遊戯絶唱シンフォギアG~歌の苦手な決闘者系オリ主黙示録~ 作:特撮仮面
「はぁあああッ!!」
「でぇえええええいッ!!」
海上で二人の戦乙女がぶつかり合う。一人は漆黒の衣を纏い、もう一人は山吹色の気を纏う。黒と山吹色が交差し、火花を散らす。
目にも止まらぬ高速戦闘。撃唱、爆音と共に山吹色がベイパーコーンめいた白い雲を突き抜けてその拳を撃ち放つ。相対する烈唱。伸縮自在の外套を翻し、拳を下から掬い上げるようにして攻撃を逸らす――だが、それこそが拳の主、立花響の狙い。
持ち上げられた拳はそのままに、脚部アンカーが空を打つ。爆音と共に文字通り空間を蹴った響の身体が高速回転。そこに腰、そして肩甲骨部に新たに備わった噴射機構が連動して最大噴射。響の身体は上に逸れるのではなく、逸らされた力をそのままにきりもみ回転することで高度を下げ、更に前進する。
外套で彼女の攻撃を打ち払ったマリア。だが、その代償は大きい。
響の規格外の攻撃力は、外套越しでありながらも彼女の身体に多大な衝撃を与えていた。それによって彼女の身体は硬直。無防備となった彼女の右頬に、響のつま先が突き刺さる。
「これでェッ!!」
悲鳴すら上げることが許されない一撃。アームドギアを持たない響の攻撃は一見派手さも無く、攻撃力が低く見られがちであるが、それは間違いだ。彼女のガングニールの特性である、誰かと手を繋ぐという性質は、自分自身にも作用する。融合症例であるせいか、常人よりも強いフォニックゲインの放出を行うことが出来る彼女の拳は、その性質も相まって通常の一撃であっても一般的な装者のアームドギアと同等かそれ以上の力を発揮。腕部のパイルバンカーと言ったフォニックゲインの収束機構を使用した場合の彼女の一撃は、常に絶唱級の一撃となる。
そして、現在の彼女が纏っているシンフォギア。ガングニール・ウォリアー。それは、装者の身の安全を考えぬ最大出力ならばエクスドライブと名付けられたシンフォギアの最終形態、それに匹敵すると予測されるほどの、通常のシンフォギアの一歩先を行く形態。そんな形態の、しかも遠心力と元々拳で打ち込もうとしていた力のこもった蹴りだ。人間の脚力は腕力の約三倍と言われているが、その通りならばマリアの右頬に叩き込まれた空中回転蹴りの威力は、並の奏者の攻撃の倍の威力×超高速回転による加速度+遠心力×響の拳の三倍の威力。一般人が受ければそれこそ頭どころか上半身が無理矢理引きちぎられてしまうのではないかとすら想像してしまう、壮絶な一撃。
だがそれをマリアは――
「あ、ぐ……はぁ、はぁ……はぁ」
耐え切った。バラバラになりそうな衝撃、そして天地すらも分からなくなってしまいそうな激痛の中でアームドギアを潜水艦の装甲に無理矢理突き刺し、腰部噴射機構を最大で出力し無理矢理停止させた。
思わず膝を着きそうになりながらも、笑う脚を気丈に奮い立たせてそれに耐えるマリア。現在ある最新鋭の技術と一部の異端技術、そして異世界の技術によって作り上げられた二課の仮設本部である潜水艦、その耐圧殻に深々と刻まれた引き裂かれた跡と、そのすぐ傍に出来た、鉄の焼ける匂いのする二つの黒い線。
それらが物語る圧倒的な破壊力。グラグラと揺れる視界、だがマリアは一歩足を踏み出すと再度手のアームドギアを構えた。
戦況は絶望的。何をしてくれたのかは分からないが、自分たちがフロンティアの視察に出ている間にアジトが二課にバレ、そしてウェル博士が捕まった。適合率が低い自分がシンフォギアを纏うためには、リンカーと呼ばれるいかにも身体に悪そうな薬剤を投与し、尚且つ身に纏うには時間制限がかかる。だが、今回の場合制限時間内でありながらも、今まででは考えられないシンフォギアの過剰稼働によって、制限時間内でありながらもシンフォギアからのバックファイア、適合率が低いことによる装者への反動が彼女の身体を痛めつける。
