遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~ 作:特撮仮面
彼がF.I.S.と合流してからしばらく後。今では一定の信用を得た遊吾であったが、数日間は研究者たちに親の敵のように睨まれた。
当然だ。あんな脅迫紛いのことをして信用されるはずがない。が、反対にレセプターチルドレンとして研究所に入れられた子供たちからは大人気であった。それも当然だろう。娯楽のない研究所にデュエルモンスターズや日本の遊びなどを持ち込み、共に遊ぶのだから。
しかし、彼も遊んでいるばかりではない。マリアを現場に送迎したり、マリアの愚痴を聞いたり、調と究極の料理を目指してクッキングデュエルをしたり、切歌と一緒に決闘したりと何だかんだで忙しい日常を送っていた。
さて、そんな日常を送る彼であったが、彼には最近一つの悩みがあった。
偏食、という言葉を知っているだろうか? 好き嫌いが激しく、特定の食品だけを食べることを指す言葉なのだが、この偏食と言うものが厄介であった。
今から数日前のこと。その日彼は、F.I.S.の研究者や計画の関係者との交流を深めるという名目で会食のようなイベントに参加していた――のだが。
菓子ばかり食べる博士、肉ばかり食べる教授、怪しげなエナジー飲料ばかり飲む所長、青虫の如く緑黄色野菜ばかり食べる黒髪、偏食とまでいかなくとも好き嫌いの激しい金髪、そして、特に好き嫌いもなく、嬉々として高級料理を次々、しかしバランスよく食べながら各偏食家たちに嫌いな物を食べさせようとする歌姫。
彼は決意した。
会食から二日後、遊吾はコートを脱ぎ捨て、満足ジャケットに袖を通しながらレックスに声をかけた。
「日本に帰るから準備してくれないか?」
これを聞いたレックスは焦った。と言うかレックスと話をしていたマリアが困惑の内に涙目になっていたと言うか半ば泣きそうだった。
最近マリア涙腺緩くね!? とあやしながら、遊吾は日本に一度戻る目的を説明した。
ようは、食材や機材集めである。アメリカで材料を集めてもいいが、アメリカ慣れしていない自分ではアメリカの材料で美味しい料理を作ることは難しいと考えたのだ。
やはり手に、舌に馴染んだ物を使用したい。そんな思いで彼はレックスに交渉を行う。
「この広い地球の、小さな研究所。計画遂行のその日まで俺たちはここから出ていくことはできねえ。だからここで満足するしかねぇ」
「だが、食事に関しては別だ。この研究所には立派に満足できる調理場が存在しているのに、なんだあの全く使用されていない綺麗なままの調理場は。聞こえてこないのか? 調理場の不満足な声が…」
「一体何を言っているんだ…」
「そして何よりもお前たちの偏食ッ!! レックス・ゴルドウィンッ!! 何だあの食事はッ!! 食事をなめているのかッッ!!」
「し、食事? あ、ああ、これのことかい?」
レックスが机の引き出しから取り出したのは、一日分の栄養素がとれると有名なエナジーバー。そして彼は言った。言ってしまった。
「これ一本で一日分の栄養素が確保できるんだ。様々な味があるし、私はこれで満足しているんだよ」
「……満足、だと?」
「え? あ、うん」
遊吾の気迫に思わず顔をひきつらせながら彼が頷く――満足が、弾けた。
「その程度で満足されてたまるかッッ!!」
「なっ!?」
立ち、腕を振るってレックスの満足を否定するその姿は、誇り高き満足の王子そのもの。
満足の王とは鬼柳京介、満足の神は地縛神コカパクアプを指す。
