遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~   作:特撮仮面

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彼と彼女としないフォギア

 遊吾・アトラスは激怒した。彼の暴虐の王を打ち倒さんと彼が内心怒りに震える。クソガッ、どいつもこいつも何で俺に気持ちよく決闘させないんだ!

 

 

「…どうしたんだよ?」

「い、いや、何でもないッ!」

 

 

 隣を歩くのは、流れる艶やかな銀髪を後ろで二つに縛り、強い意思の籠った瞳を持つ、赤いドレス姿の少女。クリスだ。

 

 対する、黒い針金コートに右腕に巻かれたシルバー。ウニのようなツンツンの黒髪の少年の名は、遊吾・アトラス。

 

 現在二人は、街へと出かけていた。ルナアタック、そう呼ばれる戦いから数日。本来ならば機密保持の関係上外へ出ることは許されないのだが、本部移転などに乗じてこっそりと遊吾がクリスを連れ出したのだ。

 

 恐らく後から大目玉なのは確実。だが、彼はそうしたい理由があった。

 

 フィーネとのコミュニケーションがとれていないのだ。いや、せいかくに言えば、二人とも話そうにも素直に話せない、と言ったところか。フィーネこと了子の場合は後ろめたさから、クリスは素直に感情を表現できないことと、敵であったがゆえにどう接して良いか分からないから。

 

 二人が同じ空間にいたときのあのなんとも言えない雰囲気は嫌いだ。そして、そのあと地味に二人して凹んでいるのを見るのも好きじゃない。

 

 だから彼はよかれと思って彼女を連れ出したのだ。しかし、連れ出したのは良いものの本部移転のための手続きや一部装者の活動などで見知らぬ街に来ているものだから、下手をすれば迷子になりかねないし、何よりも異性と街に出るのは初めてだから、彼自身これからどう動けば良いとか分からなかったりする。

 

 今二人は、アーケード街を歩いているのだが、本当にただ歩いているだけだった。遊吾はこれからどうするよ? と頭を悩ませているし、クリスの場合はこの状況にまだ頭が追い付いていない状態だった。

 

 彼は、元の世界で異性と行く場所と言えばカードショップだった。ちなみに、皆見麗しい女性決闘者ばかりだったのだが、彼に負けず劣らずの決闘脳。もとい決闘馬鹿なため、彼との関係は甘酸っぱい何て事はなく、むしろ相手をノックアウトさせるためだけの痛味な関係。

 

 そのため、今回の行動で参考になる部分は欠片もなかった。というか、どこからともなく「へぇ、デートかよ」といった声が聞こえてくる始末である。

 

 ちなみに、彼らは普通に歩いているつもりなのだが、端から見たら頭を悩ませて歩く少年と、そんな少年をチラチラみればすぐに顔を伏せて、といった行動を繰り返す頬の赤い少女。容姿や格好も相まって凄い目立っていた。

 

 

「あー、このまま歩いてても埒が明かねえな。どっか行くか?」

「え? あ、いや、そうだな……どこ行く?」

「いや、それを俺が聞いてんだけどな?」

 

 

 ぶらぶらと歩いているのも時間が勿体無いのでと彼が聞くのだが、クリスからの返答は質問。質問を質問で返されて苦笑してしまうが、まあお互いこのような状態に慣れていないということだろう。

 

 そうだな…。そう考えて彼が辺りを見渡そうとして、とある建物に気がついた。

 

 扉が開けっぱなしで、大音量が外まで聞こえてくる建物。ゲームセンターだ。これは行くしかねえ! 何故かそう考えた彼は、彼女に提案してみる。

 

 

「あそこ行こう!」

「あそこ――って、あどばんすかーにばる……ゲームセンター?」

「ああ!」

 

 

 ほら、行くぞ! 一度決めたら動きは早い。彼女の手をとって彼はゲームセンターへと突進していくのであった。

 

 

 

『こちらN、ターゲットCとYはポイントbのゲームセンターに入りました』

『座標特定、位置情報を更新し、予測進路を修正します』

『こちら本部。了解した。そのまま監視を続けてくれ』

『了解。N、任務続行します』

「あの、皆さん何してるんですか?」

「…良い大人だって言うのにこの男どもは…」

 

 

 

「ほえー」

 

 

 クリスはその世界に思わずそんな間の抜けた声を出してしまった。

 

 キラキラと輝く照明と筐体。ガンガン流れる様々な機械から流れてくる音は、どれもが空中でぶつかり合い不協和音を奏でるが、その不協和音は不快なものではなく、どちらかと言えばこの空間がどんなものかを全力で主張していた。

