遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~   作:特撮仮面

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彼と彼と食事が満足

「良かったの? あの人のこと」

 

 

 F.I.S.が所有する飛行機に乗った四人は、思い思いにくつろいでいた。

 

 遊吾は広い空間を利用してデッキを弄り、切歌と調は遊び疲れたらしく手を繋いで二人とも眠っていた。そんな二人を見て、微笑みながら薄い毛布をかけてあげたマリアは、罠カードを二つもって悩んでいる彼にそう問いかけた。

 

 彼の立花響自宅訪問の際、三人もお邪魔させてもらっていたのだが、その時から気になっていたことがあるのだ。

 

 彼が回収した張り紙にかかれていた文字、そして二人の言葉。インターネットで軽く検索をかければ、あの立花一家に起こった惨劇は想像するに容易い。それに、彼があの晴香という女性と話しているときの様子はとても嬉しそうに見えた。

 

 それに、あの貼り紙の内容を見るに彼がいた方がいいのではないか。だが、そんな彼女に彼は笑って言った。

 

 

「良いんだよ。俺がいなくても」

 

 

 ママさんは強いし、何よりあの町には謎のDホイーラーが居るからな。笑う彼を見て、彼女は首をかしげるのであった。

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

「久しぶりだね、遊吾君」

「やっぱ洸さんだったか」

 

 

 細長い車体と、それを支える一本の巨大な車輪。加速することのみを追求されて作られたDホイール、イーグルシリーズだ。

 

 Dホイールの中でも群を抜いて奇抜なそのデザインは、一部からは修正テープと呼ばれることすらある代物。だが、その実態は修正テープなどと揶揄できるような生易しいものではない。

 

 加速力と最高速度のみを追求した空力デザイン。遊吾のDホイールなど目ではない加速力とじゃじゃ馬っぷり。前輪が無いことでまともな人間ではカーブを曲がることは愚か、まず発進させることすら許されないとんでもマシン。日本が誇る最高峰のDホイールメーカー『如月インダストリアル』が開発した、パーツ全てが職人の手で作られ、一年に一、二台しか開発されないとされる幻のDホイール。

 

 

「遊吾君、君があの遊戯王の世界の住人――いや、主人公とは思ってもみなかったよ」

「遊戯王? 主人公? どういうこった?」

 

 

 突然何の話だ? 思わず首を傾げた遊吾に、洸が語り始める。

 

 

「遊戯王って言うのは、デュエルモンスターズのこっちでの呼び方だよ。俺の爺さん、いや曾爺さんくらいの世代で流行ったトレーディングカードゲームさ。漫画やアニメなんかもあってさ」

「…なるほど、そういうことか」

 

 

 それだけで彼は大体理解した。今は全くそんなことを思わないが、この世界は自分の元居た世界から見たら、戦姫絶唱シンフォギアと言うアニメや漫画と瓜二つの世界であったように、この世界から見て自分たちの世界はアニメや漫画などで描かれていたということだろう。

 

 普通、自分が生きてきた世界が漫画の世界と言われれば驚くようなものだが、遊吾だってこの、シンフォギアと言う名前のアニメの世界みたいなものに来ているし、それよりも、カード一枚から世界が創造されたと言われる世界から、カード一枚で世界が滅ぶことが多々ある世界からやってきたのだ。今更その程度の事態で驚くほど彼は非現実的な状況に慣れていないわけではなかった。

 

 

「…君もお父さんと同じ反応をするんだね」

「おとう――って、ジャックか!? 洸さんジャックに会ったのかよ!?」

「いやぁ、拾ってもらったのがジャックさんなんだよ」

 

 

 彼が語る。

 

 遊吾と別れてから暫く、洸は各地でアルバイトをしながら放浪していたらしい。一か所に留まろうにも他者の視線が気になったから。もしも自分が立花家の人間だとバレたら、何より、もしも自分のことを家族が探していたら。そんなことを考えていつもいつも逃げて逃げて逃げ続ける日々。

 

 そんなことを続けていたある日、突然彼の胸元が熱くなったらしい。何事か、大慌てで熱くなった場所に触ってみれば、そこにあったのは子供のころからずっと学生証入れ――今では運転免許所と共に免許入れに入れている――彼が祖父から貰ったとあるお守りが光り輝いていたのだという。