強い、なんてものではない。最早巨大な壁だ。ライブの時には全く感じられなかった戦士としての矜持、そして何よりもガングニールを身に纏うに相応しい、太陽のように熱く燃える意志が彼女の瞳には宿っていた。
元より戦力の差は絶望的であったが、これはそんな段階の話ではない。蹂躙、圧倒的戦闘能力の差による蹂躙だ。だが、ライブ事件より一週間前後。たったそれだけの期間で彼女のような若い少女が戦場における覚悟を決め直し、こうして自分たちも知らない新たな姿を発現させるなんて普通ではありえない。
しかし、マリアには一つ心当たりがあった。なぜこのように迅速に彼女が意志を貫くことができるようになったか。
自分たちがフロンティアに旅立つ前、マリアは遊吾の部屋へと向かっていた。そこで聞こえてきたのは、とても楽しそうな彼の声。
通話の主は分かっている。特異災害対策機動部二課の装者だろう。恐らくは装者三人。
遊吾が精神的に無理をしていたのは、彼女もよく知っていた。彼女たちの戦闘に関する情報を開示し、響たちの心を折るような言葉を考えていた彼。ナスターシャやウェルは分かっていなかったようだが、作戦立案の時点で彼はとても無理をしていたのだ。
しかし、それを彼は誰にも話さなかった。マリアは普段と様子が違うことに気付いていたので、何とか元気になってもらいたいと彼と一緒に寝たり、日本のことを調べた際に出てきた、男が元気になる方法らしい背中を流すといったこともしていたが、やはり根本的な解決にはなっていなかった。
だが、あのときの電話の彼の楽しそうな声と、その後の落ち着いた雰囲気は明らかに違っていた。
別にそれが悪いとは言わない。何だかんだで格好つけたがる彼のことだから、自分に責任を感じさせたくないとか色々考えていたのだろう。だが、今の状態では自分は彼に頼っているだけだ。そこには、対等な関係なんてない。自分は彼に支えてもらっているだけで、彼を支えられない。
それが、堪らなく悔しかった。切歌と調も薄々勘づいていたらしく、三人で頭を悩ませたこともあった。でもそんな自分達よりも彼女たちの方が彼の支えとなっている。嗚呼、それは何と――
「悔しいじゃないッ」
「…マリアさん」
響が構える。彼女がどんな思いを持って此処に立っているかは分からない。だが、彼女とのぶつかり合いで感じた、この熱く滾るフィール。それは悪人が身に纏うような、放つような邪悪なフィールではない。誰かを守りたいと思う、誰かの支えになりたいという、優しいフィール。それはどこか自分や、彼とぶつかり合ったときに感じたあのフィールと同じ感覚。
彼女がそこまで悪い人間ではない。それが分かっただけでももうけものだ。心苦しいが、ここで彼女を打ち倒す。そうして彼女と話す――そこまで考えたところで、響は気づく。
マリアは笑っていたのだ。口元から血を流しながら。
「勝った、そう思ったわね?」
「え?」
彼女の言葉に首を傾げる。確かに、今もう彼女は戦闘が出来る状態ではないと考えた。
「決闘は、ライフが零になるまで何が起こるか分からない。だから、最後の最後、ドローする瞬間まで、希望を、捨てない。諦めないッ!!」
「!? 何か来る!!」
勝利するという執念が、奇跡すらも必然に変えるッ!!
雄叫びと同時に彼女の身体からフォニックゲインが放出する。荒れ狂う暴風のようなそれに思わず顔を覆う響。漆黒の風、それは装甲を、シンフォギアを全て脱ぎ捨てた彼女を中心に渦を巻きはじめ――その渦が、銀河のように光り輝きだす。
――Granzizel bilfen gungnir zizzl
聖詠。だが、これは彼女が歌っているのでない。彼女の周囲の渦が、シンフォギアが、主の想いに応え、高らかに、誇り高く謳っているのだ。
――ガングニール自身で、オーバーレイネットワークを再構築ッ!! エクシーズを超え、私はその先へ行くッ!! ランクアップ・カオスエクシーズ・チェンジッッ!!
