が料理出来ないのはそうだろうと思っていたが、まさか神奈子と諏訪子まで出来ないとは思ってもみなかったよ」
「何を言うんだ文目、私だって一つは得意料理があるぞ」
「カップラーメンは料理と呼ばないぞ神奈子」
そう、なんという事であろうか、彼女たちはカップラーメンだけで一ヶ月乗り切ったのだ。早苗がカップラーメン好きで時々食べていたのは知っていたが、まさか箱買いまでしているとは思いもしなかった文目である。
文目が幻想郷に来てから二週間位が経った頃である。
そろそろこちらも花壇を作り始めるかなどと考えていた文目の前に、紫が現れたのであった。
「こんにちは、文目」
「ん、紫か。久しぶりだな」
紫とは強制幻想郷以降一度も顔を合わせているいなかった文目である。ルールくらいは話していってくれると思っていただけに、カップラーメンを貪る三名の前に放り出してさっさと帰ってしまったのだった。
紫の話をまとめると外部から来た妖怪などは異変を起こす事が決められているらしい。それを人間に味方している者達などがスペルカードルールを用いて、打ち払えば見事異変解決。その後は宴会を開いて仲良くしましょうと言うのが大まかな決まり事のようだ。
「何となくは早苗たちから聞いていたが、そこまで詳しく決まっていたんだな」
「今の幻想郷はスペルカードルールの上に成り立っているようなものよ。だからあなたにも何か異変を起こして欲しいの」
「しかし、その弾幕ごっことやらは女性がやるものなんだろう? それなら私は相応しくないと思うが。私自身もあんまり戦闘力もないしな」
文目の戦闘力自体はおそらくそこまで強くないのであろう。実際、彼の力は補助的な面が大きく、諏訪対戦に望んだ時も神奈子の補助に徹していた。
「八坂の二柱からも文目はそこまで強くないって聞いてるのよね……。なら、こうしましょうか」
紫から案を聞いた文目はなるほどと頷いた。文目自身も戦闘が好きなわけではないし、ましてや早苗たちを巻き込む気も微塵となかったのである。
そもそも、早苗たちが起こした異変――幻想郷では異変に命名があるらしく、風神録と言うようだが――そのような規模の異変を一ヶ月程度で再び起こしては、とにかく迷惑と言うものだ。
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