遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~   作:特撮仮面

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彼と彼女たちと新たな、力?

「さぁて、これからどう動こうかねぇ…」

 

 

 フィーネの拠点となる大型輸送ヘリ内部にて、遊吾はいつものコート姿で、マル秘ノートなるノートにペンで何かを書き込んでいた。

 

 そこに書かれているのは、彼が覚えている限りのシンフォギアG、つまり現在の自分達が置かれているアニメのシナリオと、そこから考えられる世界の動き。未来予知とも言えるそこに、自分達の目的とこれから行う作戦を当て嵌めていき、更に裏の筋から得た情報を元に敵対勢力の動きを考え、予測を書き込んでいく。

 

 コンサートでのフィーネ決起から早数日。次の作戦を行いつつ、自分の目的を完遂するために彼は自分の言動すらも予定として書き込んでいた。

 

 そうしなければいけなかった。彼自身は意識していなかったが、コンサートでの戦闘後の消耗した様子はマリアだけでなく、切歌と調にもわかってしまうほどのものだった。やはり、覚悟を決めたとは言え大切なものに刃を向けるというのは相当堪えているようだ。

 

 

「さて、ここまでは予定通り。これからは二課の逆襲とネフィリムの覚醒、そしてビッキーのシンフォギアとの融合とイベントには事欠かないな」

 

 

 彼は手元の携帯端末に手を伸ばすと、手慣れた手つきで番号を押す。それは彼の本来の携帯端末の番号だ。

 

 数回のコール音と共に繋がる。はい、もしもし。そんな言葉を発しているのは天羽奏だ。

 

 

「おう、俺だ」

『俺ってやつは知らないね』

「遊吾・アトラスだ。って、分かってやってるだろ」

 

 

 まあね。クスクスと笑う奏。どうやら自分がユーと言う名であの場に立っていることは、自分が計画のために協力を求めた相手以外にはまだバレていないらしい。

 

 これは好都合だ。彼はさも何も知らないといった風に彼女に訪ねる。

 

 

「なんか、フィーネだかが出てきて大変みたいだが、ビッキーたちは無事か?」

『……ああ、大丈夫――と言いたいところだけど、皆重症だね』

「…そこまでか?」

『ああ。傷はそこまでじゃないんだけど…』

 

 

 特に響が酷い。翼は戦闘で完全に遅れをとってしまったことを悔やみ、再度鍛え直すと司令と色々やっているし、クリスもまた、遊吾との戦闘で改めて弱点を理解したらしく、それを解消するための技術を学んでいるらしい。が、クリスの場合はその特訓がオーバーワーク気味になっているらしい。

 

 その理由は、ソロモンの杖。彼女がフィーネ、櫻井了子の元で起動させた完全聖遺物が現在武装組織フィーネで使用されていることに関する責任感や罪悪感。そしてそこから来る焦り。

 

 さらに、彼女は何かと自分の責任として自分を罰しようとする癖があるため、それと焦りが重なっているのだろう。

 

 立花響は一番酷い。他の二人はまだ戦闘面と言う目に見えるものがあるから、そちらに打ち込めば精神を均衡させられるが、響の場合はそうもいかない。精神的なもの、覚悟や彼女なりの戦う理由を真正面から壊されたのだから。

 

 それによって彼女は心が折れかかっているらしい。必死に得意のカラ元気で誤魔化しているらしいが、流石にこれだけ付き合いが長ければ未来だけでなく、二課の面子だって皆分かってしまう。だが、彼女に掛ける言葉が思いつかないためにどうしようも無いのだという。

 

 なるほど、彼は頷くととりあえず三人を呼ぶように奏に言う。奏はやれやれと言った風に言いつつ、待っててと言ってどこかへ向かった。暫く待っていると、ばたばたと言う足音と共にパシュッ、という扉の開く音が聞こえてきた。

 

 

『おい馬鹿お前どこに居やがんだ!!』

「おま、随分な挨拶だなクリス!?」

 

 

 突然の罵倒に思わずビクリとしながら彼が言う。どうやら大分お冠らしい。

 

