遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~ 作:特撮仮面
ライブの熱気は凄まじい。ここに立っているというだけで心地が良い。これだけの人が希望を持ち、生きている。これほどに熱い命の迸りがこの世界にはあるのだ。それを失わせるなんて、そんなことをさせるわけにはいかない。何よりも、自分たちに力を貸してくれている所長たち研究所の人々や、帰りを待つ子供たち、そしてなにより、彼のためにも、ここに宣言しよう。
あ、でもそうなると風鳴翼ともう一回ライブ出来なくなるわね…うーん、悩ましい。
一回のデュエットであるが、それだけでも風鳴翼の実力は理解できた。彼がファンになるのも頷ける。儚い歌姫のような容姿から放たれる、鋭く力強い歌声。隣で歌っている自分ですら思わず聞きほれそうになった。これは今度彼からCDを借りなければいけないかもしれない。そんなことを考えつつ、マリアは次の台詞を思いだす。
ノイズの出現に慌ただしく逃げようとする民衆に放った言葉、狼狽えるな。それは歌姫としてのマリアの圧倒的な雰囲気によって瞬く間に浸透し、今観客たちは微動たりともしていない。風鳴翼が動くよりも先に、まずはこのインパクトに重ねるように新たな衝撃をぶつけることにしよう。
マリアは西洋の直剣をモチーフにしたマイクを大きく頭上に向かって投擲、同時に声高らかに歌を紡ぐ。
――Granzizel bilfen gungnir zizzl
それは聖詠。聖遺物――シンフォギアを起動させるための聖なる詩。
同時に展開されるシンフォギア。漆黒の鎧と闇夜のようなマント。黒と朱の耳当て。それはどこか立花響や天羽奏の身に纏うシンフォギア、ガングニールに類似した特徴を持っている――否、ガングニールそのものだ。
何故マリアがガングニールを!? 親友と大切な後輩の身に纏うモノと全く同じモノを見に纏う彼女に、風鳴翼が言葉を失う。
シンフォギアを纏ったマリアは、上から降ってくるマイクを見ることなく見事に掴み取り、くるりとバトンを回すように一回転させて口元へともっていく。ちなみに、内心はドヤ顔ガッツポーズである。あとでユーゴに自慢してやろうと考えつつ、マリアは世界に宣戦布告した。
「私は――いえ、私たちはフィーネ!! 終わりの名を持つ者!!」
彼女は宣言した。これでもう後には退けない。
F.I.Sの研究施設は爆破した。施設に居た研究員、子供たち全員で協力しての壮大な花火大会。その際に調と彼がノリノリで鋼鉄の竜を駆り、レヴォリューション・レザルト・バースト、ゴレンダァ!! などと叫んだせいで被害は倍々になってしまったりするが、まあ兎に角もう彼女たちに帰る場所は無い。保存された研究データ以外は全て物理的に吹き飛んでしまったし、レセプターチルドレンである子供たちもレックスたちの力で今頃政府が手を出せないようになっているはずだ。
しかし、あとは何を言えばよかったか。そう言えば残りはアドリブで何とかしろとか言っていたような…。そうなると何か欲しいもの――そうだ。
「私たち武装集団フィーネは、各国政府に要求する――差し当たってはそうだな。国土の割譲を求めようか!」
うーん、どうせなら悪っぽく世界を要求した方が良かった? いや、突き詰めれば世界なんて必要じゃないし、私が欲しいのは、子供たちが安全に暮らせる場所と、もう一度皆で笑顔で暮らせる場所。現在この世界に損な場所は存在しない。であるならば、自分たちが穏やかに暮らすための場所が欲しい。
「馬鹿な…」
茫然と声を上げる翼。当然だ。二十四時間以内に要求を飲めない場合は各国の首都にノイズを送り、その機能を完全に停止させるという手段は正しく本物。だが、その要求はあまりにも幼稚だ。
そんなもの通るはずがない。
「どこまでが本気なのだ…」
彼女が底知れない。歌姫マリア、その本質が見えてこない。