マリアが吠える。同時に、彼女を中心として渦巻いていた銀河が爆発。その内部から新たな姿へとランクアップした彼女が現れる。
漆黒の外套は翼の如き意匠へと変化。右腕には軽い装甲しか無く、左腕にはまるで牙のように鋭い手甲が装備される。右の胸には装甲があるが、逆に左の胸には簡素な装甲しかない。腰部の装甲は刃のように鋭く、華のように煌びやかに。脚部装甲は鋭いブーツのような形状に変形。
左右非対称、本来ならば歪んでいるようなデザインでありながら、それをマリアが身に纏うことでその非対称がアクセントとなり彼女の雰囲気を増す。黒と朱、そこに交じる白。恐ろしくありながらも美しい。
立花響を太陽に向かって真っ直ぐ伸びる花だとすれば、マリアは宛ら月明かりの中ひっそりと、しかし確かに存在する華。
その誇り高き姿は、F.I.Sの象徴。彼女の新たな答え。それは彼女の新たな希望。
ホープ・ザ・ガングニール。ガングニールの新たな可能性。シンフォギアの新たな境地。
「エクシーズッ!?」
「そう、これが――」
惑星のように彼女の周りを廻り光り輝く二つの光。手をグー、パーと握り離し、感触を確かめながら彼女が真っ直ぐに響を見据える。
真っ直ぐ立つその姿に妹を幻視する。絶唱を謳い、建物の崩落に巻き込まれた妹。死んでいるのか、いないのか。生死不明、行方不明の妹であるが、今思うとこの目の前の立花響という少女とよく似ていたように思う。
正義感が強く、心優しい。そのくせ好奇心旺盛で、太陽のような笑顔を持った少女。また、彼女のシンフォギアと同じく妹――セレナのシンフォギアは誰かと繋がる、また誰かを守るという性質を持っており、その性質故に戦闘能力を一切持たず、武器であるシンフォギアでありながら、傷つけるという機能を一切排した特殊なシンフォギアであった。
容姿は勿論似ているはずが無い。だが、こちらの姿を見て凄くワクワクと瞳を輝かせる響は、昔マリアがセレナに誕生日プレゼントを渡したときの、あの箱の中から何が出てくるのか凄い楽しみにしている表情によく似ている。そんなことを考えて思わずふふふ、と笑みを溢す。
どうやら、大分相手に毒されてしまっているらしい。でも、こういうのもたまには悪くないかもしれない。フィーネ、歌姫、全部投げ捨てて、一人のマリア・カデンツァヴナ・イヴとして目の前の少女に向き合う。
「さて、さっきは散々やってくれたわね。顔面に蹴り入れてくるなんて彼以来よ、まったく」
「決闘にしても、戦闘にしても、彼は容赦無いですもん」
私なんてクレーター作る勢いでぶん殴られたんですよ。二人して笑う。
彼。それが誰を指しているなんて言わなくても分かる。そして二人は――
「Myターン! 今度はこっちからやらせてもらうわよッ!!」
「はい! 私は姑息な罠なんてまどろっこしいことなんてしませんから――真正面から掛かって来いッ!!」
戦場に似つかない笑顔で再度ぶつかり合うのであった。
※※※※※※
海上、仮設本部上でのマリアと響の戦闘が新たなステージに進んでいる頃、地上でウェル博士を確保していた翼とクリスも戦闘に入っていた。
翼に相対するのは、切歌と調。クリスと相対するのは、ユーこと遊吾・アトラス。
対戦者のみを見るならばライブ会場事件と同じ――はずだったが、戦闘は全くの別ものであった。
「確か、切歌、調、と言ったか」
「…だとしたらどうなんデスか」
「いや、確認したかっただけだ」
翼は大きく息を吸い、手に持ったアームドギアを横に、相手を拝むように手を開き、縦に構えて深く御辞儀する。
「どうも、切歌さん、調さん。風鳴翼です」
「ふぇ? ど、どーもデス」
「どうも」
切歌と調が頭を下げる。それを確認した翼は、フッと一瞬だけ笑みを浮かべると、大きく腰を落とした。
それを見た調と切歌が表情を変える。背筋を通る冷や汗。首筋に感じる殺気。ライブ会場とは全く違う彼女の雰囲気に、思わず気圧されそうになる二人。
彼女がお辞儀を止めた――瞬間に体勢を低く、脚部スラスターを点火。一気に加速する。