「食事とは、人間が満足するための重要な要素の一つだ。わかるか? 睡眠欲、性欲、食欲、この三つの欲求が満たされて初めて人は満足を知るんだ。それから人は更なる満足を求め、時に涙を流し、時に怒りに震え、そして満足した笑顔に辿り着くんだ。つまり、食事とは食欲に通じる人が満足を感じる重要なようその一つであり、食事で満足するということは満足するということなんだッ! そして、食事というものには常に作った人の、満足してほしいというその人の満足が籠っているんだッ!! すなわちッ! 食事とは人が満足するために必要な満足ということなんだよッ!! 満足にご飯が食べられる、それがどれだけ素晴らしく満足できることか考えてみろッ!! お前はそれで良いのかッ! 本当にそれで満足かッ!!」
「え、いや、まあ、でも面倒臭いし…」
「その程度の理由で満足されてたまるかッ!! お前らマリアを見習ったらどうだ! しっかりとバランスよく食べてんだぞ! 切歌だって野菜が嫌いなのに頑張るデス! って頑張ってるんだぞ!! 分かるか? 俺思わず泣いたんだぞ? それなのにお前たちはどうだッ!! 好きなもの、しかも身体が満足しなさそうなものばかり食べやがってッ!! こうなったら俺がF.I.S.の食事事情にレヴォリューショナル・エアレイドを極めて満足するしかねぇッ!!」
「レヴォリューショナル・エアレイドってなんだい!?」
「ああ! それって革命の翼?」
「真面目に答えなさいよユーゴ…」
マリアに後頭部を叩かれて、ははは、と笑いながら彼が言う。
「まあ、兎に角日本に行きたいんだよ。ビッキーたちに会いたいとかじゃなくて」
「…良いよ。メサイアの起動実験を手伝ってもらったこともあるし、許可してあげよう…。でも、」
「でも?」
「マリア、切歌、調を連れていってほしいんだ。監視と、これから君たちにはチームを組んでもらう必要があるからね」
「あー、そうか…ま良いぜ。じゃあそういうことでさっさと行くか!」
「え? ちょっと遊吾!? というか所長も!?」
こうして、あれよあれよの内に彼と彼女たちは日本に行くことになったのであった。
そして今、遊吾・アトラスとマリア・カデンツァヴナ・イヴ、暁切歌、調は日本の某都市に来ていた。
その某都市とは、彼が初めてこの世界に降り立った場所。そして何より、大切な彼女たちと出会った場所。
なぜ彼らがこんなところに居るのかというと、流石に三日も同じ土地を観光していたら飽きてしまうのである。
とは言え、リディアン音楽院の方にいけば流石に響達とばったり出会う可能性があるためそっち方面の発展した土地に行くのは避けなければならないので、彼のススメもあってこうして四人はこの地方都市へと来ることとなったのだ。
太陽の光を浴びて輝く穏やかな流れの川、その傍の道をゆっくりと四人は歩く。
「はぁ、こうしてると月が落ちてきてるなんて思わねえよなぁ」
穏やかな陽気に思わずそう呟いた彼の横腹をマリアが思い切りド突く。こんな誰が聞いているとも知れない場所でそんなことを言うなということだろう。わりぃわりぃと苦笑していると、後ろから切歌が彼に声をかけた。
「あの、これどこに向かってるんデスか?」
「…あー、何も考えてねぇ。とりあえずアーケード街に行く予定だ」
「行き当たりばったりデス!?」
「切ちゃん、遊吾さんは残念な人なんだよ? だから期待しちゃダメ」
「おいこら、誰が残念だこら」
切歌の後ろから諭すように言う調に、少しイラッときて少し気炎を上げながら尋ねる遊吾。しかし、そんな彼などどこ吹く風と、いつものように何を考えているか分からない無表情のままに彼女は続ける。
「だって、無計画です」
「ごふっ!?」
「女の子のエスコートもできないとか、男としてどうかと思います」
「がはっ!?」
「調、もういいわよ!? ユーゴ血を吐いてるから!?」
思わず道に膝から崩れ落ちる遊吾。いかに精神がダイヤモンドのようにとてつもなく硬くても、少女の冷たい目とそんな視線と共に放たれる抉り込むような言葉は予想以上のダメージを彼に与えていた。