 

 そして、その光が輝きを増して彼の視界を白で塗り潰したとき、彼は何処とも知れぬ森の中に立っていたらしい。そして彼は出会ったのだ。人型のイルカと。

 

 

「人型のイルカ――って、ネオスペーシアンか!?」

「そう、N・アクアドルフィンだよ」

 

 

 N・アクアドルフィン。青と肌色のコントラストの眩しい、鋼の戦士の如き肉体に、つぶらな瞳のイルカの頭、そして見た目にそぐわぬとても爽やかな声で話す謎の宇宙人。またの名を、ドルフィーナ星人。

 

 デュエルモンスターズにおいて、伝説の決闘者の一人である遊城十代の使用していた、E・HERO、その中でもE・HEROネオスと言うモンスターを中核とした特殊な融合方法、コンタクト融合を駆使して戦うデッキに入って居たとされるカード。

 

 遊吾の時代にはある程度の量産化がされていたが、それでもその奇抜な見た目から、やれキモイルカだのとネタにされるそのモンスター。

 

 一度自分も出会って話すことがあったから良く分かるあのシュールな容姿とそんなシュールな姿から放たれるとても真剣かつ熱い言葉の数々。彼から教えてもらった、ワクワクと言う感情は今でも彼の胸に熱く灯っているが、アレと出会ったと言われてしまうと、思わず表情を引きつらせてしまうしかない。

 

 

「って、ネオスペーシアンからどうやってシティに行ったんだよ…」

 

 

 確か外宇宙だか何だかだろ? 首をかしげていると、サングラス越しでも分かる自慢げな表情で謎のDホイーラーAこと立花洸は答えた。

 

 

「空間を融合してもらったのさ!!」

「…超融合とか言うなよ?」

「違うよ。ネオスペースの空間を君の居たシティに繋げてもらったのさ」

 

 

 ネオスペーシアンたちは独自に宇宙空間を自由に移動する手段を保有しているだけではなく、インスタントネオスペースなど、自分たちの力でネオスペースと別の空間を繋げる能力を持っていることを思い出した彼は、なるほどなと納得する。

 

 大方洸が歩んできた道筋は理解できた。ネオスペースでネオスペーシアンに鍛えてもらった彼は、彼らの協力を得て地球のネオ・シティに向かった。

 

 そして、ネオ・シティで自分に縁のある、というか義理の父親であるジャック・アトラスと出会い、彼にDホイールの手ほどきを受けてこの世界に帰ってきたと言ったところか。だが、そうなると折角帰ってきたのに何で晴香さんたちに会わないんだ? 遊吾が首を傾げながら尋ねると、今までのDホイーラーとしての雰囲気は何処へやら。立花洸の素が出てきてしまったらしく、どこか慌てながら彼は言った。

 

 

「い、いや、その、ちょっと後ろめたいというか何というか……」

「…いや、折角戻ってきたんだから行けよ」

「無理だよ!? 電柱の影から家の様子を伺うだけ精いっぱいさ!!」

「ドルフィーナ星人や親父と会って何を学んで来たんだ洸さんは!?」

「ワクワクを思いだす――はずが無いじゃないか!? 無茶だよ遊吾君!!」

 

 

 今の俺は会いに行けない――などと騒ぐ彼に、遊吾は思わず額に青筋を浮かべる。ここで逃げようとするか…。

 

 彼は迷わずDホイールを呼び出す。何てことはない。疾走決闘者が二人相対しているのだ。ならばやることは一つ。

 

 素早くDホイールに乗り込んだ彼は、慣れた手つきでDホイールを操作。仮想立体映像装置が作動、町を光が覆っていく。

 

 スピードワールドネクスト、セットオン。デュエルモード、マニュアルパイロットモード、スタンバイ。

 

 

「おい、決闘しろよ」

「これじゃあ断るに断れないじゃないか…」

 

 

 空気の読める仮想立体映像。本来三秒のところが、わざわざカウントが十秒からスタートする。

 

 