突然の彼女の行動に驚きながらも、二人が同時に迎撃のために動き出す。だが、そんなものは翼の眼中になかった。
彼女の中にあるのは、過去の記憶。遊吾・アトラスとシンクロしたあの一瞬。あの、永遠とも言える刹那。彼女の想いは正しくシンフォギアに反映される。天羽々斬。天に羽ばたき、切り裂く翼。彼女の剣は只の剣ではない。歌女としての彼女と防人としての彼女の境界であり、人々を守る盾であり、敵を切り裂く剣。そして何よりも、その剣は歌女として、防人として人々を守り、未来に向かって羽ばたくための翼。
瞬間、彼女の視界がクリアとなる。視界が拡がる。三百六十度全てが何処までも続く地平線。感じる鼓動、感じる想い。
「消えたッ!?」
「何処にッ!?」
二人の目の前で、まるでそこに元々居なかったように姿を消した翼。攻撃対象を失った鋸と鎌があらぬ方向へと飛んでいく。
一体何処へ。必死に辺りを見回す二人の頬を、微風が撫でる――瞬間、二人の身体に衝撃。
「あぐぁ!?」
「うぐっ!?」
吹き飛ばされるが何とか体勢を立て直して地面に着地する二人。
二人の目の前にいるのは――風鳴翼。だが、その身に纏うシンフォギアの形状は、大きく変形していた。
膝を着き、刃を右に振り抜いた残身。脚部スラスターは肥大化し、宛ら翼のような力強い刃となる。関節各所に取り付けられた装甲、だがその面積は狭く、薄く、鋭い。
ゆっくりと立ち上がる翼。全容が見える。
翼のような意匠の入った耳当て。アームドギアはより鋭く、太くなり、あらゆる物体を一太刀で切り裂く業物のような煌めきを放つ。
手の甲に向かって少しだけ太くなる手甲。全体的に装甲が増えているような印象を受けるが、それは彼女の今までのシンフォギアと比べて鈍重になっているなんて言わせない雰囲気を放っていた。
今までの翼のシンフォギアが鋭い刃であるとするならば、今の翼は宛ら力強くも美しい名刀、天へと羽ばたく美しいくも力強い鶴の翼といったところか。
天羽々斬・絶。アクセルシンクロ、進化の可能性たるシンクロを取り込んだ彼女の歌が、力強く響き渡る。
「いざ――推して参るッ!!」
宣言と共に加速。二人の間を飛翔する。
二対一。数で劣り、連携で劣るのならば、こちらはそれとは別の要素で上を行く。つまりは速さ。速さはあらゆる事象を超越する。
当たらない、当たらせない。連携もさせる気はない。幾百と見間違えてしまうほどの怒濤の連続攻撃、それは宛ら鬼神の連撃。
分身しているようにすら感じる連撃を前に防戦一方の切歌。だが、そこで彼女は気がついた。
分身しているように感じるのではない
「くっ、一体何をしたッ!?」
「分身――流石は防人と言ったところね」
実際に、翼が二人に増えているのだ。
調が冷静に解析しながら対処する。分身の術。アニメや漫画でもよく出てくるこの術であるが、それを行うのは並大抵のことではない。
何故なら、虚空に己と同じ存在を作り出すのだ。しかもそれを実体があるものとして本体と寸分狂いもなく動かすなんて凄まじいなどという段階の話ではない。
恐らくは、彼女が本来持ち得ていた技術を、フォニックゲインを利用してより精密に反映させているのだろう。だが、分身させていると言うことはつまり、分身体の制御にリソースを割り振っていると言うこと。一つの脳で出来ることなんて高が知れている。
「切ちゃん、挟撃でまとめて仕留めるッ」
「分かりました――身体がッ!? どうなってるデスか!?」
加速力などはこちらが不利だが、まだ総合的な機動力ならば調の方が上。切歌をフォローしつつ戦況を変えようとするが、自分の弱点を翼は知っていた。
切歌が突然のことに驚き、焦る。シンフォギアの不調ではない。突然、彼女の身体が何かに捕まったように動かなくなる。
調は見た。朝日によって生まれた切歌の影、そこに突き刺さる棒手裏剣、俗にクナイと呼ばれる白い刃。
驚愕に思わず身体が硬直する。それを見逃す翼ではない。
二人の翼が同時に加速する。壮絶に高まる歌。羽ばたきにより起こる一陣の風が――
疾風刃雷!