 

『あの馬鹿も皆大変だってのに――』

「すまんすまん。ニュースで見たぜ。フィーネって名乗ってる連中が暴れたんだろ?」

『…そうだよ』

 

 

 なるほどな。ならば奏の言葉もあるし、彼女の悩みは一発で看破できる。

 

 

「あれだ。戦闘スタイルに関しては風鳴司令の戦術マニュアルを見ろ。で、お前のオーバーワークに関してだが、お前はアホか」

『なっ、誰が阿呆だ!? 肝心なときに居ねぇ奴に言われたくねえよ!!』

「ざっくり切りやがって!? 俺だって好きで離れてるわけじゃねえっての!! ったく、聞け。フィーネとの関係もあって、ソロモンの杖に責任感じたりするのは少しだが分かる。けどよ、それで倒れちゃ元も子もないだろ?」

『けどよ…あたしは我慢できねぇよ。あたしが不甲斐無いせいで先輩にも、響にも迷惑かけちまったし…』

 

 

 あー、やっぱ気にしてんのか。彼はバリバリと頭を掻く。

 

 彼の予想通り、彼女は自分が戦闘で役に立てていなかったことを悩んでいたらしい。

 

 確かに、遠距離攻撃によって後方支援ができるシンフォギアは調を除けばクリスの魔弓・イチイバルのみ。そのスタイルと自身の戦闘時の役割を考えるのであれば、先日の戦闘において、黒ずくめの中でノイズ化した遊吾によって封殺された彼女が、十分に役割を果たせなかったことを悔やむのは良く分かる。だが、これは明らかに過剰である。相も変わらずこの少女は何かと責任を感じることが好きらしい。

 

 

「…お前はマゾヒストか何かか?」

『はっ? 今あたしは真面目な話をだなぁ』

「してるっての。そんな高々一回戦闘で上手く立ち回れなかったくらいで私のせいだ私のせいだと、何? 自分を傷つけて喜んじゃうような変態なのかお前。…俺からすると少しご褒美だが」

『…おい、何か凄いヒドイ言葉が聞こえた気がするんだけど』

「気にすんなって! 兎に角、そうやって一々悩んでる暇があったら、衝動インスパイアしてガトリングとかミサイルとかぶっ放してろよ。お前の歌は、親父とお袋みたいに平和にするための歌なんだろ?」

 

 

 苦しいだろうし、仲間がやられて悲しいだろうけど、それくらいで凹んでくれるな。雪音クリスは不敵に笑ってトリガー引いてる方が似合ってる。笑ってそう告げれば、暫く無言の間が続き――そして、彼女の大きな笑い声が聞こえてきた。

 

 

『…ぷっ、く、あはは!! なんだよそれ。平和にするって言ってんのにミサイルぶっ放すのか、あたしは』

「ついでに殺人的な胸も揺らしてるな」

『そんなに胸が好きなら、お前を挟んだ後に絶唱かましてやろうか?』

「いや、まだ死ぬ気ねえから全力でお断りするわ」

 

 

 まったく、前のお前なら胸の話題で顔真っ赤にしてたろうに。何回もやられたら慣れるわ。というか、あたしがランニングしてるときにちらちら見るな。…いや、視線が、ね。吸い寄せられるんですよ、はい。今度見物料取るからな? マジで!? なんてあくどい商売なんだ!? などと久しぶりの心地の良いやりとりを行っていたが、彼女が何かに気づいたらしく、彼に向かってああ、風鳴翼が来たから替わるぞ、という。

 

 

「なんだ、先輩って呼ばねえのか?」

『……恥ずかしいじゃねえか』

「うわ、何この可愛いらしい生き物」

『うるせぇ!!』

 

 

 茶化すように言った遊吾に対し、恐らく反射的に端末を投げようとしたのだろう。やめろ雪音!! という翼の叫びと共に、離せ! あたしはぁああ!! とかいうやり取りが聞こえてくる。

 