「俺が勝ったら嫁さんのところに戻るんだな」

「え、マジで? 断りたいんだけど」

 

 

 10、9、8、7……

 

 

「というかこれ俺にメリットが全然ないんだけど…」

「いや、ある」

「嘘だぁ。だって俺が勝っても全然――」

「決闘者辞めてやる」

「え?」

 

 

 3、2、1――

 

 

「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」

「ちょっ、遊吾君それはどういう――」

「俺のDホイールに初っ端負けるなんざ、てめぇのアサルトイーグルが泣くぜ!!」

「くっ」

 

 

 アラームと共に猛烈なスタートダッシュを切る遊吾。動揺のせいで出遅れた洸はそのまま先攻を遊吾に渡すこととなる。

 

 圧倒的速度で先を行く遊吾の背中を見ながら、洸は考える。決闘者を辞めるということがどういうことか。そこまでして何になる? 自分のような弱者に彼は何を語ろうとしているんだ? 家族の前にも顔を出せないヘタレで屑の親である自分が、自分に何をさせようというんだ。

 

 彼は気づけない。彼があの世界で語り合ったこの世界に帰ってきた理由が思い出せないから。だから彼のお守りであり切り札であるカードは決して応えない。故に――

 

 

「うわぁあああ!?」

 

 

 決着は早かった。疾走決闘が始まってものの数分。ターンにして六、七ターンほどでの決着。終始遊吾・アトラスが圧倒し、立花洸は只々翻弄されるだけであった。

 

 停車した彼の元に遊吾が近づく。そして言った。約束は無理に果たさなくてもいい、と。

 

 どういうことだ? それじゃあ決闘をした意味が無いじゃないか!? なんて無駄なことを、思わず言った洸に、彼は苦笑しながら言った。

 

 

「決闘にはその人物の全てが表れる。今の洸さんのことは分かったよ。だから、無理に会いに行かなくてもいいさ」

 

 

 でも、どうか親父が、ドルフィーナ星人が語ったことを、何故自分が決闘者になったのかを思い出してほしい。彼はそれだけを言ってDホイールを駆り去っていった。

 

 時間は既に深夜。マリアたちに無断で外出してきているので、急いで帰らなければならなかった。町を歩くので疲れたのか、皆が寝静まるのが早かったのでこっそり抜け出してきたのだが、自分が居ないことが分かったら皆が心配してしまう。

 

 ちらりと後ろを伺えば、茫然と手元を見つめる洸の姿。

 

 彼にとって立花洸という男は決して見捨てて良い人間ではない。彼はある意味二人目の父親のような、そんな存在なのだ。しかし、だからこそ彼と決闘を行って良く分かった。

 

 遊吾・アトラスが異世界に来ても変わらないように、立花洸もまた変わらないのだ。

 

 とは言え、遊吾の場合はレッド・デーモンとの決闘やおっちゃん、響、未来との出会い、そしてツヴァイウィング、風鳴司令、クリス、フィーネと多くの人々と出会ってきたことで少しずつ変化していっている。それは彼の目的が強くなることであると同時に、誰かと共に在ろうとするから。

 

 だが、今の立花洸にはそれが無い。きっと彼が本当に望み、掴んだ理由がある筈なのに、異世界からこちらに戻る、戻ってきたと言う現実と、彼が決闘の時にかけるサングラスが、彼の目をくすませてしまっているのだ。つまり、彼がサングラスを脱ぎ、自らと向き合ったとき初めて、彼は家族と真正面から向き合うことが出来るのだろう。が、それは遊吾が決闘を通して向き合ってもできないことだ。これは彼が彼自身で気づかなければならない。故に彼は約束に逃げ道を用意し、何も言わずに去ることとしたのだ。

 

 彼が家族と向き合う機会がどうか早く訪れてほしい。遊吾はそう願う。

 

 夜遅くまで人助けをして泥だらけになった響と、それに付き合った自分。玄関先でウロウロしていたが、自分たちを見つけて涙を浮かべながら駆け寄り、抱きしめる洸。そして、そんな三人を見て微笑みながらも、自分たちのことを思って叱ってくれる晴香とその母である雅。

 