 

 物珍しそうに辺りを見回すクリスとは違い、遊吾は迷いない足取りで両替機へ向かい札を小銭に変える。

 

 ちなみに、彼は二課に拾われて初めてこの世界の通貨を手に入れることができた。

 

 それは、月から帰還して数日間、ノイズ狩りしてみたり災害地の救助活動を行っていたことによる報酬金。一部破壊した建物分の金額が引かれたりしているが、その報酬金額は並みのサラリーマンよりもあったりする。

 

 そして、彼は普段一銭もお金を使わないどころか、フラりと何処かへ消えては金を稼いで帰ってくるという行動を何度か繰り返していたため、彼の手持ち金は現在とんでもないことになっていたりする。

 

 

「お前、こういうとこ来たことがあるのか?」

「いや。生まれて初めてだ」

 

 

 彼女の言葉にそう返しながら、彼は数ある筐体を吟味し始める。

 

 事実、決闘しか頭に無かった彼にとってこのゲームセンターが初めてのゲームセンターになるのだが、響や未来から聞いていた話と、デュエルモンスターズという娯楽を生業とする彼の直感が、行動を最適化させていた。

 

 さて、どうしたものか…。そう考えながら様々なゲームを確認していた彼は、そこでクリスが居ないことに気付いた。

 

 視野が狭いとはよく言われるが、さすがにこれは無いぞ!? 少し焦って来た道を戻るが、彼女はすぐに見つかった。

 

 

「おーい、どうした?」

「え? あ、ああ。何でもない」

 

 

 彼女が見ていたのは、UFOキャッチャー。どうやら何か欲しいものがあるらしい。が、彼女は何も言わない。それを見て苦笑する彼。相も変わらず甘えるのが苦手ならしい。

 

 だが、と彼は筐体を見る。UFOキャッチャーと言うものは、アームの力が基本的に弱く設定されているらしい。下手に金を落とすのも何かシャクなんだよなぁ…。そう考えて彼は先々歩いていく彼女の後ろをついていく。

 

 

 さて、そんなこんなで二人して色んなゲームを確認していたのだが、そろそろ何かして遊ばなければなるまい。

 

 しかし、二人がここで別々のゲームを遊んでしまうと態々一緒にゲームセンターに来た意味がない。そういうわけで、二人が選んだゲームは――

 

 

「リロード!」

「任せな!!」

 

 

 ガンシューティングゲームだった。

 

 ストーリーはよくある、エージェントの二人組が謎の組織と戦うというもの。ステージのクリア時間に応じてストーリーと難易度が変化するというそのゲームは、最近リリースされたばかりのゲームだった。

 

 そして、二人はそんなゲームを――

 

 

「はっ、ちょっせえ」

「あめぇっての」

 

 

 最速、公式が掲げ、リリース後数週間経過して尚誰も越えられなかったタイムレコードを遥かに上回るステージクリアタイムで進めていた。

 

 ちなみに、このゲームはクリア時間に応じて難易度が変化するのだが、最速タイムでステージを進めた場合、普通なら詰みかねない、一撃必殺の攻撃を放つ敵の突然の奇襲やステージ移動中の罠と言った、鬼畜どころかプレイヤーにクリアさせる気無いだろと言われるような畜生難易度。

 

 だが、そんなゲームを彼らは汗一つ流さずに攻略していた。

 

 

「横!」

「助かった!」

「借りだ!」

「返す!」

 

 

 既にステージは最後。上下左右、それこそ画面の隅からでもプレイヤーを殺しに来るゲーム。当たれば一撃死。だが、そんな状況を二人という数を活かして平然とクリアする。

 

 魔弓・イチイバルという、元々遠距離からの攻撃に慣れており、尚且つ複数対一の戦闘を得意とするクリスと、決闘者特有の視力と直感により、制作者のクリアさせる気がない思考を読み取り、どの位置から敵が現れるかを予測、画面越しながら敵の出現位置を当て続ける遊吾。

 

 二人の類い希なるコンビネーションによって次々と敵を倒し、ついにラスボスに辿り着く――のだが、そのラスボスの姿に二人が身体を固めた。

 

 黒の竜。それは配色の違うレッド・デーモンズ・ドラゴン。元々彼がノイズとして活動していた際に結構表に出ていたのでその姿を目撃されていてもおかしくは無い。無いのだが、よりによってエージェントのチームのボスがラスボスで更にそれがファンタジー的能力者で、それが変身したラスボスとか、超展開も大概にしろ!! と言いたいのだが、ゲームの中で竜が言った。