先程まで共に歌い、絆したはずの歌姫がこうして世界に仇成す者となっていることに、まだ思考が戦士のソレへと変化しきれていない翼はついていけない。そんな彼女に、マリアが語る。
「私が王道を敷き、私たちが住まうための楽土だ。素晴らしいと思わないか」
その姿、正しく女王、否、戦乱の時代を生き、戦で各地を制圧する冷血たる女帝。翼は戦慄する。本気だ。この女の目は本気の目だ。本気で世界を獲りに来ている。これだけの圧力、このままでは会場の観客が彼女たちの使役するノイズによって攻撃されるのも時間の問題。
だが、それでも彼女はシンフォギアを纏うことが許されなかった。
風鳴翼。現在の彼女は日本国防衛の要たる防人の一族の末裔、風鳴翼ではなく、日本が誇るトップアーティストである風鳴翼だ。三か月前のルナアタック、月の落下を阻止したことでシンフォギアの情報と聖遺物の解析、櫻井理論の提示こそ行われたが、その奏者の情報はトップシークレット。日本は決して奏者のことで口を開くことは無かった。
その為、カメラによる世界中継が行われているなかで彼女がシンフォギアを身に纏うことはできないのだ。
しかし、このままではじり貧。自慢の後輩たちがこちらに向かってきてはいるものの、到着までに事を起こされたら全て終わりだ。
翼が大きく息を吸う。紡ぎ出される聖詠――が、それを彼女の耳につけられたインカムから響く声が静止する。風鳴の一族に近しい忍の家系である緒川家の嫡男であり、風鳴翼のマネージャーである緒川慎次の声。彼は言う、風鳴翼の歌は決して戦うための歌だけではない、と。彼女の歌には人々を癒し、勇気づける力があるのだ、と。
それを聞いて聖詠を止める翼。
そうだ。ここでシンフォギアを展開して彼女と戦うのは容易い。だが、観客の命、そして自分の歌女としての人生はそこで終わってしまう。しかし、このままで居られるはずもない。
そんな彼女の葛藤を知ってか知らずか、マリアが彼女に向かって声をかける。
「あら、纏わないのね。まあそうよね。貴女だって自分の身は大切でしょうし――」
でも、
「その程度の覚悟でステージに立つなんて、高が知れるわね。それとも、侮っているのかしら、防人さん?」
こちらが動けないことを分かっているかのように、嘲笑うように言う。
「何と卑劣な…」
「何とでも言いなさい。私たちとて世界を救わなければならないの」
「何?」
眉を顰める翼。だが、マリアはあくまでも不敵な姿を崩さない。
防人。古くから日本防衛にその命を捧げてきた武家の一族。しかし、今の彼女は只のアーティストの風鳴翼。日本を守るための剣たる風鳴一族の風鳴翼ではない。彼女はそこを突くように話を続ける。
「ねえ風鳴翼? 今の貴方、くすんでるわ」
「くすんでいる?」
「いえ、くすんでいる何てモノじゃない。今の貴方は防人ですら、いいえ、歌女ですら無いわ!」
「っ、何を!!」
「そうでしょう? 現に貴方は動くことも、歌うこともできない」
歯噛みする。彼女のいうことは正しい。守るべき人を人質にとられ、自分はその力を振るうことすら許されない。
だがしかし、と彼女は直剣型のマイクを構える。シンフォギアを纏えずとも、風鳴翼は歌女であり防人だ。自分を信じて駆ける人が居る。自分を助ける為に急ぐ仲間が居る、それに――
「防人と歌女、どちらでもファンだと言う者も居るのでな…」
「? どういうことかしら」
「この程度で私が鞘走ることを躊躇うと思ってか、ということだ」
彼女の瞳に宿るのは闘志。剣のように鋭く、巨鳥の羽ばたきめいて力強いそれを見たマリアは、フッと笑みを溢すとマイクを持ち直し会場中に響き渡る様に言った。
「よろしい。ならば先程から立ちっぱなしのオーディエンス諸君にはここで退室してもらおう!!」
「な、どういうことだ!?」