「う、うぐぐ。兎に角、アーケード街に行くぞ!」
「お、おー、デス!!」
切歌のさりげないフォローに思わず涙を流しそうになりながら彼は立ち上がるとアーケード街に向かって歩き出した。そんな彼を見てふふふ、と笑う調。少し前から、何かと彼をからかうことを楽しみとしているそんな調の様子を見て、色々変わったなぁと、妹とも言える少女の成長? に思わず苦笑しつつ、マリアたちも二人の背中を追って歩き出すのであった。
場面は変わり、アーケード街。半円形の屋根に覆われ、スーパーや様々な店が立ち並ぶ風景。数年前まで彼が見慣れていた風景であるが、ノイズになったりアメリカに行ったりと色々やっているとまるで遠い故郷に帰ってきたような気分になる。
マリアたちもこういった風景は珍しいらしく、興味深そうにキョロキョロと辺りを見回していた。
さて、そんな一行であったが現在一つの店舗の前で待ちぼうけをくらっていた。
「遊吾、遅いのデース」
「まったく、すぐに来るって言ったのに…」
「……」
F.I.S.三人娘は、そう愚痴を零しながら自分たちの横にある看板に目を向ける。
『九十九音楽店』そう書かれた看板。ここはどうやら楽器やCDなどジャンルを問わず置いている音楽関係の老舗専門店らしい。看板には小さく創業昭和八年と書かれている。
三人してため息を吐いていると、店の奥から彼の声。どうやら買い物が終わったらしい。ようやく終わったのか、と苦笑しながらマリアが彼を迎える。
「遅かったじゃない」
「ああ、久しぶりにあったからさ。ついつい話が弾んじまって」
これ、九十九のおっちゃんから、と彼女たちに缶ジュースのサイダーを手渡す遊吾。手渡しながら、女の子を店先に置いとくとか、お前は馬鹿だと思いっきり怒られたと苦笑する。そんな彼に、本当デス、とご立腹な切歌と調。
と、マリアは彼が手に下げた紙袋に気づいた。どうやらこの店で何か買っていたらしい。
「何が入ってるの?」
「ん? ああ、これだよ」
彼が紙袋を漁って取り出したのは、二枚のCD。どちらも新作のようだ。
一枚は日本、いや世界で人気爆発中のアーティスト、風鳴翼のもの、もう一つは解散したツヴァイウィングの記念CDのようだ。
いやー、新作残ってて助かったぜ。そう言って笑う遊吾。
なるほど、彼はこのツヴァイウィングの、風鳴翼のファンらしい。マリアが問う、CD幾つ持っているの? と。彼が答える。今まで出てる奴は全部買ってる、と。
「そう…」
「どうしたマリア、ちょっとむくれてね?」
「そんなことないわ」
「いや、そんなことあるっての。何でそんなに不機嫌になってんだよ」
「知らない!」
「え? ちょ、マリア!?」
歩き出そうとするマリア。やっぱ待たせすぎたか!? 兎に角謝って話をしなければ、そう考えて彼がマリアを止めようとしたところ、逆に彼に声がかかった。
「遊吾くん?」
「…あ、ママさん!?」
彼が振り返った先に居たのは、口元に優しげな笑みをたたえた女性。橙色の髪の毛、そして優しく暖かい光を湛える瞳。立花響を大きくしておしとやかにしたらこうなる、と言ったふうな女性。彼女の名前は立花晴香。立花響の実の母であり、彼にとっても馴染み深い人物である。
彼は思った。警戒するのはビッキーたちとの会合だけじゃないじゃん、と。
※※※※※※※
懐かしいな。彼は思った。現在彼が立っているのは、この町の住宅街にある立花家。
数年前は死ねだの消えろ殺人者だのとヒドイ張り紙が張られ放題で、何かとゴミや石を投げ込まれていたものだが現在はそんなことは少ししか無くなっているらしく、張り紙が数枚貼られているだけで済んでいるようだ。見たところ玄関や二階などの窓に傷は無いし、壁も塗り替えたのだろう、綺麗なものだ。
ふむ、彼は迷うことなく張り紙を剥がし、その筆跡を確認する。