 

 

『ふはははは!! 分からぬか!! 我が貴様らの言う司令、その前身であると!!』

 

 

 な、なんだってー!? というか、それマジで俺じゃねえか!? つい最近、自分の前世が強大な力を持つ竜であるということを知った彼からすれば、あまりにもタイムリー、というかこのゲームの製作者俺のこと知ってんじゃないだろうな? 思わず邪推してしまうと同時に、自分の、何よりも父の魂をこんな形で使用されたことに理不尽ながら怒りを覚える。

 

 

「クリス、こいつぶっつぶす!!」

「ああ、よくもこんなチョイ役やらせやがって。身の程を教えてやらぁ!!」

 

 

 クリスも怒っていた。

 

 彼女からすれば、Dゲイザーからの映像でキング、ジャック・アトラスとプリンス、遊吾・アトラスの決闘を見て、このレッド・デーモンズというモンスターがどのような意味を持つのか、また実は結構レッド・デーモンズが好きなこともあって、こんなチョイ役みたいなラスボスに選びやがって、という思いだ。

 

 そこから先は怒涛の展開だった。此処に来てすべてが一撃必殺の攻撃。しかも広範囲。更には、本当にこの製作者俺のこと知ってんだろと言わんばかりの防御破壊攻撃、攻撃名は勿論アブソリュート・パワーフォース。

 

 だが、それでも二人は諦めなかった。弾丸を特定部位に十発当てることで攻撃を中断させられることに気づいた二人は、防御を捨てて集中砲火。銃型コントローラーの引き金を壊さんと引き金を引き続ける。

 

 体力ゲージはあと僅か。黒い竜が苦悶の声を挙げ始めたとき、それは起こった。

 

 遊吾の引き金が滑る。手汗によってほんの少し照準がズレた。一発弾丸が外れる。

 

 このゲームの銃の弾丸の装填数は五発。つまり、一発外してしまった時点で黒い竜の攻撃を中断させることができなくなった。

 

 彼の行動は早い。このゲームは元々二人プレイを前提として作られていることもあり、足元のペダルの踏み方で複数のアクションを起こすことが出来る。彼は迷わず独立した一番左のレバー、仲間を庇うアクションを起こすその板を躊躇うこと無く踏み抜いた。

 

 彼の操作する黒色のエージェントが動く。全体攻撃を一身に受け、崩れ落ちる。だが、その背中には無傷の赤色のエージェント。彼女は黒色のエージェントから彼の銃を受け取り、腰だめにそれを構える。

 

 

『うぉおおおお!!』

 

 

 画面の中と外がリンクする。このゲーム最大の特徴。庇う行動をとった場合、庇ったキャラクターのステータス、そして武器をもう一方のプレイヤーに譲渡するというもの。クリスが、赤色のエージェントが両手に持った銃を連射する。そして――

 

 

『STAGECLEAR!!』

 

 

 黒い竜が大地に墜ちる。全てが終わったのだ。クリスが筐体にコントローラーをしまうと、遊吾が彼女に拳を突き出す。ニヤリと笑ってぶつかり合う拳。その瞬間、二人の周囲から溢れんばかりの歓声が轟いだ。

 

 どうやら目立ちすぎたらしい。まあそれもそうか、難攻不落のゲーム、それを攻略した美少女ともなればこうなるか。

 

 冷静な彼とは裏腹に、彼女は顔を赤くして伏く。と、そんな二人の前でスタッフロールが終わる。

 

 

『私を助けてくれた、あの竜の強さを思って』

 

 

 一言、そんな言葉のあとに名前を入力する画面が現れる。

 

 その前の言葉。なるほど、このゲームの作者は彼が過去に助けた人物のようだ。まあ、とりあえず記念に二人で名前を記録させておこう。

 

 名前を入力した二人は、さっさとその場を立ち去ることにした。

 

 

 その後、二人の姿をみてクリアできると確信した人々が、このゲームへと挑戦するのだが、このゲームが配信終了するその日まで、誰一人として「世界」ランキング一位をとることは出来なかった。

 

 世界ランキング一位の名は、クリス&遊吾。このあとも、度々この名前はゲーム界に現れるのだが、この二人がどのような人物かは、誰も知らなかった。ただ、この名前が刻まれる日は必ず、どこかのゲームセンターに、銀髪と黒髪の男女が現れるという。