 ぎゃいぎゃいと暫く騒いでいたが、どうやら沈静化したらしく、ふんっ、と鼻を鳴らして遠ざかっていくクリス。そんな彼女を見送ったらしく、苦笑交じりに彼女――翼が彼に言う。

 

 

『あまりからかわないでやってくれ。あれでも堪えているんだ』

「だろうな。で、お前はどうなんだよ翼」

『私は――どうだろう? 不覚をとってしまったから、そこを磨き直しているところだ』

「そうか」

 

 

 どうやら、彼女は彼女なりに折り合いをつけて何かしているらしい。まあ、装者の中で最年長なのだ。戦場での実戦経験も豊富だし、どうか他の装者たちをフォローしてほしい。とはいえそのせいで自身をうつろにしてもらっては困るので、そこらへんは要相談だ。

 

 それから、最新のCD購入報告や、歌の感想何かを話し合っているうちに、翼が思いだしたように彼に尋ねた。

 

 

『――ああそうだ。よかったら秋桜祭りに来てみないか?』

「あき――なんだって?」

『秋桜祭り。学園祭というやつだ。アトラスは学園祭、見たこと無いのだろう?』

「ああ。生まれこのかた学校にすら行ったことねえからな」

『なら、そちらが一段落したら来てみないか? 皆喜ぶ』

「…そうだな。暇ができたら行くとするわ」

『ああ。来れたら来てくれ。皆で案内してやろう』

「はは、そいつは楽しみだ」

 

 

 正直、これからウェル博士の行動と自分の餌を使った独自の作戦を展開していくことを考えればそんな時間は無いのだが、それでも学園祭、しかも皆で一緒に回るとなればそれがどれだけ楽しいことか。だが、今の自分にはそれが許されない。

 

 楽しみだ、と言いつつも無意識に混ざった少し悲しげな響きを感じ取ったのか、翼が暇があったらで良いぞと気を遣って言った。と、そんな話をしていたら彼女の背後から今度はドタバタと慌ただしい足音。今度は何だ? 彼が首を傾げていると、お、来た来たと翼の楽しそうな声。そして――壁か扉に頭をぶつけたのだろう。あいたぁ!? という間の抜けた悲鳴が彼の耳に聞こえてくる。

 

 どうやら、彼女の到着らしい。それでは、また、と言う言葉と共にコトンと机の上に端末が置かれる。遠くの方であきれたような声と、たはは、と笑う声が聞こえてくる。暫く待っていればガサゴソという音が聞こえ、そして彼の耳に彼女の声が――今、最も聞きたくて同時に聞きたくなかった立花響の声が聞こえてきた。

 

 

『遊吾さん、久しぶり!』

「久しぶりって、まだそんなに時間経ってなくないか?」

『もう一カ月は話してませんよ!!』

「マジで!?」

『マジです』

 

 

 確かに、彼が支えたい人が居ると彼女たちに連絡してから既に二、三ヶ月は経過している。F.I.Sの決起準備と計画を練ることに必死で気づいていなかったが、そんなに長い間会話をしていなかったのか。そう考えると少し申し訳ない気持ちになってしまう彼。

 

 

「悪かった。色々忙しくてな」

『良いんですよ。元気でいてくれれば』

 

 

 それだけで私も元気になれます! 拳を握っている響を想像しながら、彼は改めて感じた。こいつやっぱ空元気していると。

 

 響は空元気だと反応が少し遅かったり、声のトーンが少し高かったりするのだ。ちなみに、反応が遅いのは軽傷、声のトーンが高いのは本当に重症のときである。

 

 

「なんだ、何かされたか?」

『………いって』

 

 

 ボソリと呟かれた言葉は微かに涙ぐんでいた。

 

 

『偽善だって、傷ついたことのない奴の言葉なんて、お前の想いなんて誰にも届かないって』

「…響」

 

 

 改めて思う。立花響は戦闘に向いた性格ではない、と。ただ正義感が強く、人の痛みを想うことが出来る優しい少女なだけなのだと。だが、彼女はこれからもこの世界に必要なのだ。彼女のような真っ直ぐに想いを貫くことができる人が。だから彼女は苦しくても戦わなければならない。その手に握った想いを貫く槍で。