 今でも思いだせる、ある梅雨時期の出来事。傘を忘れたせいで、雨の中濡れ鼠のようになりながら二人で頑張った。その結果至る所が泥だらけだったが、彼らと同じように、洸もまた全身濡れ鼠、明日も会社があるだろうに、カッターシャツは泥に濡れ、息も絶え絶えだった。

 

 あの熱を覚えている。抱きしめられたときの彼女の泣きそうな顔も、怒られた時の嬉しそうな顔も全部覚えている。

 

 あんな暖かい表情を湧きださせるのは、自分では不可能だ。彼女が心の底から本心を出し、笑うことが出来るのは、未来と、そして家族の前だけ。

 

 

「響が待ってるんだ。早く帰ってやってくれよ、洸さん――」

 

 

 応えないデッキ。逃げることしか出来ない自分。決闘者としての自分、夢を追う自分。夢とは何だ? なぜ自分は――

 

 

「俺は……僕は――ッ!!」

 

 

 そして、彼と同じように彼もまたDホイールを駆る。電灯の微かな明かりの中、彼は薄暗い路地へと消えた。

 

 

 

※※※※※※※

 

 

 

 

 そんな謎のDホイーラーとの会合からまた暫く時間が過ぎた。

 

 彼は今、厨房に立っている。彼の隣には――切歌の姿。

 

 

「さあ切歌、準備は良いか!!」

「オーケーデス!!」

 

 

 二人ともテンションが高い。

 

 F.I.S組の中でも比較的常識人な切歌であるが、自然体が比較的テンションが高く、彼女もまた他のF.I.S組と同じく学校に行ったことが無いので結構独特な感覚、自分を持っており、そのせいか元々この世界の人間とは全く波長が違う遊吾と中々に波長があってしまうのだ。

 

 遊吾も遊吾で同じようなフィールを持つ切歌は歓迎すべき存在であり、そんな二人がついつい悪乗りしてしまうせいで、マリアからは「…遊吾は切歌の兄か何かなの?」とか、調からは「切ちゃんはあげませんッ!!」とか言われたりしている。

 

 さて、何で彼らがこんなところに居るのかと言うと、今日の晩御飯づくりのためである。遊吾によるF.I.S食事情革命であったが、これが見事に成功。意図せずして、彼の料理は多くの研究員の胃袋をつかむことになったのである。

 

 食事、つまり兵糧さえ握ってしまえば、あとはこちらの思うがままである。毎日というわけではないが、今では仕事が暇なときはマリアが、そうでないときは調や切歌、時々レックスがこの厨房を利用して料理を作っている。

 

 意外なことに、レックスは料理ができる人間であった。その腕も中々のものではあるのだが、とりあえず鍛え抜かれた肉体を包むひよこのフェルトの張り付けられたピンク色のエプロンは何とかしてほしいものである。

 

 

「さあ、今日は金曜日だ。これがどういう意味か分かるか、切歌!!」

「はいデス! 今日は、カレーの日でーす!!」

「jesus!! と、言うわけでだ。今日は一緒にカレーを作るぞ!!」

「おー!!」

 

 

 装備確認! と彼が言うと、切歌がノリノリで答えていく。

 

 エプロンに三角巾。しっかりと熱湯処理された包丁とまな板など各種調理器具。灰汁抜きを済ませたジャガイモと人参と玉ねぎ。そして引っ張ってきたスパイスと、ルー、鍋。

 

 

「ちなみに、今日はどんなカレーを作るデスか?」

「んー、今日は具がゴロゴロしたカレーを作るぞ!」

「ゴロゴロ、ですか?」

「そう、ゴロゴロだ」

 

 

 決して転がってるわけじゃないぞ? と彼が言えば、べ、別にそんなこと考えてないデス!! と大慌てで否定する切歌。なるほど、考えてやがったか。相変わらずどこか変な所で抜けている少女に思わず笑いながら彼は説明を始める。

 

 

「さて、今回は自家製ルーを作ってカレーを作る!」

「ルーって作れるんデスか!?」

「ああ、結構簡単に出来るぞ? 香辛料何かは近場の店で購入できるしな」

「マジですか!?」

「ああ、で、まあこれからそのルーを作っていくわけだが――」

 