 

 

 

 

「さて、これからどうするよ?」

「うーん、そうだなぁ」

 

 

 自分達が伝説となっていることを知らず、二人はゲームセンターの休憩所で休んでいた。

 

 最初の頃の緊張も薄れ、普段のような姿へと戻ったクリスと遊吾。しかし、いつまでもゲームセンターに居るわけにもいかないので、そろそろ出ようかと立ち上がる。と、そんな二人の耳に放送が聞こえてくる。

 

 

『さあ、キングが挑戦を待ってるぜ! ハイスピード・ライダーズへ急げ!!』

「ハイスピード、なに?」

「何かのイベントをやってるみたいだな。行ってみるか?」

 

 

 彼の言葉に彼女が頷く。立ち上がったクリスの手を握り、彼は歩き出した。今度はどんなものが見れるのだろうか。二人とも好奇心で自分達がどんなことをしているかなんて全く気にならないようだ。

 

 

 そんな二人が店員に聞いてやってきたのは、ゲームセンターの一番奥。そこには、大きな画面とバイクが二台、そして人だかりが出来上がっていた。

 

 これはなんだ? 首をかしげる二人に、近くにいた店員が説明してくれる。

 

 ハイスピード・ライダーズ。通称SRZは、世界規模のアーケードレースゲームらしい。

 

 画面の前にあるバイク型コントローラーを操作して行うレースは本物同然。今日は、このゲームの日本代表、ハイスピードキングと名乗る人がイベントで来ているらしく、今はキングに挑戦できる時間らしい。

 

 

「彼氏さんも参加してみませんか?」

「ばっ、だ、誰が彼氏だッ!?」

 

 

 店員の言葉を、顔をリンゴのように真っ赤に染めて否定するクリス。だが、そんなクリスをみて遊吾は笑う。

 

「ああ、こいつ照れ屋だから気にしないでください。ところで――」

「お前、何いってんだよ!?」

 

 

 彼女がぽかぽかと背中を叩くなか、彼は店員にあることを聞くと、一つ頷いて人混みのなかに歩いていく。

 

 

「ちょっ、どこ行くんだよ!?」

「ちょっと王様になってくらぁ」

 

 

 片手をひらひらさせて人混みのなかに消える彼を見送り、彼女は思わずため息を吐いてしまうのであった。

 

 

 

「さて、このキングに挑戦する人はいないかー?」

 

 

 キング、天王子徳明は今ノリにノッていた。挑戦者九人抜き。圧倒的実力を前にして観客は軒並み尻込みしている。

 

 これなら、イベント終わりかな? 予定より早くなっちまった、とニヤリと笑う彼に向かって若い男の声で挑戦状が叩きつけられる。

 

 

「おーい、あんたキングだろ? ちょっと相手してくれよ」

 

 

 無造作に投げ掛けられた声。人混みの中から出てくるコート姿の男。何かのコスプレ――と言うわけではないらしい。不可思議な男をみて会場がざわめくが、天王子はニッコリと笑うと彼を歓迎する。

 

 

「挑戦か。良いけど、ハイスピード・ライダーズをやった経験は?」

「無い」

「え?」

「だから初心者も初心者。ここでやるのが初めてなんだよ」

 

 

 あっけらかんと言い放ち、遊吾はコントローラーの元へ。へぇ、これがコントローラーなのかー、とハンドルや柱を見たりして大体の感覚を理解する。

 

 

「本当にやるのかい?」

「ああ。アンタに勝たなきゃいけない理由があるんでね」

「なるほど…」

 

 

 まあ、折角の挑戦者だしね。天王子が観客を盛り上げていく。

 

 

 コースセレクトは基礎基本となるステージ1-3。1-1や1-2は直線が多く、マシンパワーのみで勝利できるため選択された1-3。このコースは急カーブやスラロームなど、多少複雑化しているがあくまでも基礎基本。ある意味一番実力のわかるステージ。

 

 このイベントでは、このステージをメインとして行っているのだが、まさかのド素人参戦で1-3でなくそうかという話も出たのだが、それは挑戦者遊吾の声でステージはそのままに。

 

 だが、対戦方法が普通ではなかった。

 

 一本勝負、ワンショット・ラン。コース一周、しかも普通とは違いその勝敗でそのまま勝負がつくモードでのキングへの挑戦。

 

 ゲーム画面がレーサーたちの背後のカメラに変わる。シグナルが点灯を始める。

 