 

 

「なあ、響」

『…何ですか?』

 

 

 大きく息を吐く。こうやって響を傷つけた張本人が響を励まそうとするなんて滑稽というか、本当に外道だなぁ…。胸に溜まっていくどす黒く重いモノを無理矢理消化しつつ彼は極めて普段通りを装って響に言った。

 

 

「だから、どうした?」

『へ?』

 

 

 泣かせた原因が言うのもふざけた話だが、彼女に涙は似合わない。どころか、彼女には笑っていてほしい。

 

 

「そんな響がどんな人生を歩んできたか知らねえ奴の言葉なんか捨て置け。立花響は一回会っただけで全部わかっちまうような安い女か?」

『それは……私だって一杯傷ついて、それでも私は誰かを助けたい。奏さんや翼さんみたいに格好良くて、クリスちゃんみたいに皆を守れて、未来みたいに暖かく誰かを優しく包み込めるような、そんな人になりたい』

「…なんだよ、その完璧超人。そんな奴が居たら迷わず求婚するね」

『マジですか!?』

「そりゃな……その、ここだけの話俺って結構チョロいからな」

『…マジですか!?』

 

 

 響の思いを聞いて思わず笑ってしまう遊吾。

 

 求婚と言う言葉に食いついてきた響に、彼は苦笑しながら教える。事実、遊吾は女性に弱い。義理の父親であるジャック・アトラスの教育のせいか基本的に女性に優しく接しろだの、紳士的に接しろだの言われていたせいでついつい甘くなってしまうところがあるし、生活環境のせいで実は女性に対して免疫が無い。自分で行動したり、相手をからかうために色々やる分は良いのだが、不意を打たれたり、彼のからかいに対して反撃をしてこられる、素で返されると言った反応をされると対処に困ってしまう。

 

 それに、元々母親と言うものを知らないこともあり、子供の頃の経験もあってか優しくされたり、母性的な人や年上に基本的にとても弱い。特にマリアのように優しい母親のような人に対しては本当に弱い。

 

 

「優しくされると、結構な……」

『あー、確かにお母さんと話すとき柄にもなく緊張してましたもんね、遊吾さん』

「そ。普段のテンションならまだしも、真面目にやられるとなぁ…」

 

 

 本当にダメなんだよ、俺。そう笑いつつ、彼は言う。

 

 

「てなわけでビッキー。俺と戦ったときみたいにやれば良いんじゃね?」

『俺と――えっと、あの海で戦ったときですよね?』

「ああ」

 

 

 彼がD-noiseとして活動していた頃、一度だけ響と真正面から全力全開で殴り合ったことがあった。

 

 あの時は二人とも本当に自分のことしか考えていなかった。いや、お互いにお互いのことしか考えていなかった。

 

 主人公と言う運命によって持たされた槍、それに翻弄される少女を少しでも助けたいと全力で戦った彼と、彼に対して只々強い想いを持って戦った彼女。

 

 

『あれ、私の顔面全力で殴ってましたよね、遊吾さん』

「馬鹿言え。そっちこそ俺の腹全力で殴った癖に」

『うわ、酷い! 女の子の傷は一生ものなんですよ!?』

「だったらあの時の戦いでどれだけ一生ものの傷つけてんだよ俺。でも、痕残ってないだろ?」

『…実は、/バスターにつけられた傷が…』

「マジか!? ちょっと待て、それ大丈夫なのか!?」

『心に傷が…およよ、これは責任を取ってもらわないと』

「…切るぞ」

『わあああ!? ごめんなさい調子乗ってました!!』

 

 

 あの戦いは今でも鮮明に思いだせる。それほどまでに苛烈で、鮮烈で、楽しい決闘だった。

 

 

「だからさ、あんな感じで良いんじゃね?」

『へ?』

「偽善だか何だか知らないけどさ。ビッキーはビッキーらしく、私はこういう想いで戦ってるんだ!! って、最短で、一直線に、さ」

『最短で、一直線に…』

「俺とかあのときハートをぶち抜かれそうになったしな」

『うう、その話は止めてくださいよ…』

 