 

 そんなことを言いながら彼が調理台の戸棚から取り出したのは、濃い茶色の四角形の塊。カレールーだ。手作りの物らしく市販の物と比べると些か形がいびつではあるが、ルーを取り出した瞬間から香りだす香辛料の食欲を刺激する香りに、口内に唾液が分泌される。

 

 

「面倒なんで作ってた奴がこれだ」

「料理番組ですかこれは!?」

「いや、煎ったスパイスは寝かせると旨くなるからさ。今からじゃ遅ぇし。というわけで暫く寝かせたスパイスで作ったこのルーを使用する」

 

 

 そう言って彼はテキパキと作業を開始する。ルーは小分けに皿に移し、彼が取り出すのは皮の剥かれた玉ねぎ。

 

 

「さて、ここで玉ねぎの登場だ。今回はみじん切りにするぞ?」

「みじん切り、デス!」

「あ、聖遺物使うの無しな?」

「Zeios igalima――え?」

「え?」

 

 

 いや、確かにイガリマ回転させたら早いけどさ、それ料理に使えると思ってんの!? ハッ、盲点でした!? などとやり取りをしながら玉ねぎを切り始める二人。

 

 手慣れた手つきで玉ねぎを縦に二つ切り。端の硬い根っこの部分などをしっかりと斜めに刃を入れて切り落とし、まずは玉ねぎの流れに沿って刃を入れる。この時、玉ねぎが少し残る様に切っておくと後の作業が楽となる。

 

 切り口を入れたら、あとはそれを次々と切っていくだけだ。するとあら不思議。簡単にみじん切りが出来るじゃあありませんか。

 

 ちゃっちゃとみじん切りを終わらせた遊吾に対して、切歌の手つきはたどたどしい。普段家事などしないのだから当然とも言えるか。基本的に切歌は食べる、味見をする係で、料理の殆どはマリアや調、遊吾がこなしているのだから。

 

 彼女の見ていてハラハラする手つきを見て、彼はため息を吐きながら彼女の後ろに立ち、一声かけて彼女の手をとった。

 

 

「ほら、しっかり握れ。あと、叩き付けるんじゃなくて、包丁を使うときは押すようにして切ること。こっちの方が楽だぞ?」

「わ、本当デス!? まさか、遊吾は天才ですか!?」

「これくらい常識だっつーの」

 

 

 あと、玉ねぎが目に沁みたらいけないからあまり顔近づけんなよー。と注意をしながらゆっくりと玉ねぎを切っていく遊吾。なるほどデース。途中からは切歌が実践していく。ちなみに、カレーの玉ねぎは別にみじん切りにしなくても良かったりするのだが、それは好みの話なのでまた別だ。

 

 そうして玉ねぎを全てみじん切りにしたあとは、それをバターを炒めた鍋に投入。全力で炒めていくのだが、ここで注意するべきは、玉ねぎの色だ。

 

 野菜を焦すなんてことは、カレーを作る際に起こってはいけないことであるが、玉ねぎに関してはそうも言ってられない。玉ねぎをいかに炒めるか、それがカレーの良し悪しを左右する一つの要素だと彼は考えているからだ。

 

 火が通っていなければ不味いし、だからと言って下手に炒めたら焦げてしまう。だから彼は全てをかけて玉ねぎを炒める。

 

 

「切歌! 今のうちに炊飯器のスイッチ入れてくれ。あと、人参とかも炒めるのよろしく!」

「はいです! って、遊吾はその間どうするんですか?」

「玉ねぎを炒める」

「え? いや、だってそんなに時間かからないんじゃ…」

「あめ色に炒めた玉ねぎは、ルーにコクを与える。つまり、これは俺とカレーとの真っ向からの決闘!!」

「なるほど!!」

 

 

 きっとマリアが居たら「そんなわけあるか!!」とハリセンで彼の頭をひっぱたいていたところだろうが、今彼女は来たるライブに向けての最終調整の真っ最中。故に彼女はいない。調も今日は聖遺物に関する話があるらしく遠出しているので、この施設にはいない。

 

 故に、現在この施設は深刻なツッコミ不足だったりする。

 