 ちなみに、この時点で会場の空気は冷めきっていた。当然だろう。突然しゃしゃり出てきた男が、身の程も知らずにキングに一本勝負を挑んだのだ。しかも選んだバイクがファンからも地雷扱いされる、最高速、加速ともに最高クラスで、唯一ニトロ、加速装置を搭載しているが、欠点としてコーナリング性能が最悪な、曲がらない暴走列車の異名を持つバイク。

 

 素人が直線で勝負しようというつもりなのだろうが、このゲームは多少のゲームらしさを残しながら、リアルに極力近い挙動をするのだ。どうせ事故して終わる。

 

 そんな人々のから外れた場所、柱に身体を預けながらクリスは笑った。あいつの凄さをみて度肝ぬかれちまえ、と。

 

 

『GO!』

 

 

 画面で大きくフォントが砕ける。スタート。先頭を行くのは――遊吾。

 

 会場がざわめく。嘘だろ!? キングが先いかれた!? 天王子もあせる。まさか自分がスタートで出遅れるなんてッ!?

 

 天王子のマシンは、旋回力が高い代わりに加速や最高速度が低いというもの。遊吾が過去に響とやったことのあるレースゲームのスタートダッシュを試してみたに過ぎないのだが、どうやら度肝を抜いてしまったらしい。

 

 だが、そこはキング。コーナーに入る頃には彼のすぐ後ろにくっつき、コーナーを出るときに――抜いた。素晴らしいライディングテクニックに歓声が上がる。しかし、天王子、キングは油断しない。否油断することができない。

 

 喉元にぴったりと刃物を突き付けられているような感覚。素人らしく多少カーブでもたつくものの、それ以外のものはプロ、いやそれ以上のテクニック。コーナリングが苦手なじゃじゃ馬を見事に乗りこなしていた。

 

 当然だ。彼のDホイールは元々普通のDホイールよりも大型且つ大出力。この程度のじゃじゃ馬なんて乗り慣れている。そして、疾走決闘はその性質上あらゆる場所を走れなければならない。ならば、この程度のゲームを乗りこなせずして疾走決闘者を名乗れるだろうか? いや、名乗れるはずがない。

 

 とはいえ、そこはゲーム。その道のプロとの戦いである以上厳しいのも事実。ワンショット・ランである以上、彼はこの一瞬一秒にすべてを費やさなければならない。彼に今できる全開の限界バトル。

 

 

――こいつ、コーナーが怖くないのか!? 馬鹿げてやがる!?

 

 

 コーナーへの侵入速度はおろか、車体の倒しかたといい、頭のネジが一二本吹っ飛んでるのではないかと思わせるような動き。キングの後ろにピッタリと車体を寄せる彼。背後からのプレッシャーに焦る。

 

 普段のキングならばしないだろう。だが、素人という先入観が彼に冷静な判断力を失わせていた。

 

 だが、レースは既に終盤。最終コーナーを飛び出す二台。先行はキング、すぐ後ろを遊吾。

 

 

『ここでキングがブロックに入る! 挑戦者抜けられない!』

 

 

 実況に熱が入る。この1-3は最後の直線が長い。つまり、ここで抑えきれなかったらキングの敗けだ。それを知っているからキングは必死に彼をブロックしようと動く。その焦りが勝敗を分けた。

 

 彼が右へ動く。合わせるようにしてキングが右を塞ごうとして――瞬間、キングの横を風が通り抜ける。

 

 

『ぬいたぁああああ!?』

 

 

 カウンター。キングのブロックを誘発させ、反対を貫く。ニトロ起動。スピードメーターが一気に300を越え――フラッグが振られる。

 

 

『2PWIN!』

 

 

 画面にでかでかと出てくるフォント。コンマ五秒、それが彼とキングの勝敗を分けた。

 

 彼がふぅ、と息を吐くとバイクから降りてキングのもとへ。手を差し出した。

 

 

「ありがとうございました。いいレースでした!」

「あ、ああ。…君は本当に初めてなのか?」

「いや、実物でブイブイ言わせてますんで」

 

 

 握手を交わすと、彼は迷わず側で固まっていた店員に声をかけた。何やら一言二言話すとそのまま何処かへと向かう。

 

 このあと、天王子は更なる飛躍を遂げることとなる。また、この対戦、そしてシューティングゲームを行っている動画がネットの動画サイトで百万再生を達成し、一時期ネット界隈を騒がせることになることを二人は知らない。

 