 

 からかうように笑う彼に、彼女が少し涙声で言う。どうやら、あの時のやりとりは彼女にとって忘れたい過去、俗に言う黒歴史のようなものになっているらしい。

 

 どうせまたやるだろ。それでも恥ずかしいんですよ! と彼女をからかっていると、何かを思いついたらしく彼女がふふふと不穏な笑い声を出し始めた。

 

 

『遊吾さん。ちょーっと聞きたいことがあるんですけど…』

「なんだ?」

『歌姫とアブナイ関係、銀髪巨乳ツンデレ娘二十四時、幼馴染とのいけない放課後、って何ですか?』

「ゴフッ!? が、あが、づぉおお!? い、っだだだ!?」

 

 

 まさかの三つのとある題名に思わず言葉を発しようとしてむせ、その反動でキャスター付きの椅子が倒れて床に放り出された遊吾はその勢いのまま机に脛をぶつけて悶絶する。その反応を聞いて彼女は内容に確信をもったのだろう。へぇ、と口元を歪めながら言った。

 

 

『男の人って、こういうデータとか、スケベ本とか好きだよねぇ。遊吾さんも例外じゃ無かったかぁ』

「ばっ、ち、違ッ!? 俺のじゃねえよ、それあられだから藤尭の奴だからな!?」

『あれれ~、藤尭さんから、遊吾くんに渡してほしいデータがあるんだって言われてもらったやつなんだけどなぁ』

「ふじたかぁああああああああああああ!?」

 

 

 まさかのオペレーターの裏切りに思わず叫ぶ。実際は彼に渡したいデータがあるから、預かっていてくれないかと言われた響が装者皆でこっそりとプロテクトを解除して覗いた結果だったりするのだが、そのことをまだ遊吾は知らない。

 

 

「と、兎に角、ビッキー、そう言うわけだからな!?」

『ふふ、分かりました。…ありがとうございます。遊吾さん』

「…ああ」

 

 

 あ、奏さんが話したいって言ってるんで奏さんに変わりますね。そう言って電話の主が奏へと変わる。響は用事があるらしく部屋から出ていったようだ。

 

 

『随分と仲が良さそうだねぇ、ユー・トイルイ・テッシ』

「…バレてたか」

『アタシの元に、ユーを名乗る人物から洒落たペンダントが送られてきたし、何よりもあなたの知っている人、なんて名前、分かるにきまってるだろ?』

「ま、それもそうか」

 

 

 ユー・トイルイ・テッシ。ユーをYOUにして、残りを逆から読むと、知っているいと、いとのいをひに変えれば、YOUしっているひと。あまりにも安直であるが、安直であるが故に敵として堂々と名乗ってしまえば相手は分からない。

 

 ここでバレるのも予想通り。というかこれは彼がわざと教えた結果だ。やっぱ分かったか、と彼が笑うと、彼女はやれやれとため息を吐きながら彼に尋ねた。

 

 

『で、アタシに何をさせたいんだ?』

「…聞かないのか?」

『何が?』

「何で裏切ったのか、とか、色々」

 

 

 後輩を大切に思っている奏のことだから、激昂して怒鳴ってきてもおかしくないかもしれないと考えていたのに、予想外の反応すぎて思わず拍子抜けしてしまう遊吾。責められたいとは思わないが、今回ばかりはどれだけ罵倒されても仕方がないことだと思っていたのだが、彼女はそんなことは一切せずにため息を吐くばかり。

 

 

『マリア・カデンツァヴナ・イヴ。遊吾が支えたいって思った人は彼女なんだろ?』

「…なんでそこまで分かるんだよ」

『テレビで見た感じだけど、翼と同じ感じだったからね』

「マリアは汚部屋製造機じゃねえぞ?」

『つ、翼はほら、戦場で片付けしてるから』

「上手くねえよ!?」

 

 