二人の少女を一刀の元に斬り伏せた。
「エクシーズ…。マリアめやってくれたな」
この時点で二課側の戦力が増強されたことは予定外。しかもその強化の方向がえげつないと来たものだ。これは不味いと思っていた矢先にマリアのランクアップ。
怒濤の展開に驚きを隠せない彼は、戦闘中でありながらも潜水艦の方を見る。
「おいおい、他の女を見るのは頂けねえ、なッ!」
「華に惹かれてしまうのは男の性ですよ」
打ち出される矢を避ける。慣れた仕事だ。とは言え、連射速度が上がっているせいで中々射程に入らせてもらえない。
避けて策を考える、ついでに響のシンクロとマリアのエクシーズに関して考える。
響のシンクロ自体は驚きはない。あの時フィーネがしていたことと同じだし、何よりもシンフォギア自体が元々フォニックゲインの波長をシンクロさせることで発現するのだ。それをより強力にしたのが響のシンクロと見て間違いはないだろう。
問題はマリアのエクシーズ。
エクシーズ自体は、彼自身も何度かエクシーズモンスターとして活動していたし、フィーネこと櫻井了子の協力によってシンフォギアでも発生することが確認されていた。
フォニックゲインの波長をシンクロさせることでその力を解放するシンフォギア。
だが、これにはレベル――つまりフォニックゲインの波長を合わせる、または調整できる才能が必要となる。この能力の有無が、装者と非装者、または正規装者と時限式装者の差だ。
しかし、エクシーズはシンクロとは違う。
シンクロのようにエクシーズもレベルを使用するが、シンクロのように波長を合わせる必要はないのだ。ただ、フォニックゲインの波長を重ね合わせ、そこで発生する奏者とシンフォギアの波長のズレ、カオスと命名された未知のエネルギーを用いてシンフォギアを起動する。
しかし、これも中々できることではない。何故なら、前提としてレベルを合わせなければシンフォギアは起動しないのだから。
このエクシーズ。理論こそ了子が確立していたのだが、二課の装者は現在まで誰も使用できていなかった。
特例である響こそエクシーズの起動寸前までたどり着けていたものの、それ以外の二人は毛頭行えなかった。
当然だ。正規装者は意識、無意識問わずシンフォギアとシンクロできる。つまり、シンクロに特化しているのだから。
そうなれば、エクシーズが使用できるのは必然的に時限式装者となる訳だが――
――まさか、ランクアップまでするとか予想外にも程があるぞ…。
理屈を越えてきたマリア、響、翼。
それを見ていると思わずワクワクしてしまう。新たな召喚法、新たなモンスター、戦術。それらを前にして思わず疼いてしまうのは、決闘者の性である。
「余所見は、いけねえな!」
「ま、余裕だからなッ!!」
クリスの絶え間ない連射。円を描くように動いていた遊吾の動きが劇的に変化する。
敵の周囲をグルグルと回ることによって戦闘を行う戦闘機動、サテライト。緩く緩急をつけながら同じ方向へ動き続けることで被弾を少なし、さらに相手の動きを制限する。そして、相手が慣れてきたところで――一気に動きを変化させる。
次も横に移動すると考えてしまえば、無意識的に相手の動きを先読みしてアームドギアを動かしてしまうのは当然のこと。そのタイミングで動きを線から点へ、つまり、横移動から一気に縦、相手の懐に飛び込む機動へと変更してしまえば、相手はこちらの動きに対処できない。
「距離がッ!?」
「この距離ならばッ!!」
彼の加速。漆黒の風となってクリスに迫る――が、それを牽制、何とか彼をギリギリまで引き寄せないが、すでに流れは彼のもの。このまま拳を叩き込まれるのも時間の問題――と思われたその瞬間、
「獲ったァ!」
「持ってけ――バンカァアアア!!」
背後に飛び込んでの一撃。その瞬間に背筋を駆け抜けた稲妻に彼がその場から飛び退いた。
爆音。着地してそちらを向けば、クリスの右腕には弩は無く、前腕部には大きな白い円筒形の物体。
弾けとんだコンクリートに深々と突き刺さっているのは――赤く、とてつもなく太く大きい釘。
それを見て彼は思わず顔をひきつらせた。戦術マニュアルを見ろとは言ったが、誰が男のロマンを搭載しろと言った。
「り、リボルビングバンカー……」
「ああ。あたしはあの馬鹿みたいにシンクロができる訳じゃねえし、先輩みたいに器用な真似ができるわけじゃねえ」
けれど、と彼女は右腕を腰だめに構える。
「火力ならば誰にも負けねぇッ!」
「……あのー、俺生身の人間なんですけどー」
思わず素で返す遊吾。あんなの食らったらいくら決闘者でも死んでしまう。
そんな彼の言葉に彼女はそれはもう壮絶なまでにキレイな笑顔で言った。
「当たらなきゃいいんだよ」
「うわぁ…」
その表情に、思わず顔真っ赤にしてモジモジするMっ気のあるクリスをイジメるのも良いけど、案外クリスに責められるのも悪くないかもしれないと現実逃避しながら考える。
と、そこで思った。この子達今、アンチリンカーの効果で適合係数下がってるから出力低下とバックファイアで大変なことになってるはずだよね、と。
「反動なんて、気合いで何とかなるんだよ」
「うわぁ、何か二課の脳筋化が止まらねぇ…」
「誰かさんが励ましてくれるから、嬉しくなってなぁッ!!」
ニヤリと笑うクリス。同時にイチイバルの腰部装甲が展開――そこにあるのはミサイル、ではなく大きな箱。
ヤバイッ!? 彼がそう思うよりも先に、箱の蓋が開く。
その内部に装填されているのは、冷たく光る弾、弾、弾、弾。
「もってけ――クレイモアァ!!」
「角ついたら古鉄だなくそがァ!?」
彼が立っていたコンクリート道路が、鋼鉄の雨によって消滅した。
二課の強化が止まらない。これ、GXのこと考えてなさすぎるな。どうすんのよこれ。
次回予告
「歌っていただきましょう!」
「待ってください! クリスちゃんに挑戦するのは――この人です!!」
「……エ? …なぜだッ!? なぜ俺を推薦したびっきぃいいいい!?」
次回、歌の苦手な決闘者!
ふと思い付いた話。無駄にデレてるキャロルが遊吾をお持ち帰りした状態。
「なぜオレと町に出ない。ファラたちとは出ているのに」
「…この世にはロリコンと言う言葉があってだなぁ」
「…なるほど」
琴ドーン
「…ふむ、これならば不足あるまい」
「なぜ胸を揉んだッ! 言えェ!?」
「これなら満足させられるだろう。さあ、街にある宿にでも行こうか」
「ナニカがおかしいぞキャロリン!? 君、そんなキャラじゃないよねえ!?」
「五月蝿いぞ! 貴様があの女どもの元へ戻れないようにするためだ!!」
「誰か助けてぇええ!?」