ここで人質である観客を退場させる。要求すら通っていない現状でそんなことをするということは、単純にこの場で彼女たちフィーネが持つアドバンテージの殆どを失うということに他ならない。
何故だ。何故そんなことをする。彼女の意図が全く掴めずに混乱する。だが、宣言の後に翼の方へ向き直るマリアの表情を、その内側に宿るモノを見て、翼は納得した。
彼女の瞳の奥にあるのは、熱く燃える炎。成し遂げるという鉄の意志と鋼の強さ。そしてその奥に見える、自分と似た雰囲気。なるほど、そういうことか。言葉では言い表せないが、彼女は今確かにマリア・カデンツァヴナ・イヴと言う女性がどういった存在であるかを理解した。
「なるほど、ガングニールを纏えるだけの武士ということか」
「さっきまでガングニールであるものか、などと言ってくれてたけどどういう心境の変化かしら?」
「貴女にも貫くモノが在るのだと、そう感じただけさ」
「…ふふ、お墨付きどうも」
微笑むマリアと翼。互いににらみ合っている状況であるにも関わらず、その瞬間だけはとても穏やかな雰囲気が流れる――と、マリアのヘッドセットに通信。声の主はナスターシャ教授だ。人質を解放したことに関して何か言われるだろうな、などと考えながら通信に応じるマリア。
『人質を解放した以上、政府に対する脅迫は効果を失います。最善が無くなった以上、作戦目的をネフィリムの起動に変更。これが失敗したらハンバーグ抜きにします』
「…え?」
『どうしました、マリア』
「え、その、ハンバーグは勘弁してほしいけど――ってそうじゃない。怒らないの? マム」
自分は当初の作戦とは全く別の行動をしてしまった。観客を傷つけると言う行為を恐れ、また風鳴翼との勝負、否、日本のシンフォギア奏者との対決を望み、行動した自分を糾弾しないのか。尋ねるマリアに、ナスターシャははぁ、と溜息を吐きながら説明した。
『彼のプランMの通りですからね…』
「プランM?」
何だそれは、聞いたことが無い作戦に、マリアが首を傾げる。
『作戦プランマリア。マリアの行動を予め想定した作戦です。今回の作戦はプランA、BにMを加えた三種類の作戦で構成されています。…彼の予測通りの行動をしていて、私は驚くばかりです』
「…そうなると、これからの動きは?」
『切歌と調が既にそちらに待機しています。また、彼も待機している――のですが』
「ですが?」
『メサイアをこちらに持ってきた後すぐに「マリアと翼のデュエットなんて一生に一度あるかどうか、ちょっとライブ見てくる!!」とか言って会場に行きましたから、恐らく観客席に居ると思いますよ?』
マムの言葉に思わず観客席の方を向く――居た。
観客席の最上部。そこでぶんぶん振られる輝く白のサイリウム。ガングニールによって強化された視覚の中に、サイリウムをぶんぶん振り回す明らかに怪しい黒ずくめの存在がぼんやりとだが見える。この状況でサイリウムを振り回しているものだから、あの周囲だけ観客ともども奇妙な雰囲気になってしまっている。思わず頭を抱えそうになるのを何とか抑える。まあ、何にしても良いと言われたのなら、やれるところまでやってやろう。
「さて、私たちの舞台は整ったわ…」
ライブ事件、そしてリディアン音楽院襲撃事件を経て、日本のノイズ発生時の避難対策は世界でも類を見ないレベルの物となっていた。
それに加えて、今回はマリア・カデンツァヴナ・イヴと言うカリスマによって観客が恐慌状態に陥ることが無かったことによる迅速な避難。十数分で避難を完了した会場には、現在風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴの二人のみ。先程まで観客席でサイリウムをぶん回していた遊吾・アトラスも何処かへと消えていた。
「風鳴翼、一つ聞きたいのだけれど」
「…何だ?」
「踊りは好きかしらッ!!」
言葉を放つのが早いか、マリアが翼に向かって直剣の切っ先を突き出した!!
※※※※※※
「探している子は見つかりました?」
「申し訳ない…」
マリアが翼と剣戟を交わしている頃、観客席に居た遊吾はと言うと――小日向未来と行動を共にしていた。
マリアと翼。自称彼女たちの一番のファンである彼にとって、そのデュエットは聞き逃す訳にはいかず、どうせならこの機会にとライブ会場へ潜入。ちゃっかり二人のグッズなんかも買い込みつつライブを楽しんでいた。
プランの通り、マリアの宣戦布告の言葉と共にノイズが出現。流れはこちらに傾いていたのだが、やはり彼の予想通りにマリアは観客を開放した。こうなってくると観客席に居るのは拙い。どうせ後で合流する手筈なので問題はなかったのだが、一斉に観客が動いたこともあって合流する予定の切歌と調と合流することが叶わず、仕方なく彼はこっそりと観客席に残ることを選択。既に人が居なくなっているであろう特別な招待客のみが入れるVIPルームの方へと向かったのだが、そこで小日向未来とその友人三人とばったり鉢合わせしてしまったのだ。
全身黒ずくめかつ、顔をターバンのような布で覆い隠し、さらにサングラスで目元を、フードで頭を隠す男なんて不審者を通り越して変態も良い所なのだが、そんな不審者である彼の、知り合いの女の子二人とはぐれてしまって探しているんだ。という言葉を未来は真摯に聞いてくれ、なんと自分も一緒に探してくれると申し出てくれたのだ。
無論、不審人物と二人の時点で危ないし、もしも待機しているノイズが動いたら大変なことになる。更に言えば切歌と調の二人と合流してそのまま移動する手筈なのに、そこに彼女が居たら色々と都合が悪い。そう考えて最初は彼女の申し出を断ろうとしたのだが、彼女から感じた想いを汲んで、彼は彼女と一緒に二人を探すこととしたのだ。
「早く見つけないと!」
「大丈夫です。二人とも強い子ですから」
未来の表情には焦りが見える。だから彼は、焦って怪我をされたら私や彼女たちが悲しみます、と落ち着かせるように彼女の頭を撫でてやる。
未来の焦り、その原因は分かり切っている。立花響、そして遊吾・アトラスが巻き込まれたあのライブ事件。あの日彼女は家庭の事情によって約束のライブにどうしても行くことが出来なかった。その為彼女はライブ事件に巻き込まれることは無かったのだが、その代わりに響は入院生活を余儀なくされ、遊吾はノイズとなって姿をくらませなければならなくなった。
何故あの時自分はライブ会場に居なかったのか。その思いは彼女の心に暗く深い傷を残し、結果、彼女は響のことを過剰に守ろうとするようになった。立花響に対しての、ある種盲目とも呼べる献身的な姿勢はそれが原因だ。これは立花響にも言えることであり、二人は共依存のような関係となりつつ今まで生きてきたのだ。ちなみに、遊吾・アトラスにも二人のこの姿勢は向けられている。
そういった原因で彼女は焦っているのだろう。過去のライブ事件のようなことが起こってしまうのではないか。響と同じような目にあう人が出てくるのではないか。
「え? あ、あのー」
「おっと、申し訳ありません。探している二人も貴女くらいの歳なものでして…」
癖でこうしてしまうのですよ、と苦笑して――とは言え顔が全く分からない黒ずくめ姿なので当然相手には見えないのだが――見せれば、彼女はいえいえと首を振る。
「探している子は、貴方の妹さんなんですか?」
「そうですね……血こそ繋がっていませんが、そうであれば、と考えています」
それは事実だ。サテライト時代から出会う人物の殆どが年上であった彼からすれば、同世代か一歳程度違う切歌と調は妹のようなものである。彼に妹という存在がいたことが無いため具体的に兄妹出来ているかと言えば微妙であるが、それでも彼はF.I.Sを一個の家族と捉え、二人の兄であれたらと思っていた。
そんな彼の様子を見て、未来は自分の直感が間違えていなかったことを確信する。
流石の未来と言えども初めて見た時はこの黒ずくめの男は何と怪しいものかと思ったものだが、その後の丁寧な対応、そして静かな口調の中に感じる確かな焦りなどから彼が決して悪い人間でないのではないかと考えていたのだが、今の彼の優しい口調にやはり優しい人だと確信を深めていた。
そんな二人に向かって、大きな声。二人が立ち止まって声の方を向けば、廊下を走ってこちらに駆け寄ってくる金髪の少女の姿と、その少女に手を引かれる黒髪の少女の姿。
「ゆー! 迷子になったら迷子センターに行けとあれほど言ったじゃないデスか!!」
「迷子、ダメ、絶対」
「…お前らの中じゃ俺が迷子になってんのかよ……」
駆け寄ってきた金髪の少女、切歌の頭に手刀を喰らわせつつ、彼は未来へと向き直る。
「小日向未来さん。探していた二人が見つかりました。ここまでありがとうございました」
「あ、いえいえ。良いんですよ私は別に何も…」
「いや、違うデス! 家の不審者がとってもお世話になったデス!」
「変質者の監視、ありがとう」
「お前らなぁ…」
いやまあ俺の格好大概不審者だけど酷くね? 顔に手を当ててやれやれと首を振りながら、彼は二人に声をかける。
「さあ二人とも行きますよ」
「全く、ユーが迷子のせいで約束に遅れちゃったデス」
「減らず口を叩くのはこの口か? このデスデス娘!!」
「止めてユー。切ちゃんは語尾にデスを付けないとキャラが薄くて大変なんだよ」
「調!? ちょっと酷いで――いひゃいいひゃい!?」
騒ぎながら去っていく三人をの背中を、嵐のような人達だなぁと見送った未来。自分も急いで避難しなきゃ、と歩き出そうとするのだがそこで自分の手に、達筆で小日向未来様と書かれた白い封筒が握られていることに気づき思わず立ち止まる。
さっきまで手ぶらだったのに…。いつの間にか握っていた封筒を怪しみつつ開封する未来。そこから出てきたのは、一枚の便箋と一枚の黒いカード。
『今日は本当にありがとうございました。お礼と言っては何なのですが、私の国に伝わる伝説の、願いを叶えるカードをお受け取りください』
そう書かれた便箋。願いが叶うカードとはこの黒いカードのことだろうか? 表も裏も黒曜石めいて透き通った黒い色のカード。願いを叶えるなんてそんな凄い代物には見えないが、お礼、ということだしお守りにでもしておこう。カードをポケットに仕舞い込むと、彼女は改めて避難のために歩き出すのであった。
この時渡された黒いカードが後に更なる波乱を巻き起こすことになることを、まだ誰も知らないでいた…。
※※※※※※※
「聞けッ!! 防人の歌をッッ!!」
ステージ上で二人の歌女が舞いを舞っていた。
白と蒼の剣が煌めき、黒の衣が優雅に舞う。壊れた月をスポットライトとして、シンフォギア奏者が鎬を削りあっていた。
世界中に放送されていたライブ中継が遮断されたのだ。これによって翼はシンフォギアを纏うことが許され、マリアと真っ向から対決しているのだ。
黒のガングニール、マリアと、白と蒼の天羽々切、翼。戦況は多彩に技を放ち、相手を防戦一方とさせている翼に分があると思われていたが、実際はそうではない。
「はぁッ!!」
翼の天羽々切のアームドギアが展開、形状を刀から片刃の大剣へと変形させる。撃ち放たれるのは数多くの敵を打ち払ってきた一撃。彼女が最も得意とする技、蒼ノ一閃。稲妻のような蒼い斬撃がマリアに向かって迫る。
が、それは漆黒の外套によって包み込まれ、あらぬ方向へと受け流されていく。
ならば、と彼女がアームドギアを剣と変えて近接戦闘へと持ち込む。だが、これもまた彼女の体捌きと繰り出される伸縮自在の外套によって見事にいなされ、距離を引き離される。
「どうしたのかしら? 防人の刃とはその程度なの?」
「くっ、この程度でなめてくれるな!!」
再度彼女が刃を携えマリアに迫る。がしかし、如何なシンフォギア、無双の剣たる天羽々切であっても――
「刃が届かなければ意味は無いし――」
「また!?」
「刃が立たなければどうということは無いッ!!」
その切っ先が標的に届かなければ切ることは叶わないし、仮に刃が届いたとしても、その刃筋が対象物を捕らえていなければ切断することは出来ない。
アームドギアが外套に時に柔らかく、時に硬質化されて受け止められる。
全ての物体は、分子、原子の集合体である。刃物を用いて物体を切断する場合、それらの繋がりの間に的確に刃を通す必要がある。実際のところはそんな細かいことを考えなくても物体は切断できるものなのだが、ガングニールの外套は主の意志を反映し、それを行わせない。
簡単な話だ。空中をヒラヒラ舞う木の葉を刃物で切ろうとすれば、大抵切ることは出来ずに押すだけになってしまうし、硬い物を刃物で切ろうとしても、刃を入れるときに角度が斜めではそのまま表面を滑って行ってしまう。
「まったく、そんなことじゃあ歌女失格ね」
「私は歌で勝負している。それに、自慢ではないが盆踊りとやっさいもっさいくらいしか踊ったことが無いのだッ!!」
歌を高める。こうなれば一撃必殺を狙うまで。腰のスリットが展開され、内部から二本の剣が撃ち出される。翼はそれを掴み、柄の尻を組み合わせる。その姿は宛ら両刃の槍。
「何!?」
「推して参るッ!!」
高速回転する両刃の刃。脚部スラスターが展開、ホバークラフトのように地表を飛翔する。
同時に翼が片手で印を結ぶ――燃え上がる刃。スラスターが爆発的加速を生み出し、火炎の苛烈さと疾風の如き速さを合わせた必殺の一撃がマリアを襲う。
風輪火斬!!
「ぐぅ!?」
「話はベッドで聞かせてもらおう!!」
勢いをそのままに反転。返す刃が再度マリアを襲う――ッ!!
「悪いけど――」
同時に響く歌。瞬間、翼は彼女が歌を歌っていないことに気がついた。シンフォギアを展開する聖詠以外、先の攻防からマリアは一切歌を歌っていない。シンフォギアの力たるフォニックゲインを発生させるための歌を。
――Kort el fes Gungnir
「私のベッドは先約が居るのよッ!!」
外套が高速展開。翼の刃と激突する――が、それも一瞬。外套はものの見事に炎によって引き裂かれるが、振りぬいた先にマリアの姿は無い。
ゾクリ、背筋から凍えるような感覚。翼の視界の端、袈裟に振りぬかれた刃の反対側に彼女は居た。しゃがみ込むような姿勢と腰に引き絞られた右の拳。次に来る衝撃は彼女も良く知る一撃。
烈ッ!!
踏み込み、腰の捻り、全てを込めた右ストレートが翼の無防備な腹に突き刺さる。そのまま押し込み、吹き飛ばす。
「がはっ!?」
「てめぇええ!!」
「翼さん!!」
同時に上空から響く声。ヘリから降下してくる赤と橙色の光。
雪音クリスと立花響だ。雪音クリスは迷いなく魔弓・イチイバルのアームドギアを展開。ガトリングが高速回転を開始する。
コンマ数秒の後に弾丸の雨がマリアに向かって降り注ぐだろう。だが、マリアには確信があった。そんな雨は届かない、という確信が。
「ぐぅ!?」
「クリスちゃん!? うわ!?」
突如として飛来した座席が上空のクリスを撃ち落とす。そして響もどこからともなく飛んできた円盤に防御を余儀なくされた。
着地。防御態勢をとりながら即座に翼の元へと向かう二人。
「翼さん、大丈夫ですか!?」
「ああ、何とか…だが、気を付けろ二人とも。マリア・カデンツァヴナ・イヴは――」
強い。それまでの戦況が分からないが、翼がステージの端で膝をついていた時点で何となく察しはつく。
クリスはその言葉を聞いて油断なくガトリングを構える――が、それに反して響はどこか躊躇しながら拳を構えた。
相手は奏者、ルナアタックを止めた英雄である三人。だが、マリアは余裕を崩さない。
「そちらは仲間が増えたみたいね。けど、残念ながら貴女たちのバトルフェイズは終了しているわ」
「どういうことだそりゃ!!」
クリスが吠える。同時にステージに降り立つ新たな影。
一人は赤色の、機械仕掛けの少女。もう一人は、緑色の、死神少女。そして――
「ふはは、特異災害対策機動部二課よ! ここからが本当の勝負!!」
両手両足を振り上げた見事なフォームで、観客席から飛び出してきた黒ずくめの変質者。
四人が並び立ち、中心のマリアが一歩前に出て堂々と宣言する。
「ここからは、私の――いえ、私たちのターンよ!!」
次回予告
「フィーネ決起の最終章の幕開けだ!! F.I.Sの本当の力を見るが良い!!」
「なんだと!?」
ねんがんのしんふぉぎあらいぶDVDをてにいれたぞ!!