 ちなみに、彼が使ったマシンは後に「最高のサティスファクションを貴方に」というキャッチコピーで現実でも売り出されることとなるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

※※※※※※※※※※※

 

 

 

「っはー! 楽しんだ楽しんだ!!」

 

 

 夕焼けの空。あれからゲームセンターを出た二人は町をぶらぶらと歩きながら、二課の皆への賄賂と言う名のお土産を買ったり、食べ歩きをしてみたら、クリスが結構食べ方が汚ないことが発覚し、口元拭ったり拭われたりしてみたり、どこかで聞いたことのある声の謎の占い師に占われて、なぜかこれが貴方を助けるわとか言われて、超電磁タートルという、バトルフェイズを強制的に終了させるカードもらったり。

 

 そんな二人が最後に立ち寄ったのは、海の見える公園。

 

 

「どうだったよ、クリスは」

 

 

 なぜ彼が、怒られるどころか下手をすれば懲罰房行きなことをしているのか何となく察していたクリスであったが、楽しげに笑う彼を見て、今言うのはそこじゃないよな、と考え直す。

 

 

「まあまあ、だな。次は、もっと女に受けそうな所行けよ?」

 

 

 次の機会は無いだろうしな。そういうクリスに遊吾は顎に手を当てて考える。

 

 

「なるほど、じゃあ次は海馬ランドみたいなアミューズメント施設に行った方が良いか」

「その、海馬ランドがわかんねえけど、遊園地みたいなところだよ」

「分かった。じゃあ今度行こうぜ?」

「ああ――え?」

「え?」

 

 

 自然に返事を返したのだが、どうやら自分達の間で認識の違いがあるらしい。困惑する両名であったが、遊吾が尋ねた。

 

 

「え? いや、次いくときにそういうとこに行きたいって話じゃないのか?」

「あたしは行きたいなんて一言も言ってねえよ!?」

 

 

 当たり前のように次があると言われて、嬉しいと言う気持ちで溢れる。だが、それを素直に認めるのも何だか癪だったのでわざとツンケンな言い方をしてしまうクリス。

 

 だが、クリスの態度に気を悪くすることなく、彼は笑顔で言う。

 

 

「じゃあ、今度また二人でいこうぜ!」

 

 

 無邪気に笑う遊吾に、クリスもついに折れて、照れ臭そうに、…分かったよ、とぼそりと呟いた。

 

 さて、じゃあそろそろ戻りますか。そういって歩き出そうとした遊吾だったが、なにか思い出したらしくクリスの方へ向き直ると、先ほどから手に持っていたゲームセンターの袋をクリスに手渡した。

 

 

「? 何だこれ」

「開けてみな」

 

 

 そう言われて袋を開けたクリスが中身を見て目を見開いた。

 

 袋の中に入っていたのは、マスコットと言うには少々大きな白兎のぬいぐるみのマスコット。それは、クリスがUFOキャッチャーで欲しかったもの。これ、どうして? UFOキャッチャーをしている暇はなかったはずだ。

 

 

「ああ、あのキングとの勝負に勝ったら景品くれって頼んだら、本当にくれてな」

「…………」

 

 

 紙袋をギュッと握りしめるクリス。嬉しさが溢れ出す、どれだけ意識しても顔が自然と緩む。顔を伏せてしまうクリスに、彼は笑顔で手を差し出した。

 

 

「さ、帰ろうぜ」

「うん………ありがと」

「………あいよ」

 

 

 優しく手を握り合い、二人は本部に向かって歩き出すのであった。

 

 

 

『Nより本部ッ! 遊吾君の優しさに涙が溢れて止まりません!!』

『これが、イケメンと言うやつかッ』

『遊吾君、男だッ!!』

「あのー、師匠たちなにやってるんですか?」

「皆気にしないで。下らないことだから」

 

 

 

「なあ、フィー、じゃなくて、了子……」

「……何かしら?」

「あ、えっと、な、なあっ! 男と一緒に遊びにいくのってどうすれば良いか!?」

「ふえ!?」

 

 

 このあと、クリスとフィーネは何やらよく話す仲となったようだ。ちなみに、どんな会話が行われていたかは、二人だけの秘密である。

 

 ただ、この日からクリスが出掛けるたび、白兎のマスコットが必ずどこかに付いているらしい。




ウコウトノゴイサ二キテジチイガレコクラソオ、メタノソ、デノスマリアロイロイウョシウョシヤンカジノジーャチ。スマリアガンカジノジーャチクラバシ、ニメタルスクゾンマ
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