 

「遊吾、人参切ったデス!」

「よし。よくやった」

「ってあれ? もう炒め終わったんデスか?」

「ああ。よく考えてみたら、切歌が居るのに何十分も玉ねぎ炒めるのも悪いと思ってな…。ちょっと王者の炎で加熱加速させた」

「うわ、凄いあめ色デス!?」

 

 

 凄いデス、ユーゴ!! ははは、そうだろう!! などと言いながら人参を炒め、玉ねぎを入れ、水を入れて煮詰めていく。肉もサッと火を通して投入。灰汁取りはしっかりと。

 

 

「灰汁を逃がすな! 捕まえろ!!」

「これで逃げられないデース!!」

 

 

 ローリエ、愛のターメリックなど、香辛料は様々な種類があるが、今回はあまり香辛料は使わず、ルーと調味のために用意した少々の塩、そしてすりおろしたリンゴで味を整えていく。

 

 特に塩は、様々な料理で活用場面があるため、実はカレーでも時々使用される。塩は味を引き締めるため、料理の自然な甘さを引き出すことが出来るのだ。ポテトサラダなど、味が薄いと感じたらほん少し塩を入れてみよう。そうすれば味がグッと引き出されるはずだ。

 

 そんなこんなで、ローリエって月桂樹って言うんだぞ、とか雑談しながら調理すること数十分。

 

 

「出来た!!」

「出来たデース!!」

 

 

 念願のカレーが完成するのであった。二人でいえーいとハイタッチを行う。

 

 

「皆美味しいって言ってくれますかねー?」

「大丈夫だろ。さっき味見したら美味かったぞ?」

 

 

 そう言って頭を軽く叩いてやれば、えへへ、と顔を緩ませる切歌。事実、炒めたニンジンや、カレーを煮込むところなど、所々焦げが出来てしまっていたが、それはまたご愛嬌。途中から切歌にやらせていたが、中々やるもんだな、と彼が感心していると、ふと視界に入るものがあった。

 

 それは炊飯器。だが、その炊飯器のボタンに――光は無かった。

 

 

「切歌。炊飯器のスイッチ押したか?」

「え? はい。予約ってところ押したですよ?」

 

 

 なるほど。予約を押したから大丈夫だと安心したわけか。初心者がやりやすいミス。自分も一度やったことがあるミスに思わずクスリと笑いながら、彼が説明する。

 

 

「予約ボタンだけじゃ、米は炊けないんだぞ?」

「な、何デスとぉおお!?」

「ま、カレーは再加熱しても良いし。とりあえず炊くか」

 

 

 ご、ごめんなさいデス。先程と打って変わってシュンとする切歌に、気にすんなって。誰でもあるミスだよ、と笑って言ってやる遊吾。

 

 この後、無事お米も炊き終えた二人は、マリアや調、マム達にこのカレーをふるまった。切歌がほとんどしたんだぞ、と自慢げに遊吾が話すと、マリアと調は驚いて彼女の顔を見、そして笑顔で美味しいと言うのであった。そんな反応が嬉しかったのか、照れ臭そうにハニカミながらカレーを頬張る切歌。

 

 毎週金曜日はカレーの日。今日もカレーは好評であった。

 

 

 

「ゆーごー、これ、何デスか?」

「あ? ああ、それナンだよ」

「え? だからこれ何デスか?」

「だからナンだよ」

「いやいや、だからこれがナンなんですかって聞いてるんデス!!」

「だから、これはナンだって言ってんだろ!?」

「いや、だからこれはナン――」

「二人ともいい加減にしなさい」

『はい、ごめんなさい』

 

「遊吾ー」

「ん? どうした切歌」

「今度、美味しいカレーを作ってあげるデス!!」

「へぇ、そりゃ楽しみだな。でも、俺はカレーには煩いぞ?」

「ふふふ、望むところデス。覚悟しとくデスよ!」

「ああ、キチンと胃薬は用意しとくわ」

「そっちの覚悟じゃないです!!」

「ははは、まああれだ。頑張れよ?」

「…はい!!」




今度は蟹入りあんかけ炒飯でも作ってみるか…。
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