 はぁ、とため息を吐く遊吾。この女性は本当に分かっているのだろうか? もしも――

 

 

「友情――」

『友情ごっこなわけないよ。皆で頑張って戦って、シンクロして、遊んで、決闘して。一緒に絆を繋げてきたあんたが友情ごっこなんて器用なマネが出来るはずないって、みんな知ってるよ』

「……お前らは何でそんなに優しいんだよ」

 

 

 思わず泣きそうになる。同時に押し寄せる後悔の波。だが、そんなことを考えている暇はない。彼は即座に思考を切り替えると彼女に自分の計画について簡単に説明する。

 

 それを聞いた彼女の反応は、いたって普通。分かったよ、という返答だけであった。

 

 

『あ、でも遊吾。アタシとおっさん以外は皆知らないみたいだけど――知った時、覚悟しといてよ?』

「分かってる。殺されようが恨み節なんて言わねえよ」

 

 

 それだけのことを仕出かすのだ。覚悟は出来ていると彼が言うと、その反応が予想通りだったのか、面白そうに彼女は笑いながら言った。

 

 

『ま、そうだね。確かに墓場には行くだろうね、人数分の』

「…なんだよ、その意味深な発言は…」

『それは後のお楽しみだよ』

 

 

 頑張りな、異世界からやってきた決闘者さん、と言い残して通話が終了する。

 

 一体何だったんだ。怪訝な表情をしていたが、すぐに今まで抑えていた感情が彼の心に押し寄せてくる。

 

 後悔、そして自己嫌悪。調の言葉が思いだされる。傷ついたことも無い偽善者。本当の偽善者は果たしてどちらなのだろうか? 幼少の頃より傷つけることしか知らず、それ以外も全て決闘と言う戦いを用いて勝利をもぎ取り続けてきた、力ずくで奪い、傷つけることしかしてこなかった男と、傷つきながらも前を向いて真っ直ぐ立ち向かう少女たち。

 

 平然と嘘を吐き、良かれと思って自分のためにそんな少女たちを利用する。偽物も甚だしい。本当に――とそこまで考えたところで突然建物全体を揺らす振動、同時に鳴り響く警報。どうやら覚醒したばかりのネフィリムが暴れ出したらしい。

 

 まったく、感傷にも浸らせてくれねえか! コートを脱ぎ、黒い布を巻く。武装集団フィーネに属する、ユーとして部屋を出ていく遊吾。

 

 

 だが、この時の彼は知らなかった。この電話一本で二課全体の雰囲気、メンタルが変化し、奏者たちが強敵どころか絶大なる壁として立ちはだかることになろうとは…。

 

 

 

※※※※※※※

 

 

 

 朝日が昇る。逆境の中海上に浮かぶ槍と、その上に立つ女性――マリア。

 

 

「武装集団フィーネ、だが、その名は個人の名でもある――そう、彼女は新生した新たなるフィーネ!!」

 

 武装集団フィーネの拠点と思わしき日本の沿岸部にある破棄された都市の廃病院を訪れた二課の装者三人を待ち構えていた、ソロモンの杖と、科学者ウェル博士の罠。それを掻い潜り何とか彼らの本命と思わしき物体、ネフィリムを確保しようとした瞬間に現れた彼女の姿に、ウェル博士を確保したクリスと響、そして海上から二課の仮説本部である潜水艦の上に着地した翼の目がマリアに向けられる。

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴが転生したフィーネ。その事実は、彼女のことを良く知る三人――特にクリスに対して途轍もない衝撃を与えた、はずだった。

 

 

「フィーネさん、ですか」

「そう!! 彼女がフィー」

「そんなことはどうでも良いです」

 

 

 クリスちゃん、ウェル博士をお願いね、そう言い残した響が会場に飛び出す。おい馬鹿何やってんだ!? クリスが思わず止めようとするが、瞬間に訪れた光景に思わず言葉を失った。

 

――Balwisyall Nescell gungnir tron

 

 シンフォギアを纏いながらの聖詠。そして、その詩が終わると同時に――彼女の身体を輪が取り囲む。

 

 緑色の輪は、彼女のガングニールを再度フォニックゲインへ変換し、新たな装甲としてその姿を変形させる。

 

 関節部に新たに追加された橙色の装甲。耳当ては朱に染まり、彼女の装甲はより厚く、より堅牢に、彼女の想いを表すように進化した。

 

 腰部の噴射機構はより鋭利に、腰には華のような装甲が追加。その姿は、戦場にありながら可憐な舞踏会のドレスを思わせる、バトルドレス。

 

 

「これがッ! 私のシンクロッ!! ガングニール・ウォリアースタイルッッ!!」

 

 

 噴射機構と脚部のバンカーを用いて本部の上に着地した彼女は、翼にウェル博士の元に行ってほしいと頭を下げた。

 

 そんな彼女の想い、ウォリアーと言う自分たちも見たことが無い新たなガングニールの姿を見せた彼女の意志を察した翼は、無理だけはするな、と彼女に忠告をすると、ウェルの元へ向かって飛翔した。

 

 海上のマリアに向き直る響。その瞳を見て、マリアは思わず背筋を凍らせた。

 

 

「御託はいりません。いえ、細かいことなんてどうでもいい――」

 

 

 私と、私とデュエルしろぉおおおおおおッッッ!!

 

 シンフォギアによって増幅されたフォニックゲインが、灼熱となって空を舐める。何という覇気、何という覚悟。太陽を幻視させる圧倒的なオーラに、思わず気圧されそうになるマリア。

 

 

『いかん、そいつには手を出すな!!』

『…分かってるわ、遊吾。でも――』

 

 

 彼の言わんことは分かる。今の彼女には、弾丸の如き速さも、刃の如き鋭さも、鉄の意志も鋼の強さも、全て備わっている。見ているだけで分かる。今の彼女は強い。迸るほどに、強い。そんな彼女を前に、時限式である自分が果たして勝てるのか。無理だ。だが、ここまで本気で向かれては、否、ここまで真正面から真っ直ぐに言われれば、応えるしかないじゃないか。

 

 

『ここで退くなんて一決闘者の端くれとしてのプライドが許さないし、何よりも、私の想いが負けている、なんて思いたくないッ!!』

『マリア!?』

 

「良いだろう、その決闘、受けてあげるッ!! どちらの想いが上か――勝負よッ!!」

 

 

 海上から跳躍し、本部の上に立つマリア。

 

 二人が向き合い、構える。互いに互いの眼を見つめ、そこにある想いを計る。そして――

 

 

「はぁあああッッ!!」

「てぇえええええッ!!」

 

 

 海面を魚が跳ねる、ぴちゃんっ、という音と共に槍と拳がぶつかり合った。

 

 

 

「悪いけど、私の想いの方がッ、重いわよッ!!」

「馬鹿言わないでくださいッ!! 私の方が重いですッ!!」

「重い女なんて嫌われるわよッ!!」

「それはこっちの台詞ッ!!」

『お前らは何の戦いをしているんだ!?』

 

 

「……がう」

「んん? どうしたんだい、雪音クリス」

「違う」

「だろうねぇ、だって君はフィーネの――」

「あんなカリスマ溢れる奴がフィーネなわけないだろうが!! 本当のフィーネは、一人の男に買ってもらった物を五分おきに見てはニヤニヤ笑って、果ては、げんじゅうろうくんハート、なんて勢いでしちゃったことがあるくらい残念美女なんだぞ!!」

『…え?』

『何を言ってるんだクリス君!?』

「こら雪音!! お前だって兎を見て時々ニヤニヤしてるじゃないかッ!!」

「ばっ、ちげぇし! そんなことしてねえし!!」

『えぇ……』

 

 

「ああああああ!?」

「ちょっ、どうしたんですか調ッ!?」

「私から、私から黒歴史が逆流するッ!! ほわぁああああああああ!?」

「しらべぇえええええええええ!?」

「…なぁにこれぇ」




次回予告

最強のガングニール使い決定戦ッ!!(半ギレ)
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