見たことがない字だ。となると大方どっかから引っ越してきた馬鹿がまたいちゃもんをつけてきているのだろう。これは帰国する前にしっかりと制圧しておかなければいけないな…。張り紙を懐にしまいながら内心物騒なことを考えていると、そんな彼の姿を見た晴香が声をかけた。
「大丈夫よ。もう何もしてこないから」
「は? いや、これやられてたんじゃ…」
「それワザと剥がさないでいたの」
彼女が言う。これは戒めなのだと。
この町で起こった迫害は決して表に出ることは無い。だが、この町に生きる人々は二度と忘れないだろうと。自分たちも忘れないし、彼らも忘れないようにするための処置である、私たちは忘れないし、赦さない、と。
これが貼られたのは数日前のことであったが、貼ったその日のうちに犯人はバレた。最近引っ越してきた若い夫婦だという。その人達も初犯だけでそれ以降は全く何もしてこないらしい。
何やら色々とあったらしいのだが、とりあえず彼がマインドクラッシュしたりした影響はしっかりと出ているらしい。晴香の様子も昔と比べたら健康的なこともあって、とりあえず問題は無いのだろうと納得すると彼はなら良いんですけど、と気を抑える。
「あ、そうだ。洸さん帰ってきてるのよ?」
「マジで!?」
彼女の言葉に驚きで目を見張る遊吾。
立花 洸、立花響の実の父親であり、同時に彼にとっても馴染み深い人物であるが、数年前に失踪して以来行方が分からなくなっていた人物。
彼はどうしたのだろうか? もしかして家に居るのか? 心なしか喜びで弾む遊吾の表情を見てクスクスと笑いながら晴香は残念、という。
「洸さん、居ないわよ?」
「え? でも今――」
「帰ってきてる、っていってもこの町限定。今どこに居るかも分からないし」
え、それってどういうことなんだ? 思わず首を傾げた彼に、晴香は笑いながら言った。
「その貼り紙が貼られた日の夜にね、お母さんと私の前に、一台のバイクが止まったの」
「そこにパパさん乗ってたって?」
「いいえ。そこに居たのは、ライダースーツを着て、目元をサングラスで隠した男の人。でも、声とかでバレバレなのよ…」
心底可笑しいと言わんばかりに笑う晴香。
そっか、パパさん生きてんのか。嬉しくて自分も思わず口元を緩めてしまう遊吾。彼にとって立花 洸と言う男は、おっちゃんこと風鳴響一郎を除けば彼がこの世界で一番関係を持っていた大人だ。段ボールハウスにやってきた彼の凄まじい様子を知っている彼からすれば、自殺することなく今まで生きていることが知れてとても嬉しい。
「そのバイクの形状ってどんなのだったんだ?」
だから彼は、立花 洸ではないかとされる人物の特徴を彼女から聞きだそうとした。
これからしばらくすれば自分はアメリカに戻ってしまうが、どんな出で立ちをしていたかが分かれば彼を探すことも不可能ではないと考えたからである。そんな彼の言葉を聞いて、晴香はうーん、と顎に手を当てて唸り始めるが直ぐに特徴を思いだしたのか、彼に伝える。
「洸さんの乗ってたバイクは、なんていうんだろう? 修正テープみたいな形状してて、後輪に大きい二本の並列タイヤがあって虹色のエンジンがあるの」
「え? ちょ、え?」
彼が思わず困惑する。その形状はなんだ? そんな形状の物を彼は良く知っている。その条件の物がどんなものか彼は容易に想像がついてしまう。
「あと、何やら妙に声を作って、私のことは謎のDホイーラーAとでも呼んでほしい、とか言ってどっか行っちゃったのよ」
ほんと、良い歳してヒーローごっことかどうなのかしらね、と笑う彼女に対して、彼は思わず笑みを引きつらせながら心の中で叫んだ。
――洸さんあんた何やってんの!?
くっ、何か最近ネタに走れない話が続いている…。プロット通りのはずなのに何かが違う…。くっ、Gに入ってからノイズ単体だけじゃなく人を動かそうとするから大変